
【小説】地方創生は机上の空論
⚠️この作品はフィクションです。
なにが地方創生だふざけるな。この卓は都民が3人、神奈川県民が2人、千葉県民の俺しかいないんだぞ。
大学3年の夏、早稲田大学教育学部に通う俺はインターンの消化に追われていた。努力して早稲田に入っただけにいい企業に入らなくてはという脅迫観念が凄まじく、業界問わず申し込みすぎてしまったからだ。しかし流石早稲田ブランド、メーカーと広告以外は割と受かることができた。
今日インターンのこの企業もその中のひとつだ。正直説明会に出てしまうとちょろすぎて全ての企業が第一志望になってしまう。金融やマスコミなどに絞っている友人が結構いるだけに少し焦っている。でもやっぱこの業界向いてないわーってなったとき持ち駒ゼロなのやばくね?絶対いろんな業界見て視野広くした方がいいっしょと必死で自分に言い聞かせている。
今日の御社は某大手広告会社の子会社だ。子会社と言っても学生のレベルは高く、内部の慶應・帰国子女の上智・推薦の早稲田・一般の明治・推薦の立教と名だたるメンツだ。向こうの卓では一橋などの単語が聞こえるので俺たちの卓は完全に私立文系で固められている。
アイスブレイクでサークルの話をしていると。やけに顔の整った人事がグループワークのお題を発表した。
「地方から若者の流出を防ぐための新規事業を考えてください」
いわゆるトレンドの地方創生のお題だ。
なにが地方創生だふざけるな。この卓は都民が3人、神奈川県民が2人、千葉県民の俺しかいないんだぞ。
案の定俺の卓は無言から始まった。そりゃあ中学受験で選民思想に染まり、ポジショントークでしかジェンダーや貧困問題を語れない奴らには難しいお題だろう。
かといって俺も千葉県の四街道市出身というなんとも微妙な立ち位置だ。こいつらよりは地方を知っている自覚はあるが、人口流出するほど過疎ってはいない。
向こうの国立の卓は大盛り上がりしている。くそっ、どうして東京の私文は関東勢のモラトリアム養成機関に成り下がってしまったんだ!
東京のボンボンにファシリを渡すのはシャクだったので、仕方なく口を開いた。
「まずは地方の定義づけをしましょうか。みなさんはどれくらいのレベルの地方を想定していますか?」
目黒区民の慶應が水を得た魚の如く顔が晴れやかになる。
「そうですね。私は都民なのであまり地方には詳しくないのですが長野あたりでしょうか?」
それはお前の別荘があるところだろ。流石に言うのはやめた。
「友達が群馬から早稲田通ってるから群馬とかどう?」
と文京区の早稲田。どうせ前橋だろ。まあ少しは考えやすいだろう。
「そうですね。ガチの田舎だとみなさんイメージがつきにくいと思うので、地方都市当たりでどうでしょうか」
「いいと思います!」
全く話し合いに参加できずとりあえず賛同している横浜住みの明治。
学歴が全てだとは思わないが、どうもこういう場だと早慶ばかり発言量が多くなる。本当に意見がないのか、早慶特有の謎の自信から来る声の大きさが萎縮させてしまうのだろうか。
「では、地方都市だと仮定して、みなさんは若者が流出していく要因は何が1番大きいと思いますか?」
そんなの碌な就職先が地方に無いからだが、一応話し合いという体を取るため聞いてみる。人事が見ているのはアイデア力とかそういうものではなく、JTCが最も求めている協調性なのだ。
「やはり進学や就職ですよね」
なんか他とは違う感を出している世田谷区の上智。無理して出しているのか、金持ちすぎて庶民の俺が僻みで鼻についてるだけなのかどっちなんだ......。
「就職の方が割合が高いと思うので就職による若者の流出に絞るのはどうでしょうか?」
ダンスサークルに所属していると言っていた横浜の立教。黒染め感満載の短髪が初々しい。俺のは5月にしたので少し色が落ちてしまっている。染め直すのはめんどくさい。黒に戻した時周りの反応が良かったのが気になった。俺はオシャレだと思ってブリーチしてたのに結局黒髪の方がいいのかよ。まあ、女子は黒髪の方がいいからそれと同じなんだろうなあ。
「そうですね、定義は大体決まってきたので意見出ししていきましょうか」
定義を決めてアイデア出しをしてしょーもない結論にまとめる。こんなことして何になるんだろうか。インターンの選考からGDをさせられているのでだいぶ慣れたが茶番も甚だしい。ソリューションとか今まで使ったことない横文字が平気で飛び交っているのがむず痒く感じる。
「ではみなさんは地方にいる若者がどうして都会に行ってしまうと考えますか?」
協調性アピールその2、とりあえず全員に意見を求める。都会に住んでるボンボン4人全員に聞いたところで違う意見が出てくるわけないが、ちゃんと全員の意見を聞くファシリテーター感を演出するためだ。この夏はシースルーバンク(薄っぺらい協調性)でファシリ感を演出するのがトレンド!
「私、おばあちゃんちが埼玉にあるんですけど、やっぱり都心に行っちゃう理由は高齢者との結びつきが弱いからだと思うんですよ!」
久しぶりに喋った明治はなんだかよくわからないことを言い出した。埼玉ってどこの埼玉だよ、大宮だったら張り倒すぞ。
「そうかもしれませんね」
「いいと思います」
え、みんな考えるのめんどくさくなってない?
今まで考えたこともないテーマだからそれっぽい解決策に安易に手を伸ばしてしまうのだろう。模擬国連ではアフリカの貧しい子供達に対して熱く議論してるくせに。文化資本がなさすぎてイオンしか知らない地方の大学生の存在には気づかないんだ。ノブレスオブリージュとか言って適当に世界のこと見てるだけで隣の県の現状すら知らない。
「どうして結びつきが弱いと都会に行ってしまうんですか?」
届け俺の思い……!
「高齢者とのコミュニケーション不足によって、地方にある職の存在を若者が見落としてるんですよ。実際におばあちゃんと話してると地方にもたくさん仕事はあるのに都会の方が仕事があるとみんな思い込んでるなーって」
じゃあお前がそこに就職すればいいんじゃないのか。23区内の企業を受けているくせに説得力無いんだよ。地方に地方の責任を押し付けすぎだろ、都会に生まれただけで偉そうに語ってんじゃねーよ。そんなんだからコンサル栄えて国滅ぶとか言われるんだろ。
「それでは若者と高齢者が気軽にコミュニケーションを取れるソリューションを考える方向性でいいのではないでしょうか?」
嘘だろ慶應、お前だけは信じていたのに……。ちなみに俺は人の名前を覚えることは苦手だが学歴を覚えることは得意だ。そして学歴で信用度も決めるため、この卓の中で一番好感度が高いのが慶應だった。それなのにどうして……。
なんとか軌道修正を図ろうと画策したが、見えない壁に邪魔されて結局コミュニティカフェの開設というクソみたいな結論になってしまった。若者にとって特にメリットはないし、強制的に高齢者と喋らせるのはただの声かけボランティアなのではないかとツッコミたかったが、この状況でそんなこと言ってしまっては完全に悪役になってしまう。カフェ開くだけで解決するような過疎化は過疎化ではないし、そもそも地方でカフェを開いたところで採算が取れず潰れるのがオチだ。
案の定社員へのプレゼンでも大滑りし、ターゲットの把握が甘いと至極真っ当な意見をもらった。そして案の定国立の卓が優勝を掻っ攫っていった。結局数学から逃げたやつは何をしてもダメなのである。
インターン終了間際は何故か全員が満足そうな顔をしていた。
「優勝することはできませんでしたが、実のある議論ができてこのメンバーでよかったと思います」
どこが実のある議論なんだ上智。お前は話し合いすらまともにしたことないのか。
「みなさんが暖かく私の意見を受け入れてくださって嬉しかったです!」
暖かいというか生ぬるいだろ明治。無駄な成功体験を積んでしまってこれからこいつは天狗になってGDをするのだろう。
「みなさん同じ業界を目指していると思うのでまたどこかで会いましょう!」
会わない、会いたくないぞ立教。こんな奴らしかいない業界だと思うと辟易する。
俺も適当なリップサービスをし、人事にへこへこしながら貸し会議室を出た。無駄にデカいビルに無駄に多い駅の出口、無駄にいる意識高そうなサラリーマン。こいつらを半分くらい地方に移すだけで地方創生できるだろ。
リーマン街はビルが高過ぎて窮屈に感じる。四街道の空の大きさが恋しい。
少し散歩でもするか。
このむしゃくしゃをどうしても何かで上書きしたかった。
少し歩くと良い服を着た小学生たちとすれ違った。ここら辺は住宅街なのか、つってもタワマンだけど。どうせすぐ大きくなるのにブランドモノを着せる意味はあるのだろうか。
小学生がやってきた方向を見ると学校らしきものが見えた。港区の小学校ってどんな感じなんだろう。
来てみると唖然とした。校庭に土がないのである。人工芝と舗装された陸上のトラック、ここの子供はこんなところで育つのか。コンクリートの城に囲まれ本物の土に触れることもなく、中学受験をし、同級生全員大卒になり、高層ビルのクーラーが効いた部屋で地方の活性化について話し合うのか......。
隣の県なのにどうしてここまで差があるのだろう。隣なのにどうしてお互いを分かり合えないのだろう。
ぼんやりと考えながら地下鉄の階段を降りた。