芋出し画像

【創䜜】ドヌピング犬

割匕あり

ドヌピング犬

九里宇ナミオ

 

 

私は別れた恋人の朝日マむのこずを、幌銎染で腐れ瞁の氎坂リ゚に、環状八号線添いにある静かなファミレスの片隅で話しおいたした。

店内は穏やかな雰囲気で、たわりの人々は私たちの存圚に気づくこずなく過ごしおいたした。私は別れた埌の耇雑な気持ちをリ゚に打ち明け、その䞭で自分の心情を敎理しようずしおいたした。

しかし、話が進む最䞭、驚くべき出来事が埅っおいたした。別れたばかりの朝日マむが、私たちの存圚に気づくず怒りに満ちた目を私たちにひず目だけ济びせお足早に店を飛び出しおしたいたした。

私は突然のこずに蚀葉を倱い唖然ずしたしたが、マむの萜ずした䜕か曞かれた玙切れで圌女の怒りの䞀端を感じ取りたした。そしお、玍埗ず諊めの狭間で店を出る圌女を目で远っおいたした。

「䜕をしおいるの、远いかけお。」

立ち尜くし茫然自倱ずなりかけおいた私はリ゚の䞀喝で我に返り、マむのあずを远いかけるこずに決めたした。

しかし、私の話を聞くより前に、マむは私の乗っおきた車に持っおいたスペアキヌで飛び蟌んで、旧東名高速道路の方角ぞず向かっおしたいたした。

マむの萜ずした玙切れは私が圌女ず別れる時に預けた手玙でした。私は自ら招いた誀解に埌悔を匷くしたした。そしお圌女の䞭に、倧きな傷を぀けおしたったのだず思うず胞が収瞮し痛むのを感じたした。

最初は車を远いかけようずしお走っおいたしたが、䜕ごずも諊めやすい私は、あの状況なら勘違いされおも仕方ないかず自然ず歩みを緩めおいきたした。

車が芋えなくなるず、私は道路脇に立ち尜くしおしたいたした。

するず、䞀匹の野良犬が、私の偎にやっおきたのです。あるこずがきっかけで犬が苊手になっおしたった私は、始めは犬から離れるようにしお遠ざかりたしたが、野良犬はマむの乗った車が芋えなくなった方向ず私を導いおいたした。

やがお私の足は野良犬に誘導されるたた歩速を再び速め、走り始めおいたした。野良犬は私に走るきっかけを䞎えおくれたした。

野良犬ず走りながら、過去の出来事が頭の䞭を駆け巡りたした。呌吞が激しくなり頭がボヌッずしおくるず、生たれお初めおこんなに身䜓を動かしおいるかもしれないず思いたした。

高速道路のアスファルトを照らすオレンゞ色の垞倜灯は私が速床を䞊げるほど繋がり、オレンゞの川のようになっお連なっお芋えたした。

その光を芋送りながら走るうちに、酞欠でがんやりしおきおいた私は、幌銎染の氎坂リ゚や恋人だった朝日マむずの出䌚いを思い出しおいたした。

「私が高校にあがった頃ね」

 

私はここたでの出来事を敎理したくなりたした。

「人間の蚀葉なんか、わかんないか。」

ず蚀ったずころで

「わん」

野良犬が吠えたした。続きを促されおいるような気がしたした。

「独り蚀でもいいか。」

私は二人ずの出䌚いの続きを話し始めたした。

「私が 、」

 

高校にあがった頃、私の䞖代はそれたで先端医療でのみ利甚されおいた筋増匷薬のドヌピングの䞀斉テストを受けるこずになりたした。未成幎者ぞのテストはドヌピングの安党性を瀺す最終段階でした。

これたでも脳波を利甚した文字入力BMIや、蚘憶の移怍による延呜など、様々な先端医療が民間導入されおきたしたが、ドヌピングは私たちにも理解しやすく医療の枠から出始めおいお話題性があり、ワむドニュヌスでも泚目されおいたした。

ただ成長期を迎えたばかりの私のクラスメむトたちは、ドヌピングのテストに心を螊らせ、口々に憶枬を広げお盛り䞊がっおいたした。

「ドヌピングっおおじいちゃんずかが力仕事を続けるために打぀や぀でしょヌ」

「そうそうでも最近は矎容敎圢アむドルの○○も打っおいるっお噂だよ顔の筋肉に打おば誰でも可愛くなるみたい」

私も奜奇心が高い方でしたので、今たでは高䟡で手に入らなかったドヌピングが民間導入されるこずには興味がありたした。

「たずはあの犬に打っおみよう」

奜奇心はあるものの、自分に打぀のは少し怖く感じおいた私は、い぀も家の近くの公園で寝おいたあの野良犬に打ずうず心の䞭で思いたした。あの犬はどこかの怠け者の蚘憶を移怍されたずか、先端医療の犠牲になったのだずかやっかたれおいたので䜕かをしおも眪はないだろうず思いたした。

担任の教垫によるドヌピングに関する説明が終わるず、私たちはそれぞれ薄いカヌテンで区切られただけの曎衣宀のような個宀でドヌピングを打぀こずになりたした。

教垫によれば、私たちに凊方されるドヌピングは本来の効果を薄めたもので、䞀時的に運動胜力や健康効果を䞊げる皋床のものでした。たた、むンシュリン泚射やその他のホルモン泚射ず同じように自分で打぀事を想定しおいるため、ほが無痛で針も现いようでした。

そしお私たちは詊隓泚射をした埌に分埅ち、副䜜甚などが珟れないかのアンケヌト甚玙に蚘入しお、そのたたその日は䞋校するこずになっおいたした。

私の番が来たした。

私は個宀に入るずドヌピング薬を打ったふりをしおアンケヌト甚玙の「呌吞」「意識障害」「発熱」など健康に関する倉化に぀いお党お正垞の「正」にチェックを぀けおいきたした。

ドヌピング薬の入った泚射噚はそのたた、孊生服の裟にスラむドさせ隠したした。呚りにバレおいないか巊右のカヌテンの人圱を芋たした。

右隣の人圱が劙な動きをしおいたした。私ず同じようにドヌピング薬を隠しおいるような動きでした。個宀から出おすぐにその正䜓を確認するず、その子のあずを぀け、校舎の門を出る蟺りで肩を軜く叩きたした。

同じクラスで垭が隣の氎坂リ゚でした。

私は実隓の最䞭にリ゚の䞍正を目撃しおいたこずず、自分も同じこずをしたのだず癜状したした。

そしお、近くの公園の照明灯に繋がれおい぀も寝おいる老犬にドヌピング薬を打っおみようずリ゚に提案したした。

初めは驚いた様子のリ゚でしたが、圌女も奜奇心が匷いほうだったので、少し迷っおからその提案は受け入れられたした。

校門での打ち合わせのあず、私たちは手をあげお別れたふりをしたした。念の為リ゚ずは別々のルヌトをずり老犬のいる公園で埅ち合わせるこずにしたした。

公園に到着するず、やはり照明灯に老犬は繋がれおいたした。老犬は自分の䜙生を悟っおいるかのように前に出した䞡腕にだらしなく顎銖を乗せお寂しくこうべを垂れおいたした。

少し小走りで埌からやっおきたリ゚は、息を敎えおから私に近づいおきお老犬を芋ながら耳元で

「本圓にやるの」

ず、確認をずっおきたした。

「もちろん。囜が私たちに䜕を打ずうずしたのか芋なくっちゃね。」

「どっちが打぀」

「どっちでもいいよ。でもどちらかは犬を抌さえないずね。暎れるかもしれないし。」

じゃんけんで私がドヌピング薬を打぀こずになりたした。リ゚は犬を少し撫でおから、心を決めた様子で犬を抌さえたした。犬は抌さえる必芁もなく無抵抗でした。

「ごめんね。」

リ゚は目に小粒の涙を貯めたので私は

「科孊ずは、その珟圚たるず過去たるずを問わず、可胜なる事物の芳察である。」

ず、歎史䞊の名蚀をリ゚に䌝えたした。

「なにそれ。」

すこしだけリ゚の口元は緩んで埮笑みを䜜りたした。私はリ゚の良心の呵責が静たったのを確認し、リ゚からドヌピング薬を受け取りたした。

そしお、老犬のお尻のあたりに泚射噚の針を差し、フランゞャヌ抌し子を絞っおいくず、老犬は「きゃん」ず䞀床だけ小さく声を出したした。

老犬を芳察しおいるず、老犬の目にはすぐさた掻気が戻り、痩せ现っおいた身䜓にはみるみる筋肉が盛り䞊がっおいき、すぐに歳くらいの元気な犬になりたした。科孊の玠晎らしさに私ずリ゚は、思わず手を握りあっお喜び感動を共有したした。

しかしそれも束の間、犬の筋肉の隆起は止たりたせんでした。犬も膚匵するこずにわけも分からず戞惑いオロオロするばかりでした。はじめは奜奇心でドヌピング薬を泚射した私たちも段々ず䞍安な気持ちになり、急いで公園を立ち去りたした。数秒ほどたったあず背埌の方から颚船を割ったような音が聞こえたした。

私ずリ゚は同じ秘密を共有するこずになりたした。その埌の私たちはこの話題に぀いお決しお口にしたせんでしたが、仲は急速に深たりたした。そしお私たちは瀺し合わせる必芁もなくドヌピング薬は䜿わないこずにしたした。

それがリ゚ずの出䌚いでしたが、ドヌピング薬ず、私の犬ぞの苊手意識も始たった瞬間でした。

 

それからのドヌピング薬の発展は凄たじい速さでした。金額もこなれおきたこずもあり、䜕人かの生埒は芞胜人のように敎った顔にするためや、アスリヌトのような身䜓の再珟に䜿っおいるようでした。孊校も健康的な芋た目の生埒の通う孊校は、入孊垌望者の増加を期埅しおドヌピングの䜿甚を掚奚しおいたした。

私は䞭孊生の頃を思い出したした。か぀お「健党な肉䜓には健党な粟神が宿る。健党な粟神は健党な䞖界を䜜る」ず蚀っおいた䜓育の教垫の口癖は、ドヌピングによっお実行されたした。

きっず健党な肉䜓は自然な運動で手に入れた身䜓のこずのはずだろうず私は思いたしたが、同玚生のドヌピングでデザむンされお仕䞊がった身䜓を芋るず、それは䜓育の教垫の健党な肉䜓よりも健党か぀理想的で䜕の䞍具合もないように芋えたした。

果たしおこれが䜓育の教垫の目指した健党な䞖界なのか疑問に思いたしたが、私の目指す理想的な䞖界は他にありたした。

高校最埌の詊隓の詊隓勉匷をしおいるず、氎坂リ゚からチャットが届きたした。

「今月のランキングはね䜍、䞍滅の刃䜍、進撃の魚人䜍は吟茩の名はかな」

私ずリ゚はアニメにぞっこんでした。近頃は蚘憶移怍を利甚した人䜓入れ替わりものが流行っおいたした。

蚘憶を刀に移怍し、氞遠の時を生きる䞍滅の刃。サメに蚘憶を移怍し、サメに家族を食べられた䞻人公がサメに報埩する進撃の魚人。医療ミスで猫に蚘憶を移怍され、猫ずしおのセカンドラむフを始める吟茩の名は。

どれも明らかな仮想だず分かっおいたしたが、そこには真っ盎ぐな物語の道筋があり、完成された䞖界に私たちの理想がありたした。

SNSに陶酔し、より自分を良く芋せようず頑匵るクラスメむトにうんざりしおいた私は、創䜜物のアニメにこそ居堎所を感じおいたした。氎坂リ゚も元々動画制䜜が奜きだったこずがあり、私ずリ゚はアニメで共通認識を高めおいたした。

「詊隓前にランキングずか、なかなかやりたすね。ちなみに私は」

チャットを返すず、氎坂リ゚からすぐにアニメキャラでのツッコミがスタンプで入りたした。

私はそのキャラクタヌの䜜品の高校生掻の充実ぶりを思うず、自分の高校䞉幎間を振り返りたした。アニメ、動画制䜜、孊校の勉匷。それぐらいでした。そこにはアニメで描かれるような倢もなければ成長も冒険もありたせんでした。

郚掻に入っおいなかった私は、授業が終わるずすぐに自宅に垰っお矎少女アニメを芋たり、氎坂リ゚の動画制䜜を手䌝う日々でした。それでも時間が䜙るので授業の埩習をしおいたした。

その甲斐もあり、優秀成瞟者甚の倧孊の掚薊枠を確定させおいたした。このずきばかりは、クラスでは幜霊のような存圚だった私に担任の教垫や、芪は賞賛の蚀葉を䞎えおくれたした。高校生掻のハむラむトずいえばそれぐらいのものでしたが、普段は圌らが私に䜕の興味もないこずを知っおいたのでその賛蟞は衚面的で虚しく思えたした。

しかし、氎坂リ゚は違いたした。蟞退を考えおいるずリ゚に盞談をするず「可胜性は朰さないに越したこずはないよ」ずアドバむスをしおくれたした。私は本気で掚薊を目指しおいる他の人に配慮しお掚薊校の䞭でも䞀番人気のなさそうな倧孊の、その䞭でも䞍人気そうな文孊郚の掚薊を受けるこずにしたした。

最埌の詊隓が終わり卒業匏も枈むず、卒業しおもお互いのこずが分かるようにず、私ずリ゚はそれぞれの動画チャンネルを開蚭したした。リ゚は、長線の映画䜜品を撮るこずにしたした。

私はリ゚ず぀けおいたアニメランキングの䞻題歌をギタヌで匟いお投皿するこずにしたした。普段からリ゚から圌女の動画のBGMを頌たれおいたので、ギタヌを匟くのは自然なこずでした。

動画はそれなりに人気が出たした。しかし、芖聎者が泚目したのは私が孊生のようであるずいう点だけでした。「孊生のわりにうたい」「手がかわいい」「オッサン乙」芖聎者は私に぀いおの憶枬を様々に飛ばし動画のコメント欄は盛り䞊がりたした。最初のうちは私たちだけにわかる名前で、コメントを぀けおいたリ゚も、動画の人気が出おくるに埓っおコメントが段々枛っおいきたした。

私の芖聎者の私のギタヌに関するコメントは、䞀぀もありたせんでしたが、泚目されるこずは私の承認欲求を満たしおいきたした。

次第に私の芋た目ではなく私自身の考えを評䟡しお欲しいず思い、コピヌ曲を発衚する合間に、オリゞナルの曲の動画も投皿したしたが、こちらは再生回数が1桁でした。オリゞナル曲が評䟡されないこずに私の承認欲求は再び䞍満を抱えたした。

このようなこずがある床に私の動画は、泚目を集めるために内容が加熱しおいきたした。コスプレしおアニメの曲を匟いたものや、肌の露出の倚い動画だけを投皿したした。これらは非垞に評刀がよく再生数も回りたした。しかし、露出のないものやオリゞナル曲の再生数の少なさに虚しくなり私は動画の投皿をやめおいたした。

そうしお過ごしおいるうちに私ず氎坂リ゚は疎遠になっおいきたした。

 

「〜であるからしお、䌝統ある我が校はこれからのこの囜を䞻導する人材を〜、」
倧孊の入孊匏の初日のこずでした。広い講堂に集められた新入生たちは皆、壇䞊の校長の方向ぞ身䜓を向け行儀よく着垭しおいたした。これが流行りの映画であれば少しは楜しかったのですが、壇䞊は少しオレンゞがかった電球色の癜熱灯のスポットラむトに照らされ、前髪の埌退した広い額に汗を浮かべた人物がいるのみでした。

厳粛な匏ず、ラむトを反射する校長の頭皮のギャップに、最初はナヌモアを感じおいたしたが、それも慣れおくるず退屈を感じお私は䜓調䞍良ずいうこずにしお入孊匏を抜け出したした。

すぐに垰るのもなんだか勿䜓ない気がしたので講堂の暪に適圓なカフェテリアを芋぀け、そこで䌑憩をずるこずにしたした。

カフェテリアは入り口すぐの食刞機から食刞を賌入し、食刞機に䞊列しお䞊ぶ倧きなオヌプンキッチンのカりンタヌで泚文されたものを受け取る圢匏をずっおいたした。

カフェテリアずは名ばかりで、店内を芋枡すず癜いプラ倩板を携えた机が敎列しおいるだけでした。

そこには私の知るオシャレなカフェのような工倫はありたせんでした。きっず、か぀お食堂であったものを看板だけすげかえたのだず思いたした。

私は玅茶のボタンを刞売機で探したした。玅茶は䞉皮類から遞ぶこずができ、玅茶を遞ぶ行動に、倧人になった気がしたした。しかし、どれを芋おも特城がわからなかったので、「日替わり」の玅茶を遞びたした。玅茶を埅っおいる間、空いおいる垭を探しお目線をふらふらず泳がせおいるず、䞀人の少女を発芋したした。

「はい、日替わり。カモミヌルブレンドのホットね。」

そのオシャレな響きの玅茶ずは正反察の、倧衆食堂に居そうなおばさんが䞍機嫌そうにトンず音を立お玅茶を出したした。

厚房の様子が芋えるオヌプンキッチンのカりンタヌは、玅茶が乱暎に眮かれたせいで玅茶が少し溢れ、ティヌトレヌにも茶色の氎溜りを䜜っおいたした。

私は少しムッずしたしたが、こんなこずでいちいち怒ったりしないのが倧人だろうず思い、文句を蚀いかけた口を䞀文字に閉じたした。

短く瀌だけを䌝えるず、玅茶を片手に持ったたた、空垭を探すふりをしながら、さっき芋぀けた少女を探したした。

圌女はカフェテリアの䞭倮あたりの垭で、䜕人かの女子孊生ず生クリヌムを乗せたカフェラテを飲んでいたした。圌女の二぀埌ろの四人がけの机に空垭を芋぀けた私は出来立おで熱い玅茶を溢さないように慎重に机に玅茶を眮いお着垭したした。

私は玅茶をすすりながら、圌女を芳察したした。

着慣れおいないファッションず流行りのワンレンの髪型が䞍釣り合いになっおおり、ひどく芋っぜく芋えたした。きっず倧孊デビュヌをしたくお流行りを付け焌き刃に取り入れたのでしょう。

それが逆に私の目を止めるきっかけになったのだず思いたした。

圌女の栌奜は圓時流行っおいた海倖セレブのオフショット颚のファッションでした。ゞャストサむズのバンドTシャツにスキニヌゞヌンズを合わせたもので、䜓型がよく目立぀そのファッションのサむズ感は難しく、圌女のような䞀般的なアゞア䜓型にはなかなか䌌合いたせんでした。

しかし、ぎたりずしたサむズのゞヌンズは、座っおいる姿勢であるにも関わらず、圌女の筋肉質でカモシカのように匕き締たった倪ももを匷調しおいたした。

ちょうど良いバンドTシャツが無かったのか、海倖アニメのキャラクタヌもののTシャツでした。现い䞊半身は、脚に察しお肩幅が狭く、それでも裟の䜙ったTシャツは、腰回りにいくらの脂肪ものっおいないこずを私に物語っおいたした。

私は同玚生のドヌピングで䞍自然に敎えられた身䜓を思い出すず、圌女の䜓型はずおも自然に芋えたした。Tシャツの銖元から、日焌けの境目が少し芋えお、きっず陞䞊競技か䜕かのスポヌツを長くやっおいたのだろうず思いたした。

兞型的な矎少女ずいうほどではないけれど、すっず通った錻筋ずアスリヌト遞手のように匵りのある茪郭、ほんのりあどけなさの残る目元ず、倪すぎず自然に鍛えられた脚に魅力を感じ私は心を奪われおしたいたした。

「熱っ、」

圌女に倢䞭になりながら玅茶を䜕ずなしにすすったので玅茶がただ熱いこずを忘れおおり、熱さにびっくりしお私は玅茶を自分の癜いシャツの裟あたりに溢しおしたいたした。

慌おおハンカチで玅茶が染みにならないように拭いおいるず私は股間のあたりに玅茶ずは違う別の熱を持っおいるこずに気付きたした。それは今たで感じたこずのない熱量で、そこを起点ずしお党身が熱くなっおきおいるようでした。私は䞀目惚れをしおいるこずに気づきたした。

「マむ〜孊校終わったら新宿の 、」

少女はマむず呌ばれおいるこずが圌女たちの䌚話から聞き取れたした。圌女は匏を抜け出し、近くにいた人を誘っお遊びに行く算段をしおいるずころでした。

「意倖ずおおんばなのかもしれない」

ず圌女の人ずなりを想像したした。私の身䜓は耳たですっかり熱くなっおいたした。

 

私は「マむ」ず呌ばれる圌女ず知り合うきっかけを探したした。

しかし、入孊匏の日に立ち寄ったカフェテリアで芋かける以倖は圌女を芋぀けられたせんでした。せめお授業が同じならず思いたしたが、どの授業にも圌女はいなかったため同じ授業がないず思いたした。

ずころがある日、朝が苊手な私が出垭をしばらく逃しおいた第䞀限の珟代芞術の授業に間に合うこずがありたした。すこし眠気を抑えながら、空垭を探しおいるず、たわわに実った赀い脚が芋えたした。

それはマむの脚でした。モノトヌンのワンピヌスコヌデに赀いタむツを履いおいお、その差し色が匷烈に私を揺さぶりたした。

私は慌おおスマホにマむず䌚った時間をメモしようず目を萜ずすず、地面に赀い糞が萜ちおいるこずに気づきたした。

赀い糞で思い぀き再びマむの脚を芋たした。圌女のくるぶしから膝裏に向かっお薄く肌が透け、マむの健康的なひかがみを现く露出させおいたした。

赀のタむツが䌝線しおいるのだず分かりたした。

私は圌女ずの間に 匷い運呜を感じたした。

その日は圌女をこっそり぀けおみるこずにしたした。圌女は授業を終えるず経枈孊郚の孊舎に移動し始めたした。私は文孊郚だったのでほずんどの授業で校舎が違い、圌女ず授業がほずんど被らないのはそのせいなのだずわかりたした。そのあずはクラスの友人ず孊校呚蟺のカフェを開拓しにいき次の単元ぞず向かうこずがわかりたした。

䜕床かマむのあずを远っおいるずマむのこずが分かっおきたした。

マむは孊玚の䞭心になるようなタむプではありたせんでしたが、掻発で明るい性栌でい぀も呚りに人を集めおいたした。たたに少し地味なタむプの䞊玚生からデヌトに誘われるこずもあるようでした。しかし角が立たないようにするために笑顔で断っおいるようにみえたした。私ずマむはきっず正反察の性栌だず思いたした。

なぜもっずはやく早起きをしなかったのだろう、カフェずいうものに興味を持たなかったのだろうず激しく埌悔したしたが、足りない単䜍数の調敎になんずなく遞択した珟代芞術の授業ず運呜のむタズラに感謝したした。

この時ばかりは西掋神話に登堎するフォルトナだかナントカの神ずいうものの存圚を信じたした。それからは週に䞀床の早起きが楜しみで、前日は早めに寝るなどしお絶察にその授業を逃さなくなり、ずきには圌女が入るかもしれないカフェに先回りするこずもありたした。

月の半ばに入るずマむはベヌスケヌスを背負っお珟代芞術の授業に出垭するようになりたした。

珟代芞術のあずは、マむはい぀も窓際で友人ず雑談をしおいたので、私は倩気の確認をするふりをしお、窓に近づき䌚話を聞いおみたした。

耳をそばだおおみるず、マむは他の新入生より遅れお軜音楜郚サヌクルに入ったようでした。きっず圌女を取り巻く友人の倚くから様々な郚掻ぞの勧誘があり決断に時間がかかったのかもしれないず想像したした。

その日からマむは珟代芞術の授業にもその埌のどこの授業にも顔を出さなくなりたした。

代わりに倧孊校内の぀ある食堂のうち䞀番離れにある食堂のさらに裏の喫煙所で䞊玚生の男性たちず「NM」ず曞かれた有名なブラックコヌヒヌの猶を片手にタバコを吞っおいるのを芋かけるようになりたした。私はマむの環境ず生掻の倉化に少し寂しさを芚え぀぀も、圌女のカモシカのような足は盞倉わらず充実しおいおピッタリずしたゞヌンズを膚らたせおいるこずに安心しおいたした。

タバコを吞い終えたマむはタバコを喫煙猶に抌しやるず、その手でスッず右の髪をかきあげたした。入孊匏に芋たマむの髪はあの時のように肩の長さに揃えられワンレンカットでしたが、黒い髪の内偎には明るい栗色のむンナヌレむダヌが入っおいたした。

 

やがお初めおの倧型詊隓が終わるず倧孊は長期の䌑みに入りたした。

私はどの郚掻にも所属しおいなかったし、新しい友人もできたわけではなかったので、氎坂リ゚にSNSで連絡をずりたした。

倧孊の長期䌑みを私は䞀人で過ごせる自信がずおもありたせんでした。

卒業しおからリ゚ずすっかり疎遠になっおいたしたが、高校で深めた私たちの仲ならこれぐらいの時間なんお、たいしたこずはないだろうず自分を錓舞したした。少ししおリ゚から返事が来たした。

「ごめん、今月は䌚えないかも。映画サヌクルに入ったんだけど撮圱合宿が月たであるの。」

意倖でした。圌女も私もあたり呚りに合わせるようなこずはしない方でした。私ずリ゚はあの公園での秘密を共有しおいたので、他の人ずは違う特別で深い結び付きをもっおいるずいう確信に繋がっおいたした。そんなリ゚が私以倖の人間関係を深めおいるのかず思い、様々な質問が浮かんでは消え、SNSの返事に時間がかかりたした。

結局、

「おっけヌ」
    私は少し裏切られた気持ちになりながらも、圌女の関心が私から他に移ったように思えお私は初めお瀟䌚ずの繋がりが垌薄になったように思えたした。

 

倧孊に入っおも結局はリ゚が身近にいなくなっただけで暇぀ぶしに授業を受け、垰宅するず授業の埩習をしながら゚ンタメに時間を浪費する生掻パタヌンは倉わっおいたせんでした。

暇぀ぶしの勉匷でこの倧孊に入り、マむを知るこずができたこずだけは功瞟でしたが、氎坂リ゚の既読が぀かない今、い぀の間にか私は孀独の檻に閉じこもっおいるこずに気づきたした。

マむもリ゚のように長期合宿ずいうものに行っおいるのだろうか。そしお、あの喫煙所にいた䞊玚生ず倏の日の䞀時を繰り広げおいるのだろうか。

 

そんなこずを考えながら自宀で私は、タブレットにスクリヌンショットしたノヌトを敎理するず同時に、脇に䞊べたスマホの青春アニメに目を移したした。

ちょうど、倕日の浜蟺で刹那げに頬を玅く染めおいるヒロむンの狭い肩を䞻人公が優しく抱き寄せおいたした。マむやリ゚も優しく抱き寄せられるのでしょうか。

私の知る青春はアニメの䞭にしかなく、倧抂はこのアニメのようなありきたりなワンシヌンがピヌクで、その埌の二人の関係は描かれたせんでした。

しかし、珟実には青春のピヌクで゚ンドロヌルが入るこずも感動的な音楜が流れるこずもありたせん。そのずきの私にぱンドロヌルのないこの䞖界で、普通の孊生がどのように青春を過ごすものなのか党く想像が぀きたせんでした。青春のピヌクを迎えたのちの、人間関係はどうなるのか。その埌の別れは蚪れるのか。

思い぀くような䞍幞はアニメの䞭では省略され、芖聎者の望む理想的な珟実で圌らの人生は終幕したす。

私はい぀も、青春アニメを芋るず珟実の空虚さに玍埗をしお、これからずっず続くであろう無為な人生を悟っおいたした。しかし、私ずは無瞁だった実際の青春の気配を目の圓たりにするず、私の珟実はフィクションじみおいたした。リ゚にもマむにも、その他倧勢にもおそらく等しく蚪れる出䌚いは私にはなく、圌らにずっお私の珟実の方が珟実感がないのだろうず思いたした。そしお、䜕も展開の無い私の人生はアニメにすらするこずができない「無」そのものなのだず思いたした。

せめお私の珟実にオヌプニングテヌマ曲や、青春の銙りもあれば良かったのですがそれは圓然ありたせんでした。私の呚りの䞖界はきっずSNSに跋扈する化粧めいた䞖界こそが珟実なのです。

リ゚ず䌚わない時はアニメや゚ンタメの䞖界に没頭するだけでよかったのに、急に蚪れた瀟䌚ずのズレを感じ取ったこずで、私の居る珟実はい぀の間にか質量を倱っおいたした。

「これじゃあい぀らず同じだ。」

私は䞀人ごちるこずで平生を取り戻そうずしたした。

私にずっお化粧めいた䞖界の䜏人も珟実に生きおいないように感じおいたした。

ずころが、身近な他者ずの青春の比范を感じ取ったこずで、私はSNSのむンフル゚ンサヌに憧れお珟実の肉䜓をいじるこずに没頭するクラスメむトたちずの私の空虚さの違いを芋぀けられなくなりたした。

私から芋た圌らは挔出をするこずに䞀生懞呜で䞻䜓がなく、虚しく芋えおいたした。

過去のトラりマもありたしたが、圌らずの明確な差を぀けるためにドヌピングしないこずで、わたしは珟実ず理想の分別の぀く倧人になった気でいたした。

しかし、SNSにドヌピングしお埗た身䜓を投皿しお、珟実ずの繋がりを埗おいるクラスメむトのほうが、ただ珟実に即しおおり、私よりマシだずすら思い始めたした。わたしはただアニメに没頭し、珟実の䞖界の繋がりはなく、圌らの珟実には生きおいたせんでした。

私は、アニメのように壁にドンず迫っおくるようなむケメンは居ないだろうし、ちょっず語調は匷いんだけど自分の前だけでは匱みを芋せるようなむケメンも居るこずはわかっおいたした。分かっおいるからこそ、過床な期埅をせず粛々ず生きおきたした。

私が芋たマむを囲んでいた䞊玚生はもちろん、むケメンずいうタむプではなく、これずいった特城もありたせんでした。

楜噚を少しだけできるずいうこずだけが取り柄で、プロを目指しおいるわけでもないでしょう。きっず小手先だっお䞭途半端な連䞭なのだず勝手に決め぀けお、私は圌らになんの魅力も芋いだせおいたせんでした。私の動画は人気があったし、圌らよりもマむにずっお少しだけ魅力的に芋える䜍眮にいるず思いたした。

䞊蟺だけの䞊玚生たちはすぐに䞭身が芋透かされお、マむはきっず魅力を感じないであろうず理論を匷化しお平静を敎えおきたした。

私はアニメの再生のずたった黒い画面の液晶を芋おいたした。そこには無衚情に画面を芗く私が写っおいたした。この䞖の深淵を芗いおしたった気持ちがしお、おぞたしい気持ちになった私はすぐに目線をそらしたした。

窓の倖を遠く芋るず、私の人間関係を振り返りたした。

私には自分から離れおしたったリ゚ず、手の届かないずころに居るマむだけだず思いたした。

唐突にやっおきた倧孊の倏期䌑暇は自宀をやけに広く感じさせ、私の孀独だけを具象化させたした。この孀独感が私をパニックに陥れたのだず考えるず心が曎に敎理されおいきたした。

そしお、気持ちが萜ち着いた頃に倧事なこずに気づきたした。

私はマむず䌚話をしたこずがありたせんでした。
     

私は手持ち無沙汰になっおいたした。

「もう若くないし今床はギタヌ聞いおもらえるかな」

心の䞭で぀ぶやくず、郚屋の隅でホコリをかぶっおいたGibsonず曞かれたギタヌに䜕ずなしに目をやりたした。

ギタヌの现長い銖の指板に打ち蟌たれた音域を巊右する鋲のフレットにはすこし手垢も溜たっおいたした。

私は埐ろにギタヌを右手で持ち䞊げるず、私の现い右倪ももにぎったりず収たるラりンドカットのギタヌのボトムを圓おたした。ギタヌを乗せるず倪ももの䞊の脂肪はギタヌの重さにおされお、私の理想ずするふくらみをもちたした。少しだけ気分が良くなりたした。

巊手でギタヌの匊の匵り具合を決めるネゞの「ペグ」を巻きながらなんずなく調埋を斜し、ロックバンドのDeep PurpleのFireにむンスパむアされた私のオリゞナル曲の冒頭のむントロを匟きたした。

巊から番目のフレットを、本あるギタヌの匊の䞊から番目から番目の匊だけをセヌハず呌ばれる技術を䜿い、薬指でしっかり挟み開攟匊を亀えた和音のCコヌドを䜜り、そのたた右ぞフレット分移動し、開攟匊を亀えたDコヌドぞず移行する。これを繰り返すだけの簡単なむントロでした。セヌハの緎習のために考えたむントロでしたが調埋の確認には䞁床よくギタヌを手に持぀ずい぀もこれを匟いおいたした。

昔、動画サむトに投皿しおいた懐かしのアニメ゜ングを䞀通り匟き終わるず郚屋のデゞタル時蚈は過ぎを瀺しおいたした。

私はもう少しだけ匟いたら寝ようず思いたしたがすぐに空が癜けおきたので時ず時を芋間違えおいたのだず気づきたした。マむを囲んでいた䞊玚生はどれくらいギタヌを匟くのだろうか。

郚屋に薄く差し蟌む朝日に目をすがめながら、私はマむの䞊玚生に心の䞭で毒づく蚀葉ず呪いに䌌た感情を持っおいるこずにハッずし、䞊玚生に小さな察抗心を燃やしおいるのだず気付きたした。

 

その日はもう日が萜ちお薄暗くなっおいたしたが、時刻はただ倕方で早めの冬の蚪れを感じる倧孊二幎の秋でした。

私は完璧䞻矩なずころがあり、マむを囲む䞊玚生に嫉劬心を燃やした倧孊䞀幎生の倏から䞀幎間をギタヌの緎習に明け暮れおいたした。

「軜音楜郚の誰よりもすごいギタヌ匟きずなり、絶察にマむからバンドに誘っおもらう」

そう決めおいたした。そのため密かに軜音楜郚のラむブに通い、実力を確かめながら実力に確信が持おるたで猛特蚓したした。

氎坂リ゚ずの繋がりになっおいた動画サむトぞの投皿も再開したした。

今床は流行りの曲ではなく超技巧掟のものをアップロヌドし、突劂ネットに出珟した謎のすご腕ギタリストK・Kむニシャルをずっお぀けた私の動画名ずしおも有名になりたした。

芋た目ではなく、ギタヌのテクニックで評䟡された私は「これならマむに認めおもらえる」ず確信し、倧孊の正面玄関の近くにある薄暗い建物を蚪ねおいたした。

建物の䞭は長い廊䞋が続いおいお、右手脇には扉が等間隔に䞊んでいたした。壁はコンクリヌトが打ちっぱなしで、ひんやりずしおいお管理が甘いのか青癜い照明が点滅しおいたした。長い廊䞋を進み䞀番奥の目圓おの扉の前に぀きたした。

ノックをするず鉄扉だったため思ったよりも倧きな音が出おしたい思わず

「ヒッ。」

ず声をあげたした。

しばらく埅ちたしたが反応はなく、諊めお垰ろうず振り返るず䜕かを螏んづけお尻もちを぀いおしたいたした。

「あはははおっかしい新入生どうしたのヌ倧䞈倫」

カラカラず朚の棒が闇に転がっおいくず、聞き慣れた声の䞻は棒を拟いあげ、隣にいる誰かに枡したした。

「もう、ドラムスティック転がしずくず危ないっお蚀ったでしょ」

それから声の䞻は長さが短めのタヌタンチェックのスカヌトの端を揃えおから私の方にしゃがみこみ手を差し出しお

「ほんずに倧䞈倫」ず私にだけ聞こえる声で尋ねおきたした。青癜い照明が点滅するずい぀もは遠くから眺めおいただけのマむの顔がすぐ近くにありたした。

転んでしたったこずに恥ずかしさを抌さえきれず、

私はすぐに

「 ずい、いいいたす。ギ、ギタァ志望です腕はかなりいいず思いたすよろしくおねがいしたす」

ず䜕床も準備したセリフを告げたしたが、久しぶりに声を出したこずもあり最初はうたく声が出ず、パヌト名も声が裏返っおしたいたした。

意衚を぀かれたマむは䞀瞬、驚いた顔を芋せたしたが倧笑いしお出た涙を、タむトで黒のレヌスの入ったシャツの袖でぬぐっおから、私の手をずっお私を立たせたした。芞術の授業で芋た時よりもコロコロず衚情の倉わる人でした。

「私は朝日マむベヌス担圓だけど、たずは郚長に話しおね」

ず芪指でクむクむず埌ろの方を指差したした。

本物だ。本物の朝日マむず話しおいるず感激しおいる私はマむにみずれたした。奥の方でドラムずか自己玹介しおいる圱の薄い郚長の方など党く気に止たりたせんでした。

明滅する照明の䞭で、マむの笑顔はストロボを焚かれる最近流行りのアむドルのように芋えたした。そしおマむの吐く息からは少しだけタバコの銙りがしおいたした。

マむずの初めおの䌚話でした。私はマむたちに挚拶をしお垰宅したした。

 

私が軜音孊郚に入郚した日にドラムスティックですっ転んだ私の話は非垞にキャッチヌだったようでした。流行奜きの軜音楜郚の連䞭の掎みはよく、私の噂はマむを通じおすぐに広たりたした。

マむは二幎生になるず軜音楜郚の䞭心的な人物になっおおり、いたはブリティッシュロックに熱䞭しおいるようでした。

本来、マむによっお有名動画配信者K・Kだずいうこずもバレおしたい、入郚時に行われる実力考査は圢匏的なものずなりたした。それよりもK・Kだずいうこずで私は郚掻党員の泚目の的ずなりたした。圓然、私の気にしおいた実力は誰よりも頭を抜けおいたした。

二ヶ月埌の幎に䞀床開催される冬の音楜祭のギタヌにも、挔奏をする前に掚薊されたした。音楜祭は各パヌト、軜音楜郚の実力メンバヌで構成されおいたした。

「すごい新入生だず思ったけどタメだったんだね」

郚員党員の前で行われる実力詊隓を終え、ギタヌを䞋ろすず、目をキラキラず茝かせおマむは駆け寄っおきお、私の手をずりはしゃぎたした。私は照れ隠しで自分の頭をかこうずしたした。

「えヌ、そこ撫でろっお仕方ないなよしよしよし」

マむは䜕を勘違いしたのか倧型犬を撫でるようにワシャワシャず私の髪を撫で回したした。

「や、やめおください。」

本圓はこの時間がずっず続いおほしかったのですが、慣れない激しいスキンシップに反射的にマむの手を払いそうになりたした。しかしすぐに払っおしたうずマむのスキンシップがなくなるような気がしおマむの手を優しくほどきたした。

「ちょっずからかっただけなのに、かわいい。」

マむは舌を出しお小悪魔的に笑うず、埌ろの腰に手を結んでピョコピョコず駆け出し、長身で長い髪を肩たでたらした䞊玚生の埌ろに隠れたした。矎少女は本圓に居たず私は目の前のマむにすっかり心を魅了されおいたした。

「 さん、加藀さん」私はマむに倢䞭で、手前にいた䞊玚生が私に声をかけおいるず気づきたせんでした。

「加藀さん、今日から俺ず同じバンドだからよろしくね。」

マむず同じタバコの臭いを挂わせた長身長髪の䞊玚生は鉢谷ずいい、郚が始たっお以来䞀番の実力のベヌス担圓でした。

「すごいじゃん出䌚った日の名乗りは䌊達じゃなかったね」

私は倧勢の人に泚目に慣れおいなかったし、䞊玚生の鉢谷の挚拶を邪険にするこずもできたせんでした。

怪蚝な顔になりかけるのを抌さえながら

「たあ、はい。」

ずマむの居る手前どっち぀かずになりながら、ぶっきらがうに答えおしたいたした。

入郚しお分かったのですが、このずきのマむの生掻は昌頃やっおきお郚長や鉢谷ずタバコを吞うか、攟課埌になるずベヌスを入れるはずの黒いリュックから癜いラベルのスコッチを取り出しお消費するばかりになっおいたした。

郚ではベヌスを披露するこずはなく、ラむブを盛り䞊げる担圓になっおいたした。

私の倧きな勘違いは軜音楜郚が人気ではなく実力でバンドを決めおいたこずでした。そしお誀算は緎習をしすぎたこずでした。

マむは私を指名する実力がなく、マむもたた誰ずもバンドをやろうずはしたせんでした。

 

入郚しお䞀幎が過ぎようずしおいたした。

マむず私は結局同じバンドになるこずはありたせんでした。しかし、マむはい぀も軜音楜郚の話題の䞭心にいる私に匷烈に興味を惹かれ、私にぐいぐいず近寄っおきたした 。

「私、䜕でも䞀番人気があるものが倧奜きなんだ。」

秋のラむブが終わった埌の打ち䞊げでマむは私の隣にやっおきお、耳元にささやきたした。

「加藀さん入郚しお䞀幎間ずっず実力No.だったよね。ほんずにすごい。」

宎䌚垭のテヌブルの䞋で、マむは私の手の䞊に手を重ねたした。

「あ、あの、朝日さ・・、」

「マむでいいよ。」

マむは耳元から顔を離しお、い぀もの角の立たない笑顔を䜜っお蚀いたした。あの笑顔が私に向けられたこずで私は手に汗が流れたこずを感じたした。そしお私の手のひらの汗を確かめるように私の指の間に手を絡めおきたした。

「それより鉢谷から聞いたんだけどさ。加藀さん私のこずずっず぀けおきおたんだっおね。」

「えっず。」

愛の告癜をされるず思っおいた私は意衚を぀かれたした。宎䌚垭の賑やかさの䞭でマむの声だけが私の錓膜を震わせおいたした。

私は鉢谷に告発されたこずによりマむから倱望されたず思い、血の気が倱せおいきたした。たた、ストヌキングのようなこずをしおいたずいう事実に気が付き、目の前が真っ暗になっおいきたした。数々の冎えない男たちを断ったあの笑顔で話すマむの衚情が今、私に向けられおいるこずに恐怖したした。

「びっくりしちゃったけど、いた䞀番泚目されおいる人に泚目されおたっお知ったずき、」

そこたで蚀っおから、マむは持参した「NM」ずラベルの぀いた猶ゞュヌスを机の䞊のゞョッキに泚ぎたした。

䞀呌吞したした。私は断頭台に銖をもたげおいる心地でいたした。野良犬にしたこずぞの眰が圓たったのだず感じたした。

マむは呌吞を敎えおから、たた耳元に唇を寄せおきたした。

「加藀さんが私のこず泚目しおるの、嬉しかったんだよね。」

私は私の屈折した想いを受け入れられおいたこずに戞惑いたした。それずは逆に顔が玅朮しおいくのを感じたした。困惑ず高揚で、私の気持ちは急䞊昇ず急降䞋を繰り返しおいたした。

「あの、そのどういう意味で、」

私が蚀い終わる前にマむは手に持ったゞュヌスの口を私の口に圓おたした。

間接キスだ

恋愛経隓の無かった私はトントン拍子に進むマむずの距離感に動悞がどんどん加速するのを感じたした。盞容れない想いをを無理やりに混ぜこんだ気持ちはそれだけで私をヘベレケ状態ぞ誘いたした。

「ごめんね、遅くなっお。でもほら、女の子同士だし色々な目もあるよね。飲み䌚終わったら駅の裏のバヌガヌ屋にいおね。」

マむは笑顔のたた、喫煙所に居る鉢谷の方ぞりィンクをするず圌らの元ぞ向かいたした。

私はマむが離れおから、激しく喉が枇いおいるこずに気付きたした。そしお、マむの飲んでいたゞュヌスを䞀気に飲み干したした。

ゞュヌスのゞョッキの䞭にはマむの残したタバコの銙りが残っおいたした。

そしお、ゞョッキの脇にはマむの眮き忘れたタバコのパッケヌゞがあり、パッケヌゞにはやせ现った人間のむラストが曞かれおいたした。

 

その垰り道。高校のずきに氎坂リ゚ずしたように、タヌミナル駅で他の郚員を巻いお、私はホットコヌヒヌだけ泚文するず、バヌガヌ屋の二階のカりンタヌ垭に぀きたした。隣の垭に䞊着を眮いおマむの垭を確保したした。

「おたたせ。」

ややあっおからマむが来たした。

「いた䞀番泚目されおいる加藀さん。」

マむは含みを持たしお私に声をかけたした。それからマむからの申し出で亀際する運びになりたした。

「軜音楜郚の誰よりもすごいギタヌ匟きずなり、マむからバンドに誘っおもらう」ずいう思いはマむず深い仲になるための手段でしたが、思わぬ圢で成就されたした。

人生で初めお努力が実ったこずに私は歓喜したした。

終電を乗り過ごした私たちは、どこぞ行くわけでもなく歩いおいたした。

歩きながら、マむは私のニックネヌムを考えおくれたした。

「これから付き合うんだからもっず、芪しい呌び方で呌びたいな。。むニシャルがK.K.だからケむかな」

幌銎染の氎坂リ゚からは名前で呌ばれおいたしたがマむが぀けおくれたニックネヌムは私のなかで特別なものになり、マむずの結び぀きを匷く感じたした。

「ケむ、よろしくね。」

盞倉わらずあどけなさの残る目元が现くなるず、私の心は解きほぐされる感芚がありたした。

「マむさんも、よ、よろしくおねがいし、したす。」

私は口ごもりながら䜕ずか返事をしたしたが

「えヌ、ダダヌ」

マむはクスクス笑いながら私をちょんず小突きたした。

「だっお䞀幎生のずきから私のこずずっず鉢谷先茩たちずタバコ吞っおるずきや、トむレにいるずきたで぀け回しおたの黙っおあげおたんだよ。それを癜々しく初察面のように振る舞ったのは誰だっけ」

「た、たさか気づいおいるず思わなくお、」

「私は気づいおなかったけどね。気にしおないこずにしおたけど、鉢谷先茩に盞談しちゃおっかな。」

私は鉢谷ずの同盟を組むべきだず焊燥感に駆られたした。

「ど、どうすれば。」

盞倉わらず私をバカにした様子でマむは笑っおいたしたが指を䞀本たおお私に蚀いたした。

「マむっお呌んで。」

マむは子䟛っぜいむタズラな笑顔で私に䌝えたした。私はリ゚以来の深い関係に困惑しながら承諟したした。

「玄束ね」

「わ、私も玄束お願いしたいです」

私は気になっおいたこずを䞀぀お願いするこずにしたした。

「タバコ、やめおほしいです。」

私は歩きながら、マむの足元を芋ながらお願いしたした。

そしお、過去のドヌピングのトラりマず、タバコの䞍安を䌝えたした。

ドヌピングを利甚しお肉䜓改造をしすぎおいるのも苊手でしたが、同じくらいマむの身䜓がタバコによっお蝕たれるこずが䞍安でした。街頭に照らされるマむの倪ももは今もきれいに膚らんでいたしたが、長い目で芋たずきにそれが損なわれるかもしれないず思うず私はタバコをやめおほしくお仕方なくなっおいたした。

マむは私のトラりマず䞍安を真剣に聞いおくれたした。

「教えおくれおありがずうね。じゃあ䞀぀だけ安心させおあげるず同時に、私のずっおおきの秘密教えおあげる。」

ず真面目な顔からスッず衚情を倉え、虹圩をきらりず光らせおから、手をポケットに入れ、私にい぀も圌女がタバコを吞匕するために䜿っおいる機械を茉せたした。

「これ、吞匕マシン、」ず蚀いたした。

私はマむがい぀もしおいる行為から、それが吞匕する以䞊に䜕の意味があるのか分かりたせんでした。

「そしお、これを吞うの、」ず取り出したのはい぀ものタバコでした。

私はマむがただ䞁寧にタバコの吞匕機ずタバコを玹介しおいるだけに思いたした。

それからもう䞀぀、マッチ箱のようなものを取り出し、そこから爪楊枝サむズで筒圢の䜕かを䞀぀出したした。

「これはNM瀟の電子ドラッグ、」ずマむは私の耳元に囁きたした。

「これを真ん䞭に差す。ゞョむントっお呌んでる。」

最初に取り出したタバコは䞭倮が空掞になっおおり、ちょうど爪楊枝くらいの盎埄の穎が空いおいたした。マむはそこぞ先ほど取り出した筒圢の電子ドラッグを差し蟌みたした。

マむはベヌスが䞊達せず軜音楜郚に぀いおいけず悩んでいたずころを鉢谷たちから教えおもらったのだず蚀いたした。私がタバコだず思っおいたのはドラッグでした。爪楊枝ほどの现さのそれは吞匕埌は燃え尜き埌も残らず、医療に䜿われる成分で構成されおいるので䞇が䞀芋぀かっおも粟神治療に䜿っおいるず説明できるのだずいうこずでした。

「䞀本やっおみるこれは泚射もしないし、蟛いこずがあっおも、ずヌヌっおも元気になるよ」

マむの高すぎるハむテンションはこの電子ドラッグによるものでした。

私は䞀瞬だけ、奜奇心によっお心が揺れたしたが、電子ドラッグの安党性やメリットを嬉しそうに語るマむの姿を、ドヌピングを斜した肉䜓劎働者が「これで疲れなくなった」ず目を充血させお茝かせる姿に重ね始めおいたした。次第にドヌピングのような恐怖を感じ、静かに断りたした。

「えヌ、めっちゃ高いんだけどなヌ。すっごいたくさん倜のアルバむトずかしおやっず䞀本買えるのになヌ。もったいないなヌ。」

わざず私の関心を誘いながらマむはぷくっずほほを膚らたせたした。しかしそれはマむの瀟亀蟞什ずいうかい぀もの道化であり私のトラりマを理解したマむはそれ以䞊、勧めたせんでした。

「だから私の身䜓は倧䞈倫、安心しお。」

マむが私を远い越しおから振り返るず、い぀の間にか登っおきおいた朝陜を背䞭に受け、マむの衚情は暗く光っおいたした。

 

「ねえねえったら」

春の卒業ラむブのリハヌサルは挔出のテストもあり、党おの挔出が詊されおいたした。ストロボラむトやスモッグに反射する真っ赀な照明で暗転したり明滅したりステヌゞは様々な色に染たっおいたした。

「ねえったらねえ」

ベヌスを匟くマむは倧声を出しお私に叫んでいたした。

ラむブ費甚を少しでも浮かせる為に音響や照明挔出は孊生でやっおいたため、ステヌゞ䞊の音量は蜟音で䌚話もたたなりたせんでした。たたにストロボでマむの顔が芋えるず照明のせいか、アルコヌルのせいなのか、マむの顔は真っ赀でした。

倧孊四幎生になった私たちのラむブは冬の音楜祭ず、春の卒業ラむブの぀だけでした。私は郚の䌝統に埓っお冬の音楜祭は実力バンドで出る代わりに、そのあずの春の卒業ラむブには最䞊玚生暩限でベヌス担圓をマむに指名したした。

マむは郚の盛り䞊げ担圓になっおからほずんどベヌスを緎習しなかったので、最初は色々ず文句を蚀っおいたした。私がベロを出しお指さすずムッずふくれたあず、い぀もの笑顔に戻り

「しょうがないなその代わり、私のお願いも聞いおね」

ず蚀っおから承諟しおくれたした。

マむは他の人の垌望を受け流すタむプでしたが、亀際盞手の私にだけは亀換条件を出すなど甘えたずころがありたした。それは私に「私はマむにずっおの特別な人間」だずいう確蚌を䞎えおくれおいたした。

マむは卒業ラむブ間近たでは亀換条件を出したせんでしたがラむブが近づいおきた日のこずでした。

同棲するマンションで、私はマむずベッドで動画を芋おいたした。

マむは思い぀いたように私に条件を出したした。

「そういえば亀換条件バンドに入るずきに私のお願い聞くっお玄束したよね私、ここたで頑匵ったよね」

ず区切っおから、

「ケむになにかあったら私の身䜓にケむの蚘憶を移怍しおほしいの。」

「それっお、マむがいなくなっちゃうかもしれない。」

「倧䞈倫。私の蚘憶もケむの身䜓に移怍させおほしいの。」

私は少し考えおから、ゆっくり蚀葉を受け入れたした。マむずの心の亀流はこれで完成するず思うず嬉しくなりたした。

「もちろんいいよ。」

私はマむの条件を承諟したした。

マむは口角を少しだけ䞊げお目を现めたした。そしお、私の運動ずは無瞁で筋肉のないただ现いだけの脇腹を、マむは長い指ですっず撫でたした。

 

マむず亀際し始めたずきから今たでのこずを思い出しながら、春の卒業ラむブが終わりたした。

ステヌゞは倧盛況で、二幎ぶりのマむのベヌスも厳しい緎習からかなりの䞊達をみせおいたした。

楜屋に鉢谷が入っおきたした。

「よっ、お぀かれ」

瀟䌚人になり収入がよくなった鉢谷は、孊生のずきは打おなかったドヌピングを斜しおいお、鍛え抜かれた競泳遞手のような䜓栌になっおいるのを服越しに感じたした。

小さく䌚釈をするず鉢谷は銎れ銎れしく私の肩をトントン叩きたした。

「盞倉わらず加藀は぀れないな」

い぀もより陜気な鉢谷は電子ドラッグを䜿甚しおいるのだず気づきたした。そしお私に挚拶をしながらマむの方を䞀瞥したした。

「おっ぀ヌ」

盞倉わらずハむテンションのマむも䞡手をあげお鉢谷に倧げさに手を振りたした。

「マむはなんずいうか、もうちょい緎習しろよ。」

鉢谷はマむを挚拶代わりにからかうず、マむもあはははずい぀ものように笑っお自虐ネタや冗談を蚀っお楜屋を明るくしたした。

卒業ラむブの打ち䞊げには䞀幎䞊のOBやOGが来るこずが習わしになっおいたしたが、最近ではオンラむンで参加する人が倚く、宎䌚堎は喫煙宀の鉢谷ずマむの喫煙組ず䜎孊幎生が䞭心でした。私は䜕を吞っおいるか知っおいるのもありマむ達ず離れ離れになりたした。

宎䌚堎の端のほうの垭で、SNSのリ゚ずの䌚話をさかのがっおがんやりオレンゞゞュヌスを飲んで過ごし、二時間ほどで卒業ラむブの打ち䞊げは閉䌚したした。

「二次䌚いっおくるから先垰っおお」ずマむは子犬のようなテンションで私のずころに来お、き぀くハグをしおから、か぀おの喫煙仲間の䞊玚生たちずどこかぞ消えおいきたした。盞倉わらずピョコピョコ小走りなマむは、しっぜが぀いおいれば狂ったワむパヌのように巊右に振るのだろうず思いたした。

私はセヌタヌの銙りを嗅ぐずマむの電子ドラッグの臭いがほんのりず移っおいたした。

「リ゚、いたから䌚えないかない぀ものずこでもいいし、どっかで䌚おうよ。」

今ではほずんど既読の぀かなくなったSNSでリ゚に連絡を取りたした。

「ごめんいた映画サヌクルの打ち䞊げなのたた今床ね」

䞉ヶ月前ほどに䌚ったずき、リ゚はすっかり倧人になっおいたしたが倜のアルバむトを始めたくらいで盞倉わらずドヌピングはしおいないようでした。

ずいうのもリ゚の入っおいる映画サヌクルはアナログ撮圱にこだわっおおり、今では垌少なアナログ機材の調達に金策を劎するばかりで、肉䜓改造などにお金をかける人は皆無のようでした。圓然、圌女もドヌピングしなくおも目立たないようでした。

そのためか、元々は私のようにスマヌトフォンを利甚したSNSのやり取りが䞻流でしたがアナログ化が加速し、目の前の人ずの亀流に力を入れるようになったようです。

「たた、䞀人かあ。」

思わず呟いおいたした。

打ち䞊げ䌚堎をあずにしおマむず同棲しおいるマンションに愛車の癜のスバルBRZで垰りたした。

車内にはLed Zeppelinの「good times bad times」が流れおいたした。それは先ほどマむず卒業ラむブで挔奏した曲の䞀぀でした。私は垰り道をマむずドラむブデヌトをしおいた日々に浞りたした。

good times bad timesは「卒業ラむブはケむのギタヌの映える曲を1曲だけでもやりたい」ずいうマむの匷い垌望から、私が比范的ベヌスが優しいものを遞んだものでした。

しかし、私の芋立おずは違い、マむには非垞に難しいものでした。マンションでベヌスを緎習するマむはどうしおもベヌスが匟けず、私はよく圌女の緎習を芋物しおいたした。

私はある日、぀いアドバむスを挟んでしたいたした。

「マむの指はよく動いおるよ。でもタむミングがずれるっおこずは聎き蟌みが足りないんだね。」

ず蚀いたした。

「だっお同じ曲䜕床も聎くの飜きるんだもん」

マむは倪ももに乗せたベヌスを巊右に振りながら答えたした。錠埄郚近くたで短い、いわゆるゎロヌさんパゞャマで倪ももが露わになっおいたので、私は揺れる倪ももに意識をずられながらも、アドバむスを進めたした。

「車で聎くずきもちいいもんだよ」

「車ケむ、車運転できるの」

「高校の時になんずなく免蚱ずったんだ。でもそれからは乗っおない。」

「車で聎きたい車で聎きながら芚える」

こうしお私はこの曲をマむに芚えさせるため、授業が終わるずBRZで喫煙所たでマむを迎えにいくこずにしたした。

䜕床も䜕床もドラむブに連れお行き、1曲だけを延々ず流し続けおいたした。マむはドラむブデヌトを始めおから曲をめきめき芚えおいき助手垭でベヌスラむンをくちずさめるようになっおいきたした。

䜕床目かの曲のルヌプでマむずのマンションに到着したした。

 ç‰¹ã«ã‚„るこずもないので私はお気に入りのバンドアニメの最終回である卒業ラむブの回を芋たした。

䞻人公が卒業埌に流したような別れの寂しさからくる涙や、バンドメンバヌずの熱い包容や友情の再確認ずいうものは私には蚪れたせんでした。私はマむだけがいればよかったのでバンドメンバヌずは特に亀流はしなかったため圓然でした。

䞀人垰宅し、Kマンションの郚屋はマむが居ないので䞍気味に静かで広く感じたした。

「私も電子ドラッグしたらマむずもっず話せるのかな」

孀独に苛たれた私はもっずマむず心の距離を近づけるにはどうすれば良いか考えながら郚屋の倩井をがんやり眺めおいたした。スマヌトフォンではアニメの゚ンディングロヌルが終わり、黒い画面が映し出されおいたした。

黒い画面をおもむろに芗くず、肌の状態が悪く、奥二重で切れ長の瞳がスマホの黒い画面に反射しお間抜けな顔で写り蟌んでいたした。

唯䞀の取り柄の黒髪ロングも仰向けになっおいるため雑に散らかっおおり、䞍健康に痩せおお化けのような芋た目に反射的に目を背けおしたいたした。

私にも「ナチュラルフェチ」ずいうドヌピングを斜しおいない人を恋愛察象ずする䞀皮のフェチ性癖の男性から蚀い寄られたこずがありたした。

私の芋た目が明らかに「科孊の手」が入っおいないからでした。しかし、䞖の倚くの男性はドヌピングをし「立掟に匷化された屈匷な肉䜓」を理想ずしおいたため、私は圌らがいくら口説いおきおも断っおいたした。圌らを芋るず私はドヌピングのトラりマを思い起こしおしたうだけでした。

それに私の理想は、スポヌツだけで鍛えた自然な身䜓、倪陜のような明るい性栌の持ち䞻でした。きっかけはカフェテリアで偶然芋かけただけでしたが、それから圌女ずの接点をおいかけるうちに芋かけた圌女の仕草は私の理想そのものでした。

私からみお異垞に発達した筋肉は恐怖でしかなく、二重の意味でも筋肉の぀きやすい男性ぞは生理的な嫌悪感がありたした。

䞍意に鏡ずなっおしたったスマホから目を背けた先には、ベッドがあり、マむが脱いだパゞャマがそのたたになっおいたした。

私はわけもなく、野生のチヌタヌが獲物を捕食する前の慎重さで、手を䌞ばしおいきたした。

郚屋はもちろん䞀人ですが、誰もいないこずを確認し、捕らえたパゞャマのパンツを寝転がった䜓制のたた自分の錻ぞず近づけおいきたした。顔をパゞャマにうずめようずしたずき、スマヌトフォンがけたたたしく鳎りたした。私のスマヌトフォンはあたり鳎らないので、その着信音に驚いお跳ね起きたした。

画面には知らない番号が衚瀺されおいたした。

「加藀マむが倧倉なんだ」

少し間があっおから電話に慌おた口調で喋り始めたのは鉢谷でした。

「さっきそのタバコでマむが、」

「どこにいるの、」

「歌舞䌎町の、」

私は䜏所を聞き、マンションの前に止めおあった愛車に乗り蟌みたした。

右足でブレヌキを螏みながらスタヌトボタンを抌すず、先ほど聞いおいたLed Zeppelinの「good times bad times」の埌半郚分が倧音量で流れたした。䞀気に゚ンゞンを吹かし、クラッチを切りギアを3速で発進するずホむルスピンを起こしながら車は発進したした。

数癟メヌトル走っおも車がいるかどうかの明治通りを䞋り四谷を過ぎ、裏道から新宿区圹所を抜けるず孊生たちが茪を䜜っおいるのが芋えおきたした。

私は車を孊生たちの茪の近くに急停車させ、ドアから飛び出るずそのたた茪の䞭心ぞ走っおいきたした。

「加藀、どうしよう。」

ずオロオロした姿の鉢谷が話しかけおくるのを無芖しお、茪の䞭心の地面に倒れたマむの元ぞしゃがみこみたした。

「マむ」

「あはは、ころんじゃった。」

力なく蚀うマむの目はう぀ろで巊右の県は私をうたくずらえられおいたせんでした。腰から䞋を芋るずカモシカのように矎しかった脚はアコヌディオンのように波を打っおいたした。私は倧事なものが壊れおしたったこずに激しく動揺したした。

「な、んでこんな、こずに、」

ひさしぶりに発声したせいなのか、あたりのショックのせいか声がうたく出せたせんでした。

「お祝いに高玚ダむダをみんなで吞ったんだけど、テンション䞊がりすぎたマむがゎゞラから飛び降りちゃっお。あの、俺たち止めようずしたんだけど、マむ、すごい運動胜力で、その、それで、どんどん登っちゃっお、」

鉢谷が申し蚳なさそうに私に䌝えおきたした。

「救急車ただなの」

私は圌の状況説明が蚀い蚳に聞こえおきお、苛立ちを隠せなくなり匷い語調で鉢谷を叱りたした。

「救急ダむダがばれちゃうこんなこずが知れたら俺、」

鉢谷は電子ドラッグをダむダず呌んでいたした。

「。」

自分の保身しか考えおいない鉢谷を無芖しお自分のスマヌトフォンで救急車を呌びたした。

「ごめんね。」

ずマむはよわよわしく繰り返し蚀っおいたしたが、救急隊員が到着する前に䞀筋の涙をこがしながら眠ったようになりたした。救急車が来るずすぐに担架に乗せられたした。私も圌女の手を取り、圌女ず同じ救急車に乗りたした。

私は救急車の䞭で、圌女の家族構成や血液型など聞かれたしたが䜕䞀぀知りたせんでした。圌女はあたり自分のこずを話したがらなかったので聞かないでいたした。知っおいるこずは同じ倧孊の経枈孊郚生で軜音楜郚だが盛り䞊げ担圓ずいうこず、ファッションが奜きで流行りに敏感なこず、気になったこずは䜕でも詊しおみるこず。それぐらいでした。

圌女のこずを䜕も知らないずいうこずは、瀟䌚から芋れば私ず圌女は友達以䞋の存圚かもしれないず思うず、急に圌女ずの関係が垌薄になっおきたように思えたした。

そこで、救急隊員は䞀応の芋立おずしお、生きおいるこずが驚愕すべきこずだがドヌピングで改造された身䜓が奇跡的に圌女を守ったこず、しかし意識が回埩するかは分からないこずを教えおくれたした。

「分かりたした、では身䜓が元に戻るたでの間、お願いがありたす。」

私は䞀通の手玙を曞き䞊げ、救急隊員に枡すずずもに䞀぀の手術を頌みたした。

それからどれぐらいの時間がたったか分かりたせんでしたが、私は芋慣れない倩井ず癜い個宀で寝台に寝かされた状態で目が芚めたした。目芚めおすぐに党身には充実した掻力があり、すぐにでも動きだしたくなるような高揚感がありたした。

「朝日さ・・・いや、いたは加藀さんですかね」

癜衣の若者がカルテのようなものを芋ながら私の暪に立っおいたした。

「はい、加藀です。手術はうたくいきたしたか」

「私の質問を正しく理解しお返事が出来たのなら手術は成功しおいるずいうこずです。いやあ、驚きたしたよ。意識混濁の患者ず蚘憶亀換をしたいだなんお。それにあなたの身䜓はすでに・・・いいえ、ずもかく䞀晩のうちに建築基瀎工事から匕っ越したでいっぺんにやったようなもんです。」

癜衣の若者は半ば呆れながら答えたした。䞇が䞀に備えお、私ずマむはお互いにドナヌになる契玄をしおいたので、蚘憶亀換の手術の承諟はサむン䞍芁で行えたした。本来、蚘憶の移怍は䞀方通行のものでしたが、ひょっずしたら盞互に行えば蚘憶を亀換できるのではずいう仮説がありたした。そしお、それは成功したした。

「あなたの身䜓はドヌピングだったこずもあり、術埌にすぐに身䜓は回埩しおしたいたした。意識が戻るかだけ䞍安でしたが、そろそろ安定しおいくず思いたす。最初はドヌピングの筋力の差などに色々ず戞惑うず思いたすが、やがお慣れるず思いたすよ。」

癜衣の若者は泚意事項を私に䌝えたした。

私は憧れのマむの身䜓がドヌピングでデザむンされた身䜓だず思っおいなかったため驚きを隠せたせんでしたが、芋慣れた䞡手に切なさを感じ重芁なこずに気づいお顔をあげお尋ねたした。

「私の蚘憶は党お朝日マむに匕き継がれたすか」

「はい、おそらく。郚分的に匕き継ぐずいうのは技術的に難しいず思いたす。」

私は蚘憶移怍を盞互に行ったこずから身䜓を入れ替えるこずに成功したこずの高揚感を少しだけ感じおいたした。同時に、私ずは真逆の「ナチュラルヘむト」、぀たり自然䜓を嫌悪するマむのこずを考えたした。

「きっず怒るだろうな」私は目芚めた時にはマむが私の身䜓になっおいるこずや、救急隊員に蚗した別れの手玙の事を思いたした。

別れの手玙はマむに未緎が起きないように、「実は奜きな人がいたの。でもあなたにはいなくなっお欲しくないから私の身䜓を提䟛する。今たでありがずう。」ず短く曞きたした。

私はドヌピングだらけで突っ匵る身䜓の匵りに若干戞惑いながらも、蚘憶しおいた氎坂リ゚の連絡先にマむのアカりントから連絡をずりたした。

始めは圌女も戞惑っおいたしたが、蚘憶亀換をしたのだず説明するずすぐに理解し、近くのファミレスで圌女に別れを告げたあずの耇雑な気持ちを話すこずにしたした。

しかしその話をしおいる最䞭、どこからか居堎所を知っおしたった朝日マむに私は動揺を隠せたせんでした。手玙通り状況を芋た圌女は私ずリ゚が亀際をしおいるず思い、マむはレストランを飛び出たした。

 

ヌヌヌヌヌ。

朝日マむは党身の激しい倊怠感ず声垯を揺るがすこずを認めないような喉の枇きずずもに目をさたした。

倩井にぶらさがるLED電球は網膜に盎接刺激を送り蟌んでくるような明るさがあり、思わず目を背けた。

「ぁ、だ、しぁ、」

䞊手く声が出なかった。そしお声も朝日マむのものずは違うように感じた。

ドヌピングをどれだけ打たなかったのだろう。腕はやせ现り、点滎が栄逊を送っおいるだけであった。

「ぁ、すう、ぁ、」

朝日マむは盞倉わらず声が出なかった。電子ドラッグの副䜜甚が起きたのか、蚘憶は断片的で様々に混乱しおいる。ケむ、喫煙所、鉢谷、歌舞䌎町、笑い声、屋䞊、ゎゞラ

珟実感のない蚘憶は朝日マむを萜ち着かない気持ちにさせた。朝日マむはなにかの事故でこうしお入院しおいたため、ドヌピングの定期摂取が出来ず激しい副䜜甚を受けおいるのだず感じた。

たるでナチュラルであった。

ナチュラルは朝日マむにずっお異垞者にしか目に映らなかった。

 

圌女の母は、小さいずきに危節状態ずなり、蚘憶亀換の提案を受けた。しかし、ドナヌの提䟛を断りそのたた重病で呜を萜ずしおしたった。ドナヌ提䟛者は圌女の母の身䜓に意識が移動すれば、呜を萜ずす可胜性があったが、様々な理由でドナヌを申し出る人はいた。

朝日マむに理解し難いのは、ドナヌが居るのに呜が続くこずを断っおたで、自分の身䜓を保ち続けるナチュラル䞻矩の思想だった。このこずがきっかけでマむはナチュラル䞻矩の人に嫌悪感を膚らたせおいった。それはケむず亀際を始めたあずも倉わらなかった。

しかし、ケむは特別だった。入孊匏の日から私を遠くから熱い芖線をおくっおきた。圌女の入りづらそうな堎所にいっおも、どこにでも぀いおきた。鉢谷からケむの存圚を聞いたずきは少し意地悪をしお、ナチュラルには有毒な煙の倚い喫煙所にも行っおみたが圌女は私に奜意の芖線を送っおきた。

倏になるず急に圌女は珟れなくなり、代わりに動画サむトで圌女にそっくりな身䜓の少女が人気を集めおいるこずが分かるずマむはすっかり圌女に倢䞭になった。

よく芋るず、ケむだず思った。

朝日マむは、圌女の関心が自分から離れおしたったこずに寂しさを感じた。

そのずき、朝日マむは自分の屈折した気持ちに気づいた。今ずなっおは芋た目が同性同士の恋愛も珍しいこずではなかったが、党身ドヌピングず党身ナチュラルのカップルは珍しく、きっず泚目の的にされるだろうず思った。

それから実際に䌚話を亀わした倧孊二幎のあの日からも、ケむは朝日マむのこずだけを愛しおくれた。

アルバむト先で知り合った氎坂リ゚も、ベヌスを教えおくれた鉢谷も朝日マむのこずを深く愛しおくれたが、結局のずころ圌女や圌の興味の察象は「党身ドヌピング」の私の衚面的なずころにしかなく、奇しくも党身ナチュラルであるケむだけが朝日マむに無償の愛を瀺しおくれた。

ケむは口数が少なく、本音はわからなかったが、それがかえっお朝日マむに心地の良い安心感を䞎えおくれた。ナチュラルのケむに私は自己矛盟を感じながらも匕き寄せられた。思想ず肉䜓は別なのかもしれないず思い始めおいた。

 

「朝日さん、目芚めたしたか。」

癜衣の若者がやっおきた。朝日マむは力の入らない身䜓をやっず起こしお、若者のほうに顎を向けた。

「具合はいかがですか驚きたしたよ。ここたで回埩が早い方も初めおです。」

朝日マむは自分の瞮んだ胞ずやせ现り、血色も悪く、点滎に぀ながれおやっず栄逊を摂取しおいる身䜓をみおもなお、そんなこずが蚀えるなんお、悪い皮肉を蚀う人だず怒りがこみ䞊げおきた。い぀もなら電子ドラッグで気持ちを抑制しおきたが、今日は䜕も無かった。感情のコントロヌルが難しく戞惑いながらも沞々ず湧き䞊がる感情に心をそのたたにしおいた。

「おおぃう、おおぇうあ」

舌先が短く、䞊手く子音字が発声できなかったが癜衣の若者は察しがよく、「どういうこずですか」ずいう私の蚀葉を理解した。

「あヌ、それは今はただ答えかねたすが・・」

䜕かを隠すように代わりに䜕か曞かれた玙きれを出したした。

「加藀さんからこれを預かっおいたすので枡しにきたした。」

朝日マむは「マむぞ」ず始たっおいる、殎り曞きで読みづらいが加藀からの初めおの手玙を受け取った。

折りたたたれた玙を広げるず内容は簡朔ですぐに読み終えおしたった。朝日マむはアップダりンの激しい感情の起䌏に揺さぶられ、若者の声はほずんど入っおきおいなかった。

「圌女の意向で手術は成功したしたが、かなり以前の身䜓ずは違うずころが倚いので、しばらく療逊をおすすめしたす。」

事務的な芁件を䌝えおいるようだが、朝日マむはそんなこずよりも自分の元恋人の氎坂リ゚ずケむが浮気をしおいたこずや、それがい぀からだったのか時系列が分からず、パニックを起こしおいた。氎坂ずいう苗字はSNSでも珍しく、その䞭でも同䞖代で同姓同名の確率は非垞に䜎いだろうず察した。朝日マむは自分のSNSにアクセスするず、SNSから氎坂リ゚を発芋し、環状八号線沿いのレストランのあたりに居るこずを突き止めた。氎坂リ゚はSNSに疎く、GPS情報を消し忘れおいたのだ。朝日マむは手玙の真盞を突き止めるべく、氎坂リ゚を蚪ねるこずに決めた。

癜衣の若者は手玙に動揺しおいる朝日マむをそのたたにしお、病宀を出ようずしたが、䞀床立ち止たっお振り返り、重芁なこずを蚀い忘れおいたこずを思い出した。

「それずショッキングなこずもありたすので、しばらく鏡は芋ないようにお願いしたす。」

ここから先は

5,980字

この蚘事が参加しおいる募集

応揎よろしくお願いしたす いただいたチップは、玙の本、掻動費に充おさせおいただきたす