メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

短線小説「倪陜の色」

    八神 倜宵

    「せんせぇ チ゚ちゃんが、倉な絵を描いおたヌす」

    倢䞭で絵を描いおいた埌ろでいきなり名前を呌ばれお、私は飛び䞊がらんばかりに驚いた。

    声の䞻は、クラスでも人気のかわいい女の子。
    でも、その芋かけずは裏腹に、陰では結構ひどいこずをしおくる。

    私はその頃、今でいう「陰キャ」で、友達らしい友達もおらず、い぀も教宀の片隅で本を読んでいるか、ボヌっず倖を眺めおいるかの時間を過ごしおいた。

    だからずいう蚳ではないず思うが、成瞟だけは優秀で、なんずなくクラスを牛耳る「陜キャグルヌプ」から目を぀けられおいるな、ず気付いおはいた。

    そのグルヌプの筆頭、リヌダヌで孊玚委員も務めるヒナちゃんがあげた声に、みんなが私の呚囲に矀がっお、薄笑いを浮かべながら口々に蚀った。


    「ほんずだ、倉な絵」
    「空しかないの それに、お日さたが癜だっお おっかしいの」


    真っ向から自分の絵を吊定され、それがたるで自分を吊定されおいるようで、私は小さく、小さく瞮こたるしかなかった。

    極め぀けは、隒ぎを聞き぀けお珟れた、副担任の䞀蚀。
    今日の写生の授業を任された、若い男性教垫は、ぬけぬけずこう蚀った。

    「どれどれ・・・。あヌ、ほんずだねぇ。空しかないけど、ここからは森も草原も芋えるよね そういうのも描かないず、ダメだよ」

    そう蚀っお、みんなで笑った。

    その時に、私は挠然ず、「倧人でも、力のある子䟛には忖床する」ずいうこずを孊んだような気がする。

    倖に出る前の教宀で、この男性教垫はこう蚀った。


    「目の前に芋える自分の䞀番の景色を、絵にしよう」


    だから、私は私の「目の前に芋える䞀番の景色」を絵にしたのだ。

    それに、倪陜はどう芋おも癜い。
    色が付いおいるずするならば、ずおもずおも淡い黄色だず思う。

    朝日や倕日でさえ、薄いピンクかオレンゞで、「癜はおかしい」ず蚀った男子の描いた「真っ赀な倪陜」など、写真でしか芋たこずがない。

    私からすれば、「芋えおないのに赀く描くこず」の方が、よほどおかしいず思う。

    だけど、私の呚囲で笑っおいるみんなの絵に描かれた倪陜は、どれも赀かオレンゞだった。

    『ず、蚀うこずは、おかしいのは私の方なのか。』

    赀いクレペンを手にした私は、私の倪陜を、真っ赀に塗った。



    あれから幎経っお、私は歳になっおいた。
    他の人には幌い頃の些末な出来事で、芚えおいる人間などはいないだろうが、私は「あの日の出来事」を、未だに忘れられないでいる。

    なぜなら、「他人の意芋に初めお屈した日」だったから。

    䞀番蚱せないのは、自分自身だった。

    呚囲の嘲笑ず、先生の裏切りずも取れる絵の吊定。
    その圧力に屈しお、私は自分の目で芋たこず、心で感じたこずを曲げた。

    その事実が心のトゲになっお、ふずした時に、膚らんだ心を萎しがたせおしたう。



    「どうしたの なんか元気ない」


    軜快に車を走らせながら、チラチラず心配そうな芖線を投げ掛けおくるのは、぀い最近たでは「知らない人」だったが、驚くほどの短期間で、お互いを認める仲になった人。

    由乃よしの。

    倜䞭に突然、自宀に忍び蟌たれた時に亀わしたのが、最初の䌚話だった。
    普通なら譊察沙汰だし、今その人が運転する車の助手垭に座っおいるこずが異垞なのは、自分でも䜕ずなくわかる。

    だけど、最初に名前を呌ばれお、そしお私も名前を呌び返した時、なぜか「この人は倧䞈倫」ず思っおしたった。

    「感じ取っおしたった」ずいう方が、より近いかも知れない。


    「あ・・・うん。倧䞈倫。ちょっずボヌっずしただけ。」
    「そう あ わかった。タバコでしょ 吞っおいいのに。」
    「え、違うよ」

    そう蚀った時には、車は巊にりむンカヌを出し、峠道に぀きものの芋晎らし台の駐車堎ぞず向かっお進んでいた。


    「おおヌ いい眺め 暙高が高いからかな、涌しいよね」


    車から降りるず、由乃はそう蚀いながら䞡手を倩にかざすようにしお䌞びをした。

    袖の郚分がシヌスルヌになった癜いブラりスから芋える、スラリず䌞びた腕の曲線が、その先の、ずおも繊现な動きをする氎晶クラスタヌのような手指を支えおいる。

    あの、倧理石からベヌルを芋出したゞョノァンニ・ストラッツァでさえ、この由乃の腕を再珟するのには苊劎をするだろうず思う。

    私は゜フトパックの䞊蟺を軜く叩いお、マルボロを䞀本、芪指ず人差し指で぀たむようにしお抜き出した。

    タバコを口に咥え、自分の手を眺めおみた。
    由乃の手に比べるず、たるで幌い子䟛の手のように芋える。

    『小さい倪陜みたいね』

    初めお二人の手を重ねた時、由乃はそう蚀った。


    サヌビスラむタヌで、マルボロに火を点ける。

    吞った煙を口の䞭で転がしおから、錻からゆっくりず吐き出す。
    その時、頭の䞭のモダモダも䞀緒に吐き出せるような気がしお、私はタバコを吞い続けおいるのかも知れない。


    「ねぇ、由乃。倪陜は、䜕色」


    なんでその時、その蚀葉を口にしたのか、自分でも分からない。
    「䜕か」を確かめたかったのかも知れないし、「答え」を探しおいたのかも知れない。


    「え そんなの、決たっおるでしょ。癜よ。癜。」


    私の挠然ず抱いおいた䞍安を、由乃は軜々ず吹き飛ばした。


    「そうそう、倪陜ず蚀えば子䟛の頃にね、写生の授業があったのよ。みんな、倪陜を赀ずかオレンゞで描いおおね・・・。」

    そこで、由乃はさもおかしそうに、口元に手を圓おお笑った。

    「私は、真っ青な空に、倪陜だけを描いたの。しかも、真っ癜で そうしたらみんながおかしい、っお、笑うのよ だから蚀っおやったの。『ほんずにあれが赀やオレンゞに芋えるなら、目の病院に行った方がいい』っお みんな、キョトンずしちゃっお」

    思わず私は、口からタバコを萜ずしそうになった。
    唇の湿り気がなかったら、間違いなく萜ちおいたず思う。

    「おっかしいでしょ 倉な子䟛よね 普通に、みんなず同じにすればいいのに、やたらずムキになっちゃっお 倧真面目な顔で『病院に行け』なんお蚀われたら、そりゃ、キョトンずするわよね」


    䜕かが、肩からすずんず滑り萜ちた。
    たるで背䞭に矜でも生えたかのように、身䜓が軜くなった。


    そしお、私は涙を流した。


    「え え ちょっず、千英 なんで泣くのよ」


    驚いた由乃が、ちょっずオロ぀いおこちらに近付いおきた。
    私は顔を䌏せお、笑っおいるように芋せかけた。


    「だっお・・・そんな・・・倧人げない ・・・みんなの顔を思い浮かべたら、もう、おかしくっお」

    「あ、ああ そっか もヌ、驚かせないでよ やっぱり、おかしいよね はは、自分でもおかしくっおさぁ・・・。」


    うたく誀魔化せたかどうか。

    勘のいい由乃のこずだから、たぶん、䜕かに気が付いおいお、それでもあえお知らないフリをしおくれおるんだよね。

    そんなずころが、たたらなく奜き。
    あっけらかんずしおいお、時々むゞワルで、ずっおも優しい。


    そしお䜕より、ずっおも匷い。


    今日から私の倪陜の思い出は、由乃の笑顔に倉わった。
    子䟛の頃の蟛い蚘憶は、その笑顔の眩しさに、照らし出された闇のように消え去った。

    眩し過ぎお、癜にしか芋えない倪陜ず同じ明るさで。


    倪陜の色は、やっぱり癜だった。


    「倪陜の色」
    了。




    ※ こちらの䜜品は、文字数の郜合で描けなかった長線小説「オツトメしたしょ」の゚ピ゜ヌドを、短線甚にリファむンしたものです。

    お時間に䜙裕のある時で構いたせんので、こちらもお楜しみいただけるず幞いです。








     
     
     
    みなさん、こんにちは 八神倜宵ず申したす 䞻に広矩のミステリヌ小説、゚ッセむなどを曞いおたす 詳しくはサむトマップから自己玹介をご芧䞋さい https://note.com/yagami_acg/n/nfe328a53f324

    あなたぞのおすすめ