
世界がきみを嫌う日に、わたしは隣にいる【エンタメ小説】
この記事をタップしてくださった
あなたに感謝いたします。
【創作大賞2026】とい企画を
見つけましたので、
恐れながら参加させて頂きました。
テーマは「利他」と「友情」です。
AIを編集者に迎えて、
書いてみました。
よろしければ、
お読みください。
【あらすじ】
高校二年生の伊藤あかりは、
弾き語りの人気配信者。
しかし数字に囲まれながらも、
どこか満たされない孤独を抱えていた。
そんな彼女の支えは、
誰にでも優しく寄り添う三浦結衣だった。
ある日、
文化祭準備中の何気ない冗談が切り抜かれ、
結衣はネット上で激しい誹謗中傷を受ける。
学校に来られなくなった結衣を見ながら、
あかりは沈黙するか、
結衣を守るかの選択を迫られる。
そして、あかりは
大勢の視聴者の前で結衣を擁護した結果、
自身も炎上し、フォロワーや仕事を失っていく。
傷つきボロボロになった二人が
最後に辿り着いた答えとは…
第一章 数字の向こう側
雨の匂いがした。
六月の放課後。
高校二年生の伊藤あかりは昇降口を出ると、
傘を開く前にスマートフォンを取り出した。
通知が三十九件。
DMが十二件。
フォロワーは二十八万四千人。
昨日投稿した動画にはすでに
二万件近い「いいね」が付いていた。
画面をスクロールしながら歩く。
褒め言葉。
応援のコメント。
笑顔の絵文字。
たくさんの好意。
それなのに、
胸の奥は少しも満たされなかった。
「また見てる」
後ろから声がした。
振り向くと三浦結衣が立っていた。
肩まで伸びた黒髪が少し雨に濡れている。
「依存症じゃない?」
「違うし」
「一日何時間見てるの?」
「知らない」
「依存症じゃん」
結衣は笑った。
あかりもつられて笑う。
結衣と話している時だけは、
自分が配信者であることを忘れられた。
二人は同じクラスだった。
派手でも地味でもない。
教室のどこにでもいるような女子高生。
それが三浦結衣だった。
けれど彼女には不思議な力があった。
結衣がいると空気が柔らかくなる。
誰かが一人でいると自然に隣へ行く。
誰かが落ち込んでいると
理由も聞かずに話しかける。
だからみんな結衣を嫌いになれない。
あかりもその一人だった。
「じゃあね」
駅前で別れる。
結衣は手を振った。
あかりも振り返す。
その姿が人混みに消えるまで見送った。
そしてスマホを見る。
通知がまた増えていた。
数字は増える。
毎日増える。
でもなぜか寂しさだけは減らなかった。
⸻
あかりが配信を始めたのは、
中学二年生の時だった。
拙い弾き語りで始めた。
顔も出さない。
本名も出さない。
ただ好きな曲を歌って弾いて投稿するだけ。
フォロワーは十人。
二十人。
百人。
少しずつ増えていった。
それだけで嬉しかった。
誰かが聴いてくれる。
それだけで幸せだった。
転機は一本の動画だった。
投稿した翌朝。
再生数が一万回を超えていた。
当時のあかりには信じられない数字だった。
学校でも授業中ずっと気になっていた。
帰宅して真っ先にコメント欄を開く。
そこで初めて知った。
人は簡単に他人を傷つけることができる。
「下手」
「気持ち悪い声」
「消えろ」
「耳障り」
知らない人たちから届く言葉。
最初は無視した。
でも毎日増えた。
朝起きると悪口。
学校から帰ると悪口。
寝る前にも悪口。
気づけばコメントを見るのが怖くなっていた。
ある夜、
あかりは布団の中で泣いた。
スマホの画面が滲んで見えた。
もうやめよう。
そう思った。
その時だった。
一件のコメントが目に入った。
『私はあなたの歌とギターが好きです』
たったそれだけ。
長文でもない。
特別な言葉でもない。
でも不思議だった。
何百件の悪意よりも、
その一言の方が胸に残った。
画面の向こうに味方がいる。
それだけで呼吸が楽になった。
あかりは配信を続けた。
そして今がある。
コツコツ続けた4年間。
ようやく二十八万人に到達した。
企業案件。
広告収入。
成功者と言われることもある。
けれど、あかりは時々考える。
あのコメントを書いた人は誰だったのだろう。
名前も顔も知らない。
でも人生を変えた人だった。
⸻
翌週。
文化祭準備が始まった。
教室はいつも以上に騒がしい。
段ボール。
絵の具。
木材。
クラス全員が慌ただしく動いている。
「男子!」
結衣が教室の反対側へ叫んだ。
「これ重いからお願い!」
「自分でやれ!」
男子たちが笑う。
「こういう力仕事は男子に任せとけばいいんだよ」
結衣が笑いながら言う。
教室が笑いに包まれる。
あかりも笑った。
ごく普通の光景だった。
誰も怒っていない。
誰も傷ついていない。
ただの冗談だった。
その時、
教室の隅でスマホを向けている生徒がいたことに、
誰も気づかなかった。
⸻
その夜。
あかりは配信を行なっていた
視聴者は三万人。
コメントが流れる。
笑い声が流れる。
みんな楽しそうだった。
でも配信が終わると静寂が戻る。
部屋には自分しかいない。
スマホの画面が暗くなる。
その瞬間。
世界とのつながりが切れた気がした。
人気者なのに孤独。
それが伊藤あかりの日常だった。
ベッドへ横になる。
天井を見上げる。
結衣なら今頃何をしているだろう。
そんなことを考える。
友達はたくさんいるはずなのに。
なぜか結衣のことだけが浮かんだ。
たぶん結衣は知らない。
あかりが何度も救われてきたことを。
何気ない言葉で。
何気ない笑顔で。
その存在だけで。
窓の外では雨が降り始めていた。
静かな音だった。
第二章 切り抜かれた十五秒
異変が起きたのは三日後だった。
昼休み。
あかりは教室で昼食を食べていた。
その時だった。
クラスの男子がスマホを見ながら言った。
「あれ、三浦じゃね?」
教室の空気が少し変わった。
数人が集まる。
結衣も近づいた。
「何?」
男子は困ったように画面を見せた。
「なんか動画回ってる」
結衣の表情が固まった。
そこには文化祭準備中の映像が映っていた。
十五秒。
たった十五秒だった。
『こういう力仕事は男子に任せとけばいいんだよ』
そこだけが切り取られていた。
タイトルには大きく書かれている。
『女子高生の本音がヤバすぎる』
再生数はすでに二十万回を超えていた。
コメント欄には大量の書き込み。
「性格悪そう」
「男を見下してる」
「こういう女いるよな」
「あまりにも傲慢」
結衣は画面を見つめていた。
だが次の瞬間、笑った。
「あー、これ?」
わざと明るい声だった。
「別に平気平気」
そう言って席へ戻る。
周囲も何となく話題を終わらせた。
だがあかりには分かった。
結衣の笑顔が少しだけ不自然だったことを。
⸻
放課後。
二人は駅まで一緒に歩いた。
「あれ、大丈夫?」
あかりが聞く。
結衣は肩をすくめた。
「そのうち飽きるでしょ」
「でも結構広まってる」
「ネットなんてそんなもんだよ」
そう言いながら笑う。
けれど歩く速度がいつもより速かった。
家に帰りたいのだろう。
スマホを見たくないのだろう。
あかりはそれ以上聞けなかった。
⸻
翌日。
動画の再生数は百二十万回になっていた。
切り抜きアカウントがさらに拡散している。
ニュース系まとめアカウントまで取り上げ始めた。
コメントは数万件。
悪意は勢いを増していた。
結衣のSNSも見つかっていた。
写真にまで書き込みが来る。
「謝罪しろ」
「最低」
「学校どこ?」
見知らぬ人間たちが
結衣の人生へ土足で入り込んでいた。
⸻
教室では何も変わらなかった。
いや。
正確には変わっていた。
みんな何も言わなくなったのだ。
気を遣っている。
触れないようにしている。
その優しさが逆に残酷だった。
結衣はいつも通り振る舞っていた。
友達と話す。
笑う。
文化祭準備も手伝う。
でもあかりは気づいていた。
笑う回数が減っている。
スマホを見る回数が増えている。
そして時々。
誰も見ていない時に表情が消える。
⸻
金曜日。
あかりは図書室へ向かった。
返却期限の本を返しに行くためだった。
静かな空間。
窓の外では雨が降っている。
その奥の席に結衣がいた。
一人だった。
机に肘をつき、スマホを見ている。
声をかけようとした。
だが足が止まった。
結衣が泣いていた。
静かだった。
声も出していない。
ただ涙だけが落ちていた。
あかりは初めて見た。
結衣が泣く姿を。
いつも誰かを励ましている人。
いつも笑っている人。
そんな彼女が一人で泣いていた。
あかりは何も言えなかった。
ただ遠くから見ていることしかできなかった。
⸻
その夜。
結衣からメッセージが届いた。
『ごめん』
突然だった。
『今日見られてたよね』
あかりはすぐ返信した。
『うん』
しばらく既読がつかない。
数分後。
またメッセージが来た。
『ちょっと疲れちゃった』
それだけだった。
あかりは画面を見つめる。
何を書けばいいのか分からない。
大丈夫?
頑張って?
そんな言葉は違う気がした。
結局。
『いつでも話聞くよ』
そう送った。
既読はついた。
返事は来なかった。
⸻
翌週の月曜日。
結衣は学校に来なかった。
風邪だと聞いた。
火曜日も来なかった。
水曜日も。
木曜日も。
教室の後ろの席が空いたままになる。
最初はみんな心配していた。
だが人は慣れる。
一週間もすると空席は風景になる。
それがあかりには恐ろしかった。
まるで結衣が最初から
存在しなかったみたいだった。
⸻
その日の夜。
あかりは配信行った。
三万人が集まる。
コメントが流れる。
笑いが起きる。
みんな楽しそうだった。
けれど配信終了間際。
あるコメントが流れた。
『三浦結衣についてどう思いますか?』
一瞬でコメント欄が反応した。
『それ気になる』
『あの炎上女?』
『友達なんでしょ?』
あかりの指が止まった。
心臓が嫌な音を立てる。
画面には何万人もの視線がある。
その向こうで。
学校に来られなくなった親友がいる。
答えるべきか。
黙るべきか。
その時はまだ分からなかった。
けれど確かなことが一つあった。
このままでは終わらない。
何かが起きようとしていた。
第三章 沈黙は正解か
結衣が学校を休み始めて二週間が過ぎた。
空席はもう教室の風景になっていた。
朝のホームルーム。
教師が出席を取る。
「三浦」
返事はない。
教師は何事もなかったように次の名前を呼ぶ。
クラスメイトたちも反応しない。
最初は心配していたはずだった。
「大丈夫かな」
「早く戻ってこないかな」
そんな声も聞こえた。
でも人は慣れる。
どんな異常も、時間が経てば日常になる。
それがあかりには苦しかった。
まるで結衣が
少しずつ世界から消えていくようだった。
⸻
昼休み。
あかりは屋上へ向かった。
人気のない場所で昼食を食べたかった。
扉を開ける。
六月の風が吹いた。
空は曇っている。
フェンスの近くに座り、パンを取り出した。
その時だった。
スマホが震えた。
配信者仲間の
橘玲奈からだった。
『結衣ちゃんの件、まだ気にしてる?』
あかりは少し考えて返信した。
『うん』
すぐに電話がかかってきた。
「あんたさ」
開口一番だった。
「関わらない方がいいよ」
やはりその言葉だった。
「でも……」
「でもじゃない」
玲奈の声は真剣だった。
「ネットってそういう場所だから」
「今あの子を庇ったら、次はあんたが燃える」
あかりは黙る。
玲奈は続けた。
「二十八万人だよ?」
「ここまで来るのに何年かかった?」
四年。
中学二年から積み上げてきた。
毎日投稿した。
眠い日も。
落ち込んだ日も。
テスト期間も。
休まなかった。
だから今がある。
「失うよ」
玲奈は静かに言った。
「全部じゃないけど、かなり失う」
電話が切れたあとも、その言葉は残った。
失う。
その二文字が重かった。
⸻
放課後。
あかりは一人で帰っていた。
雨が降っていた。
商店街を歩く。
すると、ふと足が止まった。
図書館だった。
結衣と初めて話した場所。
何となく中へ入る。
静かな空気。
本の匂い。
あかりはあの日を思い出していた。
一年生の冬。
一人で本を読んでいた時。
結衣が向かいの席へ座った。
「その本面白い?」
それが最初だった。
普通なら話しかけない。
あかりも話しかけられたくなかった。
でも結衣は自然だった。
人との距離を縮めるのが上手かった。
それから何度も話した。
本の話。
学校の話。
将来の話。
配信の話。
誰にも言えなかったことまで話した。
⸻
特に忘れられない日がある。
高校一年の夏。
あかりは大きな失敗をした。
ライブ配信中の発言が誤解され、
小さな炎上が起きた。
大炎上ではない。
でも当時のあかりには十分だった。
夜中までコメントを読み続けた。
眠れなかった。
学校へ行きたくなかった。
そんな朝だった。
結衣が突然言った。
「今日サボる?」
あかりは驚いた。
「え?」
「学校じゃなくて心を休ませる日」
結衣は笑った。
結局サボらなかった。
でも昼休みに二人で校庭の隅に座った。
その時のことだ。
結衣は言った。
「世界中が敵みたいに思える日ってあるよね」
あかりは黙っていた。
「でもさ」
結衣は空を見上げた。
「本当に世界中が敵ってことはないと思う」
風が吹いた。
「一人くらい味方がいるよ」
「気付いてないだけで」
あかりはその言葉を今でも覚えていた。
⸻
帰宅後。
机の上にスマホを置く。
通知が鳴る。
企業案件のメール。
イベントの相談。
コラボ依頼。
どれも大切なものだった。
努力して手に入れたものだった。
それを失う可能性がある。
怖くないはずがない。
あかりはベッドへ倒れ込んだ。
天井を見上げる。
結衣の言葉が浮かぶ。
一人くらい味方がいるよ。
今の結衣にはいるだろうか。
本当に。
一人でも。
⸻
その夜。
午前一時。
あかりは眠れずにいた。
スマホを開く。
検索欄へ結衣の名前を入力する。
無数の投稿が出てきた。
悪口。
皮肉。
嘲笑。
何百。
何千。
何万。
その中に本人がいるかのように。
人々は好き勝手に言葉を投げている。
ふと、一つの投稿が目に入った。
『学校来れなくなったらしいな』
『メンタル弱すぎ』
あかりの胸が痛んだ。
その人は知らない。
結衣がどんな人か。
誰かのために泣ける人だということを。
困っている人を放っておけない人だということを。
知らないまま石を投げている。
⸻
翌日。
結衣からメッセージが届いた。
久しぶりだった。
『ごめんね』
それだけだった。
あかりはすぐ返信する。
『何が?』
しばらくして返事が来た。
『迷惑かけて』
『みんなに』
『あかりにも』
胸が締め付けられた。
悪いことをしたわけじゃない。
それなのに結衣は謝っている。
傷つけられた側なのに。
謝っている。
あかりは画面を見つめた。
指が震える。
何か書きたい。
何か伝えたい。
でも言葉にならない。
結局。
『迷惑じゃないよ』
そう送った。
数秒後。
既読が付く。
返事は来なかった。
⸻
その夜。
ライブ配信の日だった。
開始ボタンを押せば三万人が集まる。
いつもと同じ。
何も言わなければ安全だ。
黙っていれば守れる。
フォロワーも。
仕事も。
未来も。
でも。
画面に映る自分の顔を見た瞬間。
あかりは思った。
もし結衣があの日、
自分を励ましてくれなかったら。
もしあの時、
見て見ぬふりをされていたら。
今の自分はここにいただろうか。
答えは分かっていた。
ライブ開始まで残り十秒。
心臓が激しく鳴る。
九。
八。
七。
数字が減っていく。
そしてあかりは初めて理解した。
本当に怖いのは失うことではない。
助けられた人間が、
助ける側にいないことだった。
ゼロ。
配信開始の文字が画面に浮かんだ。
第四章 世界を敵に回す日
ライブ配信が始まった。
視聴者数はいつも通り増えていく。
三千。
一万。
二万。
三万。
コメントが滝のように流れる。
「こんばんはー!」
「待ってた!」
「今日もかわいい!」
いつもと同じ光景だった。
あかりは笑顔を作る。
雑談をする。
学校の話をする。
文化祭の話も少しだけした。
視聴者たちは楽しそうだった。
いつも通りの夜。
そのまま終わらせることもできた。
だが心の奥で何かが引っかかっていた。
ずっと。
配信が始まる前から。
コメント欄に流れる。
『三浦結衣の件どう思う?』
また現れた。
最近は毎回だった。
無視していた。
話題にしないようにしていた。
でも今日は違った。
あかりはコメントを見つめた。
心臓が大きく鳴る。
指先が冷たい。
視聴者数は三万二千人。
今ここで何か言えば。
取り返しがつかなくなるかもしれない。
それでも。
あかりはゆっくり息を吸った。
「今日は」
声が少し震えた。
コメント欄が反応する。
「ん?」
「どうした?」
「あの話?」
あかりは続けた。
「話したいことがあります」
流れていたコメントが少し減った。
みんな待っている。
何を言うのか。
何を選ぶのか。
「三浦結衣さんのことです」
一瞬だった。
コメント欄の速度が跳ね上がる。
「きた」
「触れるの?」
「やば」
あかりは画面を見つめた。
逃げ出したくなる。
怖かった。
本当に怖かった。
けれど結衣の顔が浮かんだ。
図書室。
帰り道。
校庭の隅。
笑顔。
涙。
全部浮かんだ。
「私は」
あかりは言った。
「彼女を知っています」
コメント欄がざわつく。
「だから言います」
「切り抜き動画だけで人を判断しないでほしい」
空気が変わった。
確かに変わった。
画面越しでも分かった。
「彼女は優しい人です」
「誰かを傷つけるような人じゃありません」
「私が保証します」
沈黙。
ほんの数秒。
そして次の瞬間。
コメント欄が爆発した。
「は?」
「擁護かよ」
「失望した」
「仲間だからかばうの?」
「偽善者」
「見る目変わった」
コメントが流れ続ける。
止まらない。
あかりはそれでも続けた。
「もちろん全部を知ってるわけじゃない」
「でも」
「少なくとも私は彼女に助けられたことがあります」
声が少し強くなる。
「だから私は黙れませんでした」
コメント欄はさらに荒れた。
炎。
怒り。
嘲笑。
失望。
様々な感情が流れ込んでくる。
あかりは最後に言った。
「人を嫌うのは自由です」
「でも」
「誰かの人生を壊していい理由には
ならないと思います」
そして配信を終了した。
⸻
部屋が静かになった。
心臓の音だけが聞こえる。
手が震えていた。
スマホを置く。
立ち上がる。
足に力が入らない。
ベッドへ倒れ込んだ。
天井を見る。
涙が出た。
怖かった。
今さら実感していた。
自分は本当にやってしまったのだ。
⸻
翌朝。
目を覚ます。
反射的にスマホを見る。
通知が九百件を超えていた。
嫌な予感がした。
アプリを開く。
フォロワー数。
二十七万九千。
一晩で五千人減っていた。
胃が重くなる。
さらにSNSを開く。
自分の名前がトレンド入りしていた。
『人気配信者、炎上人物を擁護』
『伊藤あかりに失望』
『売名行為では?』
記事。
動画。
まとめサイト。
次々に拡散されている。
あかりは画面を閉じた。
呼吸が浅くなる。
頭が痛い。
⸻
学校へ行くと空気がおかしかった。
みんな知っている。
誰も直接は言わない。
だが視線で分かる。
廊下ですれ違う時。
教室へ入る時。
どこかよそよそしい。
昼休み。
玲奈から電話が来た。
「だから言ったじゃん」
怒っているわけではなかった。
むしろ心配そうだった。
「大丈夫?」
あかりは答えられなかった。
大丈夫ではなかったからだ。
⸻
その週。
フォロワーは減り続けた。
二十七万。
二十六万。
二十五万。
企業案件の担当者からも連絡が来た。
『現在の状況を踏まえ、協議の結果、
今回は見送らせていただきます』
丁寧な文章。
でも意味は分かる。
契約終了だった。
メールを閉じる。
胸が痛んだ。
努力して手に入れたものだった。
何年もかけて積み上げたものだった。
それが崩れていく。
音を立てて。
⸻
金曜日。
放課後。
誰もいない教室に残っていた。
窓の外は雨だった。
あかりは一人で座っていた。
本当にこれでよかったのだろうか。
何度目か分からない問いだった。
失ったものは大きい。
想像以上だった。
もしあの日黙っていたら。
何も失わなかったかもしれない。
その時だった。
スマホが震えた。
送り主の名前を見て。
あかりは息を止めた。
三浦結衣。
二週間ぶりだった。
震える指で開く。
そこには短い文章が一行だけ書かれていた。
『ありがとう』
たった五文字だった。
それだけだった。
それなのに。
あかりの目から涙がこぼれた。
何百件の批判よりも。
何万人のフォロワーよりも。
その五文字の方が重かった。
窓の外では雨が降り続いていた。
けれどその時だけは。
少しだけ世界が明るく見えた。
第五章 消えていく数字
「ありがとう」
その五文字は何度読んでも変わらなかった。
放課後の教室。
窓の外では雨が降っている。
あかりはスマホを握りしめたまま動けなかった。
結衣から届いた短い言葉。
たったそれだけなのに。
胸の奥の痛みが少しだけ和らいでいた。
失ったものは大きい。
フォロワー。
案件。
信用。
未来かもしれない何か。
それでも。
後悔はしていなかった。
そう思いたかった。
⸻
だが現実は優しくなかった。
翌週。
フォロワーは二十四万人を切った。
毎朝起きるたびに数字が減る。
通知欄には批判が並ぶ。
「正義感アピール」
「偽善者」
「売名行為」
「炎上商法」
画面を閉じても頭の中に残った。
学校でも状況は変わらない。
誰も直接責めない。
だが距離ができていた。
以前なら話しかけてきた生徒も、
どこか遠慮している。
あかりは初めて知った。
嫌われることより怖いのは、
興味を失われることだと。
⸻
配信も苦しくなっていた。
同時接続は半分以下になった。
コメントも減った。
以前なら笑いが起きた話題でも反応は薄い。
数字が目に入る。
視聴者数。
再生数。
高評価率。
全部が下がっている。
配信を終えたあと。
あかりは机に突っ伏した。
涙は出なかった。
代わりに空っぽな感覚だけがあった。
私は何をやっているんだろう。
ふとそんな考えが浮かぶ。
結衣を助けたかった。
それは本当だ。
でも。
助けた結果、自分が壊れていくのなら。
それは正しかったのだろうか。
⸻
その頃。
結衣はまだ学校へ来ていなかった。
メッセージのやり取りだけが続いている。
『今日は少し散歩できた』
『昨日より眠れた』
『本を読んだ』
短い報告。
それだけだった。
けれど以前より言葉が増えていた。
少しずつ。
本当に少しずつ。
結衣は前を向こうとしていた。
それがあかりには救いだった。
最終章 私は隣にいる
七月の終わり。
夕方。
あかりは駅前のベンチに座っていた。
スマホを見る気になれない。
空を見上げる。
雲の切れ間から夕日が差していた。
その時だった。
「やっと見つけた」
聞き慣れた声。
振り向く。
結衣だった。
あかりは息を止めた。
二週間ぶり。
いや。
直接会うのはもっと久しぶりだった。
結衣は少し痩せていた。
けれど笑っていた。
昔と同じように。
「久しぶり」
あかりが言う。
「うん」
結衣が頷く。
少し沈黙が流れる。
そして結衣は隣に座った。
「ごめんね」
また謝ろうとする。
あかりは首を振った。
「それ禁止」
結衣が少し笑う。
「あかりらしい」
風が吹いた。
夕日が二人を照らす。
結衣はしばらく黙っていた。
やがて小さな声で言う。
「本当はね」
あかりは聞く。
「もう消えた方がいいのかなって思ってた」
胸が締め付けられた。
結衣は笑っていない。
遠くを見ている。
「学校もネットも全部怖くなって」
声が震える。
「みんな私を嫌ってる気がして」
あかりは何も言えなかった。
言葉が見つからなかった。
すると結衣が続けた。
「でもさ」
夕日に照らされた横顔が少しだけ笑う。
「世界中が敵みたいに思える日でも」
あかりは息を呑んだ。
その言葉を知っていた。
一年前。
校庭で聞いた言葉だった。
結衣は静かに言う。
「一人くらい味方がいるんだね」
二人の目から涙がこぼれた。
結衣は何も言わない。
そして、
あかりはそっと言う。
「世界がきみを嫌う日に」
夕暮れの風が吹く。
「私は隣にいる」
その瞬間。
あかりは初めて理解した。
人を救うということは。
何か特別なことじゃない。
たった一人のために
隣にいることなのだと。
夕日が沈む。
二人はしばらく何も言わなかった。
それだけで十分だった。
ただ隣に座っていた。
慰めもしない。
励ましもしない。
ただ隣にいた。
それだけだった。
それだけなのに。
あかりは救われ、
心が満たされていた。
【了】
最後までお読みくださいまして、
誠にありがとうございました。
AIを編集者に迎えて、
リライトにリライトを重ねましたので
思ったより長めの内容になりました。
しかし、
構成が思ったより楽しくて
良い経験になりました。
AIと読者のあなたに
重ねて感謝したします。
私はいつも、
あなたの心の平穏も
心から願っております。
どんなときも、
あなたからの
『スキ』、『フォロー』、『ご支援』
に心から感謝申し上げます。
それでは、
あなたの心を軽くしたい
もっちんでした。
#創作大賞2026
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