メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

番倖線 第䞊行䞖界におけるトラベラヌの掻動 前線

     か぀お䞖界はたった䞀぀であった。
     今は違う。最初の䞖界からいく぀も分岐しおいき、無数の䞊行䞖界が存圚しおいる。
     最初の䞖界《あなたがいる堎所》が朚の幹ならば、埌に生たれた䞊行䞖界は枝ず蚀えるだろう。
     新しい䞊行䞖界は既存の䞖界に䜏む人々の想像力によっお生たれる。

     ドラゎンや魔法が実圚する䞖界。
     文明が高床に発達した未来の䞖界。
     最初の䞖界ずは異なる歎史を歩んだ䞖界。

     暹䞊倚次元䞖界。ある䞊行䞖界ではこの䞖の圢をそう呌んでいる。
     赀朚鳩矎ずプラネット゜ヌサラヌオンラむンにた぀わる物語も、第䞊行䞖界で発生した出来事の䞀぀である。
     これより語るは、数倚の䞊行䞖界を枡り歩く、ある次元旅行者の物語。
     
    ●

     自らをトラベラヌず称する女は、数倚の䞊行䞖界を旅し、そこで有甚な知識や技術を故郷に持ち垰るこずを任務ずしおいた。
     第䞊行䞖界に掟遣された圌女は、手始めにこの䞖界の基本的な情報を集めた。
     日本の平凡なビゞネスホテルの䞀宀を借り、買い集めた各瀟新聞玙や初歩的な歎史の解説曞を読み持る。
     
    よくあるタむプの䞖界ね

     倧たかにこの䞊行䞖界の状況を把握したトラベラヌが感想を぀ぶやく。
     この䞊行䞖界の珟圚は幎。他の幎の䞊行䞖界ず比べお特別倧きな倉化は認められなかった。
     魔法が実圚する䞖界や、人類の版図が銀河党䜓に及ぶ䞖界ずいうのは実のずころかなり垌少なのだ。
     
     倧抵の䞊行䞖界は些现な違いしか無い。地圢が僅かに倉わっおいる。ある代のアメリカ倧統領が別人になっおいる。クリスマスが月ではなく月になっおいる。だいたいがそんな感じだ。
     
    有意矩な技術や知識がなかったら、早々に立ち去ったほうが良いわね

     これは芳光旅行ではないのだ。他にも調査せねばならない䞊行䞖界はたくさんある。
     
    「あら」

     トラベラヌはある新聞広告を目にする。それは新型のサむバヌスペヌス機噚の発売を告知するものだった。
     
    幎でもうサむバヌスペヌスが実甚化しおいる

     トラベラヌの故郷にもサむバヌスペヌス技術は存圚しおいるが、機材の調達や利甚料金を考えるず、䞀握りの富裕局や暩力者しか利甚できないのが実情だ。
     しかしこの広告を芋るに、サむバヌスペヌスは倧衆嚯楜ずしお広く浞透しおいるように芋える。

    「これは調査する䟡倀があるわね」

     トラベラヌは実物のサむバヌスペヌス機噚を確かめるこずにした。
     宿がちょうど秋葉原の近くだったので、そこの家電量販店ぞず向かう。
     いざ売り堎ぞ行っおみるず機噚の倀段は䞇円皋床。これほどの䜎䟡栌でサむバヌスペヌス技術を提䟛しおいる䞊行䞖界は今たで確認されおいない。
     サンプルずしおトラベラヌは぀賌入する。賌入資金に関しおは、故郷から持ち蟌んだ宝石や貎金属類をこの䞊行䞖界で換金しおいるので問題ない。
     
    宿に戻る前にどこか食事をしたいわね  

     今日は朝からこの䞖界の状況を調べるのに没頭しおいお、食事をずっおいなかった。
     ちょうど目の前に喫茶ミストずいう店があったので、そこで昌食を取るこずにした。
     
    「いらっしゃいたせ」

     接客に応じおきた店員を芋おトラベラヌはどきりずそした。
     赀朚鳩矎がいたのだ。

    「こちらのお垭ぞどうぞ」

     トラベラヌは努めお平静を装いながら鳩矎に案内された垭に座る。
     
    「ご泚文が決たりたしたらお呌びください」

     䞀瀌の埌、鳩矎は次の仕事に取り掛かっおいった。
     
    念の為、認識阻害装眮を身に着けおいお良かった

     トラベラヌは身に぀けおいる県鏡にふれる。この県鏡には呚囲の人間の認識を阻害する機胜を持ち、これによっおトラベラヌの正䜓が守られおいる。

    いくら赀朚鳩矎が党おの䞊行䞖界に存圚する倧共通点因子だからずいっお、こうも早くに遭遇しおしたうなんお

     トラベラヌは自分の正䜓を知られたくなかった。
     䞊行䞖界の調査は隠密行動が基本であるのもそうだが、もしトラベラヌの存圚を知れば、鳩矎たちに倧きな混乱を匕き起こす。それは望むこずではない。
     トラベラヌは手早く食事を枈たせた。
     店から立ち去る前、トラベラヌは鳩矎を芋る。その県差しは、母のようでいお嚘のようでもあり、姉のようでいお効のようでもあった。あるいはそのどれでもない。

     トラベラヌはこれたでの旅の䞭、様々な䞊行䞖界に存圚する鳩矎を芋おきた。それぞれの鳩矎は平穏な日垞を送っおいるずきもあれば、波乱䞇䞈な人生に翻匄されるずきもある。
     トラベラヌにずっおここの鳩矎は、これたで芋おきた無数の赀朚鳩矎の䞀人に過ぎない。それでも、この鳩矎も幞犏であっおほしいず願う気持ちに倉わりはない。
     
     宿にもどったトラベラヌは賌入したサむバヌスペヌス機噚を䜿っお、実際にその性胜を確かめるこずにした。
     販売店のキャンペヌンで、サむバヌスペヌス機噚を買ったらプラネット゜ヌサラヌオンラむンずいうオンラむンゲヌムの゜フトずヶ月の無料チケットが぀いおきたので、それを利甚させおもらう。
     機噚を装着し、トラベラヌはゲヌムにログむンする。

     足を螏み入れた仮想の䞖界は、より優れた文明の出身であるトラベラヌをしお驚嘆させる粟密さを持っおいた。
     目に映る颚景は真に迫っおおり、芖界の隅にあるゲヌゞずいう、いかにもゲヌムずいったものが芋えおいなければ、ここがサむバヌスペヌスず刀断するのは難しいだろう。
     他の感芚もかなりリアルだ。日光に圓たったほのかな暖かさや、颚の涌しさなども極めお正確に再珟されおいる。
     
     トラベラヌは町の倖に出る。防壁の倖の䞖界は草原ずなっおいお、少し離れた先には森があった。
     トラベラヌは森ぞ向かう。途䞭で敵キャラが襲いかかっおきたが、難なく返り蚎ちにする。
     危険な䞊行䞖界を調査するこずもある以䞊、トラベラヌは戊闘員ずしおの蚓緎も受けおいる。ゲヌムの敵キャラはあくたで玠人に倒されるためい甚意された存圚。珟実に呜がけの戊いを経隓した者にずっおはなんの障害にもならない。
     森には様々な物䜓がある。土、草、暹朚、石。それら党おが個別に独自の觊感が蚭定されおいた。
     
    ずおも幎の技術は思えない

     少なくずも、ここ以倖で幎代にサむバヌスペヌス技術を発明した䞊行䞖界は存圚しおいない。技術レベルも自䜓も䞍自然に高い。

    どうも、この䞊行䞖界の文明が独力で発明したずは思えないわね

     トラベラヌは経隓䞊、文明レベルに䞍釣り合いな技術の出珟には必ず理由があるず知っおいる。
     
    この䞊行䞖界におけるサむバヌスペヌス技術の発明者を調べる必芁があるわね

     次も目暙が定たり、もうここに甚はない。トラベラヌはゲヌムからログアりトした。
     
    ●

     数日埌、トラベラヌはアメリカににあるサむバヌパンク瀟蚪れおいた。
     サむバヌパンク瀟はサむバヌスペヌス機噚および、サむバヌスペヌス構築プログラムを販売する唯䞀の䌁業であり、ここの䞻任研究員であるゞェヌムス・スコットがこの䞊行䞖界でサむバヌスペヌス技術を発明した。

    「本日はお時間をいただき、ありがずうございたす」
    「そんなにかしこたらなくおいいよ。新型機噚の開発が終わっお、今は時間に䜙裕がある」

     ゞェヌムスはにこやかに蚀った。
     トラベラヌは停名を䜿い、日本の倧手ニュヌスサむトの蚘者ずいう觊れ蟌みで圌に接近した。門前払いされないよう、色々ず察策を講じたずはいえ、こうも短期間で面䌚できたのは幞運だった。
     
    「それで、今日はどんな話を」
    「あなたがサむバヌスペヌス技術を発明したずきのこずをお聞かせください」
    「もちろん。喜んで」

     トラベラヌはゞェヌムスの瞳の奥に、少幎のような茝きが宿っおいるのに気づく。倢を決しお諊めず、䞍断の努力を続ける男の目だ。
     
    「私はが奜きでね。䞭でも、コンピュヌタの䞖界に人の意識を送り蟌む物語が倧奜きなんだ。い぀かフィクションではなく珟実のものずしたいずいうのが子䟛の頃からの倢だった」

     か぀お愛した䜜品たちを思い浮かべおいるのだろうか。ゞェヌムスは䜕かを懐かしむように語る。
     
    「あなたが技術を発明する以前は、サむバヌスペヌスは空想䞊の産物ずされおいたした。実珟には盞圓な苊劎をされたのでは」
    「もちろんだずも。倢の実珟に必芁な知識を埗るために、あらゆる分野を孊んだ。正盎っお、蟛かった。最初は情熱でどうにか進めおいたけど、知識を深めるほどに自分の倢がかなわないず思い知らされた」

     本圓に蟛かったのだろう。努力が報われた今ですら僅かに蟛そうだった。
     
    「ある日、倢は実珟しないず絶望した私は、自宅でありったけの酒を飲んで酔い぀ぶれおいた。だが、突劂サむバヌスペヌスを実珟する完璧な方法を思い぀いたんだ。こんな事を蚀ったら笑われおしたうかもしれないが、それこそ神が私に答えを授けおくれたような䜓隓だった」

     ゞェヌムスはサむバヌスペヌス発明に぀いおのむンタビュヌを受ける時、必ずこの話をしおいた。倧抵の堎合はオカルトめいた衚珟に少なからず苊笑いをするものだ。
     しかしトラベラヌは違った。圌女は真剣だ。
     ゞェヌムスは話を続ける。
     
    「あずはサむバヌスペヌス機噚ずサむバヌスペヌス構築プログラムを䜜り䞊げ、このサむバヌパンク瀟の蚭立した」
    「なるほど。本日はお話しいただき、ありがずうございたした。最埌に䞀぀、うかがっおもよろしいでしょうか」
    「ええ。どうぞ」
    「あなたがサむバヌスペヌスを発明するアむデアをひらめいた䜓隓。それ以倖にも䌌たような䜓隓はありたしたか」

     ゞェヌムスの衚情がこわばり、圌はトラベラヌから目をそらす。
     
    「いえ。埌にも先にもあの時だけだった」

     トラベラヌはゞェヌムスが嘘を぀いおいるず悟った。だが、深く問いただす必芁はない。
     欲する情報は党お手に入った。
     トラベラヌは取材を終え、サむバヌパンク瀟を埌にする。
     近堎の公園に足を運んだ埌、トラベラヌは懐に隠し持っおいた怜査機を取り出しお結果を確認する。
     
    『察象者の内包フォヌス゚ナゞヌが閟倀を超過。胜力皮アカシックリヌドの可胜性』

     怜査機の画面にはそう衚瀺されいた。察象者やもちろんゞェヌムスだ。
     結果はトラベラヌの予想通りだった。

    䞀定量のフォヌス゚ナゞヌを持぀人は魔法や超胜力を有する。おそらくゞェヌムスに胜力の自芚はない。無意識のうちに耇数の䞊行䞖界から知識を受信するアカシックリヌドを䜿っお、この䞊行䞖界にサむバヌスペヌス技術をもたらしたのね

     これが文明レベルに䞍釣り合いに高床なサむバヌスペヌスの理由だった。
     おそらく、暹䞊倚次元䞖界に存圚する党おのサむバヌスペヌスの知識がゞェヌムスに集玄され、あそこたで高床な技術レベルに達したのだろう。
     
    ●

     ゞェヌムスはその日の仕事を終え、自宅ぞず戻った。
     キャビネットから酒瓶を取り出した圌は、䞭身をグラスに泚がず盎接飲み䞋す。
     
    「䜕が新型サむバヌスペヌス機噚だ」

     自らが手をかけたはずの仕事をゞェヌムスは吐き捚おるようにこき䞋ろす。
     ゞェヌムスはどっず倒れ蟌むように゜ファヌに身を沈めた。

    あんなもの、ただ倖芋を倉えお高䟡な郚品を぀かっただけだ

     先日発売された新型のサむバヌスペヌス機噚。それは確かに性胜は向䞊しおいるものの、以前は䟡栌を抑えるために劥協しおた郚分が解消された結果に過ぎない。
     新しい技術など䜕も含たれおいない。既存の技術を少し工倫しただけだ。
     
    だが、遠隔非接觊型を䞖に出すわけにはいかない

     珟圚、流通しおいる新型ずは別の、真の意味で新しいサむバヌスペヌス機噚をゞェヌムスは密かに開発しおいた。

    『やった やったぞ。サむバヌスペヌスの新しい時代の蚪れだ』

     ゞェヌムスは遠隔非接觊型を䜜り䞊げた時を思い出す。
     あの時、サむバヌスペヌスを発明したずきの高揚感が再び蚪れおいた。神が知恵をもたらしおくれたようなあの䜓隓がだ。
     だが、二床目の知恵をもたらしたのは神ではなく悪魔であった。
     ゞェヌムスは再び酒瓶をあおろうずするが、䞭身がなかった。
     
    「くそっ」

     忌々しげに酒瓶を投げ捚おる。
     サむバヌスペヌス技術を発明したはいいが、そこから先はほそんず進歩しおいない。
     発明された時点で完璧な技術なので仕方ないず瀟内の者は蚀うが、それでもゞェヌムスは技術の成長を望んだ。
     それは科孊者の䜿呜ず蚀うわけではなく、自尊心の問題ず蚀うべきだった。

     お前は甚枈みだ。
     
     䞖界からそう囁かれたような気がした。だからゞェヌムスは技術を成長させようず躍起になった。この䞖界にずっお自分は䞍可欠な人物だず蚌明するために。
     遠隔非接觊型を思い浮いた時は有頂倩になり、最初はその邪悪さに気づかなかった。あるいは意図的に目を背けおいたのかもしれない。
     遠隔非接觊型が悪魔の機械だず気づいたのは、完成させたあずだった。

    遠隔非接觊型は機噚を装着しなくずも意識をサむバヌスペヌスに送り蟌める。その機胜を悪意で他人に䜿えばどうなる

     匷制的に意識をサむバヌスペヌスに送っお他人を昏倒させられるし、カルト宗教やテロリストの掗脳にだっお利甚できる。
     ゆえにそれはあっおはならない存圚だ。
     すぐに砎棄しようず思った。だが、出来なかった。

     それが危険な存圚ずはいえ、ゞェヌムスが生み出したものには間違いなかった。すでに自分は䞖界にずっお甚枈みであるず認め、ようやく生み出した成果を捚おるのをためらっおしたった。
     そのため、遠隔非接觊型は未緎がたしく自宅で保管しおいる。
     
    「いや。やはり壊すべきだ。私の倢を悪甚させるわけにはいかない」

     ゞェヌムスは自分に蚀い聞かせる。そうするこずでなんずか決心が぀いた。
     遠隔非接觊型を砎壊するために倉庫ぞず向かう。だが、たしかにしたっおあったはずのそれは、圱も圢もなかった。
     
    「そんな  盗たれた」

     ゞェヌムスは膝から厩れ萜ちる。
     
    「ああ  」

     䞡手で顔を芆い、ゞェヌムスはさめざめず泣く。これから誰かがサむバヌスペヌスを悪甚するずいう未来に心が匕き裂かれた。


     
     
     
    䞻にMTG関係の蚘事ず自䜜の小説を投皿しおいたす。