『異世界へきた.(どっと)Destiny』
【あらすじ】
帰宅中のバス乗車中に、謎の事故に遭ったシェリー。
目覚めた世界は、かつて人気を誇ったオシャレ系アバターSNS『.(どっと)Destiny』の世界だった。
オシャレが大好きなシェリーにはお金も、着る物もない。
初期服でもなんでも、オシャレすればいいのよ!
服に始まり、恋と愛に辿り着く、運命と選択の人生に導かれる。
【1】『布の服』
シェリーは、町行く人の服をキョロキョロ見ていた。
「(ボソボソ)ねえ、服ってこーゆーのしかないの?」
「こーゆーのしか、だって?
この町はこういう服を作ってる町なんだぜ?」
「(ボソボソ)えっ!この5種類5色しかない服
『だけ』をつくってるの?どうして?!」
「どうして、って、
ここが『始まりの町』フロールだからだろ?」
始まりの町?フロール?なんだっけそれ…。
「ともかく、お前の服はオレのチケットで交換してやるよ、女の子に布の服じゃかわいそうだもんな。」
やっぱり…『布の服』。チケットで交換…ですって?
「(ボソボソ)そのチケットって何なの?なんでアナタがそれを持っているの?」
「…そこからか。
このフロールの町の住人になったら、最初だけ無料で何枚かのチケットを貰えるんだ。
服だとこのチケット。
ほかに靴と、上着と、小物・アクセサリーのチケットかな。
オレは男だし、自分で買ったのがあるから…ほら、お前の好きな服を選べよ。このワンピースなんか似合いそうだよ」
「ダッs…」
「ん?どうしたの?試着もできるよ?」
「自分で買った服…って言った?どこで買ったの?」
「どこって、ほかの町でだよ。お金はここの服を作った給料でしょ。お前、お金持ってるの?なら、連れて行ってあげるけど?」
「(ボソボソ)お金?どんなの?
…持ってない。
服って、いくらくらい?お金なくても、見ることはできる?」
「すげー早口。声ちいさいのに面白れー。
うわ、怒るなよ。」
「オレの持ってる服は隣町のやつが多いかな…。相場は、平均で50D(ディー)位だけど、オレは気に入った服を大切に着るから80D位のかな。こう見えてこだわりが…
って聞けよ!
なに?連れてけって?
いやいや、そんな格好でほかの町行く奴なんていないし…。布の服とか。
だからさ、このワンピ…」
「(ボソッ)服を買いに行く服がない…!!」
「ふは!あはははは!それ、おっかしい!
お前、やっぱり面白れー…いた!いたい!拳は…よせ!なんだ、もう?!」
シェリーはぷるぷる布の服を掴んで震えている。
「お前…泣いてるの…?なんで…?
オレ…なんか悪いこと…?おい泣かないでくれよ…」
「お給料日だったのに!!!!!!」
「?!」
「オシャレな服と、可愛い靴が、届く…
はずだったのに!!!!…うっ、うっ、うわあーーーーーーん!!」
フロールの町のチケット交換服店の前で号泣する布の服の女の子、と背の高い青年。
どういう状況?チカン?人攫い?ポリス呼ぶ?となる周囲に青くなるソル。
「おいー、泣き止んでくれ…。
オレのほかのチケット使ってもいいから…。」
ぴた。
「ぜんぶ?」
「えっ?全部??…いや、もう…いいよ!
いいから…げんきだしてくれよ。」
「(ボソボソ!)見せて!お店の中、ぜんぶ!」
【2】異世界にきた『.distiny』
シェリーはソルの家に帰ってきてからずっと考えてた。
ここ…『.distiny(ドット・ディスティニー)』の世界じゃない?数年前に惜しまれつつサービス終了したオシャレ系アバターのSNS。
わたしは古参メンバーで、ほとんどのイベントに参加して、記念服やイベントで作成したアイテムとかも全部持ってた。
異世界転生?でも転生だと死んでるよね?
最後の記憶は、帰宅途中のバスが夕暮れの橋の上で一回転して…視界が真っ黒になって…。
事故なのかな…。元の世界でわたしが生きてるか死んでるか確認できたらな…。
それにしても…。『布の服』???
このワタシがそんな初期服以前の服を着る羽目になるなんて。
ドレスだって、スーツだって、何でも持っていたのに…!!!
あの後、チケット交換服店をすべてチェックして、ワンピース白、黒、水色、ツナギピンク、白、ジャケット白、黒、ピンク、パーカー水色、黒、ストラップ靴白、黒、赤、スニーカー白、ブーツ黒、ネクタイ、リボンタイ、チョーカー、ネックレス、スカーフ、飾りヘアピン、ベッドドレス、ポシェット白、黒、などなど。
全部使い切らないように少しずつ残して置いた。あとで追加したくなるだろうから。
(返したりしないのだ)
お洋服をまったく持たない女の子なんて可哀想すぎるもん。男の子は譲って然るべき。
わたしが可愛くなってあげれば喜ぶでしょ?
「シェリーちゃん、ごはんよー」
「はーいっ!」
マダム・マーレが夕食を並べてくれている。
「ありがとうございます、マダム・マーレ」
「どういたしまして、シェリーちゃん。
おばあちゃんって呼んでもいいからね。」
「えー、おばあちゃんって風に見えないですよー。ぜんぜん若いし綺麗なんだもん。」
「あら。やーねぇ、お上手ねー。
シェリーちゃん、体の具合はどう?」
「こちらのお宅でゆっくりさせて頂いたら落ち着きました。…それで、何か聞けましたか?」
『シェリー』は、.distinyでのニックネームだ。創作物や、イベントの時などもその名で参加することも多く、呼ばれ慣れている。
シェリーは、現実世界からバスの事故でこの世界に紛れ込んだのでは?と考えている。
彼女が倒れていた場所周辺で、それを目撃した人はいないか、いればその時の状況を聞き取りたいと、マダム・マーレに噂話などを拾って貰いたいとお願いしたのだった。
「ただいまー」
ソルの声だ。
「ただいま、おばあちゃん。
ただいま、シェリー。
シェリーのいた泉の周りに行って見たけど、何もなくて目撃者もいなかった。落とし物の届けもなかったよ。」
「おかえり、ソル。お疲れ様。
ごはん出来たから着替えておいで。一緒に食べよう。」
「おかえり、ソル。見てきてくれてありがとう。」
普段はボソボソと話すシェリーが、マダム・マーレとソルには、がんばってちゃんと話そうとしている。
ソルはおばあちゃんをちらと見た。
おばあちゃんは頷く。
ソルは目を細め、シェリーの頭にそっと手を置いた。
「どういたしまして。シェリーは元気そうでよかった。また、一緒に行って見てみような。」
ソルは自分の部屋へ向かう。
「あたしも買い物の行き帰りに聞いてみたんだけど…。泉の話題もないし、変わった服の女の子のことはまだ、知っている人には会わなかったわ。」
「ありがとう、マダム・マーレ。聞いてくださっただけで嬉しいです。…。」
シェリーは下を向いて黙ってしまった。
ここは、マダム・マーレの家だ。
.Destinyにはマイハウスはあったが、フレンド同士でなくては立ち入れなかった。
家族機能はなかった。
ソルはマダム・マーレの孫で、倒れていたシェリーを見つけ、ここに連れてきてくれた。
マダム・マーレは、見知らぬ行き倒れのボロボロの服の女の子を、すぐに家に受け入れてくれたのだ。
「おまたせ。ごはん食べよう。」
マダム・マーレのクリームシチュー。
ソルが買ってきたパン。
…しあわせだ。シェリーは思った。
もとの世界では、家族と折り合いが悪く、親族との縁も薄かった。ここにもう少し居られたら、と思った。でも。
「結局、シェリーちゃんの髪の色は変えられなかったのね?」
「うん。チケットは有効だったのにね。目の色も変えられなかったよな?」
そうなのだ。オシャレ系SNS『.Destiny』の世界なのに、住民はみんな髪型髪色、顔色目の色まで変更できる…はずなのに。
「髪型は変えられるので…良しとします。」
ぎこちなく笑って応えた。
マダム・マーレは豊かな青系の髪。ソルは青みかかった黒の髪。
わたしはピンクか金髪に変更したかった。
髪型髪色変更チケットは、黒髪のものしか反応しなかった。リアルの色は動かせないのか。
「でも…」
ソルが口をひらいた。
「オレは黒い髪が好きだから、いいと思うよ。」
シェリーは目をみひらいた。
マダム・マーレが引き取って続けた。
「色白だから黒髪も、お洋服もよく似合うわね。
ねえ。この町でお仕事をしてみるのはどう?
わたしも若い頃は洋服を作っていたわ。
あなたさえ良ければ、この家から通ってくれてもいいわ。
お金を貯めて、この国のことを知って、慣れるの。」
シェリーは震えながら頷いた。
「元いた場所に帰れるなら帰ってもいい。でも、帰り方がわからないまま、女の子がふらふらしているのは危ないのじゃないかしら。
この町のお洋服は、あなたには物足りないかも知れないけど、キチンとしたどこにでも行ける服だわ。」
シェリーは改めて自分に当てがわれた部屋のベッドの中で、マダム・マーレの言葉を何度も考えていた。
「ソル。後になってしまったけど…、シェリーちゃんがここに、一緒に暮らしてもいい?」
ソルは…。
「…いいよ。」
そう言って、胸が痛くなるくらい優しく微笑った。
シェリーはおろした髪をさらさら触りながら呟いた。
「わたしも…黒髪がすき。」
【3】色変更イベを逃すな!
シェリーは始まりの町フロールの洋服工場で働くことになった。
毎日着る服は、チケット交換服とアクセサリーで、ギリギリ可愛い、というレベルには達していた。
『初期服』と呼ばれるこの服を見て、くすくすと笑う者もいた。
シェリーは.Destinyの古参メンバーだったので、最初期にはそれらの服しかなかったことを知っていた。みんな工夫して、それぞれのこだわりを込めてオシャレしていたのだ。
「ふん。既成のコーディネートを上から下までそのまま着ることしか知らない若造め。初期服コーデと初期服を舐めるなよ。」
だが、やはり問題の一つは色だった。
服1モデルに付き、5色展開しかない。
これでは、色の流行の繊細さについて行かれず、野暮ったさが目立ってしまう。
人気色は他人と被りやすく、なんとなく制服のような感覚に陥りやすい。
「色だけでも自由に変えられたらな…。」
ある朝、仕事に向かう途中の広場でイベントの告知が展開されていた。
『花の町フロール、服の色を変更します』
何コレ!どのアイテムが染められるの?初期服は全部好きな色に染められるの?
参加要件は…花の種を購入して、その回数初期服を染められる。フロールの町の住人は無料で5枚染色チケット配布?
シェリーは仕事を始めるにあたり、.Destinyの登録をした。町役場に出かけて、手続きをしたのだ。(町役場は…運営なのかな?)
そこで改めて、服交換チケットを入手していた。染める服ならある。染色チケットは5枚…か。
考えごとをしてブツブツ呟きながら出勤した。
「うわ、またあいつブツブツ言ってる。」
「相変わらず初期服コーデだね〜。」
キャハハハと笑う声がするが、スルー。
【隠キャとは、スルーすると見つけたり。
シェリー】
自分の所属する作業エリアで今日の準備をしていた。
「ねー、色変更イベントまたきたよー?」
「変更できるって言っても初期服だけだからなぁ」
「色チケットいらなくない?」
「!!!」
しゅばっ!
シェリーは通常では考えられない速さで彼女たちに接近した。
「(ボソ)あの…」
「!!ひっ! あれ?」
「なによ?初期服ちゃん?」
「(ボソボソ)あ、はい、初期服すきです。おはようございます。
あのう…色チケットいらないんですか?ください。」
「何?すごい早口…ボソボソと。」
「え?色チケットほしいの?」
「(食い気味に)ハイ」
「え?あ?いいよー。」
「ほーらっ」
1人の女の子がチケットを空中に投げた。ひらひらと舞い床に散る。
しゅばっしゅばっ!
目にも止まらぬ速さでシェリーはチケットを5枚手にしていた。
「ハァ??」
「アハハ!面白ーい!アタシもあげる。ほーらっ」
しゅばばばっ!
「うっキモい。もう…ほらっ!」
ひら…ひら…折りからの風にチケットが乗り、入り口に立つ女の子の足元に落ちた。
「あの…これ」
「拾わないで!それ、この子が拾うんだから」
「え、そ、そんな。散っちゃってるから手伝うよ…。(モジモジ)」
鮮やかなピンクのセミロング。長身。そして猫背。
だが、シェリーは彼女から目が離せなかった。初期服だったからではない。一瞬、完璧に彼女がそれ(初期服)を着こなしているように見えたからだ。
「あの…これ…(モジモジ)」
ガッ!
「(ボソボソ!)ありがとう!あなたのお名前は?!」
「えっえっ??リ…リゼ…(モゴモゴ)」
「(ボソボソ!)ロゼ!素敵なお名前ね!」
リーンゴーン、リーンゴーン♪
「はっ」
しゅばばばっ!
「(ボソボソ)ありがとうございます」
「あっ?えっ?う、うん…」
しゅたっ!とシェリーは自分の作業スペースに戻っていた。
「おはよーございまーす!ちょーっとリゼさん、アナタまたもたもたして、さっさと持ち場につきなさい!」
「すっ、すみません(モゴモゴ)」
クスクスクスクス…。
リーンゴーン、リーンゴーン♪
「(ボソボソ!)お疲れ様です!
さっきはありがとうロゼさん!」
「あっ、あっ、ううん…いいの。リゼだよ。(モゴモゴ)」
「(ボソボソ!)色変更するの?わたしはするよ!」
「えっ?ううん…わたし、何着ても冴えないから…このままでいいんだ。」
カッ!!!
シェリーの背後に落雷があったかのような気象変化が起きた錯覚と、シェリーその人が鬼の面をつけたような印象をリゼに与えた。
「ロゼ…。人には言って良いことと悪いことがあるの…。」
シェリーはリゼの前に仁王立ちになった。
「うつくしい者はうつくしさを無駄に生きてはいけないのよ。」
「うつく…しい…?わたしが…?」
「貴女はうつくしいひと。それを無駄にすることは罪…!許されないことだわ!」
シェリーは近づいてリゼの手を握った。
「ロゼ…!わたしたちお友達になりましょう?
そうだ…!わたし貴女に差し上げたい物があるの。ついてきてくれる?」
「えっ?ええ…。」
呆然とするリゼの手を取ったシェリーは風のように打刻・退勤し(もちろんリゼも)、とある店に入った。
古着屋だった。シェリーは自分の着ていたジャケットをカウンターに置いた。
ジャケット(初期服)はしかしリボンとレースを縫い付けてあり、デザインはなかなか洒落ていた。
店主は手を振りかけたが…、何度か見直しシェリーに尋ねた。
「いくらなら売ってもいい?」
「貴方が付けてくださる値で…、と言いたいけど、1M(メドル)の定規を買いたいので、相当額あるとうれしいです。」
「ウチで買ってくかい?新品もあるけど。」
「ぜひお願いします。あの、贈り物なのでリボンを掛けて頂けますか?ありがとう!」
リボンだけ掛けて貰った1Mの定規を、シェリーは大切に両手で持った。
「お待たせ、ロゼ。あの…あちらの公園へ行かない?」
公園?と思ったが、リゼは頷いた。シェリーが何か、たいせつなことを胸に抱いていることを感じたのだ。
「こんな場所でごめんね。わたし…お金をぜんぜん持っていないの。カフェにも入れなくてごめんね。」
シェリーは定規を両手に持ったまま、リゼに向き直った。
「これを、貴女に受け取ってほしいの。」
リゼは…、図りかねた、シェリーの真意を。
お針子仲間としての…プレゼントなのか??
あの話の流れの後で???
リゼの戸惑いを察して、シェリーは続けた。
「ロゼ。靴紐を結ぶ格好をしてくれる?」
リゼは素直に従った。
夕陽はあかあかとふたりを照らし、影は濃く長くのびた。
傅く形になったリゼに、シェリーは恭しく1Mの定規を差し伸べた。
「ロゼ。今日わたしのお友達になってくださった貴女にお願いします。これから貴女はわたしと共に歩くとき…。」
シェリーは一度言葉を切った。鮮やかなピンク色の髪が風にそよぎ、明るい夕陽に染まってうつくしい。
「これから貴女はわたしと共に歩くとき、この定規を背中に差し入れていてほしいの。」
「???」
そのときのリゼの顔、見開かれた瞳。
女王が騎士を任命するように恭しく、しかし断固として、リゼの服の背中に新品の定規をすーーっと差し入れたのだ。
「???????」
「立ってください、ロゼ」
「は…い…。」
何かの魔力に憑かれたかのように…リゼは立つ。シェリーの側に。
シェリーの見上げる眼差しが、崇拝するように潤み、うっとりと告げた。
「ああ…。貴女はうつくしい。」
リゼは、その眼差しを見下ろし思った。
「きっとずっと…このひとには敵わないな。」
【4】服をつくろう〜♪♪
シェリーは始まりの町フロールの洋服工場で働くことになり、ピンク髪の長身の女の子リゼとお友達になった。
猫背、野暮ったい子と言われていたリゼだが、シェリーが授けた1Mの定規を背中に差し入れて歩く姿は見違えるようにうつくしくなっていった。
「服を作りたい。」
シェリーは言った。
「毎日作ってるよ。」
リゼは微笑んで応えた。
「もっとうんとオシャレな服を作りたい〜!」
シェリーは足をバタバタさせている。
可愛いなとリゼは微笑みを深くした。
「型紙は作れるの?」
「つくれない。お金もないから布を買えないの。でも〜!色を変更する方法も解ったし、もうお給料日待てないよ〜!すぐやりたい〜!」
バタバタバタ。
「この定規を売ってくれたお店で…相談してみたら?」
リゼはふと、思いついて提案した。
ぴた。シェリーは一瞬迷ったが、即断した。
「リゼ。それ良いかも。」
二人は先日お世話になった古着屋に訪れた。
「ふーん…手間はかかるけど、やってみるかい?」
店主が提案してくれた。
先日の初期服のリメイク品はなかなか良かったので、いくつか作ってきて良くても悪くても3着いくらかで買い取ってくれると言うのだ。
アレンジ用のリボンなどは、もう持っていないのだと言うと、売れ残りの古着の籠をぐいと押し出して、ここの物なら素材で使って良いぞ、と申し出てくれた。
「あの、初期服は…いまイベントで染められますよね?」
シェリーは店主の意図を掘り下げてみた。
「アレンジしたって初期服は初期服。じつは染められるんだよ。」
にやりと笑って答えてくれた。
脳内にカンペキに叩き込まれている初期服と小物とアクセサリーのリストと、素材の古着とを見つめ、シェリーがリメイクのプランニングに入った。
その様子をリゼは見つめ、何かが起こる予感にドキドキしていた。わたしも…。
「シェリーちゃん、わたしも手伝いたい!」
意を決して声が大きく出た。が、シェリーは微笑んで、いや、ニヤ、と笑って「いーよ」と言った。
初期服チケットは限られている。それに、3着にならないと買い取って貰えない。
あとは、先に染めてからアレンジするか、アレンジして丸ごと染めるかで、違うものになるのだ。
シェリーとリゼは、最初、3着のワンピースを白をほんのり染めたピンク、薄い空色、濃紺に染めて、それぞれレースやリボンを縫い付けて売り込んだ。どれも初期服にはない色合いだからだ。
次に、ジャケットとワンピースをセットにして、3組売り込んだ。焦げ茶、ボルドー、薄抹茶と白ジャケットだ。これで6着だった。
平日5日の仕事を終えてから、2人は今日の作業の予定を話しながら移動したり、マダム・マーレの計らいでシェリーの部屋で作業したりした。
リゼは夕食をご馳走になり、恐縮していたが、マダムは「完成したお洋服を2人が着て見せてくれたら、いつ来てくれてもいいし、泊まって行ってもいいわ」と言ってくれた。
シェリーは目を輝かせ、マダムと共にリゼを着せ替え人形にしたが、反撃をくらっていつもシェリーも着る羽目になるのだった。
ソルが帰宅すると女性陣が盛り上がっているので、押されて小さくなってしまう。が、彼は、シェリーがたのしそうに大きな声で意見を言い合ったり新しい服を見せにきてくれるのが嬉しかった。
ふと、彼は思い出した。
「役場の人が以前、金持ちの連中は初期服のチケットを誰か欲しい人に渡してくれと、置いていくことがあると言っていたな。」
そうだ、ここは『始まりの町』。
やってくる人は様々で、最初の服さえ手に入れたら後は他の街へサッサと行ってしまうこともあるのだ。
キラーン☆
シェリーとリゼとマダムは目を光らせたのだった。
古着屋の店主は、
「そろそろ型紙だな。それに布地の選び方も。まっすぐ布地屋に行ってもいいが…。」
そこで一度切って、シェリーとリゼを見た。
「俺の知り合いに腕の良い仕立て屋がいる。
話をつけてあるから、興味があるならそこに寄ってから行け。なーに、色々手伝わされるかも知れないが…。良い服はどこが違うのか、魅せてくれると思うぜ。」
シェリーとリゼは、仕事の後、古着屋店主のくれたメモを頼りに仕立て屋の戸を叩いた。
若いロングドレスの女性が出てきた。
「こんにちは。はじめまして。マダム・ジェリーでしょうか。わたしたちは…」
若い女性は笑顔で、マダムはこちらよと案内してくれた。
暗い廊下を進みながら、
物凄い活気というか気合いのようなものが空気を伝ってくるのを感じた。
「ここよ。」
2人はドアを開けた。
フロールの町は大きくはないが、町全体が服飾系の工場や会社、商店である。それら施設を盛り立て支える形で、食品、飲食、公共サービスなどが展開されている。
フロールの町の住人ということは、ほとんどが『フロールの服』の関係者ということになる。
だが…『フロールの服』は「ちょっぴりダサい残念な服」を意味されることもあり、いつも住人たちの心をちくりと刺すポイントなのだった。
長年、フロールの服に関わってきた年長者たちは、それでも『フロールの服を知らずに大人になった者はいない』のだから、と密かに誇りを抱いている。
フロールの町役場で、女の子が2人、服をめっちゃくちゃ沢山作っていて、色変更イベント用の染め桶を毎日のように使ってくれている、と噂になっていた。
最近はマダム・ジェリーの仕立て屋に入り浸っているらしいが、実はその前に古着屋の店主がかなり仕込んでいたらしい。
「その店主が彼女たちから初期服を買ったらしいんですよ。」
『ええ???』
その場にいたほとんどが止まった。
「リメイクしたり、染め直しをしたみたいですけど…売り物として仕入れた、ということですよね。」
マダム・ジェリーの仕立て屋に行くようになって、シェリーたちは帰る時間が遅くなり過ぎて、ソルに迎えに来て貰ったり、送って貰うことが増えた。
マダム・マーレは遂にリゼに申し入れた。
「ねえ。2人が熱心なのは知っているわ。でも、リゼはウチで食事して、またご自宅に帰っているじゃない。こんなの体を壊してしまうわ。
あなたさえイヤでなければ、ウチに下宿する、というのはどう?」
リゼは…断れなかった。
マダムの家から毎夜ソルが送ってくれているが、彼の疲れが少しずつ滲んできているのを、やさしいリゼは無視できないのだった。
「シェリー。リゼ。あなたたちには家賃を払って貰うわ。と言っても本当に食費程度で良いのだけど。変な気兼ねをされるより、お腹いっぱい食べてほしいし、お弁当を持って行ってほしいのよ。」
マダム・マーレは、彼女たちが仕事のあと、ほとんど何も食べずに仕立て屋に行き、そのまま帰宅まで何も口にしていない事を、よく思っていなかった。
お弁当とは夕方の軽食のことだった。
「もちろん、夜はウチで食べてもいい…けど、2人とも本当はすぐお風呂に入って寝たいでしょう?」
2人はもう、こくこくと頷くことしかできない。マダム・マーレは2人のお母さんも同然だった。
いよいよ、シェリーとリゼは2人の服を作ることにした。染めのコツはかなり掴んだ。
ただ、初期服染め桶は初期服しか染められず、それもまもなく使用可能期間を終了する。
「花の種を植えることだよね?」
リゼはシェリーに言った。
「うん、それも沢山ね。」
シェリーは途方もない事だと、すぐ、切り替えた。
「普通に必要な色の布地を買いましょ?」
と笑った。
久しぶりの何もない仕事帰り。
シェリーとリゼは、町役場に寄った。
シェリーの初期服チケットはすべてリメイク用に使用され、古着屋さんに買い上げて貰ってしまい、シェリーの服が足りない為、余った初期服チケットを求めて来たのだった。
フロールの町役場に2人が足を踏み入れると、ざわっバタバタ、と音がした。
「何か、あったのかな?」
「帰るか。」
「お待ちください。おふたりにお話がありまして…。」
「フロールの町、町長のカルタムです。」
【5】『花の町・フロール』になりたい
応接室に通され、お茶を頂いている2人。
「(ボソボソ)なるほど…。」
シェリーは伏目がちになって考えている。
リゼは…話の渦中にいることに耐えられず、お茶を…たのしむことに集中している。
町長からのお話はこうだ。
(1)垢抜けないイメージのフロールからオシャレなイメージの町になりたい
(2)古来の意味の『花の町』にするため、沢山の花を育てたい
(3)若い人たちに希望と誇りを持ってほしい
(4)花の色のお洋服のイメージブランドをつくりたい
(5)2人に広告塔になってほしい
シェリーは口をひらいた。
「…、…。…、…!」
「待ってください。」
町長に遮られた。
し、仕方ない。シェリーは通訳を呼んでくるようにお願いした。
シェリーは口をひらいた。
先程、突然呼び出され、シェリーの通訳をさせられているソル。
自分でもよく分からない状況で汗びっしょりだが、シェリーが限界みたいなので、最良の結果を手繰り寄せるべく奮闘していた。
知らない人の前では、シェリーはボソボソ話す女の子に戻ってしまうのは仕方ないことだった。
「(1)から(3)までは、町としての公共事業と言えますよね?」
カルタム町長は頷いた。
「(4)は公共事業にしたいとお考えですか?」
シェリーは(ソルは)ずばり訊いてみた。
「そこは、お話をさせて頂いてからと考えておりますね。」
今度はシェリーが頷いた。
「公共事業にしてしまうと、立ち上げ当初成功したとしても、ブランドのお洋服は数年の内に、初期服と同じポジションに戻ってしまうのではないかと…わたしには思えます…。」
シェリーはなるべく丁寧にゆっくり伝えてみた。
町長は軽く瞠目し、すぐにもとの穏やかな表情を取り戻した。
「では、シェリーさんには、何かお考えがおありでしょうか。」
「あくまで、わたしの希望ですが…。」
【6】『花の町フロール』と『花の騎士』
パレードがはじまった!
町は花で満ち、人々は笑顔で祝杯を上げ、花の色で染められたドレスとジャケットで着飾る男女。男性は胸に花のコサージュ、女性たちは髪にも花をふんだんに飾った。
陽気で上品な歌と音楽にあわせて、町役場前広場から少しずつ行進し、予定エリアでダンスをたのしむ。
先頭には鮮やかなピンクの髪の『花の騎士』が、花の色を重ねたマントをなびかせ、颯爽と歩いた。白を基調とした軍服調のスーツのジャケットには肩章と金モール。胸に、大きな花のコサージュを留めていた。背中…ではなく今日は腰に、細身の剣に偽装した1Mの定規を差した。
『花の騎士』と共に『花の乙女』たちが華やかに舞い、ミニブーケを見物の人々に渡しながら歩いた。黒髪の『花の乙女』もいた。
パレードの参加者は全員『フロールの町』の住人。若い女の子たちは大多数がお針子だ。衣装のほとんどを彼女たちが仕立てた。
パレード参加者の靴を、男性たちが用意した。
企画から今日まで約3ヶ月間、準備した。
『花の町・フロールのフェスタ』には、近隣都市の人々も多く訪れた。
普段、服飾関係者を支える飲食店をはじめとする各業種は、今日から観光の人々をも楽しませる為に、自慢の腕を奮い、自慢の品々をアピールする。
明日からは数週間、町を挙げての『花の町・フロールのフェスタ、キャンペーン』が開催される。
これは、町おこしだ。単なるお祭りで終わらせる気は、関係者一同、さらさらなかった。
【7】ダンス・パーティーの夜
パレードの後、夜はダンスパーティーがあり、こちらは、近隣都市の来賓はあるものの、フロールの町の人々の為の催しだ。
繰り返すが、フロールの町は、町全体が服飾系の工場や会社、商店であり、それら施設を盛り立て支える形で、食品、飲食、販売、公共サービスなどが展開されている。フロールの町の住人は、大多数が『フロールの服』の関係者なのだ。
それが、皆いつも通りに仕事をこなした上で、この大がかりな企画をやり遂げた。
参加者の関係者だけでなく、町の誰もが、町の誰かを支えて、今日まできたのだ。
だから、このパーティーは、ダンスに参加する者たちだけでなく、町の住人すべてに招待状が届き、誰もがここで飲み、食べ、歌い、話し、寛ぎ、たのしむ場として用意されたものなのだ。
マダム・マーレもおめかしして会場に現れた。男性にエスコートされている!
見たこともない赤い口紅で、艶やかで…誰?という感じである。
シェリーとリゼ、そして(シェリーの)通訳のソルの3人に向けてウインクしてみせた。
「あれは…おばあちゃんじゃないでしょー…。」
「あはは……。」
「キレー…。」
「シェリー。リゼ。あっちの目立たない場所に料理と飲み物を取ってくるから、少し食べておくといい。この後、たぶん最後まで食べられないぞ。」
ソルに促されてシェリーとリゼは移動した。
ソルがさりげなく、食べやすく、お腹にたまるものを選んで並べてくれた。
飲み物を運んでおいた2人はソルにも食べてほしいと頼んだ。
ソルは朝から彼女たちの保護者のように付き添い、給水させ、通訳し、ボディガードをしてくれたのだ。
「ありがとう。じゃあ少しだけ頂くね。」
ソルは嬉しそうに、少しだけ飲んで食べた。
彼女たちにも、素早く食事をさせ、口元を整えさせると短く言った。
「さあ、気合を入れて。君たちはここからが本当の舞台だろ?」
【8】2人の新進デザイナー
ダンスのことではなかった。
一般のお針子でしかない2人が、突然フロールの町から依頼を受け、服のデザインをし、イベントの全体を伴走し、町の代表として町の人々の前に立ったのだ。
また、2人が自分たちのブランドを創立する前に、町のブランドを手がけることになった。まずはこのブランドをどう運営するのか。
2人は今後、どう活動する予定なのか。
様々な人から、問われることになるだろう。
ソルは、通訳や付き添いではなく、彼女たちの家族として、先に、準備をさせておきたかった。
お金や名誉を得る可能性より、彼女たちが傷つけられることを避けたかった。
2人を守ってきたのは、マダム・マーレとソルだったからだ。
シェリーとリゼは一度見つめ合い、頷きあった。
次にソルを見つめて、3人は頷いた。
ソルの予想は正しかった。忙しいという意味で。
シェリーとリゼは、フロールの町の若い服飾関係者として、温かく迎えられた。
特にシェリーは、お針子になって4ヶ月足らずという、職人として赤ちゃん過ぎる経歴も相まって、『元気でよろしい。その調子で頑張ってね!』という激励が主だったのだ。
マイナスの予想については、仕立て屋のマダム・ジェリーがフロールの服飾ギルドのトップであることもあり、大きな波は立たなかった。
もう一つは…。
「あー、今日はお疲れ様!すっごく楽しかったね!パレードも服作りも!ちゃんと報酬も貰えたし、自分のドレスは好きにアレンジして良いし、可愛い靴も用意して貰えたし…。
ねえ!またこんなイベントやってよね!」
「参加費はかかったけど…。めちゃくちゃ勉強になったなぁ。ドレスもジャケットも、セミオーダーで請け負う時の、アレンジの選択肢とか、花の色染めの使い所とか。自分でブランド創る時のイメージが少し掴めたかも…。ありがとう。」
「ダンス習えたのが一番うれしかったよー。
この町ってそういうの今までなかったんだよ。歩き方とかも教えて貰えたしー。
ダンスチーム用の衣装とかも面白かった。
知り合いも増えたし。ありがとうね!
これから踊ってくるねー!」
若い職人たちも、貪欲に様々なことを吸収し、機会を無駄にはしなかったようだ。
それでも…。
3人がマダム・マーレの家に帰り、ドアに鍵をかけた途端…、安堵感で全員が床へ膝をつき、その場にへたり込んだ。
女子2人がメイクを落とさず寝ようとするので、1人ずつメイク落としで拭き取り、シャワーを浴びさせ部屋まで送り、目覚ましをセットさせた。
完全に残業だったが…。ソルは一人ダイニングの椅子に腰掛け、誇らしそうに微笑んだ。
予め用意して置いた夜食と一杯の果実酒を飲んで…満足して眠りについた。
【9】行き倒れ、拾っちゃった
シェリーがこの町に現れた日から約4ヶ月経った。
その日、オレは日課のジョギングで、少し足を伸ばして自然公園へ向かった。景色がとても美しくてもっと見たいと思ったからだ。
あいつは泉の横に倒れていた。駆け寄って肩に触れた時、まったく濡れていなかった。
服がボロボロだった。襲われたって感じではなく。泉を鏡とするなら、鏡の中から無理に引っこ抜かれて、引っかかって破れた、そんな感じ。
息はしてたけど、気絶してる?と思った。
あいつを見て、助けなきゃ、って背負って家まで走った。おばあちゃんの顔を見て、あれ、これって正しいよね?って初めて考えたんだった。
【10】ボーイ・ミーツ・ガール
黒髪で黒い瞳で、なんか小さい子みたいに見えるよな。
人 見知りで小さな声でしか話せなくて。そのくせ主張は強くて諦めなくて。
ボソボソ!って早口で話すから、誰にも聞き取って貰えない。
だからオレがそれを相手に伝えてあげるんだけど、それを通訳って言われた時なんか可笑しくってずっと思い出し笑いしちゃってたな。
あいつが目覚めてから、ずっと洋服の話をしているな。かなり変わった奴だ。
頑固だけど…すぐ泣くんだ。身勝手な奴だけど、困ってたり泣いてると何とかしてやりたいと思う。笑ってくれたらいいのにって思う。
…今回の(オレたちの)フロールの町とのコラボ、上手くいってよかった。あんなに頑張ったんだ、報われたらいいな、って思ったよな。
【11】男の子は女の子を支えたい
そう言えば、パレードやダンス練習の初期に、女子の大多数が足が痛くなりイベント開催が危ぶまれたけど、女の子たちは仕事のほかに衣装を山ほど縫ってるし、男チームで対応しようってなったのは良かったな。
女の子たちはヒール靴を譲らない、って確信があったからヒール丸ごとゴムの靴底を使った物にしたんだ。あれ走れるもんな。
リゼのブーツだけは、エア入りの厚底運動靴ブーツなんだよな、そう見えない仕様だけど。リゼは2人のブランドの看板モデルだって言うから、ずっと立たされそうだと思って、オレたちと同じ男用の靴の仕様にしたんだ。
男は、オレたちは、女の子たちが倒れたりした時、走ったり支えたり抱えたりラクにできなきゃ務まらない。だけど男だって、ダンスに慣れてる訳じゃないからさ。
皆すごく必死で、やっぱり、好きな子とイベントやりたかったんだよな。靴が原因なら、靴を何とかしてやるぜー、ってなるよな。
男チームでも慣れなくて足が痛い、って奴はいたしな。
【12】『フロール』だってやりますのよ
靴のことを最初におばあちゃんに相談したら、色々教えてくれて助かったな。
『フロール』は「初期服」だけでなく、「初期靴」の歴史も長くて、とても沢山の町の同業者と繋がりがあるのよ、ってね。
フロールの服飾ギルドにもお世話になったよな。
公共事業を請け負うなら、いろいろ決まりがあるから、一筋縄ではいかない。
だけど服飾ギルドで一手に引き受けて、ギルド内で話を通して、それから2人を指名で依頼してくれたから成立したんだよな。
古着屋の店主が、2人の修行先にマダム・ジェリーの仕立て屋を指定したのって…。
いやいや、大人の話にクチバシを突っ込むにはオレはまだ、ヒヨッコだ。
とりあえず感謝を忘れず、2人にも礼儀正しくするように伝えていこう、うん。
【13】フロールをクールな町に
パレードや踊りを…と言ってもこの町は、よく言えば堅実だけど、魅せるってことが得意じゃない。
だいたい、染めの為の花のことだって、オレたちが言わなかったら町の見える所に植えなかった、って言うんだから相当だよな。
花は野菜じゃないんだぜ。
とは言え染めの為に、大量に植えて、育ったら大量に収穫しないといけない。
だから大きめの花畑を町外れのエリアにぐるっと作った。管理の為の専門の会社を設立した。
花がそろそろ咲く頃になると、町中の花壇に移す。染めに良いタイミングで、収穫した所に、また咲きそうな花を植え替える。
参加者や、染め体験の為に買ってもらった花の種は、ちゃんと使われてる。
パレードや踊りの話に戻るけど、この町にはそんな習い事なんてオレの知る限り見たことない。
シェリーは、あいつは、町役場に予算を申請して、ダンスの指導のためのチームを招聘した。
町の住人で希望者は無料で参加できるグループレッスンを開催した。
これから町で花祭りが予定されてて、女子とダンスできるって時に、ダンス習わない奴いる?オレだって習ったぜ。これは町の行事なんだ。工場を引退したじいちゃんたちだって習ってたぜ。
ダンスが踊れるようになった男女は、ダンス用の服を誂えるだろ?それを、花祭り側で簡単に、比較的値段抑えめに注文を受付するんだよ。
それでもう、ダンスの先生たちの費用は賄えるんだって。
ダンスの練習してたら皆、身体が痛い〜って言うから、これも申請して、整体師を抱えてる企業を誘致して、整体の店を開いて貰った。町の住人は割引が使えるようにしてたら、儲かりすぎて祭りが終わる頃には店の数が増えてたよね。
兎も角、ダンスを始めた奴から、なんとなく小洒落て垢抜けていった。
だけど、別の問題が持ち上がったんだ。
【14】女の子に自由はないの?
クールに魅力的に変化していく女の子ってのは良いもんだ。
だけど、彼女たちが夜遅くまで1人で出歩いていたら…心配だよね。
夜遅くまで作業してたり、ダンスレッスンのあと、外食して帰ったりしていた女の子たちが、帰宅途中、誰かに後を付けられた、という話が頻発した。
明るい内に帰宅すれば良い?
彼女たちはアーティストやクリエイターなんだよ?創ることが生きる上で必要なのに、それで作業を断念するの?
これは、誰も納得出来なかった。
そこで、夜遅くなる女性の為に、男性有志で自警団を組織し、希望者は詰所に連絡して、帰り道に随伴して貰うことを可能にした。
でも、これは女性にとってこれは意外に気詰まりなことだったみたい。
女性にとって、自警団の面識のない男性に、自宅まで送られること…。それ自体が少し怖くて居心地の悪いかったんだね。
しかもプライバシーがなくなってしまう。
それで、フロールの町は思い切った方法を試すことにした。
【15】セキュリティしてますか?
フロールの町を防御柵で簡易に囲んで、夜間の出入りをすべてチェックすることにした。
町の住人はすべて、IDカードを携帯する。だから、夜間出入りする人で、フロールのIDがない人は詰所で身分証を見せてもらい、記録を残すのだ。
有志の自警団もIDがあるから、女性を送る時も記録をつけてから送るしくみにした。
送ってもらう女性も、相手が誰か確認してから依頼できるのも安心感があった。
これらはちゃんと効果があった。
さまざまに抑止力となったからだ。
また、自警団のメンバーと女性の間に絆が生まれることもあった。
そのような成果を残しつつ、『花の町フロールのフェスタ』は、事件らしい事件を迎えることなく無事、閉幕した。
数日後、シェリーとリゼとソル(オレ)は町役場に呼ばれた。
【16】女性の自立を守る町
フロールの町の町長・カルタム氏が出迎えてくれた。
応接室に招かれ、お茶を頂きながら、『花の町フロールのフェスタ』の成功を喜び、ねぎらわれた。
カルタム町長の、笑顔の片隅にある翳りにオレたち3人は気付いた。
彼は、状況を簡潔に伝えてきた。
・やはりいた不審者と放置ゴミ疑惑
・『はじまりの町』を安全にしたい
・防御柵を防壁にしたい
・自警団を廃止し警備会社設立へ
フロールの町の住人の半数であり、技術を持つ主要な職人でもある女性たちの自立が、「できれば守られると良い」「誰かの善意に縋り支えられて」という、基本的に他力本願で運任せ、という姿勢は誤りではないか。
「基本的に守る。」「その上で突破されても、守り抜く。」という信念に基づきたい、という町長はじめ、町役場の総意だと伝えてくれた。
また、来年のも同じ時期に祭りを開催したいこと、来年もメインプランニングとデザインはシェリーとリゼに可能ならお願いしたいという、有り難い申し出だった。
シェリーはセキュリティ強化には同意という態度だったが、一部釈然としない反応をしていた。
「先程見せて頂いた防壁建築予定ラインの地図を、もう一度見せて頂けますか?」
シェリーは、線が描き込まれた地図を注意深く見詰めていた。
彼女の視線を追い、凝視している地点に覚えがあった。シェリーが最初に現れた日に、倒れていた泉の含まれる、自然公園が除外されていた。つまり、工場が始まると、防壁に阻まれ泉に近づけなくなってしまうのだ。
沈黙してしまったシェリーに代わり、オレは口を開いた。
「この防壁ラインは決定なんですか?」
「いいえ。」
穏やかにゆっくり町長は返答した。
「これで町を守れるかどうかも含めて、一度御三方に確認しておきたかったのです。」
これは、フロールの町の未来にも関わることなので、未来を託すあなた方のような若い方たちに先に尋ねておきたかったのです。
「…、…。」
声が出ないシェリーの意思を、オレは丁重に町長に伝えた。
「数日、決定を待って頂くことはできるでしょうか。」
町長は頷いてくれた。
【17】リゼの想い
町役場からの帰り、オレたちは黙っていた。
先程からのシェリーの悲痛な様子と、オレの視線を敏感に感じていたリゼは、そっと距離を置くように何も、言わなかった。
いい子だな…。そして、ほんとうにシェリーを信頼し、愛しているのだろうなと感じた。
元々、口数がほとんどないリゼだったが、それ故、体の奥深くから強く深くシェリーを愛する想いがいつも、伝わってくるのだ。
「シェリー」
オレは名前を呼んで、低くリゼに経緯を話すかを確認した。
「…。……。」
シェリーは、今夜、自分からリゼに話す、と言った。
その夜、夕食のあと、2人は手早くシャワーを済ませ、シェリーの部屋で一緒に寝ると告げた。
おばあちゃんもオレも、2人の心に障らぬよう、頷き、おやすみと呟いた。
シェリーは、あのバスの(おそらく)転落事故のこと、元の世界の自分の生死は不明であること、あの泉が恐らく唯一の帰還ルートであることを、一つひとつ、ゆっくり、リゼに伝えた。
さざなみのような沈黙をちいさく破って、リゼは訊いた。
「帰りたいの…?」
シェリーはすこしぼんやりと何処かをみて、リゼのほうへ、
「わからない」
と、ほとんど囁く声で言った。目はみなかった。
リゼも、ほとんど消え入るような掠れた声で、
「明日のあさ…いちど家にかえるね…」
と言った。
そのままふたりは、声を立てることができなかった。
「ねぇ」
リゼが
「抱きしめてもいい?」
断固とした儚さで、ささやいた。
うん…と言ったかどうか…。
シェリーにもリゼにもわからなかった。
こちらへ向き合ったリゼがおおきな目を開いたまま、シェリーの魂を探すように深く、視た。
一瞬のあと、リゼはシェリーを素早く、やさしく抱きしめた。シェリーは、じぶんがいつリゼを抱きかえしたかわからなかった。
ふたりは、抱きしめあったまま、嗚咽さえ漏らさぬように互いの熱を、静かに感じた。
夜が薄く明けてから、リゼはそっと腕を解いて、布団を乱さぬよう出ていった。
自室でたいせつな家族たちに宛てて手紙を書き、ダイニングテーブルに置いて、外へ出ていった。
シェリーは、リゼの立てる音をひとつも逃さぬように聴いていた。
【18】泉につれて行って
マダム・マーレが朝食の支度に取りかかる音を合図に、シェリーは起きだして行った。
「おはようございます、マダム・マーレ」
「おはよう、シェリー。…リゼは。」
「一度家に帰ってくるって。」
「…そう。」
「お手伝いさせてほしい。」
「…いいわよ。」
ふたりは、それほど多くもない手順を、とても、丁寧に辿った。
ソルがそっと現れて、ふたりを少し見ていた。
「おはよう。」
「おはよう。」
「おはよう、おばあちゃん。」
「おはよう、シェリー。」
3人はゆっくりいつもの朝ごはんを食べ、一緒に片付けをした。
仕事へ行く支度ではない2人を見てマダムは何でもないように訊いた。
「今日は3人とも家の都合でお休みするって言っておこうか?」
シェリーは、喉が詰まって、マダムに抱きついた。
マダムは少し泣いてしまいながら、
「ああ、あなた達はいい子だよ。いい子だねぇ。」
もうひとりの娘の分も愛おしく抱いた。
マダム・マーレが工場へ3人分の欠勤連絡に向かってくれた。
シェリーはソルに、
「泉につれて行って。」
と言った。
ソルは、納屋から自転車を出して、タイヤ、サドル、ブレーキを点検し、全体を丁寧に拭いた。
ひとりでなら走って行く距離だったが、シェリーの「お願い」だったので乗せて走ってみたくなった。
タイヤに空気を入れながら、初めてシェリーを連れてきた日を思い返した。
気づくと背負って走っていたな…。
べつに、抱えて走ったって構わない。そう思って、なにか照れて、空気入れをガシャガシャ鳴らした。
シェリーはソルのすきなワンピースを着て現れた。ボロボロになっていたあの服とはぜんぜん違うデザインだった。
「自転車に乗せてくれるの?」
「うん。」
「コイツで光の速さで駆け抜ければ、誰にもオレたちだってバレずに泉へ行けるかなって。」
あははは。
シェリーはいつものように、素直なまま、ソルをみて笑った。
ソルは、何かに気づきたくなくて自分のキャップをシェリーに渡した。
「それ被ってバレないようにして。」
シェリーとソルは、にい、と笑った。
シェリーを横乗りに座らせて、声を掛けた。
「しっかり掴まってて!」
ぐっと脚に力を込めた。
気持ちの良い日。
ソルの漕ぐ自転車は風のように走った。
みんなの通勤する広場を一瞬で駆け抜けた。
「ホントに光の速さだったね!」
「もう、声出すの早いよ!…ギュッてしてて!」
「……。 ぎゅーっ!」
一瞬、なにもかもどうでも良くなった。真っ白だ。
「そうだよ。ぎゅーっっ!!」
ソルは真っ白になって笑った。
【19】鏡からの光
着いてしまった。到着してしまった。
もっと…さぁ、ゆっくり漕げよ、オレ。
自然公園の敷地内、舗装のあるエリアまで勢いで流れて進んできた。
ふと我に返り、自転車を止めた。
「ここから押して行こう。」
「うん。」
シェリーは素直に言った。手でソルのキャップをモジモジ触っている。
ふふ。
なんだか、いい気分だった。
もっと早くこうすれば良かった。
「って、忙し過ぎるんだよな。」
「そうだよね。」
「わたし」
「次のフェスタはパーティだけでいいかな。」
「…パレードは参加しないの?」
「あれ、かなーり、しんどいよ?」
「あはは、抜けられないもんな。」
「そうだよー。責任者なんだもん。」
「先頭にいるもんなァ…。…。」
よみがえる記憶の中のシェリー。
『花の騎士』を盛り立てる『花の乙女』。
「…忙しくて、何も分からなかったけど、アレ、かなーり似合ってたな。」
「ほんと?」
「うん…。いやぁ、可愛かったなァ〜。」
「なんか他人事みたいに…。」
「いやだって、オレはキミたちのママだったよ?はい、お水飲んで。転ばないで、って。」
あ。と、変な笑いになる。
「あれやった。踊り子さんに手を触れないでって…」
ぶーっ!
シェリーが吹き出した。
「そ、それ、それ、違うよ、なんか…。」
あはははははは…。
まもなく泉だ。この先を曲がったら。
「ソル。」
「 」
「連れてって。」
泉が、木々に囲まれるように現れた。
すたすたすた。
「おおい!!」
ぴたっ。
「シェリーさんはァ、帰りたいんですかァ?」
「わからない。なんか怖くて…。」
「怖いのに寄ってっちゃうの?!」
「怖いから…。引っ張られちゃう…!」
「!! いくな!!」
泉に太陽が差し込んだように。
鏡が、光った。
「…ぁ。」
シェリーが泉のほとりに立つ。
一瞬で、残像を残してシェリーの体は水の上に浮いていた。
「!!」
掴んだ。
迷う暇は無い。
「ああッ!!」
「シェリー!!!」
「帰りたいのかよっ!!」
「帰りたくないよ!!!」
「帰ったって、なんにも、、なんにも無いんだッ!!!」
「じゃあなんで来たんだよ!!!」
「怖いから…。」
「呼ばれてるみたいで怖いから…そっちを見ちゃうんだよ…。」
「見たら…行かないと…。」
「見るな!ここにいろよ!」
「ソル!」
「オレをみろ!オレを!見てろ!!」
「…うん!」
「行くな!…行くなァ!!!」
「ソル!!」
「ここに、いろーッ!!!」
「うん! ここに…いる!!!」
轟音、風の渦、光。
ソルはシェリーを掴んで引っ張って…木と一緒に抱きしめた。
【20】つないだ手
光と風が収まると、ソルは、抱えて逃げるようにシェリーを泉から引き離した。
不思議なことは、自転車は地面に倒したまま、微動だにしておらず、ソルが取りに戻るとそのままカラカラと移動できた。
引き離したシェリーの元に戻ると、服が、また少し引き裂かれかけていた。
ソルは…、ぞっとしてシェリーの背に腕を回し、自転車と一緒にさらに距離を離した。
「ソル…。」
シェリーが頼りなく見上げてくる。
「フッ。」
ソルは変な笑いを浮かべておおきな上着を脱いだ。
「こんなこともあろうかと…オレはおおきな上着を着てきたのです!」
おお…!
シェリーは目をきらきらさせた。
「この上着を貸してあげます!」
「ソル!…ソル!」
シェリーはソルにとびついた。
「ソル!…ソル!」
ソルは…ふるえながら、上着ごとシェリーを抱きしめた。
【21】自然公園と泉を守りたい
シェリーを家に連れ帰って、温かい飲み物を飲ませ、温かいシチューを作った。
九死に一生を得たひとを迎え入れるのは温かい食事だと、おもった。
「シェリー、おいしい?」
「うん!うん…ソル、おいしい…。」
「よし…。よし…。」
ソルは、明日すぐに町役場に行って、防壁の位置を変更して貰うようお願いしに行こうと思った。
夜、シェリーをお風呂に入らせた後、おばあちゃんにも断って、シェリーの部屋のドアをノックした。
「シェリー、お話、いい?」
さっきの今かと、すこし驚いたが、シェリーは素直に従った。
シェリーの部屋のドアにもたれて、ソルは話し始めた。
「シェリー。あの泉を塞がないように、明日、お願いしに行こう。」
えっ、となった。
なんで、というシェリーの顔。
「シェリー。シェリーは確かにあの泉
を通ってきた。あれは本物だろ。もしさ、」
ソルは続けた。
「シェリーが戻らないと死…んじゃう…みたいなピンチがきた時にさ、もし、帰ることだけが生き残る方法だったらさ、オレは、オレはシェリーに生きてほしいとおもうんだよ。」
言っている事は分かる。という風情で聞いているシェリー。
だが一瞬あとに、ああ…と合点した。
「わかった。」
「わかってくれた?」
「うん。ソルと、わたしと、逆の立場ならわたしもそうした。それに…。」
「元の世界からくる時も、なんとなく…、そういうやってはいけない事の歪みから起こるチカラみたいに感じた気がする。」
やってはいけない事、か…。
ソルはシェリーの裂けかけたワンピースを思い出していた。
「……。」
「じゃあ、明日も仕事休んで行くから、ゆっくり眠っておいてね。」
そう言って、シェリーの頭を丁寧に、愛おしく撫でた。
【22】シンデレラになりたい
泉の出来事の3日後、シェリーはリゼと工場へ出勤した。
いつもは、モタモタするのはリゼ、怒られるのもリゼの方だったが…。
今日のシェリーは以前には考えられない位、洋服に集中できず、モタモタし、怒られていたが、それさえもまったく気づけない程のぼんやり振りで、主任にももう、呆れて放置されてしまった。
休憩時間、シェリーは作業台にもたれながら、ブツブツ独りごちていた。
「あ〜、あ〜、ダンスしたい〜♪」
「あ〜、あ〜、シンデレラになりたい〜♪」
以前シェリーたちを初期服ちゃんとからかっていた女の子たちも、『花の町・フロールのフェスタ』の成功からは一目置いてくれ、からかったり話したり普通にする関係となった。
「なにアレ〜?」
「あの洋服にしか興味ない女がどうしたの?」
「今日ほとんど作業進んでないよ?」
「わかった☆」
「シェリー、アンタ、好きな人がいるんでしょ?」
はい?すきなひと?
「すきなひとなんて〜、いますよ♪」
『??!』
「いっ、いるんだ?」
「ほら、アレだよ。いつも一緒にいる。」
「あー、アレかぁ…。」
「はぁ〜。」
「えっ??」
「ため息???」
「あの服女が???」
「ぴーん☆彡」
「シェリー、あんたさぁ。」
「ダンスしちゃいなよ♪」
「彼と踊っちゃいなよ♪」
「えっえっ、そんなこと、いいんですか〜??」
「あんた、花祭りで忙しくて、前回ダンスパーティーで踊れなかったんでしょ、彼と?」
「そ、そうなんですよ〜!皆んなたのしそうに踊ってたのに、わたしたちだけ…」
「そのさ、花祭りのデザインとか、仕切るのさ、アタシたちが代わってあげよっか?」
「え!え~??いいんですかぁ〜??」
「いーよ、いーよ、踊っちゃいなよ♪」
「シンデレラとやらに、なっちゃいなよ☆」
「し・あ・わ・せ♪になっちゃいなよ〜♪」
「ほ〜んとでぇ〜すかぁ〜???!」
「じゃあ、今年の花祭りはお任せします☆彡」
「ここに…推薦状をかきました♪」
「これをもって、今日の帰りすぐ、町役場に行ってお話を聞いてきてくださいね!」
「この町の若い職人さんのなら資格は当然ありますから!」
「わたし…」
後ろで心配そうに立っているリゼをギュッと抱きしめて、
「わたし、しあわせにも、
シンデレラにもなっちゃいますねっ☆彡」
リーンゴーン、リーンゴーン♪
「リゼ、わたしすぐに会いに行きたい♪」
「あなたが望むなら、お供しますよ。」
・
・
・
「ソル〜♪」
「シェリー!リゼ!どうしたの?」
シェリーはリゼを見て、リゼは頷いてみせる。
「ソル。わたしのそばにいてほしい。」
【23】リゼの涙
泉の出来事の翌日。
シェリーはマダム・マーレを待って、おはようございますと挨拶をした。
「今日、リゼを迎えに行ってみます。」
「あら、そう♪じゃあお仕事は休みって言っておくわね♪」
「うふふ、はい♪」
「ソル!おはよう!」
「おはよう。シェリー。」
「おはよう。おばあちゃん。」
「ソル、あなたもお休みよね?」
ソルは苦笑いした。
「あー、まー、そうなんだけどね??」
食事と片付けを終え、シェリーはソルに確認した。
「泉のことは、もちろん大切だよ。だけど、本当のお友達や愛するひとより大切なものなんてないよ。」
ソルは苦笑い…しかけて、いや、とおもった。
本当に、そうだと。
本当に、それしかないなと。
リゼの実家の方へ迎えに行って、リゼに会い、シェリーとリゼは抱き合って泣いた。
リゼは、シェリーの顔を見て、ほっとして笑顔のまま…泣き出したからだ。
いまはもう、カフェにも入れるシェリーは、シェリーとソルをカフェに誘った。
昨日の顛末をリゼにすべて話した。
リゼは、シェリーと本当に今生の別れになりそうだったと知り、また涙ぐんだ。
「でも…ここにいてくれて、よかった。」
そう言って微笑んだ。
【24】関連都市が合併を希望です??
3人は、フロールに町役場を訪れた。
今日も、たまたま、町長は予定が空いて、すぐに話をすることができた。
ソルは口を開いた。
「昨日の防壁のことですが、自然公園を除外せずなんとか防壁内に入れられないでしょうか。」
町長はまたも瞠目した。
「いや…。あなた方は、先見の明でもおありなのでしょうかね…。」
「?」
シェリーとリゼは顔を見合わせた。
昨日、シェリーたちが立ち去った後、他の市と町から防壁参加したいと申し出があった。
「防壁に参加」というのも不思議なのだが…。
フロールの町単体で、町全体を防壁で囲ってしまうと、隣接する市や町と断絶してしまう。
それが良くないと言うよりは、自然公園を共に囲む市と町が、同様に防壁を築くシュミレーションをした時、フロールと同様に自然公園の扱いに困った為、というのが本当のようだ。
また、『はじまりの町』と言っても産業も町政もそれなりの以前のフロールと、今は変わってきていると評価された為でもあった。
.Destinyのすべての町に、服飾産業は存在する。当然その大多数は女性なのだった。
女性の自立を善意と運の上に預けず、本気で守るとするあたらしいフロールの在り方と、若い世代の活気とが、共に市政、町政を協力し合うことで、良い変化を相互に得られるのでは、という印象を与えたからだ。
自然公園を可動式防護柵で区切り、警備を置き、参加市町の周りを防壁で囲う、というプランで進みそうなのだ。
「それは有難いです。」
3人は喜んだ。
ソルは続けた、
「それと、大変申し上げ難いのですが…。」
「ご存知だと思いますが、シェリーはこちらの町に住んでまだ4ヶ月。服飾の修行もまだ4ヶ月目なのです。
続けて『フロール・花の町のフェスタ』に取り組むのに、いささか息切れをしかけているように身内からは見えるのです。
ご存知の通り、服飾が大好きで研究を惜しまない2人です。今年は実力の高い先輩方の手腕を見せて頂き、勉強させて頂くということは、可能でしょうか。」
町長はシェリーの方へそっと向き直して、彼女の様子や顔つきをすこしだけ観察した。
…少し線が細くなった印象がある。疲れが出てしまっているのかも知れないな。
「わかりました。そういう事でしたら。
仰る通り、フロールには今までも実力のある若手が育っています。では依頼前の打診を各方面へしてみることに致します。」
【25】お城の舞踏会を目指そう♪
町役場を退出してから、ソルはシェリーの顔に向かって言った。
「何を思いついたんだ?」
「防護柵が防壁になって、ひとつの町でイベントをやっていたら、他の都市も参入してきてくれたじゃない?
こうやってどんどん強くなって行ったら、お城とか造れないかな、って思って。」
「お城ができたら、本当に舞踏会をお城で開催できるかも知れないな〜と思って。」
ソルは少し呆れた。
「……。あー、でも。
確かに、イメージ持たないよりは実現しやすいかもね。」
と同意し、にっこり笑って
「それに、オレ実はお城とかすきなんだよね♪」
と続けた。
シェリーはソルと、リゼの横顔を見て胸が熱くなるのを感じた。
お城も、舞踏会も、生きている間に見られれば、それで十分面白い。
だけど、今ここに居てくれるたいせつな人たちとの時間をたいせつに出来ないような生き方は違う。
…いまは、違う、と思う。
わたしは、いまの心のままに、この想いを抱きしめてみたい。