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Photo bysalmonmayo

電話よ、鳴れ!

    五月。二件のアルバイトに応募した。一件は不採用。もう一件は、結果待ちである。

    六月になったし、そろそろ電話がかかってくる頃だろう。でも昨日も今日も、かかってこない。だんだんと弱気になってくる。明日、明後日になっても連絡がなければ、今回も不採用だろう。滅多に鳴らないスマートフォンばかり気にしながら、この文章を書いている。

    少し前まで「ずっと専業主婦でいいや」と思っていた。犬の散歩もあるし、子どもがいつ体調を崩すのかわからない。家事との両立にも自信がない。予測できない何かにいつも怯えていた。

    しかし現実は厳しい。物価は上がる一方だし、息子の塾費用もかかる。おまけに趣味の小説執筆への投資としてMacBookまで購入してしまった。毎月、送られてくるクレジットカードの明細を見ながら夫は小さくため息をつく。布団の中でも、起きてからもお金の話をしている。ほとんどが必要な出費だが、専業主婦の私は少しだけ肩身が狭かった。

    昨年一年間、PTAの広報部長をやっていた。絶対やりたくなかったのに、くじ引きで当たってしまった。先生への電話、印刷会社との調整、原稿集め、仕事の割り振り、書類作成。それはそれはとても大変な仕事だったが、なんとか一年やり遂げた。終わったあと不思議な達成感があった。

    「今ならなんだってできるかもしれない」

    その勢いのまま、三月からアルバイトを探し始めた。希望は週三〜四回、一日四時間程度。扶養内で土日、祝日の勤務も可能。

    ところが、なかなかうまくいかない。最初にアルバイト情報サイトで応募した企業からは、まったく返信がなかった。既読すらつかない。勇気を出して応募したのに、ちょっと腹立つ。五月中旬に応募した企業では、面接の際に「あと四人応募者がいまして……」と言われた。数日後、丁寧な不採用メールが届いた。

    そして、五月下旬に応募した企業。面接は驚くほど楽しかった。普段の私は口下手で、会話が続かないことも多い。「へえ、そうなんですね」で終わってしまうこともある。それなのにその日は、自分でもびっくりするくらいベラベラ喋っていた。なんとなく「ああ、ここで働くことになるのかもしれない」と思った。だからこそ不採用だったら、めちゃくちゃ凹む。それにしても、アルバイトを探すのってこんなに大変だったっけ?

    私が20代の頃だった。アルバイトの面接に行くと「明日から、来てもらえますか」と言われたことが何度かあった。「ああ、バイトって、こんなにあっさり決まっちゃうんだな」と思った。

    飲食店のバイトでは、お客様の注文を紙でメモして、裏でハンディ入力をして、少しずつ仕事を覚えていった。でも最近は、ハンディを使っている飲食店って少なくなった。面接でも「オーダーは全部タッチパネルです。ホールもやってもらいますが、キッチン業務をメインでやってもらいます」と言われた。私が専業主婦をしている16年もの間に、生活だって随分と便利になったし、働き方だって大きく変わったのかもしれない。

    「今ならなんだってできるかもしれない」

    そんなふうに考えているけれど、実際はちょっとだけ不安だ。働くことで収入は得られる。しかし、今の生活がどういうふうに変わるのかわからない。おまけにもう40代だし、自分より年下の人も職場にはたくさんいるのだろう。うまくやれるだろうか。

    それでも、私は冒険をしてみたい。

    もしかしたら新しい友達ができるかもしれないし、知らなかった世界を見られるかもしれない。失敗したっていい。どんな仕事も、最初は何もわからなかった。

    今日もスマートフォンをちらちら見ている。いつでもメモできるようにボールペンをそばに置いている。

    電話よ、鳴れ!

     
     
    さいとうきいろ。1983年6月30日生まれ。だいたい生活に振り回されながら、日記や小説を書いています。夫は車を欲しがり、息子のプリントはくしゃくしゃ、犬は散歩拒否、私のダイエットは続かない。それでも生活は続く。https://potofu.me/kiiro630momo

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