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Photo bydongmu

ショーウィンドウの向こうの自分は、泣いていた。

    ショーウィンドウに飾られた僕たち。静かで無機質な箱の中。時々足踏みをするけれど、感触は冷たくて硬い。
    ある時ショーウィンドウの扉が開いた、ドクンと胸を打ち、小さく心臓が音を鳴らした。
    誰かの足跡なのか?それとも心の刻む音なのか。耳の鼓膜がトクトク振動して、汗が一筋流れ落ちる。

    一筋の手が伸びて、真っ直ぐ"それ"を引き抜いた。
    僕の4つ隣の人。その顔は…。白くて、色が無かった。
    幸せと書かれた大きな旗を片手に、もう片方はしっかりとその人の手を握り去っていく。


    僕は思う「幸せって何なのだろう…。」


    来る日も、来る日も、幸せの旗を持つ人物は現れる。
    だけど開くのはいつも隣の箱。僕はとうとう、自分の存在意義を失ったのだろうか?手も足ももう既に感覚が無くなってしまっていた…。


    ある時幸せの旗の人物が僕の前に止まった。
    無機質な表情。長い手足。その得体のしれない風ぼうから想像つかない、温かい声。そうか、ここから出られるんだ…。その刹那、静かになった感覚が脈を打ち、再び血液が全身に回っていく。

    もう少し。もう少しで…。後少し手が伸びれば…。


    バリン!!という音と共にショーウィンドウのガラスは砕かれる。大きな音と共に崩れ落ちる箱は、次第に足元に広がり落ちた。
    長い手足は地面に転がり、無機質な表情から得体の知れない液体が流れ落ちる。幸せの旗は…。無残に折れて転がっていく。

    小さな息遣いに振り向いた。ぽっかり空いた穴から流れ落ちる一筋の涙。「僕は泣いているのか?」悲しみの涙?「僕は怖いのか?」

    僕を映した大きな鏡。改めて自分の姿を見た。
    崩れ落ちた肌。まるで水を無くした荒野の様。


    身体を鏡に向ける。映し出される全身。
    静かに鏡の表面に触れてみた。白い肌、枯れ落ちた肌。
    涙は一向に止まらない。だけど、涙は静かにこぼれ落ち、肌を伝い、全身を潤している…。


    「喜んでいる…?」「僕が笑っている…?」


    鏡を押した。全身の力を込めて…。
    冷たい感触が次第に体温に触れ温まる。
    僕は押した。無我夢中になって…。額から滴る汗。
    そして、静かに顔を上げた。二つの穴。それは穴では無かった。しっかり二つ、僕を見つめる球体。
    その下には真っ直ぐ伸びた鼻があり、もっと下には小さな切れ目の間に歯が見える。静かに動いて、一定の間隔で。


    ー思い出せ。自分自身を。見つけ出せ自分自身で。ー


    「思い出す。僕自身を?」「見つける。自分自身…を?」


    ーそうだ。自分自身を。その手で…。ー


    「僕は…。」「ここにいちゃ、いけない。」

    「僕は…。」「僕なんだ!!」


    光の粒子が爆発した。箱は大きな音を立てて崩れ落ちる。
    僕は温かい表面に触れている。僕の体温を確かめるように、ずっとずっと…。

    次第に体温を感じなくなった。手には何も触れていない。だけど温かい物が入り込んだ。肺で呼吸し、空気が身体を循環すると、呼吸が溢れ、空気が入れ替わっていく。

    踏みしめた大地の温度は温かい。足踏みをしてみると、サクッサクッと柔らかい音がする。
    身体の力が抜けて僕は横たわっていた。

    生命の感触。生命の息吹。
    空は何処までも高くて、僕はえらくちっぽけに感じた。
    僕はずっとあのショーウィンドウの中にいた。そんな事も遠い遠い過去の様に感じる。

    手を引かれ歩く人々の背中。小さくて、痩せっぽちで。だけど一筋の希望を信じて、明日を夢見て、目の前の世界へと足を踏み入れたのだろうか?


    きっともう幸せの旗の人物は現れないだろう。
    多分僕にはもう必要ない。
    そしてきっと僕は見つけるだろう。僕自身の手で、僕自身によって…。


    ただ今は。こうしていたい。
    だってこの場所は、とても心地よいからだ…。



    ショーウィンドウの向こうの自分は、泣いていた。おわり。

     
     
    人は何故生きるのか? 人は何故存在するのか? 複雑な様で実はシンプルなのかもしれない 哲学やスピリチュアル等、日々疑問に思った事や趣味など色々文章にし気楽に楽しく記事を書きたいという事をモットーにしています メタルを愛しメタルに溺れるただの猫好きで御座います

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