
おかえり、シオン
縮まらない距離と、小さなお怒り
あの日、交番から連れ帰った子猫。
私たちの同居生活は、お互いに一筋縄ではいかないものとなった。
さんざん油や粉をつけられ、何度もゴシゴシと洗われた記憶が恐怖として刻まれてしまったのだろう。シオンは、家の中で私の姿を見かけると、のそのそと警戒に満ちた足取りで逃げ出すようになった。助けたくて必死だったとはいえ、嫌われるようなことばかりしてしまったのだから無理もない。少し寂しさを感じつつも、私は無理に距離を詰めず、そっと見守ることにした。
しかし、猫の心は不思議なものだ。拒絶されていると思っていたのに、ふと気がつくと、いつの間にか私のすぐそばにいる。絶妙な距離を保ちながらも、シオンは私の気配を求めているようだった。
そんな変化が確信に変わったのは、彼が私の膝の上で丸くなって眠り始めたときだった。小さな体温がジーンズ越しに伝わってくる。眠りに落ちて体が緩んだ隙を見計らい、私は彼の体に残ったネズミ捕りの粘着液を、少しずつ、優しく剥がし取る作業を始めた。だが、やはり皮膚が引っ張られて痛むのだろう。ハッと目を覚ましたシオンは、「なんてことをするんだ!」と言わんばかりの、凄まじい形相で私を睨みつけて怒るのだった。その怒り顔すら、生きていればこそだと愛おしく思えた。
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次回....…小さな世界の広がりと、予期せぬお別れ編