メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byyamane112251

【ショートショート】 旅は股ずれ余は情けねぇ

    穴だ。


    ぽっかりと大きな穴があいている。
    前に気付いた時には指1本くらいの太さだったのに、今ではこぶし大になっている。




    おれはパンツにぽっかりあいた穴を見て、静かに目を閉じた。



    思えば昔からそうだった。



    ジーンズも、ちょうど股のところに穴があく日々だった。そもそもジーンズって、丈夫さが売りじゃなかったのか。炭鉱夫よりもおれの方が股下環境は過酷だというのか。


    それにしても大きな穴だ。



    買い換えるのは簡単だ。
    でもおれは今、この穴があくほど摩擦を受けて擦り切れたパンツに、どうしたわけか情が湧いている。


    捨てられない。
    そう、言えないよ。捨てるだなんて。



    おれの人生も似たようなものだ。


    周りの人間に気を遣い、不要な摩擦が起きないように頭を下げながら、気がつけばおれの内側で何かがすり減っている。


    一見すると、まともな大人の顔をしているのかもしれない。でも実際は穴のあいたパンツを履いているだけの残念な中年だ。


    これを情けないと笑うならそれでいい。


    でもおれは、これを一生懸命生きてきた証だと思っている。


    人生を旅に例えるなら、おれはこの穴のあいたパンツを相棒としてスーツケースにつめこんで、これまでも、これからも一緒に生きていくのだ。



    もしかしたら、営業部で成績トップの日比谷くんも、渉外部のイケメンエース美濃さんも、なんなら毎日フェラーリィで出社する城戸社長だって、みんなパンツに穴があいているかもしれない。


    人生で苦労した分だけ、パンツにあいた穴は大きくなるのだ。



    そうだ。パンツの穴は男の勲章だ。



    なんだか愉快な気持ちになってきたおれは、リビングにパンツ一丁で飛び出した。
    嫁さんがテレビを見て寛いでいたので「どうだー!」と披露したが何も反応はなかった。



    いいんだよ。分かってるんだよ。
    そうやって君は、おれのことをいつも無言で応援してきてくれたんだから。


    いつもありがとうね。愛しているよ。



    🩳🩳🩳



    次の日、洗濯物を干していて異変に気がついた。



    「おい、おれのパンツがないぞ?」


    「あーあのボロボロのパンツね。今朝窓のサッシを拭いて捨てたわよ。綺麗になったわ♪」





    これからも旅は続く。


    でも、どうやらおれは、大切な相棒を失ったようだ。






    よしまるさんの「旅」をテーマにしたショートストーリー企画に参加します。


    今回ので確か7つ目。だんだんわからんくなってきましたが、ほんと修行みたいになってきてます笑


    よしまるさん、よろしくです☺️


     
     
     
    ティッシュ字検定TWE師範 | 岩男を笑わせろ杯特別賞 | モノカキングダム2024優勝 | 第六回灯火杯 変態道でも祝っちゃうで賞 | 京大薬博士の読むサプリ| #なんのはなしですかを文芸ジャンルにする |

    あなたへのおすすめ