ベンジーに恋した少年
あらすじ
親の影響でBLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを好んで聴く少年が、街でギターを片手に弾き語りをしているとある日、とある綺麗な女性との出会う。高校へ進学するとその女性が副担任の教師とし現れる。少年の心は揺れるが、教師と生徒という関係が邪魔をして。そんな中、その女性の影響で弾き語りを再開した少年のもとに起きる別の高校の女子たちと繰り出す青春真っ只中に起こる、恋をまだ知らない少年が、真実の愛を見つける物語の序章。
以下、本文
プロローグ
令和の時代に浅井健一、Blankey Jet Cityを好んで聴く中学生なんて僕くらいだろう。
こんなにもかっこいいのに皆んなTikTokで流れる音楽しか聴かないはおろか、音楽にはサビだけしかないと思い込んでいる。
僕はお年玉を貯めて買った赤茶色のアコースティック
ギターを抱えては埼玉の田舎から東京に出ては路上で唄うけど、いつも何かに忙しい人の足は止まらない。
ある日、少し歳の離れた綺麗なお姉さんが立ち止まって声を掛けてくれた。
「歌はまだ下手だけど、純粋な唄声だね。」歌は褒められなかったけど"純粋な唄声"という言葉は僕にとって何よりも嬉しい褒め言葉だった。
何故なら僕の愛してやまないベンジーが"最も純粋な
唄声の持ち主"だからだ。
大学生なのかそれとも社会人なのかはわからないし、歳を訊くのも失礼なので訊かなかったが、とても若く綺麗な茶色い純粋な目の持ち主人だった。
僕はまだ"恋"を知らなかった。
1
2026年3月。地元の公立中学校を卒業し、これまた地元の公立の男子校への進学が無事決まった僕は、高校生活への期待と不安の入り混じった少し落ち着かない春を過ごしていた。
冬にはあんなにも降らなかった雨が最近よく降るので、弾き語りへも満足に行けていなかったが、そんな事は軽音部への入部の期待でいっぱいの僕にとって些細なことだった。
新しくクリーム色のエレキギターも買ったし、奮発して黒のBOSEのヘッドホンも買い、如何にも音楽キッズという装いになんだか自分自身、心が浮いていた。高校ではどんな人がいるんだろう、もしかしたらBLANKEY JET CITYを、ベンジーを好きな人にも出逢えるかもしれない。
そんな期待を含め、あっという間に季節は4月を迎えた。
入学式の頃にはすでにここ最近の強風と雨で桜はすっかり葉桜混じりになっていた。そういえば、軽音部の事ばかりで新しいクラスの事なんて考えてなかったな。まあ男子校だし何とかなるだろ。彼女のいる高校生活とは無縁だろうけど。
そんな自虐紛れのことを1人でぶつぶつ呟いては緊張を紛らわせていた。
元々性格的には人見知りな方で、特に同世代の女子が苦手ということもあり、この男子校を選んだのも大きな理由のひとつだった。体育館での入学式も終わり、教室へと移動した。
クラスメイトには同じ中学の名前はなく、みんな隣のクラスや隣の隣のクラスに固まっていた。
前のドアから教室に入り一旦辺りを見渡す。
するといきなり自分の名前を呼ぶ声がした。
「青木じゃん!」
一際大きい声に一瞬どきっとしたが、すぐにその声の主が誰なのかわかった。
「おぉ、はぎか!はぎもこの高校だったんだ。」
彼の名前は萩原駿一。小学校で同じだったが、中学では学区の関係で別々の中学だった。
「久しぶりじゃん!元気してた?まだ野球やってんの?」
「元気、元気。中学までは野球部だったけど引退してからはギター一本よ。」
「おぉまじか。青木音楽好きだったもんな。俺は高校でも野球続けるつもりだぜ。まあまたカラオケでも一緒に行こうぜ。」
返事を返そうとした瞬間、窓からの強い風でカーテンが激しく揺れ、桜の花びらが教室に入ってくるほどだった。
と、同時にチャイムがなり担任と副担任と思われる先生が入ってきた。
「えー、みんな席につけ。私は担任の長島敬一だ。こちらは副担任の…」
「小嶋春香です。よろしくお願いします。」
「えっ!!?」
思わず大きな声で立ち上がり、クラス中の視線が集中する。
「えー、君はたしか青木くんだったか。小嶋先生がいくら美人だからってあんま興奮するなよ。」
クスクスと笑い声が聞こえたがそんな事はどうでもよかった。
間違いない。彼女はあの時の綺麗な目のお姉さんだ。
こんな再会ってありかよ、と信じられずにいたが間違いない。
(こんな運命ってある…)
早速小嶋先生に視線を向けたが、彼女は見向きもしないで真っ直ぐ教室全体を見渡している。
(あ、そっか。そうだよな…俺にとっては強く印象に残っていても、小嶋先生にとっては何でことのない事だったのだろう。期待するのはやめよう、それに教師と生徒の恋愛なんてあり得ないし…)その後の自己紹介は上の空で何を言ったかも思えていないくらい薄いものだった。
中学時代野球部で補欠だったこととギターが趣味で軽音部に入るつもりだくらいは言っただろうか。
「明日から早速授業だからなー。我が校は実績もある地元でも有数の進学校でもあるんだからな。部活で汗を流すのもいいが、学生の本分を忘れるなよ。以上。」
長島の言葉で高校生活初日は終わったが、僕は少し薄汚れた空を見てはため息混じりに帰宅した。
2
翌日の昼休み、いきなり背の低い少年から声をかけられた。「やあ。青木くん。僕は田村。田村和樹。青木くんってさ、軽音部入るんだよね。」「もしかして君も!?いやぁ、知り合いがいなくて困ってたところなんだよね。助かったー。」「残念だけど僕は軽音部には入らないよ。ただ音楽に興味あって。青木くんほどの音楽好きならどんな曲聴くのかオススメを教えてほしくて。」「あーそういうことね!全然教える教える!」明るく返事をしてみたものの、内心ちょっぴりがっかりした自分がいた。「おすすめかー色々あるけど、やっぱ最近はKing Gnuとか米津あたり?個人的には[Alexandros]とか好きかなー。」「なるほどね、結構王道系なんだね。」悪意のない何気ないひと言だったが、なんだか、そのひと言にむっとした自分がいた。「まあほんとはBLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとかTHE PINBALLS何かが好きかな」「え、何それ?洋楽?」この食い付きを待ってたのよ、と少し自慢げに話しを続ける。「いや、BLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTは90年代の邦ロックバンドで、ネットなんかでは日本最高の2大ロックバンドなんて言われてるんだ。THE PINBALLSは比較的最近のバンドなんだけど今は活動休止中で、ブランキーやミッシェルをかけ合わせたような、何ていうかな。ピンボールズはピンボールズなんだけど彼らへのリスペクトが凄くて…我らが埼玉出身の王道ロックバンドでもあってスーツ姿でごりごりの超かっこいいロックを演るんだ。」例のごとく早口である。「へぇー、全然、知らなかった…。さすが青木くんだね。やっぱり青木くんに聞いて正解だったよ!後で早速聴いてみるよ」「アルバム単位で聴くのがオススメだよ、できれば1stから聴いてほしいかな、あと青木じゃなくて貴裕でいいよ。」「ありがとう貴裕くん。僕も和樹でいいよ。」「わかった、よろしく和樹。」入学早々新しい友達もできて、幸先のいいスタートだぞ。
これはきっと軽音部でもいいメンバーにも出会えそうだな。期待に胸が膨らんだ。
3
放課後、早速軽音部の部室に行ってみる。ドアに手をかけ開けた瞬間、「おー!ようこそ!軽音部へ!君が新入生第一号だ。早速だけど入部届にサインするかい?」「あ、いや、今日はまだ見学で…。」入る気満々でいたが何となく軟派な雰囲気につい躊躇ってしまった。「あの、、、先輩方はどんな音楽をやるんですか?」「まあ今いちばん流行ってる大人気ロックバンドのカヴァーかな!みんな知ってて盛り上がるしモテるぞ~。」あー、やっぱり。もちろん嫌いではないしたまに聴いたりしていいなとも思うけど、俺のやりたい音楽とはかけ離れてる気がした。「なるほど、バンドなんてやっぱモテてなんぼですよね!」心にも思ってない調子のいいことをつい言ってしまう。「君、わかってるね!笑、名前はなんていうんだっけ?」「…青木です」「青木くんね。憶えたからまた来てよ。何でも新任のめっちゃ美人の先生が来るって噂だぜ。」(小嶋先生が…)
少し心が揺れた気がした。「マジモチベあがるよなー!毎日終電まで練習するわー。」「嘘つけ。お前は彼女との約束でどうせすぐ帰るだろ笑」「それ言っちゃう?まあ大人の魅力には勝てないっしょ」「お前本気で狙ってんのかよ犯罪だぞ。」「冗談だよ、冗談笑」第一印象通りやっぱり何かここのノリは合わない気がした。高校では深い音楽仲間ができると期待してたのになんだか、一気に萎えてしまった。「じゃあ僕はそろそろここで…」「おい、新入生もう帰る気か。もっと先輩たちと楽しくお話してこうぜー。」(やっぱり苦手だ)
「はぁ…」
「おーい、お前らいつまで駄弁ってるんだ。強風警報が出てるから今日はすぐ帰れー。」
現顧問らしき先生が声を掛けてきた。
(助かった…)
「じゃあ、失礼します。」
「おう、またな、第一号待ってるぞー!」
帰り道は雨こそ振らなかったが曇天の中、自転車が強風に煽られては、ふらふらといつもの倍の時間をかけて帰路についた。
4
結局軽音部の入部はせずにいた。
小嶋先生も吹奏楽部の顧問になり、少し安堵した自分がいた。
晴れて帰宅部のエースになったものの、校則でバイトは禁止されているし、どこかで歌われたあの可愛い犬たちが出てくるピーナッツように取るに足らない日々を送っていた。
ある日、英語の授業が終わると小嶋先生から後で職員室へ来るように声を掛けられた。
昼休み、正体のわからない淡い期待と何か怒られたりするのではないかという不安の感情が混じり合りながら職員室のドアを開けた。
「失礼しまーす…」
「青木くん、こっち。」
「青木くん、早速だけどペーパーテストの点は普通なんだけど英語の発音はいいのよね。帰宅部みたいだし何か資格とか取れば推薦入試やまだ先だけど就職活動にも有利よ。」
やっぱり、勉強の話かと内心ちょっとガッカリした。
「資格ですかぁ笑英語の勉強も特にしてないんですよね。ただ洋楽が好きで聴いてるだけで…。」
「なるほどだから"耳"がいいのね。」
突然の音楽の話題に胸が躍ったのがわかった。
「色々聞きますけど、UKロックが好きですね。古くはビートルズやローリング・ストーンズ、レッドツェッペリン、あとはセックス・ピストルズとかクラッシュ、フー。もちろんオアシス、レディオヘッド、ニルヴァーナもよく聴きますし、UKロックリバイバル期が好きでストロークスやアークティック・モンキーズ、リバティーンズなんか特に好きですね!」
いけない、興奮してつい早口で話しすぎた。
「若いのに色々聴いてるのね。通りで歌声も綺麗なはずだわ。」
えっ…
一瞬耳を疑った。
小嶋先生も僕のことを憶えてくれていた事実に言葉を失った。
全身の体温があがるのがわかった。
「まあ、音楽をたくさん聴くのも良いけど、資格の勉強のことも考えてみて。あと、せっかく帰宅部なんだしたまにはまた弾き語りもやってみたら?貴方の歌うベンジー私は好きよ。」
最後野良セリフに一瞬心のランプが灯る。
やっぱり憶えてくれてたんだ。
"好き"の二言に恋愛感情はないとわかっていたが、胸がいっぱいになり、顔も少し昂揚した気がして少し恥ずかしくなった。
「そういえば、アコギ眠ったままでした笑、弾き語りも最近学校生活が忙しくて行ってなかったですけど行ってみます!」
照れ隠しのためにあえてはにかんでみる。
「交通費も値上がりしたり、大宮辺りでやるのが良いんじゃないかしら。」
「たしかに、弾き語りするなら勝手に都内のイメージでしたけど、大宮辺りでも良いですね。交通費も半分で済みますし。」
「そうよ、ギターと勉強と節約のトリプル立。がんばってね」
「はい!それじゃ失礼します。」
帰り道、自転車を飛ばし風を切ってはうちへすぐに帰った。
「ただいま!」
「あら、たかちゃんおかえ…」
猛ダッシュで階段を駆け上がり、クローゼットの片隅に閉まったままのアコギを取り出す。
「あちゃー弦が赤々と錆びついちゃってるよー。そりゃ半年近く放置してたらそうかるかー。ごめんなーベンジー1号」
そんな独り言を呟きながら、新しく買っておいた新しい弦へと張り替える。
「よし、早速許可取って弾き語りしちゃいますか!」
季節外れの暑さに大量の汗をかいていたが、それすらも心地よく感じていた。
そういえば中学時代は制服で歌ってたけど、高校は私服なので衣装も考えておかないといけないと思った。
そうだ、めちゃくちゃ細いスラックスを買って上はザ・クラッシュのロンドンコーリングのTシャツにしよう!
我ながら完璧なアイディアだと思った。
その数秒後、いや、今時それはダサくないかと思い留まった。
あれこれ数時間持ってる服を全部取り出し1人ファッションショーを開催した結果、結局ストライプブルーの半袖シャツに古着屋で買った黒のスラックスという無難な格好に落ち着いた。
着替えてるうちに世界は"本当の色"に染まり始めていたが、陽が沈むまでにはまだ時間があったし、"明日では遅すぎる"とも思ったので、急いで電車に乗って大宮へと向かった。
5
大宮駅のロータリーに着くと早速場所を確保して、Takahiro Aokiと書かれたスケッチブックを掲げ、マイクと相棒を用意して自己紹介を始める。もちろん誰も聞いてないのは重々承知なので、早速BLANKEY JET CITYの名曲「SALINGER」を奏で唄い始める。
"JEKYLEとHYEDのTROJAN HAIR HIP STARとかJAZZY CAFE あの娘はT型のホッドロットでスピンしてよだれ垂らしてた"
本来はぶっ飛んだアップチューンだがアコギでの弾き語りなので、風に乗せるように優しく囁く。
"生きてるときと死んでるときが 実はそんなに変わらないことだとしたら Baby それってもしかしてもっと良かったりして"
"噴水飛び上がった水 落ちてしまうまで短いって感じるのか それとも長いって感じるのか"
"Ah…Hi,Ho!MR J D SALINGER,Tell Me Why?"
実際、生と死が変わらないことだとしたら…
死後の世界って?
ここは天国?それとも地獄で、死んだら天国に行けるのかな?善く生きなきゃやっぱりだめか?
"救われないものはいない"?
ベンジーから投げかけられた問いは僕を深く深く考えさせるがキャッチャーな曲調がいつも救ってくれる。
噴水は1秒くらいにしては水が落ちるまで長いよなあ…何てことを考えながら演奏していたらいつの間にか疎らな人だかりができていた。
仕事帰りのサラリーマン、マイルドヤンキーっぽいカップル、女子高生の集団、浮浪者みたいな人等々…両手で数えるくらいはいただろうか。
思わず挨拶をし直した。
「青木貴裕、あっ、Takahiro Aokiで活動してます。大好きなBLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT、THE PINBALLSなどかっこいい日本のバンドの魅力を伝えたくてカヴァーしてます。皆さん、聞き馴染みはないかもしれませんが、よろしくお願いします。あ、リクエストあれば応えることもできるかも…です…。」
「一応説明しておくとBLANKEY JET CITYのギターヴォーカルが椎名林檎の丸ノ内サディステックに出てくるベンジーです。親愛なるベンジー、浅井健一さん。せっかく丸ノ内サディステックが出たので演ろうと思います。」
〜♫〜
その後も5曲ほどブランキーの曲を披露したりリクエストに応えたりしてるうちに辺りはすっかり暗くなり時計の針は8時に迫っていた。
「今日はこの辺で、ラストに"幸せな人"という曲を演って終わりたいと思います。」
観客は減ったり増えたりだったが、最初から最後まで残っていた女子高生の集団に話しかけられた。
「Aokiくんかっこいー!」
その中のひとりが言う。
かっこいいなんて言葉今までの人生で一度もなかったが、冷やかしだとしてもなんだか嬉しかった。
「あ、ありがとう…」
「ねー、照れてる可愛い〜。」
耳の温度が急激に上がってるのが解った。
「私は瑠夏、山田瑠夏。こっちは真咲とひかる。」
「やっほー。」
セミロングの茶髪の可愛らしい女の子に挨拶された。
「どもっす。」
「いつもここで演ってるの?」
「いや、弾き語り自体は中学生の頃からやってたけど、高校生になってからは今日が初めてなんだ。まあ、これからもぼちぼちやっていくつもり。」
胸の高鳴りを抑えて少し気取って答える。
「ねぇ、インスタ交換しない!」
真咲が言う。
「インスタ?ごめん、俺アカウント持ってなくて…」
「えー、まじ!じゃあさLINE交換しようよ。LINEならやってるでしょ。」
「ラ、LINE?い、いいけど。」9
最近の女子高生ってみんなこんなにも積極的なのかな。
奥手な自分に取っては助かるけど、ちょっぴり悪い事をしている気がした。
「私もー!」
瑠夏が元気よく答える。
「ほら、ひかるも交換しときなって。」
「え、あ、うん。」
ひと際背の低い一見地味なこの女の子は、不思議なオーラを纏った子だなと少し気になった。
「それじゃまたここでやる時は連絡してねー!」
「え、うん。またね。」
その日の帰り道に吹く風は穏やかでなんだか心地良かった。
普段は買わない自販機の前で120円の缶コーヒーなんかを買って、蓋を空け一気に乾いた喉に飲み干す。その甘さがやけに印象に残った。
6
世間が浮き足立つゴールデンウィーク。
特に予定のない僕は学校の課題をさっさと終わらせて、あの場所へ出掛けた。
「今日少し演るよ。」
山田さんに連絡するとすぐに返事が返ってきた。
「ごめん!今日はみんなで夢の国なんだ。演奏がんばって!」
「そっか、またの機会にだね。」
内心ちょっとがっかりしつつも、気丈に振る舞う。
元々路上ライブなんて、知り合いなんていない、よく言えば毎回一期一会みたいなものなので、気にする必要はない。
なのに、胸のどこかに引っかかるのは、繋がりができてしまったからか。それともそれ以上の何かをどこかで期待して…
なんて難しいことを考えては、そんな思いを首を振りながら否定して、いつも通りお気に入りの曲たちをシャッフルにかけ、セットリストを決めてゆく。
最初に流れてきたのはoasisの「whatever」
「たまには洋楽でもやってみるかぁ。」
練習がてらにもいいと思った。
そうと決まれば今日は徹底的に洋楽の日だ。
歌えるアーティストは限られてるけど、The Beatles,oasis,Nirvana,Rediohead辺りを抑えていれば十分だろう。
あの場所へと着くと早速チューニングを始める。
4月にあった夏日がウソのように、初夏の穏やかな陽射しと風が吹く。
最初は予定通りoasisのwhatever,続いてこれまたoasisでRock'N'Roll Star.
自分で弾きながらステージでも何でもないこの場所に立つオレがロックの神様に愛されたロックンロールスターだと言わんばかりにギターをかき鳴らし唄う。
3曲目はBeatlesでHelp!
ポップスターの裏に隠された苦悩を想像しながら軽快に鳴らす。
ここまで夢中になっていたが(英詩はそれなりに集中力が必要だった)今日もゴールデンウィークということもあってか、いつも以上の人通りにいつも以上の人だかりができていた。
いつもなら嬉しい筈なのに、今日に限ってはそんなことはどうでもいいように無我夢中で次の曲へと移る。
RedioheadでAnyone Can Play Guitar.
ギターなんざ誰だってできる。そう、オレが特別なんかじゃない。でも今ここでギターを弾いて歌う僕には何か特別なちからがあるんじゃないかと錯覚する。
聴衆を置き去りにしていく感覚。尚更、自分が特別な存在なのではと強く脳によぎっては、理性でそんなことないだろと溜め息まじりに笑ってみせる。
NirvanaのSmells Like Teen Spilit.
聴衆への場所へと少し帰る。
その後もLithiumやCreep,Don't Look Back in Anger等の日本人でも馴染みのあるであろう曲を続け、最後はBeatlesのYesterday,Here Comes the Sun,そしてIn My Lifeで締める。
洋楽だけのセットリストとなったが、何だかロックンロールの神様のちからを借りて違う自分になれた気分で帰りの支度していると、ある女の子が声をかけてきた。
7
「青木くん。」
「え、ひかるさん!?」
居るはずもないと思っていた思いがけない人物の登場にBPMがあがるのがわかる。
「え、どうしてここに?みんなとディズニーに行ったんじゃ…。」
冷静を装いながら質問する。
「わたし、人が多いところとか苦手だから。それに大人数も。」
妙にらしいな、と納得してしまった。
「ひかるさんらしいね。なのにここには来てるし?」
少しからかってみる。
「それとこれとは別。一人でいるのは好きだし、せっかくのゴールデンウィークに家に篭ってるのも何だかもったいないでしょ。」
まあそれもそうか。
それにしても約束もしてない偶然の再会に自分でも驚くくらいに胸が高鳴ってるのが解った。
「今日の弾き語り、全部洋楽?すごいね。発音とかも完璧だった。正直知らない曲ばっかだったけど、いい曲だなっていうのが青木くんの歌で伝わってきたよ。」
その言葉に偽りはなさそうだった。
「ははっ、そんな褒めても何も出ないよ?それに歌もまだまだだし、まあ小さい頃から何万回と聴いてきたからそれなりには歌えるけど。」
もっと大人しくてあまり多くを語らないキャラだと思っていたひかるからの率直な感想に内心喜びつつもつい冗談で誤魔化してしまう。
「別に本心でそう思ったから伝えたのに。」
ぼそっとひかるがつぶやく。
「え、なんて?」
「何でもない!それよりまたみんなといる時に今日の曲きかせてよ。」
「それはいいけど、もっと練習しておくね。」
その後も他愛も無い話をしてはふたりで笑い合う。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰らないとお母さんに怒られる。」
いつの間にか時計の針は9時を回っていた。
「ほんとだ、通りでお腹も空くわけだ。それにしてもさ、夢の国じゃなくてオレの弾き語りでゴールデンウィークの大切な1日を潰しちゃうなんてオレたちなんだかもったいない高校生活だね。」
なんの気もない何気なくひと言だったが、ひかるの視線が落ちるのを感じた。
あんまりみんなの事と比べないほうが良かったかな、と気にはなったものの特に気にせずにいた。
そんなことより、別れ際、何だか今いい感じじゃないかとドキドキしていた。
ここで「今度ふたりで夢の国なんてどう?」とそれなりにスマートな誘い文句も浮かんだが、人混みが嫌いと言っていたし、何より断られるのがこわくて、結局じゃあねとしか言えず、その日をあとにした。
8
後日、山田瑠夏から一通の連絡が届いた。
「昨日、どうだった?…ニヤリ」
「昨日?まあいつも以上の弾き語りができたかな。どうかしたの?」
瑠夏の質問に素直に返す。
「えー!せっかく私からひかるに連絡してあげたのに私に何か言うことあるんじゃないの?!」
え、てことはひかるはオレが弾き語りをやってることを知ってて、わざわざきたってこと?
そんな素振り一切なくて気づかなかった。
「まじか。偶然だと思ってた。」
「はあ、これだから鈍感なオトコは。。。」
否定もできなかった。まさかそんな偶然あるわけないと思ってたけど、裏で瑠夏が手を引いていたとは。
「それより、弾き語り行けなかったお詫びに今度みんなでカラオケでも行かない!?青木くんの友達も誘って大人数でさ、楽しくぱーっとやろうよー」
「カラオケかー。まあたまにはいいかって誰か誘うの!?」
「とりあえずあと3人イケメン揃えといてー」
なんじゃそりゃ。相変わらず山田さんはノリが軽いというか。まあそういうところがらしいっちゃ、らしいし山田さんの魅力なんだろうけど。
て、そんなことより人数揃えなきゃだな。はぎはー、野球部で忙しいか。
てか、イケメン?そんなカースト上位に俺が入っているとでも?
とりあえず話しかけづらいけど同じく帰宅部のカースト上位軍団に声をかけてみるか。
イケメンと言ったらやっぱり一ノ瀬くんか…。
「あのー、一ノ瀬くん。カラオケとかすきだったりする?今度女の子数人に誘われてて、一ノ瀬くん空いてないかなーって。」
「青木くん、君はなんていい友達なんだ。カラオケなんて好きに決まってるし、女の子と行くカラオケ以上のものはこの世に存在しないよ。」
一ノ瀬くんは爽やかスマイルとともに握手してきた。
「とりあえず僕含めて4人必要なんだけど、一ノ瀬くんの友達誘ってもらってもいいかな。」
「それなら松岡と竹田が適任だろう。彼らはノリが良くて歌も上手く、何よりそれなりにイケメンの部類だ。」
「僕は面識ないけど、他のクラスの子?」
「That's right.ふたりとも2組だ。なにすぐに青木くんも仲良くなれるさ。」
「それならよかったけど。」
一ノ瀬くんイケメンだと思ってたけど、こんなキャラだったんだ。
「ん?何か言ったか?」
心の声が漏れたのかとドキっとする。
「いや、なにも!」
慌てて否定してしまいかえって怪しくなった。
「そうか、ならいいんだ。」
いいんだ。
「それよりその女の子たちについてもう少し教えてほしい。男子校の僕らが他校の女子と知り合うなんて。もしかして青木くんの中学の同級生とか?」
「いや、そうじゃなくて。僕ギター弾くのが好きでたまに弾き語りもやってるんだけど、たまたまそこで知り合って…。」
「青木くん、前言撤回だ。君一人でそんなモテるための抜けがけしていたなんて失望したよ。」
「いやいやいや、モテるためとかじゃないし全然そういうのも期待してなかったけど、山田さんのノリが良くてこっちもびっくりしてるんだよ。それにせっかく誘ってるのにそんないわれはないでしょ笑」
「それもそうだな、すまなかった。そうだよな、こんな機会をくれた青木くんには感謝しないとだな。これからはゴッド青木と呼ばせてもらおう。」
「いやいやいやいや笑、一ノ瀬くんてイケメンで話しかけづらいかと思ってたけどこんなに面白い人だなんてびっくりだよ。」
「そうか。そんなことよりその女の子たちについて詳しく教えてくれ。」
「そういえば4人て言ってたけど、僕も3人しか知り合いいないから新メンバーがいるな。他はさっき話した誘ってくれた山田瑠夏さんと真咲さん、ひかるさんだとは思うけど。」
「そうか、詳しくわかったら僕にも知らせてくれ。ということで僕らもLINEを交換しておこう。松岡と竹田には僕の方から伝えておく。」
何だか一ノ瀬くんのキャラにペースを乱された気もするが、とりあえず週末のカラオケ会の予定が決まった。
そういやこれっていわゆる合コン?ってやつになるのかな…こんな高校生活期待していなかっただけに少し調子が狂う気もしたが、まあこれはこれでありだとも思った。
9
日曜日
山田瑠夏と真咲さんの姿はあったがひかるの姿はそこになかった。
初めましての2人の女の子も相当可愛い部類に入るが、それ以上にがっかりしている自分に気づいた。
早速カラオケルームの大部屋に入ると山田さんの音頭で自己紹介が始まった。
4人の女の子は、山田瑠夏と目黒真咲、(真咲さんの苗字をここで初めて知ることになる)他の2人の女の子は山下結衣、佐藤愛理といった。
こちらは一ノ瀬暁斗、松岡凌、竹田和眞、そして僕、青木貴裕といったメンバーだ。
「青木くんごめんねー。ひかるも誘ったんだけど断られちゃった」
瑠夏が謝ってくる。気にしてないと伝えたが、
「ひかるのお姉さん、青木くんたちの学校の先生だから話し合うと思ったんだけどねー。」
「ちょっと待って!ひかるちゃんのお姉さんが俺たちの学校に?」
一瞬混乱と動揺した。
「そう、小嶋春香っているでしょ?小嶋ひかるのお姉さんなんだよね。」
更に動揺した。ひかるのお姉さんが小嶋先生…?姉妹と言われてもピンと来なかったが、歳の離れた姉妹なんてそんなものだろうとも思った。
「まじかよ!小嶋ちゃんの妹ちゃんがいたの!絶対可愛いじゃん!」
さすが一ノ瀬くん。相変わらずちょっとだけチャラい。
「ちょっとー!私たちも十分可愛いんですけどー!」
おっと、真咲さんも負けてないな。
なんとなくお互いがお互いの相性を探り合うかのような、男女をどこか意識したカラオケが始まった。
「最初はやっぱ青木くん歌ってよー。」
「そうだ、そうだ、弾き語りやるくらいの歌声を俺たちにもみせてくれ。」
実はカラオケが苦手なんて今更言えなかった。
流行りの曲好きじゃないんだけど、弾き語りのときみたいな選曲をすると変な空気になるのがわかるからだ。
「えー、一曲目がいちばんむずくない?」
迷ったフリをしながらランキング上位のIRIS OUTを歌い上げる。
流行りに疎い僕でも流石に聴いている。
ありがとう、米津玄師、ありがとう、藤本タツキ、ありがとうデンジ、レゼ、チェンソーマン。
その後は女の子たちがaikoのカブトムシを入れたり、King Gnuの白日やOfficial髭男dismのSilent、HANAのBule Jeansなど比較的好きなJ-Popが順番に入り安心する。
しかし、中盤事件は起きる。
竹田くんがMrs. GREEN APPLEのライラックを入れやがった!
反射的にライラックはBLANKEY JET CITYだろと初夏なのにクリスマスの4日くらい前の曲を入れてしまう。
歌い終わったあとにやってしまったと思ったが、瑠夏が待ってましたと言わんばかりに椎名林檎の丸ノ内サディスティックを入れ、そこから青木貴裕のベンジー縛りが始まる。
瑠夏と真咲以外はついてこれなかったが、ふたりは何だか盛り上がっていたように感じた。
ひと通り歌い終わったあとで話がひかるへと移る。
「ひかるも来れば良かったのにねー。」
瑠夏が言う。
「まじ小嶋ちゃんの妹さんとか一目見てみたかったわ。小嶋ちゃん好きじゃない生徒なんていないよな?青木。」
松岡が急に話を振ってくる。
「いや、先生をそんな目で見ないだろ。」
苦し紛れに話題を避けようとする。
「てか、青木、小嶋ちゃんとたまに親しげに話してるよな?」
一ノ瀬がこれまた急に振ってくる。
「え、そうか?別に普通だけど。」
これまた苦し紛れに言い逃れようと試みる。
「青木って小嶋ちゃんに気があるのかと思ってたわー。」
「青木くんて、ひかるが好きなんじゃないの?」
「「「えっ。」」」
場の視線が一気に集中する
「いやいやいや、べ、別に2人ともそんなんじゃないし。人を好きになるとかもよくわからないしさ!」
明らかに動揺した台詞が明るくなったカラオケルームに響き渡る。
「絶対ひかるだと思ってたけど、お姉さんならわからないね。」
真咲が無意識の核心を突く。
「いやいや、確かに良い人たちだと思うけど、別に本当に好きとか付き合いたいって言う感情はなくて!てか、姉妹なのも今日初めて知ったし!」
「ひかるだと思ってたけどお姉さんがいたとはねー、強力なライバル出現だね。」
真咲が畳み掛ける。
「でも、本当好きとかそういうのわからなくてさ。むしろひかるからは最近避けられてる気もするし。そりゃ仲良くはしたいけどさ。」
「やっぱりねー。」
瑠夏がにやにやした顔でいう。
「もう青木は抜きにして7人で楽しもー!」
真咲も続く。
「いや、なんでよ!革命道中歌うから許してよ!笑」
「アハハ、なんでここでその選曲?」
「流行ってるし?」
そんな冗談とほんの少し本気の混じった会話と歌に花を咲かせながから時間はあっという間に過ぎていった。
10
「楽しかったねー!」
瑠夏がカラオケ店を出て開口一番に言う。
「楽しかった!今度また集まろうよ。青木とひかるちゃんて子は抜きにして」
調子づいた一ノ瀬が言う。
「てか、青木くんはほんとに今度ひかるを誘って2人でデートにでも行きなよ。」
真咲が少し真剣味の帯びた口調で言う。
「でも、おれひかるちゃんが好きとかわからないし。」
「またそうやってー、デートの一つや二つしなきゃ本当の気持ちなんてわからないでしょ。」
それもそうか。確かに一理あるし、ひかるには他の人とは違う魅力を感じていたのも事実だった。
「わかった!今度2人でどこか出かけないか誘ってみよ。」
断られてもそれはそれで別になんともないし…。
「青木くんってかっこいいね」
「ねっ!」
山下さんと佐藤さんが口を揃えて言う。
「ちょっと待って!青木より俺らの方が良くない?!」
竹田が必死になって遮る。
「あははは。」
すでに冗談混じりに会話のできる良い関係が出来上がっていた。
11
その夜早速ひかるにLINEする。
「今度一緒に動物園が水族館でも行かない?」
別に本気で恋をしているわけでもないのに手が震える。
返事はすぐに返ってきた。
「わたしはいいんだけど、ひとつ条件があって」
「条件?」
「今度もし青木くんにデートに誘われるようなことがあったら、お姉ちゃんが私もついて行くって…」
一瞬、何をいってるのかわからなかった。
ひかるとのデートに小嶋先生もついてくる…だと…。
例年より短い梅雨の寄り道、想像以上に騒がしい未来がそこに待っている気がした。
12
デート前日の土曜日。
何だかそわそわしていても居られず、ギターを担いであの場所へと向かった。
電車内でセットリストをある程度まとめて。
いつも通りチューニングをしていると見覚えのある声に話しかけられた
「青木くん。」
…一瞬の静寂。
「小嶋先生…何でいるんですか。」
かっこつけてぶっきらぼうに言う。
「今日はもう部活終わったからちょっと用事できてたのよ。そしたら見覚えの影がいるなーって。」
"偶然"か…。
「いいんですか、こんなところで生徒と油売ってて。」
「そうね。弾き語りを勧めた私にも責任はあるし、夜遅くまでやってないか様子を見る監督責任もあるわね。ところで今日はどんな曲やるの。」
「今日はミッシェルの"世界の終わり"や、一曲目は"ゲット・アップ・ルーシー"でその後ROSSOに展開して"シャロン","星のメロディー","1000のタンバリン"で畳み掛けて、ブランキーの"Sweet Days","ダンデライオン",最後は"赤いタンバリン"辺りですかね。せっかくだから"ブラックタンバリン"もやろうかな。今思いつきました。」
「そう、なかなかセンスのいい選曲ね。いつもこんな感じなの?」
「ブランキーやミッシェルはよくやりますけど、ROSSOは初めてですね。」
「そう、ならいい日に来たわね」
大人な余裕のある微笑みに心を奪われそうになる。
相変わらず何を考えているのかわからないが、明日のデートといい嫌われてはないのだろうか。
むしろ、好意を抱かれてる?
いや、でも…
この気持ちが何なのかさえもわからないままチューニングに終え挨拶をする。
「初めましての方も、2度目ましての方も、それ以上の方もよろしくお願いします。青木貴裕、あ、Takahiro Aokiです。」
「青木くーん!がんばってぇ!」
「こっち向いてー」
いつの間にか追っかけみたいな女子高生の集団ができていた。
悪い気はしないが、恥ずかしさが100倍勝つので、少し俯きながら右手をあげ応える。
「きゃー。」
「かっこいいー」
黄色い声援をかき消すようにギターを鳴らす。
「レッツ・パーティー!」
予定にはなかったBLANKEY JET CITYのSALINGAᎡのリフを弾き始める。
セトリを無視するなんて初めての経験だった。
何故こんな事が起きたのかTell Me Why?SALINGER
2曲目からは予定通りTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの"ゲット・アップ・ルーシー"
続いて"世界の終わり"、"ブラックタンバリン"
ROSSOへと続く流れで流石にマニアック過ぎるので説明を付け加える。
ROSSOとはイタリア語で"赤"意味すること(この時点でスーパーかっこいいのが伝わってくれ、!)
フロントマンにTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのチバユウスケ氏、ベースにBLANKEY JET CITYの照井利幸氏を迎えて結成された伝説敵なバンドだと。
まあ曲が始まればそんな野暮ったい説明も不要だ。
"シャロン","1000のタンバリン","星のメロディー"
どれも夜空に輝く者たちを唄った曲は、都会の光でほとんど見えなくなった星空へと誘う。
そんなロマンチックな曲が終わったあとでBLANKEY JET CITYの"Sweet Days"で"愛"の本質を奏でる。
続いて"ダンデライオン"
"愛"の終わったあとの曲。
最後はBLANKEY JET CITY1番の名曲"赤いタンバリン"で締める。
「今夜もお付き合いありがとう御座いました。」
そう言って終わると本当に最後まで見ていた小嶋先生へと自然と視線が向かう。
「相変わらずいい歌声ね。歌もだいぶ上手くなったんじゃない?」
「ありがとうございます。全部小嶋先生のおかげですよ。」
「わたし?わたしは特になにもしてないわよ」
「あのとき声をかけて褒めてくれたじゃないですか!
あれがなかったら俺いまギター続けてたかわかんなかったっす。」
「あれは思ったままを伝えたまでよ。それにずっと独りで可哀想だったから。」
「ほんとっすよね、誰も聴いてくれなくて…笑あ、そうだ。」
「最後に1曲、アンコールやります。[Alexandros]でワタリドリ」
13
いい弾き語りができたと余韻に浸りながら家に着くと1通のLINEに気づく。
「明日13時ごろ上野でいい?」
ひかるからだった。
「少し早めてお昼一緒に食べよう。」
と、打ち終わった後で明日も小嶋先生が来ることを思い出す。
「13時にしてお昼は各自食べてこようか」
人生初とも言える女の子とのデート、一体どうなってしまうのかと期待2割不安8割で布団に入ったが眠れず筈もなくTHE PINBALLSを聴きながらとりあえずベッドで横になり目を閉じて朝を迎えた。
#創作大賞2026 #エンタメ原作部門