【山田】半分本当で半分嘘
「山田」という名字。
由来なんて、調べなくてもわかる。
日本の緑豊かな風景「山」と「田んぼ」。
きっと最初に「山田」と名付けられた人は、
山にも田んぼにも囲まれた地域の人だったのだろう。
多分ね。
しかし、私の生まれた街は、「山」そして「海」の街。
海を背にすると広く山が望める。
幼い頃から就職して一人暮らしをするまで住んでいた地域は静かな住宅街だったけど、
田んぼはなかった。
そう。
言うならば、「山田」の「山」は本当だけれど
「田」は嘘である。
半分本当で半分嘘。
日本に80万人くらい存在するという「山田」。
私は、半分本当で半分嘘の「山田」である。
一方。
父親の実家は、長閑な田舎にあった。
田舎の中でも、
父親の実家は田舎の中の田舎。
どのくらい田舎かと言うと、最寄りのコンビニもスーパーも車を使わないと厳しい。
一度、Googleマップで父の実家まで辿り着こうと試みたことがあったのだが、
失敗。
距離で言うと数百メートル手前、家へ続く最後の分かれ道のところで、Googleマップは進めなくなった。
そのくらい、田舎。
幼い頃、父親の実家に帰省するたび、
自分の実家での生活では体験できないことがたくさんできた。
祖父が家の裏にある畑で作った野菜を食べたり。
夏はスイカを川の冷たい水で冷やして食べる。
そして夜は家の前で花火をしたりして。
父の実家の片隣には一軒おうちがあったけれど、
もう片隣には家はなくて、
山道へ向かう道なのか、草むらが遠く続いていた。
昔一度いとこ達とそこで肝試しをしたことを覚えている。
特に脅かすような仕掛けなどもなく、ただただ夜の砂利道を歩くだけだったけれど
地元の小さな遊園地にあったお化け屋敷よりも、格段に怖かった。
冬はたくさん積もった雪。
正直、雪の降る時期に父親の実家に帰ったことは数少なかったのだが。
幼い頃、家の裏でそりすべりをしたことがある。
これも、雪のほとんど降らない地域で育った私には新鮮であった。
そして、
日本有数の米所である。
父親の育った家の前にも田んぼがあった。
大きな田んぼではなかったので、
「田」の字、と言うより「日」の字の田んぼがあった。
もちろん、そんな田舎なので山は家からも見える。
そう。
言うならば、「山田」の「山」も本当で
「田」も本当である。
日本に80万人くらい存在するという「山田」。
私の父親は、正真正銘の「山田」。
むしろ、大学で地元を出た父親よりも、
この地で生まれ育ち80年以上この家で生活し続けている祖父の方が
「純山田」。
「筋金入りの山田」である。
そんなくだらないことを考えていたのだが、
数年前、久しぶりに祖父に会いに田舎に帰ったときのこと。
中学生頃までは年に一度は祖父母に会いに行けていたが、
自分が大人になるにつれ、年々頻度は減っていき、
そして流行り病の影響もあり、5年ぶりに父の実家に帰ることができた。
すると。
家の前にあった田んぼが田んぼではなくなっていた。
田んぼの持ち主が、高齢になり手放してしまったらしい。
池になっていた。
「筋金入りの山田」剥奪である。
「山」は相変わらず家の近く存在しているので、
「山」は本当で、「田」は嘘。
半分本当で半分嘘。