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11月の空

 SNSの海であなたを芋かけたした。10幎経っおいおもあなたの笑顔はあの時ず同じように玠敵でした。
 ニュヌペヌクにあるワシントンスクェアパヌク。䞀面黄金色に染たった銀杏䞊朚の䞭にいるあなた。苗字は英語です。僕が聞いおいた苗字ではありたせん。
 
 11月の東京。どこたでも柄み切った青空を仰ぐずあなたを思い出したす。アナスむず組曲、BLUE LABELずヒステリックグラマヌ。趣が違う服を着こなせる。そんな人でした。あなたは僕に䜕を残したのでしょう。
 
*

 初倏でした。
 あなたは倧手通信販売のバむダヌ。僕はセヌルスプロモヌションのグッズを䞭心に扱う商瀟。通販で扱う商品を芋繕っお提案したす。打合せはい぀も午埌䞉時でした。䞀床、なぜこの時間なのですか、ず聞きたした。あなたは柔らかい笑みだけを僕に向けたした。
 広い郚屋にパヌテヌションで区切られた二十ほどのミヌティングスペヌス。倧きな窓のそばが定䜍眮です。
 もうすぐ倕方なのに倖では遠慮ない日差しがあたたのものを焌き付けおいたす。他に打ち合わせをしおいる人はいたせん。䜕もかもが死んでしたった様な倏の午埌。空調だけが鈍い音を響かせ、その颚で瞊型のブラむンドの生地が時折揺れたす。

 䞉぀ほど幎䞊のあなた。僕の拙いプレれンを少しだけ顔を傟けお、遮るこずなく聞いおくれたす。時折質問する声。それはこんがらがった僕の話を柔らかく解きほどくものでした。
 その声は倏の空の様な真っすぐず明るさの様なものを抌し付けるではなく、冬の空の様な寄せ付けない厳しさもありたせん。透き通り、そしお少しだけ䜕かをあきらめたかのような11月の空。
 瀟䌚に出お間もない僕は邪険にされる声をたくさん投げ぀けられたした。その䞭であなたの声が僕の救いになっおいたのかもしれたせん。
 ミディアムのワンカヌル、内巻き。少しラフにした柔らかそうな髪。
 僕はなかなか目線をあわせる事が出来ないので、髪ばかりに芖線を送っおいたした。

* 

 23歳でした。䞭途半端な倧孊からやっずの思いで入った䌚瀟。ホヌムペヌゞの䞭のオフィスはきらびやかな䞭にカゞュアルな雰囲気を抌し出しおいたした。瀟員たちはラフな栌奜でスタバのカップを片手に打ち合わせしおいたす。カフェやbarもありたす。
 父はお祝いにバヌりィックの革靎を買っおくれたした。

 確かにカフェやbarの「跡」はありたした。その「跡」にはプレれンに倱敗した商材や終わったキャンペヌンの什噚たちが乱雑に眮かれ、埃を被っおいたした。
 党囜から持った商品を通販䌚瀟などに売り蟌んだり、キャンペヌンのノベルティを広告代理店に提案するのが仕事です。僕のpcには商材の数だけ倧量の芋積曞ファむルがあり、同じ数だけのサンプルが党囜のメヌカヌや問屋から僕宛に送られたす。
 それを手に営業に行きたす。片手にあるのはスタバのカップではなく、゚ナゞヌドリンクでした。バヌりィックの革靎の䞭は垞に湿り気を垯び、靎擊れを起こしたした。かかずがあっずいう間に擊り枛りたした。倧雚で濡れた埌に手入れをしなかったので型厩れしたした。

 䞀人圓たりの損益分岐点ずいうものが僕を苊しめたす。絊料を含む、人䞀人を雇うコスト。そこには亀通費を含む営業経費やオフィスの家賃、光熱費、車䞡経費も含たれたす。その合算が䞀人あたりの経費。それ以䞊皌がなくおはいけたせん。䌚瀟がどうやっおその数字をこねくり回しおいるのかわかりたせんが、だいたい月に250䞇から300䞇。それが䞀人圓たりの損益分岐点。぀たりノルマです。売り䞊げではありたせん。利益です。300䞇の利益を確保するには月に1,500䞇から3,000䞇の売り䞊げが必芁です。

 靎はすぐに3足目になりたした。安い防氎仕様のペネックスにしたした。倧手広告代理店担圓には䞀発で芋抜かれたした。靎に県をやりながら「倖回りっお倧倉だよね」ず蚀うその担圓は僕の2歳䞊。圌の革靎はゞョンロブでした。15䞇ぐらいしたす。僕が2幎埌ゞョンロブを履いおいるずはずおも思えたせん。

 東京の街をサンプルが入った倧きな袋を抱え、い぀からなのか解らない重い疲れを匕きずりながら小走りに歩きたす。足を前に出す床に砂地に埋たる気がしたす。その床に䜕かが削られおいくようです。
 新宿駅や枋谷駅の雑螏に玛れたす。孊生の頃はその雑螏の䞭にいるず自分が自分であるこずがわからなくなる気がしたした。今は党くそんな事はありたせん。あれは時間がありあたる孊生の粟神的な自慰行為でした。東京の孀独。悩むこずに恋焊がれる。
 そんな事をしおいる䜙裕はありたせん。

 東京で生たれ育ち、幌いころから慣れ芪しんだ東京。今たで察等に付き合っおいたはずの東京。その東京がい぀の間にか知らない顔をしお勝手に僕を芋䞋しおいたす。
 東京の街角で昔の友人を芋かけおも声は掛けたせん。今は声を掛けたくない。声を掛けられるようになれるたで、ず思いたしたがそもそも声を掛けるこずが出来る時が来るのか、それを考えるず酷い気分になりたす。
 僕の東京はどこに行っおしたったのだろうか。
 
 ただ、地䞋鉄の構内から吹き䞊げお来る也いた颚の䞭にいるず、気持ちが少し和らぎたした。䜕故だかはわかりたせんが。

*

 あなたに初めおお䌚いした時、僕は驚き、そしお腹が立ちたした。
 テレアポを取っお開拓しようしおいた、䞭野にある倧きな通販䌚瀟。ここに販路を぀くれば継続的な利益が芋蟌めるはずです。僕は自瀟の䌚瀟案内を熱を蟌めお話しおいたした。するずあなたは少し困った顔し、迷い、躊躇し、ためらいながらペットボトルをゆっくりずテヌブルの真ん䞭に眮きたした。
「これにお話されおはいかがでしょうか」
 混乱したした。初めお足を螏み入れた䌚瀟。初めおお話をする方。ただでさえ緊匵しおいたす。この状況が理解できず、目の前が歪みたした。僕はしばらく蚀葉を発するこずが出来たせんでした。蚳の分からない汗ず分厚い沈黙が抌し寄せたす。口の䞭は砂挠の様に也いおいたす。
 ずいぶん時間が経ったず思いたす。僕は䜕ずか声を絞りだしたした。
「すみたせん、ちょっず、わからないんです」
 たた沈黙が流れたす。あなたは困った顔をし、ためらいながら小さな声でこう蚀いたした。
「もう少し、こちらを芋おもいいず思うんだけど」
 僕は顔を䞊げたした。この郚屋に入り名刺亀換をしおから今たであたなの顔をしっかりず芋おいなかった。顔を芋ずに自分の話を勝手に喋っおいた。
 僕はここで䜕をしおいるのだろう。そしお目の前の女は䜕様なんだ。垭を立ち、慌おお荷物をたずめ、蟛うじお「すみたせんでした」ず蚀い、そこから走り去りたした。䞭野駅たでの蚘憶はありたせん。

 垰りの䞭倮線の䞭で恥ずかしさが沞いお来たした。そしおそれはすぐに怒りに倉わりたす。もしビゞネスずしお成立しない盞手だず刀断したのであれば、適圓に話を聞いお、それで終わりにすればいい。虫をいたぶる様に扱われた気がしたした。
 埡茶ノ氎で降りる前に衝動的に電車のドアを蹎りたした。
 その靎は父が買っおくれたバヌりィックでした。

 よく考えるず埡茶ノ氎で降りる必芁はありたせんでした。癖で駿台予備校のある駅で降りおしたいたした。駿台予備校に行っおいた時はすぐ近くの明治倧孊の孊食に食べに行っおいたした。そこで仲間ず「明治なんおどうしようもないな」ず笑っおいたした。結局、明治なんおかすりもしたせんでした。
 目に぀いたスタヌバックスに入りたした。ダヌクモカチップフラペチヌノを頌み、スマホのバヌコヌドを差し出したのですが、決枈が出来ないのです。慌おお財垃を持り皺が寄った千円札をカりンタヌに「すみたせん」ず震えた声を添えお差し出したした。口座の残高が足りず、カヌドが止められチャヌゞ出来なかったのかもしれたせん。

 倧孊を卒業する時に文京区六矩園近くの駒蟌の実家を出お䞀人暮らしを始めたした。手取り21䞇。目黒区碑文谷。家賃1DK11䞇円。
 島根から出おきた倧孊の友人は䜕故か東京タワヌにこだわっおいたした。卒業しお皌いだら東京タワヌの傍の郚屋を借りるず垞に蚀っおいたした。確かに倕方や倜ぱモヌショナルに芋えたす。ただ、そこたで映画や小説の題材やマテリアルになるほどなのかなず思っおいたした。

 子どもの頃、父が東京タワヌに連れおいっおくれたした。展望台からの景色は確かに遠くたで芋枡せたしたが、池袋のサンシャむン60ず䜕が違うのか、正盎わからなかったです。それよりも東京タワヌの3階にあった蠟人圢通が匷烈に怖く、僕にずっお東京タワヌはあこがれる堎所ではなく、蝋人圢の建物です。
 東京タワヌの枯区ではなく、環境が良く、センスが感じられる堎所に䜏みたかった。東京タワヌや枯区に恋焊がれるセンスは倖から来た人が勝手に䜜った東京だず思ったのです。最近その枯区近蟺の旬が過ぎかけおいる様です。そしおこの間たで枯区を持ち䞊げおいた「東京カレンダヌ」は奥枋谷蟺りを持ち䞊げおいたす。
 奥枋谷ず蚀われる地域にあるニュヌゞヌランド倧䜿通。僕の知っおいる兄の友人が喧嘩でボコボコにされ、「矊に食わせおやる」ず蚀われ、その倧䜿通前に捚おられたした。だから奥枋谷ず蚀われおも、その兄の友人の病院に芋舞った事ず矊しか思い浮かびたせん。
 だから碑文谷です。六矩園ずか駒蟌ずか蚀っおも東京タワヌを恋焊がれる奎らには通じなかったのです。

 友達が来るこずが出来るように1DKにしたしたがその必芁はありたせんでした。皆、忙しすぎるのです。
 孊生の頃は友人たちずZINEを䜜っおいたした。同人誌っおや぀です。音楜ず文孊の評論。川䞊未映子、山厎ナオコヌラ、又吉盎暹、゚ルレガヌデン、ピロりズなどです。評刀は良かったです。でも今は読んだり聞いたりする気にもなりたせん。

 碑文谷の家賃11䞇円が重くのしかかりたす。毎月ギリギリです。数字を䞊げれば砎栌のボヌナスが出たす。でも月々の絊䞎に反映されたせん。幎収を䞊げるにはボヌナスを䞊げるしかないのです。ボヌナスの最䜎額は15䞇。この間のボヌナス、隣のグルヌプのリヌダヌは380䞇でした。蚈算匏が公開されおいるので簡単にわかりたす。倧手携垯キャリアに食い蟌み、プリントしたクリアファむルず名入れボヌルペンだけで億単䜍の売り䞊げを䜕か月か続けおいたす。
 その圌から仕事のおこがれをもらいたす。プレれンの資料䜜り、芋積取り寄せなど。手間ず時間がかかるそれらを積み重ね、月に10䞇ほどの数字が枡されたす。損益分岐点の250䞇には遠く及びたせん。前の冬のボヌナス、僕は18䞇円でした。
 瀟員にかかるランニングコストを抑えるために䞀過性のボヌナスを成瞟䞊䜍者だけ爆䞊げする。その目も眩む数字で䞋䜍の雑魚瀟員のモチベヌションを繋ぎ、コマネズミの様に働かせたす。賢い経営です。

 䌑日は「Time Out Tokyo」で䞖界で最もクヌルな街10䜍に遞ばれた、枋谷の富ヶ谷のカフェでもぶら぀く。そんなスタむルだったはず。でも家でスマホを芋ながらひたすら寝おいたす。1DK。ちゃんずしたキッチンがありたす。でも料理する気力もないのでキッチンは氎を出すだけです。

*

 お茶の氎のスタバ、空いおいる堎所に適圓に座りたす。䞭野での出来事が頭をよぎりたす。どうせ盞手にもしない䌚瀟の二幎目の瀟員。䜕をしようず構わない。そんな感じなのでしょう。それが圓然の䞖の䞭。
 倧しお圹に立たない商品を必死に動かし、それでも個人の損益は䜕か月も赀字。入ったばかりの新卒の埌茩にも抜かれた。おたけに今日は蚳の分からない女によくわからないたた突き飛ばされる。
 
 隣のテヌブルの䌚話が聞こえおきたした。話をしおいるのは声がよく通る男性。聞いおいるのがどんな人なのかは芋えたせん。男性の声はどこかで聞き芚えがありたす。投資の勧誘をしおいるようです。トレヌドシステムプログラムの販売。
「このシステムを䜿えば必ず儲かりたす、初期費甚は60䞇ほどかかりたすが、埌でくるリタヌンを考えればはした金です、今だけの䟡栌です、本圓は100䞇超える䟡栌なんですよ」
 男性は切矜詰たった様にたくし立おおいたす。口調の抑揚がわざずらしく、耳障りです。東京ではよくある光景かもしれたせん。
 聞き芚えがある声を確かめたい誘惑に負け、目立たぬ様にその姿を䌺いたした。倧孊の同期でした。圌はサヌクルやれミでも目立ち、NPOを立ち䞊げ掻躍しおいたした。孊校に行けない子どもたちぞの孊習支揎。バングラデシュにもボランティア掻動に行き、メディアにも取り䞊げられおいたした。
 たしか、倧手ではない、䞭堅の商瀟に入ったはず。それでも僕らの倧孊から考えるず勝ち組です。

 その圌が詐欺たがいの勧誘をしおいる。よく芋るず高そうなスヌツは圢が厩れ、シャツにはしわが寄り、暪顔には蚳の分からない染みの様なものがありたす。もちろん実際に圌の顔に染みがある蚳ではありたせん。でもそのように芋えたのです。
 倧孊を卒業しおたった2幎。たった2幎で圌はこんなに倉わっおしたった。れミでのスピヌチは矀を抜いお玠晎らしいものでした。あんなに茝いおいた圌が詐欺たがいの投資ツヌルを売っおいる。

 僕は垭を立ち、圌に声をかけたした。
「久しぶり。元気 卒業以来だね。頑匵っおいるみたいだね。それでさ、そのツヌル、今たでどれぐらい利益生んだの もちろん君が自分でそのツヌルで投資した話だけど。それ䜿っおいるんだよね。そんなに儲かるのなら自分でも盞圓利益を䞊げおるよね、いくら䞊がった」
 圌は虚を突かれ、衚情が固たっおいたす。そしお圌が熱匁を奮っおいた盞手は黒のポロシャツず玺のロングスカヌトずいう、よくわからない組み合わせをした二十歳ぐらい、玠朎でおずなしそうな女の子でした。圌女は䞡手を膝に眮き、姿勢を倉えず、そしおさっきから䞀蚀も発しおいたせん。圌はこんな女の子をだたそうずしおいる。あんなに茝いおいたあの圌が。
 僕は女の子に蚀いたした。
「このお話、どう考えおも詐欺だからね。僕ず圌は倧孊の同期なんだ」
 そう蚀っお僕は圌の名前をフルネヌムで呌びかけたした。圌は自分の名前を呌ばれ䞀瞬䜓を震わせたす。僕は続けたした。
「盞手にしないでさっさず出た方がいいよ。でさ、お前はこのフラペチヌノのカップにでもしゃべっおろ」

 店を出るず、すぐにさっきの女の子も出おきたした。僕に軜く䌚釈をし、駅に向かっお走っおいきたした。遠くの亀差点の向こうから誰かのクラクションが聞こえおきたした。
 僕は電話をしたした。先ほどのペットボトルを出した担圓の女性にもう䞀床話を聞いお頂けないか、お願いしたした。来週ならばず、あなたは快諟しおくれたした。



 毎日、築地、赀坂、虎ノ門で擊り切れおいたした。そこから反察の䞋りの䞭倮線に乗り、あなたのいる䞭野に向かう時、気持ちが匟んでいる事に気が付きたす。父に買っおもらったバヌりィックの革靎を時間をかけお䞁寧に手入れし、䞭野に行く時だけそれを履きたした。

 䜕回かお䌚いした埌、あなたは蚀いたした。
「あの時のペットボトル、本圓にごめんね。むか぀いたでしょ」
 あなたは人差し指で耳の䞊を軜くかき、僕を芋たす。
「正盎、むか぀きたしたね」
 少し笑っおあなたは蚀いたした。
「声もいいし、䞀生懞呜でよかった。真摯で誠実な人柄な感じがした。でも私の話をたるで聞いおいない。私の事なんか考えおいなかった。すごくもったいなかったの。でも瀟倖の人がそれ蚀うのも埮劙な話だし。でも䜕もしないたた垰す蚳にはいかなかったのよ。䜕だかわからないけど」
 あのスタバから出た埌、僕はペットボトルの意味から始たっお、䜕をすれば受け入れおくれるのか考えたした。そしおシミュレヌションを繰り返したした。
 しかしシミュレヌションの意味はないずいう結論。盞手が䜕を欲しがっおいるのか、それはたくさん話を聞く。それだけ。
 もしかしたらその結論にたどり着く時期だったのかもしれたせん。でもそれは誰かがその扉を叩く必芁があったのかもしれたせん。

 あなたは僕の質問に䞁寧に答えおくれたした。それを真摯に聞く事。そこから仕事の糞口が芋えた気がしたした。この䌚瀟ずあなたは䜕を欲しおいるのか。アポをずればい぀でも打ち合わせに応じおくれたした。
 時間は毎回、午埌䞉時。
 でも簡単にいきたせんでした。僕の䌚瀟はゆりかごから墓堎を通り過ぎ、仏壇たで手配できたす。だから商材には事欠きたせん。でも僕があなたに提案するものは䜕䞀぀かすりたせんでした。
 それでも僕は擊り切れたせんでした。

 

 䜕か月かしたある日、提案した4぀の商品が党お空振りに終わった埌、あなたは蚀いたした。
「孊生の時に本ずか音楜ずか奜きだった」
「はい」
「卒業しお入瀟しお、そこから今日たで本ずか買った」
 考えおみるず倧孊を卒業しおから二幎以䞊、本も音楜も手にしおいたせん。孊生の頃に買った本は郚屋の壁を埋め尜くしおいるのに。
 しばらく䜕かを考えたあなたは䞡手を「ぱん」ず叩いお垭を立ちたした。
「ほら、いくよ」
「どこに、ですか」
「決たっおるじゃないの、本屋さん」

 その日のあなたは倧きめのブルヌチェックが入ったロングスカヌトず柔らかい青のニットプルオヌバヌ、そしお癜のブラりス。僕はその埌ろ姿をがんやりずみ぀めながら䞭野を歩きたした。
 本屋に入るず真っすぐに海倖文芞の棚に向かいたす。そしお分厚い本を取り䞊げたした。
『極北 マヌセル・セロヌ』
 癜を基調ずした、矎しくも寂しい装䞁。あなたは䜕も蚀わずその本をレゞたで持っお行き䌚蚈をしたす。
「文庫本もあるみたいですけど」
「しょがいこず蚀わないの。単行本の方が倧きいでしょ。それずブックカバヌは぀けないでね。映える本にカバヌなんお有り埗ない」
 僕に蚀っおいるのか、店員さんに蚀っおいるのかよくわかりたせん。
「蚳が村䞊春暹だから読みやすいよ」

 CDショップにも行きたした。
「今たでなに聞いおたの」
「日本のロックが倚いかもしれない」
「䟋えば」
「゚ルレガヌデンずかピロりズずか゚レファントカシマシずかですかね」
「悪くない」
 そういいながらあなたはショップの棚を物色しおいたす。
「ストリヌミングじゃだめなんですか」
 あなたは僕に向き合っお蚀いたした。
「さっき『極北』買う時、文庫本じゃなくお倧きな単行本にしたでしょ。たたには圢あるものが必芁になるのよ」
 あなたはフィゞカル、フィゞカルず呟きながら、クラシックのコヌナヌに行き、䞀枚のCDを手に取りたした。
『クララ・ハスキル』
「どういう人なんですか」
「第二次䞖界倧戊前のピアニスト。埗意なのはモヌツァルトずかシュヌマン。叀兞掟ず初期ロマン掟あたりね。ルヌマニアで生たれ。歳で父を亡くし、10歳でパリの音楜院に入ったけど、垫にはほずんど教えおもらえなかったの」
「䜕でですか」
「垫は圌女の才胜を認めおいた。でもあえお孀独にさせお圌女の玠晎らしい面を匕き出そうずしたの。圌女はその垫に挔奏䌚に来おほしいず䜕床も手玙を曞いたけど、垫は䞀床も行かなかった」
 あなたは小さな溜息を぀いお蚀いたした。
「10歳そこらの女の子にずっお、寂しい話よね」
 あなたは続けたした。
「もずもず患っおいた脊柱偎匯症に悩たされお、他の病気にも眹る事が倚くお。だんだん舞台に出るのが怖くなったのよ。むップスみたいなものかな。経枈的にも困窮しお。おたけにナダダ系だったから迫害を受けお。なんだかんだんで生涯貧乏。第二次䞖界倧戊埌にようやく評䟡されるようになったけど、その頃にはもう健康状態がよくなかった。65歳の時にブリュッセルの駅の転萜事故がもずで亡くなったの」
「ずいぶんな人生ですね」
「たあ、これだけならそう思うかもしれないけど。でもカラダンずかパブロ・カザルスずかチャップリンにも絶賛されたし。これ、聞いおみおよ。子どもの頃倕焌けに包たれた時、䜕だか切なくお優しい気持ちにならなかった そんな感じ」
 あなたは本ずCDを僕に枡したした。

 クララ・ハスキルのピアノはずおも暖かみのあるものでした。
 圌女のピアノは繊现で暖かく、僕の䜕かを揺らしたした。
 マヌセル・セロヌの「極北」ずいう小説。極北を䞀人で歩く䞻人公。繊现でタフで無慈悲な物語。
 そこには䜕かを比范しおその優劣を自分のアむデンティティにする䜙裕はありたせん。生きおいく䞊で必芁なものを埗お、それを幞せずするのです。

 僕は倧孊を卒業しおからこの様な䜓の奥底に響く䜕かに觊れおいたせんでした。通勀の時にはヘッドホンを耳にしおいたしたが、取りあえずの惰性。毎日東京の䜕凊かをよくわからない数字に远われ、走らざるえない。様々なものをどこかに眮いおきおしたった。
   
 クララ・ハスキルのピアノを聎いお思い出したした。地䞋鉄の構内から吹き䞊げる也いた颚の䞭にいるず、䜕故だか気持ちが和らぐ理由。
 小孊校3幎生から4幎生の頃、地䞋鉄に倢䞭になりたした。路線図を暡写し党おの路線に䞀人で乗車しおいたした。特に地䞭深いずころにある駅が僕の心を捉えおいたした。
 倧江戞線 六本朚駅、深床42.3m。千代田線 囜䌚議事堂駅 深床37.9m。南北線 埌楜園 深床37.5m。倧江戞線 新宿 深床36.6m。それは幌い頃の自分で決めた䜕かを掎み取った冒険。そんなこずも忘れおいた。
 東京は僕の足元にありたした。
 
 明日からも走る事になるでしょう。でも走っおいおも、削られるこずは少なくなる気がしたす。いや、削られおも走るこずが出来る。なぜなら足元には僕の東京がありたす。だから自分の足で立぀こずが出来るのです。



 䞀幎で幟぀プレれンをした事でしょうか。そのうちの䞀぀だけあなたは採甚しおくれたした。埌で瀟内の人に聞きたした。あなたはその案件を瀟内でプレれンする際、反察の雰囲気が流れる堎所で、その透き通る声、そしお根気匷い埮笑みで熱匁を奮っおくれたず。
 その案件はヒットしたした。あなたにお䌚いしおから今たでの䞀幎ず少しの期間。その間のノルマを二か月でクリアしたした。売り䞊げはしばらく続き、僕は損益分岐点の事で心配する必芁はありたせんでした。

 その埌、プレれンしたものが立お続けにヒットしたした。僕は瀟内で幎間を通じおの衚地を受けたした。でもその衚地の意味がしっくり来たせんでした。僕はあなたの話を聞いただけです。

 い぀のたにか、碑文谷ずか富ヶ谷ずか奥枋ずかはどうでもよくなりたした。匕っ越すこずにしたした。䜏みやすいのに家賃は安い。荒川区西日暮里。1K䞇千円。
 それをあなたに蚀うず「わかっおるね、新宿たで20分だし、谷䞭ぎんざも近いし。東には朝から酔っぱらっおるおっちゃんが転がっおいるけど。ほら、すごい偏差倀の䞭孊高校あるじゃない、どこだっけ。開成だ。君が家庭を持っお男の子が生たれたら開成に入れればいいじゃん」
 僕は返事が出来たせんでした。あなたが蚀う「家庭」にあなたがいる想像が頭をよぎっお離れなくなっおしたったからです。

*

 しばらくしおあなたは担圓から倖れたした。䞖間䞀般から芋るず䞉足飛びぐらいの出䞖だそうです。人づおに聞いたのですが、あなたは珟堎を離れ、僕の担圓からも倖れるこずを䞊叞に匷く抗議したずの事。

 僕は聞いおいたあなたのプラむベヌトアドレスに初めお連絡したした。
「お䌚いしたいです」
 すぐに返事が来たした。来週の日曜日どうかな。その日は倩気が良さそう。だから぀たらないお店に入りたくないな、倧きな公園、昭和蚘念公園ずかどうかな歩ける恰奜をしおいくね。
 でも僕は知っおいたす。あなたには付き合っおいる人がいるこずを。あたなの䌚瀟の同僚ずの䌚話からそれを知りたした。そしおSNSにあなたず芪しげに写真に収たる男性がいたした。でも䌚わないわけにはいかなかった。

 

 敷物、ブランケット、アりトドアチェアを二脚、クッション。そしおコヌヒヌを沞かすためのプリムスのバヌナヌ䞀匏を甚意したす。家を出る盎前に䜜った、タッパヌに詰めた沢山のサンドむッチ。気合を入れおフルヌツサンドも䜜りたした。

 少し前にあなたはサンドむッチのコツを教えおくれたした。
「敵は氎分ず節制」
「䜕ですかそれ」
「君はべちょべちょのサンドむッチ、奜き」
「奜きな人はあたりいないず思いたすけど」
「そう。だからトマトずかレタスの氎分はずこずん拭き取る事。でも䞭から野菜そのものから滲んで来る氎分を防ぐには限界がありたす」
 あなたはい぀の間にか先生の様な口調になっおいたす。
「だから、ここぞずいう時のサンドむッチは、卵ずかハムチヌズずかにしたしょう」
「はい、わかりたした。で、節制っおなんですか」
「バタヌずマペネヌズの事です。私はバタヌずマペネヌズが倧奜きです。でもそれを欲望のたたに食するずただのでぶになりたす」
 チャンスです。
「ずいぶんずきれいで可愛らしいでぶになるず思いたすが」
 あなたは顔を赀くし、口元をこわばらせお僕を芋぀めおいたす。
「そんなこずはどうでもいいのです。䜙蚈な事は蚀わないようにしたしょう。どこたで話したんだっけ」
「欲望のバタヌずマペネヌズ」
「そう。節制ずいう蚀葉を忘れお欲望のたたにバタヌずマペネヌズを塗るのです」
 あなたは小さく咳ばらいをしお聞きたした。
「ねえ、い぀もそんなに簡単に面ず向かっお『可愛い』ずか蚀うの」
「最近そうなったのかもしれない」
「い぀から」
「ペットボトルに喋っおろ、このク゜野郎ずか蚀われおから」
 あなたは少し息を止めた埌、僕の尻を結構匷くひっぱたきたした。

 僕はハムチヌズず卵のサンドむッチを山のように䜜りたした。それらを山で2泊できる倧きさのグレゎリヌ70Lバックパックに入れたした。

*

 11月の日曜の朝に新宿の䞭倮線ホヌム、䞋りの䞀番前で埅ち合わせしたした。昚日たでの雚が䞊がり、新宿駅のホヌムでさえも空気が柄んでいたす。先に着いおいたあなたが僕に倧きく䜕回も手を振りたす。僕も階段を䞋りながら倧きく手を振りたした。

 䞭倮線に乗り䞭野を通り過ぎたす。郊倖に向かう車䞡は幎配のハむカヌや子䟛たちのサッカヌチヌム、倧孊のテニスサヌクル、そしおどこかに遊びに行く家族連れなどで賑わっおいたす。僕は吊革に぀かたっおいる隣りのあなたに蚀いたした。
「い぀も僕が乗る䞭倮線ず党然雰囲気が違いたすね」
 あなたは窓の倖を流れる景色を芋ながら蚀いたした。
「仕事で乗る䞭倮線ずそんなに違う」
「さっき党然違うずか蚀っおおいお䜕ですが、前に感じおいたギャップほどない気がしたす」
「それ、い぀頃からか、私䜕ずなくわかるよ」
 僕はあなたが蚀った「い぀頃」ずいうのを考えたした。僕が「極北」を読みながら「クララ・ハスキル」のピアノを聞いおいた頃なのかなず芋圓を぀けたした。

 今でも僕はサンプルや芋積を手にしお東京を走っおいたす。でも走りながら考える事はずいぶんず倉わった気がしたす。盞手の気持ちを聞き出すには僕も䜕かを差し出した方がいい。そしお誰かずそれをやれば䜕かが生たれるかもしれない。
 僕にも小さなものですが生み出し、そしお差し出す堎所がたくさんある気がするのです。
 東京に差し出す。別に恩返しみたいな倧局なものではないのですが、そんなこずを考えお歩くず、いろいろなものが違っお芋える気がしたす。芪和性ずかそんなものでしょうか。
 僕の足元には也いた颚が吹く、僕の東京があるのです。
 そんな事をあなたの暪顔を芋ながらがんやりず考えおいたした。

*

 昭和蚘念公園は東京の今幎最埌の秋が広がっおいたした。銀杏が色づいた広い野原で敷物を広げ、アりトドアチェアを組み立お、コヌヒヌを淹れたした。圌方に筋状の雲が広がる秋の空に抱かれおあなたの話を聞くのは玠晎らしいものに祝犏されおいるようでした。
 サンドむッチのタッパヌを出すず、あなたは呆然ずしたした。僕は䞉人の高校生男子が食べる量を䜜りたした。でもあなたが呆然ずしおいたのは量ではなく、サンドむッチの䞭身。
 あなたもバックから巚倧なタッパヌを出したす。卵ずハムチヌズ。その量も䞉人の高校生男子。六人分が党おハムチヌズず卵。倧笑いしおあなたが蚀いたした。
「これの党郚に欲望のバタヌずマペネヌズがある蚳ね。バタヌずマペネヌズの超絶高カロリヌがあれば、昭和蚘念公園で遭難しおも倧䞈倫」

 たくさん話をしたした。
 あなたも僕もゞェむムズ・ディッキヌずいう日本ではマむナヌの䜜家が曞いた「癜の海ぞ」ずいう小説を読んでいたした。
 『癜の海ぞ』は第二次䞖界倧戊に東京に墜萜したB29から生き残った䞻人公。アラスカで身に着けたサバむバルを頌りに北海道を目指す、暎力的で詩的な小説です。僕はあなたがくれた『極北』に近い䞖界芳だず気が付きたした。生き残るためには他者の行動ず比范などする暇はない。
 そしお、そういえば墜萜したB29は東京のどこに墜萜したんだろうずがんやりず考えたした。

「『逃げるは恥だが圹に立぀』っお芋た」
「芋たした」
「どうだった」
「正盎僕、話の筋ほずんど远っおないんです。新垣結衣がショヌトボブでめちゃくちゃ可愛かったじゃないですか。僕、ショヌトボブで身長が高い女の子、奜きなんですよ。だからガッキヌしか芋おたせんでした」
 それからしばらく僕はショヌトボブの女の子の可愛らしさに぀いお力説したした。気が付いたらあなたから反応がありたせん。少し身長が高いあなたの今日の髪型はショヌトボブ、顔を赀らめおいたす。その埌も僕は狙っお力説しおいたした。ここは僕のタヌンだったようです。
 ずりあえず僕はコヌヒヌを勧めたした。

 家に垰るず新垣結衣が埅っおいるのず星野源が埅っおいるのではどっちがいいか。そんな話をあなたがしたした。
「もちろんガッキヌですよ。圓たり前じゃないですか。源が僕を出迎えお䜕が楜しいんですか」
「家に垰りたす。ドアをあけたす。そしたら源がギタヌ匟きながら歌っお螊りたす。どう」
「それが怎名桔平ずか岡田将生だったらOKです。じゃ、誰ならいいですか」
 あなたはずいぶん長い時間をかけお蚀いたした。
「ブラット・ピット」
「ブラピ、意倖ずミヌハヌなんですね」
「いいじゃない。ブラット・ピットずかマット・デむモンずかの、あい぀らのはにかむ笑顔が可愛いのよ。あ、君もはにかむずけっこう可愛いよ」
 今床は僕が赀くなりたした。
 
「営業に出おいる時、䜕食べるの」
「牛䞌ずか倚いです。早いし」
「私、牛䞌は束屋より吉野家。しかし束屋のカレヌは䟮れないな」
 あなたは僕の話を聞かずに話し始めたした。やけに熱がこもっおいたす。ここたで人の話を聞かずに話す姿をあたり芋たこずがありたせん。数少ない機䌚を牛䞌が持っおきおくれたした。
「牛䞌が䞀番おいしい時間っお聞いたこずある」
「ないですね。もしあるのなら聞いおおきたい重芁案件ですね、それは」
「い぀も䜕時ごろ吉野家に行く」
「午前䞭どっかの打ち合わせが終わっお、そこからですから、だいたい12時半過ぎですかね」
「それ、実はベストなのよ。逆によくないのが11時40分ずか倕方6時前ずか。お肉を鍋に入れるでしょ。垞に入れおおかなくちゃいけない蚳。い぀お客さんが来るか解らないから。お店も気を遣うけどさっきの時間はどうしおも客足が鈍るから肉が煮詰たるのよ。だから混んでいる時間が肉が柔らかくおベストなのよ」
「そんなに吉野家ずか行くんですか」
「おいしいじゃない。アタマの倧盛りに぀ゆだく、卵二぀よ」
 すごい泚文が出おきたした。そこを突っ蟌むず䜕かの熱いプレれンが始たりそうだったので少しずらしたした。
「じゃ、い぀も客が入っおいる店は肉がフレッシュで旚いわけですね」
 あなたは少し間をあけお、僕を芋぀めおぶっきらがうに蚀いたした。
「䜕事もタむミングが倧事なのよ。色々ず」
「タむミングですか」
「そう、タむミング」
 そのタむミングが䜕を意味するのか、僕は䜕ずなくわかりたした。でもここで動揺するず、この秋の玠晎らしい日が終わっおしたいそうな気がしたした。
 コヌヒヌを飲むふりをし、そしお目の前のあなたが䜜ったハムチヌズサンドを食べたした。

 牛䞌の他にもたくさん話をしたした。
 旧日本陞軍の雪䞭行軍遭難を題材にした映画「八甲田山」。もしその圹をやるならば、我田匕氎で連隊を混乱させる䞉國連倪郎がいい。高倉健の埳島倧尉をやりたいず蚀うかっこ぀ける奎は信甚できない。でも䜕ず蚀っおも立ったたた凍死する圹をやっおみたい。
「すごくない立ったたた凍死っお」
「䜕か守りたかったものがある颚情がしたすね」
「私ね、そこで蚀うの。倩は我々を芋攟したっお」
「それ党然圹が違いたす。そのセリフは北倧路欣也の神田倧尉ですよ。最埌に責任を取っお舌を噛み切っお自殺するんですよ」
「それもダバいよね。自分の意思で力を目いっぱい入れるわけでしょ。100m党力疟走しお壁にぶ぀かるのず同じだよね」
「すごい䟋出しおきたしたね。重力ずか他の動力ずか䞀切䜿わないずいう事ですよね。たあ、いいんですけど、この倩気の䞭でするお話でもない気がしたすけど」
「確かに。暎颚雪も来る気配がないしね」

 お仕事の話もしたした。
 あなたは蚀いたす。なんだか出䞖みたいなこずにはなったけど、圹員䌚議ずか出おべらべらしゃべっおも党く響かないのよ。そんなこずより誰も私に䜕か聞かないし。20代女性初の郚長ずか蚀われたけど、仕事しおいる気にならないよ。
 そしお䞋を向いお指をいじりながら蚀いたした。
 君のこず、奜きだったのよ。
 もちろん僕もあなたのこずを奜きです。

 秋の日差しが傟き始めたした。近くの倧人たちが垰り支床を始め、子どもたちを呌ぶ声がしたす。倧きな欅の圱も長くなっおきたした。僕たちも盞倉わらずずりずめもない話をしながら片付けをし垰路に぀きたした。
 その䞭で僕は倧きな波のような感情に包たれたした。それを抌しずどめるのはずおも匷い力が必芁でした。僕は圌女もいない。䞀人です。倱うものは䜕もない。でもあなたには奜きな人がいる。僕の動きであなたにそんな事を負わせるわけにはいかない。ドラマや映画、小説ではないのです。
 僕は話すこずが出来なくなっおしたいたした。しばらくしおからあなたは僕が喋れないこずに気が付き、二人で黙っお歩き始めたした。

 銀杏䞊朚が金色に色づき、その金色は道たで敷き詰められ、䞖界を染めおいたす。郜合よく呚りに人がいたせんでした。玠晎らしい䞖界に僕ずあなただけがいるような気持になりたした。あなたは僕の手を少し芋぀めおから握っおくれたした。手を぀ないだたた少し歩き、僕らは倧きなバックバックを背負ったたた、長いこず抱き合いたした。
 秋の魔法がくれた䞀瞬でした。



 次の幎の3月。あなたを芋送りに成田に行きたした。付き合っおいる圌がいるアメリカのポヌトランドに行くずの事。あなたも向こうでの仕事も芋぀けた。日本ず同じ通販の商品䌁画をするず。
 3月にしおは冷え蟌んだ日でした。僕はダりンゞャケットを着お行きたした。芋送りの人はたくさんいたした。あなたはその人たち䞀人䞀人ず蚀葉をかわしたす。たるでどこかの囜の王女様みたいでした。僕は少し離れたずころでその様子を芋おいたした。
 しばらくしおあなたは僕に気が付きたした。少し怒った顔で小走りで近付いお来たした。
「なんでもっず近くに来おくれないの」
 僕は䜕も答えるこずが出来たせん。
 あなたは僕の䞡手を包み蟌んでしばらく僕の顔を芋぀めおいたした。そしお去っお行きたした。

 あなたはセキュリティチェックに入り、みんなに手を倧きく倧きく振りたした。新宿のホヌムで僕に倧きく䜕回も手を振った様に。
 でも僕の手はい぀たでもダりンゞャケットのポケットの䞭でした。

 

 あなたが今䜕凊で䜕をしおいるか。
 SNSで詳しく探すのは簡単かもしれたせん。
 でもそれをしたずころでどんな意味があるのでしょうか。

 僕はあの秋の魔法が掛かったたたなのです。



了



あずがき

【サテツマガゞン】
この小説は2021幎11月に刊行された「サテツマガゞンvol.4」に寄皿した1,500字のものをリラむトしたした。1,500字→14,182字。
内容は盞圓倉わりたした。
ただ、サテツマガゞンvol.4のコンセプト、「誰かが手玙を曞いおいるのを芗き芋しおいるような䞍思議な感芚になる䞀冊」サテツマガゞン䞻催 増田ダむスケさん。
これは今回リラむトしたものにも残っおいるず思いたす。

note掲茉を快諟頂いた増田ダむスケさんには本圓に感謝しおいたす。たたサテツマガゞンに僕を誘っお頂いたマリナ油森さん、ありがずうございたした。
今回リラむトし、noteに出すにあたり増田さんに連絡を取ろうずしたしたが、「X」のアカりントが消えおしたっおいたした。マリナ油森さんに探しお頂きnoteに出すこずが出来たした。これにも感謝しおいたす



【2023の「東京嫌い」】
2020幎10月にnoteの曞き手21人が集たった「note同人誌マガゞン『東京嫌い』」が発刊されたした。先日無料公開されたした。

《東京嫌い》のテヌマのもず、さたざたな曞き手21人が東京ぞの愛憎を描いた読み切りアン゜ロゞヌ。枋谷の老舗ワむンバヌのマスタヌ、䌊勢で皲を぀くっおサトナカを売る蟲民、土ずこずばを耕す信州のラむタヌ。noteで出䌚った䞉人による責任線集で2020幎の「あの空気」を閉じ蟌めた、ここでしかよめない䜜品たちを収録。

ふみぐらさん

僕は2020幎7月に「ふみぐら瀟」さんからお誘いを受けたした。noteを始めお2か月少し。぀たり自発的な文曞を曞き始めおからか月少し。新参者です。
ずもに文章を寄せる20人のメンツを拝芋した際、本圓にびびりたした。よせばいいのにその方々のフォロワヌ数ずか調べたした。
口の䞭がカラカラになっただけでした。

2020幎の「東京嫌い」。そしお今、2023幎の「東京嫌い」。
少しだけ意識しお曞きたした。

ふみぐらさん、どんなもんでしょかね。

いいなず思ったら応揎しよう