九十九里の郷土料理:入梅イワシのたたき(なめろう)

千葉県の外房では、この時期に漁獲されるマイワシのことを入梅イワシという。

入梅(にゅうばい)とは、一般的な日本語としては「梅雨入り」のことだが、このあたりの方言的な用法としては「梅雨の時期そのもの」のことを「入梅」と呼んだりする。今でも年配の人に「梅雨(つゆ)」と言っても、いまいち通じなかったりすることがある。逆に「入梅明け(にゅうばいあけ、要は梅雨明けのこと)」みたいな奇妙な言葉遣いも現役だ。

「入梅イワシ」というのは季節を意味するわけだが、漢字だけ見ると梅が入ったイワシのように思えてしまう。もちろん梅干しと一緒に煮付けにしたり、梅肉を刺身に添えたりすれば美味には違いないだろうが。


【材料の調達】

さて、今回はそんな入梅イワシを買ってきた。今朝揚がったばかりのマイワシが約1キロ(と言っていたが、絶対もっとあったはず)、40尾くらい入って500円という漁港プライスだ(実際はたっぷりの氷と一緒に袋に入れてくれる)。

買った場所は漁協の直売所 おさかな新鮮大使。最初は(すぐ近くにある)海の駅九十九里で買おうとしていたのだが、まだ入荷していないとのことなので。

店員さん(漁師さんとその奥さんっぽい)曰く、生で食べても大丈夫とは言い切れないから自己責任で、みたいな言い方だった(アニサキスが出るとかで)のだが、たたきにすると伝えたらかなり前向きな反応を返してくれた。おそらく、これこそが経験則に裏打ちされた調理法なのだろう。

【準備】

さて、たたきをするにあたって最低限必要なものを説明する。

【道具】

包丁(なるべく大きくて重いやつ、セラミック製は非推奨)
まな板(なるべく大きくて分厚いやつ、プラスチック製は非推奨)
蓋付きの平らなガラス容器(漬物用などの、耐熱・耐酸のもの)

【調味料・食材】

酢(なにがなんでも必須! 純粋な米酢が望ましい)
味噌(ほぼ必須、出汁などが入っていない普通の米味噌を想定)

薬味類(ほぼマスト)
・大葉(青じそ)
・ネギ(一般的には長ネギの白いところ)
・しょうが

薬味類(オプション)
・にんにく
・唐辛子(新鮮な青唐を推奨)
・みょうが
・その他ハーブ類(バジルやディル、フェンネルなど洋物もいける)

【調理】

準備段階として、まな板はなるべく安定したテーブルの上に置き、汚れ対策として下には適当な紙(古新聞など、今回はカレンダーを使用)を敷いておくとよい。

まずエラのあたりで包丁で頭を落とし、指で腹を割いて(注:ここでは包丁は使わない)内蔵を取り出し、皮を剥く。一連の工程は流水で洗いながら行うとよい。

ちなみに指がかなり生臭くなるが、酸(酢やクエン酸など)で洗うと臭いが落ちやすい。トリメチルアミンを酸で中和するわけだ。

皮を剥く時は頭の側から尾のほうへ。新鮮ならつるっと剥けるはず。イワシの身とまな板の水気はキッチンタオルで拭き取っておこう。

皮を剥いたイワシは尻尾を除いて中骨ごとぶつ切りにする。魚は骨の周りの身が一番美味なのである。以下の写真は薬味と一緒に並べたもの。

あとは(薬味も適当にぶつ切りにしてから)ひたすら叩いて混ぜていく。まずは横一列にトントン叩いたら練り合わせて、今度は縦一列にトントン叩く。これをひたすら繰り返す。

この段階では、まだまだ半分にも満たない

ある程度叩いたところで味噌を加える。上記の分量なら大さじ1程度が妥当。まあこのあたりは味を見ながら好みで調整しても。

そして味噌を加えたら再び同様にたたきまくる。茶色い味噌が全体に馴染むまで。薬味類が原型を無くすまで。

満足いくまで叩いたら、容器に入れる。できれば熱湯消毒しておいたほうが望ましい。厚さ1センチ程度に敷き詰めたら、ひたひたになるまで酢を加える。

この酢が重要。必ず、三杯酢やカンタン酢などではなく純粋な酢、それも可能な限り米酢を使うこと。砂糖や味の素で調味しても構わないが、できれば食べる段階で行うべきである(後述)。

酢を注いだら、スプーンや包丁を使って格子状の切れ込みを入れ、酢が中まで浸透できるようにする。あくまでも酢は浸すものであり、混ぜ込んではいけない。

このまま冷蔵庫で最低3時間ほど寝かせれば食べ頃である。

たくさんあるので、今回は洋風バージョンも作ってみた。バジル・にんにく・青唐辛子といっしょに叩く!

【食べ方いろいろ】

基本的にはそのまま食べる。好みの問題だが、味噌が効いているので醤油はいらないと思う。

酢の酸味がきついと感じたら、砂糖や味の素を少しだけふりかけるとマイルドになる。

【さんが焼き】

なめろうを焼いたもの。店で食べるとホタテの貝殻に詰めて網焼きしたりするが、家庭で作るなら油を引いたフライパンで焼けば十分だろう。ごま油が香ばしくておすすめだ。

これは焼いたあと、ちらし寿司(すし太郎)の上にトッピングしたもの。

そのまま焼くと崩れやすいので、つなぎとして卵を混ぜておくとハンバーグのようにきれいに仕上がる。これは先日いただいたジャンボししとうとともに。

手間を掛けるなら、白身だけをつなぎにして、黄身は生のまま仕上げにトッピングしたりすると見栄えや風味がよい。

ご飯に乗せた「さんが焼き丼」

【カプレーゼ風】

バジル・にんにく入りの洋風バージョンの食べ方の例。寄せ豆腐・ミニトマト、ついでにバジルの花とともに盛り付ける。もちろん豆腐はチーズ(モッツァレラ等)にしてもよいし、仕上げに粉チーズやオリーブオイルをかけてもよさそうだ。

ちなみに寄せ豆腐は大網の「緑の風」で購入した店内製造のもの。

【パスタとともに】

ナス・トマト(黄色いやつ)とともに炒め合わせたところにパスタ(今回はペンネだが、リングイネなどのロングパスタのほうがいいと思う)を和える。味付けとして、醤油を少々かけた。

【コラム:なめろうの酢漬けについて】

この酢で漬けるというやり方は、一般的な店舗(食堂にせよ持ち帰りの惣菜にせよ)ではまず見かけないはずである。酢漬けにすることで骨を柔らかくしたり保存性を良くする効果があるのだが、そもそも客に出すようななめろうは、中骨を取り除くのが一般的なのである。

要は、店で出しているのはそのままでも刺身として食べられる魚をわざわざ叩いている贅沢品というわけだ。これはこれで美味なのは間違いないが、私に言わせれば本来のなめろうとは違うと思う。

もともとなめろうとは、売り物にならないような雑魚を、漁師さんが船の上で、あるいは地引き網のおこぼれを持ち帰った家庭ごとに叩いて骨ごと食べられるようにしたというのが起源であるはずだ(特に家庭では、おそらく生で食べるよりも、つみれ汁や「さんが焼き」にすることが多かったんじゃないかと推測しているが)。いずれにせよそもそも小さい魚なので、三枚におろしたりしたら可食部はほとんど残らない。

もっとも逆に、骨ごと叩いて食べられるようなサイズ、しかも生食用のイワシやアジは、産地以外ではそうそう手に入らないことも想像でき、地元の家庭料理以外としては定着しようがないというのも理解できる。

また、酢に数時間浸けた身は白くヤケて見栄えが悪いのも確かだ。店舗でも酢に浸したなめろうを出すところはあるようだが、せいぜい提供する直前に氷で割った三杯酢をかけたりする程度のところが多い模様である。

現代の「なめろう」がよそ行きの料理として洗練されているのは、それはそれで悪くないことだとは思うのだが、機会があればぜひ「中骨ごと叩いて酢に漬ける」郷土料理としてのなめろうを、ぜひご自身の手で作って賞味していただきたいところである。

【おまけ:海の駅九十九里にて】

ここには青いポストがある。ただの飾りではなく、ちゃんと郵便ポストとして現役稼働中!

オリキャラ「清瀬こむぎ」のバーチャルぬいぐるみです

こちらも「カワウソくんを追いかけろ」企画に使えるので便乗しておきます。本来は、ここで買ったイワシを調理という流れにするつもりだったのですが。