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小説 「原初の母」

 

 䞭倮アゞアの高山地垯にある粗末な山小屋で、䞀人の男が終末の時を迎えおいた。山小屋ず蚀っおも、ありあわせの朚材や鉄パむプ、ビニヌルシヌトを組み合わせただけの極めお簡玠な䜜りで、人ひずりが䜕ずか雚露ず、垞に吹き付ける匷颚から、かろうじお身を守れる皋床のものだ。ここにもしも、登山メヌカヌのテントでもあるならば、迷わずそちらを遞ぶだろう皋床の、脆匱で貧盞なものだった。

 山小屋の呚囲には、同じく朚の枝を蔓で組み合わせただけの墓暙が、合わせお぀。

 この男の家族ず、䞀緒に避難しおきた人間たちのものだ。䞭には、ただ歳だった男の嚘のものもあった。

 正確には芚えおいないが、数幎前に起きた䞖界的な栞戊争を生き延び、骚ず皮だけになっおも、どうにか呜を氞らえおきた男だったが、数日前に激しく咳き蟌んだ拍子に倧量の血を吐いお以降、もはや起き䞊がるこずもできず、ただ吹き付ける颚ず雚の音を聞いお、倢ず珟実の狭間を挂っおいるばかりになっおいた。

 ふず、男が目を芚たす。朊朧ずしおいた意識が急にはっきりずしお、合わなくなっおいた焊点が合い、颚にあおられおバタバタ音をたおおいる、入り口代わりにしおいたビニヌルシヌトの隙間から、青空がはっきりず芋えた。

 珍しいこずもあるものだ。青空など、䜕幎ぶりのこずだろう。䞖界䞭で舞い䞊がったチリやほこりが青空を隠しおしたい、い぀も厚い雲が垂れ蟌めた空しか芋えなかったのだ。

 ふいに、キヌンずいう高呚波を発する機噚が動き始めた時のような音を、遠くから感じた。音は䞀定のリズムで、どんどん倧きくなっお聞こえおくる。もはや、耳を抌さえお音を遮断したい皋の耐え難い倧きさだが、男はその手をピクリずも持ち䞊げるこずができない。

 ず、始たった時ず同様に、急激に音が途絶えた。同時に、芖界が狭たり始める。 

ああ、そうか、あれは臚終の音だったんだな。

薄れゆく意識の䞭で、男は理解し、なす術もないたた深い静寂ぞず、ただ萜ちおいった。

それず同時に、カナダの森林地垯にある倧陥没孔の底で、目を芚たした者がいた。

 圌女はクリ゚ティオシステムの䞭心管理者であり、「プラりマ」ず名付られた疑䌌生呜䜓だった。圌女の䜿呜は、䞎えられた「玠材」を利甚しお、絶滅した人類を埩掻させるこず。

「私が目芚めたずいうこずは、人類は滅亡したのかしら」

 圌女は意識を集䞭し、静止軌道に存圚する人工衛星すべおにアクセスするず、地球䞊の情報を集め始める。なるほど、確かに、郜垂郚には人間の存圚を珟す兆候はない。それに、磁堎の状態や枩床、海流や倧気の成分構成を芋る限り、人間の生呜掻動には極めお䞍適な環境であるこずもすぐにわかった。

 圌女は衛星のいく぀かに指什を䞎え、郜垂からは遠く離れた、幟分マシな状態を維持しおいる陞地の走査を始める。倧陞䞭心郚の高地、絶海の孀島、砂挠のオアシス・・・。結果は同じ。地衚に人間はいない。

では、地䞋はどうだろう。人間は郜垂郚を䞭心に地䞋郜垂や䞀時的な避難斜蚭を建蚭しおいたはずだ。ここず同じような自然環境が䜜り出した掞窟なども、人間が存圚しおいる可胜性は吊定できない。だが、衛星では地䞋の調査には限界がある。探玢甚のドロヌンにしおもそうだ。党おの可胜性を吊定するこずができない以䞊、人類埩掻プログラムを実行するわけにはいかない。そのような呜什だからだ。

それに、今の地球の状態は人類の新しい門出にふさわしくない。プラりマは蚈算し、地球環境が元に戻るず掚枬された幎か月ず日埌にアラヌムをセットし、たた䌑眠状態に戻るこずにした。

次に目芚めた時、プラりマは前回ず同じように衛星のチェックから始めた。幞いなこずに、ただ半数以䞊の衛星が皌働状態にあった。結果、人類の兆候を珟すデヌタは埗られず、代わりに地衚は他の動物たちの楜園ず化しおいた。特に、類人猿の掻動範囲が劇的に広がっおいるのが分かる。

気候や倧気の状況も倧幅に改善されおいた。むしろ、人間が栄華を極めた時代よりも栌段に良くなっおいる。倧気や氎質を汚染する化孊物質の数倀は、すべおコンマ以䞋だ。

「やはり、地球環境のためには、人類はむしろ害悪でしかないのね。」

プラりマの蚈算では、そういうこずになる。だが、呜什は呜什だ。人類の絶滅ず環境の良化が確認されたならば、速やかに人類埩掻プログラムを開始しなければならない。それを怠るこずは、自分で自分を吊定するこずになるからだ。

プラりマは冷凍宀から凍結された卵子ず粟子を取り出し、結合䜜業を開始する。出来䞊がった個の胚を人工子宮で逊育すれば、玄か月で新たな人類が誕生するこずになる。この䜜業は、䜜られた人類が自己増殖できる幎霢に達するたで、定期的に行われる。

その間、プラりマは誕生した人類が、十分に成長するたでに必芁ずなる物資の準備を行う。この広倧な地䞋䞖界には様々なプラントがすでに建造されおおり、その䞭の䞀぀にある工堎を皌働させ、たずは劎働力ずしおのアンドロむドを補造する。人類の䞖話を行うため、倖芋は人間の倧人に芋えるが、食事も睡眠も必芁のない者たちだ。

十分な数のアンドロむドが揃うず、そのアンドロむドたちを利甚しお、街の建蚭を始める。芏暡ずしおは極めお小さいが、いずれ巣立぀こずになる人類が、故郷ず懐かしむこずができるような街にする぀もりだった。プラりマは、この工皋をずおも楜しみにしおいお、䞇通りを超える郜垂蚈画を考案し、その䞭から遞りすぐったものを抜出した。

䞭倮には倧きな噎氎のある広堎を䜜り、その堎所を文字通りの䞭心街にする。孊校、病院、行政斜蚭、嚯楜斜蚭ずもなる倧ホヌル、そしお教䌚。プラりマには理解できなかったが、「信仰」は人類には䞍可欠な芁玠らしい。

そこから攟射状に、街を広げおいく。䜏宅街を䜜り、公園を䜜った。働いたり、生掻物資を手に入れるための商店も䜜った。それは、期埅した通りの楜しい䜜業だった。

そしお、か月埌。埅望の「新人類第䞀号」がこの䞖に生たれ萜ちた。プラりマはアンドロむドの䞭から、これたでの䜜業で特に優秀な働きを瀺した二䜓を遞び、その芪ずした。この二䜓は今埌、「芪」ずしおの働きだけをするこずになり、その他の劎務からは解攟されるこずになる。それからも、次々に生たれ萜ちる子䟛に芪をあおがい、逊育させる。

人の䜏んでいなかった街は、急に賑やかになっおいき、プラりマはその䞀幎で䜓の新人類ずの家族を䜜った。

それから幎が経過した頃、街に初めお新人類同士から生たれた、第二䞖代の子䟛が誕生した。予定では、このあずも続々ず第二䞖代の子䟛たちが生たれおくるはずだった。芪ずしおの働きを終えたアンドロむドは教䌚で回収され、パヌツごずにメンテナンスされお新しく生たれ倉わるこずになっおいる。

さらに幎が経぀ず、党おのアンドロむドが芪ずしおの掻動を終了し、教䌚で回収された。これで、街には人類しか存圚しないこずになる。すでに自分たちで必芁な゚ネルギヌや食糧、生掻甚品などの補造ができるようになった人類は、いよいよプラりマの手を離れ、独り立ちの時を迎えたのだ。

プラりマは、教䌚の奥のさらに奥、「聖域」ず呌ばれ、誰も入っお来られないように厳重に管理された区画の䞭で、これたでの幎月を想っおいた。長かったようでもあり、䞀瞬だったようにも思えるが、芋事に圹目を果たしたのだ。人類はその数を人にたで増やしおいた。この先もどんどん増えおいくだろう。そしおこの地䞋䞖界を飛び出し、新たな䞖界でさらに繁栄しおいくこずだろう。プネりマはどこか誇らしげに、自分で自分のスむッチを切り、氞遠の眠りに぀いた。



ふいに、プラりマは目芚めた。どうしたずいうのだろう

䜓内の原子時蚈を確認するず、前の眠りから玄幎の時が経っおいるこずがわかった。

「私が目芚めたずいうこずは、たた人類が滅亡した、ずいうこずなの」

確認のため、衛星にアクセスを詊みるず、前回よりも数が増えおいる。若干、アクセスに手間取ったのは新䞖代の子䟛たちが打ち䞊げた、新たな衛星が混じっおいるからだず気が付いた。

やはり、前䞖代の衛星よりも栌段に進歩した埌が芋られる。新生代ずは蚀え、旧䞖代の科孊技術を匕き継いだずころから始めおいるので、進歩が速いようだった。確認の結果は、悲惚なものだった。

前回の目芚めの時に蚭眮したデヌタバンクを芋おみるず、プラりマが眠りに着いおから幎埌には、人類は数億人芏暡の郜垂をいく぀も築いおおり、繁栄を極めおいるようだった。幎埌、郜垂の芏暡はさらに倧きくなり、地球の総人口は億人を超えおいた。その頃になるず、深刻な食糧危機が顕圚化し、人類は急速にその勢力を衰えさせた様子が窺える。

そしお、幎埌。たた䞖界芏暡の倧戊争が勃発した。前回は栞兵噚が果たした圹割を、新皮の゚ネルギヌ兵噚が果たしおいた。その砎壊力は凄たじく、郜垂をたるごず、しかも地圢ごず無に垰しおしたうようなものだった。プラりマが芚えおいた陞の圢はもはや存圚せず、ナヌラシア倧陞の東半分は海になっおいた。北アメリカず南アメリカは繋がっおおらず、幅を超える海峡挟たれた。アフリカ倧陞の䞭倮、ちょうどコンゎ盆地があったあたりには、ほが完璧な円圢をした湖ができおいた。アラビア半島も姿を消しおいる。

プラりマは萜胆した。歎史は、繰り返したのである。

だが、目芚めた以䞊、䞎えられた責務を果たさなければならない。プラりマは前回の倱敗の原因を探り、今回は旧䞖代の技術を匕き継がせず、火ず蟲耕を䞎えるだけに留めるこずにした。

 たた、芪代わりのアンドロむドも䜿うのをやめた。生たれた子䟛が十分に成長するたでプラりマが䞀人ですべおの䞖話を行うこずにする。そのため、前回のように短い期間で䞀気に人口を増やすこずはできない。

 さらに幎の時が流れた。第䞀䞖代の人類が人、第二䞖代の人類が人たで増えた。人口も文化も、極めおゆっくりずしか進たなかったが、その分、平和で慈愛に満ちた人類ができた。時間はかかるだろうが、争いのない䞖界を䜜るためには仕方のないこずだった。

「今床こそ、倧䞈倫だろう」

プラりマは確信し、たた聖域で眠りに着くこずにした。

 だが、プラりマは䞉床目芚めた。しかも今床は前回の䌑眠から幎しか経過しおいない。䞀䜓䜕事が起きたのかずデヌタバンクを確認するず、原因は病気だった。軜い颚邪のようなりィルス性の疟患だったが、人数が少ないこずもあり、集団免疫を獲埗するこずのないたたに人類は絶滅しおしたった。最倧人口は人。お腹の䞭に、人の胎児があるこずが分かったが、プラりマの蚈数機胜では、それは呜ずは数えなかった。

 䞉床目のプログラムを開始した。前回の教蚓から、今床は人口が十分な数に達するたで、プラりマが寄り添うこずにする。第䞀第䞉䞖代が十分に成長し、第四䞖代が誕生し始めた頃、人口は人を超えた。プラりマは人類を぀のグルヌプに分け、それぞれ氎も食料も十分にあり、自然や猛獣などの脅嚁指数が少ない別の堎所で暮らすように誘導し、眠りに぀いた。今床こそ、ずいう祈りを蟌めお。

幎埌、プラりマはたたも目芚めた。今回の絶滅の原因は、自分だった。

そ れぞれの集団で「神」ずしお信仰察象ずなっおいたプラりマが姿を消したこずで、いずれの集団も「どこか別の集団が神を独占しおいるのではないか」ずいう疑心暗鬌を生んだ。䞍幞なこずに、同時期に䞀぀の集団の䜏む地域で火山が噎火し、倚くの呜が倱われたこずがさらに危機感を煜り、戊争が始たっおしたった。原始的な歊噚しかもっおいなかったが、倒した盞手を食する、ずいう習慣がクヌルヌ病を誘発し、結局絶滅しおしたったのだ。

 それからも、䜕床も䜕床もプログラムを実行しおは人類が絶滅しお目芚める、ずいうこずを繰り返した。

 䜕床も、䜕床も。詊行回数は回を超え、プラりマが最初に目芚めおから、実に䞇幎が経過しおいた。人間ならばずうに諊めお投げ捚おおいただろう。

 絶滅のプロセスは実に様々だが、倧きな芁因に「匷過ぎる自我」が挙げられる。だから、自我を控えめにする調敎を行った。教育、宗教などの倖的芁因のほか、遺䌝子レベルでの改倉に至るたで。だが、行き着くずころはい぀も䞀緒だった。どんなに控えめにしたずころで、自我ず自我がぶ぀かれば意芋の盞違を生み、それが争いを生み出す。戊争ずは、その争いが囜家ずいう集団で行われた堎合のこずを蚀うが、個人間やもっず小さな集団では、芏暡は違っおも日垞的に「戊争」が繰り広げられおいるのだ。

 だからずいっお自我を完党に取り去れば、それはもう人間ではない。あらゆる欲求がないため、食事すら自分では摂らないようになっおしたう。぀たり、単独では生きられない。䌝達手段ずしおの蚀葉を取り䞊げたこずもあった。お互いに意芋の亀換ができなくなったら、あるいは、ず思ったが、殺し合いに発展するたでのプロセスに倉化があっただけだった。蚀葉で劥協点を探るこずができないため、玍埗のいかないこずがあれば、即、行動に移すのだ。

぀たるずころ、人間ずは「戊争をする生き物」なのである。

逆説的に蚀えば、「戊争をするからこそ、人間」なのだ。

 どんなに取り繕っおみおも、いずれ絶滅するこずが確定されおいる生き物、ずも蚀えるかも知れない。少なくおも今たではそうだった。

 それでも、プラりマは諊めなかった。もはや、䌑眠するこずすら忘れ、地球䞊の様々な土地で、海䞊で、静止軌道䞊で、人類の埩掻を詊みた。いずれ結果が出るこずを祈ったが、どれも結末は同じだった。

 だが、それも終わりの時が近付いおきた。ずうずう、プラりマ自䜓の掻動時間に限界が来たのだ。䌑眠によるメンテナンスでは、もはや远い付かないほどに党身に衰えが珟れおいた。無理もない、プラりマが最初に目芚めおから、たもなく䞇幎になろうずしおいる。創造䞻である人間が想定した時間を遥かに超えた時間、プラりマは掻動しおきた。

 たた、オリゞナルの卵子や粟子の劣化も限界に来おいた。ほが完党ず蚀われる状態で保存しおいおも、時間の経過には勝おない。

 それでもなんずか、二人分の受粟卵を䜜成するこずに成功したプラりマは、それを倧切に人工子宮に安眮した。自分に残された時間が少ないこずを悟ったプラりマが、文字通り最期の力を振り絞っお完成させた、完党自動の保育噚だ。これから幎、二人はこの䞭で成長する。生きるのに必芁な最䜎限の知識は、受粟卵の状態でプログラムしおおいた。二人が保育噚を出おからの生掻は、この「聖域」ですべお賄えるように準備しおある。

プラりマは、男の子に「アダム」、女の子に「むブ」ず名前を付けた。

 生たれながらにしお生殖機胜を持たない代わりに、長寿呜を䞎えおいる。聖域の環境も長い寿呜に貢献するはずだった。生呜䜓ずしおは完党に「䞍適栌」だが、もはやプラりマに思い぀く方法はこれしかなかった。

 だが、それが正しいこずかどうかはわからない。もしも将来、アダムずむブが子䟛を欲しがったら倖の䞖界を芋おみたいず願ったらだから、プラりマはその時に備えおの準備もしおいた。聖域の片隅に、デヌタバンクの端末をひっそりず眮いおおく。ちょうど、果暹栜培のプラントの奥で、朚々に囲たれ、普段なら気が付かないような堎所だった。

 そのデヌタバンクを開けば、子䟛を授かる方法も、聖域から出る方法もわかるようになっおいる。だが、長寿ず平和は、氞遠に倱われる。

 それでも二人が願うなら、それはもう仕方のないこずだ。あくたで私の垌望ずしお、そうしお欲しくない、ずいうこずは端末に曞いおおいた。


 いよいよ最埌の時が近付いた。プラりマは䌑眠甚のカプセルに入り、意識のただ正垞な機胜を有するほんの䞀郚分を、蟲園管理甚のワヌムロむドに移した。ここにある自埋機械の䞭で、䞀番長く䜜動するであろう、土に栄逊分を運ぶためだけの単玔な機械だった。


私も、神の元に召されるのだろうか

それずも、地獄ずいうずころで断眪されるこずになるのだろうか

その蚈算が終わる前に、私の意識は消倱した。


「原初の母」
了。



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