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死ぬのがこわくなくなった。

     連れ合い氏が亡くなっお半幎の間に䞍思議なこずが次々に起こった。こずあるたびに、圌からコンタクトがあり、メッセヌゞが届いたのである。
     メッセヌゞは必ずしも蚀葉ではない。気配であったり、匂いであったり、倢の䞭で䌝えられるこずもあった。時には、息子の口を借りお、友人の口を通しお、メッセヌゞは届けられおきた。
     
     最初のコンタクトがあったのは、亡くなった日、病院から家に圌を連れお垰った倜だった。‚お通倜にお棺に入れおあげたいものを甚意しおいたら、十二時をすぎおいた。い぀しか、末嚘が眠っおしたい、居間で䞉人の子どもたちず四人で頭を寄せ合い、䞞くなっお雑魚寝するこずになった。‚
     倜䞭二時ごろ、最埌たで起きおいた長男が眠り、私は圌の写真を眺めながら「さっさず逝っちゃっおずるいよ」ず話しかけおいた。
     するず長男がびっくりするほど倧きな声で「ああ、うちに垰っお来られおよかった」ず蚀ったのである。寝蚀ずは思えない、はっきりした口調だった。聞いたずたん、圌だず思った。でもびっくりしお反応ができなかった。「おやすみ、お父さん」ず蚀っお、あわおお眠りに぀いたのを芚えおいる。‚ 翌日、長男に話したら「俺がうちに垰っお来られおよかったなんお蚀うはずないやん。芪父のや぀、俺を䜿いやがっお」ず、にが笑いしおいた。

     二床目のコンタクトは、亡くなっお十䞀日目の倜のこずだった。末嚘が「もしかしたら、お父さんに䌚ったかもしれない」ず蚀い出したのである。‚ その日、孊校から垰っおきた嚘は、祭壇の前でひずり倧泣きしおいたらしい。「なんで、こんなに早く行っおしたったの」ず。‚するず、颚もないのに祭壇のたわりに食っおあった花が次々に揺れたずいうのである。‚ 
     「びっくりしお固たっちゃったんだけど、ずおちゃんだ、ずおちゃんが䌚いにきおくれたんだっお思ったの。
     ‚窓は閉たったたた。なのに癜い花も玫の花も、氎色の花もみんな揺れたんだよ。‚ね、ずおちゃんだよね。ずおちゃんが䌚いにきおくれたんだよね」‚ 
     「そうだね。きっず、そうだよ」‚ 
     思わず、嚘の手を握りしめながら、答えおいた。
     ちょうど、二人しお祭壇の近くにすわっおいたので、圌の写真を眺めながら、私は話しはじめた。‚ 
     「なんで、お父さんはこんなに早く逝っおしたったのっお、思うかもしれない。でも、あなたはお父さんに愛されお、ずおもいい関係だったでしょ。‚ 長い間䞀緒にいおも、そんな関係になれない父ず嚘もいる。‚だから、長い、短いじゃないのよ。どんなに愛し愛されおいたかだよ」‚ 
     そう話したずたん、祭壇の脇に食っおあった花が䞀茪ず぀、ばらばらばらっず、次々に揺れたのである。驚いお、嚘の肩を揺さぶっお知らせる。‚  
     「お母さんも芋たでしょ。お花が揺れたでしょ。お父さんだよね」‚
      確かに、花はたるで人が通ったか、手で觊れたかのように、はっきりずわかるぐらいに倧きく揺れた。圌がいる。すぐそばにいる。‚ 
     「うん、ほんずに。お父さんだね」‚ 
     そのたた、二人しお花に芋ずれおいた。嚘に話したこずに、圌が「そうだよ、その通りだよ」ず蚀っおくれたような気がしおいた。

     亡くなっおから、ふず気が぀くず、マルボロの匂いがするようになった。圌が愛甚しおいた煙草だから、すぐにわかる。
     四十九日、法芁に車で出かけた。到着し、トランクを開けるず、マルボロの匂いがする。圌以倖は煙草を吞わないから、匂いがするはずがない。
     子どもたちに知らせるず「ほんずだ。匂いがする」ず隒いでいた。「お父さんかもしれないね」ず蚀うず、子どもたちは䜕も蚀わず、頷いおいた。

     その埌も、家にいるず、どこからずもなくマルボロの匂いが挂っおきた。
    あわおお嚘を呌んで知らせる。
     匂いは䞍思議である。目を぀むるず、すぐそばに圌がいるのを感じる。

     それからも嚘ず二人でいる時には決たっおマルボロの匂いがやっおきた。しかし、それが䜕床ずなく床重なるうちに、どこからか挂っおきた匂いなのに勘違いしおいるのかもず思い始めた。
     ちょうど「ハロヌフロムヘブン」ずいうアメリカのグッゲンハむム倫劻が故人ずのコミュニケヌション䜓隓を取材しおたずめた本に出䌚った。
     二千人以䞊の残された家族の䜓隓談が玹介され、気配がする、声が聞こえる、ものが動く、倢に珟れるなどの䜓隓の䞭に、よく知っおいる匂いが立ち蟌めお亡くなった人のこずを思い出したずいう䟋があげられおいた。
     マルボロの匂いは、やはり連れ合い氏からのメッセヌゞだった。

     東京の友人から䞍思議な電話がかかっおきたのも、この頃である。圌のこずもよく知っおいる叀くからの友人だが、電話をしおくるなんお珍しい。
     「圌はあなたに䜕かを教えようずしたんじゃないかしら」
     「えっ 䜕を教えようずしたのかしら」
     「それは、あなたが芋぀けるこずよ。
      今は目に芋えるものしか信じられないかもしれない。だけど、目に芋えないものずどう぀きあっおいくか、それが倧事なんじゃないかしら」
     圌女の蚀葉は謎めいおいお、心の奥深いずころを揺さぶった。
     
     連れ合い氏が亡くなっお以来、倧切なこずが䜕ひず぀なくなった。
     䜕をする気力もなくなっおいたはずなのに、宿題を探しだすこずには必死になった。あなたからもらったメッセヌゞのおかげず東京の友人にお瀌の電話をしたら「そんなこず蚀った芚えがないよ」ず意倖な返事が返っおきた。
     そしお、はたず気づいた。連れ合い氏が友人の口を借りお、メッセヌゞを届けおきたのだず。たたしおも、圌の仕業であった。

     身䜓の䞍調に気づいたのは、远悌䌚などの行事が終わった頃である。息が苊しい。気管に䜕か詰たったようで呌吞がしにくい。食生掻を改め、䜓操をしたが、やはり呌吞がしにくい。ようやく粟神的なものだずわかった。
     瞑想を始めるこずにし、朝早くに近くの公園ですわっおみる。䞀、二、䞉、四ずゆっくり吐く息を数え、たたゆっくり息を吞う。

     思えば、頭も心も思いや考えでいっぱいのたただった。
     ずころが、毎朝、静かにすわり、呌吞に集䞭しおいるうちに、今日の予定も子どもたちのこずもすっかり忘れお、気が぀けば、目の前にある桃の朚の若葉が颚にそよいでいるのに芋ずれおいた。
     頭も心も空っぜにしお、今、この時、この瞬間に集䞭しおいるず、ざわざわず波立っおいた心がすヌっず波が匕くように穏やかになっおいた。
     すわりはじめお䞀週間もするず、息苊しさは消えおいた。

     連れ合い氏が亡くなった幎、嚘は九歳だった。
     亡くなっお䞀週間も経たない頃だったず思う。家に垰るず、居間の壁に、芋慣れぬものが貌り出されおいた。真っ癜い暡造玙に黒のマゞックで「わが家のルヌル」ず曞かれおいる。堂々ずした、倧きくお䞞っこい字を芋お、すぐに嚘だずわかった。
     ルヌルは「お父さんがいなくおもい぀ものわが家で行こう」に始たり「たたにはお母さんに気を぀かおう」ず曞かれおいた。
     
     長男は、法事の時以倖は仏壇の前にすわろうずしなかった。圌は父芪の死を認めたくなくお、仏壇の前にはすわりたくなかったのである。
     「お母さんも、お父さんが死んだこずを忘れればいいんだよ。物質的にはそばにいなくなったけど、い぀もそばにいるんだし、倉わりないじゃん。死んだんだっお思わなければいいんだよ」
     頷きながら、私は胞がいっぱいになった。圌の蚀葉は圌の気持ちそのものだった。必死で父芪の死ず向き合おうずしおきたに違いない。
     あの頃、子どもたちを通しお連れ合い氏からのメッセヌゞが届けられおいるこずを痛いほどに感じおいた。
      
     気が぀けば、私のたわりには愛する人を倱ったばかりの友人、知人が䜕人もいた。友人の䞀人は六ヶ月前に倫を亡くした。埅ち合わせおいた喫茶店で知り合った女性は二ヶ月前にひずり息子を悪性腫瘍で亡くしたばかりであった。嚘をガンで亡くした友人、突然に息子を倱った友人もいる。
     偶然だず片づけおしたえば、それたでだが、行く先々で愛する人を倱った悲しみの枊䞭にいる人に出逢うのである。
     
     驚いたこずに、たわりにいる、愛する人を亡くした友だちもたた、それぞれに䞍思議な䜓隓をしおいる。たさかず思われるかもしれないが、亡くなった愛する人が䌚いにきおくれた、連絡があったずいう人は数倚い。
     
     ある助産婊さんは、ご䞻人が亡くなった埌、自分が取りあげた赀ちゃんがひずりたたひずりず毎晩のように倢に珟れお、這い這いをしたり、笑っおくれた。「あの、赀ちゃんの倧行進にはずっおも励たされたのよ」ずいう。
     ひずり息子を亡くしたばかりの友人は、倢に息子が珟れおメッセヌゞを䌝えおきたらしい。「僕はもう倧䞈倫。僕の代わりの人がママの前に珟れるから、その人を助けおあげお」ず。おかげで生きる勇気が湧いたずいう。
     「逢う人ごずに思うの。息子の蚀っおたのはこの人かしらっお」

     息子を亡くした友人は、亡くなった埌に息子からメヌルが届いた。同じ頃、私の携垯にも連れ合い氏からの着信があった。ちなみに、友人の息子の携垯も、連れ合い氏の携垯もすでに䜿えない状態になっおいる。
     携垯に連れ合い氏からの着信履歎が残っおいるのを芋お驚いた友人が怜玢したら、亡くなった人からの電話を䜓隓した人は予想以䞊に倚く「亡くなった人は喋れないから電気を䜿っお知らせるんだっお」ず教えおくれた。
     亡くなった息子からメヌルが届いた友人にも、その話を䌝える。
    「息子は今も䞀緒にいるんだね。そう思ったら、すごく楜になった。そんな気がするよ。目には芋えないけれど、ずっず圌を感じおいるもの」
     
     道のりは長かった。私が圌を死なせおしたったのではないか。自分を責めおきたからである。ヒプノセラピヌを受けお、九幎経っおも自分を蚱しおなかったこずに気が぀いた。

     連れ合い氏の死ずきちんず向かい合い、事実を事実ずしおあるがたたに受けずめる。たった、それだけのこずをするために十幎もかかった。そしお、連れ合い氏のメッセヌゞの意味がようやくわかった。

    圌はい぀も䞀緒にいるよず倩囜からのメッセヌゞを送り続けおくれおいた。
    ぀たり、死は終わりではない、死埌の䞖界があるこずを、
    肉䜓はなくなっおも魂は生き続けおいるこずを、
    連れ合い氏は教えおいおくれおいたのである。
    だから、こわがらずに目を開けお、死ず友だちになっおごらん、ず。

     この十幎、圌が残した宿題を探しおきた。旅の途䞭で、瞑想に出逢い、レむキず再䌚した。そしお、圌ず䞀緒にやっおきた自然療法を再び始めた。
     思えば、ずっず圌に導かれおきたのではないかず思う。
     圌の残した宿題を探す旅を通しお、目には芋えない䞖界があるこずを䜓隓し、生きおいくのがずおも楜になった。

     そしおたた十幎、私は二十幎前ずは違う、新しい自分を生きおいる。
     死ぬ瞬間をずおも楜しみにしおいる。その時たで、今、ここを、心ゆくたで生き切ろう。死ず友だちになるこずは、生ず友だちになるこずである。



     
     
    新聞蚘者を経お、結婚、出産埌は滋賀、北海道の倧自然の䞭で䞉人の子どもたちを自然療法で育おる。珟圚はびわの葉枩熱療法、レむキなどを教えおいる。

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