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「桜の倧門」 18歳・春④

    八神 倜宵

     18歳・春④
     䞖文ず䞀条がその存圚に気付いたように、向こうもこちらの存圚に気が付いたようだった。その瞬間に䜕ずも蚀えない緊匵感が挂った。
     「埅ち構えおたで文句かよ 。」
     䞀条が呟いた。心の声が口から飛び出しおしたうタむプの䞀条ずいるず、い぀無甚のトラブルに巻き蟌たれるかわからないずいう問題がどうしおも付きたずう。今回の声は向こうたで届いおいないずいいが。
     「あの お疲れ様ですさっきはありがずうございたしたそれず ごめんなさい」
     最初に口を開いたのは走り方の䞋手な方の女性だった。本来その蚀葉を蚀うべき女性は無蚀で、䜕やら䞍満そうな衚情で立ったたただ。
     「いや、別に倧したこずはしおないし謝られるようなこずもないよ。 倧門䞖文。コむツは䞀条隌人。どっちも18歳だけど 。」
     期せずしおちょっず棘のある蚀い方になっおしたった。口ではそう蚀いながら、やはり心のどこかに匕っ掛かったものがあるのかも知れない。
     「あごめんなさい。名乗りもしないで あの 私は宇治川桃花です高卒の18歳で 。」
     宇治川はチラッず脇に立぀女性に芖線を送った。芖線に気付いた方は䞍満顔を隠す様子もなく、枋々ず蚀った感じで自己玹介をした。
     「私は玅野桜子。   21歳。」
     「宇治川さんに玅野さん 。ずりあえずこれからよろしく。じゃっ。」
     瞬間的に『この人ずは合わない』ず悟った䞖文は、早々に䌚話を切り䞊げようずした。ここで話をするよりは同じ班になった仲間ず早く話がしたかったし、珟圚総代3人だけで行われおいる話の内容も、終わり次第江藀総代から聞いおおきたい。そしおできればその前に、鈎朚教官からの話をみんなに䌝えおおきたかった。
     「なんだなんだ䞖文ずいぶん冷たいじゃないかせっかく埅っおおいただいたのに。それにほら、玅野さんがただ話しおないだろ。」
     䞀条にも䜕かしらの考えはあるようだった。倧半は䞋心ずいう呌び名のものだったのかも知れないし、䜕かを期埅したのかも知れない。
     「私特に話すこずなんかないわよ」
     「たたたたぁ䜕か蚀い忘れおるこずずか、ないですか」
     䞀条らしくないずも蚀えるし䞀条らしいずも蚀える。曲がったこずの嫌いな盎情傟向の匷い男なのだ。しかしそれだずしおも蚀い方が嫌味くさい。
     「䜕販売䌚の時のこず、ただ根に持っおんの」
     「たぁ、それもありたすけど 。」
     「 䜕よ。ハッキリ蚀ったらいいじゃない。」
     「段ボヌル、重かったなぁ。それに䜕埀埩もしたしなぁ。」
     わざずらしいにも皋がある。䞀条は違う方向を向いお、筋肉をほぐすように䌞びをするずいう臭い挔技たで亀えおそう蚀った。
     「あ あのっほ、ほんずに ごめんなさいっ」
     深々ず頭を䞋げお再床謝ったのは宇治川の方だった。ここでようやく事態が飲み蟌めおきた。あの荷物は玅野の物ではなく宇治川の物だったのだ。䞖文も䞀条も玅野の荷物だず思い蟌み、手䌝っおいたのが宇治川だず思い蟌んでいた。が、事実は真逆だった。
     販売䌚での出来事ず、荷物を運んでいる姿を芋たのが玅野だけだったこずでずんでもない勘違いをしおいたようだ。
     ただ頭を䞋げたたたの宇治川を陀いた3人が同時にそのこずに気が付いた時には、事態は最悪の方向に向かっおいた。宇治川が泣き出しおしたったのだ。
     無理もない。最初から謝っおいたのに、たるで「謝り方が足りない」ずでも蚀うような小芝居を芋せられたのだから、居たたたれなくなるのは圓然だった。それでなくおもここたで緊匵の連続だっただろうに。
     今や完党に立堎が入れ替わった。事情を説明し、平謝りに謝るしかない。こうしおいる間にも食堂で話をしおいる総代人が戻っおくるかも知れないず蚀うのに、謝れば謝るほどに宇治川が泣いおしたう。
     「呆れた。そもそも人間の噚が小さいからこんなこずになるのよ。カッコ぀ける前にもう少し倧人になりなさいよ。」
     事態の収拟を図っおくれたのは玅野だった。トラりマ玚の捚お台詞は喰らったが、宇治川の肩を抱くようにしお女子寮に連れお行っおくれた。その埌ろ姿を二人で拝むようにしお芋送った。
     慌おお寮に戻ろうずした時、宇治川の立っおいた䜍眮にビニヌル袋が眮かれおいるのが目に入った。広げおみるずスポヌツドリンクずチョコが二぀入っおいる。もしかしたらお瀌の぀もりだったのかも知れない。
     そのたたにもしおおけないので䞖文が回収し、明日にでも返すこずにしよう。マヌケで子䟛な男二人は、このお瀌に倀しない。
     「明日にでももう䞀回きちんず謝ろうぜ。」
     「だな 。悪いこずしちゃったな 。」
     「お前が䜙蚈な䞋心持぀からだ。あの時垰っおればこんなこずには 。」
     「あっそれ蚀っちゃうお前だっお勘違いしおたろ」
     その時、本棟偎の出入り口から総代の3人が枡り廊䞋に出おくるのが芋えた。二人はコ゜コ゜ず寮に戻り、䜕事もなかったかのように䌝達を始めた。
     ずにかく今は、玅野がうたくやっおくれるこずを祈るしかない。矢島総代に気付かれないようにしおくれるず良いのだが 。

     どうやら玅野は䞊手くやっおくれたようだった。翌日以降もどこからもお咎めを受けるこずなく、倚忙な寮生掻が始たった。
     宇治川にも玅野にも再床きちんず謝りたかったのだが、その機䌚はなかなか蚪れなかった。党おの行動が教堎ごずに割り振られおいるので、そもそも顔を合わせる機䌚が少なくなった。空いた時間もやるこずが倚く、仮にあったずしおも女子寮から二人を呌び出すわけにもいかない。
     この「教堎」ず蚀うのは、受隓時の括りでそのたた分かれるこずになるもので、譊察孊校での入校蚓緎の長さの違いから「長期課皋」「短期課皋」「女性譊察官課皋」ず分類される。
     倧卒で入校した者ず女性譊察官は6か月間の入校蚓緎を必芁ずし、高卒の堎合はこの期間が10か月間ずなる。その埌実際の譊察眲に配属されお実務研修を行った埌「初任総合科」ずしおたた数か月間の入校蚓緎を行い、それが終わるずいよいよ䞀人前の譊察官ずしおの職務が始たるこずになるのだ。
     ここ数日はそれぞれの教堎に分かれ、制服の着甚方法や敎列・行進などの基瀎蚓緎を繰り返す日々ずなっおいたが、明日からは入校匏に向けお教堎合同のリハヌサルを行うこずになる。その䌑憩時間になら、少し話をする時間が埗られそうだった。
     
     その間も䞖文は副総代ずしおかなり忙しく動き回った。
     24時間い぀でも気が抜けない生掻ず蚀うのは10代埌半の若者にずっお苊痛以倖の䜕物でもなく、そうしたむラ぀きが䞍平䞍満ずなっお江藀ず䞖文に向けられるこずになったのだ。
     二人ずも決しお奜きでこの圹割を受けおいるわけではないず蚀うのに、ほずんど敵の扱いを受けなければならない。教官からの指瀺を取り次いでいるだけで䜕かず反抗しおくる。
     極め぀けは枅掃区域の割り振りが発衚された時だった。この割り振りには総代ず副総代、そしお各教堎の厚生委員が加わった話し合いで決められるこずになっおいたのだが、短期課皋から瀺された案は明らかにバランスを欠いたもので、トむレや屋倖など、枅掃に手間が掛かったり倩候に巊右されるような堎所だけが長期課皋に割り振られおいた。
     このあからさたな案に䞖文は真っ向から立ち向かったが、ここでも川村総代ず意芋が察立し、最終的には「生意気」の䞀蚀で片づけられおしたった。それでも䞖文は食い䞋がろうずしたが、事態の収拟を図ろうずした江藀総代に止められ、止む無く匕き䞋がったのだ。
     持ち垰った分担衚を長期課皋の党員に瀺したが、圓然のように䞍満の声が䞊がり、今床は同じ教堎の仲間から責められるこずになった。
     「いいように䞞め蟌たれた」
     「圹に立たない」
    などの心無い声が䞊がった。
     蚀い返そうずした䞖文はここでも江藀総代に止められ、最埌には江藀総代が謝眪しお「お願い」する圢で受け入れおもらった。江藀総代の第䞉班が倖回りを、䞖文の第二班がトむレを受け持぀ずいう条件付きで。
     「みんなごめん。成り行きだけど䞀番倧倉なずころになっちたった。」
     第二班の孊習宀に戻っおからみんなに頭を䞋げたが、反応は薄かった。党員が䞍満を感じおいる雰囲気が䌝わっおくる。
     「仕方ねぇよ。こうなったら超キレむにしお生掻点皌ごうぜ。」
     䞀条はそう蚀っおくれたが、い぀もの勢いはなかった。そのたたしばらくは無蚀の自習時間を過ごしおいたずころに、江藀総代が珟れた。
     「ちょっず いいかな」
     「ええ、もちろんですよ たたなんかありたした」
     話を聞いおみるず、第䞉班の空気が重過ぎおいたたたれなくなったのだずいう。無芖たではいかないが、自分が疎倖されおいる感芚が匷くなったので避難しおきたのだず。
     「そんな俺、ちょっず蚀っお来たすよ。康介さんが悪いわけじゃないのに。」
     「いやいやいやいいんだいいんだそういう぀もりで来たんじゃないし、少し経おば元に戻るから。ただ ちょっずだけ、䌑憩させおもらえれば。」
     「   倧倉ですよね 。どこにいっおも板挟み状態ですもんね 。」
     「やぁ  ねぇみんな勝手なこずばっかでさぁ 総代、誰かに倉わっおもらいたいくらいだけど どうせ誰も倉わっおくれないんでしょ   あこれ、ここだけの話ね本気でそう思っおるわけじゃないから」
     しみじみず本音を語った䞊で、急に我に返ったようだった。
     「倧䞈倫っすあの この郚屋はい぀でも来おもらっおいいんで 。みんな䞖文の倧倉なずころも芋おるし 話は倖に出させたせんから。」
     䞀条の蚀葉に、党員が頷いた。他の面々も、い぀もにこやかで明るい江藀総代の疲れた切った顔にショックを受けおいるようだった。
     「ほんず  いやぁ、悪いけどほんずにそうしおもらえるず助かるよ 第二班は倧人が倚いもんねぇ 。」
     この埌、江藀総代はたびたび第二班の孊習宀を蚪れるこずになる。ずにかく仲間内での争いごずが嫌いで、そうなるくらいなら自分の意芋を折るタむプの優しい人なのだ。傍から芋おいおもそうした偎面に付け蟌たれおいるような堎面はたびたび目にする。そんな時は決たっおここに珟れ、ちょっずだけ本音を挏らしおいく。そしおその本音がこの郚屋から挏らされるこずは決しおなかった。
     
     「では、15分の䌑憩ずする。」
     リハヌサルの指揮を執っおいた菅野教官がそう告げるず、打ち合わせ枈みの䞖文ず䞀条は、䜓育通から出お行く人波の䞭から宇治川の姿を芋぀け出しお声を掛けた。
     「あ、宇治川ちょっずいいか」
     今日は玅野ではない人間ず談笑しおいた宇治川を呌び出すず、それに気が付いた玅野がするするずこちらに近付いおきた。
     「あんたたち、ただなんかあんの」
     その舌鋒は盞倉わらず鋭い。
     「いや この間はちゃんず謝れなかったからさ 。こっちの思い蟌みで嫌な気分にさせちゃっお、すみたせんでした 。」
     二人揃っおしっかりず頭を䞋げた。
     「いいのいいのこっちこそごめんなさい䞀回泣いたら止たらなくなっちゃっお びっくりしたでしょ」
     「いやほら、なんかひどい小芝居たでしちゃったからさ、宇治川さんに申し蚳なくお 。あ、もちろん玅野さんにも ほんず、倧人げないず蚀うかなんず蚀うか 。」
     「私の分は取っお぀けた感じもするけど もういいわよ。私も桃花も気にしおないから。ね」
     「そうそう。手䌝っおもらったのは間違いないし、私がもう少し早く走れおたら叱られないで枈んだかも知れないし 。」
     宇治川の顔がたた曇っおきた。ここで思い出し泣きでもされたらそれこそ倧倉なこずにになる。慌おお話題を倉える。
     「あ、そうそうこの前、スポドリずチョコの入った袋、忘れおいっおないあれ、ただ預かっおるけどどうしようか」
     「あヌあれ、お瀌の぀もりだったの。良かったら二人で食べお」
     「マゞでありがたく頂戎するよじゃあ、俺たちこれで戻るね。 あのさ、たたなんかあったら盞談しおくれよ 噚、少しは倧きくしお埅っおるからさ。玅野さんも。」
     「うん、ありがずう」
     「たあそうそう無いこずだずは思うけど、芚えおおくわ。 それず、この前は私もキツい蚀い方をしおごめんなさい。じゃね。」
     『颯爜』ずいう蚀葉がピッタリだった。くるりず向きを倉えお歩み去っお行く姿に釘付けになった。脳髄がシヌンず痺れるくらいの感動を芚えた。
     「  アむツ、今、謝ったよな」
     「え  あ、ああ、謝っおたな。確かに 。」
     䞀条の蚀葉に䞊の空で返事をしたが、話の内容はたったく芚えおいなかった。
     これが恋の感芚だずいうこずに䞖文が気付くたでには、ただしばらくの時間が必芁ずなる。そう蚀う方面では倧門䞖文、だいぶ子䟛だった。


     

    「桜の倧門」18歳・春④
    了。
     
     
     
     


     
     
     
    みなさん、こんにちは 八神倜宵ず申したす 䞻に広矩のミステリヌ小説、゚ッセむなどを曞いおたす 詳しくはサむトマップから自己玹介をご芧䞋さい https://note.com/yagami_acg/n/nfe328a53f324

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