
兄ちゃん、その勝ちホンマに実力か? 再現できへん勝ちは博打といっしょやで Bar Socosoco 第26回
🧔 マスター: 「(カウンターの奥で、静かに氷を砕く音が心地よく響く)……ほら、兄ちゃん。今夜はまた随分と派手な足取りで入ってきたな。顔がニヤけとるぞ。Bar Socosocoのドアをそんなに勢いよく開けるなんて、何かいいことでもあったんか?」
👨💼 僕(中野丈太郎): 「(カウンターの真ん中の席に勢いよく腰掛けながら)……マスター! 聞いてくださいよ! 実は今月、なんと過去最高の大型契約が取れたんです! チーム内でも今、僕がぶっちぎりのトップですよ。社内ではちょっとしたヒーロー扱いです。上司からも『中野、よくやった!』って肩を叩かれまくりで、正直、最高の気分です!」
🧔 マスター: 「(ビールサーバーから静かに泡を注ぎ、目の前に置きながら、驚くほど薄いリアクションで)……お、そりゃあ良かったな、兄ちゃん。おめでとう。……で? なんでそんなに嬉しそうなのに、グラスを持つ手が微妙に震えとるんや? 目線も泳いどるぞ。」
👨💼 僕: 「え……分かっちゃいますか? いや、実は、めちゃくちゃ嬉しい反面、心の中ではめちゃくちゃ恐怖を感じているんです。今回の契約、本当に大きな数字なんですけど、正直に白状すると『なんで取れたか、自分でもよく分からない』んですよ。クライアントの担当者とたまたまウマが合ったというか、風向きが偶然僕に吹いたというか……。だから、周りのみんなに『中野、すごいな! 次のプロジェクトも期待してるぞ!』って言われるたびに、心臓がバクバクするんです。来月、またゼロからスタートしたとき、同じようにできる自信が全くない。これ、毎月大金を賭けて博打を打っているようなものじゃないですか。今は勝ってるからいいけど、負け始めたらと思うと……。」
🧔 マスター: 「(静かにトングで氷を回し、グラスを冷やしながら)……博打、なぁ。せやろな。理由の分からん勝ちほど、人間を心の底から不安にさせるものは他にないからな。 兄ちゃん、ええか。営業っちゅう仕事はな、根性や気合いで乗り切るもんでもなけりゃ、運の良さだけで回すもんでもない。営業は『科学』や。そして科学っちゅうのはな、つまり『再現性』のことなんやで。お前が今怯えとるんは、その科学をサボって、運に身を委ねてしまっとるからや。」
1. 「何をしたか」ではなく「なぜそれが効いたのか」
👨💼 僕: 「営業は科学……、再現性、ですか。でも、うちの社内のトップ営業の先輩なんかは『営業はセンスと勘だ! ロジックなんか考えてる暇があったら、とにかく打席に立ち続けろ! 身体で覚えろ!』っていつも熱弁してるんです。その先輩が今度、社内セミナーで仕事術を教えるらしくて、みんなこぞって参加するみたいなんです。やっぱり、そういう『勘の鋭い人』の話って、聞きに行った方がいいんでしょうか?」
🧔 マスター: 「(カウンターに冷えたトマトスライスを静かに差し出しながら)……んー、行ってもええんちゃうか?」
👨💼 僕: 「えっ? 行ってもいいんですか? てっきり『そんなもん時間の無駄や』って一蹴されるかと思いました。」
🧔 マスター: 「行くのは自由や。ただな、その先輩がセミナーで話す『何をしたか』という行動の表面だけを真似しようとするなら、それは時間の無駄になる。持って帰るべきなのは、行動そのものやなくて、『なぜそれが効いたのか』という理由、ただ一点だけや。」
👨💼 僕: 「なぜそれが効いたのか……?」
🧔 マスター: 「そうや。トップ営業の先輩っていうのはな、実際に能力もあるし、素晴らしい実績もある。それは事実や。じゃんけんでたまたま10回連続で勝ったようなラッキーパンチだけで、ずっとトップを張れるほどビジネスは甘くないからな。 でもな、問題はその先や。その先輩が、『自分がなぜ勝てたのか』を他人に説明できへんのなら、その話をお前がどれだけ熱心に聞いたところで、再現性は育たん。
例えば、『なんとなく相手の顔色を見て、勘でこのタイミングで提案したら刺さった』と言われたとする。それは先輩の特殊なセンスであって、お前が明日から真似できるもんやない。どんだけ聞いても、お前が次のお客さんの前で提案が通る確率は、1/3のじゃんけん博打のまま何も変わらんのよ。 だからな、セミナーに行くなら観察してこい。その先輩が『なぜ勝てたのか』という因果関係をロジカルに言語化できているかどうかをな。それが説明できへん奴の話は、エンタメとしては面白くても、お前の仕事を楽にする教科書にはならんのよ。」
2. 会社が本当に欲しいのは「スーパーマン」ではない
👨💼 僕: 「なるほど……。その先輩、調子が良い時は神がかった勘を発揮するんですけど、波が激しくて、ダメな時期は本当にボロボロなんです。見ていてハラハラします。でも、会社としてはそういう一発逆転のホームランを打てるスーパーマンをチヤホヤするから、僕らもそこを目指さなきゃいけないのかなって。」
🧔 マスター: 「(あきれたように笑って、腕を組む)……兄ちゃん、お前、前回の話をもう忘れたんか? 会社という組織を、そんなドラマチックな目で見るなとあれほど言うたやろ。ちょっとおさらいするぞ。」
👨💼 僕: 「あ……、前回の……。」
🧔 マスター: 「前にも言うただろ。会社が本当に欲しいのは、お前の犠牲による120点の大爆発でもなければ、浮き沈みの激しい『スーパーマン』でもない。会社という巨大なシステムを安定して動かすための、大切な『中の上』の担い手……つまり、『毎月きっちり70点から80点の成果を、計算通りに出し続けてくれる社員』や。
経営側やマネジメント側の視点に立ってみろ。一番コントロールしづらくて、事業計画を狂わせる頭の痛い存在は誰や? 月によって数字が0になったり150になったりする『博打打ちのスーパーマン』や。そんな奴が一人いたところで、来期の予算も組めなきゃ、人員の投資計画も立てられん。 『今月はこれくらいの確率で、これくらいの数字が着地します』と、予測が立つ人間。成果がちゃんと計算できる社員こそが、組織にとっては一番ありがたいし、本当の意味で長く信頼されるんや。勝ち続けろとは誰も言ってへん。ただ、『計算できるようにしとけ』っていうのが、このBar Socosocoでお前が学ぶべき、中の上の作法やろ?」
👨💼 僕: 「……そうでした。完全に舞い上がって忘れていました。会社はトータルでの成果を求めている。だからこそ、120点の大波じゃなくて、安定して70点を出せることの方が、システムとしての価値が高い。そして、その方が僕自身の気持ちも圧倒的に楽なんだ、って話でしたね。」
🧔 マスター: 「せや。思い出したならええ。お前が目指すべきは、天才の勘を真似することやない。自分の数字を『計算可能』にすることや。」
3. 組織が本当に腐る「理由なき成功」の恐怖
👨💼 僕: 「でもマスター、計算できるようにするって、具体的にどうすればいいんでしょうか。今回の僕の大型契約みたいに、たまたま上手くいってしまった時って、どうやって計算に組み込めばいいのか分からなくて。」
🧔 マスター: 「だからこそ、勝った時も、負けた時も、同じように『理由』を徹底的に考えるんや。それが『因果を見極める』っちゅうことなんやけどな。 兄ちゃん、ちょっと長い目で見た組織の話をしたるわ。組織が一番腐る、あるいは一番弱くなるときって、どんな時だと思う?」
👨💼 僕: 「うーん……やっぱり、業績がめちゃくちゃ悪くて、全く商品が売れていない時じゃないですか? 社内の雰囲気もピリピリして、みんな暗い顔になりますし。」
🧔 マスター: 「(人差し指をチッチッと振る)……チッチッ。ハズレや。売れてなくて苦しんでいる時はな、実は組織は腐らんのよ。なぜなら、全員が『このままじゃマズイ』っていう危機感を持っとるからや。必死に頭を悩ませて、行動を変えて、何が悪いのかを議論する。課題が表面化しとる状態やから、むしろ健全に努力が生まれる。
本当に怖いのはな、『理由もなく、上手くいってしまっている時』や。これほど恐ろしい状態は組織にないぞ。」
👨💼 僕: 「理由もなく、上手くいっている時……ですか? 数字が出ているなら、ハッピーじゃないですか。」
🧔 マスター: 「それが一番の罠なんや。市場のたまたまのトレンドとか、競合が勝手に自滅したとか、お前の言う『タイミング』が偶然味方しただけで、中身のない数字が出てしまっている時。この時、組織の『科学』は完全に死ぬ。 理由を考えなくても数字が出るから、みんな『俺たちのやり方は正しいんだ!』と勘違いする。そうして、中身のない根性論や『ダメな文化』が、長期にわたって組織にこびりついてしまうんや。 で、市場の風向きがちょっと変わって、タイミングが合わなくなった瞬間に、なぜ売れなくなったのかも分からず、全員で一気に遭難する。これが、組織が本当に腐るメカニズムや。今の兄ちゃんの状態は、まさにその『遭難一歩手前』の恐怖を感じとるわけやな。」
4. 科学の正体:結果から「見立て」まで掘り下げる
👨💼 僕: 「理由なき成功の恐怖……。まさに今の僕です。たまたま売れたから、周りはチヤホヤしてくれるけど、僕自身は何が正解だったのか分かっていない。だから来月が怖くて、博打の出目を待つような気持ちになっていたんですね。でも、どうすればこれを『科学』にできるんですか?」
🧔 マスター: 「(静かに僕の前に新しいグラスを置きながら)……よし、じゃあお前のその『たまたま売れた大型契約』を、今からここで解剖してみようやないか。兄ちゃん、本当に何も理由がなかったと思うか? 商談の時、お前は何をした?」
👨💼 僕: 「ええと……、いつもより相手の社内体制について、しつこいくらい細かく質問しましたね。誰が決済権を持っていて、どんなプロセスで承認が下りるのか、みたいなことです。それが『行動』です。」
🧔 マスター: 「ほう。じゃあ、次のステップや。お前はなぜ、その商談で『その質問(行動)』をしようと思ったんや? 過去の商談ではそこまで聞いてなかったやろ。お前の頭の中に、どんな『認知』があった?」
👨💼 僕: 「あ……。思い返してみると、最初のヒアリングの時に、相手の担当者の方が『うちの上司への説明が毎回大変で……』ってポロッとこぼしたんです。それが頭に残っていたから、『あ、この担当者個人の攻略じゃなくて、社内での説明コストを下げてあげないと前に進まないな』という認知がありました。」
🧔 マスター: 「素晴らしいな。じゃあ、さらにその奥や。担当者が『上司への説明が大変』と言った時、お前の中にはどんな『見立て(前提)』があったんや?」
👨💼 僕: 「見立て……ですか? ええと、『この案件の本当のボトルネックは、目の前の担当者ではなく、その後ろにいる決済権者だ。だから、担当者を説得するのではなく、担当者が上司を説得するための武器(資料やロジック)を僕が一緒に作って渡さなきゃいけない』という仮説……というか、見立てがありました。」
🧔 マスター: 「(カウンターをパンと叩いて)……それや! それが『科学』の正体や、兄ちゃん!」
👨💼 僕: 「えっ、これがですか?」
🧔 マスター: 「そうや。お前は『たまたま売れた』と言ったが、違う。お前の中に【ボトルネックは後ろにいる】という『前提(見立て)』があったからこそ、担当者の愚痴を【社内説明の武器が必要だ】という『認知』で捉えることができた。だからこそ、【社内体制を細かく質問する】という『行動』に繋がり、結果として【大型契約】という『結果』が出たんや。
【socosoco式・科学の認知構造解剖】
【前提(見立て)】
: ボトルネックは後ろの決済権者だ。担当者に武器を渡さねばならない。
【認知】
: 担当者の「上司への説明が大変」という言葉を、攻略の鍵として捉える。
【行動】
: 相手の社内体制や承認プロセスを細かくヒアリングする。
【結果】
: 過去最高の大型契約の獲得。
🧔 マスター: 「これのどこが博打や? どこが運や? お前は自分の『見立て』に沿って、動くべくして動き、勝つべくして勝ったんや。これを言語化して、次の商談でも同じ『見立て』を持って臨むこと。これが、営業における『再現性』であり、中の上の作法なんやで。」
5. 因果を見極める「4つの問い」
👨💼 僕: 「……鳥肌が立ちました。僕は自分の頭の中の構造を全く自覚していなかったから、勝手に怯えていただけだったんですね。結果の裏には行動があり、行動の裏には認知があり、その最深部には『見立て』がある。ここまで掘り下げて初めて、科学になるんだ。」
🧔 マスター: 「せや。だから明日からは、商談が終わった後、勝っても負けてもこの『4つの問い』を自分に投げかけてみろ。特に4つ目が一番大事や。」
【因果を見極める4つの問い】
「なぜ、今回の結果になったのか(結果の分析)」
「次、同じように上手くいくために、どの動きを再現すればいいか(行動の検証)」
「なぜ、その時その選択をしたのか(認知の確認)」
「その行動を取った時、自分は一体何を見立てていたのか(前提・仮説の抽出)」
🧔 マスター: 「結果という数字の奴隷になるな。因果を見極める側のオーナーになれ。 再現性を意識して仕事をしていればな、仮に今月数字が出なくても、『今回はプロセスのここがズレていたから、あるいは見立てが間違っていたから、来月はここを直そう』と、冷静に次の手を打てるようになる。博打打ちじゃなく、職人になるんや。それが結局、お前自身のメンタルを一番ラクにする、究極の脱力仕事術なんやで。」
カウンターの終わりに
👨💼 僕: 「(トマトスライスを口に運び、深く噛み締めながら)……毎日が博打みたいでしんどかったのは、僕が自分の『見立て』をサボって、勘とかいう不確実なものに振り回されていたからなんですね。会社が求めているのも、僕が楽になるのも、全部『再現性』の向こう側にあるんだ。」
🧔 マスター: 「(カウンターを丁寧に拭きながら、優しい声で)……おう、それでええ。最初にも言ったやろ。無敵のスーパーマンにならんでもええし、勝ち続けろとも言ってへん。 ただ、自分の打った手の理由だけは、自分で分かっとけ。 それさえできれば、打率が『中の上』でも、お前は立派なプロフェッショナルや。さ、明日からのために、今夜はもう一本、美味い酒でも飲んで力を抜きな。」
👨💼 僕: 「(ふっと肩から完全に力が抜け、グラスを掲げる)……はい! マスター、もう一杯、今度は『理由のある、計算通りの美味い酒』をください!」
📖 今回の「脱力」エッセンス
■ 「なぜ勝てたのか」を説明できないノウハウは捨てる 🧪 トップ営業の行動をただ真似るな。「何をしたか」ではなく「なぜそれが効いたのか」という理由を持って帰れ。言語化できない勘に再現性はない。
■ 「理由なき成功」を一番に警戒せよ 🧠 組織も個人も、一番腐るのは「理由もなく上手くいっている時」だ。勝った時こそ冷徹に因果を分析しなければ、実力だと勘違いした「ダメな文化」に飲み込まれ、時代の変化で一気に遭難することになる。
■ 結果・行動・認知の奥にある「見立て」を掘り起こせ ⚡ 科学とは、単に行動を記録することではない。「その行動を取ったとき、自分は何を見立てていた(仮説を持っていた)のか」まで深掘りすること。この認知構造の解剖こそが、あなたを博探の恐怖から解放し、一番気持ちを楽にする。
今回の「そこそこ」への一歩: 明日、仕事が終わった時、成果の良し悪しに関わらず、心の中でこう問いかけよう。 「今日うまくいった(いかなかった)プロセスにおいて、自分は一体どんな『見立て』を持って動いていただろうか?」と。