まっすぐとは、丸いものなのか
昔、祖母にかぎ針編みを習った。
ばあちゃんは、ふわっと編む。
毛糸を持つ手も、かぎ針を動かす手も、とにかくやわらかい。
私もやってみた。
ギシっ、ギシっ。
ガシっ、ガシっ。
ものすごい力でかぎ針を握る。
編み物なのに、ほとんど格闘技。
編んでるうちに、手が痛む。
腕までガチガチ凝る。
そして、手汗。
毛糸に染み込む。
編み上がったものはカッチカチ。
握力と汗が詰まった物体でしかない…。
さらに問題があった。
私は、数をうまく数えられない。
かぎ針編みは、目を数えながら一列編んで、端までいったらひっくり返して、また編んでいく。
ところが私は、10を超えたあたりから、怪しくなる。
11……?
12……?
あれ。
わからん。
できあがったものは、目の数が多かったり少なかったり。
あっちが膨らみ、こっちがへこみ。
ボッコボコ。
そして、カッチカチ。
ばあちゃんの、ふわっとしたものとは似ても似つかない。
ただ、同じ作業をずっと繰り返して編んでいくことは、嫌いではない。
当時、祖母も母も、私の変な作品を決してけなさなかった。
カッチカチに編み上がったマフラーを見ても、母は苦笑いしながら、ボッコボコの端を修正してくれた。
たぶん私は、あの頃から知っていた。
一生懸命やることは、悪いことじゃない。
上手にできなくても、思ったような形にならなくても、頑張ったことまで否定されるわけじゃない。
だから、その後も私は、いろんなことを一生懸命やってきた。
ただ、どうも少しだけ、ほかの人とは方向がズレる。
なぜなのかは、よくわからない。
まぁいっか、楽しければ。
と、今は諦めて生きている。
そして最近。
ときどき、夜な夜な編み物をはじめた。
昔とは違う。
手に変な力は入らない。
「ゆるく編まなきゃ。」
これがわかるようになっていた。
ただ。
数えることは、やはりできない。
数えるのやーめた。
なんとなく編んで、 「まあ、このへんかな」 という雰囲気で折り返す。
もちろん、長い時間をまとめて取れるわけではない。
夜、少し時間ができたら編む。
また別の日に少し編む。
細切れの時間で、ちょっとずつ編む。
そんなある日。
なんと、折り返すのをずーっと忘れていた。
丸く、丸く編み続けていたんだ。
もう、何の形なのかも、何になるのかもわからない。
……まぁ、いっか。
おそらく完成したら、チワワの敷物になる。
ばあちゃんを思い出しながら編んだ奇妙なものの行き先が、ワンコの敷物。
チワワたちが、しらーっとこちらを見る。
「それ、いらないんだけど。」
そんな顔。
……気づかないことにしとこう。
編み物をしながら、創作中のファンタジー作品を考えていた。
世界は。
魔法は。
どんな武器か。
ふと、思いついた。
「毛糸の剣士」
かぎ針型の武器を手にした剣士。
勇敢に、敵に突進。
一閃。
赤い毛糸が宙を走る。
敵の腕を絡め取る。
もう一閃。
脚を封じる。
さらに一閃。
胴体をぐるぐると編み込んでいく。
敵は動けない。
逃げられない。
最後の一針。
カチッ。
――封印完了。
そして、三人の毛糸の剣士が並ぶ。
赤!
「紅蓮の毛糸!」
青!
「蒼天の編み目!」
黄!
「黄金の一針!」
三人そろって、
「我ら、毛糸戦隊ウールレンジャー!!」
え。
戦隊モノ?
……もう、何になるんか、さっぱりわからん。
