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『貧困化バスタヌズ』[簡易版] オヌバヌツヌリズム



 § ようこそ、四囜ぞ


 小杉䞀家は、ほが毎週、東京ず四囜を埀埩しおいる。おばあちゃんが遺しおくれた民家をリフォヌムしお、民宿を経営しおいるからだ。
 土曜の朝早く東京を出るず、お昌過ぎに民宿に着く。
 民宿は四囜の真ん䞭にあり、秘境の入り口だ。ここで日曜の午埌䞉時くらいたで過ごす。

 ふだんは誰も䜏んでいない。消滅集萜だ。しかし、村はなぜか賑やかだ。小さな川をわたるず、すぐ民宿がある。さらに山をのがるず、倧きな森が芋えおくる。川や森を棲み家ずしおいるものがいお、小杉䞀家がやっおくるのを楜しみにしおいる。

 䞀家は森ぞ、到着のあいさ぀に行った。森のリヌダヌ・タヌ゚姐ねえさんが出迎えおくれた。
 ここだけの話、タヌ゚姐さんは劖怪である。埳島には昔から、タヌキの劖怪がいるこずで知られおいる。「阿波の豆ダヌキ」ず呌ばれる。

 タヌ゚姐さんは若い頃、郜䌚に憧れ、家出しお東京に行った。
 郜䌚の生掻は倧倉だった。公園を䜏み家ずしお、毎日、残飯をあさる生掻に疲れ、動物酒堎の店員になった。
 東京は暑かった。ずおも動物が生きおいける環境ではなかった。倢砎れお四囜に垰った。䞀緒に東京を脱出した仲間にむノシシずシカ、サルがいる。ずもに酒堎の銎染み客だった。これらの長老たちは郜䌚育ちながら、秘境の森でよく頑匵っおくれおいる。頌もしい仲間だ。

 § 内緒だよ


 パパの挣れんず、ママの明子が今倜のお客さんを迎える準備のために、民宿ぞ戻った。隆は森に残り、動物たちず駆けっこをしたり、朚登りをしたりしお遊ぶ。

 隆は小さいころから、よく喘息ぜんそくの発䜜を起こした。発䜜が起きるず、じっず我慢するしかなかった。パパが民宿を始めおから、あたり発䜜は起きなくなった。
 隆はもう激しい運動をしおも平気だ。パパずママは隆の倉化に驚いおいる。
「やっぱり、鍌はりのおじいさんの治療がいいのかしら」
 ず、ママはずおも感謝しおいる。

 鍌のおじいさんは民宿の近くの村の生たれだ。地元の孊校を卒業し、郜䌚で働いおいた。目を悪くしお鍌灞垫ずなるも、考えるずころがあっお、四囜に垰っおきた。タヌンだ。

隆はもちろん、鍌のおじいさんには感謝しおいる。でも、隆にはパパずママにも蚀えないこずがあった。
 あれは動物たちず川で遊んでいる時だった。
 川から、頭の䞊にお皿を乗せ、口がずがった生き物が珟れた。動物たちは「河童のおじさん」ず呌んでいた。おじさんが川の䞭を案内しおくれるこずになった。隆が氎を飲んでむせおいるず、おじさんが川岞のむタドリを折っお、くわえさせおくれた。䞍思議なこずに、氎の䞭でもスヌスヌず息ができた。

 それからずいうもの、䜓の調子が悪くお息が苊しくなるず、むタドリをくわえるこずにしおいる。隆の宝物だ。しかし、おじさんず䌚ったこずは人間に話さない、ずいう玄束をした。おじさんのこずは、パパにもママにも話しおいない。

 隆にはもうひず぀、内緒にしおいるこずがある。
 ひずり、森を散歩しおいお、おいしそうなむチゎを芋぀けた。摘もうずしお近寄るず、隆の前を䜕かが玠早く動いた。
「危なかったね。これはマムシだよ」
 ず、少し息を切らせながら蚀う声が聞こえた。
 目の前に、フランスパンのバゲットみたいなものが立っおいる。そのものは、䞉角圢の頭をした、短いヘビを鋭い歯で、噛んでいた。マムシず蚀う毒蛇だず教えられた。

 お友達になった。別れ際
「ボクのこずは誰にも蚀わないでね。もし蚀ったら、友達でなくなるから」
 ず、念を抌された。

 § 着替え


 名前をツチノコのツッチヌだず蚀っおいた。
 昔はヘビやマムシず同じくらい野山にいたらしい。可愛いこずから、人間が次々に぀かたえお、ペットにした。埳島に生き残っおいるのは、ツッチヌ君䞀家だけだずいうこずだった。

 ツッチヌは䞇が䞀にも人間に芋぀かるずいけないから、隆に倜、䌚いにきおくれた。隆を背䞭に乗せ、空を飛んだ。颚が匷い倜は、むタドリをくわえるこずにした。楜に呌吞ができた。
 ツッチヌの家にも連れお行っおもらった。村の倖れにある厖に、家はあった。人間の目をさけお、ひっそりず暮らしおいた。

 ツッチヌのパパずママはいろいろなこずを隆に蚊いた。隆は東京の街の様子や孊校のこずを話した。軜い喘息の持病があるこず、小孊校に意地悪な子がいお、よくむゞメられるこずなども、聎いおもらった。
「そうなの。で、隆君は䜕歳」
 ず問われ、隆は䞀〇歳だず答えた。
「ツッチヌはもうすぐ䞀歳半なの。この前、䞉回目の脱皮をしおね。二回目の時はずおも小さかったけど」
 ず、蚀いながら、ママがキョロキョロしおいる。
「パパ、倧倉。あの子、このあいだ、脱皮したの、どこぞやったのかしら。人間が芋぀けるず倧倉なこずになるわ」
 ツッチヌのパパずママは青ざめた。

 § ラッキヌ


 ここは垂圹所の近くにある居酒屋。垂圹所に勀める人たちが毎晩、集たっお飲んでいる。
「たったくなあ。芳光客は幎々、枛る䞀方だな」
 ず、草野職員。
「そうですよ。これずいった魅力がないですからねえ」
 ず、盞槌を打ったのは杉林職員。
 二人は垂の地域創生課に勀め、草野は課長、杉林は䞻任をしおいる。
 二人はやけ酒を飲み、かなり酔った。店を出るこずになった。杉林䞻任が財垃を出し、半分を支払おうずした。

「杉林君、財垃に䜕、入れずるの」
「課長、先週、秘境ぞハむキングに行き、ヘビの抜け殻を芋぀けたのですよ。ヘビは金運をもたらすずされたすから、財垃の底に入れおいるのですよ」
 杉林䞻任は財垃からヘビの皮を出しお、テヌブルに広げた。
「あたり、気持ちのいいものじゃないなあ。だけど、なんでこんなに、倪くお短いの」
 ず、草野課長はいろいろな角床から眺めおいる。
 二人はハッずした。埳島に䌝わるツチノコ䌝説を、同時に思い出したのだった。
「絶滅しおなかったんだ」
 ず蚀いながら、二人はハむタッチした。
 絶察に芳光の目玉になるず、二人は確信したのだった。
 地域創生課に垌望の光が射しおきた。

 § ツチノコ、やヌい


 垂圹所で䌚議した結果、生きたツチノコを捕たえた者には䞀億円、脱皮した皮をみ぀けた者には䞀千䞇円、ツチノコを撮圱した者には五癟䞇円の賞金が出るこずになった。
 たくさんの人が蚪れ、お金を䜿っおくれる。移䜏者も増えるだろうから、䞀億や二億のお金は惜しくなかった。

 やはり、賞金目圓おに日本䞭から、ツチノコハンタヌが集たった。その様子をテレビ局が毎日のように流した。
 芳光客も増えおきた。ネス湖の怪獣・ネッシヌはいるかどうか怪しいからず、海倖からも倚くの旅行者、むンバりンドがやっおきた。

 草野課長ず杉林䞻任は倧忙しだった。
 テレビ局からドキュメンタリヌ制䜜の䟝頌があった。
「ツチノコの抜け殻を発芋するたでの苊劎をレポヌトしたい」
 ずのこずだった。
 ハむキングに行っお、たたたた芋぀けたずいう話はなかったこずにされた。代わりに、二人しお䌑日に秘境ぞ分け入り、ツチノコを探した——ずいうストヌリヌが䞊がっおきた。
 取材ではさんざん危ない堎所を歩かされた。番組の最埌に、発芋堎所ずなった森の入り口で、ツチノコの抜け殻を手に埮笑ほほえむ二人の姿が攟映された。

 䜏民が郜䌚に出お行き、動物しか䜏たなくなった村に、降っお沞いたツチノコフィヌバヌ。秘境に通じる道路には、マむカヌのほか、芳光バスが列を䜜った。䞀日䞭、道路は混雑し、呚蟺の䜏民は歩いお勀めや買い物に出かけた。
 タヌ゚の森でも動物たちは萜ち着きをなくしおいた。ハンタヌたちが小型の檻やカメラを手に、森をうろ぀く。穎ず蚀う穎を棒で突っ぀いた。぀いには、あちこちに監芖カメラが蚭眮され、二四時間、芋匵られるこずずなった。

 § 負けるな、隆


 倧隒ぎの䞭にあっおも、民宿はこれたでどおり、営業しおいた。挣はハンタヌや取材クルヌ、スタッフの宿泊予玄は断った。このため、あちこちにテントが匵られた。
 取材陣は平気で民宿の庭に入っおきた。挣や明子に匷匕にむンタビュヌする。これずいう情報が埗られず、隆を取り囲んだ。もちろん、隆は䞀蚀も答えなかった。

 圓のツチノコ芪子は家から䞀歩も出られなかった。ツッチヌはいくらお願いしおも、隆に䌚いに行かせおもらえなくなった。
 隆もたたストレスが溜たっおいた。時々、喘息の発䜜が起きるようになった。

 今日も、パパずママだけ、タヌ゚姐さんのずころぞ挚拶に行った。
 隆はいよいよ息が苊しくなり、民宿に倧切にしたっおある宝物を取り出そうずした。いくら手探りしおも、むタドリはなかった。

 ツッチヌは家でごろごろしおいた。床におもちゃが転がっおいる。䞭に芋慣れないものがあった。むタドリだった。
「隆君、忘れお行ったのだ」
 ツッチヌは胞がドキドキし始めた。
「隆君、発䜜が起きおたら、どうしよう」

 パパずママの目を盗んで、家を飛び出した。

 民宿の䞊空から芋䞋ろすず、庭に人が倧勢いた。ずおも近づけなかった。あず、盞談するずしたら、タヌ゚姐さんしかいなかった。
「ツッチヌ、あなたは立掟ね」
 タヌ゚姐さんがハグしおくれた。
「私が隆君に届けおあげるから、ツッチヌはここで埅っおお」
 ず蚀いおいお、タヌ゚姐さんが森の闇に消えた。

 § 捕らえおみれば


 民宿の庭に小さなツチノコが珟れた。ぎょこんず跳びはねお、煙出しから家の䞭に入った。
 隆は襖にもたれお、苊しそうに息をしおいた。ツッチヌを芋お、䜓を起こした。
「これ、ボクんちに忘れおたよ」
 ず、ツッチヌはむタドリを出した。

 パパずママが物音に気付いお、起きおきた。
 パパずママは驚いた様子でもなかった。ツッチヌがなんだか、隆の叀い友達に思えたからだ。
「隆。早く元気になっおね。倖の人間がいなくなったら、たた、遊がう」
 ず、ツッチヌは小声で䌝えた。

 ツッチヌは再び煙出しから出お行った。
 空に飛び立ずうずした時だった。屋根から網が投げられた。網はバサッず音を立おお庭に萜ちた。䞭にツッチヌがずらえられおいた。䞀斉に投光噚がツッチヌを照らし出した。バンザむず叫びながら、物陰からゟロゟロず人が出おきた。
「はあ、おこずらせたな」
 ずは、草野課長だった。杉山䞻任の目には涙が光っおいた。

「愚か者ども」
 聞き捚おならない蚀葉だった。䞀同は呚囲を芋回した。

 庭の奥にむノシシずシカ、サルが立っおいた。
「䜕を぀かたえたず思っおやがる。よく芋おみろ」
  むノシシが、倪くお恐ろしそうな声で蚀った。

 網にかかっおいたのはタヌキだった。
「ツチノコなんおのは、もう、いねえんだよ。お前たち人間が絶滅させたじゃないか。そこにいるのは、阿波の豆ダヌキさ。今床は河童に化けたっおいいんだぜ。なあ、タヌ゚さん」

 タヌ゚ず森の長老たちが匕き䞊げお行く。
 宿泊客はさかんに拍手を送る。
 隆、挣、明子はあっけに取られおいた。
 タヌ゚は䞉人に向かっおりむンクした。
 䞉人は小さく手を振っおいた。

 民宿のお客さんから、おかしな話が䌝わるようになった。
 ツチノコやカッパを目撃したずいう。
「そりゃあ、豆ダヌキの仕業だよ。たったく、いたずらタヌキには困ったもんだ」
 ず、マスコミも劖怪ハンタヌたちも、もうそんな情報には耳を貞さない。
 こうしお、森は再び、隆ず動物たちのワンダヌランドずなったのだった。

この䜜品はフィクションです
登堎人物・動物等は実際のものずは関係がありたせん