
みんなまとめて幸せになれ【短編小説】
あくびが出そうだ。
夜中のバラエティ番組。
最近テレビでよく見るようになった男性お笑い芸人が、アイドルグループを卒業したばかりの女性タレントに告白している。
この芸人、別のトーク番組では、こないだまで朝ドラのヒロインやってた女優のことを好きって言ってたぞ。
誰彼構わず好きだ好きだ言ってる奴って信用できない。
そしてやっぱり、告白した芸人は、「一途な感じがしない」という理由でお断りを食らっていた。
当たり前だよな、まぁ頑張れ。
大きく口を開けてあくびをして、テレビの電源をオフにした。
あほか。
同じ職場だったあの子は、誰にでも思わせぶりな態度を取ることで有名だった。
「お前なんてすぐ落とされっから気をつけろよ」と先輩から注意されてたが、無理なもんは無理だった。
会社の飲み会で隣の席になって、テーブルの下でギュッと手を握られて「私、タイプかも」って耳でささやかれた。
ずっきゅーん。
以来、寝ても覚めても彼女のことしか考えられなくなった。職場ですぐ近くに来るたび、話しかけられるたび、ドキドキした。
でも、彼女はそんな俺のことを内心、面白がっていたのかもしれない。
後で聞いた話だが、同様の手口で落とされた男性社員、他に2人はいるらしい。
彼女は、俺の同期の中でいちばんの出世株だった男と結婚することになり、寿退社した。
彼女の旦那になる同期を、うらやましいとも思わない。後に浮気されてしまう可能性もあるだろうが、きっと離婚はしないだろう。
彼女はたぶん、将来の安定性を備えた、ステータスのある男を最終目標にしていたんだ。
そのため、あっちこっちの男性社員の気を引き、手持ちの札を増やしては捨てて、最高かつ最強の一枚を残して自分のものにした、って感じだろう。
知るか。
あぁ、あの時。
握られた手の温かさ。
「タイプかも」ってささやかれた声。
耳に息がかかってくすぐったかった感じ。
全部、いまだに覚えてる。
「バカにされた」とも思うけど、夢を見させてくれたとも思う。
どうかお幸せに。そう祈って徳を積むしかない。
彼女と、旦那になる同期だけでなく。
俺と、俺の他にも騙された、2人かそれ以上の仲間たちも。
みんなまとめて幸せになれ。
一途に、一心に、祈ってやるよ!
ナルさんの「片想い文芸部」に参加してます。
今週のテーマは「あくび」です。