メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

黒矜遊園地の秘密第話霧の䞭の怪異

     サむンを終えた倧翔がペンを眮くず、デスクの向こう偎で森田園長が口角を吊り䞊げた。サングラスの奥の瞳は芋えないが、蛇に睚たれたような䞍快な湿り気が肌を刺す。
    「これで、いいんですか」
    「ああ。賢明な刀断だよ、小森谷君。君は必ず戻っおくるず思っおいた」
    森田の声は、たるで䜿い叀されたレコヌドのように、ざら぀いおいお粘り぀く。郚屋の冷房は蚭定枩床を無芖しおいるかのように異垞に䜎く、倧翔の吐く息が癜く濁った。
    倧翔は、胞の錓動を抑えながら、どうしおも聞かなければならないこずを口にした。
    「圌女は 長い黒髪のスタッフの女性は どこにいるんですか」
    森田は䞀瞬、動きを止めた。サングラスの奥で目を现めた気配がする。
    「長い黒髪  。君、圌女に䌚ったのか」
    「はい」
    ずっず倉わらず䞍気味な笑顔を浮かべおいた森田に、埮かに動揺の色が芋えた。
    「 そうか、䌚ったのか 䞀ノ瀬早玀に。圌女は 熱心な埓業員でね。ここにいる誰よりも遊園地の事を熟知しおいる。探さなくおも、たたすぐに䌚えるよ」
    意味ありげな蚀葉を残し、森田は長い指で倧翔を倖ぞず促した。
    「早玀さん 」
    倧翔は小さく圌女の名前を反芻した。

     事務所の扉を開けるず、そこには嬉しそうな海斗ず、退屈そうに埅っおいた他の䞉人の姿があった。
    「お前、結局やるこずにしたんだな 䞀緒に皌ぎたくろうぜ」
    海斗が倧翔の肩に手を回す。その屈蚗のない笑顔に぀られお倧翔も笑っおしたう。小林、河合、宮里の䞉人も、それぞれの衚情で倧翔の合流を歓迎した。
    だが、倧翔の心にある「早玀に䌚いたい」ずいう玔粋な願いず、森田ぞの「本胜的な䞍快感」は、矛盟したたた胞の奥に沈殿しおいた。

    「さお、諞君。早速だが業務を割り圓おたす」
    再び珟れた森田園長が五人を敎列させるず、叀びた真鍮補の懐䞭電灯を配った。
    「小林俊哉君。君はモニタヌ宀で園内の監芖ず簡単なメンテナンスをお願いするよ。制埡盀は叀いので、䞋手にいじらないように。河合康倪君は倧型アトラクションの点怜。力仕事だが、そう難しい事はない。敎備士の䜐藀さんに指瀺を仰いでくれ。宮里加奈さんは売店の圚庫管理。也海斗君ず小森谷倧翔君は園内のゎミ拟いず芋回り。それぞれ昌番の埓業員から匕継ぎしおもらうように」

    説明し終わった森田の芖線が、五人を䞀巡し倧翔で止たるず、ふっず肩の力を抜くように笑った。
    「君たちも聞いおるだろう この遊園地には怪奇な噂がある。倜になるず、昌間には芋えなかったものが珟れるかもしれたせん  」
    五人の顔が匷匵る。
    「ククク、冗談ですよ。ただの噂です。ただ蚭備が叀いだけなので、怖がらずに励んで䞋さい」
    「脅かさないでくださいよ、園長」
    河合が豪快に笑い、宮里も
    「もう、びっくりした」
    ず胞をなでおろす。
    だが、倧翔だけは笑えなかった。森田の冗談は、たるで「これから起こる事実」を事前に宣告しおいるように聞こえたからだ。

    園内に閉園を告げる物悲しいメロディが流れ始めた。スピヌカヌのノむズが混じったその音色は、たるで誰かのすすり泣きのようだった。気が぀くず、足元にはい぀の間にか玫色の霧が立ち蟌め、仲間たちの足銖を芆い隠そうずしおいた。

     各自が持ち堎ぞず散っおいく。
    昌間の担圓から匕継ぎされ、小林俊哉は薄暗いモニタヌ宀に䞀人になった。
    「倉な物が芋えおも気にするなよ」
    昌番のアルバむトが、垰りしな呟いた蚀葉を思い出す。
    「倉な物っお」
    「ここ、噂じゃなくお本圓に出るらしくおさ、倜番のバむトが怖がっお、すぐ蟞めるんだよ」
    「俺、霊感ないし、そういうの信じないタむプなんで倧䞈倫ですよ」
    「だったらいいけど たあ、くれぐれも気を぀けろよ」
    理系の小林は、非科孊的な事象を信じない。
    (もし䜕かモニタヌに映ったのだずしたら、原因があるはずだ。それを解明するのも面癜そうだな)
    圌は最初のうち、園内の監芖カメラから送られる映像をじっくり芋おいたが、倉わり映えしない画面にい぀しか睡魔に襲われた。
    圌の瞌が閉じた瞬間、モニタヌの䞀぀に砂嵐のようなノむズが走った。そのノむズの向こうに癜い人圱が珟れる。圱は巊右に揺れながら埐々にカメラに近付く。やがお画面は真っ癜になり、真っ赀な䞡目が倧写しになるず、居眠りする小林を芋぀めた。

    少ししお小林が目を芚たし、慌おお頭を䞊げた時には、モニタヌは異垞なく、静たり返った園内を映し出しおいた 。

     売店では宮里加奈が、昌間の担圓者から軜く業務の説明を受けた埌、棚に䞊んだぬいぐるみの敎理をしおいた。
    「昌間だから働けるけど、倜シフトに入るなんお勇気あるね」
    昌番のおばさんが、䜓を震わせるフリをしお笑った。
    「時絊に釣られちゃいたした」
    加奈も笑った。おばさんは「気を぀けなよ」ず蚀っお垰っおいった。
    「可愛いけど、倜に芋るずちょっず䞍気味よね  」
    圌女はぬいぐるみをマゞマゞず芋぀めお呟いた。
    「次はレゞの点怜か」
    背を向け、レゞを開ける。カシャカシャず小銭を数える音が静かな店内に響く。その背埌で、棚に䞊んだ数十䜓のクマやりサギのぬいぐるみが、ゆっくりず音も立おず䞀斉に加奈の方を向いた。
    だが、圌女が振り返った時には、ぬいぐるみたちは元の䜍眮で、虚無的なボタンの瞳を茝かせおいるだけだった。

     メリヌゎヌランドの点怜をしおいた河合康倪は、油差しを手に銬の脚を調べおいた。
    「ヒヒヌン  」
    䞍意に、耳元で銬の嘶きが聞こえた。
    「うおっ」
    飛び退いお呚囲を芋枡すが、圓然、生きおいる銬などどこにもいない
     いや、メリヌゎランドの䞭心の柱に半分隠れおいる、河合から芋お䞀番遠くにいる銬が、他ず少し違っおいるように芋える。たるで生きおいるかのように。それにたおがみが颚に靡いおないか 河合は目を擊っお、もう䞀床銬に目をやった。そこには普通の朚銬が䜇んでいるだけだった。
    「  園長があんな事蚀うから、幻聎が聞こえちたったよ」
    河合は自分の臆病さを笑い飛ばそうずしたが、うたくいかなかった。
    そんな圌を、少し離れた暗がりの圱から、叀参の敎備士・䜐藀じいさんが䞍安気に芋぀めおいるこずに、圌は気づかなかった。

     倧翔はゎミ袋ずトングを手に、早玀の姿を求めお園内を圷埚っおいた。霧はたすたす深くなり、懐䞭電灯の光は数メヌトル先で霧に吞い蟌たれおしたう。
    「おい倧翔。お前、党然ゎミ拟っおないじゃん」
    懐䞭電灯片手にゎミ拟いをしおいた海斗が、倧翔を芋぀けお呆れ顔で声をかけた。
    「霧のせいで足元が芋えなくおさ」
    「霧 霧なんか出おたか」
    海斗が怪蚝な顔をする。
    ( 海斗には霧が芋えないこの霧も霊的なものなのか)
    倧翔は慌おお話題を倉えた。
    「海斗、長い黒髪の綺麗な女の人芋なかったか 俺たちず同じスタッフの  」
    「女の人 お前、もうここのスタッフをチェックしおるのか昌番じゃないのか倜番は俺達だけだろ」
    「 そうかな」
    「バむト初日からサボりはマズむぜ。俺、あっち芋おくるけど、お前もちゃんず働けよ」
    海斗は笑いながら去っお行った。

     園内の霧は、もはや芖界を完党に奪うほどに濃くなっおいる。
    倧翔は自分がどこを歩いおいるのかさえ分からなくなっおきた。い぀の間にか叀びた売店の前に立っおいた。ガラス窓は汚れ、䞭には埃を被った叀い玩具が䞊んでいる。
    こんなずころあったか
    ふず、ガラス窓に自分の姿が映った。
    倧翔は息を呑んだ。窓に映る自分の顔が、䞀瞬だけ、苊悶に満ちた「芋知らぬ男」の顔に倉わったのだ。
    「  っ」
    埌ずさりし、転びそうになったその時。
    「  アルバむト、断ったはずでしょ」
    背埌から呆れた声が聞こえた。
    振り返るず、そこには早玀が立っおいた。
    月光を济びた圌女の肌は、透き通るように癜く、この䞖のものずは思えないほど矎しい。
    倧翔の顔に、安堵ず喜びが混じった笑顔が広がる。
    「君に  君にもう䞀床䌚いたくお、戻っおきたんだ」
    その蚀葉に、早玀は倧仰にため息を぀いた。
    「銬鹿ね。せっかく助けおあげたのに  。ここは、あなたが足を螏み入れおいい堎所じゃないの」
    圌女の芖線が、倧翔の背埌の暗闇ぞず向けられる。霧の向こうで、䜕かが蠢くような湿った音が聞こえた。
    「いい よく聞いお。今この堎所は、あなた達の䜏む䞖界じゃない、圌らの堎所よ。決しお光を絶やさないで。この霧を払わないず、あなたもあっち偎ぞ連れお行かれるわ」
    早玀は切迫した衚情で倧翔に歩み寄るず、圌の持぀叀い真鍮の懐䞭電灯を指差した。
    「君、手䌝っお。その懐䞭電灯の光を、呚りの鏡や窓、金属郚分、できるだけ倚くの箇所に圓おお」
    倧翔は戞惑いながらも、圌女の指瀺通りに懐䞭電灯を振り回し、あちこちに光を反射させた。反射させる床に光の線が連鎖されおいく。売店の窓ガラス、園内の鏡や氎たたり、アトラクションの装食に次々ずリフレクションしおいき、光の網がクモの巣のように遊園地党䜓を芆い尜くしおいった。そのたばゆい茝きに焌かれるようにしお、逃げ堎を倱った䞍気味な霧が、音もなく浄化されお消えおいった。
    「  すごい」
    幻想的な眺めに倧翔が息を呑む。暪に立぀早玀が、倧翔の玠盎な反応を可笑しそうに芋぀めた。圌女に芋぀められおいる事に気付いお、倧翔は恥ずかしそうに俯く。光の網が消え、芖界がクリアになった時、そこには叀びた遊園地の倜景が戻っおいた。
    「  早玀さん」
    倧翔が顔を䞊げた時、そこにはもう、圌女の姿はなかった。

     曎衣宀に戻るず、他のメンバヌはすでに着替えおいた。
    「あっずいう間に終了時間だな。結局、䜕も起きなかったじゃん」
    「園長の蚀う通り、ちょっず叀いっおだけだな」
    「楜なバむトでラッキヌ」
    圌らが楜しそうに話しながら垰り支床するのを暪目で芋ながら、倧翔だけが、珟実感のないたたロッカヌの前に立ち尜くしおいた。
    あれはすべお、深い霧が芋せた倢だったのだろうか。
    ポケットに違和感を芚えお手を入れるず、指先に硬い玙の感觊が觊れた。
    取り出したのは、䞀枚の叀びた遊園地のチケットだった。
    むンクは耪せ、端はボロボロになっおいる。そこには、今から十五幎も前の日付が刻たれおいた。
    「倧翔、早く垰ろうぜ」
    海斗に促され、倧翔は急いで着替え始めた。チケットは䜜業着のポケットに戻した。

     正門ぞず向かう圌らの背埌、遠く離れた事務棟の二階。暗い窓から、倧きなサングラスをかけた森田園長が、埮動だにせず圌らを芋䞋ろしおいた。
    「いい人材が集たったな  」
    森田の口元が、歪な圢に吊り䞊がる。

    静たり返った遊園地に、どこからか「ヒヒヌン」ずいう、朚銬のいななきのような音が小さく響き枡った。

    黒矜遊園地の秘密第話凊刑堎ぞ続くメリヌゎヌランドsugar


     
     
     

    sugar

     
     
    noteでは短線小説ずショヌトショヌト。カクペムでは長線連茉小説を投皿しおいたす。コヌヒヌずNetflixがないず生きおいけたせん。ホラヌずダヌクファンタゞヌを創䜜しおたす。奜きな䜜家は京極倏圊さんず森芋登矎圊さん。気軜に読んで頂けるず嬉しいです😊

    あなたぞのおすすめ