
柴犬まっちゃの おはなしのぉと❶
大好きなおばあさん
うべ野という森に、一匹の柴犬が住んでいました。柴犬の名前は、ももといいます。
ももは、3歳になるまで、おばあさんと一緒に暮らしていました。
おばあさんは、ももをとてもかわいがり、大切に育ててくれました。
ところが1年前、おばあさんは、100歳のお誕生日ケーキを食べた後に、亡くなってしまいました。ももはひとりぼっちになったのです。
でも、大好きなおばあさんのことを思い出すたびに、ももは、とても幸せな気持ちになりました。
長い冬の間に
森に、うっすらと初雪が積もった朝のことです。ももは、いつものように毛布にくるまって、なつかしいおばあさんのにおいをかいでいました。
おなかがすいたので、ジャムバターのトーストを焼いて食べました。そして、おいしいコーヒーをわかして飲みました。
「こんな寒い日は、本を読むのがいちばんね」
ももは、おばあさんのまねをして、つぶやきました。
おばあさんの本棚には、おもしろそうな本がならんでいます。
ももは、暖炉の前にゆったりと腰をかけ、お気に入りのおはなしを読みました。
それは、おばあさんが読んでくれた絵本です。ももは、おばあさんのやさしい声を思い出しました。
長い冬の間に、ももは、本棚の本を全部読んでしまいました。
「森に図書室があったら、どんなにすてきかしら…」
と、ももは考えました。
そして、おばあさんのお部屋を図書室にして、【おはなしのぉと】という看板を作り、春が来るのを楽しみに待ちました。
春風とお客さま
日ざしがあたたかくなりました。
図書室のうわさは、春風にのって、森のみんなに伝わりました。
ある日、ももがお散歩をしていると、
ピッピとチッチという、ふたごのひよこに出会いました。
「ぼくたち、ちょうど、図書室に行くところだよ」
と、ピッピが言いました。
「どっちが先につくか、きょう走しているんだ」
と、チッチが言いました。
ピッピとチッチは【おはなしのぉと】の初めてのお客さまでした。
ももは嬉しくなって、スキップしながら、ふたりを案内しました。
そして、ほかほかのごはんをたいて、おにぎりをごちそうしました。
ピッピとチッチは、おにぎりをパクパク食べながら、保育園での出来事を、ももに話してくれました。
「コッコ先生は、とてもきびしい先生なんだ」と、ピッピが言いました。
「列からはみ出した子どもを、すぐに家に帰すんだよ」
と、チッチが言いました。
それでふたりは、こんな昼間に、森を歩いていたのです。
『ぼくらの自由の森に、ぼくらのすてきな図書室ができた』
と歌いながら、ふたりは、にっこりと笑いました。
そして、お日さまがしずむまで絵本を読んで、かけ足で家に戻っていきました。
夏の木陰で
【おはなしのぉと】の庭には、トネリコという木があります。夏になると、緑の葉をいっぱいに広げます。
ももは、トネリコの涼しい木陰で、お昼寝をしていました。
そこに、お母さんうさぎがやって来ました。
「おやつにクッキーを焼いたのよ」
と、お母さんうさぎが言いました。
「冷たいミルクを入れましょう」
と、ももが言いました。
お母さんうさぎは、こまったことがあると、本を読みにやって来ます。
今日のこまったことは、学校の先生からのお手紙でした。
お手紙は、毎日届きます。
学校で、子うさぎたちが、どんないたずらをしたかを知らせる内容です。
「子うさぎたちを、ちゃんとしつけてくださいと、しかられているようで、とても悲しい気持ちになるわ…」
と、お母さんうさぎは言いました。
お母さんうさぎは、しょんぼりとして、元気がありませんでした。
ももは、お母さんうさぎの横で、じっと耳を傾けて、背中をそっとなでました。
お母さんうさぎは、寝る前に子どもたちに読んであげる本を、3冊借りて帰りました。
「このお母さんうさぎなら大丈夫。やんちゃな子うさぎたちも安心ね」
と、ももは、心の中でつぶやきました。
静かな夜
うべ野の森が、赤や黄いろに色づきました。
ももは、森の小みちに、球根を植えました。
夕食は、栄養たっぷりの特製スープです。
おなべがコトコトと音をたてています。
秋の静かな夜でした。
子うさぎたちは、お母さんうさぎと一緒に、すやすやと眠っていることでしょう。
ピッピとチッチは、クリスマスのプレゼントをおねだりしているかもしれませんね。
ももは、日記を書きながら、
【おはなしのぉと】まで続く、花の小みちを思い浮かべました。
かたい土をほった手も、すっかりあたたかくなりました。
おしまい。