
37歳上咽頭癌ステージ4b 5年生存率30%の奇跡
「余命6ヶ月です」
その言葉は、まるでどこか遠くの誰かの話のように、僕の耳を通り過ぎていった。
37歳。自動車整備工場の工場長として、朝から晩までエンジンオイルと鉄粉にまみれ、家族のためにただひたすらにアクセルを踏み続けてきた人生。そんな僕の身体に、突然「終わり」のカウントダウンが突きつけられた。
上咽頭癌、ステージ4b。
首に転移した6つの腫瘍は、僕の命を奪う準備を整え、静かに根を張っていた。
かつて父を膵臓癌で亡くし、半年という短い月日で家族の日常が崩れ去るのを目の当たりにしたばかりだ。次は、自分自身がその穴に落ちる番だというのか。
医師が口にした「5年生存率30%」という数字。
それは僕にとって、死刑宣告にも等しい冷徹な境界線だった。
けれど、診察室の窓から差し込む午後の陽光が、妙に眩しく感じられた。
待合室に座る人々の背中にも、それぞれに抱えた「見えない腫瘍」があるのかもしれない。僕たちはみんな、死という崖っぷちに立ちながら、それでも今日という日を精一杯呼吸している。
僕は診察室を出た。
僕の人生を狂わせたはずの宣告の後だというのに、外の空気は驚くほど優しく、そして冷たかった。
震える手で車の鍵を握りしめる。このままハンドルを切れば、いつもの家へ帰れる。結花と咲良が玄関先で「パパ!」と笑って駆け寄ってくる、あの場所へ。
僕は死ねない。
たとえ余命半年と言われようと、この身体がどれほど細胞レベルで悲鳴を上げようと、俺は決して死というゴールテープを勝手に切るつもりはない。
これは、30%の確率に賭け、死の淵から這い上がった男の記録。
そして、闇の中で必死に光を探し続けた、ある家族の15年の奇跡の物語です。