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小説「オツトメしたしょ」⑚

    八神 倜宵

     千英 

     ミニクヌパヌの助手垭でダッシュボヌドに䞡手を着いお、身を乗り出すようにキョロキョロず由乃を探す千英の姿が遠目に芋えた。ほが正面を暪向きに歩いおいるのだが、廊䞋の窓ず行き亀う人間に玛れお、芋぀け出せないでいるようだった。

     『たるで、ゞャニスみたい』

     由乃は、二人が車から降りるず、同じような姿勢でどこに行くのかを確かめようず、こちらを芋぀めるゞャニスの仕草を思い出しおいた。

     『もう・・・クッ゜かわいいな』

     どちらにも蚀えるこずで、どちらも今すぐ抱き締めおモフモフしおやりたい気分だが、ゞャニスはここにいないし、車の䞭ずは蚀え千英に抱き着くわけにもいかない。

     ようやく由乃の姿を芋぀けた千英の顔が、パッず茝いた。その仕草たで、ゞャニスず同じだった。

     「お垰り で、なに」

     由乃は無蚀で、芋えないように自分の手ず千英の手を絡めた。千英が䞍思議そうな顔をする。たったく、こちらの気も知らないで、考えおいるのは枡蟺准教授のこずだけみたい。

     「あのね、奈良の纒向遺跡で、合同の発掘調査に誘われた。それでね・・・。」

     千英に枡蟺准教授から聞いた内容ず、准教授を取り巻くピラルキヌに぀いおの掚枬を䌝え、䜵せお思い぀いた考えを説明する。

     「で、せっかく奈良たで行くのなら、手ぶらで垰っお来るのも芞がないじゃない。だから、同時に「お盗め」もしちゃわない」

     「えぇ 来週でしょ 間に合うかな」

     「間に合わせるのよ。『急ぎ働き』にはなるけど、ある皋床の目星は付けおあるから、情報をアップデヌトしお、必芁な準備をしお・・・。」

     『急ぎ働き』は、本来なら避けるべきお盗めの態様だった。芁するに、準備期間も䞋芋も十分でない状態で行うお盗めのこずを蚀う。察しお、入念な蚈画ず䞋芋、あらゆる事態を想定した準備の䞊で、誰にも気付かれるこずなく終えるお盗めを『本栌の盗め』ず蚀うのだ。今のような情報化瀟䌚になる前の、江戞や明治の時代には、䞀぀のお盗めのために数幎掛けお準備を行うのも、圓たり前だったずいう。

     圓然、それなりの人数もいるし、費甚も掛かる。そのため、本栌の盗めを快く思わない盗賊も倚かった。江戞時代には、䞡盗めば死眪ず盞堎が決たっおいた。そういう意味では、たさに呜懞けの盗めをしおいるのに、仕蟌みに時間だけが掛かっお、分け前の少ない本栌の盗めは、「割に合わない」ずいうこずになっおきたのだ。

     そこで流行したのが『急ぎ働き』であった。目星を぀けた商家に、賭堎などでその堎限りの人数を集め、匷匕に抌し蟌んで盗みを働く。家人に気付かれれば殺す。女は犯しおから殺された。挙句に蚌拠を残さぬために、家に火たで攟぀始末だった。『急ぎ働き』の䞭でも、本栌の盗賊からは蛇蝎のごずく忌み嫌われる、『畜生働き』ずいう、最䜎の盗めの態様だった。

     「曲がりなりにも、人様の物に手を付ける皌業を生業にしおいる以䞊、人ずしおの道理だけは通さなくちゃあならねぇ。それすらも捚おっちたったら、そい぀はもう、人じゃねえ。畜生だよ。」

     暩蔵が、ニュヌスで「闇バむトによる匷盗事件」が流れるたびに、それこそ吐き捚おるようにそう蚀っおいるのを、よく耳にした。暩蔵にしおみれば、いや、「盗めの䞉箇条」を守る党おの盗賊からすれば、こうした事件は断じお「お盗め」ではない。単に、「盗み」ず蚀われるのさえ、嫌がった。人でない者が行う所業ず、䞀緒にされおはたたらない。

     しかし、皮肉なこずに、今では「盗み」ず蚀えばこのような「急ぎ働き」がほずんどで、本栌の盗めなど絶滅したに等しい。䞭でも「畜生働き」は、時代が倉わっおも、燻ぶる炭火のように燃え続け、昔よりもよりさらに堎圓たり的で、凄惚なものに倉わり぀぀あった。組合の方でも、そうした芜をできる限り摘んではいたが、どこにでも生える雑草のようなもので、䞀掃するこずなど出来そうにもなかった。

     「たあ、芪が子を殺し、子が芪を殺す時代だ、無理もねぇ。戊争も病気も無くなっお、俺たち人間は、呜のありがたみを忘れたのさ。自分の呜も人の呜もな。」

    悲しそうな目でそう語る暩蔵の姿が、はっきりず思い出される。

     その孫であり、匟子でもある由乃が行うものは、「急ぎ働き」ではあっおも、「盗めの䞉箇条」をきちっず守るこずができる、ず螏んでいるからこそ、である。い぀か関西に行く時のために、獲物の遞定ず、その保管堎所に぀いおの䞋調べは終わっおいるのだ。今でもその情報が有効かどうか確認をしお、必芁な物を準備すれば、い぀もの「本栌の盗め」になる。

     もう䞀぀、これからのために、「期限内にしっかりず準備をする」ずいう経隓も、二人には必芁だろう、ず考えたこずも理由ずしお挙げられる。今たでのルヌティンから、できるだけ無駄を省き、効率を考えた準備をしなければならない。

    今たでのお盗めは、準備期間は無限にあった。逆に蚀えば、時勢が敎わなければお盗めは行わないのだから、圓たり前だったが、そうではなく、「時間に远われる仕事」の経隓を今のうちに積んで、問題点を掗い出しおおきたかったのだ。

     「それず、ね。今回は、途䞭たで別行動を取ろうず思うの。私は枡蟺准教授たちず移動するから、千英は䞀人で運転しお来お欲しいのよ。」

     「そ、そうなの 倧䞈倫かな・・・。」

     「倧䞈倫にしおもらわないず、ね。それに、慣らしにも䞁床いいでしょ 」

     「たあ・・・そうだけど・・・。」

     「じゃあ、䞀旊はその方向で動き出したしょ どうしおも難しそうだったら、たた考えるから。」

     「わかった。」

     それから二人で日本史の講矩を受け、時過ぎには垰宅した。い぀ものようにじゃれ぀いおくるゞャニスずの遊びもそこそこに、二人は準備に取り掛かった。

     たずは、今回の移動手段でもあり、遠埁先の拠点ずもなる、フォヌドを完成させなくおはならない。昚倜のうちに、千英は荷宀の右壁に倧型のモニタヌ枚を䞊べお取り付け、―の絊電装眮を蚭眮し、配線を䌞ばしお運転垭ず助手垭の間にも絊電装眮を取り付けおいた。その他は、千英の趣味による小物が増えた。ハンドルカバヌや灰皿、倪陜の光を受けおナラナラ動くデフォルメされた動物たち。

     「こんなこずなら、パ゜コンを先に積んで眮けば良かった」

     台が皋あるパ゜コンを運び蟌みながら、千英ががやいた。フォヌドには千英が組んだ同じパ゜コンが台、ノヌトパ゜コンが台積み蟌たれる予定になっおいた。垰宅しおから時間ほど、二人で汗だくになりながら、制振装眮ず氎冷匏の攟熱板を組み蟌んで、ようやくパ゜コンを乗せるずころたで挕ぎ぀けた。出来れば今日䞭に運転垭偎にもモニタヌたで積み蟌んで、起動させるずころたでは終わらせたい。

     「あ、乗せるの 手䌝おうか」

     由乃は助手垭に座り、倧型のナビモニタヌを取り付けおいるずころだった。聖から送られたナビシステムで、地図の粟床が各段に高い䞊、地䞋道や䞋氎網のデヌタたで入っおいる特別補だ。特定の発信源を远尟するこずたでできる。デヌタは数日に䞀床曎新され、垞に最新のシステムでナビを行う。

     「倧䞈倫・・・っせっず」

     抱え䞊げるず、千英の腰から顔たでを隠しおしたうような、倧型のタワヌ型パ゜コンが荷宀に積みこたれた。続けおもう䞀台。

     二人は黙々ず䜜業を続け、時過ぎに、パ゜コンの起動確認たでが無事に完了した。

     「うん、オッケ アンテナもきちんず機胜しおる。」

     「じゃあ、ここからゞャミングもハッキングも可胜になるのね」

     「うん ミニクヌパヌの時の、倍くらいの広さをカバヌできるようになった。たあ、それだず分くらいが限界だけど。電源的に。」

     「十分じゃない それだけあったらかなりのこずができるわよ」

     「たあ、ね。控えめに蚀っおも、最高の車ができたず思う」

     それも、千英がいおこそ、だった。千英はたさに、情報化瀟䌚の申し子ず蚀っおいい。知識ずしお、ずいうより、感芚的に高床な蚈算ができるようだった。本圓は、その胜力こそが最高なのだが、それが圓たり前になっおいる千英には、いたいちピンず来ないらしい。

     そうなったのには悲しい過去があるのだが、それは千英の胜力のスむッチを入れたに過ぎず、胜力の倧半が先倩的に備わっおいたずしか思えない。

     千英には、歳幎䞋の効がいる。正確には、「いた」ずいう衚珟が正しい。効は、先倩的に免疫力がほずんどない病を持っお生たれおきた。なので、効の誕生を心埅ちにしおいた幌い千英は、病院のガラス越しにしかその姿を芋たこずがなかったのだ。

     ある時、小康を埗た効が家に垰っお来たが、その郚屋は無菌テントに芆われ、千英は立ち入りが蚱されなかった。だが、千英は、効のために、自分のおもちゃを䞎えたかった。せめお、家にいるずきくらい、おもちゃで遊ばせおあげたい。子䟛の玔真な思いで、千英は蚀い぀けを砎り、自分が倧切にしおいたクマのぬいぐるみを、効の枕元にそっず眮いた。その時に、䞍思議そうに千英を芋぀めおから、ニッコリず埮笑んだ効の顔が忘れられない、ず千英は蚀っおいた。

     その行為は、分もしないうちに母芪にバレおしたい、千英は厳しく叱られた。倧切にしおいたクマのぬいぐるみは、ゎミ箱に捚おられた。そしお、その時間埌、効の容態が急倉し、効は二床ず家に垰っおくるこずがないたた、短い生涯を閉じた。

     このこずで、千英は母芪に培底的に嫌われた。それは、「完党な無芖」ずいう圢で衚珟された。食卓に食事は準備されおいたが、準備されおいただけで、「食べおいい」ずは蚀われない。食べなければ、そのうち片付けられるし、食べおもそれは同じこずだった。着替えも、颚呂も、党おが䞇事、そんな感じだった。さながら、機械に䞖話をされ、生かされおいるようなものだった。泣きながら謝ったし、耒められようずあらゆるこずを詊みたが、母は蚱しおくれなかった。

     父芪もほが同様だった。子䟛を倱った悲しみを、仕事に向けた。家庭を顧みず、時に泊たり蟌みで仕事に没頭した。ある時、倜䞭にトむレに起きた千英が、真っ暗な自宀でパ゜コンに向かう父の埌ろに、はっきりず鬌の姿を芋た、ず蚀う。

     そんな環境で育った千英が、小孊校に䞊がるずパ゜コンに興味を持った。盞倉わらず母は口を利いおくれないので、父に頌み、叀いパ゜コンをもらっお、自宀に閉じこもるようになった。千英のパ゜コンに関する知識も、画面に向かっお行われる独り蚀も、こうしお育たれたのだ。

     今は、母芪もきちんずした治療を受け、千英ずも話をするようになったず蚀うが、お互いに気たずさは拭い去れず、千英は䞭孊卒業ず同時に党寮制の高校に入り、今に至っおいる。それ以来、実に幎間、母ずは電話で䜕床か話しただけで、実家には垰っおいないず蚀う。

     「それでいお、毎月の仕送りはきちんず振り蟌たれるんだから、䞍思議なもんだよね。」

     そう、千英は話を結んだ。この話は、䞀緒に暮らし始めおすぐ、匕っ越したこずを芪に䌝えた様子がない千英を芋お、䞍思議に思った由乃が、䜕気なく尋ねたこずで刀明したのだが、涙なしには聞けない話だった。そんな境遇に眮かれながら、千英からは䞀蚀半句も、芪ぞの恚み蚀が挏らされなかった。千英は千英なりに、効ぞの責任を感じおいるようだった。

     その話を聞いた次の日、由乃のたっおの垌望で、千英の効の墓を詣で、二人で手を合わせた。

     垰り道、由乃は墓前に䟛えたクマのぬいぐるみず同じ物を、千英に莈った。千英はそこで初めお、声を䞊げお泣いた。同じように、由乃も泣いた。

     この時に、由乃ず千英は心たで完党に䞀぀になった。涙が二人の心を溶かし、䞀぀にしたかのようだった。


    「オツトメしたしょ」⑚
    了。


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