
#12 15分で殺される職業 フリーライターの生態
フリーライターという職業に憧れを持つ人は、世の中に一定数いると思う。
バーなどで隣り合わせた人と話していて、会話の流れで職業を口にすると、「すごいですね」と言われることが多い。
どこにも属さず、好きなテーマを追いかけて記事を書き続ける——そんな自由で孤高なイメージがあるのかもしれない。
もっとも、その「すごいですね」の後には、大抵「でも大変でしょう?」という言葉が続く。
はい、とても大変です。
私は勤めの記者を経て、ひょんなことからフリーランスになった。しかし、実を言うと、もともとフリーライターに対して、あまり良いイメージを持っていなかった。
私の中では、2時間サスペンスドラマで、開始15分くらいに「このことを世間に公表されたくなかったら……」と真犯人をゆすり、その直後に殺される人である。
だから独立した時に、自分に誓ったことがある。
人に言えない恥ずかしい仕事はしない。
そして、なるべく身なりは整え、挨拶をきちんとし、時間と約束は必ず守る。名刺だけはしっかりしたものを作る。
どこにも属していないからこそ、会社員以上に居住まいを正さなければならない。そうでなければ信用してもらえない。
現在使っている名刺は、原稿用紙を模したデザインで、紙はアラベールナチュラル200kgという少し厚手で手触りの良いものを選んでいる。
私はいただいた名刺に、会った日付や出会った経緯を一行だけメモするようにしている。ところが、コーティングされた名刺だと、油性ペンでなければ書き込めない。その不便さに小さな苛立ちを感じるので、自分の名刺は紙質にもこだわっている。
もっとも、そうやって社会人らしさを演出しても、怪しさを拭い去ることはできない。
以前住んでいたアパートでは、出入りする時間が不規則だったせいか、隣人から近くの大きな病院に勤務する医師だと思われていた。これはマシな方である。
ところが、今の住まいでは逆である。
原稿を書き終え、しばし休憩しようと家の外で空を見上げていたら、近所のおじさんから「お前も仕事がなくて大変だな」と励まされた。
どうやら、おじさんは無職で、私は仲間だと思われているらしい。
さらに、よく利用する家族経営の商店では、娘さんから意を決したようにたずねられた。
「いつもありがとうございます。前から気になっていたのですが、何のお仕事をされているんですか?」
話を聞くと、家族の間で「あの人は何者なのか」が話題になっているらしい。
普段着の日もあれば、ジャケット姿の時もある。昼間にふらっと現れたかと思えば、数日見かけないこともある。確かに、自分でも怪しいと思う。
とはいえ、あっさり正体を明かすのは、何だかもったいない。
私は満面の笑みで答えた。
「自営業です」
医者と思われたり、無職だと同情されたり、職業不詳の自営業者という謎のままだったり。
どうやらフリーライターは、記事を書くより先に、自分が何者なのかを説明しなければならない職業らしい。