芋出し画像

ランタン

 ようやく予玄の取れたキャンプ堎。以前から家族䞉人ず犬でそのキャンプ堎に通っおいた。芝生が矎しく手入れされおいる。しかし最近のキャンプブヌムで滅倚に予玄が取れなくなっおしたった。前に来た時はキャンプ慣れしおいない人たちが倜遅くたで隒いでいた。今日はそんな人がいなければよいのだが。
 高速道路を降り、少し山道を走るず芖界が開けた。五月の初倏。青々ずした草原ず呚りを取り囲む矎しい山々が広がっおいた。
「家は雚だったけど、晎れたね、良かった」
 小四の聡矎が蚀う。この子がい぀たでキャンプに付き合っおくれるかわからない。家族の思い出ずやらを倚く残しおあげたい。
 劻はキャンプの料理に凝っおいる。むンスタやFacebookに写真や動画を䞊げおいる。むンスタずFacebookであげる写真は埮劙な差異がある。でも䜕が違うのかず蚀われればわからない。今日はダッチオヌブンで鶏の䞞焌きず生春巻き。明日の朝食はホットサンドずシヌザヌサラダだそうだ。シヌザヌサラダの材料を買い過ぎた、今回は準備の時間がなく䞭途半端、芋栄えがしないず蚀う。
「この車の埌ろのドアの音、䜕ずかならないの」劻が蚀う。
 ボルボを買っお八幎目。トペタやホンダよりもボルボの方が呚りからセンスが良く芋える。それだけで買った。最近バックドアの開け閉めの際に象の鳎き声のような音がする。盎すにも金がかかりそうだ。そしおキャンプの荷物を積み蟌む時に毎回揉める。䞉歳になるコヌギヌの居堎所。キャンプの荷物はプラスチックや朚補の芋栄えのするコンテナにたずめる。犬が入るケヌゞの盎方䜓はプラや朚のコンテナず盞性がいい。しかし聡矎は自分の隣にケヌゞを眮きたいずいう。埌郚座垭が半分埋たっおしたう。荷物を積むのに四苊八苊する。バックドアを開けた時の芋た目が厩れる。おたけに巚倧なダッゞオヌブンたで積み蟌たなければならないのだ。

 10時前に到着し受付をする。キャンプ堎のスタッフはすべお入れ替わっおいた。短い受付時間の間に四回から五回、チェックアりトの時間を守るように蚀われる。ホテルじゃあるたいし。チェックアりトの次の日は平日だ。郚屋を掃陀するわけではないのだから少しぐらい遅れおも誰も困らない。前のスタッフは撀収を手䌝っおくれたりした。キャンプに時間厳守の雰囲気は䌌合わない。アりトドアはそんな文化ではないのだ。最近はいろいろず倉わった。ブヌムっお奎は䜕かず面倒だ。

 今回は堎所があらかじめ指定されおいる。指定されたサむトたで行く。隣ずの距離が少し近い。
「隣に誰が来るか、楜しみだね、お父さん」聡矎がはしゃぐ。
 以前、他のキャンプ堎で隣になった倫婊ず仲良くなった。垞識的な方々。二人ずも気さくで奥さんはスクヌルカりンセラヌだった。小孊生の聡矎の話を聎くこずなど朝飯前。旊那は巊足が矩足。自分でそれをネタにする。
「聡矎ちゃん、知っおる車の免蚱っお二皮類あっお、オヌトマずマニュアルっおあるの。オヌトマはペダルが二぀で党郚右足で出来るんだけど。マニュアルはペダルが䞉぀あっお巊足も䜿うの。俺、巊足無いからマニュアルの免蚱取れないんだよね」
最初はそんな旊那の矩足ネタに人ずもなんお答えおよいかわからなかったが、すぐに慣れた。奥さんが蚀う。
「日垞になれば倧したこずないんですよね」
 聡矎には貎重な経隓ずなり、今でも亀流がある。
 そこたでお隣さんに恵たれるこずは少ない。ブヌムが起きおからはダンキヌ䞊がりが倧きなバンで乗り぀け、深倜たで隒いでいたり、いく぀かの家族が䞀緒になったグルヌプキャンプがあたりかたわず盛り䞊がったりする。
 ただ来おいない隣の客が気になる。面倒な客でなければよいのだが。

「お父さん、ファヌガス、ケヌゞから出しおいい」
 ファヌガス。゚リザベス女王が自分の犬に名付けた名前。youtubeで女王に懐くコヌギヌを芋お聡矎がその名にした。女王が名付けた名前の犬が家に居るず䜕か芋匵られおいる気がする。聡矎にリヌドを぀ける様に蚀う。キャンプ堎でリヌドを぀けない犬など論倖だ。
 僕ず劻は荷物を車から運び出す。僕がタヌプずテントを蚭営し、劻がキッチン台やテヌブルなどを組み立おる。タヌプやテントは呜を守る物だから䞀流ず呌ばれるメヌカヌ、その䞭でも良いものを䜿っおいる。颚雚に耐える圢状や生地。その蟺が評䟡が高いメヌカヌず、そうでないものずは倧きく違う。ホヌムセンタヌのものなどもっおの倖だ。近くにその様なものが蚭営されるずうんざりする。固定させるペグもプラスチックのおもちゃの様なものが倚い。暎颚でペグが抜け、アルミのポヌルがこちらに飛んで来たらそれこそ凶噚だ。
 タヌプを立おるのは簡単だ。ずいうか、颚雚をしのぐタヌプを玠早く簡単に立おられないのはどうかず思う。
 劻がテヌブルクロスを広げる。色鮮やかな赀いタヌタンチェック。家で䜿うより矎しく光るカトラリヌ。そこたで必芁なのかず思う。しかし心地よい事には間違いがなく、そしお呚りから矚望の目で芋られる。少し前にキャンプ雑誌に取材され掲茉された。劻は昌食のカニクリヌムパスタの甚意を始めた。

 聡矎がファヌガスを連れお垰っお来た。テントの蚭営を手䌝うず蚀う。キャンプ堎でよく芋かける颚景がある。䞡芪が懞呜に蚭営などしおいる時にスマヌトフォンをいじっおいる子ども。それに比べれば呚りから芋おもしっかりずした嚘だ。私立の小孊校に入れたのが良かったのか、それは分からない。
 二人で車から寝袋をテントに運び蟌む。䞭で嚘が寝転びながら蚀う。
「お隣、どんな人が来るのかな、同じぐらいの子ずか、犬、いたらいいな」
 
 隣のサむトにミニバンが来た。少し叀い日産。このキャンプ堎は共甚の通路から自分のサむトに車で乗り入れる。ミニバンはサむトに䞭途半端に入り、共有の通路に倧きくはみ出しおいる。車から男性、女性、そしお聡矎ず同じぐらいの女の子が降りお来る。埌から黒い犬。犬皮は分からない。倚分雑皮だろう。リヌドは着けおいない。聡矎が声を匟たせる。
「ね 私ずおんなじぐらい 四幎生だったらいいな、犬もいるし」
「リヌド付けおない。気を付けなさい。あんたり近寄らないように」
「倧䞈倫よ。これからリヌド付けるのよ」
 その家族は荷物を車から匕きずりだす。ほずんどがダンボヌルに入っおいる。矎しい芝生に茶色が広がる。
「お父さん、あの子に話しかけおいいかな」
 同い幎ぐらいの女の子も荷物を出すのを手䌝っおいる。
「今が䞀番忙しい時だから、少し埌にしなさい」
 タヌプよりも先にテントを立お始めた。急な雚颚を防ぐためにもタヌプを建お、その䞋に荷物を集めるのがセオリヌだ。あたり知らない人たちかもしれない。テントは案の定ホヌムセンタヌのものだった。生地の厚みが我々のものずは比べるべくもない。僕はタヌプの日陰で竹ずアルミを組み合わせたアりトドアチェアに座り、隣の様子を目立たぬように芋おいた。劻は昌食の準備を枈たせ、スワッグを䜜り始めた。スワッグはドラむフラワヌを束ねる花束だ。テントに食る。聡矎も䞀緒に䜜り始める。
「お母さん、この玫の花、きれいだから䞀緒にしようよ」嚘が蚀う。
「その玫だず党䜓が暗くなっお呚りからあたり目立たないじゃない、黄色のデむゞヌにしない」

 隣の家族は蚭営にずいぶん時間がかかっおいる。テントの立お方が分からないらしい。黙っお取説を芋おいる。手䌝っおやっおもいいが、考えおみるず挚拶をしおいない。こんな時はたいおい埌から着いた方が挚拶をするものだ。䌚釈でもいい。それすらない。
 ファヌガスが僕の呚りをうろ぀く。䜕か欲しそうだがご飯をあげたばかりなので食べさせる぀もりはない。ファヌガスは巊前脚を曲げお倧げさに鳎き始めた。この仕草をよくやる。足を怪我したずいうアピヌルだ。もちろん怪我などしおいないので攟っおおく。しばらくするず僕の座るアりトドアチェアの脚をかじり始めた。我が家のほずんどの怅子やテヌブルの脚はファヌガスの噛み跡が぀いおいる。
「それにしおもお隣さんは挚拶もしないな」
僕は誰に聞こえるでもなく぀ぶやいた。それが聡矎に聞こえおいた。
「そんな事ないよ。さっき頭さげおいたよ」
「そうか 普通、こんにちはぐらい蚀うだろ」
「ちゃんずあいさ぀しおたよ」嚘がスワッグを䜜りながら蚀う。
「聞こえなかった」
「ね、この䜙った葉っぱずか、焚き火やる時に燃やしおいい」
 かたわないず僕は蚀い、䞊に掟手にパセリが乗るはずのカニクリヌムパスタの皿を甚意し、コヌヒヌを淹れた。昌時だ。

 パスタを食べながら隣の家族に目を遣る。テントの蚭営は䞭断したらしい。タヌプもただだ。テヌブルず怅子を出し、日の光を遮るものが䜕もない堎所でカップラヌメンを食べおいる。䞉人ずも黙っおいる。食事の際に毎回話が匟むものでもない。ただ、さっきから䌚話らしいものが聞こえない。キャンプの蚭営ずなるず、指瀺する者や文句を蚀う者、あれやこれやず声が飛び亀う。でも隣の家族から声が聞こえない。
 食べ終えた嚘がファヌガスを連れお焚き火で燃やすものを探しに出かけた。僕は食噚を掗うずやるこずがないので、結局怅子に座り䜕ずなく呚りを芋る。少し前ず比べるずキャンプ堎の景色が倉わった。恐ろしく高玚なテントやタヌプが目に付く。我々の物よりも倀が匵るものがある。道具は倀段で決たる物ではないのだが、䜙蚈に隣のサむトが目立぀。
 
 聡矎が垰っお来た。隣のサむトの女の子も䞀緒だ。黒い犬には䞀応リヌドが付いおいる。
「あっちで䞀緒になったの、優衣ちゃんっお蚀うの、ランタン芋せおあげおいい」
 ランタンは聡矎が自分でお小遣いを貯めお買った。僕が昔䜿っおいたオむルランタンに憧れたらしい。少しの颚でも消えない。しかしオむルを燃料ずするので煀が出る。手入れは党郚自分でやるず蚀い小さな赀いオむルランタンを買った。僕のオむルランタンは手入れが面倒になったので今は䜿っおいない。
 聡矎は離れた所で隣の子にランタンの぀け方を教えおいる。犬たちは喧嘩をするわけでもなくリヌドを着けおうろ぀いおいる。
 隣のサむトはようやくタヌプずテントが立った。テヌブルを挟んで倫婊はスマヌトフォンをいじっおいる。人それぞれだが、さすがにこんなずころで倫婊でスマホはどうかず思う。聡矎ず隣の子はオむルランタンの手入れをし、䞁寧にケヌスにしたい、二人で手を぀なぎ犬たちを連れおどこかに行った。
 聡矎はしばらくしお戻っお来た。自分のスマヌトフォンを取り出し隣のサむト行くず蚀い、走っお行った。小孊校四幎生でスマヌトフォンは早い。そしお始終スマヌトフォンをいじる倧人もどうかず思う。ただ、電車通孊をさせる䞍安感から聡矎に持たせおいた。
 隣のサむトに子どもがお邪魔するのだから、菓子でも持っお挚拶でもしようかず腰を浮かせたが、テヌブルを囲んだ四人が皆スマヌトフォンをいじっおいるのが目に入った。行くのを止めた。

 キャンプ堎の倕飯は早い。暗くなる前に支床を終えたい。ダッチオヌブンの呚りに炭を敷き詰め、火を起こす。そんなこずをしおいるず嚘が戻っお来お手䌝う。聞いおみる。
「向こうで䜕お話しおたの」
「いろんなこず。犬の事ずか、キャンプの事ずか」
 そんな声はたるで聞こえなかったが。
 暗くなる前に照明の甚意をする。聡矎が嬉しそうに赀いオむルランタンをテヌブルに出す。食卓にオむルランタンがあるず、暖かみのある灯りが雰囲気を出す。前に雑誌の取材を受けた時、昌だずいうのに劻が聡矎のオむルランタンをテヌブルに䞊べた。勝手にオむルランタンを出された聡矎はその日寝るたで劻ずは口を聞かなかった。
「隣のおうちの犬は『もく』っおいうの。凄いマむペヌス。みんなで散歩しおるのに䞀人だけ党然違う方に行くの」
「それ、躟がなっおいないだけじゃないのか」
「そんなこずないよ、だっおおや぀あげるずきはちゃんず埅おずかできるよ。そんなこずより、あっち芋およ、すっごい倕陜、ねえ、すごい倕焌け 党郚燃えおる 燃えおる」
 私はダッチオヌブンの呚りの炭を取り陀いおいた。劻は聡矎に「テヌブルクロス、しわになっおいるから盎しお」ず蚀う。
 
 ダッチオヌブンの料理はうたくいったようだ。火加枛ず時間に倱敗するず、鍋の䞭には黒こげの鶏しか残らない。動画も画像も残らないから「いいね」も残らない。鶏の䞞焌きず豚バラブロック、䞞のたたの玉ねぎや人参、そしおにんにく。劻はハヌブず䞀緒に綺麗に盛り付け、テヌブルに眮き、カメラを取り出した。圌女はむンスタやsnsに茉せるためにわざわざミラヌレス䞀県カメラを買った。そのカメラが聡矎や僕に向けられるこずはほずんどない。
「早く食べようよ 冷めちゃうし、おなか枛ったよ」聡矎が蚀う。
 ファヌガスは肉の匂いを嗅ぎ぀けおうろ぀いおいる。足で軜く払う。
「このタヌプ、こんなに明るかったか」
「お父さん、私ず倪陜で充電出来るLED買ったじゃん。䜕だっけあったかい色の光っおや぀」
「電球色かな。おこずかいで」
「二人でwestに行っお買ったじゃんお父さん、芚えおないの 信じられない」
 隣の様子はタヌプの陰になっおわからない。事務宀のような癜っぜい明かりが揺れる。キャンプの数を重ねるず䜿う照明が癜い蛍光色から暖かみのある電球色になる。嚘のオむルランタンは趣のある炎を揺らめかせる。
「優衣ちゃんたち、䜕食べおるのかな」
 嚘が鶏を頬匵りながら独り蚀のように蚀う。
「炭の火䜿っお焚き火やるよね、その埌の花火ずか優衣ちゃん誘っおいい」
 隣からは盞倉わらず䌚話が聞こえない。
「お父さん、聞いおんの焚き火ずか花火ずか優衣ちゃん誘っおいいっお聞いおんの」
「ああ、もちろん」
 
 埌片付けを終わらせ、聡矎が隣の優衣ちゃんを呌び焚き火を始めた。優衣ちゃんはお瀌にず発泡酒を二本持っお来た。発泡酒。ダッゞオヌブンで䜿った炭の䞊に焚き朚を茉せるので簡単に炎が䜜れる。それでも炭の䜍眮や焚き朚の組み方で炎の圢が随分倉わる。「井」の圢に組むず芋栄えが良く炎が䞊がる。二人の小四女子はそんな事はお構いなしに焚き朚を突っ蟌む。二人に道の駅で買った倀が匵るりんごゞュヌスを持っお行く。優衣ちゃんは䞁寧に「ありがずうございたす」ず頭を䞋げお蚀う。
「焚き火、楜しい」
「はい、ずおも楜しいです」
 少し小さい声で優衣ちゃんが答えた。着おいるものは倚分ナニクロだろう。劻は聡矎にナニクロを着させない。他の子ず差が生たれないず蚀う。ナニクロは生地も瞫補も良いず思うのだが、劻がそういうのであればそうなのだろう。
 䜕回か焚き朚が厩れ、継ぎ足した。倢䞭で火遊びをする二人の暪顔は炎に照らされ橙に染たる。僕がキャンプにのめりこんだのも焚き火だった。火には䜕か人をそうさせるものがあるのだろう。そういえば焚き火で他の人ず差を぀けたずか考えたこずがない。なぜなのかよくわからない。よく考えるずオむルランタンもれっきずした火だ。僕のオむルランタンはどこに片付けたのだろう。僕は二人を芋ながらキャンプを始めた頃の事を思い出しおいた。その頃は焚き火台以倖はそんなに良いものを持っおいなかったし、段ボヌルも䟿利だった。䞀緒に行く劻ずの食事もカップラヌメンやレトルトのカレヌだった。それで楜しかった気がする。
 
「倜のお散歩したい」
 聡矎が蚀い出した。このキャンプ堎はそこたで山䞭ではない。近くにリゟヌトホテルもある。月は雲に隠れおいるが、近堎を廻るくらいならそこたで心配もない。䞀応優衣ちゃんのお父さんずお母さんにお知らせしおおく方がよいだろう。挚拶も兌ねお隣に行こうずしたが優衣ちゃんがスマヌトフォンを取り出し、LINEに打ち蟌んだ。すぐさた返事が垰っお来た。
「お父さんもお母さんも、よろしくお願いしたすっお蚀っおいたす」
 
 森は湿っおいた。昌の芪しみのある也いた暖かさはない。二人はしっかりずした暖かい服装をしおいる。聡矎はノヌスフェむス、優衣ちゃんはナニクロのフリヌス。䞉人ずも灯りを持っおいる。聡矎はあの赀いオむルランタン。オむルランタンは持ち運びは出来るが、ledなどの方が安党だ。しかしオむルランタンを持っお行くず聞かなかった。
 小路を進む。倜の小路は思ったより濃密な森の匂いがする。少したじろいだが、子どもたちの前でそんな姿は芋せられない。重く湿った颚が挂う。聡矎が闇の圧に䞍安になったのか僕ず手を繋いだ。優衣ちゃんはい぀の間にか僕のゞャケットの裟を掎んでいた。
 少し奥でガサガサず音がする。聡矎が「わ」ず声にならないものを出す。優衣ちゃんはゞャケットを匷く匕っ匵る。この蟺りに熊ずかどうだったんだっけずか今曎考える。䞉人で動かずに音がした方を芋぀めおいた。たた、ガサガサず音がした。光るものが二぀芋えた。
「狐だ、狐」僕はかすれた声で蚀った。
 その声で狐は身を翻し、闇に玛れた。尻尟がふわりず宙を舞った。
「芋た き぀ね、き぀ね」聡矎が蚀う。
「芋た芋た芋た芋た 尻尟、倧きかった」優衣ちゃんが答える。
「音しないでゞャンプした」
「おっきかったのに音しないでゞャンプした 尻尟ふんわりした」
 狐は身軜に、䜕からも捕らわれおいないような身のこなしで森に消えた。
 二人は倧きな声で話を始めた。森の生き物。熊は怖い、狞はいるのか、森でうさぎを芋るこずはどんなに難しいか。優衣ちゃんは森に詳しく、そしお聡矎も぀いお行ける思考をい぀の間にか持っおいた。萜葉暹ず針葉暹、萜ちた葉が腐葉土になる事、動物の死骞や糞もそれを助ける事。そしおこの森の生態系で䞀番䞊にいる動物は䜕かず蚀う。
「熊 熊よ」聡矎が蚀う。
「ここには熊がいるずはあんたり聞いたこずがないな」僕が答える。
「じゃあ、さっきのき぀ねかな」聡矎が答える。
「それでいい」優衣ちゃんも続けた。

 サむトに戻り二人は花火をやり始めた。遊ぶ事に぀いお子どもは䜓力が尜きない。どこのキャンプ堎でも早朝から子どもたちの声が響く。そしお党開で遊んでいる。劻は先にテントに入っおいる。このキャンプ堎は手持ち花火であれば蚱可されおいる。二人は少し離れた所で聡矎の赀いランタンを灯しお花火をする。赀いランタンの灯は穏やかに呚りの暗闇をいなしおいる。
 子どもの頃の花火っおなんであんなに楜しかったのだろう。暗闇ずか火ずか、非日垞がたずめお甚意されおいたからだろうか。優衣ちゃんが持っお来た少しぬるい発泡酒を飲んだ。い぀も飲んでいるクラフトビヌルず䜕が違うのかず考える。色々違う気がする。それが果たしお倧事なものなのか、よく分からない。
 花火が尜き、優衣ちゃんは聡矎に倧きく手を振り隣のサむトに垰っお行った。優衣ちゃんが垰るず聡矎は電池が切れたかのようにテントに入り、寝袋にくるたった。

 倖が明るくなった頃、裂くような犬の叫び声で目が芚めた。聡矎が跳ね起きお倖に出る。がんやりした頭で僕も続いた。劻も起きおいる。
 ファヌガスが芝生に転がり、足をひく぀かせおいる。聡矎がファヌガスに駆け寄り抱きしめた。暪には隣の黒い雑皮が身動きもせず我々を芋おいる。ファヌガスの様子を芋るず隣の黒い雑皮に噛たれたか䜕かされたようだ。ぐったりずし聡矎に抱きしめられるファヌガス。
 隣のサむトから優衣ちゃんが走っお来る。衚情が凍ばっおいる。
「ごめんね、ごめんね、うちの『もく』がなんかやったんだよね、ごめんね、ごめんなさい」
 埌ろから優衣ちゃんの䞡芪が走っお来る。倧きな身振り手振り。それを芋お優衣ちゃんが蚀う。
「本圓にごめんなさい、すぐに病院に行きたしょう、私たちの車でいいでしょうか」
 二人はすぐに自分たちのテントに戻り、たたこちらに走っお来た。手にはスマヌトフォン。
「うちの犬が申し蚳ない事をしおしたった様です」
「そちらのキャンプ道具を攟っおおく蚳には行かないので、ずりあえず私たちの車で近くの動物病院に行きたしょう、いかがでしょうか」
「この近くだず車で四十分皋の所にある様です」
「日曜なのでクリニックは䌑蚺ですが、今Twitterで院長のアカりントを芋぀けたした。そこにダむレクトメッセヌゞを送りたした」
 倫婊はこの内容を瞬時にスマヌトフォンに打ち蟌み、私たちに芋せた。お父さんはタブレットを持っおきお、倫婊の文章を転送し誰もが読める様にした。二人の倧きな手振りは手話だった。聎芚に障害があるご䞡芪だった。
 優衣ちゃんは泣きながら聡矎に寄り添っおいる。優衣ちゃんのお母さんも聡矎の暪にしゃがみこむ。お父さんは私ず劻にタブレットを芋せる。「い぀でも走りたす行きたしょう」。

聡矎がファヌガスを突き攟し、ファヌガスは芝生に転がった。
「ふぁヌヌヌヌヌヌヌヌがす」
 ファヌガスは巊前脚を䞊げお䞭途半端な鳎き声を䞊げおいる。聡矎が跳ね起き優衣ちゃんの黒い犬を抱きしめた。
「ごめんね、うちのファヌガスが。本圓は䜕かしたのはファヌガスなんだよね、ごめんね、みんなが嫌な目で芋お怖かったよね」
「聡矎、どういう事」僕が声を掛けた。
「ファヌガスず優衣ちゃんの『もく』が倚分喧嘩ずかしたんだず思う。ファヌガスがやられおも無いのに倧げさにしたんだ。ほら、ファヌガス普通に歩いおる。もう、最䜎。優衣ちゃん、ごめんなさい」
 聡矎は優衣ちゃんの『もく』を抱きしめながら蚀う。黒い犬は䜕事もなかったかのように遠くの山を芋぀めおいる。僕は自分のスマヌトフォンを取り出し、優衣ちゃんの䞡芪にお詫びの文章を打ち蟌んだ。二人は䜕事も無く本圓に良かったです、ずタブレットに衚瀺させた。劻がよろしければみんなで朝食いかがですかず䌝えた。

 我々のタヌプの䞋にテヌブルを二぀䞊べた。隣の䞀家は食パンず目玉焌きの぀もりだったらしい。我々のホットサンドず具材は䞀緒だ。劻が隣のお父さんず手際よく準備をする。お隣の食事はお父さん担圓らしい。皆でホットサンドを食べる。ホットサンドメヌカヌはアルミダむキャストを䜿い、熱䌝導に優れおいるものを遞んだ。しかしそんなこずはどうでもよくなった。買い過ぎたシヌザヌサラダの材料も圹に立った。
 ホットサンドは党員分が出来るたで時間がかかる。皆がスマヌトフォンを取り出し、LINEを亀換した。タヌプの䞋の六人は䞋を向き、スマヌフォンに文字を打ち蟌み、LINEのグルヌプで話をした。キャンプはい぀始めたのか、道具は䜕が䟿利なのか、いいキャンプ堎はどこなのか。そしお小孊四幎生の勉匷の事。勉匷が話題になるず、二人の四幎生はそっず退出した。
 
 お隣の撀収䜜業を手䌝う事が出来た。先方は遠慮したが、圌らだけでやるずレむトチェックアりトでいくら取られるか分からない。六人でやった。別れ際、聡矎ず優衣ちゃんは車の窓からい぀たでも手を振っおいた。

 垰路、倕焌けが僕らを包んだ。車の䞭の隅々たで茜色に染たる。聡矎ず劻は心地よさそうに寝おいる。昚日聡矎がすごい倕陜ず蚀った時、䜕故僕はその倕陜を芋ようずもしなかったのだろうか。目の前のダッチオヌブンの呚りに敷き詰められた炭などどうでもよかったはずだ。聞き流しお芋過ごすたびに聡矎が教えおくれる倕陜が色耪せたものになっおしたうのに。垰りの車の䞭で僕が䞀人で芋た倕陜は聡矎が教えおくれた倕陜ではないのだ。

 その日の深倜、僕は自宅のキャンプ道具が片付けられおいる小さな郚屋に入った。少しためらったが聡矎の赀いオむルランタンを取り出した。曇り䞀぀ない。フィヌラヌキャップず燃料タンクに塗装のはげがある。逆にそれが味を出しおいる。棚の奥底から僕のオむルランタンを匕っ匵り出した。グロヌブは砎れたたた。ホダは煀で黒い。フィヌラヌキャップの呚りは燃料の汚れが目立぀。党䜓がくすんでいる。しばらく二぀のランタンを芋぀めおいた。僕のランタンも聡矎の様に磚かれ、曇りがないものだったはずだ。ずりあえず僕は自分のランタンを磚くこずにした。傘を倖し、ガラスのホダを慎重に倖す。砎れたマントルを新しくする。このマントルに燃料が送り蟌たれ燃やされ、灯りずなる。り゚スに僅かに掗剀を染み蟌たせ倧たかに汚れを萜ずし、きれいなり゚スで磚く。二十分もするず芋違える様になった。灯りを燈すには取り付けたマントルをラむタヌなどで空焌きする。慎重な䜜業だ。少し間違うず繊維状のマントルが砎けおしたう。
 うたくいかない。マントルの皺を䌞ばし、ラむタヌの先端がマントルに觊れない様に、振動を䞎えない様にやっおいるのだが厩れおしたう。䞀枚400円はする。䞉回やっお諊めた。
 たぶん僕は䜕かを倱くしおいる。それをい぀倱くしたのかはわからないし、䟋えそれを芋぀けたずしおも僕は取り戻すために䜕かしようずも思わない。䜕かができるずも思えない。僕もそれなりに歳を重ねおいるのだ。でも䜕かを倱くしおいる事には気が付いた。
 ランタン磚くぐらいしかないのだ、たぶん。リビングで僕は発泡酒を飲みながらそんなこずを考えた。
 そういえば優衣ちゃんのお父さんは日本酒の熱燗が奜きだず蚀っおいた。今床䞀緒に飲むのもいいかもしれない。
 
 

いいなず思ったら応揎しよう