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極陽の印【第四話】

    第一話から読む
    https://note.com/wise_python8683/n/n29ff926cb7da

    第三話「浄化」

    「結衣ちゃんだっけ、送ってやれ」
    魔物が逃げた後、美凪はそう言って、俺の背中をぐいと押した。
    「変なことするなよ」
    「す……するわけないだろ!」
    姉の口の悪さは、こういう時にも遠慮がない。

    結衣は、魔物のことは覚えていないようだった。
    「ごめんね、急に気分悪くなっちゃって……。せっかくのお出かけだったのに」
    申し訳なさそうに、何度も謝る結衣。
    俺はその度に「気にしてないよ」と繰り返した。
    話題を変えようと色々話しながら歩いた。
    結衣は三姉妹の1番上らしい、今日はお母さんと妹達が家にいるのだとか、
    結衣を自宅前まで送り届けて手を振って分かれた。

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    結衣の自宅

    翌日、学校が終わった夕方。
    俺は美凪と一緒に、昨日と同じ、テーマパークのあの場所へと来ていた。
    平日のテーマパークは、休日とは別の顔を見せる。
    入場ゲートはまばらにしか人が並んでおらず、園内も閑散としていた。
    「このテーマパークが事故続きで閉園に追い込まれたのも、奴がここに居座っているからだろうな」美凪が言った。
    「どうやって奴を探す?」
    「パーク全体を、結界で包み込む」
    「……できるのか、そんなこと」
    美凪はニヤリと笑って見せた。
    美凪は右手を構え、静かに告げる。
    「いでよ、三の印」
    手のひらに、淡い金色の光輪が浮かび上がる。
    中心に輝く数字は――「参」(三)。
    「――三の印、三才結界」
    光輪が美凪の手を離れ、空中で三つに分かれる。
    分かれた光輪はそれぞれが文字の形を象りながら、ゆっくりと回転を始めた。
    「天」「地」「人」。
    三つの光が、その文字を描きながら大きく広がっていき、見えないドーム状の幕のように、テーマパーク全体をぐるりと包み込んでいく。

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    三才結界

    三才結界がテーマパーク全体を包み込んだ、その瞬間だった。
    「ぐぎぎぎぎゃあああああっ!!」
    血の底から湧き出るような呻き声が、園内に轟いた。
    昨日の魔物だ。
    おじさんのような姿をした影が、鬱蒼とした茂みの奥から現れる。
    だが今日はその輪郭が昨日とは違った。黒い瘴気と、百年近く膨らみ続けた憎悪の念が、まるで嵐のようにその周囲を取り巻いていた。
    「またお前らかーーっ!もう許さんぞ!」
    「正体を現したか」
    美凪が静かに言った。
    「魔物は、自身を生み出した人間の姿を真似ることがある。だが、その正体はおぞましい怪物だ」

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    正体を現す魔物

    おじさんの姿が、みるみる崩れていく。
    鳥のようなクチバシにはギザギザの歯が並び、爬虫類を思わせる鱗に覆われた体躯。
    異様に長く大きな両腕には、鉤爪がいくつも生えている。
    魔物は大きな腕を振り上げ、昨日と同じ、瘴気の渦による攻撃を繰り出そうとした。
    「正体を現したな」
    「ゆう!」
    美凪の声が飛ぶ。
    「壱(一)の印をやつにぶつけろ。奴の偶数を暴け!」

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    「一」という数字で何かを割っても、その数字そのものは変わらない。
    数学ではこれを「単位元(たんいげん)」と呼ぶ特別な性質だ。
    この「一で割っても変わらない」という性質を利用して、魔物の持つ偶数が何なのかを明らかにする。
    それが、俺たち九印師の戦いの基本だ。
    俺は右手を構えた。
    「壱の印――恒等律!」
    手のひらから放たれた光輪が、魔物の身体に打ち込まれる。
    魔物の表面に、ぼんやりと数字が浮かび上がった。
    「拾肆(十四)」
    「ゆう、よくやった!」
    美凪の目が、一瞬鋭く光る。
    「漆の印、七陽斬!」

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    漆の印・七陽斬

    美凪の手のひらに光輪が現れ、放たれた瞬間、光の中に「14÷7」という数式が浮かぶように直撃した。
    魔物が悲鳴を上げてよろめく。

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    よろめく魔物

    「陰数が一桁になった。奴より大きな陽数を打ち込めば、浄化できる」
    美凪はすでに次の光輪を構えていた。
    手のひらの中心で輝くのは、「玖(九)」の文字。
    「極陽の印――極光、陽炎」
    光の炎が魔物を包み込み、容赦なく燃え尽くしていく。
    魔物は断末魔の叫びを上げ、その輪郭を失いながら、静かに消えていった。

    辺りが静寂に戻った後、俺には、見えた。
    魔物が浄化される時、その魔物を生み出した憎悪の念が、記憶のように流れ込んでくることがある。

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    大正15年頃

    今からちょうど百年前。
    世はまさに大正ロマン――古い伝統と新しい西洋文化が混ざり合い、華やかに開花していた時代の片隅に。
    貧困から抜け出せない、一人の男性の姿があった。
    世を恨み、人を恨み、何もかもに取り残されたまま、その生涯を終えた男。
    もう彼はこの世には居ない。
    自身の憎悪の念だけが、百年の時を超えて残り続けていたことを、彼自身は知るよしもなかった。


    【次回、第五話へと続きます。】
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    本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは関係ありません。


     
     
    はじめまして。 映像化を夢見て本作『極陽九印師』を書いているnote初心者です。 もし読んでいただいて「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひシェアしていただけると嬉しいです。 本作品はpixivにも公開しています。 【挿し絵】 AI生成画像を使用しています。

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