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ブラックスカイー#02

    2090年、大戦争「ブラックスカイ」勃発。

    日本の潜水艦**「リヴァイアサン」**は、帝国の刺客を撃破するも、直後に現れた未知の超巨大潜水艦による絶体絶命の強襲を受ける。

    迫る魚雷。死を覚悟した瞬間、艦長を謎の**「水色の光」が包み込んだ。 その光は艦体全体へ広がり、敵の攻撃をすべて消滅させる「絶対防御」**へと変貌する。

    未曾有の力で窮地を脱したリヴァイアサン。 しかし、光が消えたあとの艦橋には、忽然と姿を消した艦長の空席だけが残されていた。

    最強の守りと引き換えに、艦長を喪失した潜水艦の運命が動き出す――。

    from ブラックスカイ#01

    ……温かい。

    深い海の底、凍えるような鉄の冷たさの中にいたはずだった。 死の恐怖も、魚雷の接近を告げるソナー音も、今はもう聞こえない。 ただ、微かに漂う甘い匂いと、柔らかい感触だけが全身を包んでいた。

    ゆっくりと瞼(まぶた)を開ける。 視界に飛び込んできたのは、無機質な潜水艦の天井ではない。湿気で少し剥がれかけた、見覚えのある白い天井だった。

    「……ここは?」

    掠れた声を出して、上半身を起こす。 リヴァイアサンの艦長制服ではなく、クタクタになったTシャツ姿。 横たわっていたのは少し古いベットのようだった。

    窓から差し込む、目に痛いほどの眩しい朝日。 潮騒の代わりに聞こえるのは、遠くで鳴くセミの声と、テレビから流れる朝のニュースの音だ。

    『――続いてのニュースです。本日、2060年8月1日、全国的に晴天に恵まれ……』

    「平成……?」

    カレンダーに目をやる。そこには、2090年ではなかった。

    手を見る。シワも傷跡もない、若かりし頃の自分の手だ。

    「馬鹿な……。俺は、リヴァイアサンと共に消えたはずじゃ……」

    夢か、幻か。 鏡に映ったのは、30年前の、まだ「艦長」と呼ばれる前の、若き日の自分だった。

    「わたるーごはんよ!」
    階下から響く、鈴を転がすような、けれどどこか勝気なその声に心臓が跳ねた。 ありえない。その声の主は、十数年も前に不治の病で帰らぬ人となったはずの母親だった。

    「……母さん?」

    震える足でベッドを降り、ドアを開ける。 階段を駆け下りた先、台所の匂い、味噌汁の香ばしい湯気の向こうに、記憶の中よりもずっと若々しい母が立っていた。

    「何ぼーっとしてるの。早く座りなさい、高校に遅刻するわよ」

    促されるままについた食卓。そこには、父と、まだ幼さの残る妹を含めた家族四人の風景があった。 「ブラックスカイ」の硝煙も、深海の重圧もない。ただ今日のニュースを伝えるテレビの音が流れる、ありふれた朝の食卓。

    ふと、玄関の鏡に自分の姿が映る。 リヴァイアサンの艦長として数多の決断を下してきた鋭い眼光は消え、そこにあったのは、学生服に身を包んだ、まだ何者でもない高校生の自分だった。

    (……戻ったのか。あの地獄が始まる、30年も前の世界に)

    手に持った箸が、小さく震える。 この温かな味噌汁の味も、家族の笑い声も、あと30年もすればあの「黒い空」に呑まれて消えてしまう。

    蝉時雨が降り注ぐアスファルトの上を、一ノ瀬航は重い革製の学生カバンを手に歩いていた。 2090年、日本を覆っていたあの重苦しい「黒い空」とは似ても似つかない、どこまでも突き抜けるような群青色の夏空。

    (……この空を、一度だって忘れたことはなかった)

    すれ違う近所の住人に挨拶され、航はぎこちなく会釈を返す。かつての「艦長」としての威厳ある動作ではなく、一人の少年としての振る舞いを思い出すには、まだ少しの時間が必要だった。

    正門をくぐると、グランドを走る生徒たちの掛け声と、スプリンクラーが撒き散らす水の匂いが鼻をくすぐる。リヴァイアサン艦内の、あの乾燥した循環空気と機械油の匂いとは対極にある、生命力に満ちた空気。

    航は昇降口で上履きに履き替えながら、ふと自分の掌を見つめた。 かつて多くの部下の命を背負い、発射ボタンを押し、時には血に染まったその手は、今はまだ白く、ペンだこすらおぼつかないほどに柔らかい。

    3階にある教室の扉を開けると、そこには「日常」という名の喧騒が広がっていた。 飛び交う冗談、机を叩く音、誰かが流している流行歌。

    「よお、航! お前、今日なんか顔つきが違わねえか? 徹夜でゲームでもしてたのか?」

    声をかけてきた友人の名前を思い出すのに、数秒の時間を要した。……そうだ、こいつは確か、開戦初期の混乱で消息を絶った。 「いや……少し、考え事をしていただけだ」 「なんだよ、真面目かよ」

    航は笑って誤魔化し、窓際の自分の席へと向かった。 ガタ、と音を立てて椅子に深く腰を下ろすと、木製の机の感触が指先に伝わる。窓の外を見れば、平和な街並みの向こうに海が見えた。 今はまだ静かなあの深海には、数十年後、自分たちが乗り込む「リヴァイアサン」の設計図すら存在していない。

    (……戦略を立てる必要がある)

    航はノートを一冊取り出し、その最初のページに、まだこの世界の誰も知らない単語を小さく書き込んだ。

    『ブラックスカイ:阻止限界点まで 10,950日』

    チャイムが鳴り響く。 それは、一人の少年による、世界を救うための「30年戦争」の開始を告げる信号音であった。ーーーー


     
     
     

    Y

     
     
    #ブラックスカイ という作品を書いています。 作詞作曲もしています。ドラムとキーボードもしています。 昼寝とコーヒー愛好家です。

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