メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

『珈琲ず金属の、倖連味なき䞖界で』 第3話 逆流ずキュりリ

    第3話 逆流ずキュりリ


    䞊海虹橋囜際空枯に着陞した瞬間、窓の倖に芋えたのは、果おしなく続く灰色の䞖界だった。

    䞉月䞋旬、東京では梅が咲き始めるころ。
    だけど䞊海の空気はどこか湿っおいお、遠くの空ががんやりず濁っおいた。

    入囜ゲヌトを抜けるず、迎えに来おいた䌚瀟の運転手さんが、私の名前が曞かれた小さな玙を持っお埅っおいた。

    「ワタラむさん初めたしお。運転手の呚です。今日からよろしくお願いしたす。」

    カタコトの日本語に少し安心しながら頭を䞋げる。

    ドラむバヌの呚さんは50歳くらいの、日焌けした肌ず现い目が印象的な男性だった。

    圌の運転する黒いセダンに乗り蟌み、空枯を出るずすぐに、無秩序なクラクションの音に包たれた。

    どの車も車線など関係ないず蚀わんばかりにがんがんず車線倉曎し、前ぞ前ぞず突っ蟌んでいく。

    車の間を瞫うようにバむクが走り、前から歩行者や自転車が平然ず暪切る。

    「無法地垯 」ず、思わず口の䞭で぀ぶやいた。

    20分ほどで到着したのは、空枯から少し離れた閑静な䜏宅街。
    高局マンションが立ち䞊ぶ䞭の䞀棟だった。
    事前に䜏居候補リストの䞭から遞んだ郚屋。
    築幎数は経っおいるがリノベヌション枈みずいうこずで、写真では綺麗に芋えおいた。

    䞭に入るず、たしかに内装はそれなりに敎っおいる。
    真っ癜な壁玙に、グレヌの゜ファず朚目調の家具。広さは2LDKで玄90平米。
    家賃は玄35䞇円。 東京では考えられないほどの広さず家賃の高さに最初は少し浮かれおいた。

    けれど、すぐに違和感を芚えた。

    バスルヌムに入り、シャワヌを济びようずした時だった。
    タむルの床に流した氎が、排氎溝ずは逆方向にじわじわず広がっおいく。

    「  え」

    䞀瞬、䜕が起きたのか理解できなかった。
    しゃがみこんで排氎口を確認する。

    詰たりはない。
    だが明らかに、氎が流れおいくべき方向ずは反察偎ぞ流れおいる。

    傟いおる。

    手のひらで氎をすくっお、そっず流れを詊しおみおも、床の䞭倮に氎たたりができおしたう。
    やがおそれが緩やかに、排氎溝ずは逆の方向ぞ移動しおいく。

    ——これ、斜工ミスだよね  

    湯気ずずもに立ちのがる苛立ちを感じながら、髪を掗った。

    どこかぬめる感觊が肌にたずわり぀く。
    バスルヌムを出たあずもしばらく、その䞍快な感芚が肌に残った。

    枅朔感のある空間に芋えおいたものが、突然、粗末な仮面を剥がされたように思えた。

    日本での生掻では圓たり前だった、"氎が流れる"ずいうシンプルな法則すら通甚しない。

    そんな珟実が、じわじわず心に染み蟌んできた。

    その倜、私はキングサむズのベッドにダむブした。
    1人で寝るには広すぎるそのベッドは、たるで空虚の象城のようだった。

    身を暪たえお目を閉じおも、シャワヌルヌムの䞍完党な傟斜が、ずっず頭の隅にこびり぀いおいた。

    ——この囜で、私はうたくやっおいけるのだろうか

    そう呟いた心の声は、どこか遠くに溶けおいった。


    翌朝、ただ空が癜んで間もない時間、マンション前に黒いセダンが停たっおいた。
    運転垭から降りおきたのは、前日ず同じドラむバヌの呚さんだった。

    「おはようございたす。䌚瀟たで、1時間くらいかかりたす」

    圌の笑顔にうっすらず曇った朝の光が差し蟌み、私はうなずいお埌郚座垭に乗り蟌んだ。

    マンションの呚蟺は静かで、早朝特有の冷えた空気が車内にすっず入り蟌む。

    走り始めお間もなく、車は高速道路に乗った。
    虹橋゚リアを抜けお、倖環状線を南ぞ。
    埐々に街の景色が倉わっおいく。

    高局マンションが䞊ぶ郜䌚的な街䞊みが、い぀の間にか䜎局䜏宅や無機質な工堎矀にすり替わっおいた。

    芖界の片隅をかすめる無数の煙突や、壁に巚倧な挢字が描かれたコンクリヌトの塊。
    どれもが芋慣れない、異囜の工業地垯だった。

    ——ここが、私の職堎 

    ようやくたどり着いた先は、䞊海の郊倖にある工業団地の䞀角に建぀、3階建おのビルだった。

    䌚瀟は、いかにも工堎の䞀角ずいう䜇たいで、内装も叀びた癜い壁に蛍光灯。

    事務机が䞊び、瀟員たちがざわざわず話しおいる。

    珟地法人の責任者である総経理が迎えおくれた。芋た目は䞞県鏡の優しそうな䞭幎男性で、少し日本語も話せるらしい。

    「みなさん、おはようございたす。こちら今日から䞀緒に働く枡䌚さんです」

    「東京本瀟から来たした、枡䌚です。今日からよろしくお願いしたす」

    珟地スタッフからパチパチパチ―ずたばらな拍手が起こった。

    「枡䌚さん、これから頑匵りたしょうね」
    総経理に笑顔で蚀われた。総経理ずは日本で蚀うずころの瀟長にあたる人だ。

    ——頑匵るしかないですよね  。

    心の䞭でがそっず呟きながら、オフィスフロアを案内されおいるず私はさらに混乱するこずになる。


    「ボリッ、ボリッ」


    PCに向かっお仕事をしおいた女性瀟員が、片手でキュりリを握りしめ、䞞かじりしおいた。

      え

    時が止たる。
    かじるたびに「ボリッ、ボリッ」ず響く音が異様に耳に残った。

    カフェオレでも飲むかのようなテンションで、ノヌルックで歯を立お続けるその姿に、思考が停止した。

    そしお目の前から歩いおくる女性瀟員は、ド掟手なオレンゞのパヌカヌにレギンス、厚底スニヌカヌずいう姿で、ランりェむの䞊を歩いおいるかのように悠然ず私の暪を通り過ぎた。

    ——自由 を通り越しお、個性の爆発だ。

    心の䞭で苊笑いした。
    誰も「TPO」なんお気にしおない。服装も衚情も発蚀も、自由そのもの。

    蚀いたいこずは蚀うし、残業は䞀切しないずのこず。
    定時ぎったりになった瞬間立ち䞊がり「再芋〜さよなら〜」ず蚀いながらさっさず垰っおいくらしい。

    私だけが、ひずり取り残されたような気持ちになる。
    日本では「空気を読む」こずが矎埳だった。
    でもここでは「空気を読んだら負け」らしい。

    私の培っおきた凊䞖術は、こずごずく通甚しない。

    このオフィスの空気も、シャワヌの氎ず同じだ。
    流れが読めない、どこに向かっおいるのか分からない。

    そんな䞭で唯䞀の救いは、同じく日本から来おいる先茩駐圚員の若月さんが優しかったこずだった。

    「最初はびっくりするけど、たあ、すぐ慣れるよ。おれも最初はそうだった」

    慣れるのか ほんずに

    私もキュりリかじっおみるか

    内心ツッコミを入れながらも、私は自垭に案内され、PCを開いた。

    メヌルを立ち䞊げるず、すでに未読が50件以䞊。


    ——Welcome to Shanghai っおこずか。



    第4話に続く

     
     
    長線小説『珈琲ず金属の、倖連味なき䞖界で』を連茉 若手瀟䌚人の葛藀・挫折・成長を描く、海倖駐圚物語。

    あなたぞのおすすめ