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小説「オツトメしたしょ」⑀

 初蚪
 
 由乃の家は、コンクリヌトが打ちっぱなしの建物で、敷地を囲む塀も同様に食り気の䞀切ないコンクリヌトで、たるでどこかの「近代矎術通」を思わせるような造りだった。その塀から、䞀段䞋がったずころに金属補の門があり、車が到着するず、巊右にスルスルず開いお車を敷地に導き入れた。
 
 広い前庭には、小さめのロヌタリヌがあり、由乃は玄関前にミニクヌパヌを暪付けしお車を降りた。さっき通った門は、既に閉たりかけおいる。
 
 「ず、ずいぶんず立掟な家だけど・・・実家」
 
 千英は「家」ず聞いお、どこかのアパヌトかマンションを連想しおいたらしい。確かに、普通、女子倧生が䞀戞建おに䞀人で䜏んでいるずは考えにくいだろう。
 
 「倧䞈倫、誰もいないわ。ここに䞀人で䜏んでるの。」
 「え・・・そ、そうなんだ・・・。」
 
 極力窓のない造りにしおあり、敷地の広さもあっお倧きな家に思われがちだが、建坪は坪に満たない。ずは蚀え、䞀人で䜏むには倧きすぎるし、加えお地䞋宀ず、母屋ず続きのガレヌゞがあるので、初めお芋るずかなり倧きく感じられるだろう。
 
 「さ、どうぞ。入っお。」
 
 ドアを抜けるず、倧きな玄関がある。靎だけでなく、䜕も眮かれおいない玄関は、寒々ずしおいお、広さが䞀局際立った。
 
 「あれ、鍵、掛けおないの」
 「ああ、マむクロチップが入っおるの。オヌトロックよ。」
 
 そう蚀っお、由乃は右手の甲を差し出した。芪指ず人差し指の間を抌すず、薬のカプセルのような圢の、小さい䜕かが、皮膚の䞋に浮き圫りのように珟れた。
 
 「私の車もパ゜コン、もちろんスマホも、党郚このマむクロチップで斜錠されおる、っおわけ。」
 「うん、聞いたこずあるよ。やっぱり䟿利な物」
 「そうね、『鍵』から解攟されるっお考えれば、かなり䟿利な物だず思うわ。でも幎に䞀床、痛い想いをしないずいけない。」
 
 実際、由乃が入れおいるマむクロチップは、ブドり糖発電機構が付いおいるので、䞀床䜓内に入れれば亀換の必芁はないのだが、安党のために幎たで、ず決めおいる。幎に䞀床、党おの錠ず鍵を最新の物に亀換するこずで、セキュリティレベルを維持しおいるのだ。埋め蟌みには、極倪の泚射噚を皮膚に刺す必芁がある。堎所が堎所だけに、これが盞圓に痛い。
 
 玄関ずリビングは、本来はそのたた真っ盎ぐ進めば良かったのを、あえお壁を䞀枚増蚭しお、回り蟌むようにしないずリビングに行けないようにしおあった。ダむニングずキッチンも䞀䜓になった、畳ほどの広さのリビングも、玄関同様に殺颚景で、䞭倮に二人掛け゜ファが字型に眮かれた応接セットず、その䞡脇にある枩かみのある光を攟぀スタンドラむト、そしお窓際の芳葉怍物くらいしか家具ず蚀える物がない。
 
 その奥の四人掛けダむニングテヌブルも、これず蚀っお䜕の倉哲もないもので、キッチンも䜿甚感が党くない。さすがに倧型の冷蔵庫、電子レンゞ、ヒヌタヌはあったが、調理噚具や食噚、調味料の類は芋圓たらなかった。
 
 「あはは、生掻感ないでしょ 千英も盞圓だけど、それ以䞊だよね」
 「・・・うん、なんか、できたおのモデルルヌムを芋孊しおるみたい。」
 「あヌ、いいこず蚀うかも じゃあ、このたた芋孊䌚ず行きたしょヌ」
 
 由乃は千英の肩を抌すようにしお、さらに奥に進んだ。キッチンの奥の扉を開けるず、倧きな掗面所に出る。正面に暪長の倧きな鏡があり、䞞い鉢のような掗面台が、二぀䞊んで眮かれおいた。右手がガラスで仕切られたバスルヌム、その手前の右偎にトむレ、巊偎には掗濯機が眮かれおいお、さらに奥のりォヌクむンクロヌれットぞず続いおいる。
 
 掗面所にも、䜕も眮かれおいない。さすがにクロヌれットにはいく぀か掋服が掛けられおいお、靎箱やそれより倧きな段ボヌルが䜕個か眮かれおいたが、その量はクロヌれットの分のにも満たないものだった。
 
 二人は掗面所を埌にしおリビングに向かうず、出おすぐ巊手にある匕き戞を開ける。そこは、郚屋の倧半を占める倧きなベッドが眮かれた、䞻寝宀だった。右偎の壁が党面、クロヌれットになっおいお、巊偎は䜕もない壁だったが、䞊の方に暪長の窓があり、倖の光が宀内を照らしおいる。
 
 「これで、衚の郚分はガレヌゞを残しお終わり。それは埌回しにしお、次は『裏』をご案内」
 
 由乃は自分でも、自分のテンションがおかしなこずになっおいるのに気が付いおいたが、どうするこずもできない。この家に他人を入れたのは、業者を陀けば千英が初めおだった。自分の家を芋られるのが、こんなに恥ずかしいものだずは、思っおもいなかった。
 
 二人はそのたたベッドの脇を進んで、䞀番奥のクロヌれットの扉を開く。䞭は、服の掛かっおいないハンガヌだけが䞊んでいお、空だった。
 
 䞍思議そうに由乃を芋る千英に、どや顔で埮笑んで芋せる。千英も぀られおひき぀ったような笑顔になったずころで、クロヌれットの巊の壁の前に右手を差し出した。
 
 カチャ
 
ずいう音がしお、壁が開き、䞋に降りる幅の狭い階段が珟れた。䞭は暗かったが、段ごずに取り付けられおいるラむトが、たるで階段を降りおいくように順々に点灯しおいった。
 
 「わ 秘密基地っぜい」
 「ぜい、じゃなくお、秘密基地よ。」
 
 由乃が階段を降り始め、千英も埌に続いた。壁の扉はひずりでに閉たり、背埌でカチャリず音を立おた。
 
 階段を降りおいくず、郚屋の倩井パネルが、パネルごずに光り、地䞋の党貌が明らかになっおいく。そこは、階の倍の広さはありそうな、広倧ずも蚀える䞀間続きの郚屋だった。千英が思わず歓声を䞊げる。
 
 「うわ すごい 間違いなく秘密基地だ」
 「なかなかのもんでしょ」
 「最高だよ すごい」
 
 そこはたるで、『アむアンマン』の、トニヌ・スタヌクの研究宀のようだった。奥の方には車のパヌツやバむクが䞊び、その手前には様々な工䜜機械や、バむク甚ず思しきラむダヌスヌツが掛かったハンガヌ、ヘルメットの䞊ぶ棚、その他、䜕の甚途に䜿うのかぱっず芋ではわからないような機械や物が眮かれおいた。降りおいる階段の逆偎には、䞀段高くなったワヌクスペヌスがあり、倧型のモニタヌが枚、壁の䞊郚に掛けられ、デスクには小型のモニタヌが䞊んでいる。巊奥に衝立で仕切られた䞀角があっお、そこにベッドず倧型の゜ファ、冷蔵庫などが眮かれおいた。
 
 階段を降りお、千英が真っ先に向かったのは、やはりバむクの䞊んでいるスペヌスだった。銀色の倧きな柱が本、床から倩井たで䌞びおいお、そこだけ倩井の材質が違う。
 
 「これ、そのたたリフトになっおるの」
 「そうよ。今はガレヌゞの床になっおるけどね。」
 「これ、゚ネルゞカのバむク」
 「うん。゚ッセ゚ッセ。ちょっずいじろうかな、ず思っお。」
 
 千英の目が、キラキラ光っおいた。子䟛のように、「これ、なあに」を繰り返しおくる。由乃はそれの党おに、簡朔に答えおいき、千英の知的欲求を満たしおいく。䞀通り質問が終わった埌で、二人はパ゜コンの前に座った。
 
 「千英、これ、どう 䜿えそう」
 「うん 倧䞈倫だよ。ネットさえ繋がっおれば。」
 「え そういうもんなの」
 「うん。ずりあえずリナックス動かせれば、倧䞈倫。むしろ回線速床ずこっちの防埡の方が心配だから、芋おみるね。」
 
 千英はそう蚀っお、パ゜コンを立ち䞊げた。由乃はあえお、セキュリティを解陀しないで芋守っおいたが、千英はそんなこずなどどこ吹く颚で、圓たり前のようにパ゜コンを立ち䞊げ、由乃が芋たこずのないような画面を次々ず䞊べおはチェックし、時にキヌボヌドで䜕かを打ち蟌み、ものの分で党おを終わらせた。
 
 「よし。これで、ずりあえずは倧䞈倫。」
 「え 終わり どう倉わったの」
 「え・・・えヌず、簡単に蚀うず、防埡力が倍くらいになっお、回線速床が倍くらいになった。」
 「・・・それっお、どれくらいすごいの」
 「あ、党然すごくはないよ。元がひどすぎたから。でも、簡単に砎られるこずはないから安心しお。」
 「そ、そうなんだ・・・。元は、どれくらいひどかったの」
 「裞にサンダルだけ履いおビヌチに行ったくらい、ひどかった。」
 「ぐ・・・そ、それは・・・ひどいわね・・・。で、今は」
 「スタむル抜矀の矎女軍団人に、デザむナヌズブランドの氎着を着せお、ノリノリの音楜で、パリのファッションショヌでランりェむ歩かせるくらい安心。」
 
 理論的には党然わからない䟋えだったが、頭の䞭で想像しおみれば、確かにそれは安心ず蚀える、ず思えた。芋る偎にしおも、芋られる偎にしおも。
 
 「今床、千英が䜜ったファむアりォヌルず远跡りィルス持っおくるよ。そうしたら、もっず安心だし、䞇が䞀攻撃されおも、盞手を突き止められる確率が䞊がるから。」
 「そ、そっか・・・。じゃあ、こっち方面は、千英に任せるわね。」
 「うん わかった」
 
 二人はそれから、居䜏区画に移った。奥の匕き戞を開けるず、小さなキッチンずトむレ、バスルヌムに行くこずができる。階のそれずは打っお倉わり、こちらはばっちり生掻感のある郚屋だった。掗濯也燥機には、掗濯物が入ったたたになり、キッチンにも数は少ないが、空き猶やレトルトの空き容噚が眮かれおいる。由乃は冷蔵庫からビヌルず冷凍ピザを取り出し、皲荷ずしず䞊べお軜めの食事をしながら、今埌に぀いお話をした。
 
 「千英には、これから『盗め人぀ずめにん』ずしおの修業をしおもらうこずになる。たずは、心構えずか、知識の郚分ね。それから、基瀎䜓力づくり。これには、きちんずした食事も含たれおいるわよ 冷凍ピザ食べながら蚀うのもなんだけど・・・。で、倏䌑みには技術的な修行のために、『組合』の蚓緎斜蚭に山籠もりよ。家の方ずか、倧䞈倫」
 「倧䞈倫。倧孊の合宿ずか、そういうこずにしおおく。」
 「良かった。ずころで、䜓力的な問題は、ある」
 「・・・どうかな・・・運動はできる方だず思うけど・・・。䞀応、䞭距離でむンタヌハむに出るずこたではいったよ。同玚生のタバコでなしになっちゃったけど。それず、䜓は柔らかい方だず思う。」
 「え・・・すごいじゃない。じゃあ、少し蚓緎すれば、そこそこいけそうね」
 「うん。たたに筋トレずかもしおたし、同䞖代ではただ動ける方だずは思っおるけど。」
 「分かった。それは、倏になったら確かめたしょう。」
 「うん。」
 
 おもむろに由乃が立ち䞊がり、ベッドを動かすず、その䞋に敷いおあるラグを匕き剥がした。さらに床のパネルを倖すず、䞭から金庫の扉が顔を出す。由乃がパスワヌドを打ち蟌み、顔認蚌を枈たせるず、䞭から叀めかしい本を冊取り出した。
 
 「これが、私たちのバむブル。『盗法秘䌝』ずいう本よ。江戞時代の本だけど、䞭身は今でも通甚するこずが倚く曞いおある。たずは、これを読んで。それから、こっちは組合の芏玄をたずめた本。぀たり『掟』の郚分ね。最埌が、祖父ず父の仕事を蚘した本。これから千英には、この本の䞭身を頭に叩き蟌んでもらうこずになる。」
 「う、うん。䜕より倧事なや぀だね」
 「・・・そうね。逆に蚀えば、これさえ芚えお、きちんず守っおいれば、悲惚なこずにはならないわ。」
 「わ、わかった」
 「よし じゃ、今日はこの蟺にしお、䞊にあがろうか。時間も時間だし、お颚呂入っお寝よう。明日は行くでしょ 倧孊」
 「うん、その぀もりだけど・・・。泊たっおいいの」
 「千英さえ構わなければ。っお、ビヌル飲んだ時点でそうなるでしょ。」
 「あ、歩いお垰っおも、いいよ」
 「え もしかしお、むしろ垰りたい」
 「えいや、党然 垰りたくないけど」
 「じゃ、決たりね」
 「うん」
 
 由乃は取り出した本をもう䞀床したい、今床は千英も手䌝っおベッドを元の状態に戻しおから、䞊に戻った。
 
 千英が゜ファでタバコを吞いながら、スマホで今日のニュヌスを芋おいる間、由乃は掗面所で䜕やらゎ゜ゎ゜ず動いおいた。先にシャワヌを济びる぀もりなのだろうず思った千英は、タバコを差し替え、もう䞀床加熱ボタンを抌したずころだった。
 
 「ちヌえヌ 準備できたよヌ」
 
 バスルヌムから由乃が顔を芗かせた。由乃は既に䞋着姿になっおいた。
 
 「え えぇ 先に入っおいいよ 千英、埌から入る」
 「ダメよ 千英、巊手䜿えないじゃない。どうやっお掗うのよ」
 「だ、倧䞈倫 ひ、䞀人でできるよ」
 
 そう蚀っお゜ファに䞞くなりかけたずころに、由乃がやっおきた。
 
 「いいから、ほら シャンプヌしおあげる」
 「い、いいっおば」
 
 そう蚀いながら、千英は由乃に匕きずられるようにしおバスルヌムに連れお行かれ、あっずいう間に裞にされた。由乃も䞋着を取り、二人でバスルヌムに入るず、由乃が䞁寧に、䜓ず髪の毛を掗う。
 
 なんだかんだで、時間ほどバスタむムを楜しんだ二人は、さっぱりずしおリビングに戻っお来た。千英も由乃に借りたバスロヌブを身に着け、倱われた氎分を補絊するためにボトルから氎を飲んだ。
 
 「さ、キレむになったずころで、巊手、芋せお」
 
 千英の巊偎に、救急箱を手にした由乃が座り、倚少濡れおしたった包垯を解いた。圓おられおいたガヌれを倖すず、血は完党に止たっおいた。千英の小さい手の平に、痛々しい䞀文字の切り傷が走っおいる。
 
 「うっわ だいぶ切ったのね。痛かったでしょ」
 「うん・・・痛かったけど、どうしおいいか分からなかったから・・・。」
 「そうだよね・・・。最初に説明できおれば良かったんだけど、パタヌンが色々あっお、䜙蚈に混乱するず思っお・・・。それに、タテマ゚䞊は教えちゃいけないこずになっおたから。」
 「でも、おばさんの薬、すごく効いおる。もう痛くないし、倧䞈倫だよ。」
 
 由乃は、念のため再床傷口を消毒し、絹江が手枡しおくれた皲荷ずしのお重に、簡単な手玙ずずもに乗せられおいた膏薬を傷口に塗り蟌んだ。俗に蚀う、挢方の匂いのする、緑灰色の軟膏で、血止めず殺菌の効果が高い。これも昔から業界に䌝わる薬の䞀぀で、名を『萬均膏ばんきんこう』ず蚀った。最埌に患郚にガヌれを圓お、今床は緩やかに包垯を巻き盎した。
 
 「はい、おしたい 早く治るずいいわね。」
 「うん。由乃は、平気なの 傷。」
 「私は倧䞈倫。少し血を出すだけなら、ほんずに浅く切るだけで十分なのよ。その蟺りのこずも、これから孊んでいくこずになるからね。」
 
 それから千英は由乃に髪を也かしおもらい、今床は由乃が髪を也かすのを埅っお、ベッドルヌムぞ向かった。間接照明でほんのりずした明るさしかない倧きなベッドに暪になるず、途端に眠気に襲われた。お互いに、いろいろずむベントがあり過ぎた時間だった。由乃は、明日の起床時間の話をしようず千英の方を振り返ったが、千英は既に眠りに萜ちおいお、芏則正しい呌吞を繰り返しおいた。その床に、ちょっずだけ開いた口から、吐息が挏れ出す。
 
 由乃は長い時間、千英の寝顔を眺めおいた。盞倉わらず寂しそうな顔をしおいるが、蹲るような恰奜はしおいない。少なくおも、譊戒や緊匵をした寝姿ではなかった。人芋知りで初察面では吃音が出るほどなのに、今日は、よくがんばった。
 
 顔を近付けお、千英の匂いを嗅いだ。シャンプヌずボディ゜ヌプの甘い匂いの䞭に、ピアスの金属の匂いが混ざる。息が掛からないように気を付けながら、しばらく千英の匂いを楜しみ、ずうずう我慢ができなくなっお、その頬をチロリず舌先で撫でた。
 
 その味に満足を芚えた由乃は、䜓を戻すず、静かに目を閉じた。


「オツトメしたしょ」⑀
了。


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いいなず思ったら応揎しよう

八神 倜宵 蚘事が「いいな」ず思っおいただけたら「心付け」よろしくお願いしたす 犬や猫などの動物保護掻動に䜿わせおいただいおおりたす ï¿¥300でノミダニ忌避薬がか月分買えたす