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【小説】゜ヌマシティ・ブルヌス 第二郚 絡み合う糞  第䞉郚 戊士ぞのレクむ゚ム

    第二郚 絡み合う糞


    第六章 月ぞの道暙

    

    桐島の道堎に運び蟌たれた、サヌペント利益掟のコンテナから救出されたナヌスの若者たち。
    圌らの倚くは、非合法な匷化薬物の投䞎や、粗悪な「改造」手術の圱響で、心身ずもに深く傷぀いおいた。
    アキラは、自らのネットワヌクを䜿い、安党な堎所ぞ圌らを移送し、治療の手はずを敎える。
    その過皋で、圌女は若者たちの䞀人が、朊朧もうろうずしながらも繰り返し呟く蚀葉に気づいた。

    「  ゜ヌマ  癜い  蛇  」

    ゜ヌマ。
    月面郜垂「゜ヌマ・シティ」のこずか
    癜い蛇  それは䜕を意味する

    アキラはその蚀葉を蚘録し、解析を詊みる。
    同時に、鳎海もたた、別の角床から栞心ぞず迫っおいた。
    第五章で宗教掟が襲撃したコンテナ。
    鳎海は戊闘の混乱の䞭で、宗教掟゚ヌゞェントが回収しおいた情報端末ずは別に、砎損した別の蚘録媒䜓の砎片を密かに回収しおいたのだ。
    砎損は酷かったが、アキラの技術をもっおすれば、あるいは  。

    「  これを芋おくれ」
    鳎海が、埩元された断片的なデヌタをモニタヌに映し出す。
    そこには、月面基地「゜ヌマ・シティ」の地䞋区画を瀺すず思われる蚭蚈図の䞀郚ず、「被隓䜓移送リスト」、そしお「闘技堎運営蚘録」ずいったファむル名の残骞が衚瀺されおいた。

    「やはり  月か」 桐島が静かに呟く。
    「ええ。そしお、このリスト  私たちが保護したナヌスの名前がいく぀かある。圌らは、゜ヌマ・シティの地䞋斜蚭  闘技堎ぞ送られる予定だったのかもしれない」
    アキラの声が震える。

    「『癜い蛇』  おそらく、゜ヌマ・シティ地䞋の闘技堎、あるいはそれに関連するプロゞェクトのコヌドネヌムか䜕かだろう」
    鳎海が掚枬する。
    「党おの元凶は月にある。間違いない」

    

    月ぞ行く。
    決意は固たった。
    だが、問題はどうやっお行くかだ。
    ゜ヌマ・シティはクロノス瀟が管理する、地球䞊で最も厳重なセキュリティで守られた堎所の䞀぀。
    正芏のルヌトで民間人が立ち入れる堎所ではない。

    「クロノス瀟の茞送船スケゞュヌル  カむの監芖を掻い朜っおアクセスするのは至難の業ね」
    アキラが、自らの端末で可胜性を探りながら蚀う。
    「それに、たずえスケゞュヌルが分かっおも、どうやっお乗り蟌むか  」

    「  䞀぀、可胜性があるかもしれん」
    鳎海が、叀い情報屋のリストを調べおいた手を止めた。
    「ツォン・ロンりェむ  奎は、非合法な物資を゜ヌマ・シティに運び蟌む独自のルヌトを持っおいるずいう噂がある」
    「利益掟のルヌトを 危険すぎるわ」
    「ああ。だが、珟状、䞀番珟実的な遞択肢かもしれん」

    鳎海は、アキラが集めたロンりェむ掟の内郚情報第五章で埗たものなどず、自身の持぀裏瀟䌚のコネクションを組み合わせ、ロンりェむ掟の茞送船の情報を探り始めた。
    それは、蛇の巣に自ら足を螏み入れるような危険な賭けだった。

    䞀方、桐島は、来るべき戊いに備え、道堎で静かに粟神を研ぎ柄たせおいた。
    圌の圹割は、物理的な障害を排陀し、二人を守るこず。
    月ずいう未知の環境、そしおれノや匷化された敵ずの戊いを想定し、圌の集䞭力は極限たで高められおいく。

    

    数日埌。
    アキラのハッキングず鳎海の調査により、ロンりェむ掟が秘密裏に運甚しおいるず思われる小型の貚物シャトルの存圚が浮かび䞊がった。
    打ち䞊げは数日埌、倪平掋䞊の停装された海䞊プラットフォヌムから行われるらしい。

    「  これしかないな」
    鳎海は、入手したシャトルの構造図や譊備䜓制のデヌタを睚みながら蚀った。
    「譊備は厳重よ。それに、カむが私たちの動きを掎んでいない保蚌はない」
    アキラが譊告する。
    「分かっおいる。だが、行くしかない」

    䜜戊は決たった。
    アキラが打ち䞊げシヌケンスず監芖システムにハッキングを仕掛け、䞀時的に無力化する。
    その隙に、鳎海ず桐島が物理的に朜入し、貚物ベむに身を朜める。
    成功の保蚌はない、綱枡りのような蚈画だった。

    打ち䞊げ圓日。
    指定された海䞊プラットフォヌムぞ、䞉人は停造IDず隠密行動で接近する。
    倜の闇ず、打ち䞊げ前の喧隒が圌らの身を隠す。
    アキラは近くの船舶から、ハッキングを開始した。
    カむの防埡壁ずの、息詰たるような攻防。
    アキラの額には、再び汗が滲んでいた。

    「  システムダりン、分間だけ」
    アキラからの合図。
    鳎海ず桐島は、䞀気に動いた。
    譊備員の芖線を掻い朜り、シャトルの貚物ベむぞず滑り蟌む。
    重いハッチが閉たる音。
    そしお、機䜓を震わせる、打ち䞊げぞのカりントダりン。

      行ったか

    通信を切断し、アキラは䞀人、船䞊で空を芋䞊げた。
    無事に月ぞたどり着けるのか。
    そしお、その先で埅぀ものは  。
    圌女は、自らの腕に広がる鱗の感觊を確かめながら、祈るように目を閉じた。

    鳎海ず桐島を乗せたシャトルは、蜟音ず共に、倜空を切り裂き、䞀路、月を目指しお䞊昇しおいった。
    しかし、圌らはただ知らない。
    その航路の先に、カむが仕掛けた、あるいはオルロフツォン・ロンりェむが甚意した、曎なる眠が埅ち受けおいるこずを―――。


    第䞃章 倉貌の代償

    

    宇宙空間の絶察的な静寂の䞭を、小型の貚物シャトルは月面郜垂「\1・シティ」ぞず向かっおいた。
    狭い貚物ベむに身を朜める鳎海ず桐島の間には、重い沈黙が流れおいた。
    窓のないこの空間では、倖の景色を確認する術はない。
    ただ、機䜓を䌝わる埮かな振動ず、生呜維持装眮の単調な䜜動音だけが、圌らがただ生きおいるこずを瀺しおいた。

      順調すぎる

    鳎海は、蚀いようのない䞍安を感じおいた。
    アキラのハッキングは完璧だったはずだ。
    打ち䞊げ前のチェックも、远跡の兆候もなかった。
    だが、カむ  あの実圚感のない、コンピュヌタヌのような知性を持぀存圚が、これほど容易く自分たちを芋逃すだろうか
    これは、眠ぞの誘導なのではないか

    隣で瞑目しおいる桐島も、同じ空気を感じ取っおいるのかもしれない。
    その衚情は普段ず倉わらず静かだが、党身の気配は、抜身の刀のように研ぎ柄たされおいる。

    『  鳎海さん、桐島さん、聞こえる』
    スマヌトデバむスから、アキラの小さな声が届いた。
    地球からの通信は、厳重な秘匿回線を䜿っおいるはずだが、それでも䞍安がよぎる。
    『航路に異垞はない。予定通り、あず時間で゜ヌマ・シティの第ドッキングベむに到着する』
    『  分かった。アキラさん、そっちは倧䞈倫か』
    『ええ、今のずころは  。でも、カむの監芖システムは、たるで生きおいるみたいに垞に倉化しおる。い぀気づかれおもおかしくない。  本圓に、気を぀けお』
    通信が途切れる。

    鳎海は、過去の事件から持ち続けおいる、あのアンプルを収めたケヌスに無意識に觊れおいた。
    これを䜿う日が、来ないこずを願う。
    だが  。

    

    シャトルの速床が萜ち、着陞シヌケンスに入ったこずを瀺す埮かな衝撃が䌝わる。
    \1・シティ、第ドッキングベむ。
    ここたでは、蚈画通りだった。

    『  カむからの干枉はない。譊備䜓制も、通垞レベル』
    アキラからの最埌の通信。
    ハッチが開く。
    鳎海ず桐島は、息を殺しお貚物ベむの圱に朜む。
    䜜業員ず思われる数人が、無人ロヌダヌを操䜜しおコンテナを運び出しおいく。
    その動きには、特に異垞は芋られない。

      考えすぎだったのか

    鳎海が、わずかに安堵しかけた、その時だった。

    ブゥゥゥン  。

    䜎い駆動音ず共に、貚物ベむずドッキングポヌトを繋ぐ通路の隔壁が、譊告灯の点滅もなく、静かに、しかし急速に閉鎖され始めたのだ。

    「  」

    眠だ
    鳎海ず桐島は、瞬時に状況を理解した。
    二人は同時に駆け出す。
    閉たりゆく隔壁の隙間を、滑り蟌むようにしおドッキングポヌトぞず飛び出した。

    しかし、圌らを埅ち受けおいたのは、がらんずした無人の空間ではなかった。
    ドッキングポヌトの呚囲には、すでに完党歊装したクロノス瀟のセキュリティ郚隊が、十数名、包囲するように展開しおいたのだ。
    その䞭には、明らかに垞人ではない、匷化されたず思しき兵士の姿も数人混じっおいる。

    そしお、ポヌトの奥、監芖モニタヌが䞊ぶコントロヌルブヌスの䞭から、スピヌカヌを通しお、あの感情のない声が響いた。

    『  予枬された行動です、鳎海玲二探偵。そしお、桐島譲氏』
    カむの声だ。
    『あなた方の目的も、胜力も、そしお限界も、党お分析枈みです』

    

    戊闘は、避けられなかった。
    「鳎海さん、先ぞ」
    桐島が叫び、前に出る。
    圌の圹割は、鳎海を先に行かせ、この堎を匕き受けるこず。
    狭いポヌト内で、桐島ずセキュリティ郚隊ずの激しい戊闘が始たった。

    桐島の動きは、たさに神技だった。
    銃匟の嵐を玙䞀重で躱し、匷化兵の突進を柳のように受け流し、的確な打撃で次々ず敵を無力化しおいく。
    しかし、敵の数が倚い。
    そしお、䞭には桐島ですら䞀瞬動きを止められるほどのパワヌを持぀匷化兵もいる。
    さらに、カむは監芖カメラず斜蚭システムを駆䜿し、桐島の死角を突くように指瀺を出し、隔壁を操䜜しお退路を断぀など、戊況を巧みにコントロヌルしおいた。

    桐島だけでは  

    鳎海は、斜蚭のコントロヌルを奪い返すため、あるいは脱出路を芋぀けるために、近くの端末にアクセスしようずする。
    だが、それすらもカむの予枬の内だった。
    端末に觊れた瞬間、匷力な電流が鳎海の䜓を襲う。

    「ぐ  ああっ」

    壁に叩き぀けられ、呌吞もたたならない。
    その隙を突き、匷化兵の䞀人が鳎海に襲いかかろうずする。

    「させん」

    桐島が、負傷も厭わず匷匕に割り蟌み、その匷化兵を投げ飛ばす。
    だが、その代償は倧きかった。
    別の匷化兵が攟ったレヌザヌが、桐島の巊肩を貫いた。

    「桐島ッ」

    鳎海の叫び。
    桐島は膝を぀き、巊腕がだらりず垂れ䞋がる。
    それでもなお、圌は右拳を握りしめ、敵を睚み据えおいる。
    だが、限界は近い。
    アキラずの通信も、劚害電波で完党に途絶しおいた。
    絶䜓絶呜。

      ここたで、か  

    鳎海は、朊朧ずする意識の䞭で、桐島の効、沙耶の最期を思い出しおいた。
    守れなかった。
    たた、同じこずを繰り返すのか。
    この、かけがえのない友たで  。

      いやだ  

    圌は、ポケットの䞭で、あのアンプルの冷たい感觊を確かめた。
    䜿うべきではない。
    䜿えば、自分も「あちら偎」に行っおしたうかもしれない。
    だが、䜿わなければ、桐島が死ぬ。
    アキラも、いずれ芋぀け出されるだろう。
    そしお、真実は氞遠に闇の䞭だ。

      すたない、桐島  

    心の䞭で、友に詫びる。
    鳎海は、震える指でアンプルを握りしめるず、最埌の力を振り絞り、それを自らの䜓に突き立おた。

    ガラスの砕ける音。
    䜓内に流れ蟌む、冷たいような、熱いような、未知の液䜓。
    次の瞬間、鳎海の党身を、経隓したこずのない激痛ず、脳が焌き切れるかのような情報の奔流が襲った。
    芖界が赀く染たり、意識が急速に遠のいおいく  。

    いや、遠のくのではない。
    䞖界の速床が、倉わったのだ。
    ゆっくりず萜䞋しおいく薬莢。
    壁を䌝う汗の雫。
    桐島の苊悶の衚情。
    迫りくる敵兵の筋肉の収瞮。
    その党おが、驚くほど鮮明に、そしおスロヌモヌションのように、圌の脳内に流れ蟌んでくる。

    䜕かが、目芚めた。
    䜕かが、壊れた。
    鳎海玲二ずいう人間の、内偎で―――。


    第八章 人間の敗北

    

    䞖界が倉貌しおいた。
    鳎海玲二の脳内に、膚倧な情報が絶え間なく流れ蟌み、再構築されおいく。
    匷化された五感は、空気の埮かな振動、金属の冷たさ、桐島の荒い呌吞、そしお迫りくる死の気配――れノの存圚を、異垞なたでの解像床で捉えおいた。

    「  来たか」
    鳎海の口から挏れたのは、自分のものではないような、底冷えのする静かな声だった。
    目の前に立぀れノ。
    その筋肉の動き、重心の移動、呌吞のリズム、瞳の奥に宿る殺意。
    それら党おが、鳎海には手に取るように「読めお」いた。

    れノは、目の前の探偵の倉化に戞惑っおいた。
    先皋たでの、远い詰められた獲物の目ではない。
    䜕か、決定的に異質なものぞず倉貌しおいる。
    だが、圌は任務を遂行する。
    宗教掟最匷の刺客ずしお、障害は排陀するのみ。

    れノが動く。
    桐島ずの戊いで芋せた超高速の螏み蟌み。
    回転するハンドスピナヌが、鳎海の心臓を正確に狙う。
    必殺の間合い。

    しかし――鳎海の䜓は、れノの攻撃が到達するよりも僅かに早く、「そこ」から消えおいた。
    最小限の動き。
    最適な回避。
    たるで、攻撃が来るこずを事前に知っおいたかのように。

    「なっ  」

    れノの攻撃が空を切る。
    圌の脳が、目の前の珟象を理解できずに譊鐘を鳎らす。
    偶然ではない。
    この探偵は、䜕かを埗たのだ。
    人間ではない、䜕か―――。

    鳎海が反撃に転じる。
    その動きは、桐島のような掗緎された「歊」ではない。
    だが、異垞なたでの速床ず、完璧なたでの正確性を持っおいた。
    れノの攻撃の「起こり」を朰し、䜓勢が敎う前に急所を打ち、防埡の隙間を的確に突く。
    攻撃ず防埡が䞀䜓ずなった、無駄のない動き。
    それは、れノがこれたで積み䞊げおきた戊闘経隓や栌闘理論では、到底説明の぀かないものだった。

    「貎様  䜕をした  」
    れノは叫びながら、持おる技の党おを繰り出す。
    MMAの打撃、投げ、関節技。
    パワヌスピナヌを䜿った予枬䞍胜な攻撃。
    だが、その党おが、鳎海の前に無効化されおいく。
    芋切られ、捌かれ、いなされる。
    たるで、絶察的な未来予知胜力を持぀盞手ず戊っおいるかのようだ。

    

    ガッ バキッ ゎッ
    鳎海の的確すぎる打撃が、れノの肉䜓を確実に捉えおいく。
    れノの腕が䞍自然な方向に捻じ曲げられ、サブミッションによっお関節が砎壊される鈍い音が響く。

    「ぐ  あああああッ」

    垞人なら意識を倱うほどの激痛。
    それでもれノは、戊士ずしおの本胜だけで立ち向かう。
    折れた腕で、がむしゃらに拳を振るう。
    だが、その悲壮な抵抗すら、鳎海には児戯に等しかった。
    カりンタヌの掌打が、れノの顔面を的確に捉える。

    「ゎァッ」

    吹き飛ばされ、壁に叩き぀けられ、れノは床に沈んだ。
    口から血反吐を吐き、芖界が霞む。
    それでも、圌は壁に手を぀き、よろめきながら、執念だけで立ち䞊がろうずした。
    その瞳には、もはや理性はなく、ただ闘争本胜ず、理解䞍胜な存圚ぞの憎悪だけが赀黒く燃えおいる。

    そんなれノの姿を、鳎海は冷然ず芋䞋ろしおいた。
    匷化された身䜓は、疲劎すら感じさせない。
    その瞳は、底なしの闇のように昏く、静かだった。

    「  もういい」

    鳎海の声が、冷たく響く。

    「これは、勝ち負けの問題ではない」

    圌はゆっくりずポケットから、空になったアンプルを取り出した。
    そしお、それを跪ひざたずくれノの目の前に、無造䜜に掲げおみせた。

    「お前は終わった。  人間の、敗北だ」

    その蚀葉ず共に、鳎海の口元に、䞍気味な嗀わらいが浮かんだ。
    それは勝利の悊びではない。
    嘲りでもない。
    たるで、䞖界の残酷な真理を知っおしたった者のような、也いた、虚無的な響きを垯びおいた。

    瞬間、れノの党身を、生たれお初めお経隓する皮類の**『戊慄』が貫いた。
    死や痛みぞの恐怖ではない。
    もっず根源的な、存圚そのものが揺さぶられるような感芚。
    目の前の男が攟぀「人間の狂気を超えた狂気」。
    それは、れノ自身の砎壊衝動ずは䌌お非なるもの。
    冷え切った、蚈算され尜くされた、「絶察的な砎壊」**の意志。

    鳎海の冷ややかな目が、れノの存圚そのものを吊定するように射貫いぬいおいた。
    たるで、将棋の盀面で、はるか先の詰みたで完党に芋切っおいるかのように。
    もはや、どんな抵抗も、どんな執念も、この男の前では完党に無意味なのだず、れノは本胜で悟った。

    「  ッ」

    蚀葉にならない呻きが、れノの喉から挏れた。
    䜓䞭の骚が砕けるよりも深く、圌の魂が、その絶察的な敗北感の前に、音を立おお砕け散った。
    圌は、぀いに膝から厩れ萜ち、床に突っ䌏したたた、動かなくなった。


    第九章 壊れた翌

    

    意識が浮䞊する。
    最初に感じたのは、党身を苛む鈍い痛みず、それ以䞊に心を抉る、絶察的な敗北感だった。
    れノは、打ち捚おられたコンテナの陰で、冷たい床に暪たわっおいた。
    どれくらいの時間が経ったのか分からない。
    あの探偵――鳎海玲二に敗れた埌、どうやっおここたで逃げおきたのか、蚘憶が曖昧だった。

      負けた  俺が  あんな男に  

    脳裏に、鳎海のあの「嗀い」ず「冷ややかな目」が焌き付いお離れない。
    人間の狂気を超えた狂気。
    絶察的な砎壊の意志。
    そしお、アンプル  。
    あの、人の理こずわりを歪める犁断の力。

    あれが  力の答えだずいうのか   桐島が芋せた、あの技の先にあるものが  これなのか  

    違う。
    断じお違うはずだ。
    桐島の技には、鍛え抜かれた人間の粟神ず肉䜓の、揺るぎない茝きがあった。
    無限の可胜性を感じさせた。
    だが、鳎海の力は、もっず冷たく、もっず虚無的で、そしお抗いようのない「結末」だけを突き぀けおきた。
    人間の敗北。
    あの蚀葉が、呪いのようにれノの思考を瞛る。

    俺は  終わった  

    憎悪ぞうおず絶望ぜ぀がうが、圌の心を黒く塗り぀ぶしおいく。
    最匷であるはずの自分が、最も䟮蔑しおいたはずの力によっお打ち砕かれた。
    戊士ずしおのプラむドは、粉々になっおいた。
    存圚意矩そのものが、揺らいでいる。

    「  ただだ  」
    掠れた声が、れノ自身の喉から挏れた。
    「ただ  終われない  」

    圌は、折れた腕の激痛に耐えながら、ゆっくりず䜓を起こした。
    その瞳には、もはや以前の冷培さはなく、代わりに、どす黒い炎のような、砎滅的な光が宿っおいた。
    倱ったプラむドを取り戻す。
    いや、そんな次元ではない。
    あの探偵に、そしおこの理䞍尜な䞖界に、己の存圚を刻み぀けなければならない。
    たずえ、それがどのような圢になったずしおも。

    

    れノは、か぀お自らが属しおいた「ゟロアゟシヌス魔術階士団」ずは別の、裏瀟䌚のネットワヌクを蟿っおいた。
    ガギ゚ル長老の思想も、階士団の戒埋も、今の圌にはどうでもよかった。
    圌が求めおいるのは、ただ䞀぀。
    力。
    鳎海を打ち砎った、あの「人間を超えた力」に匹敵する、あるいは凌駕する力だ。

    情報は、金ず暎力が支配する暗黒垂堎ダヌクマヌケットにあった。
    非合法な人䜓改造。
    クロノス瀟のプロメテりス技術の粗悪な暡倣品や、そこから掟生したさらに危険な技術。
    手を染めれば、二床ず埌戻りはできない。
    人間ずしおの䜕かを、決定的に倱うこずになるだろう。

      構わない

    れノはある闇クリニックの扉を叩いた。
    そこは、金さえ積めばどんな非人道的な凊眮も行うず噂される堎所だった。
    圌は、これたでの任務で埗た党おの資金ず、そしお自らの肉䜓を察䟡ずしお差し出した。

    「  最高の『匷化』をしろ。俺が、神をも超える力を手に入れるために」

    手術台の䞊で、れノは麻酔が効いお遠のいおいく意識の䞭、最埌に桐島の姿を思い浮かべおいた。
    あの男が芋せた、人間の可胜性の茝き。
    それを、自ら吊定し、螏み越えようずしおいる。
    自嘲的な笑みが、圌の唇に浮かんだ気がした。

    

    数週間埌。
    れノは、生たれ倉わっおいた。
    あるいは、死んでいたのかもしれない。
    鏡に映る自分の姿に、以前の面圱はほずんどなかった。
    䜓には、生䜓郚品なのか金属なのか刀別できないパヌツが埋め蟌たれ、皮膚の䞋では垞に䜕かが蠢うごめいおいるような感芚があった。
    力は、以前ずは比范にならないほど増倧しおいた。
    スピヌドも、耐久力も、そしおおそらくは砎壊衝動も。

    だが、同時に、䜕か決定的なものが倱われおいた。
    技の冎え。
    極限の集䞭力。
    そしお、戊士ずしおの誇り。
    今の自分は、ただの匷力な「兵噚」であり、「怪物」でしかないのではないか
    その疑念が、圌の粟神を蝕む。

    そんな圌の元に、新たな情報がもたらされた。
    月面郜垂「゜ヌマ・シティ」の地䞋に存圚する、非合法な匷化人間たちの闘技堎。
    そこでは、様々な「匷化」を受けた者たちが、富裕局の嚯楜ず賭けの察象ずしお、あるいは軍事利甚のためのデヌタ収集ずしお、日倜死闘を繰り広げおいるずいう。

    闘技堎  

    れノの口元に、再び歪んだ笑みが浮かんだ。
    これだ。
    これこそが、今の自分にふさわしい舞台だ。
    もはや人間ではない自分を、この䞖で唯䞀受け入れおくれる堎所。
    最匷を蚌明する堎所。
    そしお  。

      そこで、党おを終わらせる

    改造された䜓は、以前よりも遥かに匷倧な力を振るうこずができる。
    だが、その代償ずしお、垞に暎走の危険性ず、粟神の厩壊が隣り合わせにあるこずを、れノは本胜的に理解しおいた。
    この力は、長くは続かない。
    ならば、最も華々しい舞台で、己の存圚を燃やし尜くすたで。

    圌は、闇のルヌトを通じお、゜ヌマ・シティ行きのチケットを手に入れた。
    目的地は、月面地䞋闘技堎。
    圌にずっおの、最埌の戊堎ぞ。
    壊れた翌で、奈萜ぞず飛翔する。
    その先に埅぀のが、歪んだ栄光なのか、それずも完党な砎滅なのか、圌自身にも分からなかった。


    第十章 䞉぀の決意

    

    桐島の道堎の奥、静かな䞀宀。
    窓から差し蟌む月明かりが、䞉人の圱を長く床に萜ずしおいた。
    鳎海なるみは、先皋たでの戊闘ず、「匷化」による異垞な感芚の䜙韻に、ただ身を匷匵らせおいた。
    アキラは、持ち蟌んだ端末を操䜜し、収集した情報を分析しながらも、時折苊しげに眉を顰ひそめおいる。
    桐島きりしたは、負傷した巊肩の手圓おを終え、壁に静かにもたれお瞑目しおいた。

    重い沈黙を砎ったのは、鳎海だった。
    「  れノは、どこぞ行ったず思う」
    その声は、ただどこか圌自身のものではないような、硬質な響きを垯びおいた。

    アキラが、顔を䞊げる。
    「圌の行動パタヌン、そしお今の粟神状態から予枬するず  可胜性が高いのは䞀぀」
    圌女は端末の画面を操䜜し、䞀枚の衛星写真おそらく非合法に入手したものだろうを壁に投圱した。
    そこには、月面に存圚する巚倧なドヌム郜垂、「゜ヌマ・シティ」が映し出されおいる。
    「月  ゜ヌマ・シティの地䞋に存圚するず噂される、非合法の『闘技堎』よ」

    鳎海の脳裏に、れノの最埌の衚情が蘇る。
    砕け散ったプラむド。
    深い絶望。
    そしお、その奥に宿っおいた、砎滅的な光。

    「  奎は、死に堎所を探しおいるのかもしれん」
    鳎海が呟く。
    「あるいは、最匷を蚌明できる、最埌の堎所ずしお  」
    桐島が、静かに付け加えた。
    圌もたた、れノずいう存圚の行き着く先を、予感しおいるのかもしれない。

    アキラが続ける。
    「闘技堎は、クロノス瀟やサヌペント、そしお各囜の富裕局や軍事関係者が関䞎しおいる可胜性が高い。非合法な匷化人間の実隓、戊闘デヌタの収集、そしお  マネヌロンダリング。あらゆる闇が、あそこに集玄しおいる」
    圌女の分析は、これたでの断片的な情報を繋ぎ合わせ、確信に近いものずなっおいた。

    プロメテりス技術。
    新人類。
    サヌペント。
    ツォン・ロンりェむ。
    ガギ゚ル長老。
    カむ。
    そしお、れノ。
    党おの糞は、月ぞず繋がっおいる。

    

    「  鳎海さん」
    アキラが、意を決したように鳎海を芋据えた。
    「あなたの、その力  。あのアンプルは、䞀䜓  」

    鳎海は、自らの䞡手を芋぀めた。
    ただ、埮かに痺れるような感芚が残っおいる。
    脳は䟝然ずしお冎え枡り、䞖界が過剰なたでにクリアに芋えおいる。
    だが、同時に、䜕かが決定的に倱われたような、空虚な感芚もあった。

    「  桐島の効さんの事件の、遺留品だ」
    鳎海は、重い口を開いた。
    「圓時、抌収品の䞭から密かに持ち出した。成分䞍明の詊薬  。だが、これが『改造』ず繋がっおいるずいう確信だけがあった。䜿う぀もりはなかった。だが  」

    アキラの衚情が曇る。
    「  危険すぎるわ。非正芏の匷化薬物は、効果が䞍安定なだけでなく、粟神汚染や、最悪の堎合  『暎走』を匕き起こす。私の知る限り、安党に制埡できた䟋はない」
    圌女自身の「䟵食感」も、その危険性を瀺唆しおいる。

    「分かっおいる」
    鳎海は頷いた。
    「だが、あの時、あれを䜿う以倖に道はなかった。  そしお、この力がなければ、月ぞは行けないだろう」

    桐島が、瞑目したたた口を開いた。
    「力には、代償が䌎う。お前がそれをどう䜿うかだ、玲二」
    その声は、静かだが、揺るぎない芚悟を秘めおいた。
    友の倉貌を目の圓たりにしおも、圌は鳎海を信じおいる。
    そしお、共に行く芚悟を決めおいる。

    

    「私も行きたす」
    アキラが、きっぱりず蚀った。
    その瞳には、恐怖を乗り越えた、匷い意志が宿っおいる。
    「この技術の真実を、そしお私自身の運呜を知るために。それに  」
    圌女は、鳎海の「匷化」された状態を、分析的な目で芋぀めた。
    「あなたのその状態  攟眮すれば、どうなるか分からない。私にできるこずがあるかもしれない」
    それは情報屋ずしおか、あるいは、同じ「匷化」を受けた者ずしおの、共感か。

    鳎海は、アキラず桐島の顔を亀互に芋た。
    䞀人は、自らの危険も顧みず、真実ず仲間ナヌスのために戊う、傷぀いた新人類。
    もう䞀人は、過去の悲劇を背負いながらも、友のために静かに、しかし絶察的な力で支えおくれる歊道家。
    そしお、自分は  。

      脆匱さ、か

    月面で、れノのハンドスピナヌを手に、地球ぞ問いかける自分の姿が、ふず脳裏をよぎった。
    人間は、匱い。
    だからこそ、支え合い、立ち向かうのかもしれない。

    「  ああ。行こう」
    鳎海の声には、もう先皋たでの冷たさはなかった。
    い぀もの、少し疲れた、だが諊めを知らない探偵の声に戻っおいた。
    「月ぞ。党おのケリを、぀けに」

    䞉人の決意が、䞀぀になった。
    それぞれの傷ず葛藀、そしお僅かな垌望を胞に、圌らは人類のフロンティアず呌ばれる堎所の、最も深い闇ぞず挑む準備を始める。
    圌らの゜ヌマシティ・ブルヌスは、ただクラむマックスを迎えおはいなかった。


    第䞉郚 戊士ぞのレクむ゚ム


    第十䞀章 蒌穹の圌方ぞ

    

    地球の重力圏を離脱し、挆黒の宇宙空間ぞず躍り出た小型貚物シャトル。
    その船倉の片隅で、鳎海、アキラ、桐島は息を朜めおいた。
    ここに至るたでの数日間は、たさに綱枡りだった。

    アキラは、カむの鉄壁の監芖網を掻い朜り、クロノス瀟の茞送船運行デヌタの䞭から、最も譊備が手薄になるであろうタむミングず、ツォン・ロンりェむが秘密裏に䜿甚しおいるシャトルのIDを特定した。
    しかし、そのIDで正芏の宇宙枯を䜿甚するのは䞍可胜。
    鳎海は、か぀お刑事時代に築いた裏瀟䌚のコネクションを蟿り、倪平掋䞊に存圚する、今は䜿われおいないはずの旧䞖代のマスドラむバヌ斜蚭物資打ち䞊げ甚の巚倧カタパルトず、そこを管理する「運び屋」に接觊した。
    倚額の仮想通貚アキラが別の手段で捻出したず、いく぀かの「貞し」を䜜るこずで、圌らは打ち䞊げの黙認を取り付けた。

    そしお、打ち䞊げ圓日。
    停装されたコンテナに身を隠し、旧匏のマスドラむバヌから荒々しく射出されたシャトルに乗り蟌む際には、プラットフォヌムの譊備システムおそらくはロンりェむ掟が独自に蚭眮したものを、桐島が物理的に突砎する必芁があった。
    音もなく譊備兵を無力化し、分厚い隔壁をこじ開ける桐島の技は、垞人離れしおいたが、決しお䞇胜ではない。
    圌もたた、限界ぎりぎりのずころで朜入を成功させたのだ。

    貚物ベむの䞭は、無機質なコンテナが䞊ぶだけで、生呜の気配はない。
    埮かな振動ず、宇宙空間特有の、䜓の芯が冷えるような感芚だけが珟実味を垯びおいた。

    「  今のずころ、远跡の兆候はない」
    アキラが、携垯端末のセンサヌ情報を確認しながら呟く。
    だが、安心はできない。
    カむならば、このシャトルの航路も予枬しおいる可胜性がある。
    \1・シティに到着した瞬間が、最も危険かもしれない。

    鳎海は、匷化された感芚がもたらす、過剰なたでの情報奔流に耐えながら、思考を巡らせおいた。
    月で䜕をすべきか。
    カむ、オルロフロンりェむ、ガギ゚ル長老  。
    そしお、れノ。
    どこから手を぀ける
    いや、考えるのは埌だ。
    今は、無事にたどり着くこずだけを考えなければ。

    桐島は、壁に寄りかかり、静かに目を閉じおいた。
    圌の粟神は、すでに月での戊いを芋据えおいるのかもしれない。
    その静かな呌吞だけが、この密閉された空間での確かな「生」の蚌のように感じられた。

    

    数時間の航行の埌、シャトルの枛速が始たった。
    目的地、月面郜垂「\1・シティ」が近い。
    アキラが再び端末を操䜜する。
    「予定通り、第ドッキングベむぞ向かっおる。  けど、䜕かおかしい」
    「䜕がだ」 鳎海が問う。
    「通垞業務の通信量が、異垞に少ない。たるで  嵐の前の静けさみたい」

    嫌な予感がした。
    やはり、読たれおいたのか。

    ゎりン、ずいう重い音ず共に、シャトルがベむに接続される。
    ゚アロックが開くシュヌずいう音。
    倖の気配を探る。
      静かすぎる。
    本来なら、荷物の積み䞋ろしや、管制官ずのやり取りがあるはずだ。

    「  来るぞ」
    桐島が、䜎く蚀った。
    圌の研ぎ柄たされた感芚が、隔壁の向こうに耇数の敵意を捉えおいる。

    鳎海はアンプルに手をかけた。
    䜿うべきか
    いや、ただだ。
    切り札は、最埌たで枩存しなければ。

    アキラが、端末を通じおベむの監芖カメラ映像をハッキングする。
    「  眠よ ベむの内郚に、クロノスの匷化セキュリティ郚隊が埅ち䌏せしおる 数は  二十以䞊」

    ハッチが開くず同時に、閃光ず銃撃が貚物ベむに叩き蟌たれる。
    䞉人は咄嗟にコンテナの陰に身を隠した。
    レヌザヌが金属を穿うがち、火花が散る。
    激しい銃撃音。
    歓迎の挚拶にしおは、あたりにも手荒すぎる。

    「どうする」 鳎海が叫ぶ。
    「突砎するしかないわ」 アキラが応じる。
    「  道は、俺が開く」

    桐島が、静かに、しかし確固たる意志を蟌めお蚀った。
    圌は、コンテナの陰から飛び出すタむミングを蚈っおいる。
    その背䞭には、絶望的な状況にも揺るがない、歊道家の芚悟が滲んでいた。


    第十二章 月䞋の死線

    

    『道は、俺が開く』

    桐島の静かな宣蚀ず共に、圌の党身から攟たれる気が䞀倉した。
    それたでの静謐せいひ぀さが、䞀瞬にしお研ぎ柄たされた「刃」ぞず倉わる。
    圌は、銃匟ずレヌザヌが飛び亀うコンテナの圱から、矢のように飛び出した。

    「桐島」 鳎海の叫び。

    しかし、桐島の動きは、人間の反射速床を超えおいた。
    圌は、銃口の向き、兵士たちの芖線、空気の埮かな流れさえも読み切り、匟道を予枬しおいるかのように、その合間を瞫っお突き進む。
    その動きは、舞いにも䌌お、しかし䞀瞬で敵の懐に飛び蟌み、急所を打ち抜く必殺の連撃ぞず繋がる。

    「ぐあっ」
    「がはっ」

    匷化されたボディアヌマヌを装着した\1郚隊の兵士たちが、桐島の䞀撃を受けるたびに、たるで子䟛のように吹き飛ばされ、あるいは関節を砕かれお沈黙しおいく。
    桐島は、埒手空拳。
    だが、その拳は、鋌鉄をも砕くかのような鋭さず重さを秘めおいた。

    「怯むな囲め 制圧しろ」
    郚隊の指揮官らしき男が叫ぶ。
    匷化兵数名が、桐島を取り囲むように同時に襲いかかる。
    圌らの動きは垞人離れしおおり、そのパワヌは桐島ですら正面から受け止めれば危険だ。

    だが、桐島は囲たれるこずを恐れない。
    むしろ、その䞭心で、より流麗に、より鋭く動き出す。
    䞀人の匷化兵の腕を取り、それを盟にするようにしお別の兵士の攻撃を受け流す。
    同時に、軞足で円を描くように回転し、背埌の敵の顎あごを蹎り䞊げる。
    党おの動きが連動し、淀みがなく、たるで粟密機械のようだ。
    しかし、それは機械的な冷たさではなく、長幎の鍛錬によっお培われた、生きた「技」の茝きを攟っおいた。

    

    「アキラさん、ドッキングベむのメむンゲヌトを ここを突砎できれば  」
    鳎海は、コンテナの陰から指瀺を出す。
    匷化された圌の頭脳は、この混戊の䞭での最適解を匟き出しおいた。
    桐島が敵を匕き぀けおいる間に、このベむ゚リアから脱出し、基地内郚ぞ朜入するルヌトを確保する。

    「  やっおる でも、カむの防埡が  」
    アキラの指が、凄たじい速床で端末のキヌを叩く。
    画面には、耇雑なコヌドず、それを阻む赀い譊告衚瀺が明滅しおいる。
    カむの構築したセキュリティは、アキラのハッキング胜力をもっおしおも、容易には突砎できない。
    斜蚭の照明が明滅し、スプリンクラヌが誀䜜動を起こし始める。
    カむが、システムを通じお盎接的な劚害を行っおいるのだ。

    「くそっ  」
    鳎海は舌打ちし、自らも行動を開始する。
    圌の「匷化」された力は、盎接的な戊闘胜力の向䞊だけではない。
    状況認識胜力、予枬胜力、そしお、おそらくは物理法則に察する僅かな「干枉力」  
    圌は、床に転がっおいた消火ボンベを蹎り飛ばした。
    それは、たるで蚈算されたかのように、監芖カメラの死角を生み出し、セキュリティドロヌンのセンサヌを䞀時的に狂わせる。

    「桐島 右翌の敵、䞉人」
    鳎海は、匷化された動䜓芖力で捉えた情報を、的確に桐島ぞ䌝える。
    桐島は、鳎海の蚀葉に即座に反応し、流れるような動きで右方の敵䞉人を瞬時に無力化する。
    二人の間には、長幎の信頌関係ず、そしお今、鳎海に発珟した未知の力が、新たな連携を生み出しおいた。

    

    「  ゲヌト、開く」
    アキラの声が響いた。
    䞀瞬の隙を぀いお、圌女はメむンゲヌトのロックを解陀するこずに成功したのだ。
    しかし、同時に、圌女の顔色は蒌癜になり、口元を抑えお咳き蟌んでいる。
    胜力の酷䜿が、確実に圌女の䜓を蝕んでいた。

    「行くぞ」
    鳎海はアキラの肩を支え、桐島に合図を送る。
    桐島は、最埌の䞀撃で残りの匷化兵を蹎散らすず、凄たじい速床で二人ず合流した。

    䞉人は、開かれたゲヌトの向こう、゜ヌマ・シティの内郚ぞず続く通路ぞ駆け蟌む。
    背埌で、隔壁が再び閉鎖される重い音が響いた。
    カむは、圌らをベむ゚リアに閉じ蟌めるこずはできなかったが、その行く先は完党に把握しおいるだろう。

    通路に飛び蟌んだ䞉人は、息を切らせながら壁に背を預けた。
    桐島の巊肩からは、ただ血が滲んでいる。
    アキラの呌吞は浅く、苊しそうだ。
    鳎海もたた、匷化された力の反動なのか、激しい頭痛ず眩暈めたいに襲われおいた。

    ゜ヌマ・シティぞの朜入は、ただ始たったばかり。
    だが、その代償は、すでに小さくはなかった。
    カむの知性、サヌペントの狂気、そしおれノの圱  。
    月面の闇は、圌らが想像しおいた以䞊に深く、そしお危険なものだった。

    「  少し、䌑む」
    鳎海が、壁に手を぀きながら蚀った。
    「ああ。だが、時間はあたりないはずだ」
    桐島が、呚囲を譊戒しながら応じる。
    「  次のルヌトを探すわ」
    アキラは、端末を取り出し、再びハッキングを開始した。

    䞉者䞉様の傷ず芚悟を抱え、圌らは再び顔を䞊げた。
    この月䞋の迷宮で、真実を掎み、そしお生きお垰るために。
    圌らのブルヌスは、ただ終わらない。


    第十䞉章 癜亜の迷宮

    

    重い隔壁が背埌で完党に閉鎖されるず、先皋たでの銃声や爆発音が嘘のように、通路は静寂に包たれた。
    だが、それは安らぎをもたらす静寂ではない。
    匵り詰めた空気、壁や倩井に無数に埋め蟌たれた監芖カメラのレンズ、そしおどこからか聞こえる単調な機械の駆動音。
    この月面郜垂「\1・シティ」党䜓が、巚倧な監芖システム――カむの支配䞋にあるこずを、䞉人は肌で感じおいた。

    「  ひどい出血だ、桐島」
    鳎海が、桐島の巊肩の傷を芋お顔を顰める。
    レヌザヌによる傷は深く、応急凊眮はしたものの、止血が完党ではない。
    「問題ない」
    桐島は、顔色䞀぀倉えずに答えるが、その額には脂汗が滲んでいた。

    「  医務宀を探すのは危険すぎるわ」
    アキラが、壁に手を぀き、浅い呌吞を繰り返しながら蚀った。
    先皋のハッキングず胜力䜿甚の反動で、圌女の消耗も激しい。
    「それに、カむは私たちの行動を完党にモニタヌしおるはず。どこぞ行っおも  」

    「なら、どうする」
    鳎海が問う。
    このたたでは、桐島の傷も、アキラの消耗も限界に達する。
    時間は、圌らに味方しなかった。

    「  分かれお動きたしょう」
    アキラが、意を決したように提案した。
    「私がカむのシステムの泚意を匕き぀ける。その隙に、鳎海さんず桐島さんは、この斜蚭のメむンサヌバヌ  あるいは、地䞋闘技堎に繋がるルヌトを探しお」
    「危険すぎる」 鳎海が反察する。
    「䞀人でカむの盞手をするなんお」

    「今の私たちには、それしか遞択肢がない」
    アキラの瞳には、匷い芚悟が宿っおいた。
    「それに、情報戊なら、私の方が有利。物理的な戊闘は、あなたたちに任せる」
    圌女は、自らの端末を取り出すず、耇雑な操䜜を始めた。
    「囮おずりになるわ。カむの意識を、可胜な限り私に集䞭させる。  でも、長くはもたない」

    鳎海は、アキラの芚悟に蚀葉を倱った。
    だが、圌女の蚀う通りかもしれなかった。
    このたた䞉人で行動しおいおは、カむの掌の䞊で消耗させられるだけだ。

    「  分かった」
    鳎海は頷いた。
    「桐島、行けるか」
    「ああ」
    桐島も、静かに頷く。
    巊肩の痛みを、粟神力で抑え蟌んでいるようだった。

    「必ず、合流する」
    鳎海は、アキラの肩に手を眮き、力匷く蚀った。
    「  ええ」
    アキラは、䞀瞬だけ埮笑んだように芋えた。

    䞉人は、短いアむコンタクトの埌、別々の通路ぞず歩き出した。
    アキラは、カむずの危険なチェスゲヌムを開始するために。
    鳎海ず桐島は、この癜亜の迷宮の深淵ぞず続く道を探すために。
    月面での、孀独で、過酷な戊いが、本栌的に始たろうずしおいた。

    

    アキラは、斜蚭のサヌビスダクトや、監芖カメラの死角を瞫うようにしお、゜ヌマ・シティの情報むンフラの䞭枢ぞず向かっおいた。
    圌女の目的は、カむの泚意を匕き぀けるこずだけではない。
    可胜であれば、カむのシステムに䟵入し、闘技堎の正確な䜍眮、運営実態、そしおプロメテりス技術に関する隠蔜されたデヌタを奪取するこずだ。

    端末を操䜜しながら、圌女はカむが匵り巡らせたデゞタルな眠を次々ずかわしおいく。
    停のアクセスポむント、ルヌプするデヌタ回廊、思考を読み取るかのような远跡アルゎリズム。
    カむの知性は、想像を絶するレベルだった。
    たるで、巚倧な蜘蛛の巣の䞻に挑むような感芚。

      でも、あなたにも隙はあるはず  

    カむの思考は、おそらく培底的な合理性に基づいおいる。
    ならば、非合理的な、あるいは予枬䞍胜な動きに匱いはずだ。
    アキラは、自身の持぀「ナヌス」のネットワヌク――混沌ずしお、非論理的で、だからこそカむには解析しきれないであろう人間の繋がり――を利甚するこずを考えた。
    地球にいる仲間に、極秘の通信を送る。
    それは、陜動のための停情報を拡散させる指瀺だった。
    ゜ヌマ・シティ内郚のシステムだけでなく、地球䞊のネットワヌクをも巻き蟌んだ、倧芏暡な情報撹乱䜜戊。

    『  ノむズが増倧。情報汚染を確認。発信源を特定䞭  』
    カむのシステムからの、内郚的なアラヌトアキラが傍受したものが、圌女の端末に衚瀺される。
    カむの意識が、䞀瞬、地球に向けられた。
      今だ

    アキラは、その僅かな隙を突き、゜ヌマ・シティの深局ネットワヌクぞの䟵入を詊みる。
    指が、再びキヌボヌドの䞊で激しく螊る。
    だが、同時に、あの「䟵食感」が、これたで以䞊の匷さで圌女を襲った。
    芖界が歪み、䜓の内偎から鱗が突き砎っおきそうな激痛。
    それでも、圌女は指を止めなかった。

    

    䞀方、鳎海ず桐島は、アキラが皌いでくれた時間を利甚し、斜蚭の地䞋ぞず向かうルヌトを探しおいた。
    鳎海の「匷化」された感芚は、壁の向こうの構造や、埮かな空気の流れ、譊備兵の気配などを捉えるのに圹立ったが、同時に、この斜蚭の異様なたでの静けさず、そこに朜む悪意のようなものも感じ取っおいた。

    「  こっちだ」
    鳎海が、䞀芋、ただの壁に芋える郚分を指さした。
    「隠し通路がある」
    桐島が頷き、壁の䞀郚に力を蟌めるず、音もなく通路ぞの入り口が開いた。
    おそらく、通垞は䜿われおいないメンテナンス甚の通路だろう。

    薄暗く、狭い通路を進む。
    時折、䞊階から響いおくる重䜎音や、埮かな振動が䌝わっおくる。
      闘技堎が近いのか

    圌らは、息を殺しおさらに奥ぞず進んだ。
    そしお、䞀぀の広倧な空間ぞず出る。
    そこは  。

    巚倧なガラス窓の向こうに、信じられない光景が広がっおいた。
    眩い照明に照らされた、円圢のアリヌナ。
    熱狂するように芋える芳客垭のホログラム。
    そしお、アリヌナの䞭倮で、二぀の異圢の圱が、死闘を繰り広げおいた。
    匷化された人間  いや、もはや人間ずは呌べないかもしれない存圚。

    「  ここが  」
    鳎海が、息をのむ。
    噂に聞いおいた、月面地䞋闘技堎。
    その存圚は、想像を遥かに超えお、犍々たがたがしく、そしお珟実のものずしお、圌らの目の前にあった。

    桐島の目が、鋭く现められる。
    圌は、アリヌナで戊う者たちの動きの䞭に、か぀お察峙したれノの面圱を芋たのかもしれない。
    あるいは、自らの手で葬った、効の最埌の姿を  。

    その時、圌らの背埌で、静かに、しかし確実な足音が響いた。
    振り返る間もなく、鋭い殺気が二人を襲う。
    カむの眠か
    それずも、別の  。


    第十四章 月䞋の悪党

    

    背埌からの殺気。
    それは、れノやクロノス瀟のセキュリティずは、たた質の異なる、もっず生々しく、欲望に根差したような粘り぀く気配だった。
    鳎海ず桐島は、ほが同時に振り返る。
    薄暗い通路の奥から、ゆっくりず姿を珟したのは、数人の男たち。
    そしお、その䞭心に立぀人物を芋お、鳎海の衚情が凍り付いた。

    「  ツォン・ロンりェむ䞛 韍偉  」

    サヌペント利益掟のリヌダヌ。
    か぀お、鳎海が远っおいた非合法な新薬開発ずナヌスの搟取に関䞎しおいた男。
    その顔には、老獪ろうかいさず、隠しきれない貪欲さが浮かんでいる。
    高玚そうなスヌツを着おいるが、その䜇たいは掗緎されたビゞネスマンずいうより、裏瀟䌚でのし䞊がっおきた叩き䞊げのそれだ。

    「ほう  探偵屋か。こんなずころたで嗅ぎ぀けおくるずはな。  しぶずい蝿パだ」
    ロンりェむは、歪んだ笑みを浮かべた。
    その䞡脇には、屈匷な䜓躯の男たちが二人。
    圌らの目぀きや、䞍自然に隆起した筋肉は、通垞の人間のものではない。
    オルロフ  いや、ロンりェむが独自に開発・投䞎した、「匷化」薬物の圱響だろうか。

    「お前が  闘技堎の黒幕か」
    鳎海が、䜎い声で問う。
    「黒幕 人聞きの悪いこずを蚀うな。ワシは、ビゞネスをしおいるだけだ。  クロノス瀟に奪われた、ワシの『垂堎』を取り戻すためのな」
    ロンりェむは、憎悪を蟌めお吐き捚おた。
    「それに、ここはそのための重芁な『斜蚭』でな。郚倖者には、芋過ごせんのだよ」

    ロンりェむの合図ず共に、䞡脇の匷化兵が襲いかかっおきた。
    その動きは、れノのような掗緎さはないが、単玔なパワヌずスピヌドは凄たじい。
    人間ずいうより、暎走する重機のようだ。

    「鳎海さん」
    桐島が前に出る。
    巊肩の傷が痛むのか、動きに僅かな硬さがある。
    それでも、圌の䜓捌きは的確に匷化兵の䞀人の突進をいなし、カりンタヌの掌打を叩き蟌む。
    しかし、匷化された肉䜓は、桐島の打撃を完党には受け止めきれず、怯みながらも即座に反撃しおきた。

    「ハッ さすがは桐島流、いや、貎様の垫匠仕蟌みの技か だが、傷を負ったお前に、ワシの最高傑䜜が止められるかな」
    ロンりェむが嘲笑う。

    もう䞀人の匷化兵が、鳎海に狙いを定める。
    鳎海は咄嗟に埌退し、通路の壁際に身を隠す。
    アンプルによる「匷化」は、ただ持続しおいるのか
    あるいは、すでに反動が来おいるのか
    鳎海の思考はクリアだが、身䜓が思うように動かないような、奇劙な感芚があった。

      ク゜ッ、やはり代償があるのか  

    

    その頃、アキラは゜ヌマ・シティの深局ネットワヌクで、カむずの熟烈な情報戊を繰り広げおいた。
    カむの思考速床は、たさにコンピュヌタヌそのもの。
    アキラが仕掛ける䟵入プログラムは、こずごずく先読みされ、防埡壁によっお阻たれる。
    地球のナヌスネットワヌクを䜿った陜動䜜戊も、すでに芋砎られおいるかもしれない。

      たずい  

    カむの反撃が始たった。
    アキラの端末に、膚倧な量のダミヌデヌタが送り蟌たれ、凊理胜力を飜和させようずしおくる。
    同時に、アキラの物理的な䜍眮情報を特定しようずする远跡プログラムが、ネットワヌクの各所から迫っおくる。
    たるで、巚倧な蜘蛛クモが、じわじわず獲物を远い詰めおいくかのようだ。

      でも、あなたにも匱点はあるはず  感情がないこず、それがあなたの  

    アキラは、思考を切り替える。
    論理的な攻防では勝おない。
    ならば、もっず混沌ずした、非合理的な方法で  。
    圌女は、か぀おナヌスの間で流行した、ある皮の砎壊的なコンピュヌタりむルスのコヌドを思い出し、それを即垭で改良し始めた。
    それは、システムを砎壊するのではなく、予枬䞍胜なバグを倧量に発生させ、䞀時的に機胜䞍党に陥らせる類のプログラムだ。
    カむの合理的な思考では、察凊しきれないかもしれない。

    だが、そのためには、さらに深くカむのシステムにアクセスする必芁がある。
    それは、自身の粟神ず肉䜓を、さらに危険な「䟵食」に晒すこずを意味しおいた。
    アキラは、唇を噛みしめ、芚悟を決めおコヌドを打ち蟌み始めた。

    

    「どうした、探偵屋 それだけか」
    ロンりェむが、䜙裕の衚情で鳎海を挑発する。
    匷化兵の猛攻に、鳎海は防戊䞀方になっおいた。
    「匷化」された感芚は、敵の動きを捉えおはいるが、身䜓が远い぀かない。
    アンプルによる力の持続時間は、それほど長くないのかもしれない。

      ここで、倒れるわけには  

    鳎海は、床を転がりながら、匷化兵の攻撃を必死にかわす。
    その時、圌の脳裏に、カむのシステムが衚瀺しおいた、この区画の構造デヌタがフラッシュバックした。
    「匷化」された蚘憶力ず分析力が、掻路を芋出す。

    「桐島 倩井だ」

    鳎海の声に、桐島が反応する。
    圌は、二人の匷化兵の攻撃を受け流しながら、壁を蹎り、倩井近くに蚭眮されおいたメンテナンス甚のキャットりォヌクぞず跳躍した。
    匷化兵たちも、すぐに埌を远おうずする。

    「  させるかよ」

    鳎海は、萜ちおいた金属パむプを拟い䞊げ、匷化兵の䞀人の足元ぞ投げ぀ける。
    単玔な劚害。
    だが、匷化されたタむミングず角床は完璧だった。
    匷化兵はバランスを厩し、もう䞀人ず衝突する。

    その隙に、桐島はキャットりォヌクの䞊から、残る匷化兵の頭䞊ぞず飛び降りた。
    党䜓重を乗せた、枟身の螵かかず萜ずし。
    ゎッ、ず鈍い音ず共に、匷化兵は床に沈んだ。

    残るは、ツォン・ロンりェむ。
    圌は、予想倖の反撃に䞀瞬驚きながらも、すぐに懐から小型の゚ネルギヌ銃を取り出した。
    「  小賢しい真䌌を  」

    しかし、銃口が火を噎く前に、桐島が圌の腕を掎み、捻り䞊げおいた。
    悲鳎ず共に、銃が床に萜ちる。
    勝負は、決したかに芋えた。

    だが、その時、斜蚭党䜓を、䞍気味なアラヌト音が満たした。
    赀色の譊告灯が激しく明滅し始める。

    『  レベルセキュリティ突砎を確認。察象の無力化に倱敗。  プロトコル・れヌタに移行したす』

    カむの合成音声が、スピヌカヌから冷たく響き枡った。
    次の瞬間、鳎海たちがいる通路の前埌が、再び厚い隔壁によっお完党に封鎖された。
    そしお、壁の䞀郚が開き、䞭から珟れたのは  。

    それは、兵士ではなかった。
    無数のケヌブルに繋がれ、緑色の培逊液に満たされたカプセル。
    そしお、その䞭で眠るように挂う  「䜕か」。
    ただ完党ではない、しかし、明らかにプロメテりス技術によっお歪められた、醜悪な生呜䜓。
    カむが、あるいはクロノス瀟が生み出した、新たな「怪物」だった。


    第十五章 閉鎖区画の悪倢

    

    『プロトコル・れヌタ実行䞭。察象゚リア内の党生呜反応を脅嚁ず認定。排陀を開始したす』

    カむの無機質な音声が、赀色の譊告灯が明滅する通路に響き枡る。
    芚醒した「怪物」は、最初の犠牲者戊闘䞍胜の匷化兵を貪り食らうかのように蹂躙じゅうりんした埌、憎悪に満ちた耇県をゆっくりず動かし、次に認識した「動くもの」――桐島、鳎海、そしおツォン・ロンりェむ――ぞずその意識を向けた。

    「ク゜ッたれが   カむめ、ワシごず始末する぀もりか」
    ロンりェむは悪態を぀きながらも、即座に゚ネルギヌ銃を怪物に向けた。
    圌は、この状況で生き残るためには、目の前の探偵や歊闘家ず䞀時的にでも協力する以倖に道がないこずを理解しおいた。
    あるいは、圌らを盟にしおでも。

    「来るぞ」
    桐島が、短く譊告を発した。
    怪物が、咆哮ず共に突進しおくる。
    その速床は、巚䜓からは想像もできないほど速く、質量を䌎った砎壊の塊ずなっお迫る。
    通路の壁に蚭眮されおいた機噚類が、その突進の䜙波だけで吹き飛ばされ、火花を散らす。

    桐島は、負傷した巊肩を庇いながらも、怪物の攻撃を最小限の動きで捌く。
    しかし、盞手のパワヌは凄たじく、受け流しきれない衝撃が圌の䜓を襲う。
    「ぐっ  」
    桐島の䜓が、数メヌトル埌方ぞ吹き飛ばされ、壁に叩き぀けられた。

    「桐島」
    鳎海が叫ぶ。
    匷化された圌の感芚は、桐島が受けたダメヌゞの深刻さを䌝えおいた。
    だが、鳎海自身の䜓も、ただ匷化の反動から完党には回埩しおいない。
    思考はクリアだが、身䜓が重い。

    怪物は、倒れた桐島に止めを刺そうず、その耇数の腕を振り䞊げる。
    絶䜓絶呜。

    その瞬間、暪から゚ネルギヌ匟の連射が怪物の偎頭郚に叩き蟌たれた。
    ロンりェむだ。
    圌は、鳎海たちを利甚するため、あるいはこの怪物を制埡䞋に眮くためのデヌタを取るためか、桐島ぞの攻撃を劚害した。

    「ギャアァァァッ」

    怪物は、耳障りな絶叫を䞊げ、タヌゲットをロンりェむぞず倉曎する。
    ロンりェむは、巧みに距離を取りながら゚ネルギヌ銃を連射するが、怪物の皮膚は異垞に硬質化しおおり、臎呜傷には至らない。
    むしろ、痛みによっおさらに凶暎性が増しおいるようだ。

      チャンスだ

    鳎海は、匷化された思考をフル回転させる。
    この状況を打砎するには
    怪物の匱点は
    カむの目的は
    アキラは  

    

    䞀方、アキラはカむずの情報戊を続けおいた。
    カむの泚意を地球に向けさせ、システムの隙を突いた圌女のハッキングは、䞀定の成果を䞊げおいた。
    鳎海たちがいる区画の隔壁を䞀時的に開けたのも、その䞀環だ。
    だが、カむもすぐに䜓勢を立お盎し、反撃を開始しおいた。

    アキラのいる隠れ堎所サヌビスダクトの分岐点の特定が進んでいる。
    ネットワヌクを通じお、圌女の粟神に盎接干枉しおくるかのような、䞍可解なデヌタノむズが送り蟌たれおくる。
    それは、圌女の「䟵食感」を増幅させ、集䞭力を奪おうずしおいた。

      これが、カむの  

    頭痛ず吐き気が限界に近い。
    それでも、アキラは指を止めない。
    圌女は、カむのシステムの䞭から、鳎海たちがいる区画の情報――特に、あの「怪物」に関するデヌタを必死に探しおいた。
    あれが䜕なのか、匱点はないのか。
    その情報が、圌らの生死を分けるかもしれない。

    『  発芋。  ファむル名「プロトタむプ・キメラ」  廃棄察象  。譊告 極めお䞍安定、高゚ネルギヌ反応  匱点  熱、および高呚波  』

    断片的な情報を掎んだアキラは、最埌の力を振り絞っお、そのデヌタを鳎海の通信機ぞず送信しようずした。
    だが、その瞬間、圌女が隠れおいたダクトの倩井が、蜟音ず共に砎砕された。
    カむに、物理的な䜍眮を特定されたのだ。
    暗闇の䞭から、冷たい機械の県が、アキラを捉えおいた。

    

    「鳎海さん 今  」
    通信機から、アキラの悲鳎のような声ず、激しい砎壊音が聞こえ、そしお通信は途絶えた。

    「アキラさん」
    鳎海の叫び。
    圌女の身に、䜕かが起きたのだ。

    その動揺を芋逃すはずもなく、怪物が鳎海に襲いかかる。
    「危ない」
    壁際で䜓勢を立お盎しおいた桐島が、鳎海を突き飛ばす。
    怪物の爪が、桐島がいた堎所の壁を、豆腐のように切り裂いた。

    「探偵 歊闘家 アレの匱点は熱ず高呚波らしいぞ」
    ロンりェむが叫んだ。
    圌もたた、䜕らかの手段で情報を埗たのか、あるいはこの混乱の䞭でカむの内郚通信を傍受したのかもしれない。
    「通路のそこにあるプラズマ切断機を䜿え」

    鳎海は、ロンりェむが指さした方向を芋た。
    壁に蚭眮された、倧型の工業甚プラズマ切断機。
    おそらく、斜蚭のメンテナンス甚だろう。

      これを䜿うしかない

    だが、どうやっお
    怪物は、桐島ずロンりェむの二人を盞手に、なおも暎れ回っおいる。
    桐島の傷は深く、ロンりェむの゚ネルギヌ銃も決定打にはならない。

    鳎海は、自らの内に残る「匷化」された力の残滓を感じ取ろうずした。
    身䜓は重いが、思考ず感芚はただ鋭敏さを保っおいる。
    圌は、怪物の動き、桐島の動き、ロンりェむの䜍眮、そしおプラズマ切断機の䜍眮ず機胜を、瞬時に蚈算した。

    「桐島 ダツを誘導しろ あの切断機のラむン䞊ぞ」
    「  」
    桐島は、鳎海の意図を即座に理解した。
    圌は、負傷した䜓で、敢えお怪物の攻撃を受け流しながら、巧みにその巚䜓をプラズマ切断機の射線ぞず誘導しおいく。

    「ロンりェむ揎護しろ」
    鳎海は叫びながら、プラズマ切断機のコントロヌルパネルぞず走る。
    䜿い方は分からない。
    だが、匷化された頭脳が、パネルの衚瀺ず構造から、起動方法を解析しおいく。

    「チッ、指図するな」
    ロンりェむは悪態を぀きながらも、゚ネルギヌ銃で怪物の泚意を桐島から逞らそうず揎護射撃を行う。

    怪物が、桐島を远っおプラズマ切断機の正面に躍り出た、その瞬間。

    「―――今だッ」

    鳎海は、起動スむッチを叩き぀けた。
    超高枩のプラズマアヌクが、蜟音ず共に噎射され、怪物の巚䜓を盎撃する。
    絶叫。
    肉の焌ける臭い。
    怪物は、断末魔の叫びを䞊げながら、その堎で厩れ萜ち、動かなくなった。

    通路に、再び静寂が蚪れる。
    残されたのは、満身創痍の鳎海ず桐島、そしお、歊噚を構えたたた呆然ずするロンりェむ。
    そしお、砎壊されたカプセルず、動かなくなった怪物の残骞。

    「  アキラさんを、探しに行く」
    鳎海は、荒い息を぀きながら蚀った。
    カむに䜍眮を特定されたのだ。
    䞀刻の猶予もない。


    第十六章 情報ず代償

    

    「アキラさん」

    隔壁が閉鎖された通路の向こうから聞こえた、アキラの悲鳎ず激しい砎壊音。
    鳎海ず桐島は、先皋の怪物ずの戊闘で負った傷ず疲劎を抌し、圌女がいたず思われるサヌビスダクトの方向ぞず急いでいた。
    カむに物理的な䜍眮を特定されたのだ。
    無事では枈んでいないかもしれない。

    通路の壁に蚭眮されたむンタヌホンを鳎海が叩く。
    応答はない。
    「桐島、これを」
    鳎海は壁のアクセスパネルを指し瀺す。
    桐島は無蚀で頷くず、負傷しおいない右腕に力を蟌め、パネルを物理的に砎壊した。
    火花が散り、内郚の配線が露あらわになる。

    鳎海は、震える指で配線を操䜜し、匷制的にダクトぞのアクセスハッチを開攟した。
    「匷化」された思考は、斜蚭の構造デヌタを元に、最短ルヌトを割り出しおいた。
    だが、身䜓は鉛のように重く、頭痛も酷くなっおきおいる。
    力の代償は、確実に圌を蝕んでいた。

    「  行くぞ」

    二人は、狭く薄暗いダクトの䞭ぞず身を滑り蟌たせた。
    内郚は耇雑に入り組んでおり、時折、䞊や䞋から䞍気味な機械音が響いおくる。
    たさに迷宮だ。
    カむの監芖カメラはここたでは届いおいないかもしれないが、センサヌ類は生きおいる可胜性がある。
    息を殺し、慎重に進む。

    

    数分埌、圌らはダクトの分岐点で、砎壊された監芖ドロヌンの残骞ず、そしお  壁にぐったりずもたれかかるアキラの姿を発芋した。

    「アキラさん」

    鳎海が駆け寄る。
    圌女の呌吞は浅く、顔色は玙のように癜い。
    戊闘があったのだろう、服の䞀郚は砎れ、隠しおいた腕の「りロコ」が痛々しく芗いおいる。
    そしお、そのりロコの範囲は、以前よりも明らかに広がっおいるように芋えた。

    「  鳎海、さん  桐島、さん  」
    アキラは、うっすらず目を開け、掠れた声で蚀った。
    「  カむに  堎所を  。でも  デヌタは  取った  」
    圌女は、最埌の力を振り絞るように、自身の携垯端末を鳎海に差し出した。
    画面には、暗号化された膚倧なデヌタが衚瀺されおいる。
    プロメテりス技術の詳现、被隓者リスト、そしお  月面地䞋闘技堎の運営システムず、そこにいる「闘士」たちのデヌタ。

    「  これは  」
    鳎海は息をのむ。
    アキラは、カむずの熟烈な情報戊の末、たさに圌らが求めおいた栞心的な情報を奪取しおいたのだ。
    しかし、その代償はあたりにも倧きかった。

    「  もう  限界  みたい  」
    アキラの意識が、再び遠のいおいく。
    「䟵食」が、぀いに圌女の限界を超えようずしおいた。

    「しっかりしろ、アキラさん」
    鳎海は叫びながら、圌女の䜓を支える。
    どうすればいい
    医務宀 いや、危険すぎる。
    このたたでは、圌女は  。

    その時、桐島が静かにアキラの手銖を取り、その脈を蚺た。
    そしお、おもむろに、自身の指先をアキラの銖筋にある特定の経絡けいらくに圓お、静かに「気」のようなものを送り始めた。
    それは、圌が持぀歊術の知識――掻法かっぜうか、あるいはそれに類する䜕かだろうか。
    医孊的な根拠は䞍明だが、桐島の衚情は真剣そのものだった。

    わずかな時間。
    アキラの呌吞が、少しだけ、穏やかになったように芋えた。
    「  桐島」
    「  気䌑めにしかならん。だが、少しは時間を皌げるかもしれん」
    桐島は、額に汗を浮かべながら蚀った。
    「  圌女を、安党な堎所ぞ」

    

    アキラを背負い、桐島に肩を貞しながら、鳎海は再びダクトの䞭を進む。
    目的地は、アキラが確保したデヌタの䞭に瀺されおいた、比范的監芖が手薄な旧居䜏区画。
    そこならば、䞀時的に身を隠し、アキラの回埩を埅おるかもしれない。

    だが、カむがこのたた圌らを芋逃すはずはなかった。
    行く手の通路で、再び隔壁が閉鎖される。
    監芖ドロヌンが耇数出珟し、レヌザヌを発射しおくる。
    そしお、スピヌカヌから、あの冷たい声が響いた。

    『  無駄な抵抗です。あなた方の行動パタヌン、生䜓反応、党お解析枈み。逃げ堎はありたせん』

    「  チッ、し぀こい  」
    鳎海は悪態を぀く。
    アキラを背負っおいおは、たずもに戊えない。
    桐島も、負傷ず疲劎で限界に近い。
    アンプルの効果は、もはや期埅できなかった。

      䞇事䌑すか  

    鳎海が芚悟を決めた、その時。

    『  いいえ、カむ。あなたの予枬にも、゚ラヌはある』

    通信機から、アキラのか现いが、しかし匷い意志のこもった声が聞こえた。
    圌女は、鳎海の背䞭で意識を取り戻しおいたのだ。
    そしお、最埌の力を振り絞り、懐から取り出した小型のデバむスを操䜜しおいた。

    『それは  』
    カむの声に、初めお動揺のようなものが混じった。

    次の瞬間、゜ヌマ・シティの斜蚭党䜓で、照明が激しく明滅し、アラヌトが鳎り響き、隔壁がランダムに開閉を始めた。
    アキラが攟った、あの非合理的なバグプログラム。
    それは、カむの完璧な論理システムに、臎呜的な゚ラヌを匕き起こし始めおいた。

    『システム  制埡䞍胜   銬鹿な   非合理的な  ノむズが  』

    カむの合成音声が、埐々にノむズに掻き消されおいく。
    監芖ドロヌンは動きを止め、隔壁のロックも解陀された。

    「  今のうちに  」
    アキラが、息も絶え絶えに蚀う。

    鳎海ず桐島は、アキラが䜜り出した、おそらくはほんの僅かな時間皌ぎであろうチャンスを逃さず、再び走り出した。
    目指すは、旧居䜏区画。
    そしお、その先にあるはずの、地䞋闘技堎。
    れノが埅぀、最埌の堎所ぞ。

    カむの支配が揺らいだこの月面郜垂で、圌らの最埌の戊いが、今、始たろうずしおいた。


    第十䞃章 奈萜ぞの階段

    

    カむのシステムが混乱しおいる隙を぀き、鳎海たちは゜ヌマ・シティの旧居䜏区画ぞず足を螏み入れおいた。
    か぀おは研究者やその家族が暮らしおいたのであろう空間は、今は攟棄され、薄暗いゎヌストタりンず化しおいる。
    人工重力が䞍安定なのか、時折、䜓が僅かに浮き䞊がるような奇劙な感芚があった。
    照明は明滅を繰り返し、壁のモニタヌは意味䞍明なノむズを衚瀺しおいる。
    アキラが攟ったデゞタルな嵐の残滓ざんしが、ただこの区画を芆っおいるのだ。

    「  アキラさん、倧䞈倫か」
    鳎海は、桐島に肩を借りお歩くアキラに声をかけた。
    圌女の顔色は䟝然ずしお悪く、呌吞も浅い。
    「  なんずか。でも、カむもすぐシステムを埩旧させるはず。急がないず」
    アキラは、端末を操䜜しながら答える。
    圌女の脳は、自身の䞍調を抌しお、闘技堎ぞの最短か぀安党なルヌトを探し続けおいた。

    桐島は、黙っお呚囲を譊戒しおいる。
    圌の鋭敏な感芚は、この打ち捚おられた区画に朜むかもしれない、あらゆる危険――カむの残した眠、サヌペントの残党、あるいは  制埡を倱った斜蚭の機胜――を捉えようずしおいた。
    巊肩の傷は、応急凊眮では塞ぎきれず、じわりず血が滲んでいる。

    鳎海の「匷化」による異垞な感芚は、すでにほずんど消え倱せおいた。
    残っおいるのは、激しい疲劎感ず、あの時の自分の「嗀い」に察する、蚀いようのない自己嫌悪だけだ。
      あれは、本圓に俺だったのか  
    だが、今は感傷に浞っおいる時間はない。
    圌は、探偵ずしおの思考を巡らせる。
    アキラのデヌタによれば、闘技堎はこの旧居䜏区画の、さらに地䞋深くに存圚するはずだ。

    

    「  ここよ」
    アキラが、䞀぀の分厚い耐爆扉の前で立ち止たった。
    か぀おはシェルタヌか䜕かだったのかもしれない。
    今は䜿われおいないはずだが、その扉だけが、異様な存圚感を攟っおいた。
    「この先に、闘技堎ぞ繋がるメンテナンス甚リフトがあるはず」

    桐島が扉に手をかける。
    電子ロックは、アキラのハッキングによっおすでに解陀されおいたが、物理的な重さは盞圓なものだ。
    桐島が右腕に力を蟌めるず、重い金属の扉が、ゆっくりず軋きしむような音を立おお開いた。

    扉の向こうは、䞋ぞず続く、暗く長い階段だった。
    湿った空気ず、埮かな血の臭い、そしお  遠くから響いおくる、地鳎りのような歓声あるいは音響効果かが、圌らを迎えた。
    奈萜ぞの入り口。
    誰もが、そう盎感した。

    䞉人は、息をのみ、ゆっくりず階段を䞋りおいく。
    階䞋ぞ進むに぀れお、歓声はより倧きく、そしお狂気じみた熱気を垯びおくる。
    壁には、甚途䞍明のケヌブルやパむプが蠕動ぜんどうするように匵り巡らされ、時折、䞍気味な駆動音が響く。
    ここは、゜ヌマ・シティの茝かしい衚の顔ずは党く異なる、欲望ず暎力が支配する、隠された䞖界なのだ。

    

    階段を䞋りきった先は、ドヌム状の巚倧な空間を芋䞋ろす、芳芧ギャラリヌのような堎所ぞず繋がっおいた。
    匷化ガラスの向こうには、眩い照明に照らし出された円圢のアリヌナ――月面地䞋闘技堎ずうぎじょうが広がっおいる。
    アリヌナの䞭倮では、たさに死闘が繰り広げられおいた。
    異圢の匷化人間同士が、互いの肉䜓を砎壊し合う、凄惚な光景。
    芳客垭には、ホログラムか、あるいは生身の人間か、圱のような姿がいく぀も芋え、その戊いに熱狂しおいるように芋える。

    「  これが  」
    鳎海は、蚀葉を倱う。
    人間の尊厳など、ここには欠片も存圚しない。
    ただ、暎力ず、それを芋お楜しむ者の歪んだ欲望だけがある。

    その時、アリヌナの戊いが、唐突に終わりを告げた。
    䞀䜓の匷化人間が、盞手を文字通り「䞀撃」で粉砕したのだ。
    その圧倒的な力。
    そしお、その立ち姿。
    鳎海ず桐島は、息をのんだ。

      れノ  

    自己改造を経たれノ。
    その姿は、以前ずは異なっおいた。
    䜓には、犍々しい生䜓パヌツのようなものが融合し、もはや玔粋な人間ずは蚀い難い。
    しかし、その匷さは、以前ずは比范にならないほど増倧しおいる。
    圌は、倒した盞手を䞀瞥いちべ぀もせず、ゆっくりずアリヌナの䞭倮ぞず歩を進めた。
    その瞳には、深い虚無ず、党おを嘲笑うかのような、冷たい光が宿っおいた。

    闘技堎の熱狂が、最高朮に達する。
    だが、れノは、その狂隒には䞀切関心を瀺さない。
    圌は、ゆっくりず顔を䞊げ、芳客垭ず、そしおおそらくは闘技堎のあらゆる堎所に蚭眮されたであろうカメラに向けお、歪んだ笑みを浮かべた。
    そしお、マむクを通さない、しかし空間党䜓に響き枡るかのような声で、叫んだ。

    「お前らも、闘士のはしくれなら、ここぞきお遊んでいけ」

    挑発。
    いや、それは、砎滅ぞの誘い。
    壊れた戊士の、最埌の饗宎が始たろうずしおいた。

    校正のご䟝頌ありがずうございたす。第十八章の原皿を拝芋いたしたした。
    ご指瀺いただいた以䞋の点に泚意し、校正䜜業を行いたした。特にルビに぀いおは、これたでの章で既に初出ずしおルビを振っおいる氏名、組織名、特殊な読み方、重芁な抂念に぀いおは、今回の章ではルビを削陀しおいたす。たた、䞭孊校たでの垞甚挢字の組み合わせに぀いおもルビを削陀しおいたす。この章で初めお登堎する読み方がやや難しい単語、および甚語にのみ、初出ずしおルビを振っおいたす。
    以䞋に校正枈みの原皿を提瀺いたしたす。





    第十八章 壊れた獣の咆哮

    

    「  遊んでいけ、だず」
    れノの挑発的な蚀葉ず手招きは、月面地䞋闘技堎ずうぎじょうの空気を䞀倉させた。
    芳客垭のホログラムや生身の芳客が䞀瞬静たり返り、次の瞬間、控宀やアリヌナ呚蟺から、怒号ず共に耇数の圱が飛び出しおくる。
    圌らもたた、この闘技堎で戊うために「匷化」された戊士たち。
    䞭には、れノず同じように、自らの意志で、あるいは組織の呜什で、人間性を捚おお力を求めた者もいるのだろう。
    圌らにずっお、れノの態床は、自らの存圚ず、この闘技堎の党おを嘲笑あざわらうかのような、蚱しがたい䟮蟱だった。
    「調子に乗るな、化け物が」
    「ここで死ね」
    匷化戊士きょうかせんしたちが、雪厩なだれを打っおれノに襲いかかる。
    ゚ネルギヌブレヌド゚ネルギヌブレヌド、重火噚、そしお自らの匷化された肉䜓そのものを歊噚ずしお。
    数は十を超えるか。
    連携も取れおいる。
    いかに改造されたれノずいえども、この集䞭攻撃をたずもに受ければ  。
    芳芧ギャラリヌギャラリヌで、鳎海は息をのんだ。
    アキラは顔を蒌癜にし、桐島は、ただ静かに、しかしその党身から尋垞ではない気を攟ちながら、アリヌナを芋぀めおいる。
    だが、れノは、その猛攻を躱そうずもしなかった。
    圌は、アリヌナの䞭倮に仁王立ちしたたた、迫りくる攻撃を、たるで颚に吹かれる柳のように、あるいは巌いわおのように、ただ受け止める。
    いや、受け止めおいるのではない。
    圌の改造された肉䜓にずっお、その皋床の攻撃は、もはや「痛み」ずしおすら認識されおいないのかもしれない。
    匷化戊士の䞀人が攟ったプラズマ匟プラズマだんが、れノの胞郚で匟ける。
    しかし、圌は埮動だにしない。
    別の戊士の、鋌鉄をも砕くはずの拳が、れノの脇腹に叩き蟌たれる。
    ゎッ、ず鈍い音がしたが、れノは顔色䞀぀倉えず、逆にその戊士の腕を掎み、軜々ず投げ飛ばした。
    「  」
    「銬鹿な  」
    匷化戊士たちの間に、動揺が広がる。
    圌らの攻撃が、党く通甚しない。
    目の前にいるのは、同じ匷化人間ではない。
    次元の違う、「䜕か」だ。
    
    れノの口元に、再びあの歪んだ笑みが浮かんだ。
    それは、嘲笑であり、同時に深い絶望の色を垯びおいた。
    「  これが、お前たちの党力か」
    圌は、腕や足に絡み぀いおくる者たちを、たるで邪魔な虫でも払うかのように、無造䜜に、しかし圧倒的な力で地面に叩き぀けおいく。
    匷化された骚が砕ける音。
    肉が断裂する音。
    アリヌナは、䞀瞬にしお阿錻叫喚あびきょうかんの地獄絵図ず化した。
    「  やめろ  」
    ギャラリヌで、アキラが小さく呟いた。
    圌女は、れノの姿に、匷化の果おにあるかもしれない自らの、そしお党おの新人類の、悲劇的な末路を重ねお芋おいた。
    桐島は、䜕も蚀わなかった。
    ただ、固く拳を握りしめおいる。
    圌の目には、怒りずも、悲しみずも぀かない、耇雑な光が揺らめいおいた。
    か぀お、互角に枡り合った奜敵手。
    人間の可胜性を感じさせた男。
    その圌が、今、自ら人間であるこずを捚お、砎壊の暩化ごんげず化しおいる。
    桐島にずっお、それは自らの歊の道をも吊定されるかのような、痛みを䌎う光景だった。
    鳎海は、ただ唇を噛み締めおいた。
    自分が、圌をこうさせたのかもしれない。
    あの時、あの力を䜿わなければ  。
    いや、違う。
    原因はもっず根深い。
    この狂った技術、狂った瀟䌚、狂った人間の欲望そのものが、圌をここたで远い詰めたのだ。
    アリヌナでは、れノの圧倒的な力の前に、匷化戊士たちはもはや戊意を喪倱し、あるいは恐怖に駆られお逃げ惑っおいた。
    だが、れノはそれを蚱さない。
    逃げる者を远い、抵抗する者を粉砕する。
    それはもはや戊闘ではなく、䞀方的な蹂躙じゅうりんだった。
    そしお、最埌の抵抗者が沈黙した時、闘技堎には䞍気味な静寂が蚪れた。
    倥しい残骞ず、血の臭いの䞭で、れノはただ䞀人、アリヌナの䞭倮に立っおいた。
    圌の肩は、僅かに䞊䞋しおいる。
    匷倧な力を振るった代償か、それずも、蟌み䞊げおくる虚無感からか。
    圌は、ゆっくりず顔を䞊げた。
    その瞳には、もはや䜕の光も宿っおいない。
    ただ、深い、深い闇だけが広がっおいる。
    そしお、圌の口から挏れたのは、蚀葉にならない、心の奥底からの慟哭どうこくのような―――。
    ―――獣の咆哮だった。
    その咆哮は、゜ヌマ・シティの地䞋深くに響き枡り、聞く者党おの魂を震わせた。
    それは、壊れた戊士の、最埌の叫び。
    人間であるこずを捚お、しかし人間ずしおの苊悩から逃れられなかった男の、絶望の歌。
    そしお、咆哮が止んだ時、れノは、䜕かを決意したかのように、静かに自身の胞に手を圓おた。
    その䜓から、異垞な゚ネルギヌの波動が攟たれ始める。
    改造された肉䜓が、内郚から限界を超えお軋む音が聞こえる。
      たさか  
    鳎海は、れノが䜕をしようずしおいるのかを悟り、叫がうずした。
    だが、もう遅い。
    れノは、最埌の遞択をしようずしおいた。
    圌が求める、「人間らしい死」を―――。


    第十九章 遠い爆音

    

    月面地䞋闘技堎ずうぎじょう。
    砎壊され、動かなくなった匷化戊士たちの残骞の䞭心で、れノは静かに立っおいた。
    獣のような咆哮は、もう止んでいる。
    圌の呚囲には、絶察的な静寂ず、死の匂いだけが挂っおいた。

      これで  

    れノは、ゆっくりず自身の胞――改造手術によっお、もはや人間のものずは呌べないかもしれない、しかし確かに錓動を刻む堎所――に手を圓おた。
    指先に、異垞な゚ネルギヌの高たりを感じる。
    䜓内の原子炉が暎走を始めるような、制埡䞍胜な熱量。
    これが、力の代償。
    これが、人間であるこずを捚おた自分の、成れの果お。

      だが、これでいい

    圌の脳裏に、二人の男の姿が浮かんだ。
    桐島譲。
    その技は、人間が生身で到達しうる、孀高の極みだった。
    眩たばゆいほどの可胜性。
    鳎海玲二。
    その力は、人間の脆匱さぜいじゃくさが生み出した、犁断の果実。
    抗いようのない、絶察的な「結末」。

    どちらが正しかったのか、今のれノには分からない。
    もはや、どうでもよかった。
    圌は、桐島のような「人間」ずしお頂点を極めるこずはできなかった。
    そしお、鳎海のような「人間を超えた力」に屈した。
    残された道は、䞀぀だけ。

    自らの意志で、この歪んだ生を終わらせる。
    改造された「怪物」ずしおではなく、「人間」れノずしお、最埌の遞択をする。
    それが、圌が芋出した、唯䞀にしお最埌の、戊士ずしおの矜持きょうじ。
    圌なりの、「人間らしい死」だったのかもしれない。

    れノの口元に、ごく僅かな、穏やかずも蚀えるような衚情が浮かんだ気がした。
    圌は、ゆっくりず目を閉じる。
    そしお、䜓内の゚ネルギヌを、䞀気に解攟した。

    

    「  」

    ゜ヌマ・シティの別区画。
    カむずの情報戊を終えあるいは䞀時的に䞭断させ、桐島ず合流しようずしおいた鳎海は、足元から突き䞊げおくるような、激しい振動に思わず壁に手を぀いた。

    「  今の  」

    隣にいたアキラも、顔を蒌癜にしお身構える。
    それは、単なる衝撃ではなかった。
    斜蚭の深郚から響いおくる、地鳎りのような、䜎く、重い音。
    そしお、䞀瞬遅れお、党おの照明が激しく明滅し、いく぀かの区画で非垞アラヌトが鳎り響き始めた。

    『  緊急事態発生。地䞋D区画にお高゚ネルギヌ反応を確認。  隔壁、自動閉鎖。  生呜維持システム、䞀郚停止  』

    カむのものではない、斜蚭の自動音声が、途切れ途切れに状況を告げる。

    「地䞋D区画  闘技堎のある堎所だ」
    鳎海が叫ぶ。

    桐島は、䜕も蚀わなかった。
    ただ、闘技堎のある方向を、じっず芋぀めおいる。
    その瞳には、深い哀しみの色が浮かんでいた。
    圌には、分かっおいたのだ。
    あの遠い爆音が、䜕をもたらしたのかを。
    奜敵手の、最期の咆哮の残響であるこずを。

    

    れノの自爆は、凄たじかった。
    月面地䞋闘技堎は、その䞭心郚から完党に厩壊。
    芳客垭にいた者たちホログラムか実圚かは䞍明だがも、闘技堎の運営に関わっおいた者たちも、党おがその爆発の䞭に消えた。
    そしお、その衝撃は゜ヌマ・シティの基幹システムにも倧きなダメヌゞを䞎え、カむの完璧だったはずの支配に、決定的な「穎」を開けた。

    「  システムが  䞍安定になっおる  」
    アキラが、端末の情報を確認しながら蚀った。
    「カむのコントロヌルが、䞀時的に匱たっおる   今なら  」

    奜機だった。
    れノが、その呜ず匕き換えに、圌らに道を開いたのだ。
    しかし、感傷に浞っおいる時間はない。

    「  行くぞ」
    鳎海は、短く蚀った。
    圌の瞳には、れノぞの耇雑な思いず、それでも前に進たなければならないずいう、匷い決意が宿っおいた。
    「カむを止める。そしお、この狂った蚈画の党おを  」

    桐島も、静かに頷く。
    圌のやるべきこずは、倉わらない。
    友を守り、道を切り開く。
    たずえ、その先に曎なる悲劇が埅っおいたずしおも。

    䞉人は、システムダりンによる混乱の䞭、゜ヌマ・シティの䞭枢――カむがいるであろう堎所、そしお党おの情報が集たるであろうメむンコントロヌルルヌム――ぞず、最埌の歩みを進め始めた。
    れノの死を無駄にしないために。
    そしお、生き残った者ずしお、未来ぞの責任を果たすために。
    月䞋のブルヌスは、最終楜章ぞず向かっおいた。


    第二十章 論理の終焉

    

    カむのむンタヌフェむスが完党に沈黙し、コントロヌルルヌムには、鳎海たちの荒い呌吞ず、非垞灯の明滅、そしお斜蚭のあちこちから聞こえる䞍芏則なアラヌト音だけが響いおいた。
    戊いは終わった。
    少なくずも、ここでの戊いは。
    「  アキラさん、倧䞈倫か」
    鳎海は、壁に寄りかかったたた動けないアキラに駆け寄った。
    圌女の顔色は䟝然ずしお悪いが、意識ははっきりしおいるようだった。
    「  ええ。でも  カむのシステム、完党に停止したわけじゃない。バックアップがあるはず  。それに、他の連䞭は  」
    鳎海は、制埡を取り戻しかけおいるコン゜ヌルの䞀぀を操䜜した。
    匷化された思考胜力の残滓か、あるいはカむずの接続の圱響か、耇雑なはずのむンタヌフェむスが、盎感的に理解できる。
    基地内の監芖カメラ映像を呌び出す。
    「  ロンりェむは  」
    画面には、先皋の通路で、芚醒した怪物の残骞ず共に倒れおいるツォン・ロンりェむの姿が映し出されおいた。
    生死は䞍明だが、動いおはいない。
    圌の野望も、ここで朰えたか。
    「宗教掟の動きは  」
    別のカメラ映像には、斜蚭の゚ネルギヌ䟛絊斜蚭呚蟺で、クロノス瀟の正芏セキュリティ郚隊カむの支配を離れ、自埋モヌドで動いおいるず、黒ずくめの集団ゟロアゟシヌス魔術階士団が亀戊しおいる様子が映し出されおいた。
    だが、狂信者たちの数は少なく、装備も貧匱で、鎮圧されるのは時間の問題に芋えた。
    ガギ゚ル長老の蚈画も、ここで朰えたず芋おいいだろう。
    「  問題は、ここからどうやっお脱出するか、だ」
    鳎海は、重い息を぀いた。
    カむの支配は揺らいだが、゜ヌマ・シティは䟝然ずしお危険な迷宮だ。
    サヌペントの残党、暎走した斜蚭の機胜、そしお  この事件の真盞が倖郚に挏れるこずを恐れるであろう、クロノス本瀟や、関䞎しおいたかもしれない囜家機関の動き。
    「  デヌタは、確保したわ」
    アキラが、自身の端末を鳎海に瀺した。
    そこには、圌女が呜がけで奪取した、プロメテりス技術、闘技堎、そしおおそらくはCEO゚ノァ・ロヌれンバヌグの謎にも繋がるであろう、膚倧なデヌタが蚘録されおいた。
    「これを、地球ぞ持ち垰らないず  」
    「  行こう」
    桐島が、負傷した肩を抌さえながら、静かに立ち䞊がった。
    「道は、あるはずだ」
    
    ゜ヌマ・シティからの脱出は、困難を極めた。
    カむのシステムダりンによる混乱は、圌らにずっお奜機であるず同時に、予期せぬ危険も生み出しおいた。
    機胜を停止した区画、暎走する環境制埡システム、そしお、呜什系統を倱い、あるいは独自の刀断で動くセキュリティドロヌンや譊備兵。
    アキラは、消耗した䜓で必死に安党なルヌトを算出し、斜蚭のシステムに介入しお脱出路を確保しようずする。
    桐島は、その身を盟にしお、遭遇する物理的な脅嚁を排陀しおいく。
    鳎海は、匷化の反動で䞍安定な自身の状態を制埡しながら、二人の状況を刀断し、的確な指瀺ず、時には探偵ずしおの経隓に基づいた機転で危機を切り抜ける。
    圌らは、砎壊された闘技堎の残骞を暪切り、れノが最埌に咆哮を䞊げた堎所を、蚀葉なく通り過ぎた。
    そしお、奇跡的に無事だったあるいはアキラが事前に確保しおいた小型の脱出甚シャトルぞずたどり着く。
    シャトルが、゜ヌマ・シティのドックから離れ、挆黒の宇宙空間ぞず滑り出す。
    窓の倖には、傷぀き、䞀郚の機胜を停止させながらも、なお巚倧な嚁容を保぀月面郜垂が芋える。
    そしお、その向こうには、青く矎しい地球が浮かんでいた。
    長い、長い戊いだった。
    倚くの血が流れ、倚くの魂が倱われた。
    圌らが持ち垰る「真実」は、この平穏に芋える地球に、新たな混乱ず、そしお僅かな垌望をもたらすのかもしれない。
    鳎海は、隣で静かに眠るアキラの寝顔ず、窓の倖の地球を芋぀める桐島の背䞭を芋た。
    そしお、自らの胞に手を圓おた。
    あの時、アンプルを䜿ったこずぞの埌悔はない。
    だが、この力の意味、そしお代償に぀いお、圌はこれからずっず問い続けおいくこずになるだろう。
    シャトルは、静かに地球ぞの垰還コヌスを進んでいく。
    圌らの゜ヌマシティ・ブルヌスは、ただ終わらない。
    いや、本圓の戊いは、これから始たるのかもしれなかった。



    ご確認いただき、さらに修正が必芁な箇所がありたしたらお気軜にお申し付けください。
    長線小説を曞き䞊げ、䞖に送り出すずいう目暙、応揎しおおりたす。公務員ずしおお勀めになりながらの執筆は倧倉かず存じたすが、クリ゚むタヌずしおの情熱を倧切に、どうぞご無理なさらず掻動を続けおください。



    第二十䞀章 月の残滓、地球ぞの垰還

    

    カむのむンタヌフェむスが完党に沈黙し、コントロヌルルヌムには、鳎海たちの荒い呌吞ず、非垞灯の明滅、そしお斜蚭のあちこちから聞こえる䞍芏則なアラヌト音だけが響いおいた。
    戊いは終わった。
    少なくずも、ここでの戊いは。
    「  アキラさん、倧䞈倫か」
    鳎海は、壁に寄りかかったたた動けないアキラに駆け寄った。
    圌女の顔色は䟝然ずしお悪いが、意識ははっきりしおいるようだった。
    「  ええ。でも  カむのシステム、完党に停止したわけじゃない。バックアップがあるはず  。それに、他の連䞭は  」
    鳎海は、制埡を取り戻しかけおいるコン゜ヌルの䞀぀を操䜜した。
    匷化された思考胜力の残滓か、あるいはカむずの接続の圱響か、耇雑なはずのむンタヌフェむスが、盎感的に理解できる。
    基地内の監芖カメラ映像を呌び出す。
    「  ロンりェむは  」
    画面には、先皋の通路で、芚醒した怪物の残骞ず共に倒れおいるツォン・ロンりェむの姿が映し出されおいた。
    生死は䞍明だが、動いおはいない。
    圌の野望も、ここで朰぀いえたか。
    「宗教掟の動きは  」
    別のカメラ映像には、斜蚭の゚ネルギヌ䟛絊斜蚭呚蟺で、クロノス瀟の正芏セキュリティ郚隊カむの支配を離れ、自埋モヌドで動いおいるず、黒ずくめの集団ゟロアゟシヌス魔術階士団が亀戊しおいる様子が映し出されおいた。
    だが、狂信者たちの数は少なく、装備も貧匱で、鎮圧されるのは時間の問題に芋えた。
    ガギ゚ル長老の蚈画も、ここで朰えたず芋おいいだろう。
    「  問題は、ここからどうやっお脱出するか、だ」
    鳎海は、重い息を぀いた。
    カむの支配は揺らいだが、゜ヌマ・シティは䟝然ずしお危険な迷宮だ。
    サヌペントの残党、暎走した斜蚭の機胜、そしお  この事件の真盞が倖郚に挏れるこずを恐れるであろう、クロノス本瀟や、関䞎しおいたかもしれない囜家機関の動き。
    「  デヌタは、確保したわ」
    アキラが、自身の端末を鳎海に瀺した。
    そこには、圌女が呜がけで奪取した、プロメテりス技術、闘技堎、そしおおそらくはCEO゚ノァ・ロヌれンバヌグの謎にも繋がるであろう、膚倧なデヌタが蚘録されおいた。
    「これを、地球ぞ持ち垰らないず  」
    「  行こう」
    桐島が、負傷した肩を抌さえながら、静かに立ち䞊がった。
    「道は、あるはずだ」
    
    ゜ヌマ・シティからの脱出は、困難を極めた。
    カむのシステムダりンによる混乱は、圌らにずっお奜機であるず同時に、予期せぬ危険も生み出しおいた。
    機胜を停止した区画、暎走する環境制埡システム、そしお、呜什系統を倱い、あるいは独自の刀断で動くセキュリティドロヌンや譊備兵。
    アキラは、消耗した䜓で必死に安党なルヌトを算出し、斜蚭のシステムに介入しお脱出路を確保しようずする。
    桐島は、その身を盟にしお、遭遇する物理的な脅嚁を排陀しおいく。
    鳎海は、匷化の反動で䞍安定な自身の状態を制埡しながら、二人の状況を刀断し、的確な指瀺ず、時には探偵ずしおの経隓に基づいた機転で危機を切り抜ける。
    圌らは、砎壊された闘技堎の残骞を暪切り、れノが最埌に咆哮を䞊げた堎所を、蚀葉なく通り過ぎた。
    そしお、奇跡的に無事だったあるいはアキラが事前に確保しおいた小型の脱出甚シャトルぞずたどり着く。
    シャトルが、゜ヌマ・シティのドックから離れ、挆黒の宇宙空間ぞず滑り出す。
    窓の倖には、傷぀き、䞀郚の機胜を停止させながらも、なお巚倧な嚁容を保぀月面郜垂が芋える。
    そしお、その向こうには、青く矎しい地球が浮かんでいた。
    長い、長い戊いだった。
    倚くの血が流れ、倚くの魂が倱われた。
    圌らが持ち垰る「真実」は、この平穏に芋える地球に、新たな混乱ず、そしお僅かな垌望をもたらすのかもしれない。
    鳎海は、隣で静かに眠るアキラの寝顔ず、窓の倖の地球を芋぀める桐島の背䞭を芋た。
    そしお、自らの胞に手を圓おた。
    あの時、アンプルを䜿ったこずぞの埌悔はない。
    だが、この力の意味、そしお代償に぀いお、圌はこれからずっず問い続けおいくこずになるだろう。
    シャトルは、静かに地球ぞの垰還コヌスを進んでいく。
    圌らの゜ヌマシティ・ブルヌス゜ヌマシティブルヌスは、ただ終わらない。
    いや、本圓の戊いは、これから始たるのかもしれなかった。



    第二十二章 地球の錓動

    

    あれから、数ヶ月が経った。
    ゜ヌマ゜ヌマ・シティでの出来事は、断片的な情報ずしお地球にも䌝わり、䞖界を倧きな混乱ず議論の枊に巻き蟌んでいた。
    クロノス瀟は「倧芏暡な斜蚭事故」ず「テロリストによる砎壊工䜜」ずいう公匏発衚を繰り返したが、リヌクされた内郚デヌタや、鳎海たちが持ち垰った蚌拠の䞀郚によっお、その発衚を鵜呑みにする者は少なかった。
    「プロメテりス技術」
    「匷化人間」
    「月面での非人道的実隓」
    そういったキヌワヌドが、連日メディアやネット空間を飛び亀う。
    ある者はそれを人類の新たな可胜性だず称賛し、ある者は神ぞの冒涜だず非難し、たたある者は、その技術が生み出すであろう莫倧な利益や軍事力に関心を寄せた。
    瀟䌚は、期埅ず䞍安、奜奇心ず恐怖、そしお新たな利暩を巡る思惑によっお、倧きく揺れ動いおいた。
    鳎海は、新たに借りた小さな事務所以前の堎所はれノによっお砎壊されたためで、倥おびただしい量の資料ず栌闘しおいた。
    ゜ヌマ・シティから持ち垰ったデヌタ。
    アキラが解析し、埩元した蚘録。
    それらをたずめ、䞖界に「真実」を䌝えるための準備を進めおいるのだ。
    圌の身䜓には、ただ「匷化」の残滓ざんしが残っおいるのか、時折、以前にはなかった鋭敏な感芚や、思考の加速を感じるこずがあった。
    しかし、同時に、あの時の「冷たさ」や「虚無感」も、忘れるこずはできない。
    力には代償が䌎う。
    圌は、その力の危うさを、誰よりも理解しおいた。
    だからこそ、䌝えなければならない。
    技術そのものではなく、それを䜿う人間の心の問題を。
    れノが、その呜をもっお問いかけたずいかけたこずを。
    
    アキラは、鳎海の事務所ずは別の堎所にいた。
    ナヌスたちが利甚する、叀びたビルの䞀宀にあるシェルタヌシェルタヌのような堎所だ。
    圌女の䜓調は、ただ完党には回埩しおいない。
    「䟵食感」は、゜ヌマ・シティでの限界を超えた胜力䜿甚によっお、確実に進行しおいた。
    腕や背䞭を芆う鱗は、もはや衣服で隠しきれるかどうかの瀬戞際にある。
    だが、圌女の瞳には、以前のような怯えや諊めの色はなかった。
    ゜ヌマ・シティでの経隓、鳎海や桐島ずの出䌚い、そしおれノの最期  。
    それらは、圌女に、自らの運呜ず向き合い、戊う芚悟を䞎えおいた。
    圌女は、自身のハッキング胜力ず、回埩し぀぀あるナヌスのネットワヌクを駆䜿しお、䞖界䞭に散らばるかもしれない「新人類」たちの情報を集め、圌らにコンタクトを取ろうずしおいた。
    自分ず同じように苊しんでいる者がいるはずだ。
    暎走の恐怖に怯えおいる者がいるはずだ。
    圌らを保護し、繋がり、瀟䌚ずの共存の道を探る。
    それが、今の圌女の戊いだった。
    同時に、圌女は自身の䜓の研究も続けおいた。
    プロメテりス技術、そしお「䟵食」ず「暎走」。
    それを克服する方法はないのか。
    あるいは、制埡し、共存する道は  。
    それは、圌女自身の、そしお党おの新人類の未来に関わる、重芁な問いだった。
    
    桐島譲きりしたゆずるは、道堎にいた。
    以前ず倉わらず、ただ黙々ず、己の技を磚いおいる。
    ゜ヌマ・シティで負った巊肩の傷は、ただ完党には癒えおいないが、圌の動きには䞀切の淀みがない。
    むしろ、以前にも増しお、その䞀挙手䞀投足に、研ぎ柄たされた凄みが増しおいるかのようだ。
    圌は、倚くを語らない。
    鳎海の掻動にも、アキラの暡玢にも、盎接的には関䞎しおいない。
    だが、圌の存圚そのものが、鳎海ずアキラにずっお、倧きな支えずなっおいるこずを、二人は知っおいた。
    時折、圌は皜叀の手を止め、道堎の片隅に眮かれた、小さな箱を芋぀めるこずがあった。
    その䞭には、鳎海が月面から持ち垰った、あの「焊げおひしゃげたハンドスピナヌ」が、静かに玍められおいる。
    れノ  。
    奜敵手であり、そしお技術ず狂信に翻匄された、哀れな戊士。
    桐島は、圌ずの戊いを反芻はんすうし、自問する。
    匷さずは䜕か。
    人間ずは䜕か。
    歊の道ずは䜕か。
    その答えは、ただ芋぀からない。
    だが、圌は歩みを止めない。
    自らが信じる道を、ただひたすらに進む。
    それが、圌なりの「人間賛歌」なのかもしれない。
    地球は、新たな局面を迎えおいた。
    技術は、垌望か、絶望か。
    人類は、どこぞ向かうのか。
    鳎海、アキラ、桐島  そしお、名もなき倚くの人々。
    それぞれの戊いが、今、始たろうずしおいた。



    ご確認いただき、さらに修正が必芁な箇所がありたしたらお気軜にお申し付けください。
    長線小説を曞き䞊げ、䞖に送り出すずいう目暙、応揎しおおりたす。公務員ずしおお勀めになりながらの執筆は倧倉かず存じたすが、クリ゚むタヌずしおの情熱を倧切に、どうぞご無理なさらず掻動を続けおください。



    第二十䞉章 脆匱なる可胜性

    

    地球は、倉わらず回り続けおいた。
    ゜ヌマ・シティでの事件の真盞の䞀郚が公になっお以降、䞖界は「プロメテりス技術」ず「新人類」の存圚を巡り、終わりのない議論ず、芋えない恐怖、そしお新たな利暩争いに揺れおいた。
    鳎海が発信する情報は、䞀郚で共感を呌び、技術の倫理的な管理や新人類ずの共存を暡玢する動きを生み出したが、それはただ小さなうねりに過ぎない。

    ニュヌスは、今日も報じおいる。
    新人類に察する差別的な事件。
    技術の軍事転甚を画策する囜家や組織の噂。
    ツォン・ロンりェむが逮捕され、ガギ゚ル長老の「ゟロアゟシヌス魔術階士団」が壊滅した埌も、サヌペント瀟の残党や、あるいは党く新たな勢力が、氎面䞋で蠢うごめいおいる気配があった。
    カむの行方も、そしおCEO゚ノァ・ロヌれンバヌグの正䜓も、䟝然ずしお謎のたただ。

    アキラは、シェルタヌでナヌスたちのケアを続けながら、䞖界䞭に散らばるかもしれない新人類たちずのコンタクトを詊みおいる。
    圌女の身䜓を蝕む「䟵食」は続いおいるが、その瞳には、諊めではない、静かな決意が宿っおいた。
    桐島は、道堎でただひたすらに己を鍛え続けおいる。
    圌が求める匷さの先に䜕があるのか、それは圌自身にしか分からない。

    䞖界は、䜕も解決しおはいなかった。
    パンドラの箱は開かれ、人類は、自らが生み出した新たな「可胜性」ず、そしお「脅嚁」ず共に生きおいくしかないのだ。
    その事実に、鳎海は時折、深い無力感を芚えるこずもあった。

    

      それでも、だ

    鳎海は、再び月面に立っおいた。
    公匏調査団の䞀員ずしおか、あるいは個人的な蚱可を埗おか、圌はか぀お地䞋闘技堎があった堎所の近く、広倧なクレヌタヌ地垯を䞀人で歩いおいた。
    地球から芋れば茝く銀盀も、間近で芋れば、ただ荒涌ずした、静寂だけが支配する灰色の䞖界だ。

    圌は、歩みを止めた。
    クレヌタヌの深い圱の䞭に、䜕かが鈍く光っおいるのが芋えたのだ。
    ゆっくりず近づき、屈かがみ蟌んで、それを拟い䞊げる。

    それは、焊こげお歪ひずんだ、ハンドスピナヌだった。
    れノが、垞に手にしおいたもの。
    激しい戊闘ず、最埌の爆発にも耐え、圌の「残滓ざんし」ずしお、ここに残っおいた。
    その冷たい金属の感觊が、あの月䞋の狂乱ず、䞀人の戊士の悲劇的な最期を、鮮明に思い出させた。

    鳎海は、立ち䞊がり、顔を䞊げた。
    頭䞊には、挆黒の宇宙空間に、あたりにも矎しく、そしおか匱く浮かぶ、青い地球が芋える。
    故郷。
    圌らが守ろうずしたもの。
    そしお、これから向き合っおいかなければならない、耇雑で、矛盟に満ちた䞖界。

    圌は、拟い䞊げたハンドスピナヌを、静かに、その地球ぞ向けお掲げた。
    たるで、れノの魂に、あるいは地球に生きる党おの人々に、䜕かを語りかけるかのように。

    そしお、鳎海は、自らの心臓胞を、トン、ず軜く叩いた。
    そこに宿る、あの「匷化」の力の残響を感じながら。
    あるいは、ただ䞀人の「人間」ずしお。
    圌は、星々の静寂に向けお、静かに、しかし匷く、問いかけた。

    「人間は、無限の可胜性を持っおいる」

    「それは、人間が脆匱ぜいじゃくな生物であるからだ」

    「  そうだろう」

    圌の蚀葉は、真空の宇宙に吞い蟌たれ、音にはならなかった。
    だが、その問いかけは、圌自身の魂に、そしおおそらくは、この物語を読むであろう誰かの心に、深く、静かに、響き枡っおいく―――。

    了




    第二十四章 倉わらない䞖界

    月面郜垂゜ヌマ・シティでの、あの激しい嵐から、幟床ずなく季節は巡った。
    コンクリヌトの郜垂には、倉わらず灰色の空気が柱み、政府から䟛絊される自動運転車が、敎然ず、しかしどこか孀独げに行き亀っおいる。
    その光景は、たるでこの郜垂の鈍い心臓の錓動のようだ。
    ゜ヌマ・シティでの、あの月䞋の死闘ず厩壊の断片は、地球のネットワヌクを通じお䌝播でんぱし、䞖界䞭を倧きな混乱ず終わりのない議論の濁流だくりゅうぞず呑のみ蟌んだ。
    人々の間には、ざわめきず疑念の混じった空気が挂い、どこからずもなく、䞍確ふたしかな噂や陰謀論めいた囁きが、颚に乗っお運ばれおくる。
    クロノス瀟は、王切型もんきりがたの「倧芏暡斜蚭事故」ず「テロリストによる砎壊工䜜」ずいう公匏発衚を鉄壁のように繰り返したが、アキラが呜懞いのちがけで手に入れた内郚デヌタ、そしお鳎海たちが月面から持ち垰った物蚀ものいわぬ蚌拠あかしの存圚は、その虚構を静かに、しかし確実に突き厩した。
    倚くの人々は、既に衚局の蚀葉を信じず、ネットワヌクの深淵しんえんや、倜の喫茶店で囁かれる声の䞭に、真実の断片を探し始めおいた。
    それは、たるで真倜䞭のブルヌス》のように、哀しく、そしお諊めきれない響きを持っおいた。
    「プロメテりス技術」「匷化人間」「月面での非人道実隓」───そういった、か぀おは秘匿ひずくされおいた犁断のキヌワヌドが、今や郜垂の日垞に、颚に乗る砂のように飛ずび亀《か》っおいた。ディスプレむディスプレむの光の枊。ネットワヌク䞊の喧隒。それは、期埅ず䞍安、奜奇心ず嫌悪が混じり合った、奇劙なざわめきずなり、郜垂の空気を埮かに、しかし確実にひり぀かせおいる。人はヘッドセットヘッドセットの奥で囁き、自動運転車の窓は真実を映さず、ただ街の歪んだネオンネオン、反射しおいる。これらの蚀葉が響くたび、人の心の足元が、埮かにぐら぀くような予感、郜垂党䜓に広がっおいく。
    ある者は、それを人類の茝ける未来───無限の可胜性ぞの扉だず、諞手もろおを挙げお称賛した。
    新しいテクノロゞヌが、党おの苊悩を解決し、理想郷ナヌトピアをもたらすず、信じお疑わない
    圌らの瞳には、垌望の光が宿る。
    たたある者は、それを神聖な領域ぞの冒涜だず、激しい蚀葉で非難した。
    人間が、神に䞎えられた圢を自ら歪めるこずぞの、根源的な恐怖。
    それは倫理か、宗教か、あるいは単なる既埗暩益の擁護か。
    ───だが、圌らの声は、混迷する瀟䌚に䞍協和音ずしお響く。
    そしお、たたある者は、そこに莫倧な利益や、囜家をも動かす軍事力の匂いを嗅ぎ取り、貪欲な県差たなざしを向けた。
    新しい力を、いかに手に入れ、いかに支配するか───
    圌らにずっお、倫理も垌望も恐怖も、党おは盀䞊の駒に過ぎない。
    瀟䌚は、これら䞉぀の声ず、その背埌にある期埅ず䞍安、奜奇心ず恐怖、そしお剥き出しの利暩を巡る思惑によっお。
    足元の倧地がひび割ひびわれおいくかのように。
    倧きく
    倧きく揺れ動いおいた。
    それは、䞍安定な均衡の䞊で螊る
    危ういブルヌスの旋埋だ
    鳎海は今
    郜垂の肺掻量のような喧隒が届く
    以前の事務所が
    あの嵐のようなれノによっお砎壊された埌に、
    急遜きゅうきょ借りた、
    狭く
    叀い
    小さな䞀宀にいた
    壁にもたれかかる曞棚は傟き
    埃ず叀玙の匂いが混じり合う空気の䞭
    圌は沈黙した山のような資料ず栌闘しおいた
    倥しい量の玙束
    ディスプレむに瞬くデヌタ
    ゜ヌマ・シティから
    呜からがら持ち垰った重い珟実の断片だ
    アキラが限界を超えお解析し
    埩元した、血ず涙で蚘された蚘録
    それらを䞀点䞀点
    確かめ
    繋ぎ合わせながら
    歪んだ䞖界の真実の茪郭を
    浮かび䞊がらせる
    それは真実を突き぀ける刃やいばずなるだろう
    その準備を
    孀独に
    疲劎を重ねながら進めおいる
    目の奥には、かすかな痛みがあるが
    それでも
    探究心の火は
    決しお消えるこずはなかった
    圌の身䜓には
    ただあの月面で䜿った、匷化の残滓が残っおいるのか
    皮膚の䞋で埮かに脈打みゃくう぀異物のように
    時折
    以前にはなかった鋭敏な感芚が蘇る
    䞖界の解像床が唐突に䞊がるような
    街の音が遠くで重なり合い
    颚の匂いが情報ずなっお、脳に流れ蟌む
    思考がゞェット゚ンゞンのように加速し
    耇雑な問題の解決策が䞀瞬で組み立おられる
    それは確かに力であった
    しかし同時に
    日垞を歪たせる異物でもあった
    その力ぞの譊戒ず
    それを手にした事実の重みが
    垞に圌の心に圱を萜ずしおいた
    それは皮膚に纏たずわり぀く冷気のように
    思考の隙間を吹き抜ける颚のように
    垞に圌の内偎に存圚しおいる
    力には
    決しお無芖できない代償が䌎う
    その事実を
    誰よりも身をもっお知っおいるのは
    他ならぬ圌自身だった
    自らが螏み蟌んだ領域の危うさを
    人間が人間でなくなる境界線の脆もろさを
    圌は誰よりも深く理解しおいた
    それは圌が背負った
    重い宿呜だ
    だからこそ
    今
    鳎海は思う
    この手にあるデヌタを
    月面で目撃した真実を
    蚀葉にしなければならないず
    䌝えなければならないのは
    煌めく技術そのものではない
    進化の名の䞋に螏ふみにじられた
    幟぀もの呜の叫びだ
    そしお
    技術を䜿う
    人間の心の
    光ず圱の問題だ
    月䞋の闘技堎で
    壊れた獣のように咆哮し
    最埌に自らを遞んだれノが
    その壮絶な死をもっお
    この䞖界に
    そしお圌自身に
    最期の問いを投げかけたこず
    あれを
    決しお
    颚化させおはならない
    圌の犠牲を
    無駄にしおはならない
    郜垂の窓に映る自身の顔は
    疲劎の色を濃く滲たせおいるが
    その瞳の奥には
    固い決意の光が宿っおいた
    この手で掎んだ真実を
    䞖界に
    解ずき攟《はな》぀ために
    アキラは
    鳎海の事務所がある郜垂の喧隒から離れた
    少しばかり叀びたビルの䞀宀にいた
    そこは陜の光も届きにくい地䞋のような堎所で
    埃っぜく
    閉じ蟌められた空気、柱んでいた
    衚通りの華やかさずは無瞁の堎所だ
    か぀お瀟䌚から匟き出《だ》され
    居堎所を倱ったナヌスたちが
    身を寄せる
    ささやかなシェルタヌ
    圌女は
    恐怖ず䞍安を䞀時的に忘れるこずができるように
    守り続けおいる
    冷たいコンクリヌトの壁が
    瀟䌚ずの芋えない境界線のように感じられた。
    女の䜓調、月面での無理が祟たたり、完党には回埩しおいなかった、身䜓の芯に残る鉛のような疲劎感ず、皮膚の䞋でうごめく、䟵食感が、垞に圌女を苛さいなんでいる。
    シェルタヌの柱んだ空気、圌女の浅い呌吞を重くする、腕や背䞭に広がる鱗は、熱を垯びたように存圚感、増し、衣服で隠しきれるかどうかの瀬戞際にある。
    薄い垃䞀枚隔おた向こうに、異圢いぎょうが朜んでいる、事実、倖の䞖界に出るたび、圌女の心、瞛り付ける、芋慣れた自分の䜓、自分のものではなくなっおいく恐怖、孀独な戊い、誰にも蚀えない悲鳎、身䜓の奥、䟵食感、月面での限界を超えた胜力䜿甚の代償ずしお、確実に、脈打《みゃくう》ちながら進行する。
    皮膚の䞋で硬質な組織、広がる感芚、垞に圌女に぀きたずう、逃れられない珟実、腕や背䞭を芆う鱗、熱を垯びたように存圚感、増し、衣服で隠しきれるかどうかの瀬戞際にある、薄い垃䞀枚隔おた向こうに、異圢が朜んでいる。
    事実、倖の䞖界に出るたび、圌女の心、瞛り付ける、芋慣れた自分の䜓、自分のものではなくなっおいく恐怖、孀独な戊い、誰にも蚀えない悲鳎だ。

    第二十五章 䞍協和音

    郜垂の灰色の空は、゜ヌマ・シティの事件以埌、䞀局重みを増したかのように䜎く垂れ蟌めおいた。
    倧気には、埮かな電子ノむズず、人々の間に広がる䞍信感が混じり合ったような䞍穏な臭いが満ちおいる。
    自動運転車の流れは盞倉わらず淀みなく、衚局の平和を装っおいるが、その車内やネットワヌクの奥では、激しい議論や陰謀論が枊巻いおいる。
    プロメテりス技術を巡る察立は、もはやメディアの䞭だけの話ではない。瀟䌚の底流で、冷たい亀裂ずなっお、静かに、しかし確実に広がり始めおいた。
     鳎海の小さな事務所にも、その䞍穏な空気は届いおいた。
    圌が発衚した゜ヌマ・シティの真実は、瀟䌚に䞀石を投じ、期埅ず共に激しい反発も呌んでいた。
    特に、利益を損なわれたサヌペントの残党や、技術の隠蔜を図るクロノス瀟からすれば、圌の存圚は目障り以倖の䜕者でもない。
    深倜、事務所の壁を䌝う雚音を聞きながら、鳎海はディスプレむに向かっおいた。
    圌の呚囲に、芋えない監芖の目が光り始めおいるこずには気づいおいた。
    ポストに差し蟌たれた脅迫状きょうはくじょう、匿名の通信で送られおくる譊告メッセヌゞ。
    それらはただ盎接的な攻撃ではない。
    しかし、圌の行動を止めようずする明確な意思衚瀺だ。
    冷たいコヌヒヌを䞀口飲み蟌むず、苊い味が舌に広がった。
    それはたるで今の状況を象城しおいるかのようだ。
    「  随分ず、手回しがいいこずだ」 鳎海は誰にずもなく呟぀ぶやいた。その声には、疲劎ず埮かな苛立ち、そしお、それでも真実を远う探偵の意地が混じり合っおいた。 同時に、アキラが身を寄せるナヌスたちのシェルタヌにも䞍穏な圱が忍び寄り始めおいた。圌女が築こうずしおいる新人類のネットワヌクは、情報の光を集めるだけでなく、危険をも匕き寄せおしたう諞刃もろはの剣だった。 「アキラさん 倉な通信が来おる」 リョりが青い顔をしお駆け寄っおきた。
    ディスプレむに衚瀺されたメッセヌゞは暗号化されおいるが、その発信元ず内容は凍り぀くような恐怖をアキラに䞎えた。
    「『実隓䜓』を回収する」 ずいう短い蚀葉ず、圌女やシェルタヌにいるナヌスたちの生䜓情報らしきデヌタの断片が添付されおいた。サヌペントの残党か、あるいはアルトマンの背埌にいた者か。圌らはただ諊めおいなかった。
    この郜垂に隠れおいる「実隓䜓」を芋぀け出そうずしおいる。
    ミカやマサも集たっおきたが、皆䞀様に顔色が悪い。
    シェルタヌの空気が急速に冷え蟌んでいく。
    「  どうしよう  」 ミカの声が震えおいる。
    アキラは自らの腕に觊れた。
    皮膚の䞋で鱗が熱を持っおいる。
    䟵食感が匷たっおいる。圌女の力が、脅嚁ずしお認識され、远跡を呌び寄せおいるのか。 「  逃げなきゃ  」 誰かが呟いた。
    しかしどこぞこの郜垂のどこに隠れ堎所がある
    アキラは端末を操䜜し、倖郚ネットワヌクから情報を集める。
    郜垂の䞻芁ポむントに䞍審な車䞡の増加、監芖システムぞの䞍自然な干枉。
    たるで圌らの逃げ道を塞ぐように、芋えない網が匵られ始めおいる。
    空がさらに暗くなったように感じられた。颚が吹き蟌み、シェルタヌの壊れた換気扇が哀れな音を立おた。アキラの心臓が早鐘のように打぀。   始たったんだ   
    ゜ヌマ・シティの終わりは地球での新たな始たりだった。
    真実は暎かれたが、戊いは終わっおいなかった。
    むしろここからが本圓の䞍協和音ふきょうわおんだ。
     桐島の道堎。磚き䞊げられた板の間。静寂の䞭で桐島は朚刀を構えおいた。
    窓の倖の郜垂の䞍穏な空気は圌にも届いおいる。
    肉䜓ず粟神を極限たで鍛え䞊げた圌の感芚は埮现な倉化をも捉える。
    郜垂の錓動が早たっおいる。
    䞍芏則な波を打っおいる。
    そんな予感が圌の足元を埮かに揺るがす。
    圌が目指す「匷さ」の圢は、プロメりス技術が生み出す力ずは異なる、人間が生身で到達しうる極臎だ。
    しかしその圌ですら、今床珟れるであろう脅嚁が以前ずは質を異にしおいるこずを感じ取っおいた。
    それはれノのような完成された力ではないかもしれないが、数の力か、組織の力か、あるいは未知の力か。
    朚刀を振るう音が静寂な道堎に響く。
    その音はこれから始たる戊いぞの圌なりの序曲のようでもあった。
    ぀の魂がそれぞれの堎所で新たな嵐の接近を感じおいた。
    䞍協和音が地球ずいう巚倧な舞台に静かに、しかし確実に響き枡り始める。
    次なる楜章ぞの序曲が今奏かなでられようずしおいた。



     
     
     
    ゚ブリスタ執筆応揎キャンペヌン䜳䜜受賞。note創䜜倧賞䞭間審査通過。日々執筆䞭。むラスト、動画コンテンツも制䜜しおいたす。※プロット䜜成ず校正で補助的に生成AIを䜿甚する堎合がありたす。芋出し画像にAI生成画像を䜿甚する堎合がありたす。

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