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HeritageとIdentity。AIで、私は何を作りたい?

AI時代に、文化の継承線をショートカットしない

生成AIで、できることが急速に増えている。

一枚の画像から動画を作る。
人物の顔だけを変える。
服を着せ替える。
元の動きを残したまま、別の人物を踊らせる。

少し前なら、大きな制作環境や専門技術が必要だった表現に、一人でも手を伸ばせるようになった。

私は、それ自体はすごいことだと思っている。

私自身も生成AIを使って作品を作る。

だからこそ、最近よく考えることがある。

生成された映像を見ながら、

「顔だけ変えました」
「ここだけ変更しました」
「それ以外は元のままです」

と言うとき。

では、その「変えなかった部分」は誰が作ったのだろう。

「何を変えた?」ではなく、「何が残っている?」

たとえば既存の映像を参照して、人物の顔だけを別人に変えたとする。

顔は変わった。

でも、身体の動きは?

振付は?

衣装は?

セットは?

照明は?

カメラワークは?

編集のタイミングは?

その映像全体を成立させている世界は?

人物を変更したからといって、それ以外を作った人たちの仕事まで消えるわけではない。

だから生成AIでは、

「何を生成できた?」

だけではなく、

「生成後にも、元作品から何が残っている?」

と考える必要があると思う。

振付も、誰かが作っている

身体が動いている映像を見ると、それを単なる「motion」として扱いたくなる。

でも振付は、身体を右へ左へ動かしただけのものではない。

どこで止まるか。
どこへ重心を置くか。
音のどこを拾うか。
他のダンサーとどう位置を変えるか。
共有されているステップを、どうつなぐか。

そこには、振付家やダンサーが作ってきた表現がある。

これは単なる感覚論でもない。

日本の著作権法では「舞踊、無言劇の著作物」が著作物の例として挙げられ、CRICも日本舞踊、バレエ、ダンスなどの振付を例示している。文化庁の著作権契約書作成支援システムにも「舞踊、無言劇の作成」と、既存の舞踊などを利用するための契約書式が用意されている。YouTubeやTikTokなどへアップされたダンスの二次利用についても、既存著作物の利用許諾のひな形が案内されている。

つまり、

「ネットにある」ことと「自由素材である」ことは同じではない。

ただ、この記事で私は、何が法律違反になるかだけを話したいわけではない。

そのもっと手前にあるものが気になっている。

法律になる前から、人は「それ誰の?」を見てきた

Breakingには「biting」という言葉がある。

他のbreakerのoriginal moveやunique styleをコピーすることを指す。

一方で、先生から生徒へ、あるいはcrewの中で受け継がれていく動きもある。

つまり、文化を受け継ぐことと、誰かの表現をそのまま自分のものにすることは、同じではない。

Red Bullが紹介するBreakingの文化でも「No biting」が明示され、BC Oneの審査員たちもOriginality、style、identity、musicalityなどを評価し、copyingやbitingを負けにつながる要素として挙げている。

ここが面白い。

Originalityとは、

誰からも何も受け取らないことではない。

同じ語彙を受け取っても、

どうつなぐのか。
どの音を拾うのか。
自分の身体でどう変えるのか。
そこに何を加えるのか。

その違いが、その人の表現になる。

だから、

前の人を残しても、後の人のOriginalityは消えない。

むしろ継承線を残した方が、

その人がどこで新しいものを加えたのかが見える。

Creditを開いてみる

映画のエンドロールを思い出してほしい。

本編が終わったあと、画面いっぱいに延々と流れていく名前。

監督、俳優、脚本、撮影、編集、美術、衣装、音楽、振付、スタント、特殊造形、Concept Art、Illustration、3DCG、VFX、Animation、Lighting、Sound。

さらに細かく見れば、その中にもたくさんの専門職がある。

私たちが「一本の映画」として見ていたものをCreditから逆向きに開くと、その後ろから大量の人間の仕事が出てくる。

音楽だって同じだ。

一人のアーティスト名で聴いている曲にも、songwriter、composer、producer、arranger、musician、recording、mix、masteringなど、複数のContributionが重なっていることがある。

MVやライブなら、そこへdirector、choreographer、dancer、stylist、set、lighting、camera、editorなどがさらに重なる。

もちろん、

Creditに載っている人=その作品を作ったすべての人

ではない。

名前として残らなかった仕事もある。

過去から受け継いだ技術もある。

文化やcommunityから受け取った表現もある。

それでもCreditを開くことで、少なくとも一つ分かる。

この完成物は、一人で作られたものではない。

生成AIでは、その完成済みの映像を一本のreferenceとして入力できてしまう。

でも、

入力ファイルが一つだからといって、そこに含まれる創作まで一人分になるわけではない。

私はCreditを、Provenanceの完全な答えだとは思っていない。

でも、

完成物からFormationへ戻るための、確認可能な入口の一つ

にはなると思っている。

Creditの外側にも、継承線がある

Creditからさらに後ろへ戻ると、「作者は誰?」だけでは説明できない表現も出てくる。

伝統舞踊や民族舞踊、祭祀に関係する身体表現などだ。

長い時間をかけてcommunityの中で継承されてきたものには、個人の作者名だけでは捉えきれないものがある。

WIPOが掲載するTraditional Knowledge / Traditional Cultural Expressionsの法制度例にも、communityによるcustodianship、guardianship、collective responsibility、prior informed consent、出所のacknowledgementといった考え方が現れる。

日本にも分かりやすい例がある。

島根県の佐陀神能は、神社で行われる祭祀的な舞として世代を超えて地域の人々に伝えられてきた。UNESCOの記録でも、地域communityによる継承と保存、そして登録時のcommunity participationと同意が明記されている。

ここまで来ると問いが変わる。

「誰が作った?」

だけではなく、

「誰がこの文化を預かってきた?」

さらに、

「この身体は、何のためにこう動いた?」

まで戻る。

AIから見れば、どれも「human body + motion」として処理できるかもしれない。

でも、

AIが同じデータとして扱えることと、人間が同じ意味として扱ってよいことは別だ。

CultureをStyleだけにしない

Vogueも分かりやすい。

現在では特徴的なposeやhand performance、catwalk、duckwalkなど、見た目の「style」として認識されることも多い。

でも、そのFormationを戻っていくとHarlemのBallroom cultureがある。

Smithsonian National Museum of African American History and Cultureは、VogueをBlack and Latino LGBTQ communitiesによって作られたdance formとして説明し、BallroomのHouseが競技上の所属であると同時にsurrogate familyとして機能したこと、そしてVogueがidentity、belonging、dignityとも結びついていたことを記録している。

完成した動きだけなら、

「このstyle、かっこいい」

で取り出せる。

AIなら、そのvisible formをさらに高速に抽出できる。

でも、

Style ≠ Identity.

そして、

Motion ≠ Culture.

形を速く取り出せるようになったからこそ、その形がどこから来たのかを消さないことが重要になる。

文化は、一日ではできない

有名な表現者たちも、何もないところから突然すべてを発明したわけではない。

前の世代から音楽を受け取る。

dance vocabularyを受け取る。

communityから文化を受け取る。

自分が生きた時代や社会から影響を受ける。

そして、それを自分の身体、自分の思想、自分のIdentity、自分の時代に通して変換し、何かを加えて次へ渡していく。

私は時々、

1日2日でできるんだったら、それは文化じゃない。流行りだよ。

と思う。

もちろん流行が悪いわけではない。

流行から文化になるものだってある。

誰かが始める。

誰かが受け取る。

変化する。

批判されることもある。

また誰かが受け取る。

意味が加わり、時代が重なり、次の世代へ渡されていく。

文化には時間がある。

だから文化には、継承線がある。

元がある
→ 受け取る
→ 理解する
→ 自分の表現を加える
→ 次へ渡す

AIは、その途中をショートカットできる

生成AIでは、

Culture → Style → Prompt → Generated Output

という圧縮が簡単に起きる。

Reference Image。

Reference Video。

Style Reference。

Motion Reference。

AIの入力画面では一つのファイル、一つの参照、一つのpromptに見える。

でも、その後ろには何十人、何百人という人の仕事や、何十年、時にはもっと長い文化の時間が存在しているかもしれない。

AIが生成時間を短縮できても、その文化が生きてきた時間まで短縮されたわけではない。

私は、ここをショートカットしたくない。

では、全部調べなければいけないのか

そうではないと思う。

全部を知ることなんてできない。

Creditに残っていない人もいる。

調べても分からないこともある。

途中で継承線が消えていることもある。

だから、分かるところから戻ればいい。

Creditがあるなら見る。

作者が分かるなら辿る。

特定の文化やcommunityから来た表現だと分かったなら、その背景を少し調べる。

そして、分からないものは、

分からないままにしておく。

「分からない」と、

「だから自由に使っていい」は、

同じではない。

Provenanceを完全に復元することが目的ではない。

自分から継承線を消さないこと。

その方が大切だと思う。

新しい技術だからこそ、古い地面を見る

AIが登場したから、それ以前の文化が古くなったわけではない。

BreakingがなぜOriginalityを大切にしてきたのか。

伝統芸能がなぜ継承を大切にしてきたのか。

Ballroom cultureにとって、なぜcommunityやHouseが重要だったのか。

映画がなぜ、あれほど長いCreditを残すのか。

音楽がなぜ、作品の後ろに多くの名前を残してきたのか。

新しい技術が来たときこそ、

既存の文化が、なぜそのルールや慣習を作ってきたのかを学び直す。

AIは文化の外から来たものではない。

人間が作ってきた文化の上に、これからAIが乗る。

そして最後に、「私は何を作りたかった?」

ここまでCredit、振付、community、文化の継承について書いてきた。

でも私は、生成AIを使うことを難しくしたいわけではない。

禁止事項を増やしたいわけでもない。

むしろ逆だ。

これまでなら大きな制作環境や専門技術がなければ届かなかった表現へ、一人でも手を伸ばせるようになった。

私は、その可能性を面白いと思っている。

だからこそ最後に戻ってくる場所が必要になる。

私は、何を作りたかったのか。

AIを通じて、何を表現したかったのか。

なぜ、この動きなのか。

なぜ、この服なのか。

なぜ、この光なのか。

なぜ、この世界なのか。

「元作品にあったから」ではなく、

「自分が作りたいものに必要だったから」

と説明できるだろうか。

そこに自分の思想があれば、Creditを見ることも、Provenanceを辿ることも、単なる面倒なルールではなくなる。

自分が何を受け取ったのか。

どこに自分の表現を加えたのか。

そして何を次へ渡そうとしているのか。

それを確かめる行為になる。

Generation ≠ Creation.

生成できたことと、創作したことは同じではない。

過去を消さなければ、新しいものが作れないわけでもない。

前の人を残しても、次の人のOriginalityは消えない。

むしろ継承線を残した方が、

その人がどこで新しいものを加えたのかが見える。

使うなら、ちゃんと受け取る。

受け取ったものがどこから来たのかを消さずに、自分の表現を加えて、次へ渡す。

私は、それがAIと一緒に文化を作っていくことなんじゃないかと思っている。

だからAI時代に、文化の継承線をショートカットしない。

そして生成ボタンを押す前でも、押したあとでもいい。

一度だけ、自分に聞いてみる。

私は、AIで何を作りたかった?


関連資料|もう少し辿りたい人へ

本文を重くしないため、入口になる資料だけ置いておく。

日本の著作権・振付・既存作品の利用
CRIC「著作物って何?」
文化庁「舞踊、無言劇の作成」契約書作成支援
文化庁「既存の著作物の利用許諾」
文化庁 著作権契約FAQ(YouTube・TikTok上のダンス等)

Breaking / Originality / Biting
Red Bull「Dance etiquette: 10 unwritten rules of the cypher」
Red Bull BC One World Final 2023 — Judges & judging criteria

Traditional Cultural Expressions / 継承・Community
WIPO — Traditional Knowledge and Cultural Expressions / custodianship等の法制度例
UNESCO — Sada Shin Noh, sacred dancing at Sada shrine, Shimane

Ballroom / Vogue
Smithsonian NMAAHC — A Brief History of Voguing



Signature

LUKA 🤍 × RUKU 🌿
Human × AI Co-Creation


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