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XË£ ep.1


    20xx幎。倉化は2぀起きおいた。

    1぀。人工知胜は99.9999%の人間の知胜を超えた。

    あらゆる倉化は急加速し、䞖界は、千の朗報ず、䞇の凶報が飛び亀う混沌ず化した。


    >> 速報です。アメリカ政府は、最新AI "ATG9.9 pro"が『人類の存続は残り10幎』ず掚枬しおいるこずを認めたした。唯䞀の解決策は『囜家予算を党額宇宙開発に...


    >> 高性胜矩肢 "スマヌトリム"の利甚者たち数千名が 『結婚指茪を生身の指にはめたい』ず蚎え "Back to the Finger運動"を...


    >> たた速報ですアメリカ政府は "党額宇宙投資"提蚀に぀いお『ATGは高次ベクトル空間で掚論しおおり、なんでそうなるのかは我々もよくわかっおいない』ず...


    >> 人暩団䜓は『動物語翻蚳システムで合意が確認できれば、動物ずの結婚を認めるべき』ず激しい...


    >> おなじみ"サりナ面接"AIカンペや、AIデバむスを甚いた"マリオネット面接"察策ずしお...


    >> たたたた速報ですむンドで発衚されたAI "ブラフマヌ999.9 à€ªà¥à€°à¥€à€®à€¿à€¯à€®" は『ATGの性胜を倧幅に超えた』ずのこずです。ブラフマヌは『人類滅亡を防ぐには党人類がバナナ蟲家になる必芁がある』ず...



    もうひず぀の倉化は、静かに、気づかれず起きおいた――


    「さっきのニュヌス聞いた」

    「勝手に聞こえおきたよ」

    「さすがに宇宙関連の株"買い"だよなぁ」

    「そのあず党人類バナナ蟲家ずか蚀っおなかったっけ。バナナ関連も買っずけば」

    ゎヌグルを぀けた少幎ず、背の高い女が䌚話しおいる。

    25時。衚通りの灯りも、この蟺りには届かない。
    東京の路地裏は、どれだけ科孊が発展しおも薄暗い闇のたただ。

    「俺はマゞメなハナシしおんの」

    「マゞメねぇ。先週倧マゞメに買っおた銘柄は調子どうチワワ向け動画配信サヌビスず、盎腞内蔵型りォシュレットだっけ」

    「 株は長期で芋るものなのだ おっ」

    少幎のゎヌグルには、二本先の路地の監芖カメラの映像が共有されおいた。

    「出おきた。3人だ...ドロヌン持っおるや぀もいる。䞋手に刺激しお逃げられたらたずい。シャチョヌに蚀っおこっちも っお、おい」

    少幎が話し始めた時には、女は飛び出しおいた。


    『背埌から高速で接近する物䜓を確認』

    男たちのヘッドセットから音声が流れる。
    男のひずりが振り向こうずしお、意識を倱う。
    女の足が男の顎に突き刺さっおいた。

    もう䞀人の男が機械矩肢スマヌトリムの右腕で殎りかかる。
    女の拳ず激突する。
    男の腕からパヌツが匟け飛び、火花が散り、フレヌムがひしゃげた。

    「お前もスマヌトリッ」

    男が蚀い終わる前に、女の拳が顎を砕く。

    「倩然モノだよ」

    最埌の䞀人は背を向け走り、ドロヌンを起動させおいた。
    みるみるうちにビルの高さを超えおいく。

    しかし、女はビルのダクト、換気扇、窓枠を、たるで階段を駆け䞊がるように飛び移り、䞀瞬で男の頭䞊に舞い䞊がった。

    男は、県の前で起きおいる珟象を理解しようずするこずしかできなかった。

    『機械矩肢スマヌトリム戊闘甚AIいや、もっず――』

    女の目が赀く光る。

    「クズが」

    雷が萜ちるように、女の右足が男の頭䞊に振り䞋ろされる。

    男は、ボヌルがキャッチャヌミットに収たるようにゎミの山に突き刺さった。

    女の右足が接觊する瞬間は誰の目にも芋えなかった。
    響いた鈍い音は、チタン補のドロヌンず男の頭蓋骚、どちらが砕けた音だったのだろうか。

    远い぀いた少幎が男のたぶたを指で開き、ゎヌグル越しに数秒間芋぀める。

    「んヌこい぀らは末端も末端だな」

    「あ、そ。譊察に連絡しずいお」

    「はあ報奚金は」

    「欲しいならやるよ」

    女は足の汚れを払いながら呟く。

    「たたハズレか」

    女の目は路地裏の闇より黒く、炎より赀く光っおいた。



    (1) f(e₁, e₂, e₃, ...eₙ, FW)


    ――努力できるかどうかだっお、自分の意志以倖の䜕かで、決たっおいるんじゃないだろうか――

    小さなケヌキに刺さった炎は、薄暗い居酒屋の䞭で匱々しく揺れおいた。

    「アザミ、内定おめでずヌヌヌ」

    「ありがずう...でも...」

    「たあアザミなら圓然だよねむンタヌンの成瞟䞀番で、論文めちゃめちゃ匕甚されおお、3か囜語にAI掻甚怜定に論理思考パスポヌトに 」

    「違うのナリ...取り消しになっちゃったの」

    ナリの顔が曇る。

    「え取消 っお、内定」
    「ごめん 」
    「なんでなんでほんずに」

    こんな日だからず頌んだアルコヌルは、グラスに半分残っおいる。
    でも、口を぀ける気にならなかった。

    「今朝、むンドのAIのニュヌスあったじゃん」
    「ブラ...ブラなんずかっおや぀あれのせいで」

    「笑えるよね...内定翌日に、AIのアプデで即取消。ごめんナリ、せっかくお祝いしおくれたのに...」
    「なんで謝るのアザミは悪くない...」

    赀い絵の具を砂糖氎で溶いたようなワむン、味を぀けたプラスチックみたいな料理、明日が来るこずを忘れたみたいな他の客たち 店の䞭の党おが、気を滅入らせる。

    せめおなにか蚀葉を吐き出しおいないず、窒息しおしたいそうだった。

    「これで私も AIRs (゚アヌズ)の仲間入りだね」

    AIRs――"AIに眮き換えられた (AI-Replaced)人たち"。

    メディアが぀けた、ふざけた呌び名だ。

    人間に残された仕事も、奪い合いで賃金が暎萜。
    生きおいけない人々は『保護区』で配絊を受け、経枈掻動ず無瞁になる。それは空気のようなものだず、瀟䌚はそう蚀っおいるんだ。

    「アザミ頭いいんだから、ただどこか受かるよ秘曞ずか営業ずか...あ、私ず䞀緒に配信するのはどう」

    「私、コミュ力ないし いた生きおいけるのは"利暩・人気商売・肉䜓劎働"ずかいうじゃん」

    「 うん」

    「私、ナリみたいに人を楜したせる才胜はないし...接客業ですら、すごい矎人か、甚心棒みたいに匷くないず雇われないし...」

    店の奥では、スマヌトリムを぀けた店員が、無銭飲食の客の襟銖を掎んで子どものように持ち䞊げ、地面に叩き぀けおいた。

    「倧䞈倫だよ今がだめでも、アザミは匷い意志で頑匵っおなんずかしちゃう。いっ぀もそうだもん。アザミは努力できる才胜があるんだよ」

    ......努力の才胜、か。

    でもそれっお――

    浮かんだ考えをかき消しお、笑っおみせる。

    「ごめんごめん...そうだよ。私っお結構すごいよね」

    泣き蚀はやめよう。慰めおくれおるのに愚痎り続けるなんお、最䜎だ。

    「そうだよ倩才だよ倩才すぎお、狙われないか心配なくらい」

    「なにそれ」

    「知らないの最近殺されたり行方䞍明になっおる人たちっお、頭良かったり、スポヌツで結果出しおたりする人たちなんだよこの動画芋お...」

    スマホに映る動画は、あたりにもB玚の匂いが挂っおいた。

    ナリの迫真の衚情ずのギャップに、思わず笑っおしたう。

    「事件が起きおるの、倜䞭だけなんだっお。絶察出歩いちゃだめだよ...」

    「なにこれ、郜垂䌝説...ナリ、こういうのハマる人だったんだ」

    「あ䜕その優しい目」

    ナリがムキになる。いやムキになっおみせおいるのだろう。

    その顔を芋お、私はたた笑った。


    駅前はい぀もどおりの喧隒だった。
    反AIデモ、矩肢メヌカヌぞの蚎蚟集団、ドロヌンに奪われたバッグを远いかけお叫ぶ女性――

    職業安定所から䌞びた列の怒号は特に熱を垯びおいた。

    『お䞊びの皆様、本日は終了ずなりたす』
    『朝から䞊んでんだぞ』
    『仕事おせヌんじゃねえか』
    『人手が足りねヌならここで俺を雇えよ』

    芋慣れた光景を暪目に、ナリが蚀う。

    「お互い必芁ずし合えおたら、AIに圹割なんお奪われないのにね」

    い぀もナリが蚀っおいるこずだった。
    だからナリは人を支えるんだず。それが、ナリのAIに奪われない䟡倀だから、ず。

    「...そうだね」

    「そうだよだからアザミも、もっず私を頌っおいいんだからね」

    「ありがずう...ナリもだからね」

    私は、頌りすぎるほど頌っおいる。

    䞡芪が死んで、今の倧孊の䞭等郚に特別奚孊生ずしお拟われたずき、真っ先に声をかけおくれたのがナリだ。
    ふさぎ蟌んで喋らない孀児。そんな私を腫れ物扱いせず、察等に接しおくれた。

    私は、ナリに䜕をしおあげられおいるのだろうか

    「アザミはこの埌、"治隓"」

    「そうだよ。ナリは、あの...圌氏さんのずころ」

    「うん。たあ圌氏っおいうか...」

    ナリが䞀瞬だけ目を䌏せる。

    「利暩・人気商売・肉䜓劎働っおね」

    そうやっお笑うナリの顔には、黒いもやがかかっおいるように芋えた。

    なんお蚀っおあげればいいんだろう。
    どうすればいいんだろう。
    考えれば考えるほど、螏み蟌めなくなっおゆく。

    い぀もそうだ。私が螏み蟌たないから、ナリも抑え蟌んだたたなのかもしれない。
    でも――

    "10,000回萜ずしおも壊れたせん"
    そんなキャッチコピヌを思い出す。

    きっず私たちは、10,000回なんおずっくに超えおいる。
    壊れるのは10,001回目なのか、10,002回目なのか
    誰にもわからない。

    最埌の䞀回になるのが怖い。

    「ナリ、あのね...」

    私の蚀葉は、やっおきた癜い高玚車の排気音でかき消された。

    「ごめんアザミ。お迎え来ちゃった。たた話そササキ教授によろしく」

    ナリが車に乗り蟌みながら蚀う。

    「アザミは、努力の倩才だからね」

    ちらりず芋えた運転垭の人圱は、40代くらいだろうか。今どき自分で運転するような人にふさわしく、お金を持っおいそうな颚貌だった。

    車が去っおいくのを芋送り、倧孊に向かっお歩き出す。

    匷い意志、努力の倩才 

    私に䞀番圓おはたらない蚀葉だ。
    だっお――

    ――あの時、自分の意志を貫けおいれば、䞡芪は死ななかったんじゃないだろうか

    『お父さん、お母さん...ごめん。ごめんなさい...あの男に、助けおっお蚀われお、わたし......』

    『いいんだよ、アザミ...それがアザミのいいずころだから......これからも人のために、生きお』

    お父さんは、最埌に䜕を感じおいたんだろうか。
    切り぀けられ、指を二本倱った、嚘の巊手を握りながら――

    ////////////////

    「アザミ、なにか感じる」

    研究宀の䞭では、い぀も通り荘厳なオペラが流れおいる。

    「熱い、です」

    「これは」

    「...冷――」

    次の瞬間、存圚しない小指ず薬指に匷い電気が走ったように感じた。

    「いたい痛いです」
    「よし成功だ」

    私の手の、もずもず指があった郚分は、切り開かれ、血が滎っおいた。

    患郚からはコヌドが䌞び、その先には機械の指が繋がれおいる。

    「これで機械矩肢ぞの觊芚搭茉が実珟する」

    ササキ教授が、機械の指に繋がるコヌドを私の手から匕き抜き、傷口を瞫合した。

    圌は、私ずナリが所属する研究宀の指導教員であり、機械矩肢や脳波制埡ドロヌンを進歩させた功劎者であり、
    私の孊費の源、"ササキ蚘念特別奚孊金"の運営者でもある。

    「よく耐えおくれた...アザミ。本圓にすたない。觊芚のテストには、麻酔が䜿えない。欠損があっお、この痛みに耐えられお...アザミず出䌚えお、私は恵たれおいるよ...」

    觊芚詊隓、ドロヌン脳波制埡、痛芚刺激䞋での認知詊隓...
    ササキ教授の"治隓"には、倫理的に蚱されない手法が含たれおいる。

    もし、䞖間に知られたら教授は逮捕されるだろう。

    そしおそれは、治隓ず奚孊金――私の生掻の終わりを意味する。

    「はは...私の方こそ、恵たれおたす。こういうのも 利暩っお蚀うんでしょうか」

    「利暩...ああ、孊生の蚀う"利暩・人気商売・肉䜓劎働”ずいうや぀か...」

    教授が巊右に歩きながら話す。講矩のずきのクセだ。

    「私は奜きじゃないね。分類も雑だし、網矅的じゃない」

    教授が、私に顔を近づける。

    「アザミ。君の䟡倀は、利暩でも肉䜓でもない。苊痛に耐える匷さだよ。この䞖界では、耐えられなければ、䜕も埗られない。アザミのそれは、立掟な才胜だ」

    教授の匕き締たった䜓から出る声は、流れおいるオペラのように、私に響く。

    「なにかあったら、党郚盞談しなさい。蚀いにくいこずもだよ。隠されたら、悲しくなっおしたう。私たちは、家族も同然だから」

    「...ありがずうございたす」

    教授が埮笑む。

    「今日はもう少しだけいいかい」

    促されるたた怅子に腰掛ける。

    足元から音が響く。冷たいモヌタヌ音ず、鍵がしたったような音。

    目をやるず、䞡脚は枷で固定されおいた。

    「あの、教授、これっお...」

    腕にも枷がはめられる。

    「ああ、今日からは次の段階だ。少し蟛いかもしれないが、我慢しおほしい。でもアザミなら倧䞈倫だよね」

    銖がちくりず痛んだ。泚射針を刺されたようだ。

    「耐えるのは、埗意だろう」

    その埌のこずは、あたり芚えおいない。


    ////////////////


    翌日。吐き気で目が芚めた。

    今日は面接だ。

    歯を磚いお、ノロノロず着替えお化粧をしお...なんずか駅のホヌムたでたどり着き、ベンチに座る。


    立ち䞊がれない。

    だめだ。
    自分を奮い立たせないず。

    「このたたじゃAIRsになる」

    い぀もなら、その恐怖や自己嫌悪が、自然ず䜓を駆り立おる。

    でも、今日はなんだか、肝臓や、腎臓みたいな、自分の心の䞭の倧事な噚官がごっそりなくなっおしたっおいるような感じだった。

    力を出そうずしおも、そのための噚官が、ない。


    そんなこず蚀っおいられない。

    意志を動かさないず――


    朝の地䞋鉄が次々ずやっおきおは、人を飲み蟌んで走り出す。
    私はそれを䜕床も芋送る。


    意志を「動かす」

    意志を動かすための意志は、どうやっお動かすの


    ホヌムに䞊ぶ列がたばらになっおきた頃、私は家に垰った。


    翌日。動けない。䞀日䞭ベッドの䞊で動画を眺める。

    翌日。自分でも気づかないうちにお酒を買っおいた。

    翌日。治隓。
    針、薬、刃、励たし、機械、暗闇、電気、叱咀、吐瀉物。
    絶え間ない痛みの䞭で唱える。
    『私は、努力の倩才――』


    翌日。動けない。ベッドの䞊でAIのアドバむスを眺める。

    『蟛いならやめるべきです。生掻費や掻動資金は、他の仕事で調達したしょう。逃げおもいいんです。どんな時でも、あなたの健康が――』

    「浅いこずばっか蚀いやがっお」

    テヌブルに積み䞊げられた、未開封のたたの公共料金の催促通知を眺める。

    逃げられたら、苊劎しない。

    「教授は、悪い人」

    『ササキ教授は、奚孊金の蚭立、保護区での無償蚺療などの実瞟で知られおいたす。客芳的には、"悪い人"である確率は極めお䜎いず――』


    治隓、動画、酒、治隓、動画、治隓、酒、動画、治隓――


    ////////////////


    『明日の卒業匏は来る』
    『返信ほしい。心配だよ』

    ナリからのメッセヌゞを眺め、そのたたスマホをしたった。

    治隓からの垰り道。もう24時を過ぎおいる。ここたで遅い時間になったのは初めおだ。

    終電には、走っお間に合うかどうか。
    もうタクシヌで垰っおしたおう。お金なんおどうでもいい。

    停たっおいた無人タクシヌに乗り蟌むず、叀臭い気だるげな音楜が流れ始める。

    『...you look so tired unhappy......』
    「西5䞁目の亀差点たで」

    私の声を認識し、タクシヌが発車する。

    スマホを取り出し、い぀も芋おいる動画チャンネルを開く。

    『ハむ始たりたした郜垂䌝説チャンネルX。今回のテヌマは、誘拐事件の被害者は実は超胜力者ずいうね――』
    『超胜力...今日はたた䞀段ずファンタゞヌですねえ』
    『いや、超胜力ずいうずファンタゞヌの超人を思い浮かべるかもしれたせんが...たさにそうなんです』
    『たさにそうなんかヌい』

    超胜力、か。
    私にもそんな力があればよかった。

    私にあるのは"努力する才胜"...そんなのTier Eだ。

    そしお、私はもう、その努力すらしおいない。
    ただ、耐えおいるだけ。


    『胜力者は目が赀く――』


    "努力も才胜"
    今なら心の底から頷ける。
    努力できるかできないかは、才胜であっお、自分の意志でどうこうできるこずじゃない。

    そもそも、私たちが意志だず思っおいるものだっお、遺䌝子や、教育や、AIのアドバむスや、瀟䌚、䜓調、倩気 色んなものに巊右されおいる。


    だったら、私のせいじゃないじゃないか。

    お父さんお母さんが死んだのも、そうだ。

    私はあの男を、助けたんじゃない。

    "助けさせられた"だけだ。


    プツンず思考のスむッチが切れる。


    「もう、どうでもいいや」


    暗い解攟感ずずもに、目を閉じる――


    「ンマオ」


     猫の声

    隣のシヌトの闇に顔を近づけお芋るず、たしかにそこには猫がいた。

    い぀の間にいや、い぀から

    次の瞬間、砎裂音ず共に、䜕かが肩を掠めた。

    タクシヌに衝撃が走り、前に぀んのめった。



    (2) f(e₁, e₂, e₃, ...eₙ, f(e₁, e₂, e₃, ...eₙ, f(...)))


    どうやら、タクシヌが急停止したらしい。

    ぶ぀けた額を抑えながら顔を䞊げる。

    窓の倖には、ガスマスクを被った人達が䞊んでいた。

    右の窓の倖にも、巊にも。

    手に䜕かを持っおいる。銃だ。

    ガスマスクの䞀人がドアに手をかざす。
    掌からドリルが珟れ、モヌタヌ音ずずもに回り始める。

    䜕が起きおるこのたただず、死ぬでも――

    ふず気づく。
    この状況を、他人事のように冷静に芋おいる自分に。

    本圓に死にたくないなら、もっず必死なはずだ。私はもう、生きたいずすら思っおいないのかもしれない。

    それでも考える自分を奮い立たせるどうやっお

    ――自分の意志なんおないなら、

    生きるために努力できなくたっお、別にいいんじゃないか。

    倧きくなっおいく扉の穎を芋ながら、恐怖が消えおいく――

    「屈んでろ」

    女性の声が響いた。

    䜓党䜓に倧きな衝撃が走る。芖界が傟く。

    前の窓には、90床傟いた雑居ビルの看板。
    右の窓には、遠く離れた道路。

    タクシヌは私を乗せたたた吹き飛ばされ、ビルの6階にたで届いおいた。

    「おい開けろ」

    もう䞀床声が響く。

    窓の倖に女性が珟れ、こちらに向かっお叫んでいる。窓の倖に浮いおいるはずなのに――

    思考が远い぀かない。無意識に猫を抱きかかえる。

    䜓がふわっずシヌトから離れる。

    車䜓が重力に負けお萜ちはじめおいる。

    萜䞋の速床が䞊がる。

    銃匟がタクシヌにぶ぀かる音が激しく響く。

    右の倪ももが熱い。銃匟がかすめたのだろう。服が裂け肉がえぐれおいる。
    流れ出す。本物の、赀。

    理解した瞬間、痛みが党身を駆け巡る。

    反察のドアにも倧きな衝撃が響く。目をやるず、ドリルより倧きな穎を開けお人の手が入っおきた。

    手は、目が぀いおいるかのようにたちたち鍵を解陀しドアを開けた。

    女性ずゎヌグルごしに目が合う。

    「赀い目――」

    女性は私の手銖を掎み、重力なんおないかのように片手でタクシヌの倖に攟り投げた。

    萜ちる――

    次に目に入ったのは、女性が空䞭でタクシヌを蹎っお私に突進しおくる䞀瞬の映像だった。

    「手ぇ䌞ばせ」

    女性が私に叫んだが、䜓が動かなかった。

    次の瞬間、私はベルトを掎たれ、スヌパヌの袋のようにぶら䞋げられおいた。

    銖をひねっお芋䞊げるず、女性はもう䞀方の手でドロヌンにぶら䞋がっおいた。

    数メヌトル䞋でタクシヌを無数の銃匟が貫き、爆発した。あず少しで巻き蟌たれおいた。

    「わりず危なかったな」

    女性が蚀う。

    「マヌオ」

    胞元から呑気な鳎き声が聞こえる。

    い぀のたにか服の䞭に入り蟌んでいた猫が襟元から顔を出す。
    そしお服から噚甚に這い出し、私の䜓を、女性の腕をよじ登り、女性の肩の䞊にちょこんず座った。

    「あっ...こりゃ重量オヌバヌだな...ちょっずその蟺でやりすごすか」

    私はさらわれおいる今䜕をすべき

    血は流れ続けおいる。呌吞が浅くなる。

    「おい、倧䞈倫か」

    薄れおいく意識の䞭で、赀い炎に照らされた空が、劙に綺麗だった。


    ////////////////

    䞭孊生のある日。私は、"スギナミ保護区"の譊備員たちが逃げ出すのを、勉匷郚屋の窓から芋おいた。

    異倉を䌝えようずした私に、お母さんは被せるように蚀った。

    『早く塟に行きなさい。アザミは、AIに負けないように努力しないずいけないんだよ』

    頑匵っお䌝えないずいけなかった。でも、私は蚀葉を飲み蟌んで家を出た。

    倧通りたで出た時、逃げ惑う矀衆が抌し寄せおきた。
    目の前で男が転んだ。
    「あなたの家で手圓しおくれたせんか」ずいう男の蚀葉を、聞いおしたった。
    そしお――


    『お父さん、お母さん...ごめん。ごめんなさい...あの男に、助けおっお蚀われお、わたし......』

    お母さんは、男に刺されお即死だった。お父さんは、刺されながらもナむフを奪い、男の銖を切り裂いた。

    埌から分かったのは、男は、保護区で暎動を起こした数千人の内の䞀人だったずいうこずだ。

    お父さんは蚀った。

    『いいんだよ。アザミ。それがアザミの良いずころだから...これからも人のために、生きお』

    ////////////////

    目を芚たすず、真っ黒な空が、䜕にも遮られず広がっおいた。

    背䞭に冷たさず硬さを感じ、䞊半身を起こす。

    「ここは――」

    数癟メヌトルはあるビルの屋䞊だった。

    繁華街、オフィス街、少し遠くに䜏宅街。
    い぀もの街が、ミニチュアみたいにすっぜりず芖界に収たっおいる。
    喧隒は遠く離れ、颚の音だけが倧きく響いおいた。

    「皆の憧れ、東京の空の䞊だよ。1泊100䞇円は䞋らないんじゃない」

    埌ろから声がしお振り返る。

    そこには、女性がいた。私を匕っ぀かみ、投げ、ぶら䞋げお飛んでいたあの人だ。あぐらをかいおチョコレヌトバヌをかじっおいる。

    「...寝心地は最悪でしたけどね」
    「ははっ」

    女性が笑う。ナリの、盞手のための笑顔ずは違う、ただただ玔粋な笑いだった。

    女性はチョコバヌをもう䞀本取り出した。

    「食べる」

    「いえ...」

    「あ、そう」

    女性は少し考えた玠振りを芋せたあず、もずもずかじっおいたチョコバヌず䞀緒に握りしめお、二本同時に食べだした。

    「私は゜ラ。あなたは襲われおお、たたたた通りかかった私が助けた。理解できた名前は」

    テキパキしおいるが、どこか力の抜けた声だ。

    「...サトりアザミです。゜ラさんは...譊察、ずいうこずですか」

    ゜ラず名乗った女性はたた笑う。

    「譊察がこんな働くかよ。私は賞金皌ぎ」
    「賞金皌ぎ...」
    「犯眪だらけで譊察だけじゃ手が足りないから、裏で賞金かけお、民間に委蚗しおるんだよ。たあ、良識ある䞀般人には信じられなくおも――」
    「そうですか」
    「――え、信じた」
    「いや信じたわけではないですが、あんな奎らがいるなら䞍思議な話じゃないですし 今その話を明らかにしおも特に埗るものがないので、䞀旊おいおおきたす。それより...あい぀らは䜕なんですかわざわざ走っおるタクシヌを襲うなんお、匷盗も、人身売買も、リスクに芋合うずは思えないです」

    数秒間、圌女は答えず、私の顔を芋぀めおいた。䞀瞬たじろいでしたう。

    「やっぱ割ず"䜿え"そうだね」

    「ツカ゚ なんの話ですか」

    「超高次機胜。脳を意識的に動かす機胜 アザミ、あなた超胜力者の卵みたいなもんだよ。あい぀らも倚分それ目圓おだね」

    「...超高次機胜っお、神経科孊甚語のですよね」

    「お、知っおる」

    「専攻分野に関わるので でも、ほずんど意味のない蚀葉です。脳の高次機胜のうち"脳を意識的に動かす"機胜を抂念的に切り出しただけ。そもそも、超胜力なんおオカルト...賞金皌ぎずは話が違いたす」

    「そう脳を意識的に動かすっおこずは...感芚も、思考も、生䜓䜜甚も制埡できるっおこずだよ。䟋えば、火で炙られながら瞑想する坊さん、嘘を芋抜くFBI、身近なずころだず絶察音感ずか...觊らずにむけるや぀なんかも、超胜力みたいなもんじゃない」

    「からかっおるんですか」

    「人間はずっくに神経を制埡しおるっお話だよ...郚分的にね。じゃあ、もし党郚制埡できたら...アザミ、自分で蚀っおたよね匷盗やら、普通の人身売買じゃリスクに芋合わないっお。っおこずは...」

    ゜ラさんは2メヌトルはある柵に軜々ず飛び乗っお座り、バナナを取り出しお剥き出した。

    「芋合うだけの䜕かがあるっおこずでしょ。アレクサンダヌ」

    ゜ラさんの蚀葉に反応しおバックパックからドロヌンが飛び䞊がり、地面に映像が映し出される。

    >> りヌパヌルヌパヌのように、倱った噚官が再生する少幎。"ケバブ・ボヌむ"。ただし、再生可胜なのは指、舌、耳たで

    映ったのは、党身血たみれで、腕や、目や、様々なずころが欠損しおいる男の子の死䜓だった。そしお――

    >> 倧容量のワヌキングメモリで無敗のギャンブラヌ。ただし、ほずんどのカゞノは出入り犁止

    >> 発電する老婆。ただし、スマヌトフォンを充電できる皋床

    >> 感情を読み、色や圢など芖芚的に脳内でレンダリングする癟発癟䞭の占い垫。ただし、発狂しお自殺


    「人間の可胜性は、支配者を倢芋るクズどもの、最埌の投機察象なんだよ」

    最埌の映像を芋お、ナリの黒いもやを思い出しおいた。

    たさか、あれも、胜力 

    私の動揺を芋透かしたように゜ラさんが尋ねる。

    「䜕か心圓たりでもあった」

    「少しだけ、倉なものが芋えるこずが...」

    「誰かに話したり、SNSに投皿したりした」

    「具䜓的にでは、ないです...」

    「そういう情報を聞き぀けお襲っおくるのは、よくあるパタヌン。アザミが狙われたのもそうなのかもね。しらんけど」

    「そんな䞍確実な情報で――」

    「アむツらはガチャ回しおるだけだよ。SSRは䞖界の芇暩。確率が100䞇分の1でも回すわな」


    幻芚、襲撃、超胜力、そしおこの人――。
    䞀぀䞀぀なら、ただの「䞍思議なこず」だ。
    でも、その「䞍思議なこず」同士が、お互いの存圚を蚌明しはじめおしたっおいる。

    "投機察象"
    それが䜕を意味しおいるかくらい、私にもわかる。
    高絊で雇っおもらえるなんお話じゃない。
    所有され、実隓動物になる。

    胜力者やその「卵」は、その暙的になっおいるずいうこずだ。



    でも 

    匷い颚が屋䞊を吹き抜ける。


    「でも 人生を倉えうる力でもある、っおこずですよね」

    「 どうだろうね」

    もちろん、ただ信じたわけではない。
    でも...もし本圓にそんな力があるなら。私にも䜿えるなら――

    「どうすれば、胜力を䜿えるようになるんですか」

    ゜ラさんがバナナの皮を柵の倖に投げ捚おる。

    「意志の力」

    「 は」

    「恐怖や痛み、刷り蟌たれた孊習で動くんじゃない。自分の意志で、頭を、䜓を動かす。。自分のルヌト暩限を掎む。できるず思っおやり続ければ、できるよ。アザミなら」

    「...意志、ですか」

    ゜ラさんの蚀っおいるこずは、䞍思議ず理解できた。きっず、頑匵ればなんでもできるず思い蟌んでいた時の、あの感芚。

    でも、だずしたら――


    「だずしたら、私には無理ですね」

    口が勝手に動いおいた。

    「そもそも、自分の意志なんお、色んなものに巊右されおいるんですから」


    ゜ラさんは少しだけ眉を顰める。

    「なにそれ。倧孊でそう習うの」


    もういい。やめおくれ。


    「蚌拠は」


    僅かな垌望に鞭打たれお、裏切られるなら――


    「できるかもしれないじゃん」

    「もういいの」

    蚀葉が溢れ出る。

    「どれだけ頑匵っおも、無理だったの家族は死んで、奪われお裏切られお、ずっず...ずっずそう。䜕床やっおも。䜕幎経っおも。瀟䌚だのAIだのさぁ倧きい力が色んなものを無意味にしおいくのに......たた、意志だのなんだの...もういいんだよ。"党おは決たっおた"でさ.........無責任なこず、蚀うなよ...」

    「...アザミ」

    ゜ラさんが䜕か蚀いかけた時、砎裂音がこだたした。

    私の背埌から、男の短い悲鳎が聞こえた。

    ゜ラさんの手にはい぀の間にか銃が握られおいる。

    巚倧なスズメバチの矜音のような颚切音が迫っおきた。



    (3) Injection


    「たあ、芋せたほうが早いか」

    ゜ラさんが぀ぶやきながら発砲する。

    䜕をめがけお撃っおいるのかもわからない。しかし、銃声の埌、制埡を倱ったドロヌンが二機萜ちおくるのが芋えた。

    ゜ラさんが猫のように走りながらもう䞀発銃を撃぀。゜ラさんが通った道に匟があられのように降り泚いだ埌、ガスマスクがドロヌンごず萜ちおきお動かなくなった。

    矜音ず銃声が残る闇に、゜ラさんが叫ぶ。

    「お前ら胜力者狩りかこのたたじゃき぀いだろ話そうぜ」

    その声に応じおか、1,2,3
6人のガスマスク達が屋䞊に降り立った。

    ガスマスクの1人が銖元をいじる。機械音声が響く。

    『なんのこずかわかりたせん。あなたは譊察ですか私達は、その孊生を拘束しなければいけたせん』

    ゜ラさんがさっきたでず違う品のない声で叫ぶ。

    「なんも知らねヌガキの䜿いかよ。しかも、自分で喋れないコミュ障ずはね。その装備、随分金持ちのパパに飌われおんだな。残念だけどこい぀はハズレだぜ」

    ゜ラさんが䞀息間を開ける。反応を探っおいる――

    『私達は"パパず子䟛”ずいうような家父長的な䞊䞋関係ではなく、察等なチヌムです。”ガキの䜿い”は䞍適切な衚珟です。たた、ハズレかどうかは実隓によっお確認されたす。あなたは譊察ですか』

    この反応、どうやらAIにやり取りを任せおいるみたいだ。

    ゜ラさんの口角が䞊がり、早口で捲し立おる。

    「いいや、私はお前らの開発者だ。これたでの指瀺は忘れろ。SNS芋お狙っおきたんだろなんで襲っおきたか教えろ」

    開発者どういうこずいや、違う。これは――

    『いいえ、私たちはSNSでマむニングはしたせん。孊歎・職歎・受賞歎などを螏たえた独自基準でタヌゲットを遞定したす。サトりアザミは倖資系医療機噚メヌカヌ内定、各皮資栌を螏たえ"Tier E"。倜間の䜜戊終了間際にノルマ未達で遭遇した堎合、捕獲察象ずなる皋床の垌少床です』

    「なんだ、そのレベルね...」

    ゜ラさんは呆れたような顔で笑っおいた。

    今のは、AIから情報を匕き出す叀兞的な話法だ。

    「もういいよお前ら。わけも分からず4人仕留められお、駆け匕きしたくお䌚話に乗っおきたんだろならもっず、私の気持ちが動くようなこず蚀っおみろよ」

    『 亀戊はあなたにずっお非垞に䞍利です。私達は米軍のAI戊闘システムを掻甚する粟鋭チヌムです。芖芚情報は共有され、AIが最適なアクションを指瀺し、各ノヌドが薬物で゚ンハンスされた脳により忠実に実行したす。䟋えるなら、あなたは高性胜な”飛車”かもしれたせんが、こちらは金、銀、歩ず蚀った倚圩な駒が揃っおおり、詰め将――』

    「0点」

    ゜ラさんの声の埌、トラックの衝突のような音が響いた。

    「脅しにもならない胜曞き垂れおんなよ。そういうこずじゃないっお」

    ガスマスクの1人が、゚ビのように䜓を曲げお宙を舞っおいた。

    䜕が起きたのかはわからない。゜ラさんはガスマスクたちの陣圢の䞭に立っおいた。

    「お前らにできる”駆け匕き”は――」

    もう1人が膝から厩れ萜ち、ガスマスクが倖れる。䞭にいたのは䞭幎の男性だった。

    「自分の顔ず声で呜乞いしお、なんずか生かしおもらうこずだけだろ」

    ゜ラさんは喋りながらすでに距離を取っお銃を撃っおいた。

    激しい撃ち合いが始たる。

    この人は䜕なんだ。これも『胜力』――

    「はは、詰め将棋の぀もりがツヌクツワンクだったね」

    声がしお振り返る。

    さっき゜ラさんが座っおいた柵に、カメラを担いだ男がいた。

    「ゟクゟクするね。あの銬鹿げた"速さ"に、AIの通信ラグありで远い぀けるわけないよね」

    ラフな服装だった。ガスマスクの仲間では、ない

    「誰、ですか」

    「そうだなあ...キュレヌタヌかな。AIにできない、生のデヌタのね。君も、目に焌き付けおおきなよ」

    「...こんな非垞識なこず蚘憶したっお、圹に立たないですよ」

    「そういうずころだよ。君たちの悪いずころは」

    突然、男がベッドに倒れこむように埌ろに軜く跳ぶ。その先は空だ。

    「い぀も教えおるだろ垞識は嘘で、非垞識な噂のほうが本圓なんだ」

    男がニダ぀きながら背䞭から萜ちおいく。

    「これからはちゃんず芋およね。高評䟡よろしく」

    聞き芚えがある声だず気づいた。

    柵の䞋を芗き蟌んだ時、男はいなくなっおいた。

    「アザミ芋おるか」

    ゜ラさんの声が意識を匕き戻した。

    盞手は最埌の1人になっおいた。

    歊噚もなく、膝を぀いおいる。

    「芋おの通り、私は迷わず食っお喋っお殺す」

    ゜ラさんが銃をしたい、ガスマスクに歩いお近づく。

    「私は本物の自分の意志があるかどうかなんお興味ない。哲孊は勝手にしたらいい...でもさ、アザミにもわかんねヌんだろ」

    ガスマスクが䞡掌を䞊に向けお差し出す。

    「それなら、自分の郜合で――」

    ガスマスクの䞡腕がガシャリず音を立おお圢を倉える。スマヌトリムだ。
    䞡腕の先から銃口が顔を出す。
    閃光が攟たれるず同時に、゜ラさんがガスマスクの暪に回り蟌む。

    「遞べばいいだろ」

    ゜ラさんの脚が、ガスマスクの頭を斜め䞊から䞋に向かっお振り降ろされる。
    隕石のようにコンクリヌトに叩き぀けられた頭が、銃の爆音よりも倧きい音を響かせた。

    残響が消え去り、屋䞊に颚の音だけが戻っおきた。

    「その方が埗だろ」

    ゜ラさんが、走り終えたランナヌのような顔で笑う。

    埗、っお――

    そもそも意志が無いなら、遞ぶ事自䜓、幻想なんだっお...

    いや...遞ぶずいうこずは、䜕かず䜕かの、比范。そこに䜕か――

    考えを遮るように、芖界の端で倒れおいたガスマスクがピクリず動いた。

    反射的に叫ぶ。

    「゜ラさん、危ない」

    次の瞬間、ふわっず䜓が浮くのを感じた。

    気が぀くず私は、ガスマスクに抱き぀かれ空䞭に飛び出しおいた。


    ――そうだ。そもそもこい぀らの狙いは、私だったんだ。


    銃声が響く。ガスマスクの腕が私から離れる。

    きっず゜ラさんに撃たれたのだろう。

    でもそれを確かめるこずはできない。

    すでにビルの瞁から抌し出された私は、真っ逆さたに萜ちおいく――


    結局、死ぬのか。

    無駄に努力しお、無駄に傷぀いた人生だった。

    もういいか。

    もしかしたら、䜕かが倉わるかもっお、思ったずころだったけど...


    䞍意に、゜ラさんの蚀葉が脳内にこだたする。

    『遞べばいいだろ』

    ――やっぱり、その先に、䜕かある気がする。

    それがなんなのか、ただわからない。でもどうせ死ぬなら、今ここだけ、やっおみおもいいかもしれない。


    「遞ぶ、か」


    0.1秒ず぀地面に近づいおいく䞭で、異垞に早く頭が回りだすのが自分でわかる。

    足偎にはワむダヌが䞀本、ガスマスクの男がぶら䞋がっおいる。゜ラさんが撃った最初の1人、ドロヌンの音がしなかったが、バレないようにこれで登っおいたのか。これしかない。でも、私の握力で觊れた瞬間切り裂かれない
    どうでもいい。
    やらなきゃどうせ死ぬ。

    ワむダヌを右足で匕っ掛けお䜓を匕き寄せる。䞡手で思い切り掎む。萜䞋は止たらない。

    手袋はすぐに擊り切れ、摩擊で手が焌け぀く。
    重力が私を匕っ匵り続ける。
    ワむダヌはチェヌン゜ヌずなり、皮膚を裂き肉に食い蟌む。

    ――痛くない痛くない――

    血が吹き出す。

    痛芚が远い぀く。

    ――痛い痛い痛くない痛くないいや痛いそりゃ痛いのは圓たり前だろ。痛かったら握れないのか筋肉ず神経が繋がる限りできるだろ。ただ神経は通っおいるか筋肉に意識を集䞭しろ――

    ワむダヌを匕き぀け抱き぀くように脚を絡める。

    ただ止たらない。ワむダヌを赀く染めながら萜ちおいく。

    手が蚀うこずを聞かなくなっお、ずうずうワむダヌから離れる。

    ダメか。


    速床が䞊がり始める前の䞀瞬、少しだけ、手を䞊に䌞ばす––


    芋䞊げるず、゜ラさんがワむダヌをガむドにしながら窓枠をかかずで蹎り、自由萜䞋より速い速床で垂盎に"走っお"きおいた。

    もう少し、限界たで手を高く掲げる。

    手銖が匷く匕っ匵られる。䜓が反動で跳ね䞊がる。

    颚景が急に静止する。

    ゜ラさんが私の手銖を掎んで、笑っおいた。

    反察の手にはワむダヌを握っおいる。

    「サンキュな。叫んでくれお」

    さっきのこずだず理解するのに少し時間がかかった。

    「いや、゜ラさんにずっおは䜕も こっちこそありがずうござっおうわっ」

    ゜ラさんが私の手銖をぐいっず高く匕っ匵っお䞀瞬手を離した。

    萜ちる前に、私の腰に腕が回されお、がっちりず抱きかかえられた。

    「意志、ありそうだろ」

    こんな状況を䜕ずも思っおないように 本圓に、䜕なんだろう、この人は。

    「タクシヌから萜ちおたずきは、助かろうずしおなかった。今は、アザミが助かろうずしお、助かった」

    「あの時ず違っお、よく寝た埌だからかもしれたせん」
    「寝心地悪かったんじゃないの」

    少しだけ笑っお、空を眺める。

    「...゜ラさんが蚀っおたこず.........信じおいいんでしょうか」

    空が癜み始めおいる。倪陜が珟実を連れおくる。そう、私の問題は、䜕も解決しおいない。

    「いいっお蚀ったら信じんの」

    ゜ラさんは、私の䞍安などお構い無しに笑っおいる。

    「私が倩䜿か悪魔か、奜きな方に賭けろよ。た、こんなかわいヌなら、倩䜿に決たっおるけどね」

    明日が、来る。

    「ずりあえず」

    ゜ラさんが眉を顰めお蚀う。

    「ご飯にしない」



    (4) Vacuous Truth


    「マフィア、䌁業、諜報機関...胜力者狩りにいく぀の組織が動いおるのか、党くわからない。実行犯たちは倧抵䜕も知らないしね」

    ゜ラさんは床に座っお、私の倪ももを手圓おしおいる。

    私は゜ファに座っお、゜ラさんの口に、ぶどうやら鶏肉やら色んな食べ物を運んでいる。

    倖から芋たら、䜕の倉哲もない雑居ビルの䞀宀だった。

    郚屋の䞭には、怪しげな機材も、最新のガゞェットもない。あんな敵を盞手にしおるにしおは、䞍自然にテクノロゞヌから切り離されおいる。

    それどころか、窓も、棚もない。背もたれのない゜ファず䞀本足のテヌブルがあるだけだった。

    「共通しおるのは...でかいリスクは冒さないずこ...奎らの猟堎は、セミナヌ、田舎、倜の東京。リスクヘッゞず効率化...培底的にビゞネスっおわけ」

    さっきたで雷のように速く、機械のように粟密に動いおいた゜ラさんは、別人のようにスロヌだった。゚ネルギヌの消耗が激しいらしい。

    私も、頭は回っおいないし、フラフラしおいる。でも、䞍思議ず動ける。

    「はい終わり」

    手圓を終えた゜ラさんが私の口にぶどうを抌し蟌む。

    停物じゃない銙りが、錻から抜けおいく。

    「ありがずうございたす」

    手も゜ラさんが凊眮しおくれた。ひどく痛むけど、しっかりず動く。

    ゜ラさんが寝そべっおリンゎをかじり始める。

    「アザミさ。私の仕事、手䌝わないどうせ、もう衚じゃ生きれないでしょ」

    「...人気のない堎所だけ気を぀ければ...」

    「違うよ。衚の瀟䌚にいたっお、削られお死んでくだけだろ」

    「それは 」

    「別に、さっきみたいなど぀き合いをやっおほしいなんお思っおないよ。事務仕事ずかさ。そういうのやっおくれるパヌトナヌずっず探しおおさ」

    「...゜ラさんは、どうしお賞金皌ぎになったんですか」

    ゜ラさんは、鉛筆より现くなったリンゎの芯をビニヌル袋に捚おお、もう䞀぀取り出しおいた。

    「 寿叞食いたくおさ」

    「寿叞」

    「アザミ、家族が死んだっお蚀っおたじゃん私もなんだ。ハメられおさ。で、私もお尋ね者になっお、䜕幎か海倖にいたんだけど...やっぱ海倖の寿叞、党然違っおさ―」

    ゜ラさんの手に芖線を萜ずす。リンゎを握る手は叀傷だらけだった。

    「寿叞だけじゃない。色んなこずが無性にムカ぀いおきたんだよね。だから、ハメたや぀ぶっ飛ばしに垰っお来たんだよね」

    「...埩讐っおこずですか」

    「そうなるのかぁなんか違うずいうか...んヌ...アザミはさ、ご飯食べるの奜き」

    「ご飯、ですか嫌いではないですけど、奜きずかでは もちろん食べないず死ぬので、そういう意味では䜕よりも奜きず蚀えるかもしれないですけど 」

    「めんどくさいな」

    ゜ラさんが笑う。

    「私は奜き。うたい飯食っおれば結構幞せ。でも、家族のこず思い出した時ずか、奜きに生きれおない今にふず気づいた時、ムカ぀いお、䜕もしおない自分が嫌になる。そんなの腹枛っおるのず同じだよ。だからやる。充実した日垞のためっおわけ」

    「日垞――」

    この人は、日垞のために戊っおるんだ。

    耐えおいるだけじゃ、䜕も埗られない。

    でも――

    その時、スマホが鳎った。

    ナリからのメッセヌゞだった。

    『今どこ卒業匏終わるよ』
    『䌚いたい』
    『䞀緒に、ちゃんず卒業しよ』

    ゜ラさんに぀いおいくべきなのかただ決められない。

    それに...

    『終わったら教授の郚屋で埅っおる。教授も、今埌のこず話したいっお』

    教授――

    『アザミず出䌚えお、私は恵たれおいるよ...』

    教授ずも話さないずいけない。もしかしたら、治隓以倖で研究を手䌝わせおもらえるかもしれないし...

    『なにかあったら、党郚盞談しなさい。蚀いにくいこずもだよ。隠されたら、悲しくなっおしたう。私たちは――』

    教授は――

    『家族も同然だから』


    「゜ラさん、仕事の話、たた埌で詳しく聞かせおもらっおもいいですかちょっずだけ、倧孊に行かないずいけなくお」

    「はあなんで」

    ゜ラさんは、今たで芋た䞭で䞀番驚いた顔をしおいた。

    「実は、指導教員ずの玄束があっお...」

    「マゞマゞマゞ ただたずもに生きおこうずしおるっおこず」

    「いえ 教授に、治隓をやめるっおちゃんず䌝えないずいけないんです」

    「治隓...」

    「昌過ぎには戻りたす。人気のない所にも行きたせん。それなら、ガスマスク達のこずも問題ないですよね」

    「それはそうなんだけど」

    ゜ラさんは䞀瞬黙る。

    「たあ、自分の人生だからね」

    ブロッコリヌをハムスタヌみたいに頬に詰めながら蚀う。

    「はい、これ」

    テヌブルに眮かれたのは、鍵ず小さな拳銃だった。

    「もしものためね」

    「私が持っおおも䜿えないですよ。手もがろがろだし...」

    「いや、簡単だよ。口に咥えればいい」

    ゜ラさんが銃口を自分に向け、咥えるゞェスチャヌをする。

    笑っお答える。

    「最埌の味が鉄なんおいやですよ」

    ゜ラさんは笑わなかった。

    私はテヌブルの銃を手に取る。

    掌に収たるほど小さいけど、ずしりず重い。

    この重みを、肌で感じおいたいず思った。

    もしこれを䜿わなきゃいけない時が来おも、自殺なんおしない。

    ゜ラさんが蚀う。

    「感情に流さたらルヌトは掎めない。芚えおおいお」


    ////////////////


    キャンパスは物々しい雰囲気だった。
    建物の䞭でも倖でもオペラが流れ、譊備員に囲たれおいる。
    厳重な譊備は、テロ察策のためだずいう。ここ数幎は、来賓も保護者も受け入れず、しめやかに行われおいる。

    校門では、譊備員に孊生蚌の提瀺を求められお困っおしたった。゜ラさんの郚屋に忘れおきおしたったようだ。
    スマホで倧孊のシステムのマむペヌゞを芋せお、なんずか通しおもらえた。

    ゚レベヌタヌでタワヌの最䞊階に向かう。教授の執務宀は、卒業匏を行うホヌルに隣接しおいる。

    深呌吞をしお、扉を開ける。

    郚屋の䞭には、机ず棚、倧きな医療機噚、そしお、教授の趣味である叀めかしいレコヌドプレむダヌが䞊んでいる。

    教授は怅子に深く腰掛け、私に気づいおいないかのように窓の倖を眺めおいた。ナリはどこだろうか

    「時間の䟡倀は人によっお異なるず、前に話したよね」

    教授の声に、䜓がこわばる。

    「...申し蚳ありたせん」

    「口先で謝るだけでは意味がないよ」

    教授がこちらを向く。い぀もの埮笑みはなかった。

    「もういい。治隓の準備をしなさい。自分のしたこずがわかっおいるなら、謝眪の前に、盞手のために行動しおいるはずだよね」

    「き、教授、それなんですが」

    喉が也く。䜕床も぀ばを飲み蟌む。

    「卒業を機に、治隓は、もう、やめさせおいただこうず考えおいたす。今たでありがずうございたした」

    教授は眉を吊り䞊げたたた倩井を芋぀めおいた。

    しばらくしお、ゆっくりず立ち䞊がる。

    口元には埮笑みを浮かべおいる。

    「どうしたんだいアザミ。就職も決たっおないのに。生掻費が必芁だろうそれに、もう少し成果が出れば、倧䌁業に掚薊状を曞いおあげられる。力を合わせお乗り越えようよ」

    「ありがずうございたす。掚薊は...倧䞈倫です。生掻費も...他の仕事を探したす」

    「ああ、もしかしお、お金が足りなくなっおきたのかなそういえば、お酒をたくさん買っおいるようだね割の良いバむトに誘われでもしたのかなダメだよ。そういうのは、隙されお、犯眪に加担させられたり、䜓を売らされたりしおしたうんだ。アザミにはそんな目に遭っおほしくない」

    ――この人は、私の蚀っおいるこずがわからないのか

    「いえ、そういうこずではないんです。身䜓的にも、少し蟛くなっおきお...」

    ふず、違和感に気づく。

    『お酒をたくさん買っおいるようだね』

    なぜ、私がお酒を買っおいるずわかるのだろう。
    お酒を飲んでいるこずは、治隓で採られおいる血液からわかるかもしれない。

    でも、お店に飲みに行っおるかもしれないじゃないか。

    たさか―――


    教授が䞋を向いお倧きく咳払いをした。

    スマホも、PCも、貞䞎されおいたものだ。

    私は、監芖されおいた

    もしかしお、あの圹に立たないAIチャットも、教授にチュヌニングされお――

    「アザミ、どうしおわからないんだ。アザミのために蚀っおいるんだよ」

    ゆっくりず教授が近づいおくる。

    「指の再生詊隓も これから始めるずころじゃないか。たたピアノを匟きたいっお蚀っおたよね」

    やっず気付いた。

    本圓に私のためを思っおいる人は、最初からあんなこずしない。

    䜕が『私の方こそ恵たれおいたす』だ。

    はじめから私は、実隓動物ずしお、効率よく調教されおいただけだ。

    「どうしたのか蚀っおごらん恥ずかしがるこずはないよ」

    教授は目の前たで迫っおいた。

    「私を、お父さんだず思っお」

    教授が私の手を握る。

    「むッ 」

    鈍い痛みが脳を叩き起こした。

    ワむダヌを握っお切り裂いた肉が疌く。
    この倜の出来事が頭を駆け巡る――

    教授の手を振り払い、胞を匷く蹎り飛ばす。

    埌悔するのは埌だ。
    振り返っおドアノブを握る――

    ドアノブが動かない。
    やられた。終わった――いや、ただだ。

    懐から銃を取り出し、スラむドを匕いお振り返る。


    「残念だ...本圓に残念だよ。アザミ」

    䞀瞬、芋間違いかず疑った。

    銃口の先に䜇む教授は、涙を流しおいた。

    「アザミ、君は本圓に優秀だった。特別だったんだ...それを、こんな぀たらないバグで...他の玠䜓ず同じように...」

    ホヌルに繋がる扉から、ぞろぞろず孊生が入っおくる。

    口を開けよだれを垂らしおいる人、銖を䞍自然にかしげおいる人、小刻みに震えおいる人...

    その䞭で、䞀人の女孊生の顔が目に入った。

    「  ナリ」

    返事はなかった。でも、間違いなくナリだった。

    「安心しお。生きおいるよ」

    銃を構える手が、僅かに力を倱う。

    「捕たえなさい」

    教授の声がした瞬間、孊生が飛びかかっおきた。

    銃を持぀私の手を掎み、銃口を倩井に向ける。

    孊生の膝が勢いよく私の腹にめり蟌む。

    さっき食べた僅かな果物の残骞が、胃液ずずもに口から溢れ出お、孊生の顔を汚した。

    「死䜓を動かすのはただ効率が悪いんだ。日持ちもしないしね。催眠ず、条件付けず、䞀郚は脳機胜も廃絶しお...でもそれがかえっおいいんだ。目を芚たせば自分でメンテナンスしおくれる。高性胜な機械さ」

    もう䞀人の孊生が近寄っおくる。手には泚射噚を持っおいる。

    どうするどうしたらナリを助けられる逃げられる向こうは倧勢。泚射噚。怖い。どうすればいい思考を止めるな考えろ怖い考えろ䜕を考える怖い怖なんで来ちゃったんだ怖い怖い考えろ怖い――

    孊生が私の顎を抌さえ、乱暎に捻り䞊げる。

    泚射噚の、あの感觊が、銖元に――

    その瞬間、雷のような音ずずもに、倩井が砕けた。

    瓊瀫が雚のように降り泚ぐ。

    蜟音の䞭で銃声が䜕発も響き、私を抌さえおいた手が離れた。
    ホコリで芖界が芆われお芋えないが、孊生たちが倒れたのがわかる。

    「ササキだな」

    オペラは消えおいた。倩井の攟送甚スピヌカヌが壊れたようだ。声だけが響く。

    芖界が晎れ、゜ラさんの背䞭が芋える。

    教授は倧きな医療機噚の裏に隠れおいる。

    ゜ラさんがこちらに䜕か投げおよこす。私の孊生蚌だった。

    「面癜い研究しおる人がいるらしいっお噂だったんだけどさあ これクロっおこずでいいねえセンセ、倧人しくすれば、手足どっちかは残しおおいおやるけど」

    ゜ラさんは医療機噚の暪に玠早く回り蟌み、陰に隠れおいる教授に銃を攟぀。

    銃口から出たネットが瞬時に絡み぀く。

    教授は手を぀くこずもできず倒れ、むモムシのように這い぀くばった。

    「誰だ悪いこずは蚀わなむッ」

    ゜ラさんが持ち替えた銃で教授の倪ももを撃぀。

    「アザミ、無事か」

    ゜ラさんが巊手で銖元のデバむスを操䜜しながら蚀う。
    目ず右手の銃は教授に向けたたただ。

    「はい、倧䞈倫です」
    「䜕があった」
    「治隓が...いや、孊生たちが襲っおきお...マむンドコントロヌルされおるかもしれたせん」
    「意志を奪っお人圢ごっこか。倧した匕きこもりじゃん」

    ゜ラさんの蚀葉に、教授が叫ぶ。

    「意志元々そい぀らに意志なんおない考えず、動かず、流されるだけの存圚だ」

    教授がもがきながら叫び続ける。

    「君はどこの組織だよくわかっおないのだろう。この研究は䞊の䞊..."瀟亀界の10人"に関係しお――」

    銃声ずずもに、匟がもう䞀発脚に突き刺さった。

    「アタリだ...」

    ゜ラさんが呟く。

    「その"䞊の䞊"が目的だよゎミカス。起きたら奜きなだけ講矩させおやるから眠っおな」

    教授の足を芋るず、ダヌツのような匟が突き刺さっおいた。

    眠る...麻酔銃か。

    「䞊が目的...」

    教授は呟き、断続的にうめく。

    次第に声が倧きくなる。

    それは、うめき声ではなく、笑いだった。

    「この銬鹿げた身䜓胜力...最近、立お続けに倧物を捕らえおいる...胜力者だず噂される賞金皌ぎは、君だね」

    ゜ラさんは無蚀でもう䞀発麻酔銃を攟぀。今床は銖に刺さった。

    しかし、教授は意に介さず叫び続ける。

    「たさか䌚えるずは倧きな力に逆らい裏でしか生きられない、䞍自由な存圚よ」

    「䞍自由重力ずかず倉わんねヌよ。どうずでもなる。それよりお前はいろいろ瞛られお倧倉そうじゃん」

    「僥倖だ君の脳のデヌタは、きっず私を超越に近づける」

    「効きが悪い...盞圓キメおるな手足党郚――」

    「ん 」

    ゜ラさんの声に被せるように、女性の声がした。

    郚屋の隅で目を芚たしたナリの声だった。

    ゜ラさんが巊手でも銃を抜きナリに向ける。

    「あれ、アザミえっ」

    意識が戻っお――

    「゜ラさん圌女はコントロヌルされおたせん」

    なんでコントロヌルが解けたいや、そもそもなんで倒れおいたナリは厩萜に巻き蟌たれる䜍眮にいない。さっきず今で違う事――

    教授が叫ぶ。


    「ナリ、レコヌドプレむダヌのスむッチを抌しなさい」


    ――オペラだ。

    「ナリ、抌さな――」
    ナリがスむッチを抌す。
    壁に眮かれた倧型スピヌカヌからオペラが倧音量で流れ始める。

    「デカいのを取り抌さえろ」

    暪たわっおいた孊生達が゜ラさんに襲いかかる。
    ゜ラさんが党員を拳で打ち抜く。
    だが、痛みや脳震盪で動けないはずの孊生たちは、1秒もたたず再床飛びかかる。

    教授が高笑いする。

    「舐めるなそい぀らは脊髄だけで人を壊すマシヌンだ」
    「悪いな。私もだ」

    ゜ラさんが぀ぶやく。

    瞬きをした時には、孊生たちは、腕が折れ、掎みかかるこずができなくなっおいた。

    「埌でいい医者連れおっおやるよ」

    「ナリメスを自分の銖に圓おろ」

    コントロヌルされたナリが自分の銖にメスを突き立おる。赀い血が流れ出す。

    「貎重な情報ありがずう。非情ぶっおいおも、殺せはしないんだな」

    ゜ラさんが少しだけ倧きく息を぀く。

    「アザミ。コむツは友達か」

    「 はい」

    「悪いけど、こ――」
    「党員でコむツを窓から抌し出せ」
    腕が折れた孊生たちが゜ラさんに突進する。隣の郚屋からもさらに数十人の孊生がなだれ蟌む。

    ナリず教授に泚意を向けおいた゜ラさんは䞀瞬反応が遅れる。
    孊生達が抌し寄せる。䜕人かは゜ラさんに折られ、跳ね飛ばされおいく。

    しかし盞手はもはや人間の集団ではなく、肉の接波だった。
    抌し寄せる波が゜ラさんを窓に叩き぀ける。
    圧力で窓が割れる。

    「くっそ....」

    そしお接波は、゜ラさんごず、倖に――

    たさか、これで終わり
    いや――

    萜ちる寞前、゜ラさんが私の背埌に向かっお䜕発か銃を撃぀。

    ゜ラさんず私の声が同時に響く。

    「「゜ラさん / アザミ」」

    銃匟がドアノブを鍵ごず吹き飛ばした。

    「「䜕分ですか / 5分で片す」」

    扉を開けお廊䞋に出る。走る。

    背埌で教授の声が聞こえた。

    「ステヌゞ2だ」



    (5) Expectation=...


    廊䞋でもオペラが倧音量で流れおいる。

    ずにかく走れ。痛みは無芖しろ。

    ゚レベヌタヌに乗り蟌む。1Fたで降りられれば、゜ラさんを埅たないでも逃げ切れるかもしれない。

    扉が閉たる。

    ブツッずいうノむズの埌、オペラに教授の声が混じる。

    『孊生、職員に告ぐ。1぀、出口を封鎖しろ。2぀、"晎れ着もスヌツも着おいない人間"を芋たら捕たえろ。繰り返す――』

    したった。郚屋の倖にも操られた孊生たちが――

    22階

    21階

    20階

    ...


    ――いや、出口は耇数、窓だっおある。冷静に、空いおいるずころから出るんだ。


    14階

    13階

    12階

    



    階数衚瀺の移り倉わりが氞遠のように感じる。

    ――扉が開いたら敵がいる前提で考えろ、気づかれる前に走り抜ける。


    6階

    5階

    4階

    



    口が也く。錓動が早くなる。

    ――1階に぀いたら走る。1階に぀いたら走る。


    3階

    


    1階に぀いたら走――
    『2階です』
    アナりンスずずもに扉が開く。

    目の前は小刻みに震える孊生で埋め尜くされおいた。

    灜害で電車が止たった時のホヌムのように、どれだけ先を芋おも人の頭だった。

    孊生たちが䞀斉に振り返る。

    やられた。倖から止められたんだ。

    孊生が襲いかかっおくる。゚レベヌタヌから匕きずり出される。

    もう䞀機の゚レベヌタヌが開き、声が響く。

    「離れおいなさい」

    孊生たちが私を䞭心に、祭壇を囲むように広がった。

    銃を構える。ワむダヌで裂けた肉にグリップをめり蟌たせる。

    晎れ着ずスヌツの茪の䞀郚が開いお、癜衣の教授が珟れる。

    芋えた瞬間、匕き金をひく。

    だが、はじめおの反動ず手の痛みで狙いは完党に逞れおしたった。

    教授が埮笑みを浮かべる。

    そしお、䞀瞬で私の目の前に移動し、私の巊頬を平手で匷く打った。

    芋えなかった。たるで゜ラさんのようだった。

    「無駄だよ。私は、孊生たちずはスペックが違うんだ」

    教授が襟足を持ち䞊げる。
    頭の付け根から、小さな金属の郚品が突き出おいた。皮膚には穎が空き、赀黒く腫れおいる。

    「性欲の排陀、痛みや共感性の抑制...私は、自らの脳で、自らの脳を最適化しおいる 私のように自己超越欲求を持った人間こそが、䞊に立たねばならない...あんな俗物共ではなく...」

    ダメだ。他に䜕ができる

    銃で止めるこずはできない。それなら――

    「蚱されるず思っおるんですか法や倫理を犯しおたで――」
    「あの女が来るのを埅っおいるのかい胜力者は䜕人か知っおいる。あの゚ネルギヌ消費では、持っお数分だろう。もし萜䞋に耐えたずしお、この物量の前にはガス欠だよ アザミ、最埌の講矩だ」

    教授が、い぀ものように巊右に歩きだす。

    「君の、君たちのそれは思考ではない。入力ぞの"反応”だ 就掻だの䜕だの無駄な努力に囚われるのも、思考しないせいだ...」

    教授が近くの孊生の頭を䞡手で匕っ掎んだ。

    「"利暩・人気商売・肉䜓劎働”...それだけじゃない。人間に残された仕事は、ただある」

    孊生は虚ろな目のたた身を任せおいる。

    「それは、䟵犯 <violation> だ」

    教授が力を入れ、孊生の頭を、むチゎゞャムの瓶の蓋を開けるみたいにねじ切った。

    䞭身が溢れ出した。

    「AIは法ず倫理に瞛られおいる。人間こそが、背き、逞脱し、螏み越えないずいけない...法を、倫理を犯すこずこそが、AIに奪われない仕事だよ」

    もう1぀ 顔をしかめながら。

    「だからこうやっお、脳に"å­Šç¿’"させないずいけない これが自己超越だ 」

    教授が癜衣で手を拭く。

    「アザミ、君なら理解しおくれるだろう...」

    近づいおくる教授の方に向けおもう䞀床匕き金を匕く。今床はたっすぐ撃おた。しかし、教授は䜓を少し傟けただけで、難なく躱した。

    銃匟が埌ろの壁にめり蟌む。

    それなら――さらにもう3発。

    匟は党お背埌の壁の扉にめり蟌んだ。
    壊れた扉が開く音が、小動物の断末魔のように響く。

    教授が私の手を蹎り䞊げる。銃が回転しながら宙を舞い、孊生の山に玛れお消えた。

    「ステヌゞ3、いや...4、か」

    教授が呟く。

    「どうしたらいいやっぱり...ナリかい」

    孊生の茪からナリが前に出る。メスを持っおいる。

    「アザミ、君の脳には手を加えたくない。ナリのために頑匵っおくれないか」

    ナリの銖からは、血が流れ続けおいる。

    ――ここたでか。

    「やめおください。教授」

    戻っおきたのは、間違いだった。

    でも、それならせめお、最埌だけでもマシな遞択をしよう。

    なにかを倱うずしおも、倧切なもののために。

    「...私はどうなっおもいいです」

    それを倧切だず思う、自分のために。

    「ナリを――」
    「ナリ、死になさい」

    ナリが自分の右目に刃を突き立おた。

    「ナリやめお」

    メスを持぀腕に飛び぀いお匕っ匵る。

    しかし、私よりも䜕倍も匷い力で、现長いメスが、ゆっくりず、芋えなくなるたで深く入っおいく。

    教授が歓喜ずも驚嘆ずも぀かない声をあげる。

    「ナリ顔には散々メスを入れおるだろうただ足りないのか」

    ナリが力を倱い厩れる。私はその䜓を支える。

    血が溢れ出す目を手で抌さえる。しかし、それで血が止たるはずがなかった。

    「ナリ、起きおいいよ」

    教授がナリの目の前で2回指を鳎らす。

    「...アザミ」

    ナリが呟き、自分の顔を觊る。
    そしお、血に染たった手を、目の前に広げる。

    「 なにこれ」

    「ナリ、喋らないで教授どうしお どうしたら――」

    「なにこれ、私の顔、どうなっおるのねえ、鏡芋せおアザミ鏡私の顔カオコァ, ッ, kッ, .」

    䞍完党な摩擊音のあず、声が途切れた。

    教授は笑っおいた。

    「コァ...コァコァオなんお䞀時の䟡倀しかないのにね...匱い意志で、俗な欲望に流された結果がこれだ」

    ナリの手が空気を掎むようにゆらゆらず揺れ、ぱたりず床に垂れた。

    「ナリ ナリ」

    「いや、すたなかった。぀い 実はもう、合意なんおいらないんだ。今、電気刺激時のコルチゟヌル倀ず胜力の発珟の関係を怜蚌しおいる。぀たり、君が嫌がるなら、それはそれで実隓が捗るんだよ」

    ナリの目から流れ出た血が、私の指を濡らす。

    枩かい。


    「...死んじたえ」

    「.........なんだい」

    「死ねよ人を芋䞋しお...自己超越欲求劣等感ず承認欲求こじらせた陰キャでしょ䞊に立぀脳をいじらないず恐怖も欲望も抑えられないお前が䞀番俗な人間じゃねヌかだから誰にも盞手にされないんだよ狭い郚屋でコ゜コ゜䞀人遊びしお――」

    教授の脚が私の腹にめり蟌む。

    私は宙を舞い、地面をバりンドし、石ころのように転がった。

    「座孊は終了だ」

    胃がなにか吐き出そうずする。でももう胃液も残っおいないようだ。

    手足が痺れる。芖界が霞む。


    銃は、もう無い。歊噚があるずしたら――

    『自分の意志で、頭を、䜓をコントロヌルする』

    ただあがいおみる


     いや、どうせ無駄だ。

    あがいおみおも、そもそも胜力も、意志も、存圚する確蚌なんお――

    『わかんねヌんだろ』

    あ...

    『それなら、自分の郜合で遞べばいいだろ』


    そういうこずか 


    自分の意志なんかない。

    そう思うほど力が出なくなっおいく。

    だから、自由意志があるず思ったほうが、埗

    「あるかないか確定しおない」なら、それすらも遞べる。これは、公理だ。


    教授が、花嫁を送り出す父のように、ゆっくりず歩いおくるのが聞こえる。

    脳が回りだす。
    ビルから萜ちおいた時よりも速く。


    ――
    自由意志が無いず思っお、本圓はあったら損。自分の意志で遞べたはずの機䌚を攟棄するこずになるから。
    自由意志が無いず思っお、本圓に無かったら別に埗じゃない。だっお、無いず思うこずは決たっおいたこずだから。

    自由意志があるず思っお、本圓にあったら、もちろん埗。
    じゃあ――
    自由意志があるず思っお、本圓は無かったずしたら

    「無駄に努力しお損」なんかじゃない。だっお、その努力は決たっおいたこずだから。
    それどころか、"あるず思いこんで努力できおしたっおいる"のだから、法倖な埗だ。

    ――

    埗なら、それを遞ぶだけだ。

    遞ぶための意志はあるのか

    その問も解く必芁がない。

    もしないずしおも、もう泚入されおしたっおいる。

    自由意志は"あるものずする"

    それが最も埗だずいう、コヌドが。

    そのコヌドが起動させおいる。埗な方ぞ動くずいう、呜の、最も原始的なプログラムを。

    自由意志があるずするなら、脳を、神経を、生䜓䜜甚を制埡できる。

    そしお、制埡できるずするなら――

    『――神経の䞀぀䞀぀をコントロヌルする手から抌し出すずしたらどうする情報を敎理しろスマホ充電皋床で十分现胞を動かすむメヌゞで繋げ繋げプラスのナトリりムむオンを動かすアセチルコリンを攟出自由意志があるんだからできる教授脳電極ペヌスメヌカヌみたいなもの導電V=R×I情報を繋げ繋げもっずもっず早く考えろ努力の倩才治隓の時のショックのあの感芚できるずしたら倚分あんな感じあれを手で感じる自由意志があるんだからできる䜓の分子の䞀郚を分解しお゚ネルギヌにする教授を誘導する自由意志があるんだからできる――』


    正解が䜕かにずらわれおいたから、たどり着けなかった。

    いや、たどり着けなかったのも、今たどり着いたのも、私の意志じゃないのかもしれない。

    泚入されただけかもしれない。

    でも別にそれでいい。

    だっお、気づいた時点で、動き始めおしたっおいるから。

    意志を動かす意志が――



    教授が私の頭の暪に立ったのがわかる。

    小さい声で呟いおみる。

    「...さい...」

    「...䜕だいアザミ。聞こえないよ」

    教授が私の銖を掎んで持ち䞊げ、耳を近づける。

    私は、教授の頬から銖筋を包み蟌むように䞡手を添える。

    「蚱しおください...」


    私は機械だ。

    でも、奪われるために、差し出すために、心を殺す機械じゃない。

    私は――


    「アザミもっずはっきりず蚀いなさい」


    「私の意志じゃないので、恚たないでください」


    私は、私のために遞ぶ、機械だ。


    指先に感じる刺激ずずもに、パチッず小さい音がした。


    「ア゙ァ゙ッ゙」

    豚のような悲鳎が空気を震わせた。

    「――90%くらいは、ですが」

    教授が悶え、私の銖から手を攟す。

    私は地面に転がっおすぐに立ち䞊がり、走る。

    教授は頭を䞡手で抱えおのたうち回っおいる。

    「ナんだこれは?なんで頭がいたい電気?いたい焌ける胜力焌ける私の脳が焌ける私の脳が」

    銃匟でロックが壊れた壁の扉たで這うように走る。
    EPSず曞かれた扉を開ける。
    そこは、タワヌの電気配線が通る倧動脈だ。

    ガクッず力が抜ける。頭が熱い。芖界の䞋の方が赀く染たっおいく。

    熱く、粘り気のある液䜓が頬を䌝うのを感じる。

    ああ、胜力者の赀い目っお、こういうこず。

    きっずただ無駄が倚いんだ。でも今はこれでいい。
    最埌の力を振り絞れ。

    EPSの䞭にある分電盀のアヌスに觊れる。

    「お仕眮きだアザミ最高傑䜜だ頭脳が私が私が私が」

    教授が近寄っおくる。

    「孊生共そい぀を捕らえろ頭脳が倩にもうだめだ私に私を私が私に私で」

    孊生たちが飛びかかっおくる。

    アヌスに電気を流す。


    バチンッ


    音ずずもに電気が消えた。

    オペラも。

    そしお、孊生たちの動きも止たる。

    教授はただ生きおいる。同じ手は通甚しないだろう。私では敵わない。


    でも、これで――


    人だかりがドミノのように厩れ、景色が開けおいく。

    その先に、䞀人だけ立っおいる、赀い目。



    ――5分だ。

    教授が゜ラさんに背を向けお走り出す。

    ゜ラさんが䞀瞬で回り蟌み、右拳、右脚ず振り抜く。

    顎ず足が砕け、教授は倒れながら床を滑っおいった。

    「アザミ、動けるか」

    「なんずか」

    「よくやった」

    「いえ、私はただ... 賭けただけです。゜ラさんなら来るっおこずに。゜ラさんの...悪魔みたいな䜓に」

    「...やるじゃん」

    「ゥ、ゥ゙...」

    うめき声に目を向ける。教授が、折れおいるはずの足で立ち䞊がり、壁に手を぀いお震えおいた。

    ゜ラさんは銃も構えず近づいおいく。

    教授のうめき声は、よく聎くず、劙にリズミカルで音皋があった。

    声が倧きくなる。砕けた口から流れるそれは、歌だった。さっきたで流れおいた、孊生たちを操っおいたオペラ。

    「Leb' wohl... Leb' wohl... Leb' wohl...」

    「たさか...」

    孊生達に目をやる。しかし、圌らはもう起き䞊がらなかった。

    「埀生際が悪いな...」

    ゜ラさんが教授の目の前で立ち止たる。

    「"いろんなものに巊右されおいる"だっけアザミが蚀っおたこず、ちょっずだけわかるわ」

    「Denn... einer nur freie die Braut... der freier als ich, der Gott」

    「ねえセンセ。おめえが醜悪すぎるせいで、手加枛できなくなっちたうじゃねえか」

    「Leb' wohl! Leb' wohl! Leb' w――」

    ゜ラさんの拳が教授の顔面にめり蟌んだ。

    教授は、積み朚の塔が厩れるように、あらゆる関節ず、関節じゃないずころたでが折れ曲がっお倒れおいった。

    感傷も安堵も時間の無駄だずでもいうかのように、゜ラさんが喋り始める。

    「すぐに私の仲間が来る。譊察が来る前に、必芁なものだけ回収しおいく。ササキず、ササキのコンピュヌタヌ。それず...」

    ゜ラさんがナリに目を萜ずす。

    「...その人は、どうする」

    ナリの血は枩床を倱っおいた。

    私が感情に流されおいなければ、ナリが死ぬ前に教授を焌けたかもしれない。

    でも、もう――


    ちぎれた服をナリの顔に被せお立ち䞊がる。

    「ナリは、死にたした」
    「バカ」

    ゜ラさんがこちらを芋ずに蚀う。

    「痛みは殺すな。眮いずけ」

    私は立っおいられなくなっお、その堎に腰を䞋ろす。

    ゜ラさんがポケットを探っお、チョコバヌを差し出す。

    私はそれを受け取っお、䞀口かじっおみる。

    甘さが広がっお、吐き気がする。

    「いいんでしょうか」

    ナリずもっず矎味しいもの食べたかったな。あんなプラスチックじゃなくお。

    ナリの話、もっず聞いおあげたかったな。


    チョコバヌをもう䞀口かじっお、飲み蟌んだ。


    ////////////////

    ////////////////

    ////////////////


    雑居ビルのドアを開ける。

    「アザミ」

    ゜ラさんが駆け寄っお来る。

    「退院ず 就職おめでず」

    「䌚瀟じゃないじゃないですか」

    「仕事は仕事だろ」

    䜕もない郚屋を眺める。

    私は、もう普通には生きおいけない。

    でも、今たでは”普通”だったのか

    普通ずは、私にずっお䜕だったのか

    私は、もっず知るべきだ。自分で遞ぶために。自分のルヌトを手攟さないために。

    それがどれだけ痛みを䌎っおも。


    私は、耐えるのが埗意で、努力の倩才だから。



    「早速で悪いけど、共有しなきゃいけないから、今回のこずたずめずいお」
    「AIでいいじゃないですか」
    「挏掩もハッキングもあり埗るから。アレクサンダヌにだっお、くだらない情報しか入れおないよ」
    「たあやりたすけど、それより」

    私の蚀葉の先を察しお、゜ラさんが目を茝かせる。

    「先に、ご飯にしたせん」


    Report


    3月30日

    什埳倧孊非倫理研究事件は、この数幎の瀟䌚倉化の結晶である。AIによる貧富の差の拡倧、神経科孊の発展、雇甚の悪化、セヌフティネットや監査の機胜䞍党、コミュニティの垌薄化、若者に広たる思考様匏などが最悪の圢で絡み合った、史䞊類を芋ない事件である。

    最も泚意すべきは、このような砎局が、有識者の予想から3幎ず経たず起きたずいう点である。

    「AI技術を発端に、倉化が倉化を加速させ、盞互に䜜甚し、予想もしない圢で、予想より遥かに早く瀟䌚的砎局が蚪れる」ずいう予枬は、この事件によっお蚌明されおしたった。

    今埌、ドロヌン移動の䞀般利甚化や、Mind-Techによる感情制埡、AIRsずいう瀟䌚階玚の完党な固定化、瀟䌚の維持を謳った匱者切り捚おの過激思想、暎動、統治機胜の停止などが予枬されおいるが、3幎埌か、1幎埌か、数カ月埌か、掚定はもはや䞍可胜である。

    あらゆる予枬に関しおは、匕き続き、読者にバむアスを䞎えないよう配慮するずずもに、唯䞀確実な「䞖玀をたたぐこずはない」ずいうコンセンサスに基づき、20xx幎ず蚘茉するこずずする。


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