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Photo bycute_holly106

雨がやむたび、あなたがそばにいる気がした。98歳はじめての神戸へ。

    い一日でした。「一度でいいから、神戸に行ってみたいの」

    そう静かに話される、98歳の女性利用者様。

    その言葉の奥には、長い年月を抱えてきた想いがありました。

    亡くなられたご主人は神戸のご出身。

    戦争によって街は焼け野原となり、やむなく今の地へ疎開。

    それ以来、ご主人は生まれ故郷の神戸に足を向けることはなかったそうです。

    全国を旅してきたお二人でしたが、なぜか神戸だけは訪れることがなかった――。

    それが、利用者様の中でずっと心に残り続けていました。

    「主人の生まれた街を、一度でいいから見てみたい」

    けれど、年齢は98歳。

    長距離の移動や体力の不安、遠方に住む娘様たちの状況もあり、

    その願いは叶わないものとして、静かに胸の奥にしまわれていました。

    それでも――

    どうしても、その想いを叶えてあげたい。

    娘様お二人のご理解をいただき、看護師である友人も同行してくれることになり、

    完全プライベートで、日帰りの神戸行きを決行しました。

    迎えた当日の朝。

    空はあいにくの雨模様。

    それでも、この日を逃せば次はないかもしれない。

    そう思い、予定通り出発しました。

    車でおよそ2時間。

    神戸に到着すると――不思議なことが起こりました。

    目的地に着いたその瞬間、雨がぴたりと止んだのです。

    雨に濡れることなくスムーズに建物の中へ入り、見学を終えて外に出ると、雨もぴたりと止む。

    次の場所へ向かう移動中には雨が降る。

    目的地に到着すると雨がぴたりと止む。

    でも、移動のときだけ、不思議と雨が降る。

    その繰り返しは、一日を通して続きました。

    偶然にしては、あまりにも出来すぎていて――

    思わず、鳥肌が立つほどでした。

    「きっと、ご主人が守ってくれているんですね」

    誰からともなく、そんな言葉がこぼれました。

    奥様が初めて訪れる神戸の街。

    雨に濡れないようにと、天国からそっと手を差し伸べているような、

    そんな優しさを感じずにはいられませんでした。

    利用者様は、静かに、そして何度も何度も頷きながら、

    ご主人の生まれた街を見つめておられました。

    その表情は、言葉では言い尽くせないほどの想いに満ちていました。

    「来れてよかった……本当にありがとう」

    その一言に、すべてが込められていました。

    帰宅後、娘様お二人にこの日の出来事をお話しすると、

    「きっと父が見守ってくれたんですね」と、同じ言葉が返ってきました。

    長い年月を経ても消えない想い。

    そして、それをそっと支える見えない存在。

    あの日の神戸は、ただの旅行ではなく、

    ご夫婦の時間がもう一度、静かに重なった一日だったのかもしれません。

    雨が止むたびに、

    そこに「想い」があると感じた――

    そんな、忘れられない日になりました。


    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     
    デイサービスの管理者をしています。日々の現場には教科書には載っていない気づきや学びがたくさんあります。リアルな日常を少しずつお話していきます。何かのヒントや共感につながればうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

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