メインコンテンツへスキップ
見出し画像

祖父と最後の夜

    はじめに

    前回は、私にとって当たってほしくなかった勘が当たってしまいました。家族には、こうなると思うこと、覚悟を決めてほしいことを伝えました。自分に言い聞かせるように。

    しかし、本当にそれが正しかったのか、私の中では答えが出ませんでした。

    夜1人で考え込んだ時間

    夜、ウィッシュくんで夜景が見える場所へ向かいました。サンルーフを開け、夜空を眺めながらどうするべきだったのか、私の口から伝えたのは正解だったのかを考えていました。

    祖母や叔母、母を傷つけてしまったのではないか。そんな思いが頭の中をぐるぐると回っていました。

    考えたくない自分、冷静にそろそろかもしれないと考えている自分、伝えてしまったことを後悔している自分。頭の中で、いくつもの自分が大喧嘩していました。

    それでも涙はなぜか出てきませんでした。

    ただ、どうすればよかったのか分からないまま、時間だけが過ぎていきました。

    病院から家族に電話

    その日の午前中、病院から祖母、叔母、母へ電話がありました。
    「祖父の容態が思わしくないので来てほしい」
    という内容でした。

    私はその日日勤だったため、昼休みに母から電話でその話を聞きました。

    仕事終わりに行ってもいいか母に確認すると、
    「来てほしい。」
    と返事がありました。

    そこからは、仕事のことはあまり覚えていません。上司に祖父の容態が危険なことを伝えたのは覚えていますが、それ以降の記憶はほとんどありません。

    仕事終わり、同僚から
    「どんなに仕事が残っていても今日は絶対に帰って!!」
    と言われ、一番に帰りました。

    病院に着くまで、かなり車を飛ばした記憶があります。

    「来るべき時が来た。」

    今行かなければ、絶対に後悔する。そんな思いで病院へ向かいました。

    駐車場について、食料の買い出しへ

    駐車場に着き、母へ電話をしました。

    「着いたよ。ご飯とか食べた?何か必要?」

    そう聞くと、
    「夕飯はみんな食べてないよ。コンビニとかで何か買ってきてくれるか?」
    と言われました。

    「わかった。買ったら病院の中行くから、爺ちゃんの元から絶対離れないでね。」

    そう伝え、電話を切りました。

    ここまで来たら、私に出来ることは家族の後方支援しかないなと思いました。

    近くのコンビニで、祖母の好きな昆布のおにぎりをはじめ、サンドイッチやお茶を多めに買いました。さらに、無意識のうちに祖父の好きな饅頭や団子も買っていました。

    袋の量は、我ながら業者のような量でした。
    コンビニで3〜4000円ほど買うなんて、冷静に考えると買いすぎだったと思います。

    それでも、その時はとにかく何かしていたかったのだと思います。

    祖父の元へ

    祖父の病室へ駆け込むと、祖母と叔母、母がいました。祖父は目を開け、私の方を見たような気がしました。

    祖父に
    「来たよ。お待たせ。」
    と声をかけました。

    母に食料を渡すと、
    「こんなに買ってきたんかい。」
    と言われました。

    その時、私は
    「決着つくまでの量を買ったんだよ。」
    と、苦し紛れに答えました。

    とりあえず食事をしてもらおうと思いました。

    「誰もいないんじゃ父ちゃんが可哀想だよ。誰か残る?」
    と叔母が聞いてきました。

    私が
    「俺が見てるよ。何かあったらすぐに呼ぶから。」
    と言うと、

    叔母は
    「まぁお前には悪いけど、すぐ戻るからな。」
    と祖母を連れていきました。

    祖母は
    「本当にこんな時まで悪いんな。」
    と申し訳なさそうに言いました。

    「なんかあったらすぐ呼べよ?父ちゃん。私はご飯食べてくるから。」

    そう祖父に言って、母も病室の外へ出ました。

    祖父と2人きり

    3人には食事をとってもらい、私と祖父は2人きりになりました。

    祖父はミトンをしていたので、看護師さんに声をかける前にミトンを外し、拘束を解きました。

    「みんなはご飯食べてるよ。今は俺だけ。」
    そう祖父へ伝えました。

    すると、一瞬深い息をして、呼吸の間隔が空いてきました。

    「疲れたん?はー…逝っちゃうんか?まだみんな戻ってきてないよ。まだ俺も話したいことあるんだよ?」

    そう話しかけると、呼吸のリズムが戻ってきました。

    「まだ逝かないでよ。寂しいじゃん。」

    冗談っぽく声をかけながら、こないだの東京の桜の話や、菊の仕事を手伝った話、デイケアのみんなの話などをしました。

    祖父は目を開けて、私に何か言いたそうにしていました。

    何を言おうとしていたのかは、正直分かりません。

    ただ、苦しそうな表情ではなかったのは確かでした。

    家族みんなで過ごす夜の時間

    祖父に話をしていると、母が戻ってきました。

    「どうだ?大丈夫か?お前ご飯食べたんか?」

    「大丈夫だよ。ご飯は車の中で少し食べた。」

    そう伝えると、私と祖父、母の3人になりました。

    自宅の家事は私がやるから心配しないで病院にいてほしいことを母に伝えました。

    しばらくして、祖母を連れて叔母も戻ってきました。
    「遅くなって悪かったんな。」
    と言われ、何もなかったことを伝えました。

    病室には祖母、叔母、母、祖父、私の5人が揃いました。祖父は目を開け、みんなを見ていたような気がしました。

    時計を見ると、夜の10時を過ぎていました。祖母と母、叔母の3人は、病院に簡易ベッドを用意してもらうことになりました。

    祖母が
    「明日も仕事なんだろ?もう帰りゃいいや。」
    と私に言いました。

    正直、離れたくない気持ちがありました。

    しかし、祖母、叔母、母の3人で過ごす時間を邪魔するのも悪いと思い、帰宅することにしました。

    最後の握手

    じゃあ爺ちゃん。悪いけど俺、明日も仕事だから帰るよ。絶対また来るから。また会おう!」

    そう話しながら手を握りました。すると祖父もしっかりと手を握り、笑顔を見せてくれました。

    今でも目に焼きついて離れない光景です。祖父の笑顔を、私は一生忘れないし、忘れてはいけないと思っています。

    祖母と叔母にも
    「悪いけど、あとはお願い。」
    と伝えました。

    そして母に
    「あとは全部役割託したよ。爺ちゃんから絶対離れないでいて。離れると後悔することになるかもしれないから。頼んだよ母さん。明日仕事終わりに行くから!」

    そう言いながら手を握りました。

    正直、母の顔がぼやけてよく見えませんでした。

    母には、しっかりお願いができたんだと、今になって思います。

    そして私は自宅へ戻り、明日のご飯を用意して眠りにつきました。スマホは、少し遠めに置いておきました。

    最後に

    今回は、祖父との最後の一日の様子を書きました。

    自宅へ帰ると、同居している祖母に
    「絶対に母さんに離れるなって言ってきたか?いなくなると逝っちゃうことが多いんだで。」
    と言われました。

    私は
    「ちゃんと言ったよ。母さんに全部託したから。」
    と伝えました。

    朝ごはんのために炊飯器をセットし、明日の仕事の用意をしました。そして父に、今晩何かあったらすぐに起こしてほしいと伝え、眠りにつきました。

    正直なところ、いつ何があってもおかしくないとは思っていました。それでも、経験上この夜は越せるのではないかとも感じていました。
    そして何より、まだ大丈夫だと、そう思っていたかったのかもしれません。

    ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

     
     

    たぬ

     
     
    社会福祉士/二児の父(34)いじめられた経験、引きこもりの友人との思い出、福祉の現場で感じたこと、子育て、そしてランサーエボリューションX 読んだあとに少しだけ心が軽くなる。 そんな記事を書いていけたら嬉しいです

    あなたへのおすすめ