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三貴子の偽装:構造暗号としての一姫三男|ホツマツタヱを暗号文として読む #07

    前回は、「地の十一」を手がかりに、天七代の裏側にある継承構造を見てきました。
    その結果、天七代の最終局面では、イサナミ・ココリ姫・サシミメという三人の女王が相次いで立ち、王権の構造そのものが大きく動いていたことが見えてきました。

    今回から、その流れの中で現れる「三貴子」を取り上げていきます。

    記紀ではアマテル・ツキヨミ・ソサノヲの三兄弟として知られるこの場面は、ホツマツタヱでは「一姫三男」という形で記されています。
    しかも、そこにはヒルコとヒヨルコという、いずれも「子の数」に関わる存在が絡んできます。

    この「子の数」へのこだわりが、王権連合の女王の出産回数に強い制約があることと関連することは、ほぼ間違いありません。
    だとすれば、この「一姫三男」を、そのままイサナギとイサナミの子と受け取ることはできません。

    本稿ではまず、この「一姫三男」が何を隠し、どのような構造を伝えようとしているのかを見ていきます。

    「一姫三男」:ヒルコのその後

    古事記では、流されたままとなり、子の数にも入らないとされるヒルコは、ホツマツタヱでは、一度流されたのちに拾われ、後にワカ姫となったと記されています。

    ミトのまぐばい なして子を 孕みて生める 名はヒルコ 然れど父は 鈴四十穂 母は三十一穂 陽陰あめの節 宿れば当たる 父の穢をゑ 男子は母の 隈となる 三歳慈くに 足らざれど 磐樟船に 乗せ捨つる 翁をきな拾たと

    (3-3)

    それワカは ワカ姫の神 捨てられて 拾たと育つ カナサキの 妻の乳ちを得て

    (1-1)

    これの先 穢隈に捨つ ヒルコ姫 今慈しに 足り至り 天の愛妹いろとと ワカヒルメ

    (3-18)

    記紀ではワカ姫の存在が完全に抹消され、その事績の一部がアマテルに融合されたため、アマテルが女神であるかのように描かれることにもなりました。

    ヒヨルコの流産:古事記の「淡島」の正体

    さらに古事記では、「淡島」という形で記され、同じく「子の数に入らない」とされる存在があります。
    ホツマツタヱでは、これがヒヨルコの名で、流産を示唆する形で描かれています。

    女は左より 男は右に 別れ巡りて 会う時に 女はあなにえや 愛男ゑおとこと 男はわなうれし 愛乙女ゑおとめと 歌い孕めど 月満てず 胞衣破れ生む ヒヨルコの 泡と流るる これもまた 子の数ならず 葦船に 流す淡路や

    (3-6)

    この「これもまた子の数ならず」という表現については、注意すべきことがあります。

    実は、ヒルコが「子の数に入らない」とは、ホツマツタヱには明記されていません。実際、ヒルコは後にワカ姫となったとされるのですから、表層では「数えられる子」に組み込まれていることになります。

    ところが一方で、ホツマツタヱはこのヒヨルコの場面で、「これもまた子の数ならず」と記します。これは、ヒヨルコだけでなく、ワカ姫となったはずのヒルコまでも、本来は子の数に入らない存在であったことを匂わせる書き方です。

    つまりここでもホツマツタヱは、表層ではヒルコをワカ姫と同一人物として統合しながら、深層ではワカ姫とは別人のヒルコがいて、そのヒルコはやはり子の数に入らないことを示していると考えられるのです。

    「三貴子」周辺の年代

    前回見たように、天七代の最終局面では、イサナミ・ココリ姫・サシミメという三人の女王が立て続けに結婚し、同時期にトヨウケもまた、男子を得るために再婚していました。

    この四つの婚姻と子の誕生については、年代アンカーであるアマテルの誕生年代、トヨウケの再婚年代とココリ姫の結婚との関係に加えて、結婚繰上や出産遅延を示すいくつもの年代補正表示を手がかりに、かなり正確な年代比定が可能です。

    さらに、「ワカ姫がヒルコとして捨てられたのち、カナサキの妻の乳を得て育った」という記述から、この時期に新たに登場する舟運王族・住吉のカナサキの結婚も、そこへ接続することができます。

    ここでまず、本稿の年代復元と人物比定の結果を、年表形式で示しておきます。

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    「三貴子」周辺の年代復元と人物比定

    太字で示したのが、「一姫三男」と、その外側に置かれたヒルコとヒヨルコです。

    こうして年表に落とし込んでみると、イサナギ・イサナミの子として並べられている子どもたちが、実際には三組の夫婦から生まれた子を一列に載せ替えたものであることが見えてきます。
    つまり、「一姫三男」は、そのままの出生事実ではなく、複数の出生列を一組の夫婦の子に見せかけた構造暗号なのです。

    構造暗号としての「一姫三男」

    本連載でのこれまでの議論を踏まえるなら、この暗号が何を示しているかも見えてきます。

    そう、「一姫三男」がもつ「1+3」という構造は、そのまま「女王制・三大王連立制」を示しているのです。

    だとすれば、三貴子とされる三人の男王は、それぞれ天君・鏡臣・剣臣を示しているはずです。

    天君イサナギの長男であるアマテルが、天君の代表とされることについては、説明は不要でしょう。
    一方、ツキヨミはサクナギの子であり、鏡臣の系統には属しますが、嫡男オモイカネの弟で、傍系です。
    また、ソサノヲはアマテルの実弟で、天君傍系に属します。
    それにもかかわらず、なぜ彼らが鏡臣や剣臣の代表として記されるのかは、補足しておく必要があるかもしれません。

    ここでは、次の二点だけを先に指摘しておきます。

    • 鏡臣嫡系オモイカネの子タチカラヲは、後に追放され、ツキヨミの子イフキトヌシが鏡臣となる。

    • ソサノヲは、宗像と住吉の対立の中で、宗像側から一時剣臣に指名された。また、ソサノヲの孫ホノススミも、アマノコヤネ渡来時に剣臣に指名される。

    なお、タチカラヲの追放は、いわゆる「国譲り神話」にタケミナカタの名で記され、イフキトヌシの鏡臣即位は、「天岩戸神話」にツワモノヌシ(古事記ではフトタマ)の名で記されています。
    また、ホノススミの剣臣即位は、アメトマミの「副物主」就任という形で記されます。

    このように、連立体制の再編などの歴史的転換点で、人物の名を変えて記し、そこに注釈を加えないというのは、ホツマツタヱの暗号難読化の常套手段です。
    そのため、表層では別人に見える人物を、年代に関する通例規則と逸脱補正規則を用いて、深層の一人の人物に統合する作業が、ホツマツタヱの暗号解読においては、もっとも重要な作業となるのです。

    二柱が生む殿:三貴子の出自に関する暗号

    ホツマツタヱは、一姫三男とヒヨルコが、イサナギとイサナミが各地を転々とする中で生まれたように記しています。

    この二柱 生む殿は 天の原見と 筑波山 淡路月隅 熊野なりけり

    (3-22)

    本文の記述と照らし合わせると、ここに挙げられた地名は、それぞれ次の表層の人物に対応していることになります。
    なお、本研究における地名比定の結果もあわせて記しておきますが、地理の問題にはここでは深く立ち入りません。

    • 天の原見(北九州市):アマテル

    • 筑波山(福岡県福津市):ヒルコ=ワカ姫

    • 淡路(福岡県糸島市):ヒヨルコ

    • 月隅(福岡県朝倉市):ツキヨミ

    • 熊野(大分県・日田玖珠地方):ソサノヲ

    しかし、ここもそのまま読むわけにはいきません。
    「二柱」は、イサナギとイサナミのように思わせていますが、「柱」は女王との結婚場所を示す隠語でもあります。
    したがって、ここでいう「二柱」は、実際にはイサナミとココリ姫という二つの女王の系譜を指していると読むことができます。

    また、「殿」も建物の意味に見せかけながら、ここではもう一つの意味である「男王」を指すと考えられます。

    そのように読むと、この一節は、二つの女王系譜から生まれた男王たちを並べたものとして理解できます。

    一姫三男には、イサナミとココリ姫の子孫だけでなく、トヨウケの再婚で生まれたワカ姫も含まれています。
    そのワカ姫を、殿である夫オモイカネに置き換えると、全体はすべてイサナミとココリ姫の二系譜の内部に収まることになります。

    したがって、この一節の真の目的は、「二柱」と「殿」という二つの語の多義性を利用しながら、ワカ姫だけは二つの系譜の子ではないことを伝えることにある、と考えられます。

    アマテルとツキヨミの出自を知らせる古事記

    古事記では、三貴子はイサナギの禊で生まれたことになっています。
    そこでは、

    • アマテル:左の目を洗った時に現れた

    • ツキヨミ:右の目を洗った時に現れた

    • ソサノヲ:鼻を洗った時に現れた

    とされます。

    この一節が、前回取り上げた、イサナギが男子誕生を祈る場面にある次の一節をもとにしていることは、ほぼ疑いようがありません。

    池水に 左たの目を洗い 昼に祈り 右かの目を洗い 月に祈り

    (4-14)

    この「左(た)の目」と「右(か)の目」が、それぞれ
    「タカミムスビの女(め)=イサナミ」
    「カンミムスビの女(め)=ココリ姫」
    と読めることは、前回指摘した通りです。

    そうだとすれば、古事記はここで、アマテルとツキヨミが、それぞれイサナミとココリ姫の子であることを知らせているのです。

    なお、ソサノヲはアマテルの実弟ですから、その出自を知らせる「鼻」には、また別の意味が込められているはずです。
    そのことについては、またあらためて取り上げることにします。

    構造暗号としての「三貴子」

    ホツマツタヱの「一姫三男」を、古事記は「三貴子」へと改変しました。
    その大きな目的の一つが、ワカ姫の存在を抹消することで、女王制の存在そのものを見えにくくすることにあったのは、おそらく間違いないでしょう。
    そして、ワカ姫の事績の一部がアマテルに統合された結果、アマテルがあたかも女神であるかのように描かれるに至ったことについては、すでに指摘した通りです。

    しかし古事記の改変は、単なる隠蔽にとどまらなかったとも考えられます。
    そこには、「一姫三男」という構造暗号が抱えていた見えにくさを、別の形で補う働きもあったのではないでしょうか。

    「一姫三男」は、「1+3」という構造によって女王制・三大王連立制を伝える一方で、アマテルとソサノヲという実の兄弟を含むため、この四人が実際には三つの系譜の子であることが見えにくくなっています。

    先に見た「二柱」と「殿」は、この問題を補正する機能を担っているとみることもできます。
    ただし、そこではワカ姫をオモイカネに置き換えることによって、全体を二系譜の内部に収めていました。
    そのため、三系譜の顕在化という点では、なお十分とは言えません。

    それに対して古事記の「三貴子」は、ワカ姫をアマテルに融合することで、むしろアマテルを「ワカ姫化」しているようにも見えます。
    その結果、「一姫三男」が本来は三系譜の子を直列化した構造であったことを、別の形で知らせているのではないでしょうか。

    おわりに

    ここまで見てきたように、「一姫三男」は、イサナギ・イサナミの間に生まれた四人の子をそのまま並べたものではありません。
    そこには、複数の夫婦から生まれた子どもたちを一列に載せ替え、さらに女王制・三大王連立制の「1+3」構造まで重ねて示す、複雑な暗号操作が施されていました。

    また、「二柱が生む殿」や、古事記の禊神話との対応をたどることで、アマテルとツキヨミの出自も、表層とは別の形で示されていることが見えてきます。

    とりわけヒルコについては、ホツマツタヱは表層ではワカ姫と同一人物として「数えられる子」に組み込みながら、深層では別人として切り分け、本来は子の数に入らない存在であったことを、ヒヨルコの場面からあらためて知らせています。
    ここにもまた、表で統合し、裏で分離を伝えるという、ホツマツタヱらしい難読化の手法を見ることができます。

    次回は、「三貴子/一姫三男」の年代復元と人物比定そのものについて、具体的に論証していくことにします。


     
     
    ホツマツタヱを暗号文として読む立場から、隠語・数字・系譜・地理を手がかりに、神話の表層の奥にある深層構造の復元を進めています。

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