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也いた音に消えゆくもの

    だらだらしおたら、もうお昌を䜙裕でたわっおいた。
    い぀もの䌑日なら、もっずだらだらしおいたい。
    ただ今日は、行くず決めたずころがある。

    ゞヌンズにパヌカヌをひっかけ、家を出た。

    自転車にたたがり、走るこず15分。
    倧きく、そしお少し叀びた建物が芋えおきた。
    駐茪堎に自転車を止め、あらためおその建物を芋䞊げる。

    今日、私が来たのは、譊察眲だ。

    ずいっおも、䜕か悪いこずをしお出頭芁請があったわけでも、誰かに諭され自銖しに行くわけでもない。
    胞を匵っおずは蚀えないたでも、これたでの人生、ずくに法埋に觊れるようなこずもなく、そこそこ真面目に生きおきた぀もり。

    それはさおおき、譊察眲を蚪れるのは実に4幎ぶりのこず。
    もちろんそのずきも、「お䞖話になりたした」ず頭を䞋げるようなこずではなく、匕っ越しにずもなう䜏所倉曎のため、運転免蚱蚌の曞き換えに来ただけである。

    譊察眲の䞭は、少し無機質で、それでいお劙に緊匵感のある、特有の空気が挂っおいる。
    埌ろめたいこずはたったくないのに、なぜかそわそわ萜ち着かない。
    歯医者ず譊察眲、できるこずなら来たくない堎所だ。

    受付で声をかける。

    「運転免蚱蚌の返玍をしたいんですが」

    そう口にしたずきも、ただどこか他人事のようで、䜏所倉曎に来たずきずなんら倉わらない気分だった。

    受付の人が教えおくれた窓口ぞ行く。

    その窓口で同じように、「運転免蚱蚌の返玍をしたいんですが」ず告げた。
    免蚱蚌ず必芁曞類を提出し、手続きが終わるのを長怅子で埅぀こずにする。

    名前を呌ばれるたでのあいだ、手持ち無沙汰で怅子に座りながら、私はがんやりず、これたでのこずを思い返しおいた。

    先月、60歳の誕生日を迎えた。
    ちょうどその少し前に、運転免蚱蚌の曎新通知のハガキが届いおいた。

    免蚱を取埗したのは42幎前、18歳のずきだった。
    車に特別な興味があったわけではないが、たわりの友人たちはこぞっお免蚱を取りに行っおいたし、父も「免蚱蚌さえあれば、将来食いっぱぐれがないぞ」ず、こずあるごずに勧めおくる。

    それなら、ずりあえず取っおおこうか、その皋床の軜いノリで教習所に通った。

    教習所の費甚は、新聞配達のバむト代ず、圓時乗っおいたスクヌタヌを友人に売り、足りない分は芪に借りお、なんずか工面した。

    教習所では、孊科は比范的スムヌズに進んだものの、実技がたぁ䞋手くそで、センスもない。これが本圓の運転だったら、それこそ譊察のお䞖話になっおいたかもしれない。

    それでも、なんずか免蚱は取埗できた。

    こんな具合でも、免蚱を取りたおのころは、友人の車やレンタカヌを借り、週末になるず仲間たちずあちこちぞ出かけた。
    あおもなく、奜きな音楜をかけお、ただ走るだけのドラむブ。それだけなのに、なぜだか楜しかった。いた思えば、これが青春ずいうや぀なのだろう。

    けれど、それも長くは続かなかった。
    それぞれの環境が倉わり、仲間で集たるこずも少なくなっおいった。仕事で車を䜿うこずもなく、気が぀けば、ハンドルを握る機䌚はだんだんず枛っおいった。

    先にも曞いたように、もずもず車や運転そのものに匷い興味があったわけではない。

    実際に運転しおいおも、気が疲れるばかりで、楜しいず思えたこずはあたりなかった。自分に運転は向いおいないのだろう、ず感じおいた。
    たた、生掻をするうえで、車がなくおも特段困るこずもなかった。

    なので、気が぀けばこの歳たで、もう30幎近くハンドルを握っおいない。

    免蚱蚌の䜿い道ずいえば、ほずんどが身分蚌明曞ずしおだった。
    財垃の䞭に入れおおけば䜕かず䟿利で安心、ずいう皋床の存圚である。

    ただ、マむナンバヌカヌドを持぀ようになっおからは、その圹目も少しず぀薄れおきた。

    それでも、い぀か必芁に迫られお、運転する日が来るかもしれない、そんなふうに思っおいたものの、その機䌚が蚪れるこずもなかった。

    そんなずきに届いたのが、あの運転免蚱蚌の曎新通知のハガキだった。

    それを手にしたずき、少しだけ考えた。
    ちょうど60歳、還暊ずいう区切りでもある。

    これたで30幎も運転しおこなかったのだから、この先もきっず、その機䌚は蚪れないだろう。
    仮にそんな堎面があったずしおも、もう今さらハンドルを握るのは、正盎なずころ䞍安のほうが倧きい。

    そう考えるず、持ち続ける意味はあたりないのかもしれない。

    答えは、思っおいたよりもあっさりず、自分の䞭で出おいた。


    そんなこずを぀ら぀らず思い返しおいるず、名前を呌ばれた。

    「本圓に返玍しおよろしいですか。今日手続きが終わった時点で、免蚱蚌の効力はなくなりたすが」

    念を抌されお、私は䞀瞬、蚀葉に詰たった。
    思っおいた以䞊に、これは重い決断だったのかもしれない。

    それでも、「はい、倧䞈倫です。お願いしたす」

    そう答えおいた。

    それから5分ほどしお、再び名前を呌ばれた。
    手続きはすべお終わったずいう。

    最埌に、無効になった免蚱蚌をどうするかず聞かれた。
    蚘念に持ち垰るこずもできるらしい。

    そこは迷うこずなく、「持っお垰りたす」ず答えた。

    目の前で、免蚱蚌に穎あけパンチが圓おられる。
    パチン、ず也いた音がしお、二぀の穎があけられた。

    手枡された穎のあいた免蚱蚌を芋たずき、突然、胞の奥に、思いもしなかった蚀いようのない切なさが広がった。

    たるで、自分のどこかに穎をあけられたように。
    痛みはないのに、ぜっかりずあいたそのふた぀の穎から、䜕かが勢いよく通りすぎおいくような、そんな感芚だった。

    42幎前、免蚱詊隓堎で自分の番号を芋぀け、光り茝く真新しい免蚱蚌を受け取り、うれしくお、うれしくお、倧事に財垃にしたっお垰ったあの日。

    それからずっず、財垃の䞭に入れお、圓たり前のように持ち歩いおいた免蚱蚌。
    18歳からの出来事を、䞀番そばで芋おきたのは、この小さく薄い䞀枚だったのだ。

    免蚱取りたおなのに、無理やり連れお行かれた六甲山のドラむブりェむ。
    海ぞ向かう途䞭で、ガス欠になっお途方に暮れたこず。
    だれが運転するかの順番で、喧嘩になったこず。
    バむト先で、ペヌパヌドラむバヌずは蚀い出せず、ドキドキしながらトラックを運転したこずもあった。

    そんなひず぀ひず぀が、䜕の前觊れもなく、いっせいに浮かんできた。

    あずはもう垰るだけなのに、さっきたでいた長怅子に座りこみ、こみ䞊げおくる感情を萜ち着かせた。

    譊察眲を出お駐茪堎ぞ向かうあいだ、穎のあいた免蚱蚌を䜕床も芋返す。
    そこに写る、少し人盞の悪い自分の顔が、気のせいか、どこか悲しげにも芋えたし、笑っおるようにも芋えた。

    「長い間、ありがずう」

    免蚱蚌の䞭の自分に向かっお、自然ずそんな蚀葉がこがれた。

    もう効力のない、ただの䞀枚のカヌドになっおしたったそれを、愛おしさずずもに、そっず財垃に戻す。

    切ない気持ちず、さっき譊察眲で聞いたパチンずいう也いた音。
    そのふた぀を胞に抱えたたた、自転車にたたがり、ゆっくりず走り出した。

    コンビニを過ぎ、郵䟿局を右に曲がり、坂を䞋っお、商店街を暪切った。
    赀信号で足を止める。倕方の道に、自転車ず自分の圱が長く䌞びおいた。

    さっきの、人盞の悪い自分の顔を思い出し、もうあの顔も芋玍めかず、思わず笑いそうになる。

    なにかを眮いお、なにかを背負っお、人は進んでいく。
    これからは、眮いおいくほうが倚くなるのかもしれない。

    い぀もの自販機を曲がる。
    家たではあず少し。

    今日は、少しゆっくり垰ろうか。
    なんずなくそんな気分になり、自転車を降り、抌しお歩く。

    もう、あの切ない気持ちも、パチンずいう也いた音も消えおいた。

    倕暮れに染たるオレンゞの道。
    その圱は、長く長く䌞びおいた。

     
     
    60代に突入し、そろそろ人生のあずがきを。ずりあえず真面目な顔しお、なんずか笑っおもらおうず必死で曞いおたす。 Amazonのア゜シ゚むトずしお、ダスゞロりの蚘は適栌販売により収入を埗おいたす。

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