【DAY248】ワインと睡眠の関係|メラトニンとポリフェノール、期待と現実(後編)
昨日はアルコールと睡眠の関係を、最近のエビデンスで整理しました。
今日はその続きとして、ワインに特有の視点から掘り下げてみます。
今日も固い話題なので、読み飛ばしてもらっても大丈夫です!
では!そして、いつもと違う投稿時間ですみません
「赤ワインにはメラトニンが含まれているから、むしろ睡眠に良いのでは?」
「ポリフェノールやレスベラトロールは体に良いと聞いたが、睡眠にも効くのでは?」
こういった話を聞いたことがある方は多いと思います。今日はこの問いに、複数の資料をもとにまとめてみたいと思います。
ワインが他のアルコールと少し違う理由
ワインは他のアルコール飲料と比べて、摂取される場面が特殊です。
ビールや蒸留酒と異なり、ワインは夕食と一緒に飲まれることが多い。つまり就寝に比較的近い時間帯にエタノールを摂取することになります。
Chaput(2026年、Nutrients誌、DOI: 10.3390/nu18040585)はこの点を「ワインが睡眠研究において特別な検討を要する理由」のひとつとして提示しています。夕食時の摂取という習慣が、睡眠への影響を高める可能性があると…まぁ他のアルコールも一緒じゃん?とは思いますが(笑)
また同論文は「ワインが健康的な飲み物として認識されているため、リスク認識が低くなりやすい」という点も指摘しています。
これはなんかありそうですね。
ワインにはメラトニンが含まれている、は本当か
本当です。ただし「だから睡眠に良い」とはなりません。
Marhuenda et al.(2021年、Molecules誌、DOI: 10.3390/molecules26020343)のレビューによると、ワインや発酵飲料に含まれるメラトニン濃度はピコグラム〜ng/mLの範囲とされています。
しかしここに大きな問題があります。
睡眠や概日リズムへの影響が臨床試験で示されているメラトニンの投与量は0.5〜5mg(500,000〜5,000,000 ng)です。ワイン1杯(150mL)に含まれるメラトニン量はこれより桁違いに少ない。
まぁ、意味のある量とは到底思えませんよね。
この問いを直接検証した無作為化プラセボ対照試験が存在します。
Varoni et al.(2018年、Molecules誌、DOI: 10.3390/molecules23102474)は、12名の健康成人に「メラトニン強化赤ワイン(MLT+)」または「メラトニンを含まない同一赤ワイン(プラセボ)」125mLを投与し、血清・唾液中のメラトニン濃度を測定しました。
MLT+ワインを飲んだ群では、血清メラトニンの生理的な低下がプラセボより有意に遅くなり、30〜60分で定常状態になったというものです。
ただしこの試験で使用されたのは、通常の赤ワインに人工的にメラトニンを追加した「特別強化ワイン」です。市販の通常ワインに含まれるメラトニン濃度(ピコグラム〜ng/mL)は、この試験で使用された強化量より大幅に少なく、睡眠や概日リズムへの影響が示されている臨床投与量(0.5〜5mg)とは桁違いに離れています。
つまり通常のワインを飲むことで睡眠に有益なメラトニン効果が得られるという証拠は現時点では存在しないというのが、Chaput(2026年)の結論です。
さらに2025年に発表されたワインのメラトニン含有量に関するシステマティックレビュー・メタアナリシス(MDPI Applied Sciences誌)では、ワインのメラトニン測定値は分析方法や発酵条件によりばらつきが非常に大きく、現時点での一貫した結論は出せないとしています。
ま、この辺りは、よく研究したよね、という感想以上のものはないのですが、どの分野でも研究されている方には頭が下がるおもいです。
ではポリフェノール・レスベラトロールはどうか
赤ワインに豊富に含まれるポリフェノール(レスベラトロール、ケルセチン、カテキンなど)は、抗酸化・抗炎症作用が様々な研究で示されています。
睡眠との関連については、ケルセチンやレスベラトロールなどのポリフェノールがGABA受容体を介した鎮静・抗不安作用を持つ可能性が、動物実験やin silico試験で報告されています(Islam et al., 2022、Molecules誌、DOI: 10.3390/molecules27217149;Zhu et al., 2025、Mediators of Inflammation誌、DOI: 10.1155/mi/4954030)。
ただしこれらは主に動物実験・試験管内実験レベルの知見です。ワインから摂取した量で同様の効果が出るかどうかについては現時点でヒトを対象とした高質なRCTは存在せず、イタリア人1,572名を対象とした観察研究でも「ポリフェノール豊富な飲料と睡眠の質に有意な関連は見られなかった」という結果が報告されています(Godos et al., 2023、Nutrients誌)。
Chaput(2026年)も「ワインのポリフェノールが睡眠アウトカムを改善するというエビデンスは現時点では存在しない」と明記しています。
これも体感的には分かる感じですね。もし可能性があっても、ワインをどれだけの量飲ませるんだ!みたいな話になり、結果健康にわるいじゃん、とかなりそうです(笑)
「ワインは睡眠に良い」という通説はどこから来たのか
この通説にはいくつかの背景があります。
ひとつは「地中海食と健康」という文脈です。地中海食(野菜・魚・オリーブオイル・適度なワインを中心とした食事)が全体的な健康や睡眠の質と関連するという観察研究はあります。この論文が出たとき、結構衝撃的だったのですが、その後いろいろ分析されましたね。
Rożańska(2024年、Nutrients誌、DOI: 10.3390/nu16234191)のナラティブレビューでは「観察研究では地中海食と睡眠の正の関連が示唆されているが、RCTがなく因果関係の確立には不十分」と明記されています。つまりこれはワインの単独効果ではなく、食事パターン全体の効果として解釈すべきです。
もうひとつはアルコールの初期の鎮静作用です。入眠が早まる感覚は本物ですが、昨日の記事でお伝えした通り、その後の睡眠の質が低下します。「飲んだらよく眠れた」という主観的な感覚が、客観的な測定と一致しないことは繰り返し確認されています。
結論:エタノールの影響が非エタノール成分を上回る
Chaput(2026年)の結論を引用します。
「ワインのエタノールが睡眠に与える悪影響は、メラトニンやポリフェノールといった非エタノール成分の理論的な利点をはるかに上回る。ワインを含むアルコールは睡眠補助剤とみなすべきではない」
これが現時点での、複数の一次資料から導かれる最もエビデンスに基づいた結論です。
はい、体感的にわかっていたことですよね、でも、実際にデータが出るとなるほどなとなる感じですよね
ということで、ワイン好きとして、どう付き合うか
ここまで読んで「じゃあワインを飲むな、ということか」と思った方もいるかもしれません。
そうではありません。
エビデンスは「アルコールは睡眠の質を下げるリスクがある」と示しています。それを知った上で、量とタイミングを意識して飲むことが現実的なハームリダクションです。
就寝の3〜4時間前までに飲み終える(生理的閾値ではなくハームリダクションの指針)、飲む量を少量にとどめる、毎晩の習慣にしない。
「ワインは人生を豊かにする飲み物」という前提は変わりません。ただしそれは睡眠の補助剤としてではなく、食事・会話・文化として楽しむものとして、という意味においてだぞ!と思っていただければ🍷
最近はやりの睡眠の側面からワイン(アルコール)を記事にしてみました。
まとめ
🍷ワインは夕食時に飲まれることが多く、就寝に近い時間帯のエタノール摂取になりやすい
🍷ワインのメラトニン含有量(ピコグラム〜ng/mL)は、臨床効果が示される投与量(0.5〜5mg)より桁違いに少ない
🍷メラトニン強化ワインの唯一のRCT(Varoni et al., 2018)では、特別強化ワインで血清メラトニンの低下が有意に遅延したが、通常のワインで同様の効果が得られる根拠にはならない
🍷ポリフェノールのGABA受容体を介した作用は動物実験で示唆されているが、ワイン摂取量でのヒトへの睡眠改善効果を示すRCTは現時点では存在しない(Godos et al., 2023;Islam et al., 2022;Zhu et al., 2025)
🍷地中海食と睡眠の正の関連は観察研究で示唆されているが、RCTがなく因果関係は未確立。ワイン単独の効果として解釈すべきではない(Różańska, 2024)
🍷エタノールの睡眠への悪影響は、ワインの非エタノール成分の理論的利点を上回るとされている(Chaput, 2026)
🍷ワインは睡眠補助剤ではなく、量とタイミングを意識して楽しむ飲み物として付き合うことが現実的
