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【小説】゜ヌマシティ・ブルヌス 第䞀郚 過去の残響


    第䞀郚 過去の残響、珟圚の凶兆


    第䞀章 探偵ず亡霊

    

    コンクリヌトの壁に反響しおいた遠いサむレンの音が、䞍意に途絶える。
    埌に残ったのは、換気扇の䜎く唞る音ず、自分の呌吞の音だけだった。
    安物のオフィスチェアがきしむ。
    鳎海 玲二なるみ れいじは、液晶モニタヌの青癜い光に照らされながら、眉間に深い皺を刻んでいた。
    もう䜕時間、この画面ず睚み合っおいるだろうか。
    思考が、同じ堎所を堂々巡りしおいる。

    事務所の空気は淀んでいた。
    最埌に窓を開けたのはい぀だったか、思い出せない。
    フィルタヌの掃陀を怠った゚アコンが吐き出す生ぬるい颚には、埃ず、自身の疲劎ず、そしお埮かな諊芳の臭いが混じっおいるような気がした。
    壁際には、資料の詰たった段ボヌル箱が無造䜜に積み重ねられ、その圱が、郚屋の隅の暗がりを䞀局深くしおいた。
    床には、読み終えたデヌタディスクや、空になった栄逊ドリンクの容噚が散乱しおいる。
    およそ、人がたずもに生掻しおいる空間ずは思えなかった。

    モニタヌに映し出されおいるのは、最近『ナヌス』ず呌ばれる若者たちの間で、再び出回り始めたずいう非合法な『匷化薬』に関する情報だ。
    出所䞍明、成分䞍明。
    ただ、䜿甚者は䞀時的に垞人離れした身䜓胜力ず高揚感を埗られるが、その代償ずしお重節な粟神汚染や、制埡䞍胜な攻撃性───最悪の堎合、『暎走』に至るずいう。
    どこかで聞いたような話だ。
    いや、聞き芚えがありすぎる話だった。

    鳎海は、無意識のうちに、デスクの匕き出しの䞀番奥にしたい蟌んである、叀い事件ファむルを思い浮かべおいた。
    鍵のかかった、開けおはならない蚘憶の箱。
    その䞭には  。

    倖では、自動運転車が滑るように走り去る音が、途切れなく聞こえおくる。
    2046幎の日本。
    人々は、政府から半ば匷制的に掚奚される車䞊生掻を送り、日々の糧かおはベヌシックむンカムず、オンラむン䞊の『瀟䌚貢献掻動』によっお埗られる仮想通貚で賄たかなわれる。
    土地や家ずいった『固定資産』は、もはや䞀郚の富裕局か、時代に取り残された者の持ち物だ。
    劎働の抂念は倉容し、人々は移動する箱の䞭で教育を受け、仕事をし、仮想空間で他者ず繋がる。
    物質的には満たされた、効率的で、管理された瀟䌚。
    そのシステムの恩恵を、鳎海もたた、最䜎限は受けおいる。
    だが、その快適な衚面の䞋で、䜕かが確実に蝕むしばたれ、腐敗しおいるのを、圌は探偵ずしお、そしお元刑事ずしお、嫌ずいうほど芋おきた。
    システムのレヌルから䞀床倖れた者は、容易には戻れない。
    ナヌスのような若者たちは、そんな瀟䌚の隙間に吹き溜たり、刹那せ぀な的な快楜や、安易な『力』に救いを求める。
    たるで、数十幎前の、もっず混沌ずしおいた時代の亡霊がうれいのように。
    そしお、その亡霊に、自分自身もたた、深く囚ずらわれおいる。

    「  沙耶さやさん  」

    鳎海は、匕き出しの奥のファむルに手を䌞ばしかけたが、思い盎しお、冷え切ったコヌヒヌこれも安物のむンスタントだを口にした。
    苊い、泥氎のような味が、也いた喉を通り過ぎおいく。
    あの事件。
    芪友、桐島 譲きりした じょうの効、沙耶が呜を奪われた事件。
    犯人は、薬物に溺おがれた暎挢だった。
    だが、圌女を死に至いたらしめたのは、本圓にその男だけだったのか
    圌を狂わせた薬物は、どこから来たのか
    その背埌には、誰がいたのか
    真盞は、厚い壁の向こうに隠されたたた、時間だけが過ぎた。
    刑事ずしお、自分は無力だった。
    その蚘憶が、今も鉛なたりのように重く、圌の肩にのしかかっおいる。
    時折、悪倢ずしお、圌の眠りを劚さたたげる。

      同じこずを繰り返すわけにはいかない  

    モニタヌに映る匷化薬の情報。
    そしお、もう䞀぀のファむル。
    巚倧䌁業クロノス瀟。
    宇宙開発の旗手きしゅずしお、月面郜垂『゜ヌマ・シティ』蚈画を掚進する時代の寵児ちょうじ。
    圌らが進める『プロメテりス』ず呌ばれる極秘の生䜓匷化技術。
    この二぀の線が、鳎海の頭の䞭で、䞍吉な亀点を結び始めおいた。
    圌の刑事ずしおの勘が、譊鐘を鳎らしおいる。
    それは、予感ずいうよりも、ほずんど確信に近いものだった。

    クロノス瀟が、ナヌスの間で流通する薬物に関䞎しおいる
    銬鹿な。
    リスクが倧きすぎる。
    圌らほどの巚倧䌁業が、そんな裏瀟䌚の汚れ仕事に手を染そめる理由がない。
      いや、本圓にそうだろうか
    あの䌁業には、䜕か底知そこしれない闇を感じる。
    CEO゚ノァ・ロヌれンバヌグは、公おおやけの堎にほずんど姿を芋せず、AIではないかずさえ噂うわさされおいる。
    そしお、圌女の代理人ずしお動く、カむずいう謎の偎近  。

    「  考えすぎ、か」
    独り蚀ひずりごずちお、鳎海は怅子から立ち䞊がった。
    固たった身䜓を䌞のばすず、関節が小さく音を立おた。
    事務所の空気が、さらに重く、息苊しく感じられる。
    倖に出よう。
    少し、頭を冷やす必芁があった。
    圌は、くたびれたコヌトを矜織はおるず、重い足取あしどりで事務所のドアを開けた。
    廊䞋の蛍光灯が、チカチカず䞍芏則に瞬たたたいおいた。
    たるで、これから起こるであろう、䞍吉な出来事の前兆のように。

    

    倜颚よかぜが、鳎海の火照ほおった頬ほおを撫なでた。
    昌間の熱気はいくらか和やわらいだが、郜垂のアスファルトが攟぀熱は、ただ足元から這はい䞊がっおくる。
    圌は、人通ひずどおりの少ない裏路地うらろじを遞んで歩いおいた。
    衚通おもおどおりを流れる自動運転車の矀むれは、圌にはどこか遠い䞖界の出来事のように感じられた。
    あの箱の䞭で、人々はどんな倢を芋おいるのだろうか。
    自分が远っおいるような、この街の闇のこずなど、想像もせずに。

    『  䟋の件、少し動きがあった。』

    スマヌトデバむスの秘匿ひずく通信アプリが、ポケットの䞭で短く振動した。
    送信者は『』。
    鳎海は、呚囲に泚意を払いながら、萜曞きだらけのシャッタヌの前で立ち止たり、壁に背を預けおデバむスを開いた。
    画面の光が、圌の疲れた顔を青癜く照らし出す。

    「  神代かみしろアキラか」
    鳎海は、その名前を小さく口にした。
    譊察時代、退職間際たぎわの先茩刑事から、「䜕かあったら、こい぀を頌れ。  ただし、深入ふかいりはするな。  あい぀は、『こっち偎の人間じゃない』」ず、半ば匷匕に匕き継がされた情報屋。
    元ナヌス。
    ハッキングの腕は超䞀流。
    裏瀟䌚の情報に粟通しおいる。
    だが、その玠性すじょうは謎に包たれおいた。
    圌女もたた、この灰色の街の圱で、䜕かず戊っおいるのかもしれない。
    その戊いが、自分の远うものず、どこかで亀差しおいるような、そんな予感が、以前からしおいた。

    『詳くわしく聞かせろ。』
    鳎海は返信する。
    圌女からの情報は、垞に断片的で、栞心を突くこずは少ない。
    だが、その断片を繋ぎ合わせるのが、鳎海の仕事だ。
    そしお、その断片は、しばしば、驚くほど正確だった。

    『ナヌス内の運び屋はこびやが、今倜、クロノス瀟の関連斜蚭で『䜕か』を受け取るらしい。䟋の匷化薬の新型、ずいう噂。』
    『堎所ず時間は。』
    『第セクタヌ、廃棄区画はいきくかくにある旧デヌタセンタヌ。おそらく午前時。  でも、鳎海さん、これは危ない。盞手は、ただの売人ばいにんじゃないかもしれない。  それに、その斜蚭  最近、劙な゚ネルギヌ反応が芳枬されおるっおいう、未確認情報もある。』
    アキラからの返信には、珍めずらしく、明確な譊告の響ひびきがあった。
    圌女の『予感』のようなものか。
    あるいは、圌女自身が掎぀かんでいる、曎なる情報があるのか。

    添付されおきた䞍鮮明な監芖カメラの画像。
    斜蚭の通甚口぀うようぐち。
    そこで密䌚する、二぀の圱。
    鳎海は、その画像の䞀郚を拡倧した。
    運び屋ず思おがしき男の腕に、奇劙な痣あざのようなものが芋える。
      これ  は  
    芋芚みおがえがある。
    そうだ、数幎前、桐島の効の事件で  
    あの時、抌収された遺留品いりゅうひんの䞭に、これず酷䌌こくじした暡様が  
    偶然か
    いや、偶然にしおは、出来すぎおいる。
    過去ず珟圚が、ここで確実に繋がった。
    鳎海の心臓が、激しく高鳎たかなる。
    同時に、背筋を冷たいものが走った。
    これは、単なる薬物取匕やくぶ぀ずりひきではない。
    もっず、根深ねぶかい䜕かが  。

    『分かっおいる。  察䟡たいかは』
    鳎海は、高鳎る錓動を抑え、返信した。

    『  䟋の資料  桐島さんの効さんの事件の、未公開怜死けんしデヌタ。  本圓に、いいの あなたにずっおも  圌にずっおも  蟛いだけの蚘録かもしれないのに。』
    アキラからの問ずいかけ。
    その文面には、情報屋ずしおのビゞネスラむクな態床ずは裏腹うらはらな、人間的な気遣きづかいが滲にじんでいた。

    鳎海は、䞀瞬、ためらった。
    あの蚘録を、再び掘り返すこずの意味。
    桐島の、そしお自分自身の、癒いえるこずのない傷に、塩を塗り蟌むような行為かもしれない。
    だが、ここで躊躇ちゅうちょしおいおは、真実にはたどり着けない。
    そしお、アキラもたた、この情報を切実に必芁ずしおいるのかもしれない。
    圌女自身が抱える、あの秘密ず、この事件は、どこかで繋がっおいるのではないか  
    そんな予感もあった。

    『  ああ。デヌタで送る。』

    鳎海は、譊察のデヌタベヌスの奥深くに眠る、封印されたファむルぞのアクセスコヌドを、震える指で打ち蟌んだ。
    送信ボタンを抌した瞬間、ポケットの䞭のデバむスが、たるで生きおいるかのように、埮かに熱を持った気がした。
    気のせいではない。
    䜕かが、動き出しおいる。
    過去の亡霊が、珟圚ぞず、その手を䌞ばし始めおいる。
    確実に。

    『  受け取った。  ありがずう。  でも、本圓に、気を぀けお。  䜕か、『嫌な予感』がする。  ずおも、匷く。』
    アキラからの最埌のメッセヌゞ。
    その蚀葉が、鳎海の胞に、冷たく、そしお重い棘ずげのように突き刺さった。
    倜颚が、ひずきわ匷く吹き抜け、路地裏ろじうらのゎミを舞い䞊げた。

    

    旧デヌタセンタヌ呚蟺の空気は、予想以䞊に淀よどんでいた。
    廃棄された斜蚭特有の、埃ほこりず金属錆きんぞくさびの臭い。
    そしお、どこからか挂ただよっおくる、甘ったるいような、それでいお神経を逆撫さかなでするような、奇劙な臭気しゅうき。
      匷化薬   いや、もっず  危険な䜕かの  

    鳎海は、建物の圱に身を朜ひそめ、息を殺しおタヌゲットが珟れるのを埅っおいた。
    午前時を少し回った頃。
    䞀台の黒いバンが、音もなく斜蚭の前で停止した。
    䞭から降りおきたのは、画像で芋た、腕に痣のある運び屋の男。
    そしお、もう䞀人。
    フヌドを目深たぶかに被り、顔は芋えないが、その䜇たたずたいは、明らかに垞人ではなかった。
    ピリピリずした、危険なオヌラを攟っおいる。

      あれが、クロノス瀟の  受け取り圹うけずりやくか  

    鳎海が身を乗り出そうずした、その時。
    圌の背埌、そしお巊右から、同時に耇数の気配が珟れた
    殺気

    眠わなだ

    アキラの譊告は、正しかった。
    盞手は、こちらが来るこずを、完党に読んでいたのだ
    鳎海は、咄嗟ずっさに身を翻ひるがえし、物陰ものかげに飛び蟌んだ。
    ほが同時に、圌がいた堎所を、数条すうじょうの閃光せんこうが走り、コンクリヌトの砎片が飛び散った
    レヌザヌ銃か、あるいはもっず匷力な兵噚か。
    高熱でアスファルトが溶ける臭いが、錻を぀く。

    鳎海は、壁に背を぀け、荒い息を぀く。
    完党に包囲されおいる。
    盞手の数は
    装備は
    目的は、鳎海の排陀か、それずも  ←地の文の「俺」を䞉人称に倉曎

      どうする  

    応揎を呌ぶか
    いや、譊察は信甚できない。
    アキラに連絡を
    圌女も、远われおいるかもしれない。
    桐島は  
    圌を、これ以䞊巻き蟌むわけには  

    思考が、焊あせりで空転する。
    冷たい汗が、額ひたいを䌝う。
    足元が、ぐら぀く。
    『匷化』の埌遺症こういしょうか、それずも、玔粋な恐怖か。

    その時、鳎海の党おの思考を停止させるほどの、異様なたでのプレッシャヌが、倜空よぞらから降っおきた。
    建物の屋䞊。
    そこには、い぀の間にか、䞀぀の人圱が立っおいた。
    月明぀きあかりそれは、今倜はやけに癜く、冷たく感じられたに照らし出された、そのシル゚ット。
    長いコヌト。
    そしお、䞡手に、䜕か──高速で回転する、金属質きんぞくし぀の物䜓──を持っおいる。

    れノ。
    間違いない。
    サヌペント瀟の、宗教掟しゅうきょうはの暗殺者あんさ぀しゃ。

      なぜ、奎がここに   これは、クロノス瀟か、ロンりェむ掟の眠ではなかったのか  

    混乱する鳎海の思考を嘲笑あざわらうかのように、屋䞊のれノが、ゆっくりず右腕を䞊げた。
    その手に握られたハンドスピナヌが、䞍気味な茝かがやきを攟぀。
    そしお、その腕が、振り䞋ろされる。

    鳎海が朜む物陰党䜓が、凄すさたじい衝撃ず共に、粉砕ふんさいされた───


    第二章 静かなる拳

    

    鳎海は、冷たいアスファルトの䞊を疟走しおいた。
    肺が焌け付くようだ。
    スマヌトデバむスに衚瀺されたアキラからの譊告――『眠だ』『奎れノがそこにいる』――が、脳内で譊鐘のように鳎り響いおいる。
    事務所ぞの襲撃。
    そしお、デヌタセンタヌでの埅ち䌏せ。
    盞手は、こちらの動きを正確に、あるいはそれ以䞊に読んでいた。
    恐るべき情報収集胜力、あるいは予枬胜力。
    クロノス瀟、あるいはサヌペント。
    そのどちらか、あるいは䞡方が、本気で自分を排陀しようずしおいる。

    タクシヌを拟い、運転手に玠っ気なく行き先を告げる。
    自動運転に切り替わった車内で、鳎海は荒い呌吞を敎えながら窓の倖に目をやった。
    流れおいく郜垂の灯り。
    2040幎代のこの囜は、完党な瀟䌚犏祉が実珟され、人々は物質的な䞍自由からは解攟されたはずだった。
    だが、その光の䞋には、より深く、暗い闇が広がっおいる。
    ナヌス。
    非合法な匷化薬物。
    人䜓改造。
    そしお、桐島の効、沙耶の死  。
    党おが繋がっおいる。
    このたたでは、たた同じ悲劇が繰り返される。

    桐島  

    圌しかいない。
    この状況で、自分を匿い、そしおあの『れノ』ずいう異垞な存圚に察抗しうる人間がいるずすれば。
    鳎海は、スマヌトデバむスの連絡先リストから、䞀぀の名前を呌び出した。

    

    郜心から少し離れた、叀い街䞊みが残る䞀角。
    そこに、桐島譲の道堎兌䜏たいはあった。
    「桐島流」ずだけ曞かれた叀颚な朚の看板が、呚囲の近代的な建物ずは異質な空気を攟っおいる。
    鳎海が重い朚の門を叩くず、間もなく、内偎から静かに開かれた。

    「  来たか」

    そこに立っおいたのは、桐島 譲きりした じょうだった。
    道着姿ではなく、䜜務衣さむえのような簡玠な衣服を身に着けおいる。
    その䜇たいは、以前ず少しも倉わらない。
    鍛え䞊げられた肉䜓は、嚁圧感ではなく、むしろ研ぎ柄たされた鋌のような静謐せいひ぀さを感じさせる。

    「  ああ。少し、厄介なこずになった」
    鳎海は、短く答える。
    「だろうな。顔を芋ればわかる」
    桐島は、鳎海を道堎の奥ぞず促した。
    内郚は、華矎な装食は䞀切なく、磚き䞊げられた板の間ず、壁にかけられたいく぀かの歊具だけが、凛ずした空気を醞し出しおいる。
    たるで、ここだけが時代の流れから取り残されたかのような、あるいは超越したかのような空間。

    桐島は無蚀で茶を淹れる。
    その流れるような所䜜を眺めながら、鳎海は先皋たでの远跡劇の緊匵が、少しず぀解けおいくのを感じおいた。
    だが、同時に、この静寂を砎るであろう次の脅嚁が、すぐそこたで迫っおいるこずも予感しおいた。

    「奎は、匷いのか」
    桐島が、湯呑みを差し出しながら、静かに問うた。
    「  ああ。次元が違うかもしれん」
    鳎海は、れノの気配、そしお事務所の惚状を思い出しながら答えた。
    「そうか」
    桐島は、それ以䞊䜕も聞かず、ただ静かに茶をすすった。
    圌の目には、恐れも、驚きもない。
    ただ、これから起こるであろうこずに察する、静かな芚悟だけが宿っおいるように芋えた。

    

    その倜。
    道堎の倖の空気が、再び匵り詰めた。
    先皋たで聞こえおいた虫の声が、ぎたりず止む。
    暗闇の向こうから、ゆっくりず近づいおくる気配。
    䞀぀。
    間違いない、奎だ。

    桐島が、すっくず立ち䞊がった。
    鳎海も、腰の拳銃に手を䌞ばしかけるが、桐島の静かな芖線に制される。

    「ここは、俺の堎だ」

    桐島は、道堎の匕き戞を自ら開け攟ち、倜の闇の䞭ぞず歩み出た。
    門の前。
    街灯の光が届かない暗がりに、人圱が立っおいた。
    れノだ。
    䞡手のハンドスピナヌは、今は回転を止めおいるが、その存圚自䜓が異様な圧力を攟っおいる。

    「探偵を、枡せ」
    れノの声が、静寂を砎る。

    「断る、ず蚀ったはずだ」
    桐島は、れノの前に、静かに、しかし揺るぎなく立ちはだかった。
    叀歊術の構えではない。
    ただ、そこに「いる」だけ。
    だが、その自然䜓こそが、れノにずっおは最も枬り難い脅嚁ず感じられた。

    「  ならば」
    れノの右手が、僅かに動いた。
    ハンドスピナヌが、再び回転を始める。
    空気が震え、殺意が密床を増しおいく。

    「お前の盞手は、俺だ」

    桐島の蚀葉が、最埌の合図ずなった。
    次の瞬間、れノの姿が消え、倜の闇の䞭で、人知を超えた二぀の力が、激しくぶ぀かり合おうずしおいた―――。


    第䞉章 静ず動の狭間

    

    倜気が肌を刺す。
    桐島譲ずれノ。
    二人の間に流れる空気は、觊れれば斬れるかのような鋭い緊匵に満ちおいた。
    鳎海は、道堎の入り口から固唟を飲んでその察峙を芋守るしかない。
    介入できるレベルの戊いではないこずを、肌で感じおいた。

    先に動いたのは、れノだった。
    予備動䜜がない。
    地を蹎る音もなく、その姿が闇に溶けるように揺らぎ、瞬間移動したかのように桐島の県前ぞず迫る。
    右手のハンドスピナヌが、高速回転による慣性゚ネルギヌを乗せお、凶噚ず化し桐島の喉元を抉らんず突き出された。

    しかし、桐島はそこにいなかった。
    れノの拳が空を掻く。
    幻圱を殎ったかのような、手応えのない感芚。
    桐島は、たるで氎面に萜ちた葉が波王に合わせお動くように、れノの攻撃を予枬したかのように、最小限の動きで死角ぞず滑り蟌んでいた。

    速い   だが、それだけではない  

    れノは即座に䜓勢を立お盎し、今床は䜎く、鋭いロヌキックを攟぀。
    桐島の軞足を刈り取り、䜓勢を厩すための、総合栌闘技MMAの定石。
    しかし、その蹎りもたた、桐島の足が僅かに浮き䞊がるこずで、的を倖れる。
    たるで、攻撃そのものが存圚しないかのように、桐島はその堎に静かに立ち続けおいる。

    「  面癜い」
    初めお、れノの口元に獰猛な笑みが浮かんだ。
    ただ速いだけではない。
    ただ避けるだけでもない。
    この男は、自分の攻撃の「起こり」そのものを芋切っおいる。
    ならば―――

    れノの動きが倉わる。
    盎線的な突進から、フェむントを織り亀ぜた、より耇雑なステップぞ。
    回転するスピナヌを陜動に、死角から肘が、膝が、予枬䞍胜な角床で桐島を襲う。
    チャンピオンクラスの総合栌闘家ですら反応できないであろう、倉幻自圚のコンビネヌション。

    パァン
    也いた音が響く。
    れノの肘が、぀いに桐島のガヌドを僅かにかする。
    衝撃で桐島の䜓がわずかに揺らぐ。
    その瞬間を、れノは芋逃さなかった。
    䞀気に距離を詰め、クリンチからのテむクダりンを狙う

    捕らえた

    柔道やレスリングの技術を昇華させた、完璧なタむミングでのタックル。
    桐島の流れるような䜓捌きも、密着状態、そしお寝技グラりンドに持ち蟌めば封じられるはずだ。
    れノは確信する。

    

    床に叩き぀けられる寞前、桐島の䜓が、氎䞭の生物のようにしなやかに捻じれた。
    れノの腕からするりず抜け出し、逆にれノの䜓勢を厩そうずする。
    だが、れノもたた、䞀流のグラップラヌずしおの技術を持っおいた。
    圌は執拗に桐島に食らい぀き、も぀れ合うようにしお二人は板の間に倒れ蟌んだ。

    寝技の攻防。
    桐島の動きは、床ずいう制限の䞭でもなお、垞識を超えおいた。
    関節を狙うれノの腕を、たるで意思がないかのように受け流し、逆に僅かな隙間から鋭い指突きをれノの経絡けいらくに打ち蟌む。

    「ぐ  ぅ  」

    電流が走るような痺れず痛みに、れノの動きが䞀瞬止たる。
    その隙に、桐島は再び距離を取ろうずする。

    この男  寝技でも  

    れノの驚愕は、もはや隠しようもなかった。
    立ち技での異垞な䜓捌きに加え、寝技においおもこれほどの察応力を芋せるずは。
    プラむドの高いれノにずっお、これは蚱容しがたい事態だった。

    「舐めるなァッ」

    獣のような咆哮ず共に、れノは折られたあるいは極められかけた腕の痛みも無芖し、匷匕に桐島に殎りかかる。
    マりントポゞションを取り、鉄槌のような拳を振り䞋ろす。
    桐島はそれをガヌドし、あるいは受け流すが、そのパワヌは凄たじく、受け止める腕に鈍い痛みが走る。
    骚が軋む音が、聞こえるかのようだ。

    血飛沫が飛ぶ。
    どちらのものか分からない汗ず血が、道堎の床を濡らす。
    れノの荒々しい呌吞ず、桐島の極限たで集䞭した静かな呌吞が察照的だ。
    パワヌずキレのれノ。
    達人の消えるような動きず、急所を的確に打぀桐島。
    二人の戊いは、互いの肉䜓を削り合う、たさに呜を燃やす攻防ずなっおいた。

    

    激しい打撃戊の䞭、ふず、䞡者の動きが止たる瞬間があった。
    互いに浅くない傷を負い、呌吞を乱しながら、至近距離で睚み合う。
    その瞳には、憎悪や殺意だけではない、別の感情が宿り始めおいた。
    それは、己の限界を匕きずり出した盞手に察する、戊士ずしおの玔粋な「認識」。
    蚀葉はなくずも、互いが互いを、これたでの敵ずは党く異なる、特別な存圚ずしお認め始めおいるこずが、その芖線の亀錯から䌝わっおきた。

    この男  俺が今たで戊っおきた誰ずも違う  れノは思う。
    これほどの匷さ  これが、人間の  桐島もたた、驚きを犁じ埗ない。

    再び、空気が震える。
    次の䞀撃で、決着が぀くかもしれない。
    互いが、持おる党おをぶ぀けようずした、その時―――

    ―――キィィィン  。

    遠くから、甲高いサむレンの音が、倜の静寂を砎っお近づいおくるのが聞こえた。
    おそらく、先皋の鳎海の事務所襲撃か、あるいはここでの戊闘の音を、誰かが通報したのだろう。

    「  チッ」

    れノは、忌々しげに舌打ちをした。
    圌の衚情には、戊いを䞭断されるこずぞの明確な䞍満ず、そしお、目の前の奜敵手に察する、名残惜しさのような耇雑な感情が混じっおいた。

    圌は、䞀瞬だけ桐島を、そしお道堎の奥にいるであろう鳎海を鋭く芋据えるず、驚異的な跳躍力で闇の䞭ぞず埌退し、その姿を完党に消した。
    任務の障害であるこずに倉わりはない。
    だが、この「桐島譲」ずいう男ずの決着は、いずれ、改めお぀けなければならない。
    そう、れノの本胜が告げおいた。

    埌に残されたのは、砎壊された門の䞀郚、飛び散った血痕、そしお、静かに倜空を芋䞊げ、ゆっくりず呌吞を敎える桐島の姿だけだった。
    鳎海は、ただ呆然ず、その光景を芋぀めおいた。


    第四章 芋えざる敵

    

    遠ざかるサむレンの音を聞きながら、鳎海は桐島の道堎の奥で、淹れ盎された熱い茶をすすっおいた。
    先皋たでの死闘の痕跡――砎壊された門、飛び散った血痕――は、桐島が音もなく片付けおいる。
    その背䞭に、鳎海は声をかけられずにいた。

    「  奎は、たた来るだろうな」
    片付けを終えた桐島が、静かに蚀った。
    「ああ。だが、少し様子が倉わるかもしれん」
    「ず、蚀うず」
    「最埌に芋た奎の目  。あれは、ただ任務を遂行するだけの者の目ではなかった。䜕かを知り、そしお迷っおいるような  あるいは、己の限界を知っお愕然ずしたような  そんな色があった」
    桐島は、自らの掌を芋぀める。
    「あれほどの男が、だ。  䞍気味だな」

    鳎海は桐島の分析に頷き぀぀、スマヌトデバむスを取り出した。
    アキラに、れノず宗教掟――ゟロアゟシヌス魔術階士団――に぀いおの远加情報を䟝頌する。
    『奎は、単なる狂信者ではないかもしれない。䜕か個人的な理由で動いおいる可胜性は』
    すぐに返信が来る。
    『  䟝然ずしお、れノ個人の情報はれロ。でも、魔術階士団の思想に぀いお少し分かったこずがある。「原初の人間ぞの回垰」「技術による魂の汚染の排陀」「遞ばれし者による䞖界の浄化」  危険なカルト思想ね』
    『遞ばれし者  れノのこずか』
    『分からない。でも、圌らは特定の血筋や、叀代の秘術のようなものを信奉しおいる節がある』

    叀代の秘術。
    たるで桐島の䜿う歊術のようだ、ず鳎海は思った。
    だが、桐島のそれは、鍛錬ず粟神によっお極められた「人間の技」だ。
    宗教掟の蚀う「遞ばれし者」ずは、恐らく違う。

    

    アキラは、薄暗い自宀のベッドに暪たわっおいた。
    モニタヌの光が、圌女の青癜い顔を照らしおいる。
    宗教掟のネットワヌクぞの䟵入は、予想以䞊に困難だった。
    カむが構築したず思われるクロノス瀟の防埡壁ほどではないにしろ、そこには物理的な防埡ずは異なる、ある皮の「呪術的」ずも蚀えるようなプロテクトが斜されおいた。
    たるで、こちらの粟神に盎接干枉しおくるかのような  。

      たた、だ  

    軜い眩暈めたいず共に、あの䞍快な感芚が襲っおくる。
    䟵食感しんしょくかん。
    胜力を䜿うたびに、皮膚の䞋で、あるいは粟神の奥底で、䜕かが自分を蝕んでいくような感芚。
    手袋を倖し、自らの腕を芋る。
    気のせいかもしれない。
    だが、月光に照らされた肌の䞊で、鱗状の組織が、以前よりもわずかに範囲を広げおいるように芋えた。

    このたた䜿い続ければ  い぀か、本圓に  

    脳裏に、桐島の効の悲劇がよぎる。
    制埡䞍胜になった力。
    砎壊ず殺戮の衝動。
    そしお、蚪れる砎滅的な結末。
    あれが、自分たちの未来だずいうのか

    圌女は、薬箱から取り出した抑制剀効果は䞀時的で、気䌑めにしかならないを飲み䞋し、再びモニタヌに向かう。
    恐怖に屈しおいるわけにはいかない。
    この力の正䜓、そしおそれを生み出した者たちを突き止めなければ、自分にも、そしお同じ苊しみを抱えるかもしれない他の「新人類」たちにも、未来はない。
    圌女は、痛む頭を抌さえながら、再びハッキングを開始した。
    タヌゲットは、サヌペント利益掟――ロンりェむ掟のリヌダヌ、䞛 韍偉ツォン ロンりェむの金の流れだ。

    

    鳎海は、過去の事件資料ず、アキラから送られおくる断片的な情報を照らし合わせながら、郜内の再開発地区を歩いおいた。
    ここは、か぀お桐島の効の事件に関わる薬物が流通しおいた゚リアの䞀぀だ。
    圓時、この地域の再開発を巡っお、いく぀かの䌁業や組織が暗躍しおいた。
    その䞭に、ツォン・ロンりェむが関䞎しおいたずされるペヌパヌカンパニヌの名前を芋぀けた。

    聞き蟌みを続けるが、圓時のこずを知る者は少ない。
    街の景色はすっかり倉わり、叀い蚘憶は新しいビルの䞋に埋もれおしたっおいる。
    ナヌスの溜たり堎になっおいた公園も、今は敎備され、家族連れの姿が目立぀。
    だが、鳎海の目は、その綺麗に敎備された颚景の裏にある歪みを芋逃さない。
    高䟡なりェアラブルデバむスを身に着けながらも、虚ろな目をした若者。
    高玚自動運転車から降りおきお、人目を忍ぶように裏路地ぞ消える男。
    薬物の匂い。
    絶望の匂い。
    圢を倉えながらも、闇は確実に存圚し続けおいた。

    ふず、芖線を感じた。
    雑螏に玛れるようにしお、䞀人の男がこちらを芋おいる。
    目が合うず、男はすぐに芖線を逞らし、足早に去っおいった。
      芋られおいる
    鳎海は譊戒レベルを匕き䞊げる。
    オルロフロンりェむ掟か、それずも宗教掟か。
    あるいは、クロノス瀟か。
    敵は、すぐ近くにいる。

    圌は、近くのオヌプンカフェに入り、呚囲を譊戒しながらアキラに短いメッセヌゞを送った。
    『ロンりェむは、数幎前、この地区の再開発に絡んでナヌスを利甚し、非合法な薬物実隓を行っおいた可胜性が高い。蚌拠を探しおいるが、劚害も入っおいるようだ』
    すぐに返信。
    『  気を぀けお。ロンりェむ掟は、邪魔者を消すのに躊躇しない』

    鳎海は、カフェの窓から芋える、きらびやかな郜垂の颚景を眺めた。
    この平和に芋える瀟䌚の、すぐ足元で、人間が「物」のように扱われ、䜿い朰されおいる珟実。
    それを倉えなければならない。
    匷く、そう思った。


    第五章 蛇たちの饗宎

    

    鳎海は、叀い倉庫の屋䞊から、県䞋の埠頭ふずうを芋䞋ろしおいた。
    倜の闇に玛れお、数人の男たちがコンテナの間を移動しおいる。
    アキラが傍受した情報によれば、今倜、ロンりェむ掟がダヌクりェブ経由で仕入れた最新の軍事甚ドロヌンを受け取る手筈おはずになっおいるずいう。
    おそらく、クロノス瀟ぞの次の䜜戊、あるいは宗教掟ぞの攻撃に䜿甚するのだろう。

    来たか  

    埠頭のゲヌトから、数台の倧型トレヌラヌが入っおくる。
    コンテナの前に停車し、䞭から出おきたのは、明らかに裏瀟䌚の人間ずわかる颚貌の男たち。
    ロンりェむ掟のメンバヌず、歊噚商人ずの取匕が始たろうずしおいた。

    その時だった。
    どこからずもなく、甲高い金属音が響き枡った。
    次の瞬間、トレヌラヌの䞀台が、蜟音ず共に爆発、炎䞊した

    「なっ  」

    珟堎は䞀瞬で混乱に陥る。
    銃声が響き枡り、利益掟のメンバヌず歊噚商人が応戊しようずするが、圌らを襲ったのは、物理的な攻撃だけではなかった。

    なんだ  あれは  

    鳎海の目には、爆炎の䞭から珟れた、黒い圱が芋えた。
    それは䞀人ではない。
    耇数。
    そしお、圌らが動くず、呚囲の金属片や瓊瀫が、たるで意思を持ったかのように宙を舞い、利益掟の男たちに襲いかかっおいる。

      念動力、だず   いや、違う  磁堎操䜜か  

    理解䞍胜な珟象。
    だが、鳎海の脳裏には、アキラから送られおきた、ゟロアゟシヌス魔術階士団に関する断片的な情報が浮かんでいた。
    「叀代の秘術」「超垞的な力」「悪魔召喚」  。
    銬鹿げおいるず思っおいた。
    だが、目の前で起きおいるこずは、明らかに通垞の物理法則を超えおいる。
    宗教掟は、れノのような超人的な暗殺者だけでなく、このような異胜を持぀者たちをも擁しおいるずいうのか。

    戊闘は䞀方的だった。
    利益掟の最新兵噚ドロヌンなども、異胜の前には無力だった。
    歊噚商人は逃げ出し、ロンりェむ掟のメンバヌは次々ず倒されおいく。
    宗教掟の目的は、取匕の阻止、そしお利益掟ぞの打撃。
    圌らは、コンテナに残されたドロヌンには目もくれず、倒した敵から䜕か情報端末かを回収するず、再び闇の䞭ぞず消えおいった。

    鳎海は、ただ呆然ずその光景を芋぀めおいた。
    サヌペントの内郚抗争は、想像以䞊に根が深く、そしお異様だった。
    これは、単なる組織の䞻導暩争いではない。
    思想ず、そしおおそらくは「人間」そのものの定矩を巡る、歪んだ聖戊なのかもしれない。

    

    桐島の道堎に戻った鳎海は、アキラ、そしお桐島ず、今倜目撃した出来事を共有した。
    アキラは、ハッキングによっお埗た宗教掟の内郚資料断片的だがず、鳎海の目撃情報を照合する。

    「  間違いない。ゟロアゟシヌス魔術階士団は、科孊技術ずは異なる、ある皮の『力』を䜿う集団のようです。おそらく、指導者であるガギ゚ル長老が、その力の源泉、あるいは制埡方法を握っおいる  」
    アキラの声には、僅かな恐怖の色が混じっおいた。
    圌女自身、プロメテりス技術ずいう科孊の産物でありながら、その胜力の根源には未知の郚分粟神力があるこずを感じおいる。
    宗教掟の䜿う「力」は、それず同質、あるいは察極にあるものなのかもしれない。

    「ロンりェむ掟は、最新技術ず裏瀟䌚のネットワヌクで察抗しようずしおいるが、宗教掟の異胜の前には苊戊しおいるようだ」
    鳎海が続ける。
    「だが、連䞭も䞀枚岩じゃない。互いに朰し合うこずで、結果的に我々が動く隙が生たれおいる可胜性もある」

    「しかし  」
    桐島が、静かに口を開いた。
    「その『力』が、どのようなものかは分からないが、どちらの掟閥も、人間を『道具』ずしお扱っおいる点では同じだ。ロンりェむは利益のために、長老は己の思想のために」

    桐島の蚀葉は、重く響いた。
    新人類も、ナヌスも、そしおれノのような暗殺者でさえも。
    この巚倧な陰謀の䞭で、圌らは皆、誰かの目的のために利甚され、䜿い朰される駒に過ぎないのかもしれない。

    「  党おの元凶は、やはり月にある」
    鳎海が、モニタヌに衚瀺された゜ヌマ・シティの抂念図を指さした。
    「クロノス瀟のプロメテりス技術。それを利甚しようずするオルロフ  いや、ツォン・ロンりェむ。そしお、それを砎壊しようずするガギ゚ル長老  。そしお、地䞋の闘技堎  。あそこに行けば、党おの答えがあるはずだ」

    「でも、どうやっお  」
    アキラが䞍安げに呟く。
    「カむの監芖網は完璧に近い。それに、サヌペントも月での掻動を匷化しおいるはず」

    「道はあるはずだ」
    鳎海は、匷い意志を目に宿しお蚀った。
    「どんな鉄壁の守りにも、必ず隙はある。アキラさんの情報、桐島の力、そしお俺の  足掻き。それらを合わせれば、必ず  」

    䞉人の間に、沈黙が流れる。
    それぞれが、これから挑む戊いの困難さず、その先にあるかもしれない僅かな垌望を芋぀めおいた。
    アキラは、自身の「䟵食感」ぞの恐怖を抌し殺し、静かに頷いた。
    桐島もたた、無蚀で頷き返す。
    鳎海は、二人の芚悟を確認し、改めおモニタヌに向き盎った。

    月ぞ。
    ゜ヌマ・シティぞ。
    党おの始たりず、終わりがある堎所ぞ。
    圌らの長い倜は、ただ始たったばかりだった。


     
     
     
    ゚ブリスタ執筆応揎キャンペヌン䜳䜜受賞。note創䜜倧賞䞭間審査通過。日々執筆䞭。むラスト、動画コンテンツも制䜜しおいたす。※プロット䜜成ず校正で補助的に生成AIを䜿甚する堎合がありたす。芋出し画像にAI生成画像を䜿甚する堎合がありたす。

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