見出し画像

🦉WiseOwlCafe_SS:秋、宿る

朝。

老紳士が、コーヒーを片手に、上機嫌だった。

老紳士『いやぁ、実はね。水彩画、始めたんだよ』
マスター『水彩画、ですか。それはまた』

老紳士『孫に勧められてね。恥ずかしながら、七十過ぎての手習いだよ』
マスター『いいですね。何を描かれるんですか』

老紳士『まだ、下手くそな花瓶さ。……でも、楽しいもんだね』

満足げに、コーヒーを、飲み干していく。

・・・

昼下がり。
小さな雑貨店を営む女性客が、珍しく、興奮気味に話していた。

女性客『うち、来月から、路線変えるの』
ナナ『路線、ですか?』

女性客『雑貨だけじゃなくて。ワークショップも、やろうと思って。
思い切って、店の半分、改装しちゃった』
ナナ『ええっ?!思い切りましたね! なんだか、眩しい』

女性客『不安もあるけどね!でも、やってみなきゃ、後悔しちゃうからさ、私は』

・・・

夕方。
若い男性客が、ジャージ姿で、汗を拭いていた。

男性客『最近、走り始めてさ』
エリオ『……』

男性客『三日坊主だと思ってたんだけどな。もう二週間、続いてる』
エリオ『……習慣化しはじめたか』

男性客『だろ? 次は、秋の大会にも出てみようかと』
エリオ『実践で練度を確かめる時期としちゃ、悪くねぇ判断だな』

満足げに、水を、飲み干していく。

・・・

閉店。

ナナ『夏も、終わりですね~。すっかり、涼しくなってきたなぁ』

ナナ『季節の変わり目だからかな? みなさん、何か新しいこと始めてるな、って。ほら、なんとかの秋、て言いますし!』

エリオ『……おまえは、食欲の秋だろ』
ナナ『む!』

マスター『あー。たしかに。なんだか新しく挑戦してるって、よく耳にするね』

ナナ『うちは、何か新しいこと、始めないんですか?』

エリオ『……店、変えたいのか』

ナナ『えっ?! い、いや! わたしは、ここのお店が好きだから!
そうじゃなくて……前に、マスター、経営、苦手だ、なんてお話も、してたから』

マスター『耳が痛い!』

マスターは、おどけながら、
椅子を、ひょいひょいと、上げていく。

ナナ『わたしは、その。経営についてお手伝いできることがないから』

ナナ『……ちゃんと、続けていけるのかな、って。わかんなくて。どう心配していいかも……わからなくて』

マスターの手が、少し、止まる。

マスター『そうだね』

マスター『……そんなに、歴史のある店でもないし。ちゃんとビジネス目線で見ればさ、
経営方針を変えて、やり直すことだって、できる。そういう選択肢もあるんだ』

マスター『僕も、最初は、軽い気持ちで始めたからさ。
そしたら。右も左もわからないまま、日々をこなすので、もう精一杯で!』

マスター『……で、気がついたら』

マスター『ナナがいて、エリオがいて。
いつも来てくれる、お客さんたちが、できてた』

マスター『なんというか』

マスター『ここで、こうして、みんなと会えることを、手放したくなくなっちゃったんだよね』
エリオ『……』

エリオ『店が維持できるようにするのが経営なんだろ。それが見えないところで、止まったままでいいのかよ』

マスター『……「止まってる」わけじゃないよ』

マスター『わからないなりに、学んで。考えて。試して。
それでも、うまくいく正解だけが…いつまでも、見えない。
……止まったままじゃ、ないんだ』

マスター『……「進みたいまま」、なんだよ』

ナナ『……』


尻尾が、ゆっくりと、揺れている。

エリオが勢いよく、がーっと。
テーブルを端によせた。

掃き掃除を、はじめる。

エリオ『……宿り木……なんだろ。Wise Owl Cafe』

マスター『……』

エリオ『……ならせいぜい、木が腐って落ちないように。……たのむわ』

マスター『……気負わず、やるさ』

ナナは、
二人の会話をそばで聴きながら。

黙って、
お店のロゴを見つめていた。

――――――――

🦉梟流(おうる)

👇ご一緒に一曲どうぞ




「秋ラノベ祭り」エントリー!


今回、タイミングを計ったように、
「わかモン」さんが「秋ラノベ祭り」なる企画を立ち上げておりました!
せっかくなので、
今日のお話で。。。エントリーしちゃうのです。



同じカフェ世界観のお話をマガジンにまとめました


いいなと思ったら応援しよう!