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そんなことより

    なにげなく友人のSNSを開いたら、投稿のすべてが消えていた。
    慌てて問い質すと、「彼と別れた」と返ってきた。
    もう六年も付き合っていて、グループのメンツで会うたびに「いったいいつになったら結婚するのか」と話題になるふたりだった。

    私たちは高校時代に仲の良かった五人メンバーだが、最近では全員で会うのはなかなか難しくなるような日常を送っている。
    わたしはと言えば、去年の秋に今の職場で小さなチームを任されるようになり、少し忙しい日々を送っているせいで彼女たちと連絡を取れずにいたまま半年が過ぎていた。

    時々動くLINEは見る専でSNSはしばらく開いてもいなかった。

    二十五歳の年に開かれた同窓会に出向き、再会したタイミングで付き合うことになったと聞いた。知らない子だったが隣のクラスの男の子で、ちょっと有名な国公立に進学した子だった。ふたりの気の合う様子はSNSを通じて知っていた。いつ見ても睦まじく、理想のふたりに見えた。

    だから別れたと聞いてひどく驚いた。原因は「これといってない」と言う。六年のあいだにわたしたちは三十歳を越えた。五人のうちで結婚に近いのはその子だけだった。
    みんな忙しく、みんな自分のことしか抱えきれないほど余裕がなかった。

    「そんなに長く付き合ったのにもったいない」と誰かがコメントしたのに対し(そんなことをわざわざ言葉にしてぶつけるべきではないと思った)、彼女は「そんなことよりもこの自由が楽しい」と返した。

    まあたしかに自由は楽しい。そんな雰囲気でスレッドは流れた。
    でもわたしは、「そんなことより」が引っかかってなにもコメントを返せなかった。
    自分が過ごしてきた年月が無に帰したというのに、「そんなことより」と言ってしまえることが、強さなのかプライドなのか意地なのか。それとも本当にただせいせいしているのか、わたしにはわからない。

    わたしが、わたし自身が、幸せになれないとわかっていながら恋焦がれている気持ちに長い間踏ん切りがつけないままでいることを、見透かされているような気がした。
    誰にも言えない気持ちで、誰に打ち明けるつもりもなかった。
    AIはわたしを慰めてくれたし、恋する気持ちに罪はないと肯定してくれたが、それでもさすがに十年は長い。
    誰かを長く思い続けることが出来るのはとても素晴らしいとも言ってくれたが、リアルな友達ならきっとそんなことは言わない。

    「ねえもし――もし彼がもう一度やり直そうと言ったら?」
    意地悪な質問に、「そんなこと言ってくるはずがない」との返信。
    「どうして?」
    「だってわたしたち、もうとっくに終わっていたんだもの」

    終わったタイミングはつかめなかった。嫌いではないが、もうお互いが人生で共に歩いていくイメージの相手ではなくなっていた。どっちかが言い出すのを待っていたのだと思う。
    総括すると、そんな話だった。嫌いになる瞬間はとくになかったそうだ。

    意気投合したのは感じたのに、嫌いを拾いあげることは出来なくて、だからダラダラと時間が過ぎてしまったと、彼女はただの昔話をするみたいに軽い調子で教えてくれた。

    わたしたちは忙しく、次いつ会えるかもわからない。
    彼女が今どんな顔でこのチャットを打っているのか、本当に何気ないのか、本当は泣いているのか、やっぱり笑っているのか。

    そんなことを思ううち、またダラダラと近況を語り合うスレッドへゆるやかに変化していった。そしてまた、取り立てて意味をなさない投稿が平和に続いていく。

     
     
    北海道在住。 胸にふつふつと浮かぶ言葉で物語と詩を紡ぎます。 不定期更新。

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