
雨がやむたび、あなたがそばにいる気がした。98歳はじめての神戸へ。
い一日でした。「一度でいいから、神戸に行ってみたいの」
そう静かに話される、98歳の女性利用者様。
その言葉の奥には、長い年月を抱えてきた想いがありました。
亡くなられたご主人は神戸のご出身。
戦争によって街は焼け野原となり、やむなく今の地へ疎開。
それ以来、ご主人は生まれ故郷の神戸に足を向けることはなかったそうです。
全国を旅してきたお二人でしたが、なぜか神戸だけは訪れることがなかった――。
それが、利用者様の中でずっと心に残り続けていました。
「主人の生まれた街を、一度でいいから見てみたい」
けれど、年齢は98歳。
長距離の移動や体力の不安、遠方に住む娘様たちの状況もあり、
その願いは叶わないものとして、静かに胸の奥にしまわれていました。
それでも――
どうしても、その想いを叶えてあげたい。
娘様お二人のご理解をいただき、看護師である友人も同行してくれることになり、
完全プライベートで、日帰りの神戸行きを決行しました。
迎えた当日の朝。
空はあいにくの雨模様。
それでも、この日を逃せば次はないかもしれない。
そう思い、予定通り出発しました。
車でおよそ2時間。
神戸に到着すると――不思議なことが起こりました。
目的地に着いたその瞬間、雨がぴたりと止んだのです。
雨に濡れることなくスムーズに建物の中へ入り、見学を終えて外に出ると、雨もぴたりと止む。
次の場所へ向かう移動中には雨が降る。
目的地に到着すると雨がぴたりと止む。
でも、移動のときだけ、不思議と雨が降る。
その繰り返しは、一日を通して続きました。
偶然にしては、あまりにも出来すぎていて――
思わず、鳥肌が立つほどでした。
「きっと、ご主人が守ってくれているんですね」
誰からともなく、そんな言葉がこぼれました。
奥様が初めて訪れる神戸の街。
雨に濡れないようにと、天国からそっと手を差し伸べているような、
そんな優しさを感じずにはいられませんでした。
利用者様は、静かに、そして何度も何度も頷きながら、
ご主人の生まれた街を見つめておられました。
その表情は、言葉では言い尽くせないほどの想いに満ちていました。
「来れてよかった……本当にありがとう」
その一言に、すべてが込められていました。
帰宅後、娘様お二人にこの日の出来事をお話しすると、
「きっと父が見守ってくれたんですね」と、同じ言葉が返ってきました。
長い年月を経ても消えない想い。
そして、それをそっと支える見えない存在。
あの日の神戸は、ただの旅行ではなく、
ご夫婦の時間がもう一度、静かに重なった一日だったのかもしれません。
雨が止むたびに、
そこに「想い」があると感じた――
そんな、忘れられない日になりました。