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手話なのに手を隠した日

    人の影に隠れて生きている人間としては、注目を浴びるのは一大事である。


    聴覚障害のある私は、手話講習に通っている。人との交流が苦手ながらも手話講習だけは、楽しく参加させて頂いている。

    ある日、
    「毎回1人ずつ担当を決めて手話で問題を発表する」という課題が出された。

    問題を出し合うことで、手話レベルの向上を図る画期的な取り組みだ。

    具体的な内容はこう。

    担当者が前に出て、指文字という手話表現で何と言っているのか問題をだす。

    全部で3問。
    一問につき3回示す。
    最初はノーヒント。
    2回目は口パクも付ける。
    3回目は声に出しながら正解を発表する。

    ゆっくりやるのでトータルで10分弱は要する。

    つまり、10分弱もの間クラスの視線を独り占めするわけだ。しかも出題者という立場上、穴が開くほど見られる。

    これは一大事。
    普通のコミュニケーションも苦手なのに、人前で発表するなんて。
    あがり症なので考えただけでそわそわしてくる。

    みんなが楽しく手話クイズをしている中、1人だけ就活の面接をしている気分だ。ミスったらヤバい。緊張で問題が飛んだらどうしよう。変な汗が滲む。

    そしてある日、私の番がやってきた。
    みんなの前に立つだけで緊張で顔が赤く染まる。
    普通にしてても、「チーク塗ってる?」って聞かれるくらいには顔が赤いので、緊張すると全力疾走したくらい赤くなる。
    あれ、教室こんな暑かったっけ??

    視線を感じるのを誤魔化して、教室の後ろの壁を見た。そうだ、壁に向かってやれば良いのだ。

    これで解決!

    なんていくはずもなく、時間が経過するにつれて緊張は高まった。じわじわと「注目されてる感」が高まってゆく。
    早く終われと思いながら、1問目、2問目と出題する。

    壁に意識を集中させれば良かったのに、
    うっかり皆の方をチラ見してしまった。

    みんな見てる!(当たり前)

    その瞬間手がプルプルと震えだした。
    口から心臓出て帰宅したかもしれない。

    しまった!恥ずかしい!!

    手を注目されるのに、プルプルと子鹿のように震えるなんて恥ずかしすぎる。

    とっさに手を背中に隠してしまった。
    手話なのに。

    手を見せないと始まらない手話で、手を隠す人はそうそういない。手話にあらず。

    野球選手がバットを隠すようなもので、それは大根のないおでんだ。
    おでんにしておでんにあらず。
    もう何を言っているのかわからない。パニックだ。

    今のナシナシ!と塩を巻いた後の力士みたいに手を叩いた。完全に一人相撲である。

    ちなみに、「ありがとう」という手話は、力士が賞金を受け取る時の手刀の動きが由来と言われている。為になったね。

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    手話:ありがとう

    完全に一人相撲で仕切り直したら今度は足がガクガクと震え始めた。そんなに緊張することか??と誰もが思うだろう。あがり症ってこうなのだ。
    膝大笑い。人知れず大爆笑かっさらっている。

    手が震えるよりはマシだと瞬時に言い聞かせて、問題を出題する。

    なんとか終わった。

    さて今日の仕事は終わったぞ。と席に戻ろうとしたら

    先生「ちょっとまって!」

    ちょっと待ってコール入りましたー!
    そう、正解をホワイトボードに書かないといけない。聴覚障害者が集うクラスなので、声だけで正解発表すると情報補償が足りないのである。

    ①問目正解◯◯◯
    ②問目正解⚫︎⚫︎⚫︎

    背中に視線を浴びながら書いてゆく。
    字が震えると恥ずかしいので、わざと雑に書いた。震えてるのがバレるくらいなら、字が汚い人と思われた方がマシだった。

    ③問目にもなれば、膝を曲げなければならない。
    膝は大爆笑真っ最中だ。

    足が震えた状態で、曲げないといけない。
    ズボンを履いていたので、足の震えはみんなにバレてないと思っていたが、バレていたら相当恥ずかしいなこれ。

    子鹿なのか筋トレなのかと言うくらいプルプルが止まらない足。足に別人格があるのかというくらい言うことを聞いてくれない。治まれ治まれと思うほど、ガクガクプルプルとはしゃぎだす。

    その昔存在した「笑い袋」っておもちゃを知っているだろうか。確かちびまる子ちゃんでも笑い袋回があったと思う。奇妙な笑い声を発する巾着袋。
    令和においてサイレント笑い袋が膝に降臨した気分だ。サイレントなら笑い袋ではないんだけども。ただ巾着をぶら下げた人になる。

    どうにかこうにか書き終えたと思ったら
    「この問題って◯◯なんですかー?」
    とフリートークタイムに突入する。

    じわじわと教室の隅の方にカニより静かな横滑りのすり足をしながら、なんとか答えた。陰キャステップと呼べばしっくりくるか。
    たかが10分の出来事に1時間ジムに行った後のような疲労と顔の赤さである。

    やった。

    私はやり遂げた。

    みんな優しい人達なので、陰口言う人はいない。
    いいんだ、陰キャの大舞台をなんとかこなした。

    こういう事がある度思う。
    先生って凄いな、いつも前に立って教えつつ仕切りつつで。私は10分で瀕死である。
    今日も人前に立つ人達へのリスペクトが止まらないのであった。

    あがり症、膝大爆笑。


     
     
    ノイズを、ハミングへ。映画好きの文章屋。愛すべきポンコツ日記。

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