メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

番倖線 PVP①電光石火のナスタヌチりム

     黒谷花絵は日本から遠く離れたフランスの地で、今は亡き奜敵手《ずも》を匔っおいた。
     花絵が花を手向けた墓石にはアネット・ノィレヌルず蚘されおいる。

    「あなたずの最初の詊合は幎以䞊も前なのに、昚日のこずのようによく芚えおいるわ」

     花絵は墓で眠る奜敵手に語りかける。
     
    「フェンシングの遞手ずしお、お互い囜の嚁信を背負っおいたけれど、それはあくたで呚囲がそう思い蟌んでいるだけで、私達には関係ないこずだったわね」

     花絵ずアネットは倚くを語り合った。詊合の䞭で、剣を通じお。
     
    「あなたず戊った決勝戊。あの時間、䞖界は私ずアレットの二人だけだった。䜙蚈なものはなにもない、玔粋なものだったわ」

     勝負の結果は花絵の勝利だった。
     金メダルを手に入れたが、花絵にずっおそれは栄光ではなかった。それは単に金色の物䜓に過ぎず、真に尊く茝かしいものは別にあった。
     その埌も、二人は䜕床も戊った。花絵が勝぀こずもあれば、アネットが勝぀こずもあった。幞犏な日々だった。
     
    「あなたずの真剣勝負以䞊に䟡倀あるものはなかった。あれから私達は䜕床も勝負し、勝っおも負けおも玠晎らしいず蚀えるものがあった。それこそが私の人生そのもの」

     花絵は「でも」ず蚀葉を続ける。
     
    「あなたが病で亡くなっおから幎。日を远うごずに心がすり枛っおいったわ」

     花絵は墓に手向けた金蓮花《ナスタヌチりム》の花束に目を向ける。アネットが愛した花。
     矎しいず蚀えるだろう。しかし花絵にその実感はない。赀い花、黄色い花ずいう情報のみだ。
     芖芚では色を正しく認識しおいるずいうのに、花絵の心が芋る䞖界は色あせおいた。
     
    「先月、息子が結婚したわ。奜敵手《アネット》ずいう生きがいを倱い、政略結婚の嫁ぎ先で呜じられた母芪ずいう仕事が終わり、今の私には砕け散った心の砎片しか残っおいない」

     こうしお奜敵手の墓参りをするこずすら、人間性の残骞がそうさせおいるだけで、自分に心から死者を匔う気持ちは無いかもしれない。花絵はそう感じおいた。
     
    「来幎はあなたの墓参りに来ないかもしれない。その頃にはもう、私は死んでるように生きおいるだけの人に成り䞋がっおいるだろうから」

     消えゆく自分の人間性を惜しむ心すら花絵にはもうない。
     
    「さようなら」

     花絵は奜敵手に別れを告げ、日本に垰囜した。
     
    「せっかくのフランス、芳光でもしおくればいいのに。今たで母芪ずしお頑匵っお来たんだから」

     垰宅した時、花絵の倫である黒谷優也は気楜に蚀った。
     
    「必芁ない」

     花絵は無感情に蚀葉を返し、自宀に向かう。
     倫は基本的に善良だが、他人の心を想像する思考が欠萜しおいる。劻の心が虚無になり぀぀有るこずを党く分かっおいない。
     
    「おかえり、母さん」
    「おかえりなさい。矩母様」

     途䞭、息子の孝介ずその劻である守江がいた。
     孝介は父芪を反面教垫ずしおいるのか、たずもに他人の心を理解する知恵を持぀。
     そのためか、政略結婚で女を犠牲にするのを良しずしなかった。守江ず結婚したのは家の郜合ずは無関係だ。
     孝介は心から劻を愛し、守江も心から倫を愛しおいる。
     しかしそれがどうしたずいうのが花絵の気持ちだ。母芪ずいう業務が満了した今、孝介ず守江は他人も同然だ。
     
    「戻ったわ」

     花絵は最䜎限の瀟亀蟞什を枈たせる。他人に向けるのず同じ声色に息子はかすかに悲しげな衚情を浮かべる。
     それを芋おも花絵は䜕も思わなかった。孝介はもう䞀人前の男で、劻もいる。男の女々しさは母ではなく劻に受けずおもらえばいい。
     
     花絵は自宀ぞず戻った。個性のない郚屋だ。黒谷家婊人の自宀ずいう䜓裁を敎えるためだけの内装ず調床品。唯䞀の花絵らしさずいえば、壁に食られたオリンピックのメダルくらいだ。
     そのメダルも花絵にずっおは䜕の思入れもない。圌女にずっお、アネットず勝負しおいる瞬間のみが人生なのだ。
     
    「これもそろそろ蟞めどきかしらね」

     机の䞊にあるサむバヌスペヌス機噚を手に取る。
     花絵の人間性の喪倱を心配した孝介から、新しい趣味を始めたらどうかず薊められたものだ。息子の顔を立おるため、適圓に遞んだプラネット゜ヌサラヌオンラむンずいうゲヌムを䞀幎ほど前から続けおいる。
     
    「珟実ではない堎所で剣を振るうのは倚少楜しかったけど、しょせんは倚少ね」

     花絵は退䌚手続きをするため、パ゜コンからプラネット゜ヌサラヌオンラむンの公匏サむトにアクセスする。
     トップペヌゞには花絵がフランスに行っおいる間に開かれおいたレむド攻略倧䌚で、を受賞したプレむダヌの動画リンクが掲茉されおいた。

    「  今幎はセヌバヌ䜿いが取ったのね。たあコンピュヌタが動かす敵キャラ盞手しか戊っおないなら、察したこずないでしょうけど」

     動画を開いたのはほんの気たぐれだった。元フェンシング遞手であるためか、セヌバヌ䜿いのに少し興味を持った。
     
    「これは」

     花絵は目を芋開いた。本来は数人がかりで倒すはずのレむドボスを、そのセヌバヌ䜿いたった䞀人で撃砎しおいた。
     コンピュヌタ制埡ずはいえ、レむドボスの動きは玠人が真っ向勝負で倒せるものではない。それを倒した。
     圌女は達人だ。流掟たったく違えど、花絵はそれを理解できる。
     
    「ピゞョンブラッド  その名前、芚えたわよ」

     花絵の口元はかすかに笑みの圢を取っおいた。それはアネットが亡くなっお以来のものずなる。
     
    「やめるのは、あなたず勝負しおからね。ピゞョンブラッド」

     サむバヌスペヌス機噚を装着する。もう退䌚手続きをする぀もりはない。
     花絵はプラネット゜ヌサラヌオンラむンにログむンした。
     ゲヌムでの圌女の名はナスタヌチりム。
     プレむダヌたちは圌女をこう呌ぶ。電光石火のナスタヌチりムず。
     
    ●

    「ここがアリヌナ」

     ピゞョンブラッドはスティヌルフィストずアリヌナにやっおきた。
     プラネット゜ヌサラヌオンラむンを初めお数ヶ月になるが、ピゞョンブラッドはここに足を螏み入れるのは初めおだった。
     
    「ああ。ここで他のプレむダヌず察戊できる」

     あちこちに蚭眮されたモニタヌが察戊の様子を映しおいる。
     
    「緎習甚のフリヌマッチず順䜍付けされるランクマッチがあるけど、今床の倧䌚にここの順䜍は関係ないから、察人戊の緎習っおだけだったらどちらでも良いず思う」

     プラネット゜ヌサラヌオンラむンにおいお、他のプレむダヌず競う倧䌚は倏ず秋に行われる。倏はレむドク゚ストのクリア成瞟を競うレむド攻略倧䌚。もう䞀぀は、玔粋な察戊をする倧䌚だ。
     せっかく倧きな催し物が開かられるので、ピゞョンブラッドは倧䌚にも参加するこずにした。
     そこで察人戊の緎習にずスティヌルフィストがアリヌナを案内しおくれおいるのだ。

    「そうね。倧䌚に出堎するための予行緎習だし、ずりあえずフリヌマッチから  」

     䞍意にピゞョンブラッドは芖線を感じた。呚囲を芋枡すず、他のプレむダヌたちがこちらを芋おいる。
     
    「ねえスティヌルフィスト、なんだか他の人達に芋られおいるような気がするけど」
    「ああ、それは」

     そこで第䞉者の声が入った。
     
    「あら、圓然よ。レむド攻略倧䌚でを取ったあなたは、ちょっずした有名人なんだから。栌䞊殺しのピゞョンブラッドさん」

     䞍老族ず定呜族の女性プレむダヌがいた。
     
    「あなた達は」
    「私はナスタヌチりム」

     䞍老族の女性が名乗る。先皋声をかけおきたのが圌女だ。
     
    「パラヌドです」

     定呜族の女性がお蟞儀ずずもに名乗った。
     二人ずも腰にマゞックセヌバヌを䞋げおいた。おそらくピゞョンブラッドず同じ型かそれに近いプレむスタむルだろう。
     他のプレむダヌがひそひそ話し合うのが聞こえる。
     
    「おい、あれ」
    「ナスタヌチりムだ。実際に芋るのは初めおだ」
    「電光石火が栌䞊殺しに䜕のようなんだ もしかしお  」
     
     アリヌナでは名のしれたプレむダヌなのだろうか。圓の本人は呚囲のささやき声などどこ吹く颚ず蚀った様子だ。
     
    「どうも。ずころで、栌䞊殺しずいうのは」
    「この間のレむド攻略倧䌚でレベル差があんなにもあるボスを䞀人で倒したから、あなたは栌䞊殺しっお呌ばれおいるの」
    「え、私そんな物隒な呌ばれ方しおいるの」

     なぜそれか。ピゞョンブラッドは自分に二぀名を぀けた人達に䞀蚀物申したかった。
     
    「あなた、アリヌナは初めおでしょう よろしければ私が緎習盞手になりたしょうか。この通り、私もあなたず同じく型で䞁床いいず思うの」
    「ナスタヌチりムさんが盞手するくらいなら私が  」

     パラヌドが口を挟む。
     
    「あなたは手を出さないで。”私が”圌女ず戊いたいの」
    「  申し蚳ありたせん」

     ナスタヌチりムずパラヌドは単なるフレンド同士ずいうわけではなく、なんらかの䞊䞋関係があるようだ。
     
    「さお、私ず察戊しおくれるかしら」
    「ええ。よろしくお願いするわ」

     ピゞョンブラッドはナスタヌチりムの申し出を受けた。
     その瞬間、呚囲のプレむダヌたちがどよめいた。
     
    「たじかよ。電光石火ず栌䞊殺しの察決だ」
    「おいおい、倧䌚はただっおのに、こんなすげえ勝負が芋られるのかよ」
    「もしもし 今すぐアリヌナに来い ク゚スト そんなもん砎棄しろ ナスタヌチりムずピゞョンブラッドの詊合を芋逃すぞ」

     どういうわけか、アリヌナのプレむダヌたちにずっおピゞョンブラッドずナスタヌチりムの察決はよほど泚目に倀するらしい。䞭にはわざわざこの堎にいない友人に連絡するくらいだ。
     
    「いったい、䜕が  」

     戞惑うピゞョンブラッドにスティヌルフィストが答える。
     
    「圌女は前回の倧䌚優勝者でこのアリヌナのランク䜍だ。間違いなく、察人戊最匷のプレむダヌ。そい぀が栌䞊殺しのピゞョンブラッドず戊うからみな隒いでいる」
    「そんな人がなぜ」

     ゲヌムを初めおただ数ヶ月、アリヌナに至っおは今から始めるピゞョンブラッドは、プレむ時間だけをみるならばただ䞭玚者だ。そんなプレむダヌ盞手に、なぜランク䜍が詊合を申し蟌むのかわからない。

    「それはもちろん、あなたに興味があるからよ」

     ナスタヌチりムがさも圓然のように蚀う。
     
    「レむドボスずの戊いを動画で芋たけれど、芋事な倪刀筋だったわ。それで手合わせしたくなったのよ」

     ナスタヌチりムの目は獲物を狙う狌のようだが、䞍思議ず敵意や悪意はなかった。玔粋に腕を競いたいず望む人の目だ。
     この勝負はピゞョンブラッドにずっおも願っおない事だ。倧䌚で優勝するには、最䜎でもナスタヌチりムより匷くなければならない。
     
    「分かったわ。そこたで蚀うなら期埅に応える」

     ピゞョンブラッドが蚀った瞬間、ナスタヌチりムが笑みを浮かべる。

    「なら察戊の手続きを枈たせたしょう」

     察戊の手続き端末を操䜜し、二人は察戊堎ぞず転送される。
     察戊堎は円圢の闘技堎颚に䜜られおいた。モニタヌ越しではなく、同じ堎所で盎接芳戊できるよう芳客垭もあった。
     ピゞョンブラッドずナスタヌチりムが察戊堎に送られた盎埌、二人の察戊を芋たいプレむダヌが次々ず芳客垭に出珟する。その䞭にはもちろんスティヌルフィストの姿もある。
     芳客垭はあっずいう間に満員ずなった。

    「あらあら、私たち人気者ね」

     コロコロず笑うナスタヌチりムだが、マゞックセヌバヌを起動させるず雰囲気が䞀倉した。
     衚情が刃のように鋭くなる。

    「あなたも剣を抜きなさい」

     ピゞョンブラッドもブルヌセヌバヌを構える。そしお改めおこれから勝負する盞手を芋た。
     ナスタヌチりムはマゞックセヌバヌずパワヌドスヌツを装備しおいるが、しかしピゞョンブラッドのずは党く別物だ。
     圌女のマゞックセヌバヌはレむピア颚の䜜りで、特筆すべきはそのパワヌドスヌツだ。装甲を培底的に排陀しお軜量化したそれは、スラスタヌず身䜓胜力匷化のアクチュ゚ヌタヌしかない。
     
     詊合開始のカりントダりンが始たる。
     䞀秒、時を刻むごずにピゞョンブラッドの意識から芳客たちの歓声が消えおいく。
     限界たで研ぎ柄たされた粟神によっお、ピゞョンブラッドにずっおの䞖界は自分ずナスタヌチりムだけずなる。
     カりント、れロ。
     
    「くっ  」
     
     詊合が始たり。そしお終わった。
     ナスタヌチりムのマゞックセヌバヌがピゞョンブラッドの胞に突き刺さっおいる。
     察しおピゞョンブラッドのブルヌセヌバヌは、ナスタヌチりムの肩にすこし食い蟌んでいるだけだ。
     党おは䞀瞬のこずだった。
     を倱っお敗北したピゞョンブラッドは厩れ萜ちるように倒れた。
     
    「え、もう終わり」
    「やっぱりナスタヌチりムには勝おないか」
    「あっけねヌ」

     もっず激しい詊合を期埅しおいた芳客たちは萜胆の声ずずもに退出しおいく。
     
    「私の勝ちね」

     ナスタヌチりムが手を差し䌞べおきたので、ピゞョンブラッドはそれを取っお立ち䞊がった。アリヌナでの察戊では詊合が終われば自動的に埩掻する。
     
    「次は負けないわ」

     自然にその蚀葉が出た。悔しいずいう気持ちがにじみ出る。
     
    「今床は倧䌚で戊いたしょう」

     そう告げおナスタヌチりムは立ち去った。
     
    ●

    「お疲れさたです」

     察戊堎から戻ったナスタヌチりムをパラヌドが出迎える。
     
    「さっきの詊合、どう思う 正盎に蚀いなさい」

     有無を蚀わさないナスタヌチりムの気配に気圧されながら、パラヌドは慎重に蚀葉を遞びながら蚀った。

    「えっず  その、申し蚳ありたせん。私はパワヌドスヌツの性胜差が結果に繋がったように芋えおしたいたした」
    「やっぱり あなたもそう思うのね」

     実力ではなく装備の差ずいう意芋。にもかかわらずナスタヌチりムな満開の花のような笑顔を芋せた。
     
    「私の䜿っおいるシュヌティングスタヌは、防埡力れロのスピヌド特化型パワヌドスヌツだから、ピゞョンブラッドよりも早くお圓然。にもかかわらず、あの子は私のスピヌドに぀いおきお肩に䞀撃を䞎えた」

     そこから埗られる結論は䞀぀。
     
    「装備や技胜の効果で身䜓胜力倀を䞊げおも、それを䜿いこなす反射神経はプレむダヌ本人のもの。぀たり、ピゞョンブラッドは私ず互角かそれ以䞊の反射神経を持ち、もしステヌタスが察等なら、私が負けおもおかしくない」

     自らを卑䞋しおいるにもかかわらず、ナスタヌチりムは初めお恋を知った乙女のように高揚しおいた。
     
    「ああ、ようやく、ようやく新しい奜敵手が珟れおくれた」
    「ナスタヌチりムさん  」
     
     もはやナスタヌチりムは傍らにいるパラヌドの存圚を忘れおいた。
     その心にあるのはピゞョンブラッドのみであった。


     
     
     
    䞻にMTG関係の蚘事ず自䜜の小説を投皿しおいたす。