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[改訂版] 動物王国捕物控 第2話 倉庫破り

    yamayamaya

    『動物王国捕物控』(Amazonペーパーバック・電子書籍)の「第2話 倉庫破り」の改訂版。過疎化によって消滅した村の跡に、動物たちが王国を建国、そこで起こる難事件・珍事件に犬の警察署長と副署長が挑みます。主人公は村のOBで、動物病院東洋医学科に週2日、勤務する弱視の鍼灸師。レギュラー陣に動物病院のサル院長、イノシシの村長、スナック「銀ギツネ」のキツネママなど。第2話では王国の食糧倉庫が破られます。建国記念日当日の事件であり、警察の面目は丸つぶれになりそうです。

    朗読はこちら→[改訂版] 動物王国捕物控 第二話 倉庫破り|yamayamaya



     §1 近づく建国記念日



     カラスの長老の五十肩が再発した。
     前回は自然に症状が治まるのを待つしかなかった。しかし、もう事情は違う。三足村には病院があり、優秀な鍼灸師もいる。
     長老は奥さんに伴われて、住処すみかから、はるばる歩いてきた。

    「いやあ。痛くて。羽が動かせないんですよ」
     右肩がつらいと言う。もう三か月になる。夜、痛くて眠れないので鍼灸しんきゅう治療を受ける決心をした、と言う。羽をパタパタ動かしてもらうと、右はほとんど固まっている。
     
    「でも、先生、鍼はりって、なんだか怖いんです」
     ビクビクしているので、鍉鍼ていしんという、先の丸い、刺さない鍼を使うことにした。
    「羽の付け根と足を軽く刺激します。左を下にしてベッドに寝てください」
     私はツボを刺激していった。

    「はい。いいですよ。起きて羽を動かしてください」
     長老は羽を動かし、首を傾げた。
    「あれ。痛みがほとんどない」
     少し宙に浮いている。
    「これなら、ゆっくり飛んで帰れます」
     奥さんと肩を並べて、空に舞い上がった。
     
    「いやあ。山谷先生。お見事ですね」
     サル院長だった。いつの間にか入ってきて、一部始終を見ていたらしい。
    「イノ村長が後で、治療をお願いしたい、と言ってましたよ。何でも、建国記念日のイベントの準備で、大変みたいです」
     そういえば、動物王国の建国記念日が迫っていた。

     急速な過疎化・高齢化の進行によって、三足村が消滅、土着の動物たちが動物王国を建国してから、もう九年目を迎えようとしていた。
     
     王国の長たる、イノ村長が夕方、姿を見せた。
    「首と肩がつらくてね。忙しいといけませんね」
     イノシシ特有の、ただでさえ太くて短い首が、肩にめり込みそうになっている。村長にも鍉鍼を使い、手足と体幹のツボを刺激していく。
    「歴史的な建国記念日だから盛大に祝いたい。だけど、去年もみんな酔っ払って大騒ぎになったんですよ。警察署長と副署長には迷惑をかけましてね」
     村長の苦労話は続いた。

    「はい。村長、終わりました。起きてください。首・肩の張り、気分はどうですか?」
     村長は頭を回したり、突進する姿勢になったりした後、
    「全然、楽になってます。ありがとうございます」
     と頭を下げた。

     夕方、三足村に妻が迎えにきた。私と盲導犬・エヴァンはクルマに乗り込んだ。
     

     §2 騒ぎは繰り返され、事件は起きた



     建国記念日の当日、私は三足村の動物病院にいた。
     この日、三足村に着くと、もう盛り上がっていた。前夜祭から、ぶっとおしで飲んでいるものもいた。午前中にサルとモモンガが受診した。下戸げこの私は酒臭さに閉口した。動物たちは家族そろってイベントに出かけ、午後は開店休業状態だった。

     近くの広場では、ごく簡単な記念式典の後、カラオケ大会が開かれていた。
     歌声は村じゅうに響き、村の外れにある山鳩の住処でさえ、大声を張り上げなければ、会話ができなかった。
     
     今回の目玉は利き酒大会だった。動物王国のイベントとあって、四国だけでなく、遠く北陸や東北の酒蔵も出店していた。
     動物たちは飲んだ。あるグループは路上飲み、またあるグループは野山や田畑で車座になって宴を張った。
     となり村からはもちろん、汽車やバスを乗り継いで来場したものもいて、村の目ぬき通りには立錐の余地もなかった。
     
    「親分! 大変だ!」
     イベントの巡回に当たっていた副署長が、血相を変えて警察署に戻った。
     副署長は大事件が起きると、銭形平次の子分、尊敬する八五郎が乗り移る。
    「何が大変なんだ。落ち着いて、順序立てて話しな」
     署長はたしなめた。
    「食糧倉庫が破られたのですよ。落ち着いてる場合じゃないですよ」

     署長と副署長は群衆をかき分けながら、現場に到着した。
     食糧倉庫の扉を開くと、前方の配給袋が五つほどなくなっていた。倉庫の周囲を見回った。古くなった裏の壁板が一か所剥はがれている程度で、ほかに異常はなかった。
     
    「あの騒ぎですからねえ。どさくさに紛れて、配給袋をかっさらっていきやがったんですよ」
    「だけど、入り口の鍵はかかっていたし、どこから運び出したんだ。第一、大きな袋など担いで歩いていた日にゃ、いわゆる人目について仕方がねぇじゃないか。ゆうべはオールナイトで騒いでいたんだぜ」
     とりあえず、二頭は倉庫の中に入ってみた。左右にうず高く配給袋が積み上げられている。奥まで行っても、配給袋が整然と並んでいた。
     
     村のものの犯行か、外部のものの犯行か。いずれにしても、三足村警察の面目丸つぶれだった。
     思えば、警察署が開設された時、派出所の「迷子の子ネコ係」から抜擢されたのが、現在の署長と副署長だった。村の酒蔵が荒らされた事件も、銭形平次や長谷川平蔵も顔負けの、卓越した推理力で解決した。もう「イヌのおまわりさん」などと、からかうヤカラはいなくなっていた。
     
     陽は落ち、夕暮れが迫っていた。この後、花火大会が行われ、建国記念のイベントはフィナーレを迎える。
    「副署長。このことは、誰にも言わないでくれないか」
     と署長はクギを刺した。慎重にならざるを得ない。
     

     §3 繁栄の陰に貧困


    「という事件なんですよ。先生。もう参っているんですよ」
     署長は署に帰ってしばらく考えたものの、どうにもラチがあかないので、動物病院を訪ねたのだった。
    「先生。一度、現場をご覧になりますか?」
     私は笑って答えた。
    「いや、行ったって、私は目が悪くてほとんど見えないですよ。ここで、少し考えてみましょう」
     私は応接セットに署長をいざなった。
     
    「署長がおっしゃるとおり、昨夜と今日、盗品を持ち歩いていたら怪しまれます。しかし、配給袋は五つもなくなっている。副署長はなぜ、盗まれたことに気付いたのですか」
    「パトロールしていて、念のために倉庫の鍵を開けて入ってみたらしいんです。すると、前方の袋がごっそりなくなっていた」
    「署長。裏の様子をもう一度確認していただけませんか。特に壁板の剥がれ具合を」
     署長は立ち上がった。
    「それと、最後に倉庫の鍵をかけたのはいつか、も調べてください」
     
     私は動物病院の院長室をノックした。サル院長もヒマそうだった。事件のあらましを説明した後、訊いてみた。
    「先生。最近は、動物も飢えから解放され、生活習慣病が問題になっていると聞きますが、逆に、飢えや貧困に苦しんでいるものはいないですか? 人間社会がそうなんですよ。豊かになる一方で、貧困が生み出される。その最たるものが、こども食堂です」
     院長は意外な顔をした。
     
    「こども食堂ですか。王国の場合、どこの家庭にもちゃんと食糧が配給されるのですから、そういう心配はないですね。まあ、配給券を酒と交換して飲んでるのはいますがね」
     なんとなく匂った。
    「それ、誰ですか?」
    「タヌキのおやじさんですよ。奥さん、それにこどもが四頭もいるのに、家族の配給まで、ほとんどが酒に消えているみたいです」

     §4 タヌキはクビに


      院長によれば、タヌキのおやじさんには、悲しい話があったらしい。
     三足村の近くに、タヌキの伝説で有名な村がある。過疎化により、地元のJRの駅はとうの昔に無人駅になっていた。
     村おこしの一環として、タヌキが観光客を出迎える案が採用され、業者からタヌキたちが派遣された。トレードマークの徳利をぶら下げ、駅を通過する観光客に手を振ったり、腹鼓はらづつみを打とうという趣向だった。
    「まだ、インパクトが弱いな。あの程度なら、沿線に棲むサルでもやっとる」
     と、村の衆は満足していない。連日ディスカッションした。
    「やっぱり、駅長が直接出迎えをしないのは、お接待の精神にもとるなあ。無人駅の限界や」
     と、あきらめ気味の村人A。
    「それや! 駅長役のタヌキを募集したらええ。責任あるものが出迎えんとなあ」
     村人Bの意見に、出席者は諸手を挙げて賛成した。
     
     正規採用と聞き、たくさんの応募があった。書類審査と面接、簡単な演技のテストがあり、三足村のタヌキのおやじさんが駅長役の座を射止めたのだった。
     勤務についてみると、一日に五、六本の汽車が通るだけ。駅長室で居眠りしている時間の方が長かった。
     おやじさんは根っからの酒好きだった。やがて、空き時間を有効利用して、駅の近くの一杯飲み屋に行くようになった。
     
     タヌキのおやじさんは、お決まりの破滅コースをたどった。満員の観光列車の通過時間を、やり過ごした。これが三、四回続き、「タヌキのぬいぐるみを置いた方がマシ」と、解雇を言い渡される。失意のうちに、三足村に帰った。
     しかし、おやじさんの飲酒には、もうブレーキが利かなくなっていた。夕方になると、村のスナック「銀ギツネ」に顔を出し、酔いつぶれるまで飲む毎日である。
     
     私は治療室に戻り、思案を巡らせていた。
    「先生。お待たせしました」
     署長だった。
    「二尺ほどの高さにある壁板が壊されていました。どうも、これは、かなり前に壊されていたみたいですよ。それに、配給袋を持ち出せるような隙間は、ありません。今回の事件とは関係ないでしょう。倉庫番が最後に鍵をかけたのは、一昨日の夕方です。もちろん、その時に普段と変わった様子はなかったみたいです」
     
     ジグソーパズルが完成しかけていた。
    「署長。ごやっかいをおかけしました。やはりね」
     花火大会も終わっていた。
    「今日はもうお帰りでしょう。私服に着替えて、一杯やりに行きませんか。おごりますよ」
     事件のことで頭がいっぱいらしく、署長の足取りは重かった。
     

     §5 聞き耳


    「あら。先生、お久しぶり。署長さんもご一緒?」
     スナック「銀ギツネ」のキツネママは、いつになく愛想がよかった。
     連日のイベントで、さすがにもう客は少なかった。
    「署長をねぎらいたいんだ。奥の座敷、いいですか?」
     ママは確認もせず、
    「となりの席に一頭、寝てますけど。起こして帰しましょうか」
     と、顔をしかめた。
    「いや。いいんですよ」
     私はママを手で制した。
     
     乾杯した。
     本当のところ、私には日本酒の味が分からない。署長は飲むほどに、いい気分になってきた。
    「署長。例の事件ですけどね。私は、単なる推理マニアです。だから、そのつもりでお聞きください」
     
     酒飲みのおやじさんがいた。自分の配給は酒屋で酒と交換していたので、奥さんとこども四頭分の配給で一家は食べていくしかなかった。そのうち、おやじさんは家族の配給まで酒に換えるようになった。
     困り果てた奥さんは、やむにやまれず、食糧倉庫破りを決意する。
     ある夜、倉庫の裏の壁板をこじあけ、持って行った袋に食糧を入れた。何か月か経ち、一袋、二袋と食糧袋は空になっていった。
    「このままでは、いつかはバレる」
     奥さんが思いついたのが、前の袋を後ろに移動させる、という方法だった。前の物がなくなっていれば、誰しも、それが盗まれたと思う。
     建国記念日の前々夜、奥さんは食糧倉庫に忍び込む。もちろん、裏の壁板の隙間から。入り口の袋を奥に移動して積み上げる。そして、壁板の隙間から抜け出す。
     
     語るうちに、力が入り、声が大きくなっていた。
     ママが目で合図を送っている。ついたてを隔てて眠っていた客が、途中から聞き耳を立てているらしい。
    「なるほど! で、その酒飲みのおやじに、心当たりはございませんか?」
    「私に分かることは、ここまでです。それに、署長、今夜はまったくのプライベートな飲み会ですから、いままでの話は忘れてください」
    「ハア?」
     署長は口をあんぐりと開けた。

     §6 「銀ギツネ」の夜は更けて


      翌日、副署長が署長室に飛び込んできた。
    「八五郎、また何か、大変なことでも起きたのか」
    「そうなんですよ。親分! タヌキのおやじさんとおっかぁが親分に会いてぇって。なんだか、しょんぼりしてまして」
     
     署長室にタヌキ夫婦が入ってきた。いきなり土下座して、奥さんは泣き崩れた。おやじさんが肩をそっと抱いた。
    「署長さん! 申し訳ありません」
     と、タヌキ夫婦。
    「なんでぇ。思いつめた顔をして。オレは忙しいんだ。昨日、酔っ払って暴れたのがいて、これから調書取るんだ。さあ、いい加減で帰ってくんな」
     と、署長は夫婦を追い払った。
     
    「先生! 今夜は私におごらせてください」
     後日、署長に誘われて「銀ギツネ」に行く。
    「あら」
     キツネママの態度が冷たい。
     
     店には誰もいなかった。簡単な油揚げのお通しが出た。
     ママはツンツンしている。
    「タヌキのおやじさん、酒やめて、真ま人間ならぬ、真動物になったんですってよ」
     原因はそんなことだったのだ。ママの売り上げが減っても、タヌキ一家が幸せになれば、それでいいではないか。
     今夜は人気の地酒を頼み、無言で盃を合わせた。

         ☆
    この作品はフィクションです
    登場動物・村等は実際のものとは関係がありません

     


     
     
     

    yamayamaya

     
     
    鍼灸師 弱視で盲導犬ユーザー 関東から四国にUターンし 過疎地で治療院経営の傍ら 執筆活動にいそしんでいます