
140センチの君と、180センチの僕
あらすじ
身長140センチの小柄で優しい少女・花森小春と、身長180センチの高身長で誠実な青年・月城蓮は、高校で出会う。最初は隣の席のクラスメイトだった二人だが、助け合いながら少しずつ距離を縮めていく。文化祭や雨の日の相合傘をきっかけに互いを意識し始め、周囲から「兄妹みたい」と言われながらも本当の想いを育んでいく。やがて恋人となり、初デートや進路の悩み、周囲の視線を乗り越えながら絆を深めていった。卒業後は大阪と東京で遠距離恋愛となるが、不安や嫉妬、すれ違いを乗り越え、お互いを信じ続ける。数年後、夢を叶えた二人は再び同じ街で暮らし始める。そして蓮は小春へプロポーズ。結婚後は二人で保育園を開き、生涯を共にする大きな愛へと成長していく。
『140センチの君と、180センチの僕』

第一部 出会いの春
第一章 桜舞う朝
四月。
桜が満開だった。
新しい学年が始まり、校門にはたくさんの生徒たちが集まっている。
月城蓮は、その人混みの中を静かに歩いていた。
身長百八十センチ。
整った顔立ち。
女子生徒から人気はあったが、本人は目立つことを好まない。
「また見られてるな……」
小さくため息をつく。
高身長というだけで目立ってしまう。
それが少し苦手だった。
教室へ入ると、友人の大輝が手を振った。
「おーい蓮!」
「おはよう」
「二年生になったな」
「そうだな」
いつも通りの朝。
そう思っていた。
担任が教室へ入ってくるまでは。
「今日は転校生がいる」
教室がざわつく。
男子も女子も興味津々だ。
そして扉が開いた。
入ってきた少女を見て、全員が驚いた。
小さい。
とても小さい。
百四十センチほどしかない。
栗色の髪。
大きな瞳。
小動物のような可愛らしさ。
「花森小春です。よろしくお願いします」
静かな声だった。
蓮は何となく目を奪われた。
第二章 小さな転校生
小春は蓮の隣の席になった。
「よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる。
「よろしく」
蓮も軽く会釈した。
休み時間になると、すぐに人だかりができた。
「どこから来たの?」
「何歳?」
「小さくてかわいい!」
質問攻めである。
小春は困ったように笑っていた。
蓮は窓際からそれを見ていた。
しばらくすると人が散った。
小春は机に突っ伏した。
「大丈夫か?」
「つ、疲れました……」
蓮は少し笑う。
「人気者だな」
「違いますよ」
小春は苦笑した。
「みんな身長の話ばっかりです」
その言葉に少し寂しさが混じっていた。
第三章 届かない黒板
数学の授業。
先生が板書を始める。
小春は必死に前を見ていた。
しかし。
「見えない……」
前の席の男子の背中で隠れてしまう。
蓮は気付いた。
自分のノートを机の端へ寄せる。
「使え」
「え?」
「黒板見えないだろ」
「だ、大丈夫です」
「見えてない顔してる」
図星だった。
小春は顔を赤くした。
「ありがとうございます」
それから二人は少しずつ話すようになった。
第四章 昼休み
昼休み。
小春は一人で弁当を食べていた。
蓮は珍しく声をかけた。
「一人か?」
「はい」
「俺もだ」
「じゃあ一緒に食べます?」
自然な流れだった。
二人は窓際で弁当を広げる。
「それ手作り?」
蓮が聞く。
「自分で作りました」
「すごいな」
「月城くんは?」
「母親」
「おいしそうです」
他愛もない会話。
けれど不思議と楽しかった。
第五章 放課後の図書室
放課後。
蓮は図書室へ向かった。
すると小春がいた。
「花森?」
「月城くん?」
偶然だった。
二人とも本が好きだった。
それがわかった。
「何読むんだ?」
「恋愛小説です」
「意外」
「月城くんは?」
「推理小説」
「そっちのほうが意外です」
二人は笑った。
少しずつ距離が縮まっていく。
第六章 背伸び
翌日。
掲示板にプリントを貼る作業があった。
小春は背伸びをしていた。
しかし届かない。
ぴょんぴょん跳ねている。
蓮は思わず吹き出した。
「笑いましたね?」
「少し」
「ひどいです」
蓮は紙を受け取った。
そして簡単に貼る。
「はい」
「ありがとうございます」
「その代わり」
「?」
「面白いもの見た」
「忘れてください!」
小春は真っ赤になった。
第七章 噂
クラスでは二人が仲良くなっていることが話題になっていた。
「月城と花森って仲いいよな」
「身長差すごい」
「兄妹みたい」
その言葉を聞いた小春は少し傷つく。
兄妹。
それは違う。
でも理由はわからなかった。
なぜ胸が苦しくなるのか。
まだ恋だとは気付いていなかった。
第八章 帰り道
その日の帰り。
偶然駅まで一緒になった。
「家どっち?」
「駅前です」
「俺も途中まで同じだ」
並んで歩く。
すると小春が笑った。
「やっぱり大きいですね」
「花森が小さいんだ」
「失礼です」
「事実だろ」
「むぅ……」
その表情が可愛くて。
蓮は少しだけ目を細めた。
第九章 雨の日
突然の雨。
小春は傘を持っていなかった。
「入るか?」
蓮が言う。
「でも……」
「風邪ひくだろ」
小春は傘に入った。
身長差四十センチ。
距離が近い。
心臓がうるさい。
それは小春だけではなかった。
蓮もまた妙に緊張していた。
「花森」
「はい?」
「転校してきてどうだ?」
小春は少し考えた。
「最初は不安でした」
「今は?」
小春は微笑む。
「少し楽しいです」
その笑顔を見て。
蓮の胸はなぜか温かくなった。
第十章 春風
週末。
学校の帰り道。
桜並木を歩いていた。
花びらが舞う。
小春は空を見上げた。
「きれいですね」
「ああ」
風が吹く。
花びらが小春の髪に乗った。
蓮は無意識に手を伸ばす。
「ついてる」
花びらを取った。
小春は驚いた。
距離が近い。
目が合う。
数秒。
二人とも動けなかった。
やがて小春が慌てて目を逸らす。
「ありがとうございます」
蓮も少し照れた。
春風が吹く。
まだ恋とは呼べない。
でも確かに。
二人の物語は始まっていた。
そして。
誰も知らない。
この小さな出会いが。
二人の人生を大きく変えていくことを――。
第一部 完
第二部 隣の席の距離
第一章 新しい日常
第一部の終わりから数日。
小春はすっかりクラスに馴染んでいた。
それでも変わらないことがある。
それは――
「見えない……」
黒板の上の方が見えないことだった。
前の席の男子が少し姿勢を正すだけで視界が塞がる。
小春は首を伸ばした。
さらに背伸びする。
しかし見えない。
隣から声がした。
「またか」
蓮だった。
「み、見えてます」
「嘘つけ」
「ばれてます?」
「全部」
蓮は自分のノートを少し寄せた。
小春は頬を膨らませる。
「月城くん」
「なんだ」
「私を小さい生き物扱いしてません?」
「少し」
「少しなんですか!?」
教室に笑い声が響いた。
第二章 ノート係
数学の授業後。
先生が言った。
「花森、月城。来週のノート提出係頼むぞ」
二人は顔を見合わせた。
「一緒ですね」
「そうだな」
放課後。
提出用のノート整理をする。
小春は丁寧だった。
ページの向きまで揃えている。
蓮は感心した。
「真面目だな」
「普通です」
「俺なら絶対そこまでやらない」
「月城くんは大雑把そうです」
「失礼だな」
「当たってます?」
「当たってる」
二人は笑った。
気付けば一時間以上話していた。
第三章 届かない棚
昼休み。
教室の後ろにある棚から資料を取ることになった。
小春は棚の前に立つ。
上段にファイルがある。
手を伸ばす。
届かない。
ぴょん。
届かない。
ぴょんぴょん。
やっぱり届かない。
後ろから声がした。
「何やってる」
蓮だった。
「取れません」
「どれ」
「一番上です」
蓮は片手で取った。
わずか数秒。
「はい」
「ずるいです」
「何が」
「高い」
「俺のせいじゃない」
小春はむっとした。
「身長分けてください」
「十センチくらいなら」
「四十センチください」
「それは無理」
二人はまた笑った。
第四章 友達以上?
ある日の休み時間。
女子たちが小春に聞いた。
「花森さんって月城くんと仲いいよね」
「そうですか?」
「いつも話してるじゃん」
小春は少し考えた。
確かによく話している。
学校で一番話している相手かもしれない。
「仲はいいと思います」
「付き合ってたりして」
「えっ!?」
小春の顔が真っ赤になる。
女子たちは笑った。
「冗談冗談」
でも。
小春の心臓はしばらく落ち着かなかった。
第五章 図書室の秘密
放課後。
図書室。
小春は恋愛小説を読んでいた。
そこへ蓮がやって来る。
「また恋愛小説か」
「好きなんです」
「面白い?」
「面白いですよ」
「どんな話?」
小春は少し考えた。
「身長差カップルのお話です」
蓮は吹き出した。
「なんで笑うんですか」
「いや」
「絶対何か考えました」
「別に」
しかし蓮の耳は少し赤かった。
第六章 名前
五月になった。
ある日。
小春は何気なく言った。
「月城くん」
「ん?」
「みんな蓮くんって呼びますよね」
「そうだな」
「私は月城くんです」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないです」
少し沈黙。
小春は小さく言った。
「まだ特別じゃないので」
蓮は思わず固まった。
「そうか」
小春は慌てた。
「ち、違います!」
「何が」
「変な意味じゃなくて!」
二人とも赤くなった。
第七章 体育祭
体育祭の準備が始まった。
小春は応援旗担当。
しかし問題があった。
旗を掲げる場所が高い。
また届かない。
「くっ……!」
必死に背伸びする。
蓮は笑いを堪えていた。
「月城くん!」
「はいはい」
蓮が支柱を持ち上げる。
簡単だった。
「便利ですね」
「道具扱いか」
「高身長便利アイテムです」
「ひどい」
でも嬉しそうだった。
第八章 応援
体育祭当日。
小春はリレーに出場した。
小柄だから不利。
そう言われていた。
しかし。
誰よりも真剣に走った。
ゴールした瞬間。
観客席から声が聞こえた。
「花森ー!」
蓮だった。
珍しく大声だった。
小春は驚いた。
そして嬉しかった。
その日。
小春は人生で一番速く走れた気がした。
第九章 夕焼け
帰り道。
夕焼けが綺麗だった。
「今日は頑張ったな」
蓮が言う。
「遅かったですよ」
「そんなことない」
「ビリでした」
「最後まで走っただろ」
小春は少し黙った。
そして笑う。
「ありがとうございます」
蓮は思った。
この笑顔を見ると安心する。
なぜだろう。
自分でもまだわからなかった。
第十章 少しだけ近く
週末前の金曜日。
教室には誰もいなかった。
小春と蓮だけ。
窓から夕日が差し込んでいる。
「もう五月ですね」
小春が言う。
「あっという間だな」
「転校したばかりだったのに」
「そうだな」
沈黙。
不思議と気まずくない。
むしろ心地よかった。
小春は思った。
月城くんの隣は落ち着く。
蓮も同じことを考えていた。
花森といると自然でいられる。
夕日が二人を照らす。
まだ恋ではない。
でも。
友達より少しだけ特別な存在になり始めていた。
気付かないまま。
ゆっくりと。
確実に。
二人の距離は近づいていく。
そして次の季節へ――。
第二部 完
第三部 雨の日の相合傘
第一章 梅雨の足音
六月。
校庭の紫陽花が色づき始めた。
空には厚い雲が広がり、雨の日が増えていた。
教室の窓を眺めながら、小春はため息をつく。
「また雨ですね」
隣の席で蓮が答える。
「梅雨だからな」
「洗濯物が乾きません」
「主婦みたいな発言だな」
「失礼です」
小春は頬を膨らませた。
蓮は少し笑う。
そんな何気ない会話が、二人の日常になっていた。
第二章 忘れ物
その日の朝。
小春は急いで家を出た。
駅に着いてから気づく。
「傘……忘れた」
天気予報は曇りだった。
だから油断した。
学校へ着いた頃には晴れていたので安心していた。
ところが。
放課後。
窓の外が真っ暗になる。
ゴロゴロ。
遠くで雷が鳴った。
「やばい……」
数分後。
ザーッ!!
激しい雨が降り始めた。
小春は頭を抱えた。
「終わりました……」
第三章 昇降口
放課後。
生徒たちは次々と帰っていく。
傘を持っている人は問題ない。
小春だけが困っていた。
昇降口で立ち尽くしている。
そのとき。
「帰らないのか?」
聞き慣れた声。
蓮だった。
「傘忘れました」
「なるほど」
蓮は黒い傘を見せた。
「入るか?」
小春は目を丸くした。
「え?」
「駅までだろ」
「でも」
「風邪ひくぞ」
小春は迷った。
心臓が急に速くなる。
それでも。
「お願いします」
小さく頭を下げた。
第四章 相合傘
二人は校舎を出た。
雨は強い。
自然と距離が近くなる。
傘の中。
小春は緊張していた。
蓮も少し緊張していた。
「狭くないか?」
「大丈夫です」
「もっとこっち来い」
「これ以上近いと……」
「濡れる」
「はい」
小春は少しだけ近づいた。
肩が触れそうになる。
心臓がうるさい。
雨音より大きく聞こえる気がした。
第五章 見上げる先
歩いている途中。
小春はふと蓮を見上げた。
やっぱり大きい。
顔も近いようで遠い。
「どうした?」
蓮が聞く。
「高いなって」
「何が」
「月城くん」
「今さらか」
「今さらです」
小春は笑った。
蓮も少し笑う。
その瞬間。
小春は思った。
この時間がずっと続けばいいのに。
第六章 雨宿り
途中で雨脚が強くなった。
二人は商店街の屋根の下へ避難する。
「すごい雨ですね」
「当分止みそうにないな」
少し沈黙。
小春は勇気を出して聞いた。
「月城くんって」
「ん?」
「好きな人いるんですか?」
言ってから後悔した。
顔が熱い。
蓮は驚いた顔をした。
「いない」
「そうなんですね」
小春は少し安心した。
その表情を見て。
今度は蓮が不思議に思った。
なぜ安心したんだろう。
第七章 優しさ
雨が少し弱くなった。
再び歩き始める。
小春はふと気づいた。
蓮の肩が濡れている。
「月城くん!」
「ん?」
「濡れてます!」
「少しくらい平気」
「平気じゃないです」
傘を自分の方へ寄せる。
すると今度は小春が濡れる。
蓮は苦笑した。
「花森」
「はい」
「俺たち何してるんだ?」
小春も思わず笑った。
確かにその通りだった。
第八章 駅前
駅が見えてきた。
雨もだいぶ弱くなっている。
小春は少し寂しくなった。
もうすぐこの時間が終わる。
「ありがとうございました」
「気にするな」
「でも助かりました」
蓮は少し考える。
そして言った。
「また忘れてもいいぞ」
「わざと忘れろってことですか?」
「違う」
「違います?」
「……違う」
二人は笑った。
第九章 夜のメッセージ
その日の夜。
小春はベッドの上でスマホを見つめていた。
送ろうか。
やめようか。
数分悩む。
そして送信した。
『今日はありがとうございました』
数秒後。
返信が来た。
『どういたしまして』
さらに。
『風邪ひいてないか?』
その一文を見た瞬間。
小春は顔が熱くなった。
『大丈夫です』
送信する。
しばらくして。
『ならよかった』
その短い言葉だけで。
なぜこんなに嬉しいのだろう。
第十章 気づき始めた想い
翌朝。
教室。
小春は窓際の席へ向かう。
蓮はいつものように座っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
いつも通り。
でも。
昨日までと少し違う。
隣に座るだけで緊張する。
声を聞くだけで嬉しい。
目が合うだけで胸が高鳴る。
小春はまだ認められなかった。
これは恋かもしれない。
その事実を。
一方で蓮もまた。
小春が教室に入ってきた瞬間。
なぜか安心していた。
隣の席にいるだけで落ち着く。
話していると楽しい。
気付けば探してしまう。
それが何なのか。
まだ名前を付けられない。
けれど確かに。
二人の心は少しずつ近づいていた。
雨の日の相合傘は。
ただの偶然ではなかった。
二人の恋が動き始める。
大切なきっかけだったのだ。
そして夏がやって来る――。
第三部 完
第四部 文化祭の約束
第一章 夏の終わり
夏休みが終わった。
久しぶりの教室。
久しぶりの制服。
久しぶりの――
「おはようございます」
小春の笑顔だった。
蓮は思わず目を細める。
「おはよう」
夏休みの間も何度か連絡はしていた。
けれど実際に会うと違う。
なんだか少しだけ緊張する。
小春も同じだった。
隣に座るだけで胸が高鳴る。
理由はまだ認めたくなかった。
第二章 文化祭実行委員
ホームルーム。
担任が言った。
「文化祭の準備を始めるぞ」
教室が盛り上がる。
毎年大人気のイベントだ。
「実行委員やる人!」
誰も手を挙げない。
すると。
「花森さんどう?」
女子が言った。
「えっ!?」
小春が驚く。
さらに。
「月城もやれよ」
男子が言った。
気づけば二人とも推薦されていた。
そして――
文化祭実行委員が決定した。
小春と蓮。
二人一組である。
第三章 放課後の準備
その日から放課後が忙しくなった。
教室に残り。
ポスターを作る。
企画書を書く。
飾り付けを考える。
「月城くん」
「ん?」
「この文字どうですか?」
「かわいい」
「文字です」
「知ってる」
小春は赤くなる。
蓮は少し笑う。
最近。
こういう会話が増えていた。
第四章 届かない装飾
文化祭まで二週間。
飾り付け作業が始まった。
教室の天井に装飾を吊るす。
小春は頑張っていた。
しかし。
当然届かない。
「うーん!」
背伸び。
ぴょん。
届かない。
ぴょん。
届かない。
蓮は見ていられなくなった。
「貸せ」
ひょい。
一瞬で終わった。
「ずるいです」
「だから何が」
「高いです」
「褒め言葉か?」
「今だけは褒め言葉です」
二人は笑った。
第五章 噂の二人
最近。
クラスで噂になっていた。
「絶対仲いいよな」
「付き合ってそう」
「身長差すごいけどお似合いじゃね?」
そんな声が聞こえる。
小春は聞くたびにドキドキした。
付き合ってない。
でも。
そうだったらいいなと思ってしまう。
自分がいる。
一方。
蓮もまた。
その噂を否定できなかった。
なぜなら。
否定したくなかったからだ。
第六章 写真
準備中。
クラスメイトが言った。
「集合写真撮ろう!」
みんな集まる。
当然。
蓮は後列。
小春は前列。
離れてしまう。
すると。
「花森さんもっと前!」
と言われた。
小春は少し寂しかった。
その時。
蓮が言った。
「ここでいいだろ」
隣に来たのだ。
「え?」
「見えるし」
小春は驚く。
そして嬉しくなった。
シャッターが切られる。
写真の中。
二人は隣同士だった。
第七章 夜の学校
文化祭前日。
準備は夜まで続いた。
教室にはもう二人しかいない。
夕日が差し込む。
静かな空間。
「終わりそうですね」
小春が言う。
「だな」
窓の外を見る。
オレンジ色の空。
その景色が綺麗だった。
しかし。
蓮は空よりも。
隣の小春を見ていた。
第八章 文化祭当日
ついに当日。
クラスはカフェを出店した。
小春は接客担当。
白いエプロン姿だった。
とても似合っている。
男子たちが騒いだ。
「かわいい!」
「天使じゃん!」
小春は困っていた。
すると。
蓮が近づく。
「大丈夫か?」
「なんとか」
「無理するな」
その言葉だけで安心できた。
小春は不思議だった。
第九章 特別な一枚
文化祭終了後。
校舎の外。
夕暮れだった。
「写真撮ろう」
蓮が言った。
「二人で?」
「記念」
小春の心臓が跳ねる。
スマホをセットする。
並ぶ。
しかし。
身長差がすごい。
「かがみます?」
小春が聞く。
蓮は少し考える。
そして。
「いや」
「え?」
「このままでいい」
小春は驚いた。
蓮は笑った。
「これが俺たちだろ」
その言葉が。
なぜか胸に響いた。
第十章 約束
文化祭の帰り道。
夜風が心地よい。
駅へ向かう途中。
二人は並んで歩いていた。
「終わっちゃいましたね」
小春が言う。
「そうだな」
少し寂しい。
毎日一緒に準備していたから。
その時。
蓮が言った。
「またどこか行くか」
小春は立ち止まった。
「え?」
「文化祭終わっても」
蓮は少し照れていた。
「また一緒に出かけよう」
小春の胸が高鳴る。
それは。
ただの友達への誘いだろうか。
それとも――。
「はい」
小春は笑った。
「ぜひ」
その笑顔を見た瞬間。
蓮の胸も少し熱くなった。
秋の風が吹く。
まだ恋人ではない。
告白もしていない。
でも。
二人の気持ちは確実に育っていた。
誰にも見えない場所で。
静かに。
優しく。
大切に。
そして次の季節。
二人の恋は大きく動き始める――。
第四部 完
第五部 妹じゃない
第一章 秋風の中で
文化祭が終わってからも、小春と蓮は以前と変わらず一緒にいた。
むしろ、一緒にいる時間は増えていた。
朝。
「おはようございます」
「おはよう」
昼休み。
「今日のお弁当何ですか?」
「卵焼き」
「交換しません?」
放課後。
「一緒に帰るか?」
「はい」
それが当たり前になっていた。
だからこそ、小春は少し怖かった。
この関係が壊れることが。
第二章 聞こえてしまった言葉
ある日の昼休み。
小春は廊下で落としたハンカチを拾おうとしていた。
そのとき。
近くの教室から女子たちの声が聞こえた。
「月城くんと花森さん仲いいよね」
「ねー」
「でも恋愛って感じじゃないかも」
「わかる」
小春は立ち止まる。
次の言葉が胸を刺した。
「妹みたいじゃない?」
女子たちは悪気なく笑っていた。
「確かに」
「かわいがられてる感じ」
「月城くん優しいもんね」
小春はその場を離れた。
胸が苦しかった。
妹みたい。
その言葉が頭から離れない。
第三章 避ける理由
翌日。
小春は蓮を避けた。
「おはよう」
「お、おはようございます」
ぎこちない。
昼休みも別の友達と過ごす。
放課後も先に帰る。
蓮はすぐに気づいた。
おかしい。
何かあった。
けれど理由がわからない。
第四章 追いかける
放課後。
蓮は小春を追いかけた。
校門の近く。
ようやく追いつく。
「花森」
小春が振り返る。
「月城くん……」
「何かあったか?」
「別に」
「嘘だな」
小春は目を逸らした。
蓮は真剣だった。
「俺、何かしたか?」
「違います」
「じゃあ何だ」
小春は唇を噛む。
言いたくない。
でも。
言わなければ伝わらない。
第五章 妹じゃない
小春の瞳に涙が浮かぶ。
「私……」
声が震える。
「妹じゃありません」
蓮は目を見開いた。
小春は続ける。
「小さいからって」
涙がこぼれる。
「子ども扱いされたくないんです」
蓮は黙って聞いていた。
「月城くんの隣にいると、みんな妹みたいって言うんです」
「……」
「それが嫌なんです」
初めて口にした本音だった。
第六章 本当の気持ち
沈黙。
風が吹く。
蓮はゆっくり口を開いた。
「俺は」
小春が顔を上げる。
「一度も妹だと思ったことない」
小春の心臓が止まりそうになる。
「え……」
「花森は花森だ」
蓮の声は真っ直ぐだった。
「優しいし」
「頑張り屋だし」
「かわいいし」
小春の顔が赤くなる。
「月城くん……」
「妹なんかじゃない」
その言葉が胸に響く。
涙が止まらなかった。
第七章 気づいた恋
蓮は自分でも驚いていた。
どうしてこんなに必死なんだろう。
小春が泣いているだけで苦しい。
誰かに傷つけられると腹が立つ。
笑っていると嬉しい。
会えないと寂しい。
その感情の正体に。
ようやく気づいた。
これは恋だ。
蓮は深呼吸した。
そして決意する。
第八章 夕焼けの告白
空が赤く染まっていた。
二人だけの帰り道。
蓮は立ち止まる。
「花森」
「はい」
「俺さ」
心臓がうるさい。
人生で初めてだった。
こんなに緊張するのは。
「好きなんだと思う」
小春の目が大きくなる。
蓮は苦笑した。
「いや、違うな」
そして言い直した。
「好きだ」
風が止まった気がした。
第九章 答え
小春は何度も夢見ていた。
でも。
本当に言われるなんて思わなかった。
涙があふれる。
「ずるいです」
「何が?」
「そんなこと言われたら」
声が震える。
「私も好きです」
蓮の目が大きくなる。
小春は泣きながら笑った。
「ずっと好きでした」
その瞬間。
二人の想いが重なった。
第十章 恋人
夕焼けの帰り道。
二人は並んで歩いていた。
昨日までと同じ道。
でも。
すべてが違って見えた。
「花森」
「はい」
「これからよろしく」
小春は笑う。
「こちらこそ」
少し沈黙。
そして。
「小春」
蓮が初めて名前で呼んだ。
小春の顔が真っ赤になる。
「もう一回」
「え?」
「もう一回呼んでください」
蓮は笑った。
「小春」
その声だけで幸せだった。
百四十センチの女の子。
百八十センチの男の子。
誰かは妹みたいだと言った。
でも違う。
二人は恋人になった。
身長差四十センチ。
心の距離はゼロ。
こうして。
二人の初恋は、新しい物語を始める。
そして次の章へ――。
第五部 完
第六部 初めてのデート
第一章 恋人になった朝
告白の日から三日後。
小春は鏡の前で何度も深呼吸していた。
制服の襟を直す。
髪も整える。
そして顔を赤くする。
「恋人……」
口にするだけで恥ずかしい。
学校へ向かう足取りもどこか軽い。
教室へ入ると、いつもの席に蓮がいた。
目が合う。
それだけで心臓が跳ねた。
「おはよう」
蓮が言う。
「お、おはよう」
昨日までは普通に言えたのに。
今日はうまく言えない。
恋人になっただけで、世界が変わった気がした。
第二章 初デートの約束
昼休み。
二人は窓際で弁当を食べていた。
蓮が言う。
「今度の日曜日」
「はい」
「空いてるか?」
小春は箸を止めた。
「空いてます」
「じゃあ出かけよう」
心臓が止まりそうになった。
「デ、デートですか?」
蓮も少し照れる。
「たぶん」
「たぶんじゃ困ります」
「じゃあデート」
小春は顔を真っ赤にした。
人生初のデートだった。
第三章 前日の夜
土曜日。
小春は服を並べて悩んでいた。
白いワンピース。
青いワンピース。
ピンクのカーディガン。
「どうしよう……」
三十分。
一時間。
二時間。
決まらない。
最終的に母親が言った。
「好きな人と会うんでしょ?」
「ち、違う!」
「顔がそう言ってる」
小春は撃沈した。
その頃。
蓮も部屋で悩んでいた。
シャツにするか。
ジャケットにするか。
人生初の本気の服選びだった。
第四章 待ち合わせ
日曜日。
駅前。
小春は十分前に到着した。
緊張で落ち着かない。
すると。
「小春」
聞き慣れた声。
振り返る。
そこには私服姿の蓮がいた。
白いシャツ。
黒いパンツ。
爽やかな笑顔。
女子が振り返るほど格好いい。
小春は固まった。
「どうした?」
「かっこいいです」
言ってしまった。
蓮も少し赤くなる。
「ありがとう」
二人とも照れていた。
第五章 水族館
デート先は水族館だった。
大きな水槽。
泳ぐ魚たち。
青い光。
小春は目を輝かせる。
「すごい!」
「楽しそうだな」
蓮は魚より小春を見ていた。
クラゲのコーナー。
イルカショー。
ペンギン。
どこへ行っても小春は嬉しそうだった。
その姿を見るだけで蓮も幸せだった。
第六章 迷子
休日の水族館は混んでいた。
人混みの中。
小春の姿が見えなくなる。
「小春?」
返事がない。
蓮は焦った。
周囲を探す。
すると。
遠くで小春が困った顔をしていた。
蓮は急いで向かう。
「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい」
小春はしょんぼりしていた。
「人が多くて……」
蓮は安心して息を吐く。
そして自然に手を差し出した。
第七章 手をつなぐ
「はぐれると困るから」
蓮が言う。
小春はその手を見る。
大きな手。
少し震える。
「はい」
そっと手を重ねた。
蓮の手は温かかった。
小春の手は小さかった。
すっぽり包まれる。
「小さいな」
「またですか」
「かわいい」
小春は真っ赤になった。
初めて手をつないだ。
それだけなのに。
世界一幸せな気分だった。
第八章 観覧車
帰り道。
遊園地エリアにある観覧車へ乗った。
ゆっくり上昇する。
街が見える。
空が近い。
小春は窓の外を見ていた。
「綺麗ですね」
「そうだな」
しかし。
蓮は景色よりも小春を見ていた。
小春も途中で気づく。
目が合う。
ドキッとした。
観覧車の中は静かだった。
お互いの鼓動だけが聞こえる気がした。
第九章 未来の話
観覧車の頂上。
小春が言った。
「来年も来れますかね」
蓮は少し考える。
「来る」
「本当ですか?」
「ああ」
「再来年も?」
「来る」
「十年後も?」
蓮は笑った。
「来る」
小春も笑った。
その約束が嬉しかった。
未来を一緒に考えてくれることが。
何より嬉しかった。
第十章 好き
駅前。
帰る時間になった。
楽しい時間はあっという間だった。
「今日はありがとうございました」
小春が言う。
蓮は首を振る。
「俺も楽しかった」
少し沈黙。
別れるのが惜しい。
そんな空気だった。
その時。
蓮が言った。
「好きだ」
小春は目を丸くする。
「急ですね」
「言いたくなった」
小春は笑う。
そして小さな声で答えた。
「私も好きです」
夕暮れの駅前。
二人は見つめ合った。
身長差四十センチ。
けれど心の距離はもうない。
恋人として初めてのデート。
それは二人にとって、一生忘れられない一日になった。
そして。
幸せな時間の先には。
新しい試練が待っている。
二人の絆が試される季節が――。
第六部 完
第七部 周囲の視線
第一章 幸せな毎日
初めてのデートから一週間。
小春と蓮は恋人として穏やかな日々を過ごしていた。
朝は一緒に登校し、
昼は一緒に弁当を食べ、
放課後は一緒に帰る。
以前と変わらないようでいて、確かに違う。
手をつなぐこともある。
名前で呼び合うこともある。
「おはよう、蓮くん」
「おはよう、小春」
その一言だけで幸せだった。
第二章 視線
しかし。
周囲は二人を見ていた。
廊下。
食堂。
校庭。
どこへ行っても目立つ。
理由は簡単だった。
百四十センチの小春。
百八十センチの蓮。
身長差四十センチ。
誰が見ても印象に残る。
「かわいいカップル」
そう言う人もいた。
けれど。
全員が好意的ではなかった。
第三章 聞きたくない言葉
ある日の昼休み。
小春は女子トイレの前で足を止めた。
中から声が聞こえた。
「月城くんってもっと綺麗な人と付き合うと思ってた」
「わかる」
「花森さんって子どもっぽくない?」
「妹みたいだよね」
笑い声。
悪意はないのかもしれない。
でも。
小春の胸には深く刺さった。
そのまま教室へ戻った。
何もなかったように。
笑顔を作りながら。
第四章 隠した涙
放課後。
帰り道。
蓮は気付いた。
「どうした?」
「え?」
「元気ない」
小春は笑う。
「そんなことないです」
「嘘だな」
蓮はすぐ分かる。
小春が無理している時。
笑顔が少しだけ違う。
でも小春は話さなかった。
心配をかけたくなかったから。
第五章 守りたい人
翌日。
今度は蓮が聞いてしまった。
男子たちの会話だった。
「月城って本気なのかな」
「どうだろ」
「妹みたいなもんじゃね?」
その瞬間。
蓮は初めて腹が立った。
「違う」
思わず声が出る。
男子たちが振り返る。
蓮は真っ直ぐ言った。
「小春は小春だ」
教室が静まり返った。
「子どもじゃない」
「妹でもない」
「俺の大切な人だ」
男子たちは何も言えなくなった。
第六章 知ってしまったこと
その日の放課後。
小春は偶然その話を聞いた。
友達から教えられたのだ。
「月城くん、すごかったよ」
小春は驚いた。
蓮が自分のために怒った。
自分を守ろうとしてくれた。
胸が熱くなった。
同時に。
申し訳なくもなった。
第七章 ぶつかる気持ち
帰り道。
小春は言った。
「ごめんなさい」
蓮が止まる。
「何で謝る」
「迷惑かけてるから」
「誰が?」
「私が」
蓮は少し黙った。
そして。
「違う」
真剣な声だった。
「小春」
「はい」
「俺は迷惑だなんて思ったことない」
小春の目が潤む。
第八章 本音
公園のベンチ。
夕暮れ。
二人は並んで座っていた。
小春は小さく言った。
「怖かったんです」
「何が?」
「私が小さいから」
「……」
「蓮くんに似合わないって思われるのが」
蓮は息を吐いた。
そして。
「俺も怖い」
小春が驚く。
「え?」
「小春が離れる方が怖い」
小春は言葉を失った。
第九章 約束
蓮は続ける。
「周りが何を言ってもいい」
「でも」
「俺は小春が好きだ」
真っ直ぐな言葉だった。
嘘も飾りもない。
小春の涙がこぼれる。
「私も好きです」
蓮は笑った。
「知ってる」
「ずるいです」
「お互い様だろ」
二人は少し笑った。
涙が混じった笑顔だった。
第十章 手を離さない
帰り道。
空には星が見え始めていた。
小春は蓮の手を握った。
小さな手。
大きな手。
身長差四十センチ。
周囲の視線は変わらない。
これからも色々言われるだろう。
傷つく日もあるだろう。
それでも。
二人は決めた。
誰かの言葉で離れたりしない。
誰かの価値観で幸せを決めたりしない。
好きだから一緒にいる。
それだけで十分だった。
蓮は手を握り返す。
「小春」
「はい」
「絶対離さない」
小春は笑った。
「私もです」
秋の夜風が優しく吹く。
二人の絆は少しだけ強くなった。
恋人になっただけではない。
本当に支え合う関係へ。
一歩近づいたのだった。
そして冬が近づいてくる――。
第七部 完
第八部 小さな勇気
第一章 冬の訪れ
十一月。
街は少しずつ冬の色に染まり始めていた。
吐く息が白い。
朝の空気は冷たい。
小春はマフラーに顔を埋めながら登校していた。
すると後ろから声が聞こえる。
「小春」
振り返る。
蓮だった。
「おはようございます」
「おはよう」
蓮は小春の頭を見て笑った。
「マフラーで埋もれてるな」
「暖かいんです」
「見えなくなりそうだ」
「消えません」
二人は笑った。
その時間が小春は大好きだった。
第二章 スピーチ大会
ホームルーム。
担任が言った。
「来月、全校スピーチ大会を行う」
教室がざわつく。
毎年恒例の行事だった。
代表者が一人選ばれる。
誰も手を挙げない。
当然だった。
人前で話すのは緊張する。
すると担任が言った。
「花森」
小春が固まる。
「え?」
「出てみないか」
教室中の視線が集まった。
第三章 迷い
放課後。
小春は図書室にいた。
ノートを見つめる。
何を書けばいいかわからない。
そもそも。
自分に人前で話せるのだろうか。
その時。
蓮がやって来た。
「どうした?」
小春は事情を話した。
すると蓮は言った。
「やればいい」
あまりにも簡単に言うので、小春は目を丸くした。
「無理ですよ」
「何で」
「緊張します」
「みんな緊張する」
小春は黙った。
第四章 テーマ
数日後。
小春はテーマを決めた。
『私のコンプレックス』
だった。
身長百四十センチ。
ずっと悩んできたこと。
ずっと嫌だったこと。
そして。
少しずつ好きになれたこと。
自分の言葉で話そうと思った。
第五章 練習
毎日放課後。
小春は練習を続けた。
教室。
図書室。
家。
何度も何度も読み返す。
途中で泣いてしまうこともあった。
それでも続けた。
そんなある日。
蓮が言った。
「聞かせて」
「え?」
「練習」
小春は恥ずかしかった。
でも。
勇気を出して読んだ。
読み終わる。
静寂。
そして。
蓮が拍手した。
第六章 届いた言葉
「良かった」
蓮が言う。
「本当ですか?」
「本当」
小春は少し安心した。
すると蓮は続ける。
「たぶんみんな聞く」
「え?」
「小春の言葉だから」
小春の胸が熱くなった。
蓮はいつもそうだ。
自分が信じられなくても。
信じてくれる。
だから頑張れる。
第七章 本番
スピーチ大会当日。
体育館。
全校生徒。
先生たち。
たくさんの視線。
小春の足は震えていた。
逃げ出したかった。
でも。
客席を見る。
蓮がいた。
目が合う。
蓮は静かにうなずいた。
それだけで少し落ち着いた。
第八章 私のコンプレックス
マイクの前に立つ。
深呼吸。
そして話し始めた。
「私は身長百四十センチです」
体育館が静かになる。
「小さいねと言われ続けてきました」
「かわいいねと言われても、嬉しくない日もありました」
小春は続けた。
「私は自分が嫌いでした」
声が震える。
でも止まらない。
「届かない場所ばかり見えていたからです」
体育館が静まり返る。
誰も笑わない。
誰も騒がない。
みんな聞いていた。
第九章 小さな勇気
小春は続ける。
「でも」
少しだけ笑う。
「届かない場所があるなら助けてもらえばいい」
「できないことがあるなら違う方法を考えればいい」
「そして私にも誰かを支えることができる」
涙が浮かんだ。
「私は今、自分の身長を嫌いではありません」
会場の空気が変わる。
「小さい私でも、夢を持てる」
「恋もできる」
「誰かを幸せにできる」
拍手が起きた。
最初は小さく。
やがて大きく。
体育館全体が拍手に包まれた。
第十章 かっこいい
放課後。
校舎裏。
小春はまだ少し放心していた。
そこへ蓮が来る。
「お疲れ」
「終わりました」
「聞いた」
小春は少し不安になる。
「どうでした?」
蓮は即答した。
「かっこよかった」
小春は目を丸くする。
「かわいいじゃなくて?」
「今日は違う」
蓮は笑った。
「かっこよかった」
その言葉が何より嬉しかった。
小春の目に涙が浮かぶ。
「頑張ってよかったです」
「うん」
「蓮くんがいたから頑張れました」
蓮は少し照れた。
冬の夕日が二人を照らす。
小春は少しだけ強くなった。
自分を好きになる勇気。
前へ進む勇気。
そして。
大好きな人と歩いていく勇気。
その全てを手に入れたのだった。
しかし。
幸せな時間は永遠ではない。
卒業が近づいていた。
進路という現実が。
二人の前に姿を現そうとしていた――。
第八部 完
第九部 離れる春
第一章 進路希望調査
十二月。
教室には進路希望調査の用紙が配られていた。
三年生になる前の大切な時期。
将来を決める第一歩だった。
小春はペンを握りしめる。
希望進路。
地元の保育専門学校。
幼い頃からの夢だった。
子どもたちを笑顔にできる先生になりたい。
迷いはなかった。
しかし。
隣を見る。
蓮は真剣な表情で用紙を書いていた。
東京の大学。
以前から目指していた進路だった。
小春は知っていた。
でも。
文字として見ると胸が苦しくなった。
第二章 遠くなる未来
放課後。
二人はいつもの帰り道を歩いていた。
冬の風は冷たい。
「進路決めたか?」
蓮が聞いた。
「はい」
小春は笑う。
「保育の専門学校です」
「小春らしいな」
「そうですか?」
「ああ」
蓮は本当に嬉しそうだった。
その笑顔を見ると安心する。
でも。
同時に怖くなった。
「蓮くんは?」
分かっていた。
それでも聞いた。
「東京」
やっぱり。
胸が少し痛んだ。
第三章 言えない本音
その夜。
小春は部屋で一人だった。
スマホには蓮とのメッセージ。
楽しい会話。
優しい言葉。
たくさん残っている。
なのに。
涙が出た。
東京。
大阪。
遠い。
今みたいに毎日会えない。
声も。
笑顔も。
隣の席も。
全部なくなる。
「嫌だな……」
小さく呟いた。
けれど。
その言葉を蓮には送れなかった。
夢を応援したかったから。
第四章 受験勉強
冬休み。
蓮は受験勉強に集中していた。
朝から夜まで机に向かう。
模試。
過去問。
参考書。
忙しい日々。
小春も理解していた。
だから連絡を控えた。
でも。
寂しかった。
以前なら毎日話していたのに。
今は少しだけ距離を感じる。
仕方ない。
分かっている。
それでも。
恋をしている心は理屈では動かない。
第五章 すれ違い
一月。
久しぶりに会った放課後。
二人は少しぎこちなかった。
「勉強どうですか?」
「順調」
「よかったです」
会話が続かない。
沈黙。
その空気が苦しかった。
小春は思った。
もしかして。
遠距離になる前から離れているのかな。
不安が膨らむ。
第六章 涙
その日の帰り道。
ついに小春は我慢できなくなった。
立ち止まる。
蓮が振り返る。
「小春?」
小春は下を向いた。
「嫌です」
「え?」
声が震える。
「東京」
蓮は黙った。
「応援したいです」
涙が落ちる。
「でも嫌なんです」
本音だった。
初めて口にした。
「会えなくなるのが嫌なんです」
小春は泣いていた。
第七章 約束
蓮は静かに近づく。
そして言った。
「俺も嫌だ」
小春が顔を上げる。
「え?」
「平気なわけないだろ」
蓮は少し笑った。
「毎日会ってたんだぞ」
「……」
「寂しいに決まってる」
小春の涙が止まらない。
蓮は続けた。
「でも」
真っ直ぐ見つめる。
「終わりじゃない」
第八章 未来
冬空の下。
蓮は言う。
「東京に行っても帰ってくる」
「本当ですか?」
「ああ」
「忙しくなっても?」
「なる」
「忘れたりしません?」
「しない」
即答だった。
小春は思わず笑う。
「早いです」
「当たり前だろ」
蓮も笑った。
久しぶりに心から笑えた。
第九章 お守り
受験前日。
小春は小さな箱を持っていた。
中にはお守り。
神社で選んだものだった。
「はい」
蓮に渡す。
「ありがとう」
「絶対合格してください」
「頑張る」
小春は少し迷う。
そして言った。
「でも」
「ん?」
「本当は落ちてほしいって思った日もありました」
蓮は驚いた。
そして笑った。
「正直だな」
小春も笑う。
「ごめんなさい」
「いいよ」
蓮はお守りを握った。
「その気持ちも含めて嬉しい」
第十章 春を待つ
受験の日。
小春は朝から落ち着かなかった。
時計を見る。
また見る。
何度も見る。
試験は終わっただろうか。
ちゃんと解けただろうか。
大丈夫だろうか。
夕方。
スマホが震えた。
蓮からだった。
『終わった』
その一言。
小春は安心して泣いた。
春はまだ来ない。
結果もまだ分からない。
進路も未来も決まっていない。
でも。
一つだけ確かなことがあった。
二人は同じ未来を見ている。
距離が離れても。
環境が変わっても。
この恋は簡単には終わらない。
そう信じられるようになっていた。
やがて訪れる卒業の日。
二人は人生で最も大きな決断を迎える。
そして。
身長差四十センチの恋物語は。
いよいよ最後の季節へ――。
第九部 完
第十部 君の高さに恋をした
第一章 合格発表
二月下旬。
朝から小春は落ち着かなかった。
今日は蓮の大学受験の合格発表日だった。
何度もスマホを見る。
時計を見る。
窓の外を見る。
そしてまたスマホを見る。
落ち着かない。
昼過ぎ。
スマホが震えた。
送り主は蓮。
小春は慌てて開く。
『受かった』
その四文字を見た瞬間。
小春の目から涙があふれた。
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
でも同時に。
東京へ行く未来が現実になった。
嬉しいのに苦しい。
幸せなのに寂しい。
そんな複雑な涙だった。
第二章 おめでとう
放課後。
二人はいつもの公園で会った。
小春は蓮を見るなり駆け出した。
「おめでとうございます!」
蓮は笑う。
「ありがとう」
小春は泣きながら笑った。
「本当にすごいです」
「小春のお守りのおかげだ」
「違います」
「いや、本当だ」
蓮はそう言って頭を撫でた。
小春は少しだけ目を閉じた。
この時間が愛おしかった。
第三章 残された時間
卒業まであと一か月。
二人は今まで以上に一緒にいた。
放課後。
休日。
帰り道。
どんな時間も大切だった。
一緒にいられる時間が限られていると分かっているから。
一分一秒が特別だった。
第四章 卒業アルバム
卒業アルバムの撮影。
クラス写真。
当然ながら。
蓮は最後列。
小春は最前列。
距離が遠い。
写真を見ながら小春は言った。
「遠いですね」
蓮は笑った。
「身長差だな」
「今さらです」
「確かに」
二人は笑った。
第五章 未来地図
ある日。
二人はカフェにいた。
卒業後の話になる。
「大学生活どうなるんですか?」
「忙しいと思う」
「友達いっぱいできますね」
「小春もだろ」
「私は人見知りです」
「知ってる」
未来は不安だった。
でも。
話していると少し安心できた。
第六章 最後の冬
三月。
寒さも少しずつ和らいでいた。
帰り道。
桜のつぼみが見える。
春は近い。
卒業も近い。
別れも近い。
二人とも分かっていた。
だからこそ。
言葉にできなかった。
第七章 思い出の場所
二人は初めて一緒に行った図書室へ向かった。
「懐かしいですね」
小春が笑う。
「あの頃はまだ恋人じゃなかった」
「そうですね」
「好きだったけど」
小春が真っ赤になる。
「さらっと言わないでください」
蓮は笑った。
第八章 初めての席
教室。
二人の席。
初めて出会った場所。
小春は机を撫でる。
「ここから始まったんですね」
「ああ」
蓮も頷く。
あの日がなければ。
今はなかった。
第九章 伝えたいこと
卒業式が近づく。
小春には言いたいことがあった。
でも。
うまく言葉にならない。
感謝。
尊敬。
愛情。
全部伝えたい。
でも足りない。
第十章 卒業式前夜
眠れなかった。
小春は天井を見つめる。
明日で終わる。
高校生活。
隣の席。
帰り道。
全部。
涙が出た。
でも。
後悔はなかった。
第十一章 卒業式
桜が咲き始めていた。
卒業式。
厳かな空気。
校歌。
卒業証書。
全てが終わる。
最後のホームルーム。
教室には涙があふれていた。
第十二章 ありがとう
式の後。
小春は蓮の前に立った。
「ありがとうございました」
蓮は首を傾げる。
「まだ終わってない」
「え?」
「別れるわけじゃない」
その言葉に。
小春は少し笑った。
第十三章 写真
校門前。
卒業写真を撮る。
今度は二人だけ。
身長差四十センチ。
昔なら気にしていた。
でも今は違う。
その差も含めて大切だった。
第十四章 桜並木
二人は桜並木を歩いた。
初めて出会った春と同じ景色。
でも。
二人はもう違う。
成長した。
支え合った。
恋をした。
第十五章 小さな告白
小春が言う。
「私、自分の身長が嫌いでした」
蓮は黙って聞く。
「でも今は好きです」
「そうか」
「蓮くんのおかげです」
蓮は少し照れた。
第十六章 大きな告白
蓮は立ち止まる。
そして言った。
「俺も」
「え?」
「自分の身長が好きじゃなかった」
小春は驚く。
「目立つから」
「そうだったんですね」
「でも今は違う」
蓮は笑った。
第十七章 理由
「どうしてですか?」
小春が聞く。
蓮は迷わず答えた。
「小春を見つけられるから」
小春は涙ぐんだ。
その言葉は。
どんな告白よりも嬉しかった。
第十八章 未来へ
東京。
大阪。
離れる。
でも。
終わりじゃない。
始まりだった。
新しい人生の。
新しい恋の。
新しい未来の。
第十九章 君の高さに恋をした
夕暮れ。
桜が舞う。
蓮は小春を見つめた。
「好きだ」
何度目か分からない。
それでも。
何度でも言いたい。
「君の笑顔が好きだ」
「優しさが好きだ」
「頑張るところが好きだ」
そして。
「君自身が好きだ」
小春は泣いていた。
第二十章 君の高さに恋をした
小春は蓮の手を握る。
小さな手。
大きな手。
初めてつないだ日のことを思い出す。
「私も好きです」
涙を流しながら笑う。
「ずっと好きです」
桜が舞う。
春風が吹く。
百四十センチの女の子。
百八十センチの男の子。
誰かは言った。
似合わないと。
妹みたいだと。
でも違った。
二人は運命だった。
身長差四十センチ。
心の距離はゼロ。
離れても。
会えなくても。
未来が変わっても。
二人の恋は終わらない。
小春は見上げる。
蓮は優しく微笑む。
そして二人は。
同じ未来へ歩き出した。
第十部 完
第十一部 遠距離恋愛の春
第一章 新幹線ホーム
四月。
桜が散り始めていた。
新大阪駅。
ホームには多くの人がいた。
その中で、小春は蓮の前に立っていた。
今日。
蓮は東京へ行く。
大学生活が始まるのだ。
分かっていた。
応援すると決めていた。
それでも。
寂しい。
「そろそろだな」
蓮が言った。
小春は小さくうなずく。
言葉が出ない。
言ったら泣きそうだった。
第二章 約束のキーホルダー
小春はポケットから小さな箱を取り出した。
「これ」
蓮が受け取る。
中にはうさぎのキーホルダー。
「お守りです」
「うさぎ?」
「私だと思ってください」
蓮は笑った。
「じゃあ絶対なくせないな」
小春も笑う。
涙をこらえながら。
第三章 出発
発車ベルが鳴る。
別れの時間だった。
蓮は新幹線へ乗り込む。
扉が閉まる。
ガラス越し。
小春が見える。
小さな体。
大きく手を振っている。
蓮も手を振った。
電車が動き始める。
距離が離れていく。
小春の姿が小さくなる。
そして見えなくなった。
蓮は初めて実感した。
本当に離れるんだ。
第四章 一人の帰り道
その日の帰り。
小春は一人だった。
いつも隣にいた人がいない。
駅までの道。
電車。
帰り道。
全部が静かだった。
スマホを開く。
そこには蓮との写真が並んでいる。
「寂しいな……」
小さく呟いた。
第五章 東京の空
東京。
大学の寮。
蓮は荷物を片付けていた。
新しい部屋。
新しい街。
新しい生活。
忙しくなるだろう。
でも。
机の上に置いたうさぎのキーホルダーを見る。
自然と笑った。
「元気かな」
気付けば考えていた。
第六章 初めてのビデオ通話
その夜。
スマホが鳴る。
ビデオ通話。
小春だった。
画面がつながる。
「こんばんは」
「こんばんは」
二人とも少し照れる。
画面越しは初めてだった。
「元気?」
「はい」
「そっちは?」
「なんとか」
少し沈黙。
そして。
二人同時に笑った。
第七章 会えない距離
大学生活が始まった。
蓮は講義に追われる。
サークル勧誘も多い。
一方。
小春も専門学校で忙しかった。
子どもたちの勉強。
実習。
課題。
毎日があっという間だった。
それでも。
夜の通話だけは続いた。
第八章 不安
ある日。
小春はSNSを見ていた。
そこには大学の写真。
蓮の周りにはたくさんの友人。
女子学生もいる。
胸が少し痛んだ。
自分は遠くにいる。
東京には行けない。
会えない。
その不安が心を占めた。
第九章 嫉妬
その夜。
通話中。
小春は聞いてしまった。
「大学、楽しいですか?」
「楽しいな」
「女の子とも仲良くなりました?」
蓮は少し笑った。
「なんだその質問」
「別に」
「嫉妬?」
小春は真っ赤になった。
「違います!」
図星だった。
第十章 本音
蓮は優しく言った。
「小春」
「はい」
「心配しなくていい」
小春は黙る。
「俺が好きなのは誰だ?」
その言葉に。
少しだけ安心した。
第十一章 五月の連休
ゴールデンウィーク。
蓮が大阪へ帰ってくることになった。
小春は朝から落ち着かない。
何を着よう。
髪はどうしよう。
まるで初デートの日だった。
第十二章 再会
新大阪駅。
改札口。
人混みの向こう。
見慣れた姿が見える。
蓮だった。
目が合う。
次の瞬間。
小春は駆け出していた。
「蓮くん!」
蓮も笑う。
「ただいま」
その一言で。
涙が出そうになった。
第十三章 変わらないもの
二人は街を歩いた。
会えなかった一か月。
たくさん話したいことがある。
学校のこと。
友達のこと。
将来のこと。
話は尽きなかった。
でも。
一番嬉しかったのは。
隣にいることだった。
第十四章 観覧車の約束
以前行った観覧車へ向かった。
あの日と同じ景色。
頂上に着く。
小春は窓の外を見る。
「また来れましたね」
蓮は笑う。
「ああ」
約束は守られた。
第十五章 離れたから分かること
小春は言った。
「前より好きになりました」
蓮が驚く。
「そうなのか?」
「はい」
小春は照れながら笑った。
「会えない時間があると分かるんです」
本当に大切な人なんだと。
第十六章 同じ気持ち
蓮も笑った。
「俺もだ」
小春が顔を上げる。
「離れて初めて分かった」
「何がですか?」
「毎日会えてたのが奇跡だった」
小春は少し泣きそうになった。
第十七章 未来の夢
夕暮れ。
ベンチに座る。
「将来どうしたい?」
蓮が聞く。
小春は答えた。
「保育園を作りたいです」
「いいな」
「蓮くんは?」
「人を支える仕事がしたい」
二人は未来を語り合った。
第十八章 帰る日
楽しい時間は早い。
帰る日が来た。
また東京へ戻る。
今度は前ほど泣かなかった。
離れても終わらないと知っているから。
第十九章 新しい絆
遠距離恋愛は大変だった。
寂しい。
不安になる。
会いたい。
でも。
その全てを乗り越えるたび。
二人の絆は強くなっていた。
第二十章 遠距離恋愛の春
夜。
通話画面。
「おやすみ」
小春が言う。
「おやすみ」
蓮が答える。
画面越しでも。
距離は感じなかった。
百四十センチの小春。
百八十センチの蓮。
離れていても。
心は隣にある。
二人の恋は終わらない。
むしろ。
ここからが本当の始まりだった。
そして季節は流れる。
新しい出会い。
新しい試練。
新しい未来。
二人を待ち受ける物語は、まだ続いていく――。
第十一部 完
第十二部 試される絆
第一章 夏の始まり
遠距離恋愛が始まって三か月。
六月の終わり。
小春は専門学校の実習に追われていた。
保育園での実習。
朝は早く、帰りは遅い。
子どもたちは可愛い。
でも想像以上に大変だった。
毎日へとへとになる。
夜。
ベッドに倒れ込む。
それでもスマホを開く。
蓮からのメッセージが届いていた。
『お疲れ様』
その一言だけで。
疲れが少し消える気がした。
第二章 大学生活
一方、東京。
蓮も忙しかった。
大学。
レポート。
アルバイト。
サークル活動。
自由な時間は思ったより少ない。
それでも。
机には小春からもらったうさぎのキーホルダー。
見るたびに安心した。
「元気かな」
毎日のように思っていた。
第三章 減った通話
忙しさは少しずつ二人を追い詰めた。
以前は毎日していた通話。
今は週に数回。
時間も短い。
悪いことではない。
仕方ないことだった。
でも。
小春は少し寂しかった。
第四章 既読
ある日の夜。
小春はメッセージを送った。
『今日も実習頑張りました!』
既読。
しかし返信がない。
一時間。
二時間。
三時間。
結局その日は返ってこなかった。
小春は眠れなかった。
第五章 知らない女の子
翌日。
SNSを見ていた小春は固まった。
大学の友達が投稿した写真。
その中に蓮がいた。
隣には笑顔の女の子。
距離も近い。
楽しそうだった。
胸がざわつく。
頭では分かっている。
友達だろう。
でも。
不安は理屈では止まらない。
第六章 すれ違い
夜。
ようやく通話がつながった。
「昨日ごめん」
蓮が言う。
「大丈夫です」
小春は笑った。
でも。
無理していた。
蓮も気付いていた。
けれど。
お互い何を言えばいいのか分からなかった。
第七章 嫉妬
数日後。
ついに小春は聞いた。
「この前の写真」
「写真?」
「女の人」
蓮は理解した。
「ああ」
何でもない返事。
その態度に小春は少し傷つく。
「仲良いんですね」
蓮はため息をついた。
「友達だよ」
「そうですか」
会話がぎこちなくなる。
第八章 不安の正体
通話が終わった後。
小春は泣いていた。
本当は分かっている。
蓮を信じている。
でも。
自分に自信がない。
遠く離れている。
会えない。
知らない世界が広がっている。
それが怖かった。
第九章 東京行き
その頃。
蓮も悩んでいた。
小春の様子がおかしい。
不安になっている。
ならば。
答えは一つだった。
第十章 突然の訪問
ある日曜日。
インターホンが鳴った。
小春が玄関を開ける。
そこには。
「蓮くん!?」
蓮が立っていた。
大きなバッグを持っている。
「来た」
小春は呆然とした。
第十一章 会いたかった
「どうして?」
小春が聞く。
蓮は少し笑った。
「会いたかったから」
それだけだった。
難しい理由はない。
会いたいから来た。
ただそれだけ。
小春の目に涙が浮かぶ。
第十二章 本音
公園のベンチ。
二人は向かい合った。
蓮が言う。
「不安だったろ」
小春は黙る。
「ごめん」
その一言に。
小春は首を振った。
「違うんです」
「?」
「私が弱かったんです」
第十三章 涙
小春は泣きながら話した。
「取られそうで怖かった」
「……」
「遠くに行っちゃいそうで」
「……」
「好きだから怖かったんです」
全部本音だった。
隠していた気持ち。
全部。
第十四章 答え
蓮は静かに聞いていた。
そして。
「取られない」
小春が顔を上げる。
「俺は小春が好きだ」
真っ直ぐな言葉。
迷いのない声。
それだけで十分だった。
第十五章 抱きしめる勇気
小春は泣き続けていた。
蓮は少し迷った。
そして。
そっと肩を抱いた。
小春は驚く。
でも逃げなかった。
安心した。
ずっと欲しかった温もりだった。
第十六章 約束
夕暮れ。
空が赤く染まる。
蓮は言った。
「不安になったら言え」
「はい」
「我慢するな」
「はい」
「一人で抱えるな」
小春はうなずいた。
第十七章 信じること
恋愛は好きだけでは続かない。
信じること。
話し合うこと。
支え合うこと。
二人は少しずつ学んでいた。
大人になる途中で。
第十八章 夏祭り
その夜。
地元の夏祭りへ行った。
小春は浴衣姿。
蓮は言葉を失った。
「どうしました?」
「反則だろ」
「何がですか?」
「かわいすぎる」
小春は真っ赤になった。
第十九章 花火
夜空に大輪の花火が咲く。
二人は並んで見上げていた。
小春は思う。
不安だった。
苦しかった。
でも。
乗り越えられた。
隣に蓮がいるから。
第二十章 試される絆
花火の光が夜空を照らす。
遠距離恋愛。
簡単じゃない。
これからもきっと大変だ。
でも。
二人は知っている。
話せば分かる。
信じれば乗り越えられる。
百四十センチの小春。
百八十センチの蓮。
距離は遠くても。
心は離れない。
こうして二人は。
恋人から少しずつ。
人生のパートナーへ近づいていくのだった。
そして新しい季節が始まる――。
第十二部 完
第十三部 君と歩く未来
最終完結編
第一章 四年の月日
それから四年の月日が流れた。
季節は何度も巡った。
春。
夏。
秋。
冬。
何度も遠距離を乗り越えた。
何度も会えない夜を越えた。
何度も不安になった。
それでも。
二人は別れなかった。
むしろ。
以前より深く結ばれていた。
第二章 夢への道
小春は保育士になった。
小さな保育園で働いている。
毎日子どもたちに囲まれていた。
「小春先生!」
「はーい!」
笑顔が絶えない。
夢だった仕事。
忙しいけれど幸せだった。
一方。
蓮も大学を卒業した。
人を支える仕事に就いた。
責任ある立場。
忙しい毎日。
それでも。
二人は連絡を欠かさなかった。
第三章 大阪へ
ある春の日。
蓮から電話が来た。
「小春」
「はい」
「話がある」
少し緊張した声。
小春は不思議に思った。
「どうしたんですか?」
数秒の沈黙。
そして。
「大阪に戻る」
小春は固まった。
第四章 帰ってくる人
蓮は続けた。
「転勤願いが通った」
「え……」
「来月から大阪勤務だ」
小春の目に涙が浮かぶ。
何度夢見ただろう。
同じ街に住む未来を。
もう。
会いたい時に会える。
画面越しじゃない。
本当に隣にいられる。
第五章 再会の日
四月。
大阪駅。
待ち合わせ場所。
人混みの中。
見慣れた姿が見えた。
スーツ姿の蓮。
以前より少し大人になった。
でも。
笑顔は変わらない。
「小春」
「蓮くん」
次の瞬間。
二人は笑っていた。
離れていた時間が嘘みたいだった。
第六章 同じ街
大阪の街を歩く。
隣に蓮がいる。
それだけで幸せだった。
「不思議ですね」
小春が言う。
「何が?」
「隣にいるのが」
蓮は笑った。
「俺も思った」
遠距離だった日々が長かったから。
近くにいることが夢みたいだった。
第七章 思い出の公園
高校時代によく来た公園。
あのベンチ。
あの桜。
全部そのままだった。
二人は並んで座る。
沈黙。
でも心地よい。
昔から変わらない空気だった。
第八章 未来の話
夕暮れ。
蓮が言う。
「将来の話をしよう」
小春は少し緊張した。
「はい」
蓮は真剣だった。
高校生の頃とは違う。
大人の顔だった。
第九章 大切な夢
「小春」
「はい」
「保育園を作りたいって言ってたよな」
小春はうなずく。
「はい」
「その夢」
蓮は微笑んだ。
「一緒に叶えたい」
小春は驚いた。
第十章 小さな箱
蓮がポケットから取り出した。
小さな箱。
見た瞬間。
小春の心臓が止まりそうになる。
震える手。
言葉が出ない。
第十一章 プロポーズ
夕陽が二人を照らしていた。
蓮は立ち上がる。
そして。
ゆっくり小春の前に立った。
「小春」
「……はい」
声が震える。
蓮は真っ直ぐ見つめた。
第十二章 君と生きたい
「高校で出会った日から」
蓮は言う。
「あの日からずっと」
「小春といる時間が幸せだった」
涙があふれる。
止まらない。
第十三章 指輪
箱が開く。
中には指輪。
小春は涙でよく見えない。
蓮は笑った。
「泣きすぎ」
「だって……」
言葉にならない。
第十四章 永遠の約束
蓮は言った。
「結婚してください」
風が吹いた。
桜が舞った。
小春は泣きながら笑う。
そして。
何度もうなずいた。
第十五章 答え
「はい」
その一言。
それだけだった。
でも。
その一言に。
二人の未来が詰まっていた。
第十六章 家族
結婚式の日。
家族。
友人。
恩師。
たくさんの人が集まった。
高校時代の友達もいた。
みんな笑顔だった。
第十七章 祝福
「おめでとう!」
拍手が響く。
花びらが舞う。
幸せだった。
人生で一番。
幸せな日だった。
第十八章 夢の続き
数年後。
小春は小さな保育園を開いた。
園庭では子どもたちが遊んでいる。
蓮も手伝っていた。
二人で叶えた夢だった。
第十九章 変わらないもの
仕事帰り。
夕暮れ。
二人は並んで歩く。
昔と同じ。
小春は見上げる。
蓮は見下ろす。
身長差四十センチ。
出会った頃から変わらない。
第二十章 君の高さに恋をした
「蓮くん」
「ん?」
「私ね」
小春は笑った。
「身長百四十センチでよかった」
蓮も笑う。
「どうして?」
小春は答える。
「だって」
昔と同じ笑顔で。
「見上げた先に、蓮くんがいたから」
蓮は優しく頭を撫でた。
そして言う。
「俺も百八十センチでよかった」
「どうして?」
「小春を見つけられたから」
夕焼けが街を染める。
高校生だった二人。
遠距離を乗り越えた二人。
夫婦になった二人。
たくさんの涙。
たくさんの笑顔。
たくさんの愛。
すべてを抱きしめながら。
二人は未来へ歩いていく。
百四十センチの女の子。
百八十センチの男の子。
身長差四十センチ。
心の距離はゼロ。
これは。
小さな女の子と大きな男の子が紡いだ、
世界でたった一つの恋の物語。
そして――
これからも。
二人の幸せは続いていく。
完結