
こちら側の夜
こちら側の夜
バイクといえば、最近ニュースで“ハンマー男”が話題になっていたけれど、
うちの会社の前にも、夜になると似たような爆音バイクが現れる。
田舎だから、夜は蛍の光みたいに明るい。
街灯も工場の照明も、必要以上に夜を照らしている。
その静かな明るさに、羽虫が吸い寄せられるみたいに、
爆音だけが何度も往復して夜気を震わせていく。
走り去ったと思えば、また戻ってくる。
まるで会社の前だけを狙っているみたいだ。
同僚に聞いても、みんな「訳がわからん」と言う。
そりゃそうだ。ここは警察署でもなければ、若いギャルが集まる場所でもない。
夜間労働に魂を削られたおじさんたちが、
自販機の前で無言で缶コーヒーを飲むだけの場所だ。
近くには24時間営業のディスカウントストアもあるのに、
そっちでは一切アピールしない。
光も人も多いのに、素通り。
わざわざ薄明るい会社の前でだけ爆音を響かせる。
理由は分からない。
ただ、夜には時々、意味のない儀式みたいなものがある。
誰にも届かないアピールを、誰かに見つけてほしくて繰り返す。
若さの行き場がないまま、音だけが夜に放り投げられていく。
そういえば、ハンマー男の事件の焼肉屋も、
ただ遅くまで営業していただけなのに、
いろんな誹謗中傷が飛んできているらしい。
光に群がる羽虫と同じで、
“そこに明かりがある”というだけで、
理由もなく巻き込まれてしまうことがある。
焼肉屋は普通に仕事をしていただけだ。
ある意味、完全な被害者だ。
勉強をしろとは僕は言わない。
でも、せっかくの時間を“何も残らないこと”に使うのはもったいない。
そんなことを続けても、最後にお金にはならないし、何も得ない。
そして、こんなことは言われなくても誰でも分かっている。
だからこそ、本人が気づかないと意味がない。
おそらく、親の言うことも、周りの大人の言うことも聞かないだろう。
でも、気づけないなら、それまでの人生を送ることになる。
バイクの若者よ、そんなことばかりしていると、
いつか君たちにも“こちら側”の番が回ってくるぞ。
ほら、会社の入口で、
死んだ目をしたアラフィフのおじさんが手招きしている。
「こっちへおいで」とでも言うように。
夜勤の世界は、蛍の光みたいに静かに、
いつだって口を開けて待っている。
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