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妖精に、恋をした 第2話

    「恋に名前がついたとき」


    頭から離れないなんて聞いてない


    ノートの端に「さえき」と書いてみる。

    「定規貸して」

    隣の男子がこちらを向いた。

    だめ!腕でノートを覆いながら定規を渡す。

    「え?どうした?」

    ……私が聞きたいよ。

    「何も。定規いらないの?」

    「いるいる。ありがとう」

    シャーペンで文字をぐしやぐしやに消す。

    前を向き、先生を目で追う。

    けど、気がつくと
    尻もちついて笑ってた彼の笑顔、
    片手で扉を閉めていた彼の背中、
    そして、
    私の後ろに立っていた彼を思い出している。

    背中が熱くなっていく気がする。


    とうとう午後はなんにも
    頭に入らないまま終わってしまった。

    「今日授業聞いてなかっただろ」
     
    いきなり隣から声がした。
     
    「え、聞いてたよ。ちゃんと」
     
    「嘘だろ。ずっと同じページばっかり見て」
     
    「もういいから。お母さんはだまってて!」
     
    私は言い捨てて、教室を出た。
     
    私だって知らないよ。こんなの。

    私は部活の準備をして体育館へ向かう。

    横目で体育倉庫を見る。
    あそこに佐伯くんがいたんだ。

    昨日まではただの体育館だったのに。

    深呼吸して、パンッと頬を叩く。

    「部活、部活」

    呟きながら歩き出したとき、
    目の前をボールが飛んで行った。

    ボールは長い指でしっかりと受け取られ、
    そのままゴールリングへと弾かれた。

    ピーッ

    ホイッスルの音が響く。

    ゴール下に体操服で顔を拭いている男子がいた。

    日差しが汗に反射して、キラキラして見える。

    佐伯くんだ!!
     
    男バスだったんだ。

    どうして知らなかったんだろう。
    この3ヶ月何度も一緒に体育館を使っていたはずなのに。

    「はーい、女子バスケ部集合!」

    先生に呼ばれてもう一度歩き出す。

    リップ、塗ってない。
    髪、といてない。
    体操服、昨日の。
    靴下、兄貴のお古。

    本当に無理。

    少し苦しくなって、
    咳払いしてみる。

    心はさほど軽くならず、
    代わりに深いため息が漏れ出す。

    部活前に雑にまとめた髪が
    気になって仕方がない。


    部活が終わる頃には汗だくになっていた。
    早く着替えて帰りたい。
    こんなボロボロの姿を見られたくないよ。

    私はシューズ入れとタオルを持って
    体育館を後にした。

    「市原咲良、忘れ物!」

    顧問の声が響く。

    振り返ると、佐伯くんが顧問から
    水筒を受け取ってこちらに走ってきた。

    来ちゃった。どうしよう。

    左手でおくれ毛を耳にかける。

    「はい、水筒」

    軽く息を切らしながら、水筒を手渡してくれる。

    「ありがとう」

    右手で水筒を受け取る。

    彼の指が私の指に触れた。
    指先から右手が強張っていく。

    そっと手を握り、指先を掌に隠す。

    「あの、体育倉庫の時も
    ありがとね。佐伯くん。」

    まともに彼の顔が見られない。
     
    佐伯くんの体操服の名前を見ながら
    名前を呼んでみる。

    「どういたしまして。
    市原さん。」

    思わず見上げる。
    佐伯くんが少しうつむいて私を見ている。
    目が合った。

    彼の目に映る自分が見えないのが歯がゆい。

    「じゃ、また明日な」

    佐伯くんが右手を上げた。

    私も同じようにしてみる。

    「明日ね」

    自然な振る舞いってなんだろう。

    気がつくとまた駆け足になっていた。


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