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AGIは「チャットAI」では終わらない。デミス・ハサビス氏が語った、AI・エージェント・科学発見の次の10年

更新日:2026/5/4

デミス・ハサビス氏が、Y Combinatorのポッドキャストに出演
Y Combinatorのポッドキャスト「How to Build the Future」に、Google DeepMindのCEOであるデミス・ハサビス氏が出演しました。
今回のエピソードは「How to Build the Future: Demis Hassabis」として公開されており、AGI、エージェント、AlphaFold、AIによる科学発見、そしてAI時代の起業家が何を作るべきかが語られています。Apple Podcasts上のエピソード説明でも、ハサビス氏が「AGIに到達するためにまだ何が必要か」「創業者がどう先回りすべきか」「次の大きな科学的ブレークスルーは何か」を語った回として紹介されています ⟦S2⟧。
この対談が面白いのは、単なる「AIの未来予測」ではないところです。
ハサビス氏は、現在のAIに何ができて、何がまだ足りないのかをかなり冷静に見ています。そして同時に、AIが今後、チャットボットやコーディング支援を超えて、科学や現実世界の問題解決にどう関わっていくのかを語っています。
この記事では、まずデミス・ハサビス氏がどういう人物なのかを紹介し、そのうえで、今回の対談で語られた内容を整理します。
その後で、対談から見えてくるハサビス氏独自の視点、そしてこのトークの意義や、私たちが何を読み取るべきなのかを考えていきます。

Gemini 3 - Nano Banana Pro にて作成した、記事の全体像インフォグラフィック画像
ChatGPT Images 2.0 にて作成した、記事の全体像インフォグラフィック画像

※作成した記事内容をGammaに入力しスライド自動作成させました。スライドの方が見やすいようでしたらこちらをご覧くださいませ。



1. デミス・ハサビス氏とは|「AIで人類の難問を解いてきた人」

幼少期からチェスの神童として知られ、13歳で同年代世界2位の実力を持っていたと言われています。17歳のときには名作シミュレーションゲーム『Theme Park』の開発に関わり、その後ケンブリッジ大学でコンピュータサイエンス、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで認知神経科学の博士号を取得した、若い頃からかなり異彩を放っていた人物です ⟦S3⟧。
2010年にはDeepMindを共同創業。「あと10年は不可能」と言われていた囲碁をAlphaGoで攻略し、世界トップ棋士イ・セドル九段を4勝1敗で破る歴史的快挙を達成します。さらにその技術を科学に応用したAlphaFoldで、生物学50年来の大難問とされたタンパク質構造予測を解き、2024年のノーベル化学賞を受賞しました ⟦S4⟧。
現在はGoogle DeepMindのCEOとして、AGIの実現と、AIを科学発見の「究極の道具」にすることを目指している、世界でも数少ない人物です。


2. 動画で語られたこと

ここからは、今回の対談で実際に語られた内容を、動画の流れに沿って整理します。
(タイムスタンプは、YouTube / Apple Podcastsに掲載されているチャプター情報と、トランスクリプトの内容に基づいて整理しています ⟦S1⟧ ⟦S2⟧)

2-1. AGIにはまだ足りないものがある(01:48〜03:36頃)
最初のテーマは、AGIに向けて今のAIに何が足りないのかという問いです(質問は01:53頃から、回答は02:13頃から)。
ハサビス氏は、大規模事前学習、RLHF、Chain-of-Thoughtといった現在の技術は、最終的にAGIの一部になるとみています。ただし、まだ足りないものがあるとも語っており、それが継続学習、長期推論、記憶、一貫性です。
現在のAIは賢く見える一方で、長期的に学び続けるのが苦手で、難しい問題は解けるのに簡単な論理問題で失敗することもあります。ハサビス氏は「今のAIの方向性は間違っている」と言っているわけではなく、今の路線は有望だが、AGIに到達するにはあと1つか2つの大きなアイデアが必要かもしれない、という立場です。
2-2. 巨大なコンテキストウィンドウだけでは「記憶」にならない(03:36〜06:14頃)
次のテーマは記憶の問題です。長いコンテキストウィンドウに大量の情報を入れれば記憶しているように振る舞わせられますが、ハサビス氏はそれだけでは不十分と考えています。
人間の脳は、重要な経験を整理し、不要なものを忘れ、必要なときに思い出します。睡眠中に記憶が整理される仕組みもあります。これは認知神経科学を研究してきたハサビス氏自身の関心とも重なります ⟦S3⟧。
AGIに必要なのは単なる「巨大なメモ帳」ではなく、何を覚え、何を忘れ、いつ思い出すかを判断できるシステムです。これは今後のエージェントにとっても重要な論点です。
2-3. AlphaGoの思想は、現在のGeminiにもつながっている(06:14〜08:06頃)
DeepMindはAtari、AlphaGo、AlphaZero、StarCraft IIのAlphaStarなど、ゲーム環境で目標を達成するAIを作ってきました ⟦S3⟧。
ハサビス氏は、現在のGeminiの思考モードやChain-of-Thoughtにも、AlphaGoで培った探索・計画・強化学習の思想が戻っていると見ています。
ハサビス氏にとってAIは文章を生成するだけのシステムではなく、複数の可能性を探索し、評価し、計画して行動するシステムです。現在の大規模言語モデルも、最終的にはエージェント的な問題解決システムに近づいていく、という見方です。
2-4. 小型モデルとローカルAIの重要性(08:06〜12:05頃、20:26〜22:26頃)
Gemini FlashやGemmaのような小型モデルの重要性も語られました。
巨大なフロンティアモデルは最先端能力に必要ですが、AIを多くのユーザーに届けるには、低コストで速く軽く動くモデルも重要になります。ハサビス氏は、スマートフォン、ロボット、ARグラスなどで強力なローカルAIが動く未来を見ています。
これはコストだけでなくプライバシーやセキュリティの面でも重要です。映像や音声をすべてクラウドに送らず、まずローカルで処理し、必要時のみクラウドに任せる構成が今後重要になります。Google DeepMindもGemmaをクラウド・ラップトップ・スマホで使えるオープンモデルとして提供しています ⟦S7⟧。ローカルとクラウドをどう組み合わせるかが、これからのAI設計の重要なテーマです。
2-5. 継続学習が、エージェントの本格化に必要になる(12:40〜13:32頃)
エージェントの話の前に、ハサビス氏は継続学習の重要性を語っています。
現在のエージェントは複数のツールを繋いだりタスクの一部を任せたりはできますが、まだ「任せきる」のは難しい。理由の一つは、特定の文脈に適応して学び続ける能力が不足していることです。
人間なら仕事の進め方、相手の好み、会社のルール、過去の失敗を少しずつ学んでいきますが、現在のAIエージェントはその継続的な適応がまだ弱い。だからこそ継続学習は、AGIにもエージェントにも欠かせない要素なのです。
2-6. AIは賢いが、まだ基本的な推論で失敗する(13:32〜15:33頃)
続いて推論能力の問題です。現在のAIは難しい数学問題や競技プログラミングで高い能力を見せる一方、簡単な算数や論理問題でミスをします。ハサビス氏はこれを「ギザギザの知能」と捉えています。
対談ではチェスの例が挙がります。ある手が悪手だと気づくのに、他に良い手が見つからず結局その悪手に戻ってしまう。必要なのは長く考えることではなく、自分の思考過程を監視し、間違ったループに入ったら修正できる能力です。
Stanford HAIのAI Index 2026も、近年のAIがベンチマークで急速に進歩する一方、基本的な推論で失敗が残ることを示しています ⟦S8⟧。
2-7. エージェントは過大評価か、それとも始まったばかりか(15:33〜18:31頃)
ハサビス氏はエージェントについて「まだ始まったばかり」と語ります。ここでいうエージェントとは、目標を理解し、計画し、行動し、ツールを使って問題を解決していくAIのことです。
DeepMindはAtariやAlphaGoの時代からこの流れに取り組んでおり、現在のブームはその延長線上にあります。ただしハサビス氏は冷静で、大量のエージェントを長時間走らせる実験はあるが、コストに見合う成果が常に出ているわけではない、と見ています。
つまりエージェントは過大評価というより、本格的な価値がどこで出るかを探っている初期段階にあるわけです。AI Index 2026も、エージェントの実タスクでの信頼性に課題が残ると指摘しています ⟦S8⟧。
2-8. AIは本当に創造的になれるのか(18:31〜20:26頃)
特に印象的なのが創造性についての話です。AlphaGoの「Move 37」は人間の棋士が思いつかなかった創造的な一手として有名ですが、ハサビス氏はそれだけではまだ足りないと言います。
本当に創造的なAIとは、囲碁で新しい手を打つだけでなく、囲碁というゲームそのものを発明できるAIではないか、という問いを立てます。
既存のルール内で最適解を見つけることと、新しいルールや問題を作ることは違う。科学でも同様で、難問を解くAIもすごいが、本当にすごいのは一流の科学者が人生をかけて取り組みたい問いを生み出せるAIだ、というのがハサビス氏の創造性観です。
2-9. Geminiは最初からマルチモーダルに作られた(22:26〜24:08頃)
ハサビス氏は、Geminiが最初からマルチモーダルに作られたことを強調しています。Google公式発表でも、Geminiはテキスト、コード、音声、画像、動画を横断するよう最初から設計されたと紹介されています ⟦S6⟧。
重要なのは、マルチモーダルAIが単に「画像も読めるAI」ではないことです。ロボットやARグラス、現実世界を理解するAIには、視覚、音声、物理的文脈、直感的な物理理解が必要になります。つまりマルチモーダルAIは、AIが現実世界に出ていくための基盤です。Gemini Roboticsも、Geminiをロボット領域に拡張する取り組みです ⟦S11⟧。
2-10. 推論コストが下がっても、計算資源は使い切られる(24:08〜25:24頃)
推論コストは下がり続けています。では将来ほぼ無料になるのか。ハサビス氏は完全な無料化にはなりにくいと見ています。
なぜなら計算資源が増えれば、人間や企業はもっと多くのAIを使うようになるからです。エージェントを大量に走らせる、複数の推論経路を並列に試す、複数のAIの答えを比較する。そうすれば安くなった計算資源もすぐに使い切られます。AIの効率化は進むが、効率性そのものの重要性はなくならない、というわけです。
2-11. AlphaFoldから仮想細胞へ(25:24〜28:24頃)
科学応用ではAlphaFoldが中心です。タンパク質構造予測の長年の難問に突破口を開き、2024年のノーベル化学賞にもつながりました ⟦S4⟧。
次の大きな目標としてハサビス氏が挙げるのが仮想細胞です。細胞全体をシミュレーションし、外から刺激を与えたときに実験に近い結果を返すモデルで、創薬や生命科学の試行錯誤を大幅に短縮できる可能性があります。
ただし非常に難しい問題でもあります。生きた細胞を十分な解像度で動的に観察するデータがまだ足りないからです。ハサビス氏は「おそらく10年程度」と述べていますが、これは確定したロードマップではなくハサビス氏個人の予測として受け止めるべきです。
2-12. AIは科学の「究極の道具」になる(28:24〜30:43頃)
ハサビス氏にとってAIの最大の意義は科学を前進させることです。ハサビス氏はDeepMindのミッションを「知能を解き、それを使って他のすべてを解く」と表現します。
AlphaFoldはその代表例で、AlphaFold Protein Structure Databaseでは2億以上のタンパク質構造予測が公開されています ⟦S5⟧ ⟦S13⟧。ハサビス氏にとってAIは便利ツールではなく、科学の根本問題を解くための「究極の道具」です。創薬、材料科学、気候、数学、生命科学などで今後さらに大きな役割を果たしうる、という見方です。
この方向性は、Google ResearchのAI co-scientistやAlphaEvolveなどAI for Scienceの潮流とも重なります ⟦S9⟧ ⟦S10⟧。
2-13. 起業家は「APIラッパー」ではなく、深い技術領域に向かうべき(30:43〜33:30頃、37:59〜40:53頃)
YC主催のため、起業家への助言も多くありました。ハサビス氏が強調していたのは、基盤モデルのAPIを包むだけのサービスでは長期的な防御力を持ちにくいという点です。
これから重要なのは、AIと深い専門領域を組み合わせること。材料科学、創薬、ロボティクス、バイオ、製造、気候、エネルギーなど、専門知識・実験・データ・装置・規制・物理的制約のある領域は簡単に置き換えられません。
ハサビス氏は深科技術スタートアップは10年単位の旅になるとし、自身のAGIタイムラインは2030年頃だとも語ります(個人の見通し)。だから今深科技術の会社を始めるなら、途中でAGI級システムが登場する前提で考える必要があるというのがハサビス氏の助言です。
2-14. AlphaFold型ブレークスルーが起きる条件(33:30〜35:20頃)
AlphaFold型ブレークスルーが起きやすい条件についても語られました。ハサビス氏によれば、現在のAIが大きな力を発揮するのは、巨大な組み合わせ探索空間があり、明確な目的関数があり、十分なデータか良いシミュレーターがある問題です。
囲碁の手探索もタンパク質構造予測もこの構造を持ちます。AIが得意なのは何でも魔法のように解くことではなく、人間には探索しきれない巨大な可能性空間から有望な答えを見つけることです。この条件が揃った領域では、今後もブレークスルーが起きる可能性があります。
2-15. AIは本当に科学的発見ができるのか(35:20〜37:59頃)
最後に、AIが本当の意味で科学的発見をできるかという話です。ハサビス氏はAI co-scientistやAlphaEvolveに触れ、AI支援が進んでいることを認めます ⟦S9⟧ ⟦S10⟧。
一方で慎重で、AIが本当の意味で「巨大な科学的発見」を独自に成し遂げた例はまだ見ていない、という立場です。ハサビス氏が求める水準は既存の難問を解くだけではなく、一流の科学者が人生をかけて取り組みたい新しい問題を生み出すこと。
ハサビス氏はこれを「Einstein test」と表現します。過去のある時点までの知識だけを与えたとき、特殊相対性理論のような飛躍に到達できるか、という問いです。


3. 対談内容の重要点まとめ

ここまでの内容は、動画内でハサビス氏が実際に語っていたことを整理したものです。話題は多岐にわたりましたが、振り返ってみると、要点や重要な点は大きく7点ありました。順に整理します。

  • ① AGIにはまだ足りないものがある:継続学習、長期推論、記憶、一貫性といった要素が、現在のAIにはまだ十分ではない。AGIへ到達するには、あと1つか2つの大きなアイデアが必要かもしれない。

  • ② 記憶は「巨大なコンテキストウィンドウ」だけでは実現できない:本当の意味での記憶とは、何を覚え、何を忘れ、いつ思い出すかを判断できる仕組みのこと。単に長いメモ帳を持たせることとは本質的に違う。

  • ③ エージェントはAGIへの重要な道筋だが、まだ初期段階にある:DeepMindがAtariやAlphaGoの時代から取り組んできた流れの延長線上にあるが、本格的な価値がどこで出るのかは、まだ探っている段階。

  • ④ 小型モデルとローカルAIは、AIを社会に広く届けるうえで重要になる:スマートフォン、ロボット、ARグラスなどで動く軽量なAIは、コスト・速度・プライバシーの観点から今後ますます重要になる。

  • ⑤ AIは科学の「究極の道具」になり得る:AlphaFoldはその象徴的な事例。創薬、材料科学、仮想細胞など、科学領域へのインパクトはこれからさらに広がる可能性がある。

  • ⑥ AlphaFold型ブレークスルーには条件がある:巨大な組み合わせ探索空間、明確な目的関数、十分なデータか良いシミュレーター。これらが揃った領域で、AIは特に強い力を発揮する。

  • ⑦ 起業家は「APIラッパー」ではなく、AIと深い専門領域を組み合わせるべき:基盤モデルのAPIを包むだけのサービスは長期的な防御力を持ちにくい。専門知識・実験・データ・物理的制約のある領域こそ、価値が残る。

ここから先は、これらの内容を踏まえたうえで、そこから読み取れるハサビス氏独自の視点や、このトークの意義について考えていきます。


4. 対談でのデミス・ハサビス氏独自の視点

この対談を聞いていて強く感じるのは、ハサビス氏のAI観が、単なる「モデル性能」や「プロダクト競争」に閉じていないということです。
ハサビス氏の視点には、独自の特徴があると感じました。

4-1. AIを「知能の研究」として見ている
多くの人はAIを便利なツールやソフトウェアの延長として捉えますが、ハサビス氏はもっと根本的に「知能とは何か」という問題として見ています。ハサビス氏が認知神経科学を研究してきたことと関係しており、記憶、想像、睡眠中の記憶整理、作業記憶と長期記憶の違いといった脳科学的視点がハサビス氏のAI観に強く反映されています。だから単に「コンテキストウィンドウを長くすればいい」とは考えず、人間の知能のように情報を整理し抽象化し、必要なときに使えることを重視している点が、ハサビス氏の大きな特徴です。
4-2. AIを「ゲーム」から「科学」へ拡張して考えている
ハサビス氏のキャリアを見ると、ゲームと科学がつながっています。一見別物に見える囲碁AIのAlphaGoとタンパク質構造予測のAlphaFoldも、ハサビス氏の中では同じ構造を持ちます。巨大な探索空間、明確な目的関数、評価方法があり、人間には探索しきれない組み合わせの中からAIが有望な答えを見つけるからです。だからハサビス氏はゲームAIの成果を単なる勝利ではなく、科学発見へつながる前段階として捉えます。AlphaGoの本質は巨大な可能性空間の中から人間が見つけられなかった一手を発見できることを示した点にあり、AlphaFoldはその考え方を科学の問題に応用した代表例です。
4-3. AGIを「一つの巨大な脳」ではなく「道具を使うシステム」として見ている
ハサビス氏の発言で特に重要なのは、AGIがすべてを一つの巨大モデルに抱え込むとは考えていない点です。ハサビス氏はGeminiやClaudeのような汎用AIが、AlphaFoldのような専門システムをツールとして使う世界を想定しています。タンパク質構造予測の知識をすべて汎用言語モデルに詰め込む必要はなく、専門システムは専門システムとして存在し、汎用AIが必要に応じて呼び出す方が効率的だからです。つまり未来のAIは万能モデルというより、専門ツールを使いこなす知的なオーケストレーターになる可能性があり、これから何を作るべきかを考えるうえで非常に重要な視点です。
4-4. 創造性を「答えを出すこと」よりも「問題を作ること」として見ている
もう一つ印象的だったのは、創造性に対する見方です。AlphaGoの「Move 37」は人間の棋士が思いつかなかった創造的な一手として知られますが、ハサビス氏はそれだけでは足りないと言います。本当に創造的なAIとは、Goで新しい手を打つだけでなく、Goというゲームそのものを発明できるAIではないか、という問いを立てます。既存ルール内で最適解を見つけることと、新しいルールや問題、研究テーマを作ることは違う。科学でも同じで、難問を解くAIもすごいが、本当にすごいのは一流の科学者が人生をかけて取り組みたい新しい問いを生み出せるAIであり、ハサビス氏は創造性をこのレベルで考えています。
4-5. AIの未来を「ソフトウェア」だけでなく「物理世界」まで含めて見ている
ハサビス氏の視点はソフトウェアの中だけに閉じていません。創薬、材料科学、ロボティクス、仮想細胞、エネルギー、数学。ハサビス氏が重視するのはAIが現実世界の問題にどう接続されるかです。今のAIサービスの多くは文章、画像、コード、業務支援などデジタル空間で完結していますが、ハサビス氏が見ているのはその先で、AIが薬を設計し、新素材を見つけ、ロボットを動かし、生命現象をシミュレーションし、科学者の仮説づくりを助ける世界です。ハサビス氏にとってAIは単なるアプリケーションではなく、現実世界を理解し、変えるための知的基盤であり、この見方はAI Index 2026 ⟦S8⟧ やGoogleがagentsやagentic workflowsを重要フロンティアと位置づける動向 ⟦S12⟧ とも整合しています。


5. この対談の意義

この対談の意義は、AIの未来を「性能競争」だけで見ていない点にあると考えます。
多くのAI議論では、モデルがどれだけ賢くなったか、どのベンチマークで勝ったか、どの会社がリードしているかに注目が集まりがちです。
しかしハサビス氏の議論は少し違います。
ハサビス氏が見ているのは、AIが知識をどう記憶し、どう考え、どう行動し、どう科学的発見につながるかです。
現在のAIは、チャットボットとしてはすでに非常に強力です。

コードも書けます / 文章も作れます / 調査もできます / 画像や音声も扱えます。

しかし、AGIに近づくためには、それだけでは足りません。
必要なのは、

「長期的に学び、状況に適応し、自分の思考を点検し、ツールを使い、現実世界や科学の問題に介入できる能力」

です。
この意味で、今回の対談は「次にモデルがどれだけ大きくなるか」という話ではありません。
むしろ、AIがどのような知能の形へ進化していくのかを考えるための重要な材料だと思います。


6. ハサビス氏の言葉から読み取る、AI時代を生き抜くための5つの視点

この対談で重要なのは、ハサビス氏が単に「AGIは近い」と語っているわけではないことです。むしろハサビス氏は、大規模言語モデルやエージェント、小型モデル、AlphaFoldのようなAIによる科学応用が進む現状を冷静に見ています。ハサビス氏の視点はそこからさらに一段深く、今のAIがAGIに向かう途中で何をまだ持っていないのか、その不足を埋めたときAIが社会や科学にどのような役割を持つのかに向けられています。
そして、この対談から私たちが重点的に読み取るべきことは、大きく5点あると考えます。 以下、その5つの観点を順に整理していきます。

6-1. AIの進化を「モデル性能」だけで見てはいけない

今のAIトレンドではどのモデルが賢いか、安いか、速いかに注目が集まりがちですが、ハサビス氏はAGIに必要なものとして継続学習、長期推論、記憶、一貫性を挙げており、性能競争として見るだけでは足りません。本当に重要なのは、過去の経験を覚え、新しい状況から学び、長い時間軸で考え、自分の推論の間違いに気づき、必要な道具を選んで使えるかであり、これが次のAIの本質的な競争領域になります。読み取るべき第一のポイントは、AIの進化は「より大きなモデル」だけでなく、「より知的に振る舞うシステム」へ向かっているということです。

6-2. エージェントは流行語ではなく、AGIへの通り道として見るべき

エージェントは今のAI業界で流行語化していますが、消費してしまうと重要な部分を見落とします。ハサビス氏にとってエージェントは単なる自動化ツールではなく、目標を理解し計画し環境に働きかけ、ツールを使いながら問題を解くシステムで、DeepMindがAtariやAlphaGoの時代から取り組んできたテーマです。ハサビス氏は今のエージェントがすぐ何でも自動でこなせるとは考えず、まだ実験段階で本当に価値が出る使い方を探っているとみています。大事なのはエージェントを「作業の自動化」ではなく「問題解決の構造」として捉えることで、計画・情報収集・ツール活用・結果評価・やり直しの流れをどこまで安定して実行できるかが今後のAI活用の重要な焦点になります。

6-3. AI時代の価値は「AIが使える専門基盤」に移っていく

起業家にとって特に重要なのはAPIラッパーの話です。ハサビス氏は基盤モデルのAPIを包むだけのサービスでは長期的な防御力を持ちにくいと見ています。本当に価値を持つのはAIに置き換えられにくいもの、あるいはAIが使う専門基盤になり得るもので、独自の専門データ、実験設備、シミュレーター、現実世界との接点、深いドメイン知識、専門家のワークフロー、科学や産業の根本問題に接続する技術などです。これらはモデルが進化しても消えず、AGI級システムが登場したときAIが呼び出す「道具」になり得ます。AIを使う側か、置き換えられる側か、それともAIが使える専門基盤を作る側に立つのか。ハサビス氏は私たちにこの問いを投げかけています。

6-4. 本当に見るべきなのは、AIが「現実世界」にどう接続するか

もう一つ読み取るべきなのは、ハサビス氏がAIをソフトウェアの中だけで考えていない点です。今のAIブームでは文章・画像・コード生成や業務自動化が目立ちますが、ハサビス氏が本当に見ているのはその先で、AIが創薬や材料科学を変え、生命現象をシミュレーションし、ロボットを動かし、科学者の仮説づくりを助ける世界です。AlphaFoldはその象徴的事例で、ノーベル財団もAlphaFold2がタンパク質構造予測の長年の難問に突破口を開いたことを評価しています ⟦S4⟧。AIの本当のインパクトは画面の中で完結せず、科学、医療、製造、ロボティクス、エネルギーのような領域に入ったときさらに大きくなる。読み取るべきは、AIの次の大きな価値はデジタル空間の外側にも広がっていくということです。

6-5. 私たちは「AIで何ができるか」だけでなく、「AIが進化した世界で何が残るか」を考えるべき

今は多くの人が「AIで何ができるか」を考え、AIで記事やコード、資料を作り、業務を自動化することを目指しています。それも大事ですが、ハサビス氏の対談を踏まえるともう一段深い問いが必要になります。それはAIがさらに進化した世界で、何が本当に価値として残るのかという問いです。単純な作業はAIに置き換えられ、単なるAPIラッパーも差別化が難しくなる一方、深い専門性、独自のデータ、現実世界との接点、人間の創造性、審美眼、問題設定能力はむしろ重要性を増していきます。読み取るべきはAIの進化にただ驚くことではなく、AIが進化するほど私たちはどこに価値を置くべきかを考える必要があるということで、ハサビス氏の話はそのための視点を与えてくれます。


7. まとめ

今回のデミス・ハサビス氏の対談は、AGI、エージェント、科学発見、スタートアップ戦略が一つにつながった非常に示唆の多い内容でした。
ハサビス氏のメッセージを一言でまとめるなら、こうです。

AIは、賢いチャットボットから、記憶し、学び、行動し、科学を前進させるシステムへ向かっている。

ただし、そのためにはまだ解くべき課題があります。

継続学習 / 長期推論 / 記憶 / 一貫性 / 創造性

これらは、AGIに向けた主要な未解決課題です。
一方で、すでにAlphaFoldのように、AIが科学を大きく変える事例も出ています。
これからの10年で、AIはソフトウェアの世界だけでなく、創薬、材料、生命科学、ロボティクス、エネルギーといった物理世界の問題にも深く入り込んでいく可能性があります。
だからこそ、今問うべきなのは「AIで何が簡単に作れるか」だけではありません。
むしろ、問うべきなのは、

AGI級のシステムが現れた世界でも、本当に価値を持つものは何か

ということなのだと思います。
デミス・ハサビス氏の視点が面白いのは、AIを単なるツールとしてではなく、知能そのものを理解し、科学を前進させ、現実世界の問題を解くための基盤として見ているところです。
今回の対談は、AIの最新トレンドを追いかけるためだけでなく、これからの時代に自分たちがどこに価値を置くべきかを考えるうえで、とても重要な内容だったと思います。

Gemini 3 - Nano Banana Pro にて作成した、記事の全体像インフォグラフィック画像
ChatGPT Images 2.0 にて作成した、記事の全体像インフォグラフィック画像

参考・出典

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