#51 『Usm』 brillare編 (32)
〈登場人物〉
研修生 ︎︎⋯⋯ ︎︎姫依 ︎︎龍牙 ︎︎おーちゃん ︎︎※龍牙、おーちゃんは名前のみ
fairytale ︎︎⋯⋯ ︎︎澪華 ︎︎紅音 ︎︎詩颯 ︎︎天鈴 ︎︎※紅音と詩颯は名前のみ
その他 ︎︎⋯⋯ ︎︎遙稀 ︎︎聖菜 ︎︎※聖菜は名前のみ
〈時期〉
12月中旬
〈場所〉
事務所 音楽部門・デビュー組レッスンフロア
⋯⋯
龍牙さんと話して数日後。
今日はダンス、歌唱それぞれのコーチとのレッスンをした後澪華ちゃんと天鈴さんとの練習がある。
(確か澪華ちゃんは途中までなんだよね)
私は頭の中で今日の流れを整理すると一度深呼吸をした。
(情報が出てからfairytaleの方にお会いするのが初めてなこともあるけど、少人数の練習で澪華ちゃんと一緒になるのは初めてだ)
姫依「⋯⋯ふう」
私は申し訳なさで押し潰されそうになるともう一度深呼吸をした。
そうしておまもりのヘアクリップやシュシュに触れると更衣室からレッスン室へと向かった。
⋯⋯
歌唱コーチとのレッスンを終えると少しの休憩時間ができた。
私は飲み物を飲むと時計をちらりと見る。
(澪華ちゃんたちが来るまでは時間があるな)
私はスマホで撮影した動画を見ながらコーチに言われたことを振り返ることにした。
(ダンスのコーチには「あなたのダンスは振り付けをなぞろうとしているだけ。踊ろうとしなくていいから歌と同じように楽しみなさい。この曲はテクニックより気持ちが伝わる方がが大事だから」ってずっと言われてたけど、今日はやっと「ダンスに感情が乗るようになってきた」って言ってもらえたんだよね)
私は練習用のノートに褒めてもらったこと、それから注意されたことを動画の再生時間と共に記入した。
(うーん。やっぱりダンスは進みが遅いなあ。それに同じことばかり注意されている気がする⋯⋯)
私は今すぐにでも練習をしたい気持ちになったけれど、おーちゃんに1次の時⋯⋯そして今も時々言われている「やり過ぎ」という言葉を思い出して歌唱練習をチェックすることにした。
(聖菜さんには前より褒めてもらえるようになったな。今日は「幼さが減って深みが増した」って言ってもらえたのが1番嬉しいかも)
私はダンスの練習と同じように歌唱練習についてもノートに記入をしていく。
すると右隣から「は〜ひよりんはほんと真面目さんだねえ」とのんびりとした声がする。
驚いて横を見れば天鈴さんがしゃがんで私のノートを見ていた。
姫依「! す、すみません! おはようございます!」
慌てて立ち上がって頭を下げると天鈴さんが「あはは、おはよん」と笑って立ち上がる。
私は立っている天鈴さんに目線を合わせようとすると天鈴さんの肩越し、開かれた扉のところで澪華ちゃんが頭を抱えているのが見えた。
(あれ、扉が開いているのって休憩中だけのはずじゃ⋯⋯)
私は時計を確認しようにも天鈴さんがいる前で確認することは失礼な気がして、ただそわそわとしていた。
すると澪華ちゃんがこちらにやってきて、私と事務的に挨拶を交わしてから天鈴さんを見た。
澪華「はあ⋯⋯。天鈴さん、休憩中に私たちが来たら参加者が驚くって何回言ったらわかるんですか」
天鈴「あはは、だってこう言うサプライズがあった方が楽しいでしょん。だし、撮れ高的にはありなのでは?」
澪華「撮れ高⋯⋯は否定しませんけど、楽しいのなんて天鈴さんやごく一部の参加者だけですよ。私が参加者ならドッキリだと思います」
天鈴「お〜。『座布団一枚!』って感じ?」
澪華「いらないです」
天鈴「あはは!」
クールな澪華ちゃんの返しにも天鈴さんはよく笑っていて、その明るさはどこか昔の澪華ちゃんとほんの少しだけ似ている気がした。
(なんだか漫才みたいだなあ。会話がポンポン進んでる)
そんなことを考えながらお2人のやりとりを見ていると天鈴さんは私を見た。
天鈴「ねえひよりん、ひよりんはサプライズだった? ドッキリだった?」
姫依「え!?」
私は自分に話を振られるとは思っていなくてつい固まってしまう。
するといつの間にかそばに来ていた遙稀さんが天鈴さんの頭を軽くこづいた。
遙稀「そこまで。そろそろお前らも準備しろ」
天鈴「ありゃ〜。もうそんな時間かあ」
私が遙稀さんに挨拶をすると遙稀さんは「おはようございます」と返してから「悪い」と小さく口だけを動かす。
そうしてもう一度天鈴さんをこづくと「ほら、行くぞ」とレッスン室の出口へと向かった。
天鈴さんは怒った様子もなくこづかれた頭を撫でると「は〜い」と返事をする。
天鈴「じゃあひよりん、またすぐ後でね!」
姫依「はい⋯⋯!」
私が頭を下げると天鈴さんは手を振って歩き出した。
澪華ちゃんは天鈴さんに続くと「休憩中にお邪魔しました」と全体に頭を下げて部屋を後にした。
⋯⋯
あれからお2人とのレッスンが始まった。
お2人はストレッチをしていて、私はそわそわとした気持ちを落ち着けるために同じようにストレッチをしている。
そわそわしてしまうのはSNSのことやお2人に謝るタイミングがまだないこともあるが、今日から練習のスタイルが変わると言うことが大きい。
今まではダンスはダンス、歌は歌と分けて練習をしていたけれど、さっきの個人練習でダンスコーチの許可がおりて今日からは少しずつステージと同様のスタイルで練習をすることになったのだ。
(本当に良かった⋯⋯)
私がほっとひと息つくとストレッチをしながら天鈴さんが口を開いた。
天鈴「ねーねー、みーちゃん。パートどうしよっか」
澪華「そうですね⋯⋯」
澪華ちゃんは体をほぐしながら一度私を見た。
(な、なんだろう?)
澪華「できそうなら歌だけ任せてもいいんじゃないですか?」
天鈴「おけん」
お2人は会話とストレッチを同時に終えると私を呼んだ。
私が近づくと天鈴さんが口を開いた。
天鈴「ひよりん、うたっちやあかねんのパートって歌える?」
姫依「? はい」
天鈴「おお〜。頼もしい〜。ん〜じゃあ、歌の通しの時はあかねんのパートをお願いしちゃおうかな」
姫依「え! 今までみたいに音源を流したり練習にいらっしゃるメンバーの方が担当されるんじゃないんですか?」
天鈴「それがだね〜。ステージ用の練習が始まってからは歌えそうな子には時々いないメンバーのパートをお願いしたりするのだよ〜」
姫依「そうだったんですね」
天鈴「そ。そっちのが楽し——」
澪華「自分以外のパートも経験した方が曲の理解と表現力が増す可能性があるから、です。天鈴さん」
天鈴「あは、そうとも言う〜」
澪華「はあ」
澪華ちゃんはため息をくと私を見た。
澪華「どう? できそう?」
(紅音さんのパートなら澪華ちゃんと2人で歌えるパートもある⋯⋯! 嬉しい!)
姫依「はい!」
私は笑顔で返事をした。